悪役令息に転生したのでそのまま悪役令息でいこうと思います

マンゴー山田

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カマルリア編

悪役令息に転生したのでそのまま悪役令息でいこうと思います

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「あ! 来た来たー!」

おーい!と手を振ってその人に「こっちだよー!」と叫べば、なぜかぽかんとしている。まぁ無理もないか。
ここはソルさんの森の近くの壊れた神殿跡。そこに僕たちはピクニック…というより待ち伏せをしていた。その人がいつ来るか分かんないからねー。おやつとお弁当を持ってまったりのんびり。
お昼が過ぎて、おやつをもしゃもしゃ食べてたらその人が現れた。

「君…は」
「むふー。こっちでは初めまして! 立花です!」
「へぇ。そんな恰好してたんですか。そりゃ分かりませんよ」

その人に苦笑いを浮かべるメトル君。

「レイジス。その人が?」
「そだよー。このゲームを作った会社の社長さん。とはいっても琴橋本社の社長の息子さんだから社長令息さんだよー」
「俺たちが働いてた会社の社長だ」
「お前が?」

そういうフリードリヒは困惑の色が強い。まぁそっか。

「こちらでは初めまして。フリードリヒ殿下」
「ああ」

すっと胸に手を当てて頭を下げるけど、その仕草は酷く洗練されている。まぁ無理もないかー。

「とりあえず、おやつ食べよ!」

まだおやつが食べかけだった僕はそう言ってその人を広げた敷物に誘うのだった。



「それで? この人がレイジスの…タチバナとカワシマのカイシャ?のシャチョウということは分かったが…」
「なんでその人にしたんですか」

ちょっとだけ呆れてるメトル君に、むふりと笑えば社長も苦笑いを浮かべる。

「一番いいのがこれしかなかったんだ」
「だからって」

そう。社長は今、教会の教皇さんになってる。
たぶんこれアバターだと思うんだけどさ。今をときめく若い教皇さんなんだよ? 本当に何でそれにしちゃったの。

「まさかここまで担ぎ上げられるとは予想外だった」
「むふふ」

皆にカップを渡してお茶を飲む。ほんわほんわと揺れる湯気に僕も身体を左右に揺らせば「君は随分と可愛くなったね」と笑われた。
うん? 可愛い?

「記憶のほとんどをなくしているからかな?」
「だと思います」
「そうだな。こっちの方が愛でられる」
「むふー」

いこいこと頭を撫でられるけど、僕の身体をひょいっと持ち上げてお膝の上に乗せられる。
おおー。やっぱりフリードリヒのお膝の上が一番落ち着くー。
ごろごろと甘えるよう鎖骨にすりすりとしていると「それで?」とメトル君が僕を見る。
おっと。フリードリヒとのいちゃいちゃは後だね。残念。

「それでこのえーっと…名前どうしましょう?」
「好きに呼んでくれ」

そう言われて僕がむふりと笑えば、何かを察したのか「待て! やっぱり…!」と声を荒げる。残念でしたー!

「ヴァルヘルムさんでどうですか?」
「は?」

にっぱぱーとそれはそれはいい笑顔で名前を呼べば「レイジス…!」とヴァルヘルムさんがユニバァーーーーーース激激状態。

ほげぇ! こわわ!

ささっとフリードリヒに抱きつけば、ぎゅって返してくれて。
でもね…。目がめちゃくちゃこわわー! びくびくとしてるとフリードリヒがヴァルヘルムさんを睨む。

「お前が好きに呼べ、と言ったからレイジスはそう呼んだだけだろう?」
「くそが。立花、お前覚えとけよ?」
「こわわー!」

さっきまでの優しい態度は何だったのか、というくらいの低い低い地を這うような声色にびくぶるとしていると「タチバナじゃない」とフリードリヒが瞳を鋭くする。

「この子はレイジスだ」
「魂は違うが?」
「だとしてももう『レイジス・ユアソーン』だ。あんたがどう言おうともな」

はば…はばば! ぎゅう、と抱きしめられながらそんな嬉しいこと言われたらお顔が赤くなっちゃう!

「ちょっとレイジス様、照れてる場合じゃないですよね?」
「リリリリーシャあああぁぁぁ!」

なんでばらすかね?! 
ほぎゃっとしながらリーシャを見れば「レイジス様のことはどうでもいいんですけど」と言いながら、フリードリヒと睨み合ってるヴァルヘルムさんを見る。
お?

「あなたは本当にヴァルヘルム様、なのですか?」
「…くそ立花め」
「だって好きに…」
「分かった分かった! そうだよ。ウィンシュタイン王国の王だったヴァルヘルム・リヒ・ウィンシュタインだ」
「リヒ?」

そんなミドルネームだったんだ。
ヴァルヘルムさんの名前を聞いて、ほへーとしてるとフリードリヒが「リヒ?」と眉を寄せながら呟く。
それににやりとヴァルヘルムさんが笑うと「そうだ」と告げる。
え? なになに?

「リヒは…」
「フリードリヒのリヒだな」
「ほば?!」

え?! じゃあヴァルヘルムさんとフリードリヒって名前でつながってたの?!
とんでもない事実に驚いたのは僕だけじゃなく。当然ながらアルシュもノアもリーシャも、ソルゾ先生にハーミット先生も驚きすぎて誰一人言葉を発さない。

「けどよくここにいるって分かったな」
「あ、ヴァルヘルムさん忘れてませんか?」
「何が?」
「僕はまだグラナージさんと繋がってるんですよー」
「ああ、くそ。そうだった」

チッと舌打ちしながら頭をがしがしと掻くヴァルヘルムさん。むふふ。

「それと」
「なんだ?」
「メールや電話、写真の記録はちゃんと消しておいてくださいねー」
「…そこまでバレてんのかよ」
「もちろんですよーう! グラナージさんが綺麗に食べてくれたおかげで捕まってないだけですからね!」

ぷんこぷんことそう怒れば「グラナージには感謝だな」と笑う。
もう! 笑い事じゃないですよ!

「少しでも残ってたら危なかったんですからね!」
「分かってるさ。お前も鈴音と同じくらいうるせぇな」
「スズネ?」
「あ」

アルシュが出た名前を繰り返して首を傾げればあからさまに「しまった」という表情を浮かべるヴァルヘルムさん。
ふっふー。

「西原鈴音さんもお元気そうで何よりです」
「全く。メーカネーのおっさんのあやふやな情報で俺までだまされた!」
「メーカネーは少々おっちょこちょいなところがあるからな」
「それは否定しない」
「つまり?」

ノアのその一言で「えっとね」と口を開く。

「ロゼッタさんだと思ってたのは実は鈴音さんだったんだよ」
「では、ロゼッタ様は?」
「ロゼッタさんもいるけどあまり関係ないんだ。記憶はないみたいだし」
「そうなんですか」
「けどスズネが死んだが生きているとは? レイジスたちみたいにテンセイしているのか?」

フリードリヒの言葉に「そうだな」とヴァルヘルムさんが顎に指をかける。

「鈴音は正しく言えばこっちで死んで、あっちに戻った」
「あっちに戻った?」
「ああ。だが鈴音が戻ったのはこっちの世界で17年が経過していた」
「ほぎゃ?! それじゃ…!」
「当然こっちでも死亡扱いだな。捜索願を出して7年経つと死亡扱いになるからな」
「それでは…」
「だから鈴音に生きるために必要なものをオレが用意した」
「正しくはグラナージさんがですね」
「そうなるな」

ヴァルヘルムさんに「お茶どうぞ」ってカップを渡して、僕もフリードリヒに程よく冷まされたカップを渡される。そして一口。うーん、おいしい!
それからおやつのマドレーヌを食べさせてもらう。マドレーヌうままー。

「しかし…この世界がめちゃくちゃメモリを食う原因が食事だとは誰も思わんだろうな」
「ふへ?」
「メモリってやつは食べられるの?」
「食えんから食おうとするな。リーシャ」

メトル君とリーシャの掛け合いに、ははっと笑うヴァルヘルムさんはどことなくやっぱりフリードリヒに似てる。まぁヴァルヘルムさんの子孫だから似てるといえば似てるんだろうけど。
そんなことを思いながらぽへーっとヴァルヘルムさんを見れば「はい、クッキー」とお口にクッキーを触れさせてくれる。それを「はぎゅん!」と食べれば頭を撫でられる。むふー。

「そんなに睨むな。さすがにレイジスは取らんぞ」
「…どうでしょうか」
「クッキーぷままー」

むふむふとしながらクッキーを食べると「グラナージさんは一体何者なんですか?」とソルゾ先生が話の続きを促してくれる。さすが先生!

「グラナージは『決定』の力を持つ、と言っただろう?」
「はい」
「それがな、あっちの世界に…サイバースペースにいすぎたせいで情報を選択して『決定』する力を手に入れた」
「さいばーすぺーす?」
「電脳空間…違うな。なんていえばいいんだろう?」
「あえていうのならこことあっちを繋ぐ間の世界、か?」
「「あー」」

僕とメトル君がほぼ同時にそう言えば「ふぅん?」とみんなが首を傾げる。
そうだよねー。よくわかんないよねー。僕らもよく分かってないんだもん。

「それでそのデンノウクウカン?なるところにずっといたのか?」
「そうだね。おかげでグラナージは情報の塊だ」
「うわぁ…」

それってすんごくやばばーなものじゃん。グラナージさんこわわー。

「で、なんでその情報の塊のグラナージとレイジスが繋がってんだ?」
「ああ。それこそ電脳世界だ」
「…まさか」

そこで気付いたメトル君。さすがだねー。

「どういう?」
「こいつとグラナージはその電脳世界を共有してるんだ」
「うん?」
「つまり、レイジスのレシピなんかはその電脳世界にあふれるものを無意識に検索して頭の中に出すんだ」
「ふむ?」

なんとなく分かるような、分からないような?という表情を浮かべる皆に僕は「えとねー」と手を合わせる。

「たくさんの資料の中からこれだってものを、ピンポイントで見つけられるんだ!」
「なるほど。レイジスは賢いな」
「えへへー」

いこいこと頭を撫でられて僕ご機嫌。んふー。

「…まぁそういうことだ」

どことなく悔しそうなヴァルヘルムさんだったけど、お茶を飲んで落ち着くとちらりと僕を見た。

「それで。なぜここにいると分かった?」
「簡単ですよー。ここにアクセスする気配が何となく分かるんですから」

むっふーと胸を張ってそう言えば「グラナージと繋がった影響か」とお口を手で隠すヴァルヘルムさん。

「あくせす?」
「はい。実はここ、学園長先生が『始まりの場所』って言ってたんです」
「『始まりの場所』?」
「はい。僕が記憶のたまごを置いたのもここでしたし、マーハ君の復活もここだったでしょう?」
「ふむ。確かに」
「それでここには何か重要なものがあるんじゃないかなって思った時に、壊れた神殿があるのを思い出して」
「壊れた神殿に意味があった、ということですか?」
「はい。もしかしたらここはウィンシュタインの神殿があった場所なんじゃないかなって」
「と、なると黒いユニコーンが彫られていた理由も付くな。やっぱりレイジスは賢いね」
「えへん!」

胸を張ってどや!と鼻息を荒くすれば、フリードリヒにまた頭を撫でてもらう。やったね!

「概ね正解だな。ここは私が手放した場所だからな」
「なぜ手放されたのですか?」
「さっきレイジスが言ったがここは聖女召喚が成功神殿があった」
?」
「ああ。それまではごくごく普通の神殿だった。だがある日突然異世界の少女が現れた」
「それがスズネだった、と」
「そうだ。そしてグラナージを倒し、改めてここを調査したら『歪み』が見つかった」
「歪み?」
「テネブラエや聖獣が使う空間移動のようなものだ。それがここにあった。不安定だったからここを手放すことにしたんだ。そしてこのふもとに学園を作った」
「はへぇ」

学園が作られたのは少なくとも150年以上前ってことだったのかー。そりゃ父様も「ここにあったよ」っていうわけだ。

「だがそのせいで旧神の信者共が動物狩りをした。そのことに対しては申し訳ないと思っている」
「ソルさんはもう気にしてないと思うよ?」
「そうか?」
「うん。だって、今はマーハ君っていう家族がいるんだし」
「そうか…。そうだといいな」

どことなくほっとしているヴァルヘルムさんの頭に手を乗せて「いこいこ」と撫でてみる。

「おい」
「だって泣きそうだったから」
「泣くわけがないだろう」
「だといいですね」

ぱしっと撫でていた手を払いのけられて、ふひっと笑えばぎろりと睨まれた。こわわー。

「じゃあ鈴音がこっちに来たのはその『歪み』が原因だった?」
「だろうな。だが当時はそんなことは分からなかった」

そりゃそうだよね。グラナージさんを倒した後で歪みが見つかってるんだもん。
ってそうだ。

「祭壇に鈴音さんと思しき人の髪があるのは?」
「死ぬ前にオレと鈴音の出会った場所に置いたんだ。…もう出会えないと思ったからな」
「ソルさんがとても大切にしてました」
「あいつにも礼を言わねばならんな」
「ぜひそうしてあげてください」

にこりと笑いながらそう言えば「本当に生意気だな」とむにゅにゅーとほっぺを伸ばされる。いひゃいー。

「やめろ。レイジスの頬を伸ばしていいのは私だけだ」
「はいはい。嫉妬深いね」
「当然だろう。レイジスは私の婚約者なのだから」

婚約者。その言葉に胸がきゅーんってする。僕の意識が戻ったよってお手紙を出した翌日、父様がすっ飛んできてぎゅうぎゅうと抱き締められた。その時もにゅるんと何かが出そうに…なる前に僕の身体の右側半分が消えるという事態に陥り父様と一緒に「きゃーっ!」って叫んじゃって…。
その後、右側半分が消えた僕に泣きながら謝られてオロオロとして。けどフリードリヒに「婚約は続行するがいいか?」と言われた瞬間「もちろんですとも!」とすぐに仕事モードになった。父様ってホントすごいよね。
そんなわけで僕はフリードリヒの婚約を続行中。魔力が安定したら…け、結婚するんだ! はわわー! はじかしいね!

「そういやこの世界のレイジスってどうなったんだ?」
「あ、それ僕も気になった」

もしゃっとサンドイッチを食べながら告げるメトル君に、僕もこくこくと頷くとキッシュを食べてたヴァルヘルムさんが、指を舐めてた。おっと。布ナプキンありますよー。

「ここにいたレイジスは電脳世界に捕らわれた」
「え?」
「だが意識がバラバラになる前にグラナージが保護。その後は…あっちの世界にいるはずだ」
「ってことは僕と入れ替わった状態?」
「そうだな。お前の身体はとっくに骨になってるがな」
「でしょうね! そのままにはしておけないし!」
「トラックに轢かれて結構ぐちゃぐちゃになってたからなー」
「あらー。回収とか綺麗にしてくれた人に感謝だねー」
「何物騒な話してんだ」

というかご飯食べながらマグロっぽい話はダメね。反省反省。あ、マグロの話をしたらマグロ食べたくなった。鉄火丼食べよ。

「それで?」
「あともう一つ」
「なんだ?」
「雷が落ちて停電したことあっただろ? おっさんは事故だって言ってたけど本当なのか?」
「あれは本当に事故だ。おかげで立花の魂の一部がレイジスに入ったからな」
「ああ、だからおっさんが了承したのか。すでに魂の一部が入ってたから」
「そういうわけだ。あと立花」
「ふぁい!」
「何鉄火丼食ってんだ。俺にも食わせろ」
「あ、はい。どうぞー!」

ここだと食べ物出すのも楽だー。えいや、と思い浮かべるだけでご飯が出てくるんだもん。それを使って鉄火丼を出せば「あ、僕もー」というリーシャに出してあげる。もう面倒だからみんなもどうぞー!
そしてどんぶりを手にしたみんなが食べ始めるのをヴァルヘルムさんが半眼で見てる。おっと。忘れてたわけじゃないですよ? …ホントだよ?

「ヴァルヘルムさんもどぞー」
「…もらおう」

そしてもぐもぐと鉄火丼を食べ始めるヴァルヘルムさん。お魚うままー。
しばらく無言で鉄火丼をもぐもぐ。
おお? お醤油がちょっと違うな? これはあれだ。うさうさバッグで作ったお醤油だな?
そう。最近ではちょっとした味の違いが分かるようになってきた。舌が肥えてきた、ともいう。ということは、皆も舌が肥えまくってる、ってことで。

「ショウユの味が違うな」
「あー。こないだ作ったショウユでは?」
「ワサビも少し違うな」
「北方…ストラウム公国では今ワサビを作っていると聞きましたからそこでは?」

などという会話が繰り広げられ…。

「…お前ら全員美食家かよ」
「仕方ないじゃないですか。レイジス様のご飯をずっと食べてるとこうなっちゃうんですから」

そうリーシャが言うけど、お弁当付いてるよ?

「でもゴボウとやらの根を食べると聞いたときはどうしようかと…」
「ああ。そこまでお腹が空いているのかと…」
「いやいや。キンピラごぼうおいしかったでしょ?」
「それはもう」

いつもの学園近くの森。そこでついに現れたのが食物繊維たっぷりな根菜である。
ゴボウにレンコン。さらに里芋やコンニャクイモの登場である。
コンニャクイモは浄化魔法を使えば問題児ではなくなるうえに、コンニャクはダイエットフードとしていま世界を席巻している食べ物。主に令嬢やご婦人に大人気だそうで。
ちなみにこのコンニャクイモ。意外なことに土属性のハガルマルティアではなく、風属性のロドリフェルスが産地になっている。
これも学園長先生の設定のせいらしい。適当に付けてないよね?
でもグラナージさんがOK出してるんだからいい…のかなぁ?
そんなこともあって、あの森は一大産地になってる。いろんなの生えすぎでしょ。って思ったけどここがポータルなら仕方ないのかもしれない。

「うまかった」
「お粗末様です」
「じゃなくてだな」
「うん?」

ご馳走様、と手を合わせてお茶を飲んでるヴァルヘルムさんに頭をさげる。
えと?
ヴァルヘルムさんの言葉に首を傾げると「ああ!」と思い当たることが一つ。

「おやつ出し忘れてました!」
「レイジスは偉いね」
「むふふー」

お茶菓子、お茶菓子と和菓子を選んでいると「そうじゃねぇよ!」と強い言葉に遮られた。
え? お茶菓子そんなに欲しかったですか?

「も、もう少し待ってて…!」
「茶菓子の話じゃねぇ!」
「違うの?!」

ええ!と驚けば「レイジス様、お茶菓子ー」とリーシャが要求する。
ああ、ちょっと待ってねー。
ぽぽん、とその手に可愛いうさぎの形をしたお饅頭を出すと「はい、どーぞ」とリーシャとソルゾ先生に渡す。それからあんまり甘くないお茶菓子も出してフリードリヒとアルシュ、ノア、ハーミット先生に渡してからヴァルヘルムさんにも渡す。

「お茶菓子どぞー」
「…はぁ」

疲れたとため息を吐くヴァルヘルムさん。

「それで結局ここってなんなんですか?」

あんぐ、と大きなお口でうさぎさんを半分食べるリーシャが問う。その言葉に「んむ」と僕もうさぎさんに齧りついて、もぐもぐと食べた後に話す。

「ここは所謂ポータルだよ」
「ぽーたる」
「そ。あっちとこっちを繋ぐ…うーん、入口かな?」
「そうなのか?」
「はい! でもあっちから見ればこっちは出口ですけどねー」

にゃはーと笑えば「そういや」とメトル君がうさぎリンゴを一口で食べてる。
ああー! 可愛いのにー!

「電脳世界…いわゆるネットの海と繋がってるってことは、こいつは電波を受信してるってことか?」
「分かりやすく言えばそうなる。それにその電波を繋ぐ中継地点でもあるからな」
「なんだ。お前ルーターかよ」
「みたいだねー」

むっふふと笑えば「タブレットとかあったらつながりそうだな」と笑うメトル君。
あー。確かにー。無線だからねー。

「たぶれっと?」
「電波を受信できる機械だ。どうせならメーカネーにでも作ってもらえ。お前ら限定で」
「ふむ。面白そうだな」
「けど情報はこっちの物しか使えなくしろよ? 向こうの世界の情報なんか意味がないからな」
「じゃあ資料とか入れとけば便利になるねー」
「まずは全部手打ちだけどな…キツそ」

うへぇと嫌な顔をするメトル君ににぱにぱと笑えば「それは頑張れ」とヴァルヘルムさんに言われる。ついにこの世界にもPCが導入かー。おもしろそー。

「それとレイジス」
「うん?」
「記憶のたまごを全部使いきって今の記憶なんだな?」
「多分そうだよ? 吸われた記憶も入れて」
「そうか」

吸われた記憶。
それがあの頭痛の本当の意味だった。
学園長先生が少しずつ『立花 巧』の記憶を僕から吸い取ってたまごに保存してたみたい。なんでも少しでもとして生きてもらいたかったって言ってた。そのことに関して謝られたけど、僕としては謝られることじゃなくて。
それに。

「最後に頭痛があったことの報告をしなったことを言ったら「どうりで」と笑ってましたもん」
「怒られなかった?」
「むしろそれが良かったみたいで、その…悩んじゃった時に父様がこっそりと僕に記憶を戻してくれて…。その時、報告しなかったせいで中途半端に残ってた記憶と繋がって心に余裕ができたみたいです」
「まぁ、何はともあれお前はもう悪役としての罰は受けたわけだ」
「そうだねー。でもヴァルヘルムさんも受けたんでしょ? 罰」

にっこりと笑いながらそう言えば「そうだな」と笑う。

「どういうことだ?」
「鈴音が戻ってきた、と言っただろう? その時に性別が逆転したんだ」
「ん? ってことはもしかして…?」
「鈴音は今、男になっている」
「おばさんじゃなかったのか…!」
「そうだぞ。元々うちの服装は裸以外なら何でもよかっただろ」
「そうだそうだ。おかげで毎日コスプレまがいの服で仕事してたわ」
「さすがに電車通勤のやつには会社で着替えるように言ったけどな」
「おっさんが魔法少女の姿で出勤してきたときはさすがにドン引きしたもんな」
「おかげで職質を受けるはめになったからな。さすがにあれはダメだ」

うんうんとヴァルヘルムさんとメトル君が腕を組んで頷き合ってる。そう考えると自由ってもんじゃないね。うちの会社。

「でも来客があった時に葉っぱ一枚のやつが対応して修羅場ったよな」
「あのときは本気で会社がつぶれるかと思った」
「むはっ!」

二人の会話に思わず吹き出せば「今は笑い話だけどな」とヴァルヘルムさんが肩を竦めた。

「おかげで引き抜きも楽になったからな」
「あー…結構あくどいことしまくってたからなー」
「そうでもないぞ? 全員正社員にして能力に見合った臨時ボーナス、それに有給は全員取らせて推し活休暇を与えてるだけだ」
「贅沢…!」

なんという超ホワイト企業…!
っていうかそんな会社に勤めてて交通事故で命を散らすなんて…! 
バカ…!僕のバカ…!

「けど引き抜きがあったからこのゲームができたんだ。感謝しろ」
「うわ! 急に上から目線になった!」
「腐っても社長令息だぞ?」

ふん、と鼻を鳴らすヴァルヘルムさんをもぐもぐとおやつを食べながら見てる。
鈴音さんは今男性として向こうで生きてる。それだけでも嬉しいんだけど。

「でもさ、早く男性でも子供ができるといいですねー」
「まぁ一応研究はされてるらしいからな」
「一度実際に妊娠できるか実験したんだっけか?」
「失敗だったらしいけどな」
「でもそうなるといいですよね」
「そうだな」

うふふーと笑えば、フリードリヒが頭を撫でてくれる。

「お前はもう話したのか?」
「うん。ユアソーン家の秘密だったけど、父様がお話してもいいよって」
「父上も驚かれたが混乱はしなかったな」
「そうそう。すんなり受け入れてくれたよね」

ねー、とフリードリヒと一緒に笑えば「あの時も途中で足が消えて大変でしたね…」と遠い目でソルゾ先生が告げる。
あの時は本当にご迷惑をおかけしまして…。
僕がすけすけになる身体のことと、何があったかを報告しに陛下に会いに行った時にやはりというかなんというか…。
急に足が透けてすってんころりんする前に側にいたアルシュに助けられて怪我はなかったんだけどね。信じられないものを見るような視線を感じて、びくぶる。
こわわーってしてたら、リーシャのお父さんとエストラさん。それにソルゾ先生とリーシャに助けてもらったおかげで、一時的で済んだけど。
そんなこともあって、すけすけな身体のことはみんな知ってる。

「子孫が寛容で嬉しいね」

ふはっと笑うヴァルヘルムさん。あ。そうだ。

「何やら時間の流れが戻ったって聞いたけど」
「ん? ああ。転生者が現れるまでスキップしてたからな」
「まさかのスキップ機能…!」

あんまり聞きたくなかったこの世界の時間の流れ…!

「選ばない選択肢が出るまでスキップする感じだな」
「やー!」

はははと笑うヴァルヘルムさんにぴえええええ!とフリードリヒに抱きつけば「大丈夫だからね」と背中を擦ってもらう。

「そこまで言われれば我々が『げーむ』の住人だと認めざるを得ないな」
「まぁそういうな。ここがゲームの世界だと知ってるのはお前らだけだから」
「…そうだな」

ふっとフリードリヒが笑えば、ぽんとヴァルヘルムさんの手が頭の上に。そして。

「よく頑張った」

わしわしと頭を撫でるヴァルヘルムさんと泣きそうだけど、唇を噛んで耐えるフリードリヒ。
寮に帰ったらいっぱい泣こうね。
ぎゅうと抱きついて背中をとんとんと叩けば小さな声が漏れた。
今にも泣きださんとするフリードリヒの顔にちゅ、ちゅとキスをすれば、パンジー色が大きく見開く。
えへー。びっくりした?

「できた嫁だ」
「むふん! ってややややー!」
「おい!」

胸を張った後、ついでと言わんばかりに僕の頭を撫でられる。おわわわわ!

「ヴァルヘルム様!」
「ようやっと名前を呼んだな。フリードリヒ」
「そ、れは…」
「いいよ。気にすんな」
「まぁご先祖様とお話なんて普通はないからねー」

乱暴に撫でられすぎてふわふわする頭をなんとか元に戻せば「ジッ」とノイズが走る。
おや? 誰かがアクセスしたぞー?

「いつまで遊んでるの」
「悪い」
「あなたは?」
「鈴音さんだー!」

ノイズが走ったあとに現れたのは教会の関係者…っぽい人。たぶんモブさん、かな? けど、この人はモブさんじゃない。
わー!と両手を広げれば「あら?」と僕に気付いた鈴音さんが「あらあらあら!」とヴァルヘルムさんを押しのけて僕に近付いてくる鈴音さん。おわ!
そして手を握られると「可愛くなっちゃったわね! 立花君!」と言いながら、ぶんぶんと腕を上下に振る。

「ずっと見てたけど、お疲れ様」
「あ、いえ?」
「えっちなシーンもむふふと見せてもらったわ」
「ほげげー!」

しゅびっと後ろ髪を伸ばして顔を真っ赤にすれば「鈴音」とヴァルヘルムさんが叱る。

「何も覗きで見てたわけじゃないのよ? これからあなたが主役のゲームができるからその予習よ!」
「僕が主役?」
「ああ。君に幸あれの続編…というかスピンオフみたいなものだな。レイジスの人気が高すぎてな」
「ほわぁ!」
「レイジスの人気?」
「ええ! ネットでもあんな絵やこんな絵がいっぱい描かれてるし、何よりレイジスをもがっ」
「そこまでだ」
「ああ。なんとなく分かった」

興奮する鈴音さんのお口を手でふさぐヴァルヘルムさん。けど僕は続きが出る、という言葉にはわはわとしていた。
だって。

「僕とフリードリヒがいちゃいちゃしてるところを皆に見られちゃうの?!」
「見せればいいだろう?」
「ふぎゅ?!」

男らしい言葉に僕は驚く。え? 恥ずかしいよ?!

「私とレイジスがどれほど好き合ってるか見せつければいいだろう」
「は…はわわ!」
「男らしい回答と、いちゃいちゃ…ありがとう。これで頑張れるわ…!」

きらきらとした笑顔でフリードリヒを見る鈴音さんだけど、若干フリードリヒは引いてるような…?

「もういいだろう鈴音」
「あら?嫉妬? 大丈夫よ。私はあなた一筋だから」
「分かった分かった。用があってここまで来たんだろ?」
「あ! そうそう! 会議の時間が過ぎてるから呼びに来たのよ」
「もうそんな時間か」
「ええ」

鈴音さんの言葉に、あからさまに面倒な返事をするヴァルヘルムさん。
会議かー。大変だねー。

「そういうわけだ。悪いな」
「ううん! 楽しかった!」
「ならよかった」
「河島君もお疲れ様ね」
「いえ…」

ヴァルヘルムさんが立ち上がって「面倒だけどな」と言いながらあくびをする。
あー…。お腹いっぱいだからねー…。

「それじゃ、また来るわね!」
「あい!」
「うふふ。可愛いー」
「行くんだろ?」
「ええ。じゃあ、またね」

ぐいぐいと鈴音さんの背中を押して見えないそこへと押し込んでいく。すると鈴音さんの姿が消える。おほー…。

「じゃ、オレも戻るわ」
「あい! ヴァルヘルムさんもまた!」
「ああ。またな」

じゃ、と言ってそこへと入れば、ヴァルヘルムさんも消えていく。ほわぁ…。なんか疲れた。

「いやー…強烈な方たちでしたね…」
「本当に」

鈴音さんとヴァルヘルムさんが消えた後、残された僕らは再びお茶を開始。

「しかし聖女様が男性になっていたとは驚きでしたね」
「ああ」
「それよりも向こうにも悪役令息がいたことに驚きだよ」
「あはは」

はぁ、と肩を竦めるメトル君に笑えばそこでふと僕はあることに気付いた。

「ああ、そっか。なるほど」
「あん? どうした?」
「うん? 鈴音さんってさ」
「ああ」
「鈴って漢字『りん』とも読めるじゃん?」
「そうだな?」
「それに音はそのまま『ね』って呼んで組み合わせると?」
「『りんね』」

フリードリヒがそういえば、メトル君が「マジかー!」と目元に手を当てている。だから鈴音さんはりんね…輪廻したんじゃないかな?
だから転生したことも分かるんだ。

「はぁー…」
「お疲れ様」
「ああ」

なんだか力尽きちゃったメトル君にうふふと笑うと「そろそろ戻るか」とハーミット先生が言う。おっと。もうそんな時間?

「これから騎士科は駆け足で山を下りるからな」
「そうだった」
「魔法科は背中に乗るんだよね?」
「楽ちん!」

むふむふと笑いながらお片づけをして、うさうさバッグの中へとしまう。
そしてソルゾ先生、リーシャ、僕がそれぞれハーミット先生、アルシュ、フリードリヒの背中に乗れば準備オッケー!

「ならいくぞー!」

ハーミット先生の声に僕は振り向いてそこを見る。
そして。

「またね!」

そう言って手を振った。


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