83 / 105
聖女編
属性魔力
しおりを挟む
太陽の日差しがじりじりと焼き付ける午後。
マーハ君のおかげで体調がすこぶるいい僕は、みんなと一緒に遊んでいた。もちろん走り回ったりするのは厳禁。いくら体調がよくなったとはいえ、お熱が出ていたから今日一日はお部屋で遊ぶこと、とソルゾ先生に言われちゃったからみんなでトランプしてた。もちろんソルさんとマーハ君も巻き込んで。お昼ご飯もみんなで一緒に食べて、まったーりしてたらフリードリヒが入ってきた。おお?
その顔は心配そうにしていたけど、僕の顔を見たらほっとしてた。それにソルさんとマーハ君を見て「助かった」と言ってたからフリードリヒは僕の状態をソルさんにあらかじめ聞いてたのかも知れない。
「レイジス、身体は大丈夫かい?」
「はい! お熱も下がりました!」
むふーと鼻息を荒くすれば「よかった」と頭を撫でられる。むふふー。それにアルシュもノアもメトル君も父様もおはようございます!と挨拶をすれば「おはようございます」とアルシュとノア。「はよ」とメトル君。「元気で父様ほっとした…」と涙ぐむ父様。
それぞれのあいさつにむふむふとしていると、フリードリヒの顔がどことなくすっきりしてることに気付いた。うん?
「痛いところはない?」
「ないです! マーハ君に治してもらいました!」
んふーとそう言えば「そうじゃなくて、ね?」と苦笑いをしているフリードリヒに首を傾げれば、父様がこそっと耳打ちをしてきた。なんですかー?
「そうじゃなくて、腰とか足の関節とか痛くない?ってことだよ」
「ほわわ!」
その耳打ちにしゅぼっと顔を赤くすると「はわ…はわわ!」と言葉がうまく紡げなくなった。はははははじゅかしい!
しゅばっと両手で顔を隠せば「痛いところはないみたいだよ」と父様がさわやかに告げる。はばー!
「フリードリヒ。初めのうちは属性魔力に耐えられないから手加減しろ、と我は忠告したが?」
「はぎゃ?!」
「ああ。そうだったか? すっかりと失念していた」
「はぎゃぎゃー!」
フリードリヒとソルさんの会話にますます顔を赤くすると「大丈夫ですか?」とアルシュに聞かれる。それに「だいじょばないかもしれない」と言えば「さすがにデリカシーの問題になってきますからね」とノアが笑う。
「それと。今回はうさぎだからよかったものの、闇属性に耐えきれる人間は少ない。うさぎ以外の者だと死んでいたぞ?」
「どういうことですか?」
ソルさんの言葉にアルシュが眉を寄せると、小さなため息を吐いた。
「人にはそれぞれ属性魔力の限界がある」
「え?」
「ふむ。そんなことまで忘れてしまったのか。人の世界は」
属性魔力の限界? 何それ?
「聖女…スズネはぱらめーたー?というものを振り分けてそれぞれの属性の限界値を超えていたが…。人にはないのか?」
「そんな話、聞いたこともありません」
「あ、だから『魔力の突破』の話をしても分からないって顔してたのか」
そういえば前、マーハ君がそんな話してたような?っていうか『魔力の突破』ってそういうことだったのか。
「その属性魔力の限界を超えると、人はどうなるんですか?」
「受け止めきれなくて魔力過剰で死ぬな」
「な…?!」
さらっとソルさんが言ったけどそれってめちゃくちゃ重要なことだよね?!
「だから魔力過剰で苦しんだうさぎと…そこのちっちゃいの」
「ちっちゃい言うな! リーシャだよ」
「ふむ、リーシャはある程度ならば耐えられる。あとは…そこの髪が長い…ソルソ?だったか?」
「ソルゾです。ソル様」
「様付けはいらん。ソルでいい」
「ですが…」
「ならうさぎと同じくソルさんと呼べ」
「…分かりました」
「ソルゾもある程度は魔力過剰には耐えられる。おぬしも、魔力過剰で苦しんだ経験があるだろう?」
「はい」
ほわ?! そうなの?!
びっくり仰天してると、ソルゾ先生が苦笑いを浮かべる。
「実はそうなんですよ」
「僕と同じ境遇ってことですか?」
「はい。ですが魔力の量はそれほど多いわけじゃないんですよ。両親が平民ですからね」
「そういえばソルゾ先生の魔力の量は『普通』って言ってましたよね?」
「そなたたちに比べれば『普通』になるが、こ奴自体の魔力の量は多い方だ」
「ほへ?」
「そなたたち二人の魔力の量が尋常ではないだけだからな」
「はえー」
そうなんだーとぽかんとお口を開けてたら、フリードリヒがそっと顎をそっと持ち上げられた。あ、ありがとうございます!
それが伝わったのか、どういたしましてとにこりと笑うフリードリヒに僕も笑い返すと「おいそこ! いちゃいちゃすんな!」ってメトル君からツッコミが入った。あわわ!
「それはそうと…そなた、魔力はどうした?」
「あ?」
「がらわるーい」
ぷーと唇を尖らせるマーハ君に「うるせぇ」と言うとちらりと僕を見た。そういえばそうだったね。僕は事情を知ってるけど、フリードリヒ達は知らないもんね。っていうか知りようがないからね。
「魔力がほとんどないな」
「…恐らく騎士科にいるからだな」
「どういうことだ?」
そう眉を寄せるのはハーミット先生。
「元々のシナリオなら俺は魔法科にいるはずだった」
「え?!」
「まぁそういうわけで、始まりから違うんだ。俺は」
「なるほど?」
ゲームシステムについてはほとんど触れてなかったからねー。ちょうどいいからと、この『君に幸あれ!』というゲームシステムの説明をしてくれるメトル君。僕は大体知ってるけど、でも最近ゲームに関する情報や前の人の情報が分からなくなってる。
特に前の人の情報なんかはほとんどなくなっちゃったと言ってもいい。
「そういうわけで裏ルートエンディングを目指してるってわけ」
「なるほど。だから今までとは違う、ということか」
「今までがどうかは分からんが、恐らくは全く違う展開になってるはずだな」
「ふむ」
ソルさんとメトル君が話している間に、僕はおやつをもぐもぐしてる。マーハ君も一緒にもぐもぐ。
ショートケーキうまうま。暑くなってきたからムースとかババロアとかのレシピ書いておこう!
「レイジス、クリームついてる」
「はわわ!」
いつもみたいにハンカチでぬぐわれるかと思ったら、ぺろりと舐め取られた。ほ?
「うん。おいしい」
「は?」
「うん?」
「はぎゃあああああぁっ!」
ぷえ? 何? 今…?
ぶわわと顔を真っ赤にして舐め取られたところを押さえれば、ソルさんとメトル君が僕を見てて。ほぎゃ…ほわーッ!
「何があった? マーハ」
「フリードリヒがうさぎの口元についてたクリーム舐めた」
「んだよ…。そんなことかよ。びっくりさせんな」
はぁー…、と大きなため息を漏らすメトル君に「ご、ごべん…」とだけ謝れば「話が終わるまでいちゃいちゃすんなよ! レイジスがうるさいからな!」と言われてしまう。ううう…。恥ずかしいよぅ…。
顔を真っ赤にしたまま、もしょりもしょりとケーキを食べれば「ソルー! ボクにもやってー!」とマーハ君がソルさんに突撃している。ほわ?!
「仕方ないやつだ」
「んふふー」
そう言ってお口についたクリームを舐め取っていくソルさんと嬉しそうなマーハ君を見て「はわ、はわわ!」と手で顔を覆うと「あっちもこっちもいちゃいちゃしやがって…」と呆れるメトル君。
うん? そういえばメトル君が攻略してるのって確か。
「メトル君はヴァルジスク…さんを攻略中だったよね?」
「んあ? そうだな」
ヴァルジスク・ウルラ・カマルリア。
名前だけしか知らないんだけど、どういう人なんだろう?
「メトル、それは本当か?」
「ん? ああ。まぁな」
おろ。ヴァルジスクさんの名前を出したらフリードリヒが食いついたぞ?
「フリードリヒ殿下、そのヴァルジスクさんってどんな方なんですか?」
「カマルリアの第一王子だ」
「ふんふん」
「現王と同じくあまり戦いを好まないとは聞いている」
「ふぅん?」
ってあれ? それだけ?
余りに情報が少なくてぱちりと瞬きをすれば困った顔で「すまない」とフリードリヒが謝る。ふえええ?!
「カマルリアについてはあまり知らないんだ」
「あそこの情報は外に漏れないからな。俺もほとんど知らないが性格とかはなんとなく分かるくらいだ」
「ほへー…そうなんだー」
情報がほとんどない、っていうのがなんか怖いねー。
むぐりといちごを食べながらそう思えば「そういえばさ」とふと浮かんだ疑問を口にする。
「魔力過多は分かるんだけど、逆に魔力不足になるとどうなるの?」
「そういえばあまり聞かないな」
かちゃりとカップを手にしたフリードリヒが、僕にカップを渡してくれる。おわ、ありがとうございます。
こくりと紅茶を飲みながらソルさんを見れば、なぜか瞳を細めていて。うん?
「魔力不足は我らには縁のない話だが、魔物や人が魔力切れを起こすと肉体が分解する」
「んぶぅ?!」
「レイジス?!」
「あばばば! ごめんなさい!」
飲んでいた紅茶を吹き出し、あわあわとしていると父様が「大丈夫だからね?」とハンカチで口元を拭いてくれる。それからソルゾ先生が火魔法でぬれた部分を乾かしてくれた。あばば。ごめんなさい。でも鼻に入ってちょっとだけ痛いのは内緒にしておこう。
「そう驚くこともない。魔物が死ねば光の粒子となって消えるだろう?」
「そうなんですか?」
「そうだね。魔物を倒せば消えてしまうね」
「ほへー」
「つまりはそれと同様のことが人にも起きる」
「なるほど?」
ってそう言えば、アンギーユさんってほぼ全身残ってたのはなんでだろう? 新鮮だったからかな?
あの時みんなでうまーしちゃったけど。
あれれ? でもさ。
「魔力不足じゃなければ消えないってことですか?」
「そうなるな。そもそも魔力不足になった時点で身体が動かない。しかし消えないのは残りの命を燃やして魔力に変換するからだ」
「では魔物の死骸が残るのは…」
「わずかに残った命を魔力に変換しているからだろう。だから魔物の素材は高く売れる」
「じゃあ、魔物の素材は最後の命の灯ってことか…」
ううーん…。そう聞いたら魔物の素材を集めることを躊躇っちゃうねー…。
でも、アンギーユさんの謎が解けたのはよかった。
「だからこそ、人が有効に使っているのだろう? ならいいんじゃないのか?」
「そんなもん…ですかね?」
「そんなもんだろう」
うむ、とソルさんが頷くと、待ってました!と言わんばかりにマーハ君がソルさんのお口にタルトを刺したフォークをぐいぐいと押し付けてる。
そんな二人を除けば、なんとなくしんみりしちゃったねー。ごめん。
「ところでさ」
「うん?」
ちょびっとだけ空気が重くなった所にマーハ君がおやつのクッキーをもしゃもしゃと食べながらリーシャとソルゾ先生を見る。
あれ? タルトは?と思ったらソルさんに押し付けたらしい。マーハ君、ちゃんと全部食べてから次食べようね?
「魔力の突破、しないの?」
「するって言ってもどうやったらいいのかわかんないし」
「クリスタルの魔力を自分に流せばいい…でしたっけ?」
「そうそう。今のあんたたちなら簡単にできると思うよ?」
むぎゅりと今度は生チョコタルトを頬張りながらそう言うマーハ君。あ、タルトおいしそう!
「レイジス、タルト食べる?」
「たべたーい!」
「ふふ、じゃあ食べようか」
「わーい!」
にこにことしながら僕の世話を焼いてくれるフリードリヒ。父様もタルトを食べるのか侍女さんに何か言ってる。そして、目の前にはベリーたっぷりのタルト。ほわわー、おいしそうー。
「はい、あーん」
「あーん!」
フリードリヒに言われるままパカリとお口を開けてタルトをお口に運んでもらう。そして…むぎゅん! ふまままー!
「おいしいー!」
「うんうん、よかったね」
「はい!」
「おお。酸味が効いていて甘すぎない…。これはうまい」
父様もタルトが気に入ったのかもぐもぐと幸せそうに食べてる。そんな父様を見て僕もにっこり。
そんな僕らに見向きもせず、マーハ君とリーシャ、ソルゾ先生の会話は続く。
「できそう?」
「ここではちょっと…」
「暴走が怖いですからね」
「平気だって。自分の魔力だし、属性も安定してるから」
マーハ君って結構言うよねー、って思ってたけどその目を見てぎょっとした。
だって…七色に輝いていたから。
「『神の目』?」
「ああ。一時的なものだがな」
「そういえばマーハ君もついちゃったんだっけ? 僕の魔力のせいで」
「『神の目』自体はそのうち消えるが、もう一つは消えんだろうな」
「もう一つ?」
なんのこと?と首を傾げればころころとソルさんが笑う。
「それは我の口からは言えん。だが、以前我が口を滑らせたときに聞いているはずだ」
「ううーんむ?」
なんか言ってたっけー?
マーハ君を復活させたときは魔力も絶え絶えだったからあんまり覚えてないんだよねー。
良く分かんない、と首を傾げると「覚えていないならそれでいいさ」とまた笑う。そう…なのかな?
まぁ覚えてないのならしょうがない! タルトを食べて元気を出そう!
僕がおやつうまうましてる間に、リーシャとソルゾ先生の魔力突破は学園に戻ってからすることになったらしい。ここだと万が一、リーシャの魔力が暴走すると王都がやばいからって理由で。
それと、明日お医者さんに体調を見せてよければ午後から学園に戻ることになった。今度はワイバーンで帰るんだって! わーい!
じゃあ帰る前にレシピをたくさん書かないと! ということでレシピを書いては侍女さんに渡し、後宮で試作品を作ってみんなで食べたんだ! もちろんそれが今日のみんなのお夕飯になったことに、むふふと笑う僕だった。
■■■
「グラナージ、もう少しで…もう少しでまたあなたに会える…」
私の呟きは闇に吸い込まれ、消えてなくなる。
私はただの舞台装置。あなたがいなければ動かない。
「もう少し、辛抱していてください」
机に転がる4つのカラフルな卵。
それは私が仕上げたもの。それを見て、私は笑みを消して瞳を閉じる。
「どうかこれを使わない結末になりますように」
マーハ君のおかげで体調がすこぶるいい僕は、みんなと一緒に遊んでいた。もちろん走り回ったりするのは厳禁。いくら体調がよくなったとはいえ、お熱が出ていたから今日一日はお部屋で遊ぶこと、とソルゾ先生に言われちゃったからみんなでトランプしてた。もちろんソルさんとマーハ君も巻き込んで。お昼ご飯もみんなで一緒に食べて、まったーりしてたらフリードリヒが入ってきた。おお?
その顔は心配そうにしていたけど、僕の顔を見たらほっとしてた。それにソルさんとマーハ君を見て「助かった」と言ってたからフリードリヒは僕の状態をソルさんにあらかじめ聞いてたのかも知れない。
「レイジス、身体は大丈夫かい?」
「はい! お熱も下がりました!」
むふーと鼻息を荒くすれば「よかった」と頭を撫でられる。むふふー。それにアルシュもノアもメトル君も父様もおはようございます!と挨拶をすれば「おはようございます」とアルシュとノア。「はよ」とメトル君。「元気で父様ほっとした…」と涙ぐむ父様。
それぞれのあいさつにむふむふとしていると、フリードリヒの顔がどことなくすっきりしてることに気付いた。うん?
「痛いところはない?」
「ないです! マーハ君に治してもらいました!」
んふーとそう言えば「そうじゃなくて、ね?」と苦笑いをしているフリードリヒに首を傾げれば、父様がこそっと耳打ちをしてきた。なんですかー?
「そうじゃなくて、腰とか足の関節とか痛くない?ってことだよ」
「ほわわ!」
その耳打ちにしゅぼっと顔を赤くすると「はわ…はわわ!」と言葉がうまく紡げなくなった。はははははじゅかしい!
しゅばっと両手で顔を隠せば「痛いところはないみたいだよ」と父様がさわやかに告げる。はばー!
「フリードリヒ。初めのうちは属性魔力に耐えられないから手加減しろ、と我は忠告したが?」
「はぎゃ?!」
「ああ。そうだったか? すっかりと失念していた」
「はぎゃぎゃー!」
フリードリヒとソルさんの会話にますます顔を赤くすると「大丈夫ですか?」とアルシュに聞かれる。それに「だいじょばないかもしれない」と言えば「さすがにデリカシーの問題になってきますからね」とノアが笑う。
「それと。今回はうさぎだからよかったものの、闇属性に耐えきれる人間は少ない。うさぎ以外の者だと死んでいたぞ?」
「どういうことですか?」
ソルさんの言葉にアルシュが眉を寄せると、小さなため息を吐いた。
「人にはそれぞれ属性魔力の限界がある」
「え?」
「ふむ。そんなことまで忘れてしまったのか。人の世界は」
属性魔力の限界? 何それ?
「聖女…スズネはぱらめーたー?というものを振り分けてそれぞれの属性の限界値を超えていたが…。人にはないのか?」
「そんな話、聞いたこともありません」
「あ、だから『魔力の突破』の話をしても分からないって顔してたのか」
そういえば前、マーハ君がそんな話してたような?っていうか『魔力の突破』ってそういうことだったのか。
「その属性魔力の限界を超えると、人はどうなるんですか?」
「受け止めきれなくて魔力過剰で死ぬな」
「な…?!」
さらっとソルさんが言ったけどそれってめちゃくちゃ重要なことだよね?!
「だから魔力過剰で苦しんだうさぎと…そこのちっちゃいの」
「ちっちゃい言うな! リーシャだよ」
「ふむ、リーシャはある程度ならば耐えられる。あとは…そこの髪が長い…ソルソ?だったか?」
「ソルゾです。ソル様」
「様付けはいらん。ソルでいい」
「ですが…」
「ならうさぎと同じくソルさんと呼べ」
「…分かりました」
「ソルゾもある程度は魔力過剰には耐えられる。おぬしも、魔力過剰で苦しんだ経験があるだろう?」
「はい」
ほわ?! そうなの?!
びっくり仰天してると、ソルゾ先生が苦笑いを浮かべる。
「実はそうなんですよ」
「僕と同じ境遇ってことですか?」
「はい。ですが魔力の量はそれほど多いわけじゃないんですよ。両親が平民ですからね」
「そういえばソルゾ先生の魔力の量は『普通』って言ってましたよね?」
「そなたたちに比べれば『普通』になるが、こ奴自体の魔力の量は多い方だ」
「ほへ?」
「そなたたち二人の魔力の量が尋常ではないだけだからな」
「はえー」
そうなんだーとぽかんとお口を開けてたら、フリードリヒがそっと顎をそっと持ち上げられた。あ、ありがとうございます!
それが伝わったのか、どういたしましてとにこりと笑うフリードリヒに僕も笑い返すと「おいそこ! いちゃいちゃすんな!」ってメトル君からツッコミが入った。あわわ!
「それはそうと…そなた、魔力はどうした?」
「あ?」
「がらわるーい」
ぷーと唇を尖らせるマーハ君に「うるせぇ」と言うとちらりと僕を見た。そういえばそうだったね。僕は事情を知ってるけど、フリードリヒ達は知らないもんね。っていうか知りようがないからね。
「魔力がほとんどないな」
「…恐らく騎士科にいるからだな」
「どういうことだ?」
そう眉を寄せるのはハーミット先生。
「元々のシナリオなら俺は魔法科にいるはずだった」
「え?!」
「まぁそういうわけで、始まりから違うんだ。俺は」
「なるほど?」
ゲームシステムについてはほとんど触れてなかったからねー。ちょうどいいからと、この『君に幸あれ!』というゲームシステムの説明をしてくれるメトル君。僕は大体知ってるけど、でも最近ゲームに関する情報や前の人の情報が分からなくなってる。
特に前の人の情報なんかはほとんどなくなっちゃったと言ってもいい。
「そういうわけで裏ルートエンディングを目指してるってわけ」
「なるほど。だから今までとは違う、ということか」
「今までがどうかは分からんが、恐らくは全く違う展開になってるはずだな」
「ふむ」
ソルさんとメトル君が話している間に、僕はおやつをもぐもぐしてる。マーハ君も一緒にもぐもぐ。
ショートケーキうまうま。暑くなってきたからムースとかババロアとかのレシピ書いておこう!
「レイジス、クリームついてる」
「はわわ!」
いつもみたいにハンカチでぬぐわれるかと思ったら、ぺろりと舐め取られた。ほ?
「うん。おいしい」
「は?」
「うん?」
「はぎゃあああああぁっ!」
ぷえ? 何? 今…?
ぶわわと顔を真っ赤にして舐め取られたところを押さえれば、ソルさんとメトル君が僕を見てて。ほぎゃ…ほわーッ!
「何があった? マーハ」
「フリードリヒがうさぎの口元についてたクリーム舐めた」
「んだよ…。そんなことかよ。びっくりさせんな」
はぁー…、と大きなため息を漏らすメトル君に「ご、ごべん…」とだけ謝れば「話が終わるまでいちゃいちゃすんなよ! レイジスがうるさいからな!」と言われてしまう。ううう…。恥ずかしいよぅ…。
顔を真っ赤にしたまま、もしょりもしょりとケーキを食べれば「ソルー! ボクにもやってー!」とマーハ君がソルさんに突撃している。ほわ?!
「仕方ないやつだ」
「んふふー」
そう言ってお口についたクリームを舐め取っていくソルさんと嬉しそうなマーハ君を見て「はわ、はわわ!」と手で顔を覆うと「あっちもこっちもいちゃいちゃしやがって…」と呆れるメトル君。
うん? そういえばメトル君が攻略してるのって確か。
「メトル君はヴァルジスク…さんを攻略中だったよね?」
「んあ? そうだな」
ヴァルジスク・ウルラ・カマルリア。
名前だけしか知らないんだけど、どういう人なんだろう?
「メトル、それは本当か?」
「ん? ああ。まぁな」
おろ。ヴァルジスクさんの名前を出したらフリードリヒが食いついたぞ?
「フリードリヒ殿下、そのヴァルジスクさんってどんな方なんですか?」
「カマルリアの第一王子だ」
「ふんふん」
「現王と同じくあまり戦いを好まないとは聞いている」
「ふぅん?」
ってあれ? それだけ?
余りに情報が少なくてぱちりと瞬きをすれば困った顔で「すまない」とフリードリヒが謝る。ふえええ?!
「カマルリアについてはあまり知らないんだ」
「あそこの情報は外に漏れないからな。俺もほとんど知らないが性格とかはなんとなく分かるくらいだ」
「ほへー…そうなんだー」
情報がほとんどない、っていうのがなんか怖いねー。
むぐりといちごを食べながらそう思えば「そういえばさ」とふと浮かんだ疑問を口にする。
「魔力過多は分かるんだけど、逆に魔力不足になるとどうなるの?」
「そういえばあまり聞かないな」
かちゃりとカップを手にしたフリードリヒが、僕にカップを渡してくれる。おわ、ありがとうございます。
こくりと紅茶を飲みながらソルさんを見れば、なぜか瞳を細めていて。うん?
「魔力不足は我らには縁のない話だが、魔物や人が魔力切れを起こすと肉体が分解する」
「んぶぅ?!」
「レイジス?!」
「あばばば! ごめんなさい!」
飲んでいた紅茶を吹き出し、あわあわとしていると父様が「大丈夫だからね?」とハンカチで口元を拭いてくれる。それからソルゾ先生が火魔法でぬれた部分を乾かしてくれた。あばば。ごめんなさい。でも鼻に入ってちょっとだけ痛いのは内緒にしておこう。
「そう驚くこともない。魔物が死ねば光の粒子となって消えるだろう?」
「そうなんですか?」
「そうだね。魔物を倒せば消えてしまうね」
「ほへー」
「つまりはそれと同様のことが人にも起きる」
「なるほど?」
ってそう言えば、アンギーユさんってほぼ全身残ってたのはなんでだろう? 新鮮だったからかな?
あの時みんなでうまーしちゃったけど。
あれれ? でもさ。
「魔力不足じゃなければ消えないってことですか?」
「そうなるな。そもそも魔力不足になった時点で身体が動かない。しかし消えないのは残りの命を燃やして魔力に変換するからだ」
「では魔物の死骸が残るのは…」
「わずかに残った命を魔力に変換しているからだろう。だから魔物の素材は高く売れる」
「じゃあ、魔物の素材は最後の命の灯ってことか…」
ううーん…。そう聞いたら魔物の素材を集めることを躊躇っちゃうねー…。
でも、アンギーユさんの謎が解けたのはよかった。
「だからこそ、人が有効に使っているのだろう? ならいいんじゃないのか?」
「そんなもん…ですかね?」
「そんなもんだろう」
うむ、とソルさんが頷くと、待ってました!と言わんばかりにマーハ君がソルさんのお口にタルトを刺したフォークをぐいぐいと押し付けてる。
そんな二人を除けば、なんとなくしんみりしちゃったねー。ごめん。
「ところでさ」
「うん?」
ちょびっとだけ空気が重くなった所にマーハ君がおやつのクッキーをもしゃもしゃと食べながらリーシャとソルゾ先生を見る。
あれ? タルトは?と思ったらソルさんに押し付けたらしい。マーハ君、ちゃんと全部食べてから次食べようね?
「魔力の突破、しないの?」
「するって言ってもどうやったらいいのかわかんないし」
「クリスタルの魔力を自分に流せばいい…でしたっけ?」
「そうそう。今のあんたたちなら簡単にできると思うよ?」
むぎゅりと今度は生チョコタルトを頬張りながらそう言うマーハ君。あ、タルトおいしそう!
「レイジス、タルト食べる?」
「たべたーい!」
「ふふ、じゃあ食べようか」
「わーい!」
にこにことしながら僕の世話を焼いてくれるフリードリヒ。父様もタルトを食べるのか侍女さんに何か言ってる。そして、目の前にはベリーたっぷりのタルト。ほわわー、おいしそうー。
「はい、あーん」
「あーん!」
フリードリヒに言われるままパカリとお口を開けてタルトをお口に運んでもらう。そして…むぎゅん! ふまままー!
「おいしいー!」
「うんうん、よかったね」
「はい!」
「おお。酸味が効いていて甘すぎない…。これはうまい」
父様もタルトが気に入ったのかもぐもぐと幸せそうに食べてる。そんな父様を見て僕もにっこり。
そんな僕らに見向きもせず、マーハ君とリーシャ、ソルゾ先生の会話は続く。
「できそう?」
「ここではちょっと…」
「暴走が怖いですからね」
「平気だって。自分の魔力だし、属性も安定してるから」
マーハ君って結構言うよねー、って思ってたけどその目を見てぎょっとした。
だって…七色に輝いていたから。
「『神の目』?」
「ああ。一時的なものだがな」
「そういえばマーハ君もついちゃったんだっけ? 僕の魔力のせいで」
「『神の目』自体はそのうち消えるが、もう一つは消えんだろうな」
「もう一つ?」
なんのこと?と首を傾げればころころとソルさんが笑う。
「それは我の口からは言えん。だが、以前我が口を滑らせたときに聞いているはずだ」
「ううーんむ?」
なんか言ってたっけー?
マーハ君を復活させたときは魔力も絶え絶えだったからあんまり覚えてないんだよねー。
良く分かんない、と首を傾げると「覚えていないならそれでいいさ」とまた笑う。そう…なのかな?
まぁ覚えてないのならしょうがない! タルトを食べて元気を出そう!
僕がおやつうまうましてる間に、リーシャとソルゾ先生の魔力突破は学園に戻ってからすることになったらしい。ここだと万が一、リーシャの魔力が暴走すると王都がやばいからって理由で。
それと、明日お医者さんに体調を見せてよければ午後から学園に戻ることになった。今度はワイバーンで帰るんだって! わーい!
じゃあ帰る前にレシピをたくさん書かないと! ということでレシピを書いては侍女さんに渡し、後宮で試作品を作ってみんなで食べたんだ! もちろんそれが今日のみんなのお夕飯になったことに、むふふと笑う僕だった。
■■■
「グラナージ、もう少しで…もう少しでまたあなたに会える…」
私の呟きは闇に吸い込まれ、消えてなくなる。
私はただの舞台装置。あなたがいなければ動かない。
「もう少し、辛抱していてください」
机に転がる4つのカラフルな卵。
それは私が仕上げたもの。それを見て、私は笑みを消して瞳を閉じる。
「どうかこれを使わない結末になりますように」
84
お気に入りに追加
3,317
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました
織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる