よくある話をしよう

マンゴー山田

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「遅い」

その場にとどまり続けて早5日目。
ようやく聖女様ご一行が俺たちに追いついた。
合流したのはお日様が高らかに手を振っている時間。
奇しくも俺たちがこの場所についた時間と近かった。

最後に見た時よりもちょっとだけぼろぼろになっているような気がする聖女様ご一行に首を傾げる。
何があったのか気になるけど聞かない方がいいよな。

んで、王子様が姿を見せた途端、腕を組んで仁王立ちする勇者様。

あー、カッコいいなー。
ちょっとそのまま見下されてみたい。

「聖女様は女性ですからね。そこの何のとりえもない男とは訳が違うので」

おお。相変わらず嫌われてるなー。俺。
まぁおまけだからな。
でも女の子が一緒なら遅れても仕方ないよなー。
とかのんびり思ってたけど、勇者様から放たれた殺気にぞわりとしたものが肌を撫でる。

こっわ!

「ああ、ごめんね。ショーマ」
「あ、う…ん。平気」

全然平気じゃないけどな!
怖すぎて震えが止まらないよー!
なんなら歯が、がちがちいってるよー!
そんな俺を温めるようにぎゅっと抱きしめてくれるオル。

あったけぇ…。

恐怖で冷えた身体がオルの温もりで徐々に元の温かさを戻していく。
オル好きだぞー。
思わず胸に頬を擦りよせて甘えれば「んん…可愛い…」という呟きを聞いてしまったけど、今ではそれすらも嬉しいんだよねー。

「こいつの何がいいんだか…」

ぽつりと呟いた王子様の言葉に、更に殺気が膨れ上がった。
俺はあったかいけど、魔導士や騎士は平気なのか?
騎士は平気っぽいけど、魔導士と聖女はダメっぽいな。

「オル、俺のことはいいからそれしまえ」
「…これ以外ならいいのか?」
「ダメ。とりあえず殺気は消せ」
「…分った」

ぽんぽんとあやすように腰を叩いてやれば、渋々オルが殺気を消す。
途端、ぽかぽかとした気温が戻ってくる。
ひえー、寒かったー。
真冬から急に春になったような感じで気温差がヤバイ。

風邪ひかなきゃいいけど。

すると王子様がじっと俺を見つめてくる。
いや正確にはオルを見てる?

まさか…?!

喧嘩はスキンシップだと思ってるタイプか?!
こいつオルを狙って…?!

「お前、魔力はどうした」
「は?」

思ってもみない言葉に、俺から零れた落ちたのは間の抜けた声。
何言ってんだ?こいつ。

「可哀相な目で私を見るのはやめてもらおうか」
「ショーマ。見るなら俺を見てよ」

言いながら手で頬を包んで上を向かせるのやめてくださいませんかね、オルさん。
きゅん死しそうなんですよ。

「おい、勇者よ。どういうことだ」

王子様のイラついた…というよりも少し焦ったような声にオルをじっと見つめれば、ちゅっと唇に唇が触れた。

おいいいい!
何やってんだよ!

今二人っきりじゃねーだろ?!
人! 人がいるだろ!
やめろよー! きゅん死の次は恥か死するー!

恥ずかしさのあまりオルに抱き付き胸に額を押し当てぐりぐりとすれば、ぎゅっと抱きしめられた。

「殿下の質問にお答えしないか!」

ついに切れた誰かが口を開く。
声が大きいから騎士かな?なんて思いながら抱き締められたまま話を聞くことにする。
オルも俺の後頭部に頬摺りしてるのかざりざり音がする。
時折「はー…ショーマ可愛い。いい匂い。抱きたい」なんて聞こえるけど無視無視。
恥ずかしすぎる。

「おい!」

騎士が声を荒げると「うるさいな」と冷たく突き放した声が頭から降ってきた。

怖い。

思わずぎゅうと服を掴めば「ああっ! ショーマに言ったんじゃないからね!」と慌てふためく勇者様。
このままじゃ埒が明かないよね…。
仕方ない。

「オル…話、進まないから、さ」
「うん?」
「質問に答えてあげてよ」
「…ショーマがそう言うなら仕方ないなぁ」

ちらりと上目遣いをしながらもごもごと話せば、途端にデレた勇者様。
意外とちょろいな、と思ったけどこれやると手が付けられなさそうだからいざという時まで使うのやめよう。
俺のためにも。

「心配されなくても魔力はあるよ」
「…俺からは枯渇しているようにしか感じないが?」

枯渇?
オルの魔力が?
それってヤバいんじゃないのか?!

思わずオルの顔をじっと見つめると、にこりと柔らかな笑みを浮かべる。

「リミッターかけてるからそう感じるだけだよ」
「リミッター?」
「詳しくは後で話すけど…」

俺に優しく教えてくれる勇者様がちゅっと額にキスを落とすと「じゃあ、行こうか」と身体を離し、俺の肩を抱く。

「…そんな状態でこの先に行くのか?」
「言ったでしょ? リミッター解除すれば魔力は戻るよ。それに」

そう言いながら俺の下腹部に手を当てる。
何?
なんかあるのか?

「俺の魔力は今ここにあるから」
「なっ?!」

王子様と騎士の声が重なって、魔導士は声を出さず、聖女も口を両手で押さえている。
つまり。

「何言ってんだ?! お前?!」

そこに魔力を溜めた行為をしました。と言っているようなもので。
つい叫んだのは仕方ないだろ?!



そんなこんなで俺は恥ずかしすぎて両手で顔を覆いながら勇者様に肩を抱かれ歩いている。
その後ろからは聖女様ご一行。

もうやだ死にたい。

確かに聖女様ご一行と合流するまで、やることなくてえっちしまくってたけどさ…。
その間にもし、本当にもしオルに何かがあった時、俺だけでも逃げられるようにってことで風の魔法を使って逃走用の魔法を習っていた。
俺にも魔法が使えるのかーと感動して、習ってすぐあちこち飛びまくってたらオルが拗ねちゃってさ…。
そのまま訓練と称して鬼ごっこ開始。
んで、俺が捕まったら1日えっちするというとんでもない条件を付けられたから逃げるよね。

本気で。

でもさ、相手は規格外の勇者様だよ?
そんなの無理に決まってるじゃない?

直ぐ捕まったよね。

はじめは本当に訓練で、手を抜いてくれてたんだよ。
でもだんだん俺が風魔法に慣れてきて複雑な軌道や急ブレーキ、さらには上空に飛べるようになった辺りから本気になっちゃってさ…。

もちろん1日中えっちしたさ。

ああ。したとも。
あんな体位やこんな体位であんあん鳴かされたよ。
しまいにゃ初めてえっちした時に言われた「そこ」にちんこをねじ込まれてわけわかんなくなって泣き叫んでた…ような気がする。

その辺記憶が曖昧なんだよ。

快楽に酔いすぎて記憶無くすとか怖い。
体力の限界まで抱かれて翌日動けるか心配だったけど、普通に動けて驚いた。
自慢じゃないが俺は体力はない方だ。
運動は好きでも嫌いでもないから、誘われればバスケとかサッカーとかやるだけ。
それでもすぐに力尽きる。
そんな俺が体力と絶倫お化けのオルのえっちで精も根も果てるまで付き合わされて動けるとかおかしいんだよ。
それを不思議がっている俺をオルはただにこにこと笑ってるだけ。

こっちに来てから俺が知らない間に体力が付いた、とかか?

スキルすらない俺がそんなことになるとは到底思えないけどな。
そんなこんなで背中から別の意味でびしばしと視線を受けながら歩けば、ようやく森から抜けた。
遮るものがない光が容赦なく瞳を焼きそうになるのを、大きな手が瞳を覆った。

「一度瞳を閉じて、ゆっくり開けてごらん」

オルにまるで子供に言いきかせるように言われ、こくりと頷けば「良い子だ」と頭を撫でられる。
あー!
頭撫でらるの好きー!

じゃなくて。

手がゆっくりと離れるのと同時に、閉じた瞼を持ち上げる。
すると目の前には何もない。
だだっ広い空間があるのみ。

なにここ。

ピクニックとかしたら滅茶苦茶気持ちよさそうだけど、生憎お弁当とか持ってないんだよなー。

「ここ…は?!」

お?
王子様も驚くだだっ広さ。
いや、本当に何もないんだよ。
まるでそこだけ切り取られたような…。

「魔王城がない…?!」

ぶっふぉ!
嘘だろ?!
ここ魔王城があったところなの?!

「そんなバカな! 魔王城が現れたとの報告が…!」

慌てふためく王子様と騎士。
まぁ目的のものがなくなってたら慌てるよねー。
自分が勝手に目印にしてたものがなくなると焦るの分るわー。

俺と勇者様を追い抜いて走っていく王子様と騎士。その後ろを魔導士と聖女が追いかける。
やだ。俺の横抜けるとき睨まないでよ。聖女様。
俺が何かしたわけじゃないんだからさー。

「その報告は本当だよ」
「どういうことだ?!」

勇者様の言葉に、つかつかと俺たちの方へ歩み寄る王子様。
顔、怖い。
せっかく綺麗な顔してるんだからそんな怒んなくても…。

「お前か」
「はい?」

なんで俺?!
俺何もしてないぞ?!

ギッと睨みつけてくる王子様に、つい後ずさりをすればその険しさが増した。
いやいやいや! 待って?!

「こいつが魔王なのだろう?!」
「はぁ?!」

ええええええ!
なにそれ?!
つかスキルないってあの水晶みたいなのに出たじゃない!
というか魔王ならスキルいっぱい持ってるんじゃないの?!
てか後ろの3人もそういった目で見ないで?!
違うからね?!

「あのさ…」

はぁ…と大きな、本当に大きな溜息を吐いて俺を後ろから抱き締めてくる勇者様。
きゅっと首に腕を絡めて「大丈夫」と頭にちゅ、ちゅとキスを降らせながら言ってくれる。

「勇者…」
「これに関してはショーマは本当に関係ないんだ」

ん?
『これに関して』は?

なんかそれ以外は関係ありますって言い方なんだけど…。

え?
何? どういうこと?

「…知っている事をお教え願おうか、勇者よ」

ちょ、王子様なんで剣抜いてるの?!
ストップ、ストップ!
後ろも止めなさいよ!
ってなに王子様に倣って戦闘態勢に入ってるの?!

「ホント…なんでこいつらがいるんだろ…」

苦々しくぽつりと呟やかれた言葉は俺にしか聞こえていないようで、王子様はただ俺と勇者様を睨んでいる。
そして、はぁとこれまた盛大に溜息を吐く勇者様。
それによって俺の髪が揺れる。

「あのさ。待ち合わせに遅れたのは俺のせいじゃないからね」
「俺たちが遅かったとでも?」

ぴくりと王子様の眉が上に跳ね、騎士がじり、と動く。
いや。ホント待って?
なんでこのまま勇者様と戦闘おっぱじめようとしてんの?!

無理だよ!
絶対無理だよ!
怪我するからやめとけって!
剣術とかよく分んないけどすごそうだからやめときなって!

「のんびり見てないで出てきなよ」
「勇者…貴様何を言って…」

ホントだよ。
会話になってないじゃんかー。
どうしたんだよ。オル。
えっちしすぎておかしくなった?

なんて思っていたら、俺たちと王子様との間の空間がぐにゃりと歪む。

「やはり…!」
「お前が魔王だったか?!」
「んなわけねーだろ?!」

えー…その設定まだ引っ張るのー?
俺の叫び虚しく、王子様と騎士が地を蹴る。
剣を向けられたことも人から明確な殺意を向けられたこともない俺は、ひゅっと息を飲み身体を強張らせる。
すると耳元で「大丈夫。怖がらないで」と耳にちゅっとキスされる。

いや、そんなことしてる場合じゃなくない?!

突然そんなことをする勇者様に顔を向ければ、にっこりを微笑んでいて。

そして聞こえる耳障りな音。

硝子を爪で引っ掻いたような嫌な音がすぐ近くで聞こえ、びくりと肩を跳ねさせると音のした方へと視線を向ける。
すると王子様と騎士が後ろへと飛んだのか、着地する姿が見える。

「貴様…!」

その声は地を這うような低い声。

怖い、怖い、怖い。

がくがくと膝が震え、魔導士の攻撃だと思われる炎が俺たちを包む。
恐怖のあまり瞳を閉じるが「大丈夫。綺麗なだけだから」と優しい声で言われ、恐る恐る瞼を持ち上げれば、俺たちを守るガラスに沿って炎が舐めているだけだ。
感じるはずの熱もなく、まるで炎に中にいるような不思議な感覚にほう、と息を吐けば、ちゅっと頬にキスをされた。

「どういうことだ?!」

急に炎が消えたかと思えば、魔術師が酷く焦っていた。
どうやらもてる魔術の最大の攻撃だったらしいそれを防いだらしい。
それに聖女は何をしていたのか分らないが、なぜか呆然と立ち尽くしている。

え?
なに?
何が起きた?

「あらあらダメよ~」

するとのんびりとした人の声が突如聞こえ、弾かれたように俺も王子様も声の発生源を探すようにきょろきょろとする。
ただ、勇者様だけが動じることもせず「もっと早く来てくださいよ」と文句を言っている。

すると縦に歪んだ空間からにゅっと上半身が現れた。

それに声無き悲鳴をあげ、勇者様に抱き付けば「ショーマ可愛い」と勇者様のうっとりとした呟きが聞こえたけど、俺はそれどころではない。
王子様たちも似たような状態で、瞳を大きく見開いている。

「遅かったねー。オル」
「さっきも言ったでしょう?俺のせいじゃない」

不貞腐れるような声で返す勇者様に、不覚にもきゅんとしてしまった。
今はそれどころじゃないんだけどさ。

可愛いんだよ。

ぽやーっと勇者様を見つめていると「あら、あらあらあらあら」という声にはっとすると、によによしている上半身だけ見えてる人。

怖い。

「それより話があるんでしょう?おばさん」

おばさん?!
その一言にその女性以外の視線が勇者様に集まる。
そりゃそうだよね!
でも女性に対してそれはどうかと思うよ?!

「よっこいせ」

と妙に年寄り臭い声と共に、すぽん、と歪んだ空間から出てくる女性。
服装は町の人と変わりない感じだけど…。

あれ?
この人どこかで会ったような気がするんだけど…気のせいか?
すると俺のガン見していた視線に気付いたのだろう。
俺を見てにっこりと微笑んだ。

「やぁ、久しぶりだね。ショーマ」


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