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「ふぐっ」
「ショーマ?!」
まさか神様が悠里に気があったとは…!
ダメージがすごいな。
というか。
「オル! 毎日見てたってどういうことだよ」
「おばさんも一緒になって見てたけどね」
そう、そこだ。
神様はオルが既にこの世界を“見た”と言っていた。
それに、神様もオルに俺の世界を“見せた”とも。
「そもそも俺だけ、よくピンポイントで見れたな?」
「あ、そこは思い出してないんだ」
「あー…。なんていうか、マジで所々しか思い出せてないんだ」
「ううん、俺の方こそごめんね」
事故のことはたぶん俺や悠里よりも詳しいだろうオルが暗い顔をする。
あの時どうなってたんだろう。
入院してた時はただひたすら身体が痛いことしか思い出せないんだけど。
いや、やめとこう。
これ以上オルの悲しい顔は見たくない。
「あの日、俺がこっちに帰る時にスキルをショーマに渡したんだ。置いていかないでって泣きじゃくるショーマに何か残せないかなって思って」
「はい?」
どういうこと?
意味が分からず、ぱちりと瞬きをすれば「ん゙ん゙っ」とオルの喉から声が出た。
あ、もう元に戻ってるな。
それからきゅっと、指先を握られてキスをされる。
「俺の聖女としてのスキルの半分をあの時ショーマ、君に与えたんだ。だからそれを通してショーマが見られた。そのおかげで、ショーマを失わずに済んだからよかったよ。向こうは魔法の発動がこっちの半分以下でひやひやしたけど」
「ふぉ?!」
「あの時のオルは半狂乱だったからねぇ…。ショーマを失わなくて本当によかった。山を二つほどふっ飛ばして更地にしたけど」
オルなにしてんの?!
山吹っ飛ばしちゃダメ!
いろいろ困っちゃうでしょ!
主に動物さんが!
というか、やっぱりあの事故でぎりぎりだったのはオルが必死に治癒をかけてくれてたからなのか…。
ということは、オルの治癒魔法がなかったら俺は…。
ひえっ。
事故の詳しいことは分ったけど、その時の俺の記憶は殆どないから何とも言えないが、見てるだけしかできなかったオルには本当に申し訳ないことをしたなー。
あ、だからやけに神様も過保護なのか。
納得。
「なるほど。だから勇者が【治癒】を使えるのか」
今まで黙って聞いていた王子様がそう口を開く。
それによってオルがなぜ聖女のスキルを持っていのかが判明した。
神様ェ…。
「だって今回聖女は必要なかったから、ね。後々必要になるだろうと思ってオルにくっつけたんだ」
「となると本当にあの子は巻き込まれただけなのか…。悪いことしたな…」
「それもあるからね。あの子には幸せになってもらいたいよね」
あの時、俺があの子を追い抜こうとしなければ巻き込まれなかったのか…。
あー…。
マジで悪いことした。
「召喚のタイミングは流石に分らなかったからね…」
「分ってたら俺だけこっちに呼ばれてたのか」
なるほど。
はぁ…。
タイミングが悪かった、この一言で俺たちは終われるけど、彼女からしてみたら最悪以外の何物でもないわな…。
だから神様は記憶を消したのか。
彼女にとっては嫌な記憶しか残らないしな。
「そ。だからショーマも聖女って訳」
「なるほどな」
「けど、それとリミッターの話は別だよね?」
そうそう。
オルの魔力を押さえているリミッターの話だよ。
まぁこの話が終わったらえっちするらしいんですけどね。
恥ずかしい!
「実はね、リミッターを解除することでショーマのスキルが解放されるようになってるんだ」
「むむ?!」
なんでそんなことを?!
「あのね。魔力がないショーマが世界の半分くらいの魔力を身体に宿すとね、キャパオーバーで精神やられちゃうから、少しずつ慣らしていくことにしたんだ」
「世界の半分の魔力!」
あ、また魔導士が撃沈した。
王子様もどこか遠い目をしてる。
チート怖い!
世界の半分の魔力を譲ってもあまり余るオルの魔力マジでどうなってるんだ?!
「ああ、だから」
「そういうこと」
王子様の納得した言葉にオルが頷くと、王子様の視線が俺に向いた。
え。なに。
「普通の人間以上の魔力を宿しても平然としてるのはそういうことか」
「普通の人間以上!」
え? え?
「つまり、ショーマはここに来たときは魔力は全くない状態だったんだよ」
「え? でもオルに魔力があるから利用されちゃうぞ、的なこと言ってましたが…?」
「教会の人間はそういったことに鼻が利くからね。ショーマのスキルが魔力を注ぐことで発動するって気付いたんだろうね」
「んんん?!」
「簡単に言えば私が聖女の能力を逆転させたから、ショーマは魔力を溜めれられる身体になってるんだ」
「お、おう?」
「【強化】の逆だと思えばいい」
そんな一気に言われても理解できないんですよー。
理解力が乏しい頭でごめんねー。
「ショーマは【強化】のスキルを得る代わりに【吸収】のスキルを与えられたんだ」
「【吸収】」
また新しい言葉が出たよ!
オルー!
助けてー!
「【強化】は与えるものだけど【吸収】は受け入れるもの、と言えばわかるかな?」
「さすがオル! 好き!」
「ありがとう、ショーマ。俺も好きだよ」
うふふ、と二人で微笑みあえば「【強化】はどこへいったのでしょうか」という魔術師の言葉にハッとする。
ダメだ…油断するとすぐいちゃいちゃしてしまう…!
「ああ、たぶんそれはオルに吸収されたんだろうねー」
「?????」
「おばさん、ショーマがパンクしそう」
「ああ!ごめんね! 大丈夫? ショーマ」
今、俺の頭からはぷしゅーと煙が出ていそう。
どういうことなの?!
あ、撃沈してる魔導士にお菓子いっぱいあげて!
見てると癒されるから!
「というかスキルが吸収される、なんてことあり得るのか?」
「できるよー。私、神様だし」
「…なるほど。ふつうは無理、ということか」
分った。とあっさり引き下がる王子様もだいぶ脳みそがやられてるんだろうなー。
眉間の皺すごいー。
そんなにぎゅってしてると痕ついちゃうよー。
そんな俺もなんか甘いの食べたくなってきたー。
「神様、プリンとかババロア食べたいー」
「はいはーい。今、用意するねー」
ぱちんと指を鳴らせば、テーブルにはプリンとババロア。それにシフォンケーキなんかもある。
わーい!ありがとう! 神様ー!
さっそくプリンに手を伸ばそうとして、それをオルが手にする。
そして「はい、あーん」とそれをすくったスプーンを俺の口へと運んでくれる。
あー…うまいー…。
生クリームもうまー。
「んで、結局俺はなんなの?」
そう。
もう聖女だとかは関係なくなったわけで。
「オルの嫁だよ」って言われてたらめっちゃ嬉しい。
オルは誰にも渡さないんだからな!
まぁそうだとしても俺の全てはオルにかかっている。
恐らく命さえも。
魔法や剣を使わなくても、その魔力で俺をあっさり殺せるんだからな。
でも今はプリンに殺されそうなんですけどね。
むぎゅむぎゅと次々に口に運ばれるプリンを頬張る。
オルさん、オルさん。量が多い。
一掬いがめっちゃ多いんですよ。
それでも口を動かして次々と与えられるプリンをなんとか食した次はシフォンケーキを頬張る。
んまんま。
「ショーマはね、オルの運命を握ってるんだよ」
「んぐ?!」
「ショーマ?!」
シフォンケーキ!
喉! 喉に詰まった!
トントンとオルが背中を叩いてくれてる。
けどな、オル。のどに詰まった時は飲み込ませるんじゃなくて、吐き出させる方がいいのだよ。
俺もドンドン、と胸を叩いてそれを必死で飲み込めば、なんとか胃の方へと落ちていく感覚にほっとする。
ビックリしたー。
オルもびっくりしただろうなー。
違う意味で。
お茶でのどを潤して、神様を見る。
「ショーマはきっと命をオルに握られてる、って思ったでしょ?」
「んぐ」
さすが神様。
俺の考えてることはお見通し…じゃなくてオルと一緒に俺の様子を毎日見てたから考えや行動なんて分ってるんだろうな。
てかさ。
12年間、俺が知らないだけで毎日、おはようからおやすみまで俺の日常を見られてたってことなんだよな。
ちょっと愛が重すぎる気もしないけど、俺は気にしない。
そのおかげで助かった命だし。
それに俺が覚えていないことをオルは知ってるんだ。
俺がなくした記憶を持ってる。
ある意味俺のアルバムだよ。
そう思えば可愛いもんだ。
「でも逆を言えばオルだってショーマに運命と命を握られてるんだよ? もし仮にオルが魔王になったら打ち倒しにくる者だって現れるでしょう?」
「あ…」
なるほど。
今回の俺たちのように、魔王を倒しにくるやつらが来るのか。
オルもそいつらと戦って…オルが勝っても無傷、ということには当然ならない訳で…。
「だから、ショーマが必要なんだよ」
「そ、っか」
「うん。だから、オルの魔力をえっちでどんどん吸収してね」
「うん?」
せっかくいい話っぽかったのに…!
空気ブレイカーは顕在だよ!
「てか、魔力を吸収って?!」
「オルに中出しされたらお腹、ぽかぽかするでしょ?」
「神様ーっ!」
やめてー!
やめてー!
中出しとか言わないでー!
恥ずかしいよー!
「…ちょっと。おばさん」
「ええー…だってはっきり言わないと分んないと思って」
「ショーマに魔力が宿れば、ショーマは魔法が使えるのか?」
王子様の疑問に、オルが頷くと「なるほど」と王子様も頷く。
あ。
だから風魔法が使えたのね。
「魔力の質でショーマの魔法の威力は変わるのでしょうか?」
おお。お帰り、魔導士。
でも食べカスが口元についてるよ。
「変わるんじゃないかな? でも、俺以外の魔力を与える気はないから分らないね」
にっこりと笑っているのに、その周りにブリザードが吹き荒れてるのは気のせいでしょうかね?
オルさん。
あー!
ほらー!
魔導士がぶるぶるし始めちゃったじゃないー!
ほら、食え食え!
食って体温上げろ!
「だからさ、ショーマ」
「…何でしょうか」
こっちもにっこりと笑っているけれども、ちょっと怖いんですよ。
圧がすごいのよ。
無言の圧が。
「世界のためにも毎日、最低でも6回戦まではがんばってえっちしてね!」
「ぶっふぉー!」
がんば☆という神様に俺はついに吹き出した。
6回!
体力強化があるとはいえ6回!
いや、さっきも5回いたしましたけどだるさもありませんけどね!
王子様と騎士の視線が痛い!
びしばし刺さる!
痛い痛い!
身体じゃなくて心が痛い!
「ちなみに6回で世界の半分くらいの魔力をショーマに溜めてることになるからね」
「ちょっと待って! マジで待って!」
「どうしたの? 毎日えっちが辛いの?」
えっちはいいんだよ!
俺だってヤりたいし!
でも違うの!
俺が聞きたいのはそこじゃないの!
「俺に溜め込まれた魔力はどうなるんですか?!」
そう! これ!
俺に吸収された魔力は一体どうなってんだよ!
神様の話じゃ、俺の身体は世界の半分しか溜め込めないんだろ?
あ、また魔導士がやけ食いしてる。
今度、和スイーツお願いしよう。
「ショーマは【吸収】スキルでたぶん無限に吸えるから吸った瞬間に…。あ、そうだ」
そこで何か思いついたように神様がぽん、と手を合わせる。
なんだ、なんだ?
また何を思いついたんだ?
「その魔力を使って子供作ればいいんじゃない?」
「はい?」
まーた変なこと言い出したよーこの人ー。
人じゃなくて神様だけど。
「子供か…」
「ちょ、オル?!」
オルさん?!
何言ってんの?!
「魔力で作る子供…ですか」
そこ! 魔導士!
食い付くな!
「いっとくが俺は男だぞ?!」
「ショーマのは可愛いもんね」
「オルーっ!」
「ほう、ショーマのは可愛いのか」
「殿下!」
「いやああぁぁぁっ!」
酷い! 酷過ぎる!
なんで俺のちんこのことを暴露されにゃならんのだ!
確かにオルに比べれば子供だよ!
それの何が悪い!
もう少しすれば俺だってオルのちんこみたいになるんだからな!
無理だな、って顔しないで!
神様!
オルもそのままでいいって顔しやがってーっ!
くっそー!
こうなったら食ってやる!
「ああ! ダメだよショーマ! そんなに詰め込んだらまたつまっちゃうから!」
「うるさーい! 誰のせいだーっ!」
うわーん!と泣きながら手あたり次第お菓子を掴んでは口へと放り込んでいく。
むしゃむしゃと泣きながら食べる俺を、神様はにこにこと、オルは心配しながらもそれ以上はないも言わず、ちゃんとお茶を用意しながら見ているし、王子様もどこか面白そうに俺を見ている。
騎士は呆れて肩を竦め、魔導士はどこか同情的に見てくる。
もういい!
食ってやるー!
やけ食いしてやるー!!!!
「ショーマ?!」
まさか神様が悠里に気があったとは…!
ダメージがすごいな。
というか。
「オル! 毎日見てたってどういうことだよ」
「おばさんも一緒になって見てたけどね」
そう、そこだ。
神様はオルが既にこの世界を“見た”と言っていた。
それに、神様もオルに俺の世界を“見せた”とも。
「そもそも俺だけ、よくピンポイントで見れたな?」
「あ、そこは思い出してないんだ」
「あー…。なんていうか、マジで所々しか思い出せてないんだ」
「ううん、俺の方こそごめんね」
事故のことはたぶん俺や悠里よりも詳しいだろうオルが暗い顔をする。
あの時どうなってたんだろう。
入院してた時はただひたすら身体が痛いことしか思い出せないんだけど。
いや、やめとこう。
これ以上オルの悲しい顔は見たくない。
「あの日、俺がこっちに帰る時にスキルをショーマに渡したんだ。置いていかないでって泣きじゃくるショーマに何か残せないかなって思って」
「はい?」
どういうこと?
意味が分からず、ぱちりと瞬きをすれば「ん゙ん゙っ」とオルの喉から声が出た。
あ、もう元に戻ってるな。
それからきゅっと、指先を握られてキスをされる。
「俺の聖女としてのスキルの半分をあの時ショーマ、君に与えたんだ。だからそれを通してショーマが見られた。そのおかげで、ショーマを失わずに済んだからよかったよ。向こうは魔法の発動がこっちの半分以下でひやひやしたけど」
「ふぉ?!」
「あの時のオルは半狂乱だったからねぇ…。ショーマを失わなくて本当によかった。山を二つほどふっ飛ばして更地にしたけど」
オルなにしてんの?!
山吹っ飛ばしちゃダメ!
いろいろ困っちゃうでしょ!
主に動物さんが!
というか、やっぱりあの事故でぎりぎりだったのはオルが必死に治癒をかけてくれてたからなのか…。
ということは、オルの治癒魔法がなかったら俺は…。
ひえっ。
事故の詳しいことは分ったけど、その時の俺の記憶は殆どないから何とも言えないが、見てるだけしかできなかったオルには本当に申し訳ないことをしたなー。
あ、だからやけに神様も過保護なのか。
納得。
「なるほど。だから勇者が【治癒】を使えるのか」
今まで黙って聞いていた王子様がそう口を開く。
それによってオルがなぜ聖女のスキルを持っていのかが判明した。
神様ェ…。
「だって今回聖女は必要なかったから、ね。後々必要になるだろうと思ってオルにくっつけたんだ」
「となると本当にあの子は巻き込まれただけなのか…。悪いことしたな…」
「それもあるからね。あの子には幸せになってもらいたいよね」
あの時、俺があの子を追い抜こうとしなければ巻き込まれなかったのか…。
あー…。
マジで悪いことした。
「召喚のタイミングは流石に分らなかったからね…」
「分ってたら俺だけこっちに呼ばれてたのか」
なるほど。
はぁ…。
タイミングが悪かった、この一言で俺たちは終われるけど、彼女からしてみたら最悪以外の何物でもないわな…。
だから神様は記憶を消したのか。
彼女にとっては嫌な記憶しか残らないしな。
「そ。だからショーマも聖女って訳」
「なるほどな」
「けど、それとリミッターの話は別だよね?」
そうそう。
オルの魔力を押さえているリミッターの話だよ。
まぁこの話が終わったらえっちするらしいんですけどね。
恥ずかしい!
「実はね、リミッターを解除することでショーマのスキルが解放されるようになってるんだ」
「むむ?!」
なんでそんなことを?!
「あのね。魔力がないショーマが世界の半分くらいの魔力を身体に宿すとね、キャパオーバーで精神やられちゃうから、少しずつ慣らしていくことにしたんだ」
「世界の半分の魔力!」
あ、また魔導士が撃沈した。
王子様もどこか遠い目をしてる。
チート怖い!
世界の半分の魔力を譲ってもあまり余るオルの魔力マジでどうなってるんだ?!
「ああ、だから」
「そういうこと」
王子様の納得した言葉にオルが頷くと、王子様の視線が俺に向いた。
え。なに。
「普通の人間以上の魔力を宿しても平然としてるのはそういうことか」
「普通の人間以上!」
え? え?
「つまり、ショーマはここに来たときは魔力は全くない状態だったんだよ」
「え? でもオルに魔力があるから利用されちゃうぞ、的なこと言ってましたが…?」
「教会の人間はそういったことに鼻が利くからね。ショーマのスキルが魔力を注ぐことで発動するって気付いたんだろうね」
「んんん?!」
「簡単に言えば私が聖女の能力を逆転させたから、ショーマは魔力を溜めれられる身体になってるんだ」
「お、おう?」
「【強化】の逆だと思えばいい」
そんな一気に言われても理解できないんですよー。
理解力が乏しい頭でごめんねー。
「ショーマは【強化】のスキルを得る代わりに【吸収】のスキルを与えられたんだ」
「【吸収】」
また新しい言葉が出たよ!
オルー!
助けてー!
「【強化】は与えるものだけど【吸収】は受け入れるもの、と言えばわかるかな?」
「さすがオル! 好き!」
「ありがとう、ショーマ。俺も好きだよ」
うふふ、と二人で微笑みあえば「【強化】はどこへいったのでしょうか」という魔術師の言葉にハッとする。
ダメだ…油断するとすぐいちゃいちゃしてしまう…!
「ああ、たぶんそれはオルに吸収されたんだろうねー」
「?????」
「おばさん、ショーマがパンクしそう」
「ああ!ごめんね! 大丈夫? ショーマ」
今、俺の頭からはぷしゅーと煙が出ていそう。
どういうことなの?!
あ、撃沈してる魔導士にお菓子いっぱいあげて!
見てると癒されるから!
「というかスキルが吸収される、なんてことあり得るのか?」
「できるよー。私、神様だし」
「…なるほど。ふつうは無理、ということか」
分った。とあっさり引き下がる王子様もだいぶ脳みそがやられてるんだろうなー。
眉間の皺すごいー。
そんなにぎゅってしてると痕ついちゃうよー。
そんな俺もなんか甘いの食べたくなってきたー。
「神様、プリンとかババロア食べたいー」
「はいはーい。今、用意するねー」
ぱちんと指を鳴らせば、テーブルにはプリンとババロア。それにシフォンケーキなんかもある。
わーい!ありがとう! 神様ー!
さっそくプリンに手を伸ばそうとして、それをオルが手にする。
そして「はい、あーん」とそれをすくったスプーンを俺の口へと運んでくれる。
あー…うまいー…。
生クリームもうまー。
「んで、結局俺はなんなの?」
そう。
もう聖女だとかは関係なくなったわけで。
「オルの嫁だよ」って言われてたらめっちゃ嬉しい。
オルは誰にも渡さないんだからな!
まぁそうだとしても俺の全てはオルにかかっている。
恐らく命さえも。
魔法や剣を使わなくても、その魔力で俺をあっさり殺せるんだからな。
でも今はプリンに殺されそうなんですけどね。
むぎゅむぎゅと次々に口に運ばれるプリンを頬張る。
オルさん、オルさん。量が多い。
一掬いがめっちゃ多いんですよ。
それでも口を動かして次々と与えられるプリンをなんとか食した次はシフォンケーキを頬張る。
んまんま。
「ショーマはね、オルの運命を握ってるんだよ」
「んぐ?!」
「ショーマ?!」
シフォンケーキ!
喉! 喉に詰まった!
トントンとオルが背中を叩いてくれてる。
けどな、オル。のどに詰まった時は飲み込ませるんじゃなくて、吐き出させる方がいいのだよ。
俺もドンドン、と胸を叩いてそれを必死で飲み込めば、なんとか胃の方へと落ちていく感覚にほっとする。
ビックリしたー。
オルもびっくりしただろうなー。
違う意味で。
お茶でのどを潤して、神様を見る。
「ショーマはきっと命をオルに握られてる、って思ったでしょ?」
「んぐ」
さすが神様。
俺の考えてることはお見通し…じゃなくてオルと一緒に俺の様子を毎日見てたから考えや行動なんて分ってるんだろうな。
てかさ。
12年間、俺が知らないだけで毎日、おはようからおやすみまで俺の日常を見られてたってことなんだよな。
ちょっと愛が重すぎる気もしないけど、俺は気にしない。
そのおかげで助かった命だし。
それに俺が覚えていないことをオルは知ってるんだ。
俺がなくした記憶を持ってる。
ある意味俺のアルバムだよ。
そう思えば可愛いもんだ。
「でも逆を言えばオルだってショーマに運命と命を握られてるんだよ? もし仮にオルが魔王になったら打ち倒しにくる者だって現れるでしょう?」
「あ…」
なるほど。
今回の俺たちのように、魔王を倒しにくるやつらが来るのか。
オルもそいつらと戦って…オルが勝っても無傷、ということには当然ならない訳で…。
「だから、ショーマが必要なんだよ」
「そ、っか」
「うん。だから、オルの魔力をえっちでどんどん吸収してね」
「うん?」
せっかくいい話っぽかったのに…!
空気ブレイカーは顕在だよ!
「てか、魔力を吸収って?!」
「オルに中出しされたらお腹、ぽかぽかするでしょ?」
「神様ーっ!」
やめてー!
やめてー!
中出しとか言わないでー!
恥ずかしいよー!
「…ちょっと。おばさん」
「ええー…だってはっきり言わないと分んないと思って」
「ショーマに魔力が宿れば、ショーマは魔法が使えるのか?」
王子様の疑問に、オルが頷くと「なるほど」と王子様も頷く。
あ。
だから風魔法が使えたのね。
「魔力の質でショーマの魔法の威力は変わるのでしょうか?」
おお。お帰り、魔導士。
でも食べカスが口元についてるよ。
「変わるんじゃないかな? でも、俺以外の魔力を与える気はないから分らないね」
にっこりと笑っているのに、その周りにブリザードが吹き荒れてるのは気のせいでしょうかね?
オルさん。
あー!
ほらー!
魔導士がぶるぶるし始めちゃったじゃないー!
ほら、食え食え!
食って体温上げろ!
「だからさ、ショーマ」
「…何でしょうか」
こっちもにっこりと笑っているけれども、ちょっと怖いんですよ。
圧がすごいのよ。
無言の圧が。
「世界のためにも毎日、最低でも6回戦まではがんばってえっちしてね!」
「ぶっふぉー!」
がんば☆という神様に俺はついに吹き出した。
6回!
体力強化があるとはいえ6回!
いや、さっきも5回いたしましたけどだるさもありませんけどね!
王子様と騎士の視線が痛い!
びしばし刺さる!
痛い痛い!
身体じゃなくて心が痛い!
「ちなみに6回で世界の半分くらいの魔力をショーマに溜めてることになるからね」
「ちょっと待って! マジで待って!」
「どうしたの? 毎日えっちが辛いの?」
えっちはいいんだよ!
俺だってヤりたいし!
でも違うの!
俺が聞きたいのはそこじゃないの!
「俺に溜め込まれた魔力はどうなるんですか?!」
そう! これ!
俺に吸収された魔力は一体どうなってんだよ!
神様の話じゃ、俺の身体は世界の半分しか溜め込めないんだろ?
あ、また魔導士がやけ食いしてる。
今度、和スイーツお願いしよう。
「ショーマは【吸収】スキルでたぶん無限に吸えるから吸った瞬間に…。あ、そうだ」
そこで何か思いついたように神様がぽん、と手を合わせる。
なんだ、なんだ?
また何を思いついたんだ?
「その魔力を使って子供作ればいいんじゃない?」
「はい?」
まーた変なこと言い出したよーこの人ー。
人じゃなくて神様だけど。
「子供か…」
「ちょ、オル?!」
オルさん?!
何言ってんの?!
「魔力で作る子供…ですか」
そこ! 魔導士!
食い付くな!
「いっとくが俺は男だぞ?!」
「ショーマのは可愛いもんね」
「オルーっ!」
「ほう、ショーマのは可愛いのか」
「殿下!」
「いやああぁぁぁっ!」
酷い! 酷過ぎる!
なんで俺のちんこのことを暴露されにゃならんのだ!
確かにオルに比べれば子供だよ!
それの何が悪い!
もう少しすれば俺だってオルのちんこみたいになるんだからな!
無理だな、って顔しないで!
神様!
オルもそのままでいいって顔しやがってーっ!
くっそー!
こうなったら食ってやる!
「ああ! ダメだよショーマ! そんなに詰め込んだらまたつまっちゃうから!」
「うるさーい! 誰のせいだーっ!」
うわーん!と泣きながら手あたり次第お菓子を掴んでは口へと放り込んでいく。
むしゃむしゃと泣きながら食べる俺を、神様はにこにこと、オルは心配しながらもそれ以上はないも言わず、ちゃんとお茶を用意しながら見ているし、王子様もどこか面白そうに俺を見ている。
騎士は呆れて肩を竦め、魔導士はどこか同情的に見てくる。
もういい!
食ってやるー!
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