1 / 1
繋ぐ縁 恋繋ぐ
しおりを挟む
ホープ・ハーティリティ。16歳。
生徒会室前の廊下で婚約者と美少年に責められている最中に前世を思い出した。
なんでもう少し早く思い出さなかったんだ、と思ったけれど今でよかったのかもしれない。
「うるせぇ! エビフライ投げつけんぞ!」
俺の声が廊下に木霊する。
ああもう鬱陶しい!
「さっきからぐちぐちぐちぐちうるせぇんだよ!」
ブチ切れる寸前の俺は、さっきからグチグチと俺のことを悪く言うやつを睨みつける。それだけでびくりと身体が跳ねた。
「貴様! スズに対してその言い方はなんだ!」
「おめぇうっせぇんだよ! この浮気男!」
「うわ…っ?!」
この国の王子だろうがなんだろうが関係ない。ただ、あることないことべらべらと話す王子の隣にいる可憐な少年を再び見やると「ひっ」と小さな悲鳴を上げ彼の背後に隠れた。
隠れるくらいなら初めから喧嘩を売らなければいいだろうに。小鹿のように震えるスズをかばうように前に出る王子の視線は冷ややかを通り越し怒りに満ち満ちている。
「浮気男だ?! 私はこの国の…」
「婚約者がいるのに他の男といちゃいちゃしてるのに浮気じゃない? はっ、笑わせんな」
鼻で王子を笑い飛ばし、それこそ汚物でも見るような視線を向けてやれば、王子が怒りをあらわにした。
「貴様よりスズの方がよほど私のことを考えてくれているのだ!」
「はぁ? 何言ってんの? そいつ、なんも持ってないのに?」
再びハッと鼻で笑い飛ばせば「きっさま…!」と握った拳がぶるぶると震えている。
「俺の繋がりを欲しているとそう解釈してたが違うみたいだな」
腕を組んで、ゴミを見るような視線を王子に向ければ「なんだと?」と地を這うような声で俺を見る。
「だいたい、なんで俺が婚約者なのか考えたことあるのか? ないだろ。だから尻軽男にほいほい捕まるんだよ。こんなのが将来王になるとか冗談だよな」
この国の将来は暗いな、とそう言えば黙っていたギャラリーがざわざわとざわめきだす。ほれほれ、取り巻きども早く言い返さないとお前らの家の繋がりも消すぞ。ゴラァ。
「それとも…ここであんたたちの『縁』を切ってやってもいいんだぜ?」
どうする?
ニイッと悪い顔で笑ってやればスズの顔色が青くなっていく。王子もーランドルフもその顔色を悪くして「卑怯な!」と騒いでいる。
「騒げ騒げ。この国のありとあらゆる『縁』を切ってやってもいいんだ。そうなると…残るは滅亡だけどな」
ははは!と笑ってやれば、ランドルフが唇を噛み俺を見ている。
周りのギャラリーたちも顔色を失い、息を飲んでいる。当然だろう。
今まで言われるまま『縁』を結んできた。
それ程までに俺の家の地位は低かったからだ。
上の要求を断ればどうなるか分らない。それが分かっているからこそ、父上も唇を噛みながらも俺に『縁』を結ぶよう言うのだ。
そうして『縁』を結んだ家は繁栄し『縁』を結ばずコツコツとやってきた家は落ちぶれていった。そのことに俺も心を痛め、学園の友人も何人かは辞めていった。
その度に「ごめん」と告げると「お前と『縁』を結べばよかったかもな」と言って去っていった。その言葉を聞くたびに俺の心は悲鳴を上げた。
なぜ俺にこんな力があるのか分らない。
『縁』が光の糸として見えるこの能力。
祖母がそれに近い能力を持っていた、ということらしいがそれは父上しか分からない。父上も祖母のことはあまり話したがらなかったから。
父上にとって『縁』が見えるという母親はそれだけで煙たがれたらしい。それに加え少しの未来が見える、と言うこともあって子供の頃は相当苦労したらしい。
父上はそう言ったものを継がず『普通の人』だったため『普通の人』である母上と結婚。そして俺が産まれた。
だが俺が産まれると同時に母上は他界。それに加え俺に『縁』という母親と同じ能力を持って産まれてきてしまった。
その時父上は相当荒れたらしい。公爵であった友人に支えられその『縁』もあって、俺は王子の婚約者となった。
だが、その友人は荒れた父上をうまく利用し俺に『縁』を結ばせ私腹を肥やしていったが『悪縁』をも結んでしまい没落していった。その時の言葉が今も父上と俺に突き刺さっている。
「『縁』が結べるなどという世迷言を信じた父上も父上だ」
憎々しくそう告げるランドルフの言葉に俺はピクリと眉を動かす。それに気付いたランドルフが、逆にフンと鼻を鳴らした。
「そんなものあるわけがないだろう。すべては偶然だ」
「…………」
勝ち誇ったように俺を見下す王子と、その背に隠れながらも「ざまぁ」と告げるスズ。それに「はぁ…」とわざとらしく溜息を吐き、目の前にある光の糸を手にする。
それはランドルフが持っている『縁』の糸。それらは様々な場所に伸び、途中途切れたものは繋がるかどうかはランドルフ次第である。
「分かった。ならあんたとの『縁』を切ればいいんだな?」
「ああ、せいせいする」
はっ、と鼻で笑うランドルフに「お待ちください!」と待ったの声がかかった。んだよ、せっかく切れるんだから大人しくしてろ、と声を上げた人物に視線を移せばそこには騎士団長の息子がいた。
「なんだ。もう決めたことだ」
「なりません! ハーティリティを手放してしまったら我が国は…!」
「うるさい! お前も処分対象になりたいのか!」
激高するランドルフの怒声にギャラリーの何人かが小さく悲鳴を上げる。
だが騎士団長の息子―ハーヴィは片膝を付いたままランドルフを見上げている。
「はぁ…将来こんなのが王になるんだよ? たまったもんじゃない」
「ハーティリティ!」
「いいじゃない。『俺』と『縁』が切れるんだ。あとは王室が苦労するだ…あ、そうだ。いいこと考えた」
ハーヴィが「待ってくれ!」と俺を見るが知ったこっちゃない。俺はもう決めたんだ。俺は俺のやりたいように『縁』を結ぶ、と。
「隣の…アウロエア国と『縁』を結んであげるよ」
「おい! アウロエアは!」
「そうだね。今はまだ『縁』の繋がりが細いけど、大丈夫。俺が丈夫に、がっつり、太く繋いであげるから」
「やめろ! ハーティリティ!」
隣国アウロエア。ここ数年前から少々キナ臭くなっている国である。そこと『縁』を結べばどうなるかをハーヴィはきちんと理解しているらしい。当然だ。戦うのは騎士団なのだから。
「じゃ、結ぶね! 責任はランドルフ様にお願いしますね」
「ホープ!」
ほいっ、と糸と糸をくっつけその場所を俺でもほつれないように太く、頑丈に結ぶ。
直ぐには『縁』の結果はでない。だが例外はあるのだ。
「ランドルフ様!」
ばたばたと生徒がランドルフ王子に近付くと「なんだ!」と怒声を浴びせられる。あーあ。そんなことしたら離れていくのに。分からないからそうしてるのか。
ふふっと笑えば、ハーヴィが「お前…!」と俺を睨みつける。
「何?!」
「どうしたの?」
スズが不安そうな声を上げるとギャラリーたちに向かって「失礼」と言って兵と共に出て行く。スズを置いて。
「あんたも用意した方がいいよ? この国戦争になるから」
「ハーティリティ…!」
「だから言ったでしょ。責任はランドルフに取ってもらうって」
はんっ、と鼻で笑い一人置いていかれたスズがおろおろとしているが、ギャラリーは誰も声をかけようとはしない。彼に構えば俺の報復にも似た『悪縁』を結ばれてしまうかも知れないと言うことに恐怖しているのだ。
それにしても度胸があるのは騎士団長の息子だけか。つくづくこの国にはがっかりさせられる。
「こっちにこい」
「ちょ、なんだよ!」
ハーヴィに急に手首を掴まれぐいぐと引っ張られていく。その手を振りほどこうにも騎士学科のハーヴィと魔法学科の俺とは力の差なんて当然で。
「離せ!」
引き摺られる、というよりも強制的に歩かされているに近い。足をもつれさせていないだけマシだ。
ぎゃんぎゃんと叫ぶ俺に対して、ハーヴィは押し黙ったままずんずんとどこかへ歩いていく。長い廊下を歩き、ドアを開くとその中へ手首を掴んでいる腕を振り、俺を文字通り放り込んだ。
「いってぇ!」
ずざっと部屋へと放り込まれた俺はたたらを踏む間もなく横に倒れる。受け身はなんとか取れたから怪我は免れたけど、倒れた俺にハーヴィが圧し掛かる。
「なんだよ! どけよ!」
「断る」
身体を挟むようにして圧し掛かられているから、力一杯胸を押しても俺の力じゃどうすることもできなくて。逆に顔がどんどん近付いてきて、俺はどうにかして逃げようと考えて顔を背けた瞬間。
「んぅ?!」
がっしと顎を掴まれ強引に正面を向かされた。そしてそのままハーヴィの唇が俺の口を塞いだ。
なんだ?! 何が起きてる?!
「ちょ…ん?!」
唇が離れた瞬間、文句を言おうと口を開けたらそこの熱い肉厚の物がぬるりと侵入してきた。それに俺はパニックになるとハーヴィの服を掴む。だがその熱い物が口腔内を舐め回し、歯列をなぞるとついに逃げ回る俺の舌を絡め取りじゅうと吸い付いた。
「?!」
何が起きたのか分らず混乱を極めていると、いつの間にやら顎から指が離れ服を脱がされている。
うおーい! 何してんだー!
俺の叫びはハーヴィの口の中に消える。じゅるじゅると唾液を啜られ、舌を絡められては唇を啄ままれる。
呼吸がうまくいかず、くらくらとしはじめた頭でハーヴィを見つめればふ、とサファイアの瞳が細くなった。
「あ、ふ…ぅん」
ぬるっと上顎を舐められれば、ぞくぞくとしたものが頭の先に向けて抜けていく。
「や、ん…っ!」
自分でも驚くような甘い、媚びた甘い声にびっくりしていると、ハーヴィがにやりと笑う。これ、俺がやった笑いと同じだ。
けれど、その笑みにきゅんと胸が高鳴る。
おい、俺。どうした。
服を肌蹴させられ上半身に空気を感じる。その素肌に大きな、豆が潰れた痕のある手が腰を撫でた。
「あっ! んや…ぅ!」
すす、とその手が腰から上へと移動し胸までくると、なぜか突起を摘ままれ引っ張られる。
その初めて感じる痛みにびくんと膝を跳ねさせる。きゅうと押しつぶされながらむいーっと乳輪まで引っ張られるとがくがくと腰が上下に動く。
「やだ…ハーヴィ…乳首ひっぱちゃやぁ…っ!」
やだやだと頭を振って辞めるように訴えるが、逆に益々引っ張られその痛みに呻けば、今度は先端に指先を乗せられくるくると回される。
「あっ、あっ、それやだ…ぁ!」
「ホープの乳首、俺の指に吸い付いてくる。可愛い」
「かわいくないぃ」
はぁ、という熱い吐息が反対の胸にかかり喉を反らせると、それを口に含まれるとぢゅううぅっと吸われる。
その未知の快楽と、ピンピンと指先を小刻みに動かしながらぐりぐりと押しつぶしてくる動きに、俺の腰の動きはますますかくかくと動き出す。
「ホープ」
ハーヴィの熱を含んだ声に、俺が足を開けば「良い子だ」と乳首を甘く噛まれた。
それにびくりと身体を跳ねさせると乳首から手と口が離れて行く。じんじんとする乳首がどうなったのか恐る恐る胸を見れば、片方は赤くぽってりと腫れあがり、もう片方は唾液に濡れてつんと勃っている。
うわぁ…なんかエロくなっちゃったよ…俺の乳首…。
なんだか俺のものじゃなくなった乳首を眺めていると、するっとスラックスと下着を一気に剥ぎ取られた。それに「わー!」と言うよりも早く、すっかりと勃っている俺の物をハーヴィがじっと見つめている。
そんなガン見されると滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。
いや、乳首を弄られてあんあん言ってる間も恥ずかしかったよ?! でも気持ちよさが勝っちゃったというかなんというか。もにょもにょ。
ぷるりと勃っている俺のものからは既にぽたぽたと透明の液を胎に垂らしている。それだけでも十分恥ずかしいのに、他人に男の象徴を見られてんだ。しかもほとんど関わり合いがなかった奴に。
「そんな見んな!」
「ああ、悪い。可愛らしくてつい、な」
「な?!」
くすりと笑うハーヴィにカッと顔が熱くなる。
「可愛らしい」だと?! そりゃ人よりも小さいとは思ってたさ! 身体小さいし! でもそんなにはっきり言わなくてもいいだろ?!
「ああ、ホープの物が見られるなんて…」
「え?」
うっとりと恍惚の表情を浮かべながら舌なめずりをするハーヴィに、ぞくりと背筋に冷たい物が走った。
こいつ、今なんて言った?
「ホープの乳首を…いや、素肌に触れることすらできないと思っていたが…。夢のようだ」
「ハー…ヴィ?」
まさか、まさか。
どくんどくんと心臓が大きく脈打ち、目の前が赤くなる。
俺の足を抱えたまま、ずい、と膝立になっているハーヴィが前進したため俺の腰が浮き、まるで見せつけているような格好にされた。
「おい! ハーヴィ!」
「可愛い。すぐにでも食べてしまいたい」
その言葉に本当に食われそうな瞳で俺の物を見ているアメジストから隠すように両手を伸ばすが、ぐっとハーヴィの股間が尻たぶに押し当てられた。
「ひぅ?!」
「ここも可愛ければ悲鳴も可愛い。ホープは俺をこれ以上惚れさせてどうする気だ?」
「ほれ…?! お前何言って…っ?!」
はぁ、と熱い吐息をはきながら、ぐいぐいと膨らんだ股間を押し付けてくるハーヴィに俺はパニックだ。
こいつ、こんな奴だっけ?!
けどその膨らんだものが尻に当たる度に、腹がきゅんきゅんし始めてるのはなんでだ?
「ホープ」
「―――っ!」
するりと掴まれている腿から手が離れ、顔が俺に近付き頬を包まれた。そしてそのまま固定されるとじっとハーヴィが俺を見つめる。その瞳から逸らすことは許さないという視線に、俺はこくりと喉を鳴らす。
「君があのバカと縁が切れてくれてよかった」
「え?」
真っ直ぐ見てめていた瞳が嬉しさで細くなる。それに俺は瞳を丸くすると、ぱちりと瞬きを一つ。
え? 今、ハーヴィがランドルフのことを『あのバカ』って言った?
「バカだバカだとは思っていたけど、ここまで計画通りに動いてくれるバカでよかった」
「ちょ、え? ハーヴィ?!」
将来の主をそんな風に言っちゃっていいの?! つか計画ってなに?!
疑問だらけの俺の頬をすっと親指が撫でると、ぞくりと肌が粟立った。
「ホープがあのバカと尻軽と一緒にいる度に、切なく瞳を伏せていたあの表情。あれを見る度にあのバカをこの手で殴りたくなった」
「…………」
「けど、ルーシーの計画を遂行するためには君の涙を拭うことさえできなかった。すまない」
「ハーヴィ…」
嬉しそうに細められていた瞳が伏せられ、終いには閉じてしまった。詫びをしているだろうハーヴィに、俺はふる、と首を振った。
「計画、はなんとなくわかるけどハーヴィがそんな風に思っててくれたことが嬉しい」
「ホープ…」
ルーシーとは宰相の子息で学園一の腹黒さを持つとも言われている。現に主君である王の計画をルーシーの父親がこっそりと全て変えてしまった、などの噂があるが定かでなはい。そんな父の元、彼が計画を立てたのならランドルフさえ駒にするだろう。そしてそれは正しかった。
「俺は、ホープを愛してる」
「ハーヴィ…」
その言葉が嘘ではないことをこの数分で思い知らされた。今も膨らんでいる股間がそれを証明している。
「俺は…まだ自分の気持ちがよく分らないんだ…だから…」
そこまで言うと唇にそっと人差し指が乗せられた。そして、ふ、と瞳を細めるハーヴィの顔が近付いてくる。
今までは婚約者としてランドルフを好いていなければならなかった。政略結婚だから気持ちなどはなくてもいい。けれど、結婚するなら気持ちがあった方がいいだろう、とそう思っていたから俺はずっとランドルフを思い続けてきた。それを最悪な形で裏切られたわけだが。
「構わない。ホープが俺を好きになってくれるまで好き、と言い続けるから」
「ふはっ、結構重いのな。お前」
「当たり前だろう。14年だ。14年も片思いをしていたんだから」
14年前…それは俺とハーヴィが出会った歳でもある。
と言うことは。
「出会ってすぐ、俺のことを好きになった…のか?」
「一目ぼれだ」
照れくさそうにそう言うハーヴィに胸がきゅうんとして、どきどきしてしまう。
「ハーヴィ…」
「ホープ。お前を抱きたい」
「でも…」
別にランドルフに操を立てる訳ではないが、ついさっき婚約破棄された身である。そんな俺がすぐにそういったことをしてもいいのかと躊躇ってしまうのは前世の性か。
「気にするな。あのバカはとっくに尻軽とやることはやってる」
「…………」
開いた口が塞がらない、とはこのことか。確かにある時期から二人の仲が急接近した。その時だろう。
「後始末を俺たちに任せてくれたあのバカには俺たちも辟易してるんだ」
「信じらんない」
最低。という言葉をつい口にすると「分かる」とハーヴィが同意をする。それに二人でくすくすと笑うと、どちらからともなく唇を重ねる。
「んっ、ハーヴィ…」
「ホープ、ダメか?」
つつ、と滴り落ちる俺の液を指先で掬っては閉じているそこへと塗り付けていく。その度にひくひくと動いてるのが恥ずかしい。
「いい、よ」
「ありがとう、ホープ」
ちゅっと頬に口付けられ、俺は恥ずかしくて俯けば「それは誘ってる?」というハーヴィの言葉に顔を上げると欲の色を隠しもしない瞳と視線がかちあった。
「でももうちょっと待っててくれ。ここをほぐさないと切れるから」
そう言いながらトントン、とそこを叩く指先に益々恥ずかしくなり腕を首に絡めると胸を押し当てた。俺とは違う厚い胸板にドキリとしていると、きゅぽんと何かの蓋を抜く音がした。そしてすぐにぬちゃりという粘っこい音がしてつい、ハーヴィに抱き付いた。
「身体に悪いものじゃないから、怖がらなくていい」
「…ん」
言い終えるとちゅっとこめかみにキスをされると、先程トントンとされたそこを指先が触れ粘ついたそれをそこへと塗りたくっていく。
そこを撫でながら時折、爪先を中へと入れられる。その度に違和感に眉を寄せたが、その指の動きに合わせて身体から力抜いてそこをぱくりと開けばハーヴィの息が飲む音が聞こえた。
自分を好いてくれる奴に協力するのは当然だろう?
それが例えこういうことでも。
するとにゅちりと指先がそこに入りこみ、ずぬずぬと侵入してくる。その度にきゅうと締め付けるのは勘弁してくれ。自分でも制御できないんだ。
「ホープ…ッ!」
「んあ…っ、悪い…指、食いちぎっちゃうかも…ぉ?!」
ずるりと指が引き抜かれ、思わず声を上げればまた指を挿入される。今度は二本。
「あっ、痛っ!」
「悪い、ホープ。少し我慢してくれ」
どこか切羽詰まったようなハーヴィの声に、俺はこくこくと頷くと指先がそれに触れた。
「っあ?!」
「見つけた」
「や…やめ…っ?!」
ぺろりと唇を舐めるハーヴィが色っぽくてぞくぞくとしたものが背中を走り抜ける。
「ハー…ヴィ、こわ…怖い…ぃ!」
ハーヴィにぎゅうと抱き付くとちゅ、ちゅと目元にキスをしてくれる。まるで大丈夫、と言うように。
「ここが、ホープのイイトコロ。ね?」
「ぁふ…っ?! やらぁ!」
トントンとそれを指先で叩かれる度に、とろとろと液が流れ出してくる。ヤバイ。マジで。気持ちよすぎて腰が…動く!
「ああ、エロいな。ホープ」
「きもちいいの、やだぁ…っ!こし…うごいちゃうから…ぁ!」
かくかくと腰を動かしながらハーヴィに泣きつく俺。そんな俺を顔中にキスを降らして落ち着かせてくれるハーヴィ。言葉は攻めてくるけど。
ぐちゅん、と三本目の指が入れられると、身体がビクビクと痙攣する。
「ああぁっ?! ああああぁぁっ!」
「―――っ?!」
がくがくと膝が跳ねて、身体が絶頂したことが分かる。けれど…。
「あぁ…メスイキしたのか。本当にエロくて可愛い」
「メス…イキ?」
はぁはぁと肩で息を吐きながらハーヴィに聞き返せば「そう」と頷く。にゅぽんと指を引き抜いて身体を強制的に離されると、下を見る。俺もつられて下を見ればとろとろと白濁の液を垂らしている。
え? 射精してない?
「そ。射精せずにイったんだよ。ホープは」
「マジ…か…」
メスイキなんてネットや漫画の中の出来事だと思ってた。けど、実際できてしまうことに驚きと感心が入り混じる。
「だから」
「ちょ、ちょっと待て!」
みち、とハーヴィの先端がローションで濡れたそこへあてがわれた。だが、ちょっと待ってほしい。俺は今メスイキでイった。まだ身体はびくびくと敏感になっていてそんなものを中に入れたらどうなるのか恐怖でしかない。
「ハーヴィ!」
「ホープ。愛してる」
「―――っつ?!」
ずるい、ずるい!
そんなこと言われながら先端をめり込まされたら俺に抵抗なんかできる訳がない!
「っああああああ!」
「っく」
ずぶり、とハーヴィの先端が埋まった感覚に俺は再びガクガクと身体が痙攣する。
やばい、やばい!
きゅうと足の指を丸めてハーヴィにしがみつく。張ったところがさっき言っていた「イイトコロ」を押していてびくびくと腰が跳ねる。
キモチイイ。
それだけが脳を支配する。
キモチイイ、キモチイイ。
「ハー…ヴィ…」
「大丈夫か? ホープ」
心配そうに俺を気遣うハーヴィの耳元ではぁと熱い吐息を漏らすと、ずるりとそれがどんどんと中に入ってくる。その度に少しだけ膨らんでいるような気がする。
「ハーヴィ。もっと、中に入れて」
「………っ!」
キモチイイカラ。
耳元で囁けば、腰を掴まれ一気に根元まで挿入される。その強引な挿入に襞が歓喜し、きゅうきゅうとしゃぶりながら締め付ける。
「ホープ…っ」
「ハーヴィ、ハーヴィ!気持ちいい! ハーヴィので突いてぇ?! っああああ!」
「この…ばか!」
身体を持ち上げられずるりとそれを引き抜かれ、自重でそれを飲み込むと奥まで突かれる。
ずっとイきっぱなしだから、もう何が気持ちいのかが分からない。ずるりと腰を引かれては、穿たれる。乳首もいじめられながらパンパンと腰を打ち付けられれば、もう何も考えられなくて。
「あっ、んぅ! ハーヴィ…!奥、気持ちいい!」
「ああ、ホープの奥を突くたびにきゅうきゅう締め付けて俺を離さないね」
「ぅん、ハーヴィのおちんぽ気持ちいい! ずこずこされるの気持ちいいの!」
あんあんと喘ぎながら抽挿される快楽に頭が真っ白になる。ただ揺さぶられる感覚と、奥を抉られ暴かれていく快楽。
「ハっ、ハーヴィ…! ダメ…っ! もうらめ…ッ!」
「ホープ、俺も中に…!」
「イク…っ! ハーヴィ!」
「ホー…プ…っ!」
ハーヴィが小さく「っく!」と呻いたかと思えば、ずん、と奥まで先端がねじ込まれた。するとびゅるるる!と奥に叩きつけられる熱いそれ。
その熱く叩きつけられるそれに俺もビクンと膝を跳ねさせる。
「んぁ…あああぁぁっ!」
ハーヴィにしがみつき腰を震わせば、びゅく!と勢いよく白濁を吐き出す。びくんびくんと何度か身体を跳ねさせると、ハーヴィが数回俺を揺さぶる。
残った残滓を俺の中に吐き出し終えると、ふう、と息を吐く。けど、俺の身体には熱が渦巻いたままで。
「ハーヴィ…」
「ホープ?」
力を無くしたはずの俺の物がぴん、と勃っている。それをハーヴィに見せつけるように上下に扱くと「ごくり」と喉が動いた。
「もっと、ハーヴィのが欲しい」
「…ホープ」
ハーヴィがしたように、ぺろりと唇を舌で舐めると、ハーヴィが圧し掛かってきた。そしてそのまま腰をがんがんと突かれ二回戦へと突入した。
◇◆◇
「本当に申し訳なかった」
「あの…頭を上げてください」
俺は今、国王様に頭を下げられている。俺の側にはハーヴィがいるが、彼は膝を付き頭を垂れている。
助けを求めようにも、それができない。周りの兵、それに宰相からものすごい視線を感じるけど敵意を向けられている感じではない。
「愚息の行いを詫びようにもどう詫びればよいか…」
「本当にごめんなさい。謝って済む問題ではないとは分かっておりますが…」
あばばばばば。
王妃様も頭を上げてください。というか一介の学生に頭を下げないでください。
「あ、あの。もう済んだことなので…」
「いや! 君との婚約破棄をしたのはあの愚息なのだ! この国の礎である方の子孫をぞんざいに扱うなど…!」
「え?」
ふんぬ、と怒り狂っている国王様の言葉に、俺はきょとんとしてしまう。
え? この国の礎?
「あら? ホープは何も聞かされてはいないのかしら?」
王妃様にそう言われ、こくりと頷けば「あらあら」と口に手を当てて驚いている。ちらりと王様を見れば同様に驚いている。
え、ちょっと待って。どういうこと?
「ホープ、君の一族のことはどこまで知っているんだ?」
「一族?」
なんのこと? と首を傾げれば、王様と王妃様がお互いを見て「えっ?!」と同時に俺を見た。息ぴったりですね。
「本当に何も知らないのか?!」
「あ、え? は、はい」
王様にがっつりと腕を掴まれ、ずずいと顔が近付く。それに俺は背中を反らせたが、近い。スパン、と小気味いい音が聞こえたかと思えば王妃様が「ごめんなさいね」とおほほと笑いながら俺から王様を引き剥がす。強い。
「…ハーヴィ」
「はっ」
「そなたはホープの一族のことはよく知っておろう?」
「はい」
「え?! そうなの?!」
ばっとハーヴィを見れば、にやりと口元が笑ってる。えええー。お前ってホントそんな奴だっけ?
もっと無表情で何考えてるか分らなくて、でも脳筋じゃなくて。
でも後輩には優しいから男女共にモテる…くらいしか知らないけど。でも子供の頃から今まであんまり変わってないような気が…?いや、今のこいつが素なのか?
もしそうだとしたら今まで猫被ってたのかよ…。怖えぇ…。
「ホープ。君はどれくらい自分の家のことを知っている?」
「え? 全然知らない」
「…おばあさまやご先祖のことも?」
「そ、れは…。父上がおばあさまの事とかあんまり話さなかったから…」
視線を左右に動かし、伏せれば「なるほど」とハーヴィと王様と王妃様が納得したような顔で俺を見ていた。
「あなたのお父上はお母さま…あなたのおばあさまの事で苦労した、と聞いておりますから…」
「はい…」
王妃様の言葉に、益々瞳を伏せれば「ごめんなさい。ホープ」といって抱き締めてくれた。元々家族になる予定だったのだ。王妃様は俺のことを実の息子のように扱ってくれる。これが12年間の交流のたまものだ。
「ホープ。お前のおばあさまと私の家は血が繋がっている」
「え?」
「正確にはお前のおばあさまと私の家のおばあさまが姉妹だったのだ」
「んん?」
王妃様に肩を抱かれたままハーヴィの話しを聞いているが俺はどんどんと首を傾げていくことになる。
え? ハーヴィのおばあさまと俺のおばあさまが姉妹?!
ってことはハーヴィとは従兄弟になるの?!
「あらあら。お目めが零れちゃいそうね」
そう言ってころころと笑う王妃様に「す、すみません」と謝れば「いいのよ」と笑う。
「本当に何も知らないのだな」
「家族の…ことはほとんど聞かなかったので」
父上が家族のことを嫌っていたから、俺もきっと避けていたんだろうな。けど流石にこれは…。
「でもハーヴィが従兄弟だっていうのは分ったけどこの力は一体?」
もしかしたらハーヴィもこの力を持っているんじゃないのかと期待したが、それに気付いたハーヴィは首を横に振った。
「残念だけど、私はホープのような力は持っていない。それにその力は君のおばあさまが継いでいた」
「え? でも…」
ハーヴィはアドラウルの姓を継いでいる。
アドラウルはこの国でも格式が高い、それこそ王族に次ぐ爵位―大公を持っている。
もし、ハーヴィの言うことが本当ならば、ハーティリティの地位が低いことに関係があるのだろうか。
「ハーティリティとは君のおばあさまの結婚相手の姓だ」
なるほど。
だから俺の家の地位は低いのか。
でもなんでおばあさまはそんな人と結婚したんだろう?
「アドラウル家は同性でなければ子供ができないとされていたんだよ。ホープ」
「はい?!」
おっと。驚きすぎて俺が出ちゃった。王様も王妃様も驚いてる。
ごめんなさい、この話しが終わったら言いますから! ええ! ちゃんと!
「ちょ…ちょっと待って?! 同性でしか子供ができないってことは…?!」
「だから君のおばあさまは家を出て男性と結婚をし、子をもうけた。でも恐らくは君のお父上は同性でもうけた子だと思う」
「じゃあ、俺の母上はいないんじゃなくて、父上が母上だったってこと?」
「関係的にはそうなるな」
「じゃあ俺の本当の父上は…」
俺のこの呟きにハーヴィの瞳がすっと細くなった。
え、なに?
「君の本当のお父上は『縁』を結び過ぎて身を滅ぼした」
「あ…」
もしかして…。
父上とあの人の仲がよかったのは『友達』じゃなくて『夫夫』だったから?
「君のおばあさまはなんとか血の呪縛から逃れようとしたみたいだけど、ダメだったみたいだね」
「そう…なんだ…」
残念だ、と瞳を伏せるハーヴィは、ポーズだけではない。心の底から残念だと言っている事に、俺も瞳を伏せる。
でも父上は『力』を持っていないのはなぜなんだろう。
「たまに、極たまに能力を継がない者が出る。お父上はそうだったんだろう」
「でも、俺には受け継がれてしまった、か」
「しかも先祖返りをしてな」
「…そっか」
先祖返りした力だからこんなにはっきりと金の糸が見えるんだろうか。
知らず俯いた俺の肩をぽんぽんと優しく叩いてくれる感覚にハッとすると「すみません」と謝る。
だけど王様も王妃様もただ優しく見つめてくれるその瞳に泣きそうになってしまう。
「だからね、ホープ」
「ん?」
「僕らは同性しか好きにならないし、愛せない」
「え――?」
その言葉に思わず顔を上げれば、ハーヴィの顔も真剣で。とても嘘を言っているようには見えなくて。
「ホープ、君はあの尻軽男…スズにこう言っただろう?「なんで俺が婚約者なのか考えたことあるのか?」と」
「あ、ああ。確かに言った…ような」
あの時は興奮しててあんまり覚えてないんだよね。本当は。
「君のその同性しか愛せない血のせいだよ。勿論私にも言えることだけど」
「じゃ、じゃあなんでハーヴィがあいつの婚約者じゃないの?」
「それは私が『力』を持っていないからだ。そもそも元々家はアドラウルではなかったからね」
「どういう…?」
「君のおばあさまが男爵と結婚した時にアドラウルがの縁が切れた。そして姉妹であった私のおばあさまに受け継がれた」
「だからね、ホープ。アドラウルは元々あなたの姓なの」
なるほど?
ということはハーヴィの家は途中でアドラウル家になったってことか。
当時は相当混乱したんだろうな…。
「俺の家は結構優秀な騎士が出るからな。俺もじっとしているより騎士の方があっている」
そういって笑うハーヴィはカッコよく見えて。
「それにしても…」
ふむ、と何か考えるような国王様の声にハッとすると慌てて視線を向ける。
「ホープ。何かあったのか?」
「え?」
「そうですね。一皮剥けたというか…」
どきっ。
王妃様の「どことなく色気も増してるわね」という言葉に、心臓がばくばくと早鐘を打つ。
そうだった。婚約破棄したばっかりでハーヴィとえっちしましたとは言えない。
だらだらと冷汗をかきながらにこにこしているとハーヴィが「そうですね」と口を開く。
「恐らくは『変わった』のでしょう」
「『変わった』?」
王様と王妃様がこくりと首を傾げる。可愛いな。
じゃなくて、ハーヴィは俺が俺じゃないことに気付いてるみたいだし…。でもそんな俺でも「好き」だの「愛してる」だの言って大丈夫なのか?
そしてサファイアの瞳が俺を見つめると、王様と王妃様の瞳も俺に向いた。
「…はい。なんか言われっぱなしなのがムカついて」
「ホープ…」
「どうせダメになるんだったら最後の最後で言いたかったというか…その」
自分で言っていて前世も言われっぱなしで言い返せなかったんだ。へらへらと受け流して自分が傷つかないようにするので精いっぱいで。
でも、ホープは違った。
目の前でランドルフとスズがイチャイチャしてる所をずっと見ていても、ランドルフはホープのところに戻ってくると信じていたから耐えられていた。
けどランドルフに婚約破棄を言われたあの時、ホープの心が壊れた。
心が壊れるということは自我の死と同じだと俺は思っている。
だから、前世の記憶である俺が出てきたんだ。
最後に言い返せばよかった。
そんなことをずっと思ってたから、あの時ランドルフに言い返した。
悔しくて悔しくて心に溜まっていたうっぷんを晴らすように言葉を口にして、それでも心が壊れたホープは戻ってくることはなくて。
だからつい、そう。ついうっかりと『縁』を結んだ。
今まで私利私欲で『縁』を結んだことはない。けど、耐えて耐えて耐えたホープの仕打ちに俺が耐えられなかった。
後悔はしていない。
「言いたいことも言えずに耐えるのは…もう嫌だから」
「ホープ…」
俺の言葉に王妃様が抱き付いてきビックリする。
「本当にごめんなさい。ホープ」
「君がそこまで追いつめられているとは…気付いてやれなくて悪かった」
「あ、いや。言いたいことも言えたので俺としてはすっきりしてますし、俺自身が考えもなしに『縁』を結ぶのはしません」
だからランドルフの件については申し訳ありません。と頭を下げればぐずっと涙ぐんでいる王妃様。
そうだよね。愚息と言えど子供だもんね。本当に申し合わけないことをした。
怒りに任せて敵国と『縁』を結んだのは大失敗だったな…。
「いいのよ。それだけのことをあの子がしたんだもの」
「でも」
「よい、ホープ。あの愚息もこれで思い知っただろう」
「え?」
「明後日、あの子の処遇が決まるの。貴方も婚約者として出る気はない?」
「…できれば二度と顔は見たくありません」
そうはっきりと言えば、王様も「そうであろうな」と納得してくれた。
ごめんなさい。
でも、あの顔を見ればまた『縁』を結んじゃいそうだからさ…。
「いいのよ。私もあなたのことを考えていなかったわ」
「すみません」
「なら…ハーヴィに結果を伝えよう」
「ありがとうございます」
ぺこりと一礼をすると、王妃様がどこかほっとしたような表情で俺を見ている。
あれ?何か間違った?
「ごめんなさいね。いつも悲しそうなあなたしか見たことがなかったから」
「あ、え?」
「そうだな。会いに来ても影を落としたままだったからな。ころころと表情が変わる方がいい」
「は、はあ…」
はっはっはっ、と笑う王様に俺はきょとんとしていると「今のホープの方がいいってことだよ」とハーヴィに教えてもらう。
まぁ…何のしがらみもないからなぁ…今の俺。
最後になぜか王様に頭を撫でてもらって謁見は終了。謁見と言うより親戚に会って話をした感じだったな。
ふふっと笑えばハーヴィにどうした?と心配された。
「ううん。なんか楽しかったなぁって思っただけ」
「…そうか」
「うん」
あれ?
なんかハーヴィ顔赤い?
そんな王様と王妃様と会った一週間後、ランドルフのことをハーヴィから聞いた。
どうやら敵国アウロエアへと嫁ぐことになったらしい。
俺が見つけたあの『縁』の糸はどうやらアウロエアの王子様のだったようだ。
王様が「この子の尻で戦がなくなるのならば喜んで差し出そう」と言ったらしくランドルフは呆然と、アウロエアの王子様はご満悦だったらしい。
ついでに王位継承権もそこで破棄が言い渡され、さらに俺がいない事にランドルフが少し暴れたらしいけど王子様にきちんと『躾』をされたらしく、昨日のうちにアウロエアへと既に立った後だった。
この国は第二王子、ランドルフの弟ミッチェルが継ぐと決まった。
ハーヴィ曰く「あのバカとは大違いでできた方だ」と言っていたから、安泰だね。
それからスズのことだけど、どうやら一生監視付きになるみたい。その辺りはいろいろあるみたいで詳しくは教えてもらえなかったけど、したことがしたことだから家族で田舎へと越したらしい。
まぁ…みんながいる前であんなことになっちゃったから学園も中退。卒業まであと少しだったんだけどね。
それから俺はハーヴィに守られながら学園を堪能中。
めっちゃ楽しい。
生徒会長がいなくなったからルーシーが会長代理をしてる。ハーヴィは副会長代理をしているから俺もくっついてよく生徒会室にお邪魔をしている。
生徒会は温かく俺を迎え入れてくれたことに涙ぐんだ。だって嫌わられると思うじゃん。
お茶とお菓子を用意して書類と向き合ってるハーヴィのところに持っていけば「ありがとう」とお礼を言われた。
いや、俺手伝えないからさ。せめてお茶だけは入れさせてくれ。
ハーヴィの隣に座って黙々と作業をするのを見ている。結構楽しいんだよね。これ。
「そう言えばホープ」
「うん?」
書類から目を離さず呼ぶハーヴィに、俺は何?と首を傾げれば顔がこちらを向いた。
サファイアの瞳が俺を映し出すとドキリと心臓が跳ねる。
「式は…俺たちだけでしないか?」
「え?」
あれから俺とハーヴィは婚約をし、俺がアドラウル家へと入ることになった。
するとアドラウル家から大歓迎されてちょっと驚いた。
急に家名を継いだから嫌味を散々言われてきたらしい。でも俺が入ることが決まってからそれらがぴたりと止まった上に嫌みや嫌がらせをしてきた者達がへりくだり始めたらしい。
ううーん…一応大公なんだけどね。アドラウル家って。
それ程までに『力』で名前を保ってきたのかがよく分かる。
それからハーヴィのおばあさま、俺にとっては大叔母様と会って俺が『ホープ』でありながらホープでないことを知っていた時には思わず息を飲んだ。
けど「あの時でないと『ホープ』を助けられなかったのよ。ごめんなさいね」と言われた。
どうやら大叔母様には俺がホープの中にいたことは既に知っていた事らしい。けれどあの時でないと出てこれないことも。
だからハーヴィは随分と長くやきもきしていたらしい。
「私には姉様のように『縁』の糸に触れることはできないけれど『見る』事はできるのよ」
と笑いながら俺の頭を撫でてくれた。
そして「あなたからは懐かしい気配も感じるの」とにこにこと言われ、ちょっと泣きそうになった。
どうやらまだホープはいるらしい。けれど意思を持つことはないだろうと言われまたもやちょっと泣きそうになった。
そんな俺をハーヴィは抱きしめ慰めてくれた。
それと、礎になったのはご先祖様が壊れかけたこの国を『縁』を結ぶことで復活させたらしい。結構な歴史があるこの国の始まりは俺たちの一族が頑張ってくれたおかげ、ってことみたいだ。
「でもいいのか? 俺はホープであってハーヴィの知るホープじゃないんだぞ?」
そう。結婚をすることに反対をするつもりはない。
けど14年間思っていた中身とは違うのだ。
「構わない。お前もひっくるめて『ホープ』という人間が好きなんだ」
「ハーヴィ…」
そっと手を握られそのまま指先にキスをされる。
そしてちらりとサファイヤの瞳が俺を見るハーヴィに俺は照れながらもにこりと笑う。
「ふつつかものですがよろしくお願いします」
「死ぬまで…いや、死んでも離す気はないからな。覚悟しておけ」
雄の表情を見せるハーヴィに頬を熱くさせると、掴まれた手を引っ張られ胸へと誘い込まれた。
そしてそのまま唇を重ねようとしてハーヴィがその唇の端を持ち上げたのが見えた。
けれどそれは直ぐに闇へと消え去った。
きっとあの時ハーヴィの目には金の糸ではなく赤い糸が結ばれたことが見えていたんだね。
終
生徒会室前の廊下で婚約者と美少年に責められている最中に前世を思い出した。
なんでもう少し早く思い出さなかったんだ、と思ったけれど今でよかったのかもしれない。
「うるせぇ! エビフライ投げつけんぞ!」
俺の声が廊下に木霊する。
ああもう鬱陶しい!
「さっきからぐちぐちぐちぐちうるせぇんだよ!」
ブチ切れる寸前の俺は、さっきからグチグチと俺のことを悪く言うやつを睨みつける。それだけでびくりと身体が跳ねた。
「貴様! スズに対してその言い方はなんだ!」
「おめぇうっせぇんだよ! この浮気男!」
「うわ…っ?!」
この国の王子だろうがなんだろうが関係ない。ただ、あることないことべらべらと話す王子の隣にいる可憐な少年を再び見やると「ひっ」と小さな悲鳴を上げ彼の背後に隠れた。
隠れるくらいなら初めから喧嘩を売らなければいいだろうに。小鹿のように震えるスズをかばうように前に出る王子の視線は冷ややかを通り越し怒りに満ち満ちている。
「浮気男だ?! 私はこの国の…」
「婚約者がいるのに他の男といちゃいちゃしてるのに浮気じゃない? はっ、笑わせんな」
鼻で王子を笑い飛ばし、それこそ汚物でも見るような視線を向けてやれば、王子が怒りをあらわにした。
「貴様よりスズの方がよほど私のことを考えてくれているのだ!」
「はぁ? 何言ってんの? そいつ、なんも持ってないのに?」
再びハッと鼻で笑い飛ばせば「きっさま…!」と握った拳がぶるぶると震えている。
「俺の繋がりを欲しているとそう解釈してたが違うみたいだな」
腕を組んで、ゴミを見るような視線を王子に向ければ「なんだと?」と地を這うような声で俺を見る。
「だいたい、なんで俺が婚約者なのか考えたことあるのか? ないだろ。だから尻軽男にほいほい捕まるんだよ。こんなのが将来王になるとか冗談だよな」
この国の将来は暗いな、とそう言えば黙っていたギャラリーがざわざわとざわめきだす。ほれほれ、取り巻きども早く言い返さないとお前らの家の繋がりも消すぞ。ゴラァ。
「それとも…ここであんたたちの『縁』を切ってやってもいいんだぜ?」
どうする?
ニイッと悪い顔で笑ってやればスズの顔色が青くなっていく。王子もーランドルフもその顔色を悪くして「卑怯な!」と騒いでいる。
「騒げ騒げ。この国のありとあらゆる『縁』を切ってやってもいいんだ。そうなると…残るは滅亡だけどな」
ははは!と笑ってやれば、ランドルフが唇を噛み俺を見ている。
周りのギャラリーたちも顔色を失い、息を飲んでいる。当然だろう。
今まで言われるまま『縁』を結んできた。
それ程までに俺の家の地位は低かったからだ。
上の要求を断ればどうなるか分らない。それが分かっているからこそ、父上も唇を噛みながらも俺に『縁』を結ぶよう言うのだ。
そうして『縁』を結んだ家は繁栄し『縁』を結ばずコツコツとやってきた家は落ちぶれていった。そのことに俺も心を痛め、学園の友人も何人かは辞めていった。
その度に「ごめん」と告げると「お前と『縁』を結べばよかったかもな」と言って去っていった。その言葉を聞くたびに俺の心は悲鳴を上げた。
なぜ俺にこんな力があるのか分らない。
『縁』が光の糸として見えるこの能力。
祖母がそれに近い能力を持っていた、ということらしいがそれは父上しか分からない。父上も祖母のことはあまり話したがらなかったから。
父上にとって『縁』が見えるという母親はそれだけで煙たがれたらしい。それに加え少しの未来が見える、と言うこともあって子供の頃は相当苦労したらしい。
父上はそう言ったものを継がず『普通の人』だったため『普通の人』である母上と結婚。そして俺が産まれた。
だが俺が産まれると同時に母上は他界。それに加え俺に『縁』という母親と同じ能力を持って産まれてきてしまった。
その時父上は相当荒れたらしい。公爵であった友人に支えられその『縁』もあって、俺は王子の婚約者となった。
だが、その友人は荒れた父上をうまく利用し俺に『縁』を結ばせ私腹を肥やしていったが『悪縁』をも結んでしまい没落していった。その時の言葉が今も父上と俺に突き刺さっている。
「『縁』が結べるなどという世迷言を信じた父上も父上だ」
憎々しくそう告げるランドルフの言葉に俺はピクリと眉を動かす。それに気付いたランドルフが、逆にフンと鼻を鳴らした。
「そんなものあるわけがないだろう。すべては偶然だ」
「…………」
勝ち誇ったように俺を見下す王子と、その背に隠れながらも「ざまぁ」と告げるスズ。それに「はぁ…」とわざとらしく溜息を吐き、目の前にある光の糸を手にする。
それはランドルフが持っている『縁』の糸。それらは様々な場所に伸び、途中途切れたものは繋がるかどうかはランドルフ次第である。
「分かった。ならあんたとの『縁』を切ればいいんだな?」
「ああ、せいせいする」
はっ、と鼻で笑うランドルフに「お待ちください!」と待ったの声がかかった。んだよ、せっかく切れるんだから大人しくしてろ、と声を上げた人物に視線を移せばそこには騎士団長の息子がいた。
「なんだ。もう決めたことだ」
「なりません! ハーティリティを手放してしまったら我が国は…!」
「うるさい! お前も処分対象になりたいのか!」
激高するランドルフの怒声にギャラリーの何人かが小さく悲鳴を上げる。
だが騎士団長の息子―ハーヴィは片膝を付いたままランドルフを見上げている。
「はぁ…将来こんなのが王になるんだよ? たまったもんじゃない」
「ハーティリティ!」
「いいじゃない。『俺』と『縁』が切れるんだ。あとは王室が苦労するだ…あ、そうだ。いいこと考えた」
ハーヴィが「待ってくれ!」と俺を見るが知ったこっちゃない。俺はもう決めたんだ。俺は俺のやりたいように『縁』を結ぶ、と。
「隣の…アウロエア国と『縁』を結んであげるよ」
「おい! アウロエアは!」
「そうだね。今はまだ『縁』の繋がりが細いけど、大丈夫。俺が丈夫に、がっつり、太く繋いであげるから」
「やめろ! ハーティリティ!」
隣国アウロエア。ここ数年前から少々キナ臭くなっている国である。そこと『縁』を結べばどうなるかをハーヴィはきちんと理解しているらしい。当然だ。戦うのは騎士団なのだから。
「じゃ、結ぶね! 責任はランドルフ様にお願いしますね」
「ホープ!」
ほいっ、と糸と糸をくっつけその場所を俺でもほつれないように太く、頑丈に結ぶ。
直ぐには『縁』の結果はでない。だが例外はあるのだ。
「ランドルフ様!」
ばたばたと生徒がランドルフ王子に近付くと「なんだ!」と怒声を浴びせられる。あーあ。そんなことしたら離れていくのに。分からないからそうしてるのか。
ふふっと笑えば、ハーヴィが「お前…!」と俺を睨みつける。
「何?!」
「どうしたの?」
スズが不安そうな声を上げるとギャラリーたちに向かって「失礼」と言って兵と共に出て行く。スズを置いて。
「あんたも用意した方がいいよ? この国戦争になるから」
「ハーティリティ…!」
「だから言ったでしょ。責任はランドルフに取ってもらうって」
はんっ、と鼻で笑い一人置いていかれたスズがおろおろとしているが、ギャラリーは誰も声をかけようとはしない。彼に構えば俺の報復にも似た『悪縁』を結ばれてしまうかも知れないと言うことに恐怖しているのだ。
それにしても度胸があるのは騎士団長の息子だけか。つくづくこの国にはがっかりさせられる。
「こっちにこい」
「ちょ、なんだよ!」
ハーヴィに急に手首を掴まれぐいぐと引っ張られていく。その手を振りほどこうにも騎士学科のハーヴィと魔法学科の俺とは力の差なんて当然で。
「離せ!」
引き摺られる、というよりも強制的に歩かされているに近い。足をもつれさせていないだけマシだ。
ぎゃんぎゃんと叫ぶ俺に対して、ハーヴィは押し黙ったままずんずんとどこかへ歩いていく。長い廊下を歩き、ドアを開くとその中へ手首を掴んでいる腕を振り、俺を文字通り放り込んだ。
「いってぇ!」
ずざっと部屋へと放り込まれた俺はたたらを踏む間もなく横に倒れる。受け身はなんとか取れたから怪我は免れたけど、倒れた俺にハーヴィが圧し掛かる。
「なんだよ! どけよ!」
「断る」
身体を挟むようにして圧し掛かられているから、力一杯胸を押しても俺の力じゃどうすることもできなくて。逆に顔がどんどん近付いてきて、俺はどうにかして逃げようと考えて顔を背けた瞬間。
「んぅ?!」
がっしと顎を掴まれ強引に正面を向かされた。そしてそのままハーヴィの唇が俺の口を塞いだ。
なんだ?! 何が起きてる?!
「ちょ…ん?!」
唇が離れた瞬間、文句を言おうと口を開けたらそこの熱い肉厚の物がぬるりと侵入してきた。それに俺はパニックになるとハーヴィの服を掴む。だがその熱い物が口腔内を舐め回し、歯列をなぞるとついに逃げ回る俺の舌を絡め取りじゅうと吸い付いた。
「?!」
何が起きたのか分らず混乱を極めていると、いつの間にやら顎から指が離れ服を脱がされている。
うおーい! 何してんだー!
俺の叫びはハーヴィの口の中に消える。じゅるじゅると唾液を啜られ、舌を絡められては唇を啄ままれる。
呼吸がうまくいかず、くらくらとしはじめた頭でハーヴィを見つめればふ、とサファイアの瞳が細くなった。
「あ、ふ…ぅん」
ぬるっと上顎を舐められれば、ぞくぞくとしたものが頭の先に向けて抜けていく。
「や、ん…っ!」
自分でも驚くような甘い、媚びた甘い声にびっくりしていると、ハーヴィがにやりと笑う。これ、俺がやった笑いと同じだ。
けれど、その笑みにきゅんと胸が高鳴る。
おい、俺。どうした。
服を肌蹴させられ上半身に空気を感じる。その素肌に大きな、豆が潰れた痕のある手が腰を撫でた。
「あっ! んや…ぅ!」
すす、とその手が腰から上へと移動し胸までくると、なぜか突起を摘ままれ引っ張られる。
その初めて感じる痛みにびくんと膝を跳ねさせる。きゅうと押しつぶされながらむいーっと乳輪まで引っ張られるとがくがくと腰が上下に動く。
「やだ…ハーヴィ…乳首ひっぱちゃやぁ…っ!」
やだやだと頭を振って辞めるように訴えるが、逆に益々引っ張られその痛みに呻けば、今度は先端に指先を乗せられくるくると回される。
「あっ、あっ、それやだ…ぁ!」
「ホープの乳首、俺の指に吸い付いてくる。可愛い」
「かわいくないぃ」
はぁ、という熱い吐息が反対の胸にかかり喉を反らせると、それを口に含まれるとぢゅううぅっと吸われる。
その未知の快楽と、ピンピンと指先を小刻みに動かしながらぐりぐりと押しつぶしてくる動きに、俺の腰の動きはますますかくかくと動き出す。
「ホープ」
ハーヴィの熱を含んだ声に、俺が足を開けば「良い子だ」と乳首を甘く噛まれた。
それにびくりと身体を跳ねさせると乳首から手と口が離れて行く。じんじんとする乳首がどうなったのか恐る恐る胸を見れば、片方は赤くぽってりと腫れあがり、もう片方は唾液に濡れてつんと勃っている。
うわぁ…なんかエロくなっちゃったよ…俺の乳首…。
なんだか俺のものじゃなくなった乳首を眺めていると、するっとスラックスと下着を一気に剥ぎ取られた。それに「わー!」と言うよりも早く、すっかりと勃っている俺の物をハーヴィがじっと見つめている。
そんなガン見されると滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。
いや、乳首を弄られてあんあん言ってる間も恥ずかしかったよ?! でも気持ちよさが勝っちゃったというかなんというか。もにょもにょ。
ぷるりと勃っている俺のものからは既にぽたぽたと透明の液を胎に垂らしている。それだけでも十分恥ずかしいのに、他人に男の象徴を見られてんだ。しかもほとんど関わり合いがなかった奴に。
「そんな見んな!」
「ああ、悪い。可愛らしくてつい、な」
「な?!」
くすりと笑うハーヴィにカッと顔が熱くなる。
「可愛らしい」だと?! そりゃ人よりも小さいとは思ってたさ! 身体小さいし! でもそんなにはっきり言わなくてもいいだろ?!
「ああ、ホープの物が見られるなんて…」
「え?」
うっとりと恍惚の表情を浮かべながら舌なめずりをするハーヴィに、ぞくりと背筋に冷たい物が走った。
こいつ、今なんて言った?
「ホープの乳首を…いや、素肌に触れることすらできないと思っていたが…。夢のようだ」
「ハー…ヴィ?」
まさか、まさか。
どくんどくんと心臓が大きく脈打ち、目の前が赤くなる。
俺の足を抱えたまま、ずい、と膝立になっているハーヴィが前進したため俺の腰が浮き、まるで見せつけているような格好にされた。
「おい! ハーヴィ!」
「可愛い。すぐにでも食べてしまいたい」
その言葉に本当に食われそうな瞳で俺の物を見ているアメジストから隠すように両手を伸ばすが、ぐっとハーヴィの股間が尻たぶに押し当てられた。
「ひぅ?!」
「ここも可愛ければ悲鳴も可愛い。ホープは俺をこれ以上惚れさせてどうする気だ?」
「ほれ…?! お前何言って…っ?!」
はぁ、と熱い吐息をはきながら、ぐいぐいと膨らんだ股間を押し付けてくるハーヴィに俺はパニックだ。
こいつ、こんな奴だっけ?!
けどその膨らんだものが尻に当たる度に、腹がきゅんきゅんし始めてるのはなんでだ?
「ホープ」
「―――っ!」
するりと掴まれている腿から手が離れ、顔が俺に近付き頬を包まれた。そしてそのまま固定されるとじっとハーヴィが俺を見つめる。その瞳から逸らすことは許さないという視線に、俺はこくりと喉を鳴らす。
「君があのバカと縁が切れてくれてよかった」
「え?」
真っ直ぐ見てめていた瞳が嬉しさで細くなる。それに俺は瞳を丸くすると、ぱちりと瞬きを一つ。
え? 今、ハーヴィがランドルフのことを『あのバカ』って言った?
「バカだバカだとは思っていたけど、ここまで計画通りに動いてくれるバカでよかった」
「ちょ、え? ハーヴィ?!」
将来の主をそんな風に言っちゃっていいの?! つか計画ってなに?!
疑問だらけの俺の頬をすっと親指が撫でると、ぞくりと肌が粟立った。
「ホープがあのバカと尻軽と一緒にいる度に、切なく瞳を伏せていたあの表情。あれを見る度にあのバカをこの手で殴りたくなった」
「…………」
「けど、ルーシーの計画を遂行するためには君の涙を拭うことさえできなかった。すまない」
「ハーヴィ…」
嬉しそうに細められていた瞳が伏せられ、終いには閉じてしまった。詫びをしているだろうハーヴィに、俺はふる、と首を振った。
「計画、はなんとなくわかるけどハーヴィがそんな風に思っててくれたことが嬉しい」
「ホープ…」
ルーシーとは宰相の子息で学園一の腹黒さを持つとも言われている。現に主君である王の計画をルーシーの父親がこっそりと全て変えてしまった、などの噂があるが定かでなはい。そんな父の元、彼が計画を立てたのならランドルフさえ駒にするだろう。そしてそれは正しかった。
「俺は、ホープを愛してる」
「ハーヴィ…」
その言葉が嘘ではないことをこの数分で思い知らされた。今も膨らんでいる股間がそれを証明している。
「俺は…まだ自分の気持ちがよく分らないんだ…だから…」
そこまで言うと唇にそっと人差し指が乗せられた。そして、ふ、と瞳を細めるハーヴィの顔が近付いてくる。
今までは婚約者としてランドルフを好いていなければならなかった。政略結婚だから気持ちなどはなくてもいい。けれど、結婚するなら気持ちがあった方がいいだろう、とそう思っていたから俺はずっとランドルフを思い続けてきた。それを最悪な形で裏切られたわけだが。
「構わない。ホープが俺を好きになってくれるまで好き、と言い続けるから」
「ふはっ、結構重いのな。お前」
「当たり前だろう。14年だ。14年も片思いをしていたんだから」
14年前…それは俺とハーヴィが出会った歳でもある。
と言うことは。
「出会ってすぐ、俺のことを好きになった…のか?」
「一目ぼれだ」
照れくさそうにそう言うハーヴィに胸がきゅうんとして、どきどきしてしまう。
「ハーヴィ…」
「ホープ。お前を抱きたい」
「でも…」
別にランドルフに操を立てる訳ではないが、ついさっき婚約破棄された身である。そんな俺がすぐにそういったことをしてもいいのかと躊躇ってしまうのは前世の性か。
「気にするな。あのバカはとっくに尻軽とやることはやってる」
「…………」
開いた口が塞がらない、とはこのことか。確かにある時期から二人の仲が急接近した。その時だろう。
「後始末を俺たちに任せてくれたあのバカには俺たちも辟易してるんだ」
「信じらんない」
最低。という言葉をつい口にすると「分かる」とハーヴィが同意をする。それに二人でくすくすと笑うと、どちらからともなく唇を重ねる。
「んっ、ハーヴィ…」
「ホープ、ダメか?」
つつ、と滴り落ちる俺の液を指先で掬っては閉じているそこへと塗り付けていく。その度にひくひくと動いてるのが恥ずかしい。
「いい、よ」
「ありがとう、ホープ」
ちゅっと頬に口付けられ、俺は恥ずかしくて俯けば「それは誘ってる?」というハーヴィの言葉に顔を上げると欲の色を隠しもしない瞳と視線がかちあった。
「でももうちょっと待っててくれ。ここをほぐさないと切れるから」
そう言いながらトントン、とそこを叩く指先に益々恥ずかしくなり腕を首に絡めると胸を押し当てた。俺とは違う厚い胸板にドキリとしていると、きゅぽんと何かの蓋を抜く音がした。そしてすぐにぬちゃりという粘っこい音がしてつい、ハーヴィに抱き付いた。
「身体に悪いものじゃないから、怖がらなくていい」
「…ん」
言い終えるとちゅっとこめかみにキスをされると、先程トントンとされたそこを指先が触れ粘ついたそれをそこへと塗りたくっていく。
そこを撫でながら時折、爪先を中へと入れられる。その度に違和感に眉を寄せたが、その指の動きに合わせて身体から力抜いてそこをぱくりと開けばハーヴィの息が飲む音が聞こえた。
自分を好いてくれる奴に協力するのは当然だろう?
それが例えこういうことでも。
するとにゅちりと指先がそこに入りこみ、ずぬずぬと侵入してくる。その度にきゅうと締め付けるのは勘弁してくれ。自分でも制御できないんだ。
「ホープ…ッ!」
「んあ…っ、悪い…指、食いちぎっちゃうかも…ぉ?!」
ずるりと指が引き抜かれ、思わず声を上げればまた指を挿入される。今度は二本。
「あっ、痛っ!」
「悪い、ホープ。少し我慢してくれ」
どこか切羽詰まったようなハーヴィの声に、俺はこくこくと頷くと指先がそれに触れた。
「っあ?!」
「見つけた」
「や…やめ…っ?!」
ぺろりと唇を舐めるハーヴィが色っぽくてぞくぞくとしたものが背中を走り抜ける。
「ハー…ヴィ、こわ…怖い…ぃ!」
ハーヴィにぎゅうと抱き付くとちゅ、ちゅと目元にキスをしてくれる。まるで大丈夫、と言うように。
「ここが、ホープのイイトコロ。ね?」
「ぁふ…っ?! やらぁ!」
トントンとそれを指先で叩かれる度に、とろとろと液が流れ出してくる。ヤバイ。マジで。気持ちよすぎて腰が…動く!
「ああ、エロいな。ホープ」
「きもちいいの、やだぁ…っ!こし…うごいちゃうから…ぁ!」
かくかくと腰を動かしながらハーヴィに泣きつく俺。そんな俺を顔中にキスを降らして落ち着かせてくれるハーヴィ。言葉は攻めてくるけど。
ぐちゅん、と三本目の指が入れられると、身体がビクビクと痙攣する。
「ああぁっ?! ああああぁぁっ!」
「―――っ?!」
がくがくと膝が跳ねて、身体が絶頂したことが分かる。けれど…。
「あぁ…メスイキしたのか。本当にエロくて可愛い」
「メス…イキ?」
はぁはぁと肩で息を吐きながらハーヴィに聞き返せば「そう」と頷く。にゅぽんと指を引き抜いて身体を強制的に離されると、下を見る。俺もつられて下を見ればとろとろと白濁の液を垂らしている。
え? 射精してない?
「そ。射精せずにイったんだよ。ホープは」
「マジ…か…」
メスイキなんてネットや漫画の中の出来事だと思ってた。けど、実際できてしまうことに驚きと感心が入り混じる。
「だから」
「ちょ、ちょっと待て!」
みち、とハーヴィの先端がローションで濡れたそこへあてがわれた。だが、ちょっと待ってほしい。俺は今メスイキでイった。まだ身体はびくびくと敏感になっていてそんなものを中に入れたらどうなるのか恐怖でしかない。
「ハーヴィ!」
「ホープ。愛してる」
「―――っつ?!」
ずるい、ずるい!
そんなこと言われながら先端をめり込まされたら俺に抵抗なんかできる訳がない!
「っああああああ!」
「っく」
ずぶり、とハーヴィの先端が埋まった感覚に俺は再びガクガクと身体が痙攣する。
やばい、やばい!
きゅうと足の指を丸めてハーヴィにしがみつく。張ったところがさっき言っていた「イイトコロ」を押していてびくびくと腰が跳ねる。
キモチイイ。
それだけが脳を支配する。
キモチイイ、キモチイイ。
「ハー…ヴィ…」
「大丈夫か? ホープ」
心配そうに俺を気遣うハーヴィの耳元ではぁと熱い吐息を漏らすと、ずるりとそれがどんどんと中に入ってくる。その度に少しだけ膨らんでいるような気がする。
「ハーヴィ。もっと、中に入れて」
「………っ!」
キモチイイカラ。
耳元で囁けば、腰を掴まれ一気に根元まで挿入される。その強引な挿入に襞が歓喜し、きゅうきゅうとしゃぶりながら締め付ける。
「ホープ…っ」
「ハーヴィ、ハーヴィ!気持ちいい! ハーヴィので突いてぇ?! っああああ!」
「この…ばか!」
身体を持ち上げられずるりとそれを引き抜かれ、自重でそれを飲み込むと奥まで突かれる。
ずっとイきっぱなしだから、もう何が気持ちいのかが分からない。ずるりと腰を引かれては、穿たれる。乳首もいじめられながらパンパンと腰を打ち付けられれば、もう何も考えられなくて。
「あっ、んぅ! ハーヴィ…!奥、気持ちいい!」
「ああ、ホープの奥を突くたびにきゅうきゅう締め付けて俺を離さないね」
「ぅん、ハーヴィのおちんぽ気持ちいい! ずこずこされるの気持ちいいの!」
あんあんと喘ぎながら抽挿される快楽に頭が真っ白になる。ただ揺さぶられる感覚と、奥を抉られ暴かれていく快楽。
「ハっ、ハーヴィ…! ダメ…っ! もうらめ…ッ!」
「ホープ、俺も中に…!」
「イク…っ! ハーヴィ!」
「ホー…プ…っ!」
ハーヴィが小さく「っく!」と呻いたかと思えば、ずん、と奥まで先端がねじ込まれた。するとびゅるるる!と奥に叩きつけられる熱いそれ。
その熱く叩きつけられるそれに俺もビクンと膝を跳ねさせる。
「んぁ…あああぁぁっ!」
ハーヴィにしがみつき腰を震わせば、びゅく!と勢いよく白濁を吐き出す。びくんびくんと何度か身体を跳ねさせると、ハーヴィが数回俺を揺さぶる。
残った残滓を俺の中に吐き出し終えると、ふう、と息を吐く。けど、俺の身体には熱が渦巻いたままで。
「ハーヴィ…」
「ホープ?」
力を無くしたはずの俺の物がぴん、と勃っている。それをハーヴィに見せつけるように上下に扱くと「ごくり」と喉が動いた。
「もっと、ハーヴィのが欲しい」
「…ホープ」
ハーヴィがしたように、ぺろりと唇を舌で舐めると、ハーヴィが圧し掛かってきた。そしてそのまま腰をがんがんと突かれ二回戦へと突入した。
◇◆◇
「本当に申し訳なかった」
「あの…頭を上げてください」
俺は今、国王様に頭を下げられている。俺の側にはハーヴィがいるが、彼は膝を付き頭を垂れている。
助けを求めようにも、それができない。周りの兵、それに宰相からものすごい視線を感じるけど敵意を向けられている感じではない。
「愚息の行いを詫びようにもどう詫びればよいか…」
「本当にごめんなさい。謝って済む問題ではないとは分かっておりますが…」
あばばばばば。
王妃様も頭を上げてください。というか一介の学生に頭を下げないでください。
「あ、あの。もう済んだことなので…」
「いや! 君との婚約破棄をしたのはあの愚息なのだ! この国の礎である方の子孫をぞんざいに扱うなど…!」
「え?」
ふんぬ、と怒り狂っている国王様の言葉に、俺はきょとんとしてしまう。
え? この国の礎?
「あら? ホープは何も聞かされてはいないのかしら?」
王妃様にそう言われ、こくりと頷けば「あらあら」と口に手を当てて驚いている。ちらりと王様を見れば同様に驚いている。
え、ちょっと待って。どういうこと?
「ホープ、君の一族のことはどこまで知っているんだ?」
「一族?」
なんのこと? と首を傾げれば、王様と王妃様がお互いを見て「えっ?!」と同時に俺を見た。息ぴったりですね。
「本当に何も知らないのか?!」
「あ、え? は、はい」
王様にがっつりと腕を掴まれ、ずずいと顔が近付く。それに俺は背中を反らせたが、近い。スパン、と小気味いい音が聞こえたかと思えば王妃様が「ごめんなさいね」とおほほと笑いながら俺から王様を引き剥がす。強い。
「…ハーヴィ」
「はっ」
「そなたはホープの一族のことはよく知っておろう?」
「はい」
「え?! そうなの?!」
ばっとハーヴィを見れば、にやりと口元が笑ってる。えええー。お前ってホントそんな奴だっけ?
もっと無表情で何考えてるか分らなくて、でも脳筋じゃなくて。
でも後輩には優しいから男女共にモテる…くらいしか知らないけど。でも子供の頃から今まであんまり変わってないような気が…?いや、今のこいつが素なのか?
もしそうだとしたら今まで猫被ってたのかよ…。怖えぇ…。
「ホープ。君はどれくらい自分の家のことを知っている?」
「え? 全然知らない」
「…おばあさまやご先祖のことも?」
「そ、れは…。父上がおばあさまの事とかあんまり話さなかったから…」
視線を左右に動かし、伏せれば「なるほど」とハーヴィと王様と王妃様が納得したような顔で俺を見ていた。
「あなたのお父上はお母さま…あなたのおばあさまの事で苦労した、と聞いておりますから…」
「はい…」
王妃様の言葉に、益々瞳を伏せれば「ごめんなさい。ホープ」といって抱き締めてくれた。元々家族になる予定だったのだ。王妃様は俺のことを実の息子のように扱ってくれる。これが12年間の交流のたまものだ。
「ホープ。お前のおばあさまと私の家は血が繋がっている」
「え?」
「正確にはお前のおばあさまと私の家のおばあさまが姉妹だったのだ」
「んん?」
王妃様に肩を抱かれたままハーヴィの話しを聞いているが俺はどんどんと首を傾げていくことになる。
え? ハーヴィのおばあさまと俺のおばあさまが姉妹?!
ってことはハーヴィとは従兄弟になるの?!
「あらあら。お目めが零れちゃいそうね」
そう言ってころころと笑う王妃様に「す、すみません」と謝れば「いいのよ」と笑う。
「本当に何も知らないのだな」
「家族の…ことはほとんど聞かなかったので」
父上が家族のことを嫌っていたから、俺もきっと避けていたんだろうな。けど流石にこれは…。
「でもハーヴィが従兄弟だっていうのは分ったけどこの力は一体?」
もしかしたらハーヴィもこの力を持っているんじゃないのかと期待したが、それに気付いたハーヴィは首を横に振った。
「残念だけど、私はホープのような力は持っていない。それにその力は君のおばあさまが継いでいた」
「え? でも…」
ハーヴィはアドラウルの姓を継いでいる。
アドラウルはこの国でも格式が高い、それこそ王族に次ぐ爵位―大公を持っている。
もし、ハーヴィの言うことが本当ならば、ハーティリティの地位が低いことに関係があるのだろうか。
「ハーティリティとは君のおばあさまの結婚相手の姓だ」
なるほど。
だから俺の家の地位は低いのか。
でもなんでおばあさまはそんな人と結婚したんだろう?
「アドラウル家は同性でなければ子供ができないとされていたんだよ。ホープ」
「はい?!」
おっと。驚きすぎて俺が出ちゃった。王様も王妃様も驚いてる。
ごめんなさい、この話しが終わったら言いますから! ええ! ちゃんと!
「ちょ…ちょっと待って?! 同性でしか子供ができないってことは…?!」
「だから君のおばあさまは家を出て男性と結婚をし、子をもうけた。でも恐らくは君のお父上は同性でもうけた子だと思う」
「じゃあ、俺の母上はいないんじゃなくて、父上が母上だったってこと?」
「関係的にはそうなるな」
「じゃあ俺の本当の父上は…」
俺のこの呟きにハーヴィの瞳がすっと細くなった。
え、なに?
「君の本当のお父上は『縁』を結び過ぎて身を滅ぼした」
「あ…」
もしかして…。
父上とあの人の仲がよかったのは『友達』じゃなくて『夫夫』だったから?
「君のおばあさまはなんとか血の呪縛から逃れようとしたみたいだけど、ダメだったみたいだね」
「そう…なんだ…」
残念だ、と瞳を伏せるハーヴィは、ポーズだけではない。心の底から残念だと言っている事に、俺も瞳を伏せる。
でも父上は『力』を持っていないのはなぜなんだろう。
「たまに、極たまに能力を継がない者が出る。お父上はそうだったんだろう」
「でも、俺には受け継がれてしまった、か」
「しかも先祖返りをしてな」
「…そっか」
先祖返りした力だからこんなにはっきりと金の糸が見えるんだろうか。
知らず俯いた俺の肩をぽんぽんと優しく叩いてくれる感覚にハッとすると「すみません」と謝る。
だけど王様も王妃様もただ優しく見つめてくれるその瞳に泣きそうになってしまう。
「だからね、ホープ」
「ん?」
「僕らは同性しか好きにならないし、愛せない」
「え――?」
その言葉に思わず顔を上げれば、ハーヴィの顔も真剣で。とても嘘を言っているようには見えなくて。
「ホープ、君はあの尻軽男…スズにこう言っただろう?「なんで俺が婚約者なのか考えたことあるのか?」と」
「あ、ああ。確かに言った…ような」
あの時は興奮しててあんまり覚えてないんだよね。本当は。
「君のその同性しか愛せない血のせいだよ。勿論私にも言えることだけど」
「じゃ、じゃあなんでハーヴィがあいつの婚約者じゃないの?」
「それは私が『力』を持っていないからだ。そもそも元々家はアドラウルではなかったからね」
「どういう…?」
「君のおばあさまが男爵と結婚した時にアドラウルがの縁が切れた。そして姉妹であった私のおばあさまに受け継がれた」
「だからね、ホープ。アドラウルは元々あなたの姓なの」
なるほど?
ということはハーヴィの家は途中でアドラウル家になったってことか。
当時は相当混乱したんだろうな…。
「俺の家は結構優秀な騎士が出るからな。俺もじっとしているより騎士の方があっている」
そういって笑うハーヴィはカッコよく見えて。
「それにしても…」
ふむ、と何か考えるような国王様の声にハッとすると慌てて視線を向ける。
「ホープ。何かあったのか?」
「え?」
「そうですね。一皮剥けたというか…」
どきっ。
王妃様の「どことなく色気も増してるわね」という言葉に、心臓がばくばくと早鐘を打つ。
そうだった。婚約破棄したばっかりでハーヴィとえっちしましたとは言えない。
だらだらと冷汗をかきながらにこにこしているとハーヴィが「そうですね」と口を開く。
「恐らくは『変わった』のでしょう」
「『変わった』?」
王様と王妃様がこくりと首を傾げる。可愛いな。
じゃなくて、ハーヴィは俺が俺じゃないことに気付いてるみたいだし…。でもそんな俺でも「好き」だの「愛してる」だの言って大丈夫なのか?
そしてサファイアの瞳が俺を見つめると、王様と王妃様の瞳も俺に向いた。
「…はい。なんか言われっぱなしなのがムカついて」
「ホープ…」
「どうせダメになるんだったら最後の最後で言いたかったというか…その」
自分で言っていて前世も言われっぱなしで言い返せなかったんだ。へらへらと受け流して自分が傷つかないようにするので精いっぱいで。
でも、ホープは違った。
目の前でランドルフとスズがイチャイチャしてる所をずっと見ていても、ランドルフはホープのところに戻ってくると信じていたから耐えられていた。
けどランドルフに婚約破棄を言われたあの時、ホープの心が壊れた。
心が壊れるということは自我の死と同じだと俺は思っている。
だから、前世の記憶である俺が出てきたんだ。
最後に言い返せばよかった。
そんなことをずっと思ってたから、あの時ランドルフに言い返した。
悔しくて悔しくて心に溜まっていたうっぷんを晴らすように言葉を口にして、それでも心が壊れたホープは戻ってくることはなくて。
だからつい、そう。ついうっかりと『縁』を結んだ。
今まで私利私欲で『縁』を結んだことはない。けど、耐えて耐えて耐えたホープの仕打ちに俺が耐えられなかった。
後悔はしていない。
「言いたいことも言えずに耐えるのは…もう嫌だから」
「ホープ…」
俺の言葉に王妃様が抱き付いてきビックリする。
「本当にごめんなさい。ホープ」
「君がそこまで追いつめられているとは…気付いてやれなくて悪かった」
「あ、いや。言いたいことも言えたので俺としてはすっきりしてますし、俺自身が考えもなしに『縁』を結ぶのはしません」
だからランドルフの件については申し訳ありません。と頭を下げればぐずっと涙ぐんでいる王妃様。
そうだよね。愚息と言えど子供だもんね。本当に申し合わけないことをした。
怒りに任せて敵国と『縁』を結んだのは大失敗だったな…。
「いいのよ。それだけのことをあの子がしたんだもの」
「でも」
「よい、ホープ。あの愚息もこれで思い知っただろう」
「え?」
「明後日、あの子の処遇が決まるの。貴方も婚約者として出る気はない?」
「…できれば二度と顔は見たくありません」
そうはっきりと言えば、王様も「そうであろうな」と納得してくれた。
ごめんなさい。
でも、あの顔を見ればまた『縁』を結んじゃいそうだからさ…。
「いいのよ。私もあなたのことを考えていなかったわ」
「すみません」
「なら…ハーヴィに結果を伝えよう」
「ありがとうございます」
ぺこりと一礼をすると、王妃様がどこかほっとしたような表情で俺を見ている。
あれ?何か間違った?
「ごめんなさいね。いつも悲しそうなあなたしか見たことがなかったから」
「あ、え?」
「そうだな。会いに来ても影を落としたままだったからな。ころころと表情が変わる方がいい」
「は、はあ…」
はっはっはっ、と笑う王様に俺はきょとんとしていると「今のホープの方がいいってことだよ」とハーヴィに教えてもらう。
まぁ…何のしがらみもないからなぁ…今の俺。
最後になぜか王様に頭を撫でてもらって謁見は終了。謁見と言うより親戚に会って話をした感じだったな。
ふふっと笑えばハーヴィにどうした?と心配された。
「ううん。なんか楽しかったなぁって思っただけ」
「…そうか」
「うん」
あれ?
なんかハーヴィ顔赤い?
そんな王様と王妃様と会った一週間後、ランドルフのことをハーヴィから聞いた。
どうやら敵国アウロエアへと嫁ぐことになったらしい。
俺が見つけたあの『縁』の糸はどうやらアウロエアの王子様のだったようだ。
王様が「この子の尻で戦がなくなるのならば喜んで差し出そう」と言ったらしくランドルフは呆然と、アウロエアの王子様はご満悦だったらしい。
ついでに王位継承権もそこで破棄が言い渡され、さらに俺がいない事にランドルフが少し暴れたらしいけど王子様にきちんと『躾』をされたらしく、昨日のうちにアウロエアへと既に立った後だった。
この国は第二王子、ランドルフの弟ミッチェルが継ぐと決まった。
ハーヴィ曰く「あのバカとは大違いでできた方だ」と言っていたから、安泰だね。
それからスズのことだけど、どうやら一生監視付きになるみたい。その辺りはいろいろあるみたいで詳しくは教えてもらえなかったけど、したことがしたことだから家族で田舎へと越したらしい。
まぁ…みんながいる前であんなことになっちゃったから学園も中退。卒業まであと少しだったんだけどね。
それから俺はハーヴィに守られながら学園を堪能中。
めっちゃ楽しい。
生徒会長がいなくなったからルーシーが会長代理をしてる。ハーヴィは副会長代理をしているから俺もくっついてよく生徒会室にお邪魔をしている。
生徒会は温かく俺を迎え入れてくれたことに涙ぐんだ。だって嫌わられると思うじゃん。
お茶とお菓子を用意して書類と向き合ってるハーヴィのところに持っていけば「ありがとう」とお礼を言われた。
いや、俺手伝えないからさ。せめてお茶だけは入れさせてくれ。
ハーヴィの隣に座って黙々と作業をするのを見ている。結構楽しいんだよね。これ。
「そう言えばホープ」
「うん?」
書類から目を離さず呼ぶハーヴィに、俺は何?と首を傾げれば顔がこちらを向いた。
サファイアの瞳が俺を映し出すとドキリと心臓が跳ねる。
「式は…俺たちだけでしないか?」
「え?」
あれから俺とハーヴィは婚約をし、俺がアドラウル家へと入ることになった。
するとアドラウル家から大歓迎されてちょっと驚いた。
急に家名を継いだから嫌味を散々言われてきたらしい。でも俺が入ることが決まってからそれらがぴたりと止まった上に嫌みや嫌がらせをしてきた者達がへりくだり始めたらしい。
ううーん…一応大公なんだけどね。アドラウル家って。
それ程までに『力』で名前を保ってきたのかがよく分かる。
それからハーヴィのおばあさま、俺にとっては大叔母様と会って俺が『ホープ』でありながらホープでないことを知っていた時には思わず息を飲んだ。
けど「あの時でないと『ホープ』を助けられなかったのよ。ごめんなさいね」と言われた。
どうやら大叔母様には俺がホープの中にいたことは既に知っていた事らしい。けれどあの時でないと出てこれないことも。
だからハーヴィは随分と長くやきもきしていたらしい。
「私には姉様のように『縁』の糸に触れることはできないけれど『見る』事はできるのよ」
と笑いながら俺の頭を撫でてくれた。
そして「あなたからは懐かしい気配も感じるの」とにこにこと言われ、ちょっと泣きそうになった。
どうやらまだホープはいるらしい。けれど意思を持つことはないだろうと言われまたもやちょっと泣きそうになった。
そんな俺をハーヴィは抱きしめ慰めてくれた。
それと、礎になったのはご先祖様が壊れかけたこの国を『縁』を結ぶことで復活させたらしい。結構な歴史があるこの国の始まりは俺たちの一族が頑張ってくれたおかげ、ってことみたいだ。
「でもいいのか? 俺はホープであってハーヴィの知るホープじゃないんだぞ?」
そう。結婚をすることに反対をするつもりはない。
けど14年間思っていた中身とは違うのだ。
「構わない。お前もひっくるめて『ホープ』という人間が好きなんだ」
「ハーヴィ…」
そっと手を握られそのまま指先にキスをされる。
そしてちらりとサファイヤの瞳が俺を見るハーヴィに俺は照れながらもにこりと笑う。
「ふつつかものですがよろしくお願いします」
「死ぬまで…いや、死んでも離す気はないからな。覚悟しておけ」
雄の表情を見せるハーヴィに頬を熱くさせると、掴まれた手を引っ張られ胸へと誘い込まれた。
そしてそのまま唇を重ねようとしてハーヴィがその唇の端を持ち上げたのが見えた。
けれどそれは直ぐに闇へと消え去った。
きっとあの時ハーヴィの目には金の糸ではなく赤い糸が結ばれたことが見えていたんだね。
終
13
お気に入りに追加
40
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。
マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。
いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。
こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。
続編、ゆっくりとですが連載開始します。
「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。


台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる