悪役令息に転生したのでそのまま悪役令息でいこうと思います

マンゴー山田

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カマルリア編

手紙と決意

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※前半レイジス視点、後半フリードリヒ視点になります。




「聖獣さんと契約した人が次の王様になるんですよね?」
「うん? そうだね」

だんだんと肌寒くなってきて、あったかいものが恋しくなってきた季節。
今日は急に食べたくなったチーズ蒸しパンを作ってる。キッチンには侍女さんたちと僕、そしてルシミアルさん。ルシミアルさんも『殿下』付けはやめてくれと言われているから、ギリクさんと同じくさん付け。
それを聞いてガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子も「是非さん付けで呼んでくれ!」って言われたんだけど、初め会った時すでに『王族』だって認識してるから無理です。って答えたらしょんもりしてた。今はギリクさんが慰めている…というかおちょくっているというか…。
その間におやつ作り。きっとアルフレッド殿下もヴァルジスク君も来るだろうし、騎士さんも来るから多めに作っておく。ヘンリクさんのおやつにもどうぞ、って持っていってもらおう。
蒸しパンをむしむしてる時間に、一か月ほど感じていた違和感を口にしていた。ジョセフィーヌも侍女さんもいるけど信用してるからこういうお話もぽろっとでちゃう。

「でもここの人たちってアルフレッド殿下よりも、ヴァルジスク君の方を大切にしてますよね?」
「ここの人間は自分たちが一番偉いって優越感をなくしたくないんだろう」
「なにそれ」

つい強い口調で言っちゃったけど、ルシミアルさんも「ホントだよ」と肩を竦めている。

「ここが一番上なのはぼくらが認めてるだけだからだって忘れてるんだよ」
「? どういう?」
「レイジスは知らなかったか。実はそうなんだよ。ぼくたち四国の王が認めてるからそうだってだけなのに」
「そうなんですか…」

ぷらぷらと足を動かしながらルシミアルさんと並んで座ってる僕は、徹底的に情報が隠されていたんだなーってぼんやりと思う。

「アルフレッド殿下のその…お母さんは…?」
「アルフレッド殿下の母上は側妃なんだが、アルフレッド殿下を産んでから心の治療をしていると聞いている」
「心が…」

そっと胸に手を当てて僕も壊れかけた心に「壊れなくてありがとう」って伝える。すると、その手のひらの上に温かいものが重ねられた。

「レイジスに何があってもぼくらが守るから」
「ルシミアルさん…」

真っすぐ見つめてくるゴールド・スパークに、きゅっと唇を噛むと「ありがとうございます」とお礼を告げる。
うまく笑えたかはわからない。けど、ルシミアルさんが悲しそうに眉を下げたから、うまく笑えなかったみたい。
フリードリヒたちとこれほど長く離れたことがなかったけど、父様や先生たち、それに王族四人と聖獣さんたちと一緒にいるから寂しくはない。寂しくはないけど、やっぱり心のどこかが寂しいって泣くんだ。
知らず俯いてしまったらしい僕の頭をルシミアルさんがそっと撫でてくれた。

「さぁさぁ!レイジス様! しょげてないでチーズ蒸しパンができましたから笑ってくださいね!」
「蒸しパン!」

ふんわりと蒸しあがった甘い香りの中に広がるチーズの匂い。ほわわー。
それにしゅばっと顔を上げてじゅるりと涎を垂らせば「レイジス、よだれ出てるよ」と笑われる。それに「あわわ」と焦りながら袖で拭こうとしたら、ジョセフィーヌに涎を拭かれた。んぶぅ。

「レイジス様、ツスルトル殿下も。これをどうぞ」
「わわ! いいの?!」

はいどうぞ、と渡されたのは蒸したてのチーズ蒸しパン。にこりと笑う侍女さんに「ありがとう!」とお礼を言ってから、ヴァルジスク君に借りたクリスタルでルシミアルさんの手も一緒に浄化する。

「いいのか?」
「これは『味見』というものです」
「つまみぐいうままー」

侍女さんに『味見』と言われ困惑しているルシミアルさんだけど、むふーとしながらもぐもぐする僕を見てくすりと笑う。

「では、いただこうか」
「うままー!」

侍女さんからもらったチーズ蒸しパンをぺろりと食べると、ルシミアルさんの瞳が丸くなってる。あ、僕は気になさらず。
侍女さんにミルクの入ったコップをもらってごくごく。ぷっはー!とミルクを一気飲みすると「レイジスは豪快だね」と笑うルシミアルさん。よかった。
どこの国もきっと面倒なことになってるんだろうな、なんてぼんやりと思いながらチーズ蒸しパンをおやつとしてお皿にもりもりすると、ルシミアルさんが食べ終わるのを待って侍女さんと一緒に何食わぬ顔でキッチンを後にした。



「レイジス。父様、二週間くらいウィンシュタインに戻ろうと思うんだ」
「ふぎゅ?!」

おやつのチーズ蒸しパンをみんなでもぐもぐして、お茶を飲んでまったり中。突然父様がそんなことを言い出して僕ビックリ。
僕の追加のおやつ、蒸しパンをのどに詰まらせてどんどんと胸を叩けば、ガラムヘルツ殿下があわててミルクの入ったコップを渡してくれた。それを受け取って一気飲みすると「んえ?!」と声を上げてしまった。

「どどどど?!」
「うん。陛下には一か月って言ってあったんだけど、なんやかんやで大幅に過ぎてるからね。そろそろ怒られるんじゃないかと思って」
「んえええええぇ?!」

てへ、と笑う父様に、あばばと驚けば王族四人は「そうか。大変だな」という空気を出している。うん? 王族四人はお仕事大丈夫なのかな?

「それでね。レシピがあればお土産にしたいんだけど…」
「あ! あります、あります! レシピあります!」

今日のおやつのチーズ蒸しパンやらそぼろ丼、回鍋肉なんかのレシピがあるんだー。
いやー…。回鍋肉の時は匂いがものすごいことになっちゃって…。何事かと騎士さん達が駆け付けたり、ヴァルジスク君には当然のように怒られたり、このレシピが欲しいと四人に迫られたりした。
でも、アルフレッド殿下には好評だったから、ヴァルジスク君の怒りもすぐに収束したけど。なんか最近、毒見役の騎士さん達もそわそわしてるんだよ。食べたいのならちゃんとレシピも渡してあるから、食堂で作ってもらってね!って言っても厨房の人は作らないみたいだけど。ううーん…残念。

「それじゃあ、レシピを書いてもらってもいいかな? 出発は明日の朝だからね」
「はぁーい!」

回鍋肉のレシピはあるからーと何を書いてなかったか思い出していると、ノックの後にすぐドアが開く。毎回思うんだけど、ノックの意味あるのかな?
まぁ慣れちゃったからいいんだけど。

「レイジスお姉ちゃん!」
「いらっしゃい! 今日のおやつはチーズ蒸しパンだよー!」
「やったー!」

わーいと喜ぶアルフレッド殿下を見て、僕もにこにこ。てててと定位置になりつつあるソファに座れば、侍女さんがすぐに蒸しパンとセットにしたお皿を置く。ヴァルジスク君のは三人分。騎士さん達の分も、ね。
なんかもう一緒に食べません?ってそわそわするんだけど、そうすると「彼らの仕事をとってはいけません」ってソルゾ先生に怒られる。前、アルシュのお父さんにも同じように怒られたなぁ…。父様と一緒に。
そんなことを思い出してむふむふとしていると「レイジスお姉ちゃん?」とアルフレッド殿下がお口にチーズ蒸しパンをつけながら首を傾げる。おっほー!可愛いー! お口についてるの取ってもいいかな?! ダメかな?!
はうはうと一人興奮していると「アル」と言ってヴァルジスク君がひょいっと取ってしまった。ああー…。
しょんぼりとしていると「レイジスも付いてる」とシュルスタイン皇子がトントンと自分の口元を叩いている。あばば! 恥ずかしい!
こうして食事を一緒にしてると、やっぱりフリードリヒたちとは違うんだなって思う。アルシュもノアもリーシャも、もちろんフリードリヒもお口をすぐに拭いてくれるから。
今は父様がお口を拭いてくれるんだけどね! お口を拭くたびににこにこするから、僕もにこにこ。
おやつを食べて、一度アルフレッド殿下がお勉強のためにお部屋を出ていく。ちなみに僕らはその間やることがないから、トランプとかで遊んでるんだけどたまにお外に出てお散歩してる。王族四人に護衛が付いてなくてめちゃくちゃ焦ったけど、聖獣さんたちが守ってくれるらしいから必要ないんだって。すごいよねー。
今日はレシピを書くから遊べないことを伝えれば「まぁ、しょうがないね」とガラムヘルツ殿下が笑っていた。寝室に用意された机に座って、レシピを書いていると「レイジスちょっといいかい?」と言って父様がお部屋に来た。なんですかー?

「実はね、レシピだけじゃなくてお手紙も書いたらどうかなって言いに来たんだ」
「お手紙…」
「そう。フリードリヒ殿下達にお手紙、書いてみない?」

そう言う父様から視線をそらし「そう…ですね」と躊躇う。だって、ぬいぐるみたちに託したお手紙は悲しい事しか書いてないから。そんな僕がお手紙を書いてもいいんだろうか。

「レイジス。何も便箋いっぱいにお手紙を書かなくてもいいんだよ。今の気持ちを書いてみたら?」
「今の…気持ち…」
「そう。楽しいことをたくさん書いてもいい」
「楽しいこと」
「それにフリードリヒ殿下には聖獣さんたちのお話を書いても大丈夫だろうし」

だから、書いてみない?って頭を撫でられて、沈んでた僕を引き上げてくれる。
何を書いたらいいのか分からない。けど、書いてみたい。

「書いて…みます」
「よかった。便箋はある?」
「ない、です」
「そっか。じゃあ父様が用意した便箋でいいかな?」
「はい! 大丈夫です!」
「じゃあ、はい。これ」

そう言って手渡された便箋には可愛いうさぎさんの絵。それに父様を見れば「気に入ってくれた?」と聞かれ、こくこくと頷く。可愛いうさぎさんの便箋を抱きしめると「ありがとうございます! 父様!」とお礼を言えば「どういたしまして」と頭を撫でられた。

「父様は準備がまだあるから戻るね」
「はい!」
「お手紙が書けたらジョセフィーヌに渡しておいてね」
「はーい!」

それじゃあ、と言ってドアを閉める父様にばいばいをしてもらった便箋を見つめる。そして、ふん、と気合を入れるとハーミット先生が呼びに来るまでお手紙を書いていた。
そして朝になったらすでに父様は出発していていなかった。けど、先生たちがいるから寂しくない。それにワイバーンとわんちゃんのぬいぐるみもある。大丈夫、と自分に言い聞かせながらベッドから起き上がった。


■■■


「なんだ。まだふてくされているのか?」
「ふてくされてなどいない」

レイジスがカマルリアへと渡ってから二週間。その間レイジス付きの侍女は一時的に私付になり、主に食事の世話をしてくれる。それでも余る場合は食堂の方へと派遣しているのが現状だ。
レイジスがたくさんご飯を食べていたから侍女も徐々に増えていった。それが今では仕事にあぶれている。戻せばいいだろうとは思うのだが、レイジスがお腹を空かせて戻ってきてもいいようにそのままにしてもらっている。
それに、侍女たちも『普通の量』が分からなくなり、レイジスと私たちが食べる分をいつも作ってしまう。余った分は侍従へと流れるのだが、やはり食べきれないことが続いた。

「殿下、お食事は?」
「うん? 食べたぞ?」
「食べたって…またサラダだけですか?」
「…食べたことには変わりないだろう?」
「………………」

レイジスがいなくなってから食欲が落ちた。
何を食べても美味しくない上に、砂を噛んでいるような触感に嫌気がさし、今はもっぱらサラダしか食べていない。肉も匂いが苦手になり、生魚も食べられなくなった。
それに。

「アルシュ。お前も以前ほど食べなくなっただろう?」
「…少し絞ろうかと思いまして」
「物は言いようだな」

くっくっと笑えば「仕方ないじゃないですか」と肩を竦める。

「食事が以前よりもおいしくなくなったんですから」
「そうだな」

それは私やアルシュだけではない。ノアもリーシャもメトルも食事の量が一気に減った。特にリーシャは大好きな菓子類をほとんど食べなくなったのだ。
レイジスがいれば、もっと食べたのに。

「片割れがいなくなってショックなのは我にも経験があるから何とも言えんが…」

しょぼくれた私を見てソルがため息を吐く。
ソルもまたマーハを失っている経験がある。しかもそれはとてつもなく長い年月を。
だからこそ、私の気持ちが分かるがと言ってこうして人の姿でレイジスの部屋にいる。

「ソルー! おやつ美味しい!」
「そうか。よかったな」
「うん!」

マーハと一緒に。
ソルがふらりとここに現れたのはレイジスがいなくなった翌日。「ゴハンを食べに来た」とあっけらかんと言っていたが、その目が少し泳いでいたから嘘だということはすぐにわかった。けれども、それに気付かないふりをした。
それに今ではマーハがレイジスよりも量は少ないがもぐもぐと食材を消費していることに感謝をしている。

「うさぎがいなくなって二週間。そんな身体で持つのか?」
「…大丈夫だろ」
「はぁ…。もしもうさぎに何かがあって駆け付ける、となってもその体力で持つのか?」
「前より魔力の流れも停滞してる」

むっむっとおやつのさつまいものパイを食べならマーハが告げる。

「そうか」

レイジスに何かがあったら、と言われ衝動的に立ち上がろうとするのを思いとどめる。そんなことがあるわけがない。フォルスもソルゾもハーミットもいるのだ。それで何かが起こるわけが…。

「うさぎはうさぎができることを二週間、それこそ魔力が切れるまで頑張っておるのにお前ときたら…」
「…待て」
「うん?」

言葉に反応した私をにやにやとしながら見つめてくるソルに少しのいら立ちを感じたが、それよりも今、なんと?

「魔力が切れるまで? レイジスはカマルリアで何をしてるのか知っているのか?!」

私の言葉に、にやにやとしているソルが「もちろんだ」と笑う。

「カマルリアには今、四王族の継承者たちがいるからな」
「な…っ?!」

四王族が?!
そんな私の言葉に「どうだ? 気になるだろう?」というソルの含みのある言い方にいら立ちが募る。

「ゴハンを食べないからイライラしやすくなっておるのだ。この話の続きが聞きたければ無理をしてでもゴハンを食べろ」
「……………」

にやにやしていた表情を隠し、真剣なまなざしで私にそう告げるソルにぐっと言葉に詰まると、アルシュも同じように言葉に詰まっている。

「しょうがない。少しだけだぞ? うさぎは今カマルリアの童、ああ…アルフレッドとか言ったか、その者の魔力の中和をしておる」
「アルフレッド…? 聞いたことはない名だが?」
「あの童は秘匿された者だからな。それに」
「それに?」

言葉の続きを早くしろ、と指でテーブルを叩けばにやりと笑う。

「続きはゴハンを食べた後だな」
「くそっ!」
「ははっ! ほらほら、早くしないとマーハが全部食べるぞ?」
「パイもいいけどチキンの照り焼きもおいしーい!」
「待て…! 食べる!食べるから!」
「お前たちもだぞ?」
「…分かってますよ」

アルシュたちを見つめにやりと笑うソルにそれぞれの感情を抱きながら、侍女にチキンの照り焼きとみそ汁を頼めばすぐに用意された。



「まぁ、そういうわけで童の魔力を中和しておる」
「…なるほど。私ではいけなかったのか?」
「フリードリヒがいなくなるとバランスが崩れちゃうからダメだねー」

こくこくとオレンジジュースを飲みながらマーハがソルの代わりに答える。
ふむ。だからあのタイミングで父上もフォルスもあの話をしたのか…。

あれから必死になって食事をとった。あんなに必死になって食事をするのは初めてかもしれない。
食事をなんとか平らげ、空の皿を下げに来た侍女の表情が明るくなったくらいにはレイジスがいなくなってから食べていなかったようだ。
そして、食後のお茶を飲みながら話を聞いている。

「それよりもレイジス様に何かがあったら、というのは?」
「そうだな。あるかもしれないし、ないかもしれないという意味だな」
「ソル」

はははっと笑うソルに若干殺意を覚えたが、マーハの目が吊り上がったことに殺気が漏れていたことに気付く。
ぶうぶうと鼻に皺を寄せて鳴らすマーハの頭をソルが撫でて落ち着かせてから、私を見つめる。

「こればかりはどうなるか我にもわからぬ。だから常に万全を維持してもらいたい」
「…何かが起こるのが前提なんだな?」
「ああ。こんなチャンスはもう二度とはない。なら、が動くのは分かっているからな」
「奴ら?」
「そなたらは知らないだろうな」

そう言うと瞼を伏せるソル。そんなソルの腕にさっきまで怒っていたマーハが抱きつき「大丈夫だよ」と言っているから、マーハに関係するのだろう。
すると瞼を持ち上げたソルが口を開いた。

「奴らはマーハを始めとした動物を殺しただ」
「な…っ!」

その瞳からは怒りが滲んでいる。当然だろう。マーハを殺した者たちが分かっているのだから。

「我はここからは離れられん。連中が動物を殺した後、行方が分からんのだ」
「その連中が今度はレイジスを殺しかねない、と?」
「そうだな。その為に四王族と聖獣がいるのだ」
「え? ちょっと待ってよ! それってレイジス様は知ってるの?」

リーシャのその声に、ソルが首を横に振る。

「なぜ知らせなかった!」
「…そんなことを言ったら今度こそ心が壊れると思ったからな。ただでさえ心が疲れているのにさらに負担を増やしてどうする」
「だが…!」
「案ずるな。王とフォルスには話してある」

だからソルゾとハーミットを付けた、とソルが言う。あの二人ならそこまで警戒はされないだろうと、とも。所詮は平民の集まりの長だと思われているからなと笑う。

「レイジスのおかげで強化されていることなど露にも思わんだろうしな」

そう言ってにやりと笑う。
そして。

「何かがあれば我にすぐ知らせが来るようになっておる。それに」
「ボクもレイジスと繋がってるから、何かがあれば分かるよ!」
「それにフリードリヒとうさぎが繋がったおかげで、我らとも繋がりができている」

レイジスとの繋がりの部分で三人の視線が向けられたが、事実なのでだからどうしたと堂々とする。

「そなたたち、我の石をちゃんと持っておるな?」
「レイジスが不思議そうにしていたものか」
「ああ。それは我の魔力が込められている。それを持ってる限り、うさぎとも繋がっていられる」
「と、言うことは先生たちも?」
「当然」

一体なんだろう?とずっと不思議がっていたソルの星座から手にした石。まさかそんな役割があったとは…。

「それにね。ボクがゴハンをいっぱい食べられるのはレイジスがいっぱい食べるからだよ!」
「え?」
「忘れたか? マーハのほとんどはうさぎの魔力でできているだろう?」
「あ。そっか。魔力のつながりがあるから状態が分かるのか!」
「どういうことだ? リーシャ?」
「レヴィアタン戦で、属性武器を作って矢を飛ばしたでしょ?」
「ああ」
「その時、レイジス様が土属性の矢を氷の矢に追従するように魔力を流して制御してたんですよ」

ああ。あの時か。皆がレヴィアタンを狙っていたからそうだと思っていたが、レイジスが魔力で誘導していたのか。

「あの時、ソルゾもリーシャも矢を操っていたが…。簡単にできるものなのか?」
「まさか! 僕なんか自分の矢を制御するので手いっぱいですよ! ソルゾ先生も同じだと思います。それぞれの魔力の流れを感じ取りながら自分の魔力のコントロールとか無理ですよ」
「となると、レイジス様の魔力の量とコントロールの賜物、ということですか。本当にとんでもない方ですね」

そう言って笑うノアに、頬が緩む。

「そういえばワイバーンに襲われたときもレイジス様が『僕の魔力を使ってくれてもいい』とおっしゃってましたね」

アルシュがそう思いだしたように言えば、ふむとソルが頷く。

「なら主の魔力の流れが分かっていたんだろう。それに、相性がいい事も」
「つくづくレイジス様は規格外な方だと思い知らされますね」
「でもさ。ロゼッタ様がそこまでしてレイジス様を殺したい理由って何だろう?」

確かに。ロゼッタ様が黒幕だとしてもやはり違和感が残る。
命を狙うにしてもレイジスが喜ぶことばかりだったのも気になる。

「連中とロゼッタは別物だな」
「どういうことですか?」
「ロゼッタもまた、ただのだということだ」
「舞台装置?」
「ああ。そしてそれを回すものがない」
「ソル?」

ソルの言いたことが分からず眉を寄せれば「いずれ分かる」と笑う。

「そういうわけだ。レイジスを守りたければしゃんとしろ。いいな?」

そう言って、マーハの食べかけのパイを一口。
ソルの言葉を聞いて、レイジスを守るためにしなければならないことができた。

「なるほど。確かに腐っていたらレイジスは守れないな」
「では」
「そうだな。父上に騎士団での訓練を願おうか」
「なら僕は魔力の突破かな」
「なびなら任せろー!」

それぞれがレイジスを守るために動き出す。左腕にそれぞれが付けたプロミスリング。それを見て、決意する。

「さて。なら準備をするか」
「はっ!」

私の言葉に侍女も頭を下げる。
次にここに戻ってくるときはレイジスと一緒だ。そう思いながら寮を出るために準備を開始する。

「ああ、そうだ。フリードリヒ。お前は闇魔法を制御できるようにしておくように」

魔法は使わないように、と父上から厳しく言いつけられている。例外として、水魔法や火魔法はソルゾから教わって人並みには使えるようにはなっているが。
だがそれ以外の魔法の使用はできない。
それは私が『光魔法』が使えないことを知られないためなのだが…。

「…なぜ?」
「我と契約したのだ。他のものがどうこう言っても問題なかろう?」

そう言って笑うソルに少しの躊躇いがあった。
なんせ今まで碌に魔法を使わなかったから、暴走が起こるのではないかという心配があったからだ。
しかし。

「クリスタルを信じよ」

その言葉に思わずプロミスリングを見る。
そして、覚悟を決める。

「分かった。父上に聞いてみよう」

その二日後、私たちは王宮で騎士団の一員として訓練を受けていた。リーシャもまた二日の間に魔力の突破をして、制御をしている。
そして私もエストラから魔法を習い始めた。初めは光魔法が使えないことに驚いた様子だったが、ソルが顔を出したことであっさりと納得したようでもあった。
そしてレイジスを守る、という目標を掲げ訓練をしているといつの間にか一か月が過ぎ、竜潜の月へと入った。

その後、フォルスが戻ったと知らせが届き会いに行けば、私たち全員に可愛らしいうさぎの絵がついた封筒を渡してきたのだった。


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