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聖女編

属性魔力

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太陽の日差しがじりじりと焼き付ける午後。
マーハ君のおかげで体調がすこぶるいい僕は、みんなと一緒に遊んでいた。もちろん走り回ったりするのは厳禁。いくら体調がよくなったとはいえ、お熱が出ていたから今日一日はお部屋で遊ぶこと、とソルゾ先生に言われちゃったからみんなでトランプしてた。もちろんソルさんとマーハ君も巻き込んで。お昼ご飯もみんなで一緒に食べて、まったーりしてたらフリードリヒが入ってきた。おお?
その顔は心配そうにしていたけど、僕の顔を見たらほっとしてた。それにソルさんとマーハ君を見て「助かった」と言ってたからフリードリヒは僕の状態をソルさんにあらかじめ聞いてたのかも知れない。

「レイジス、身体は大丈夫かい?」
「はい! お熱も下がりました!」

むふーと鼻息を荒くすれば「よかった」と頭を撫でられる。むふふー。それにアルシュもノアもメトル君も父様もおはようございます!と挨拶をすれば「おはようございます」とアルシュとノア。「はよ」とメトル君。「元気で父様ほっとした…」と涙ぐむ父様。
それぞれのあいさつにむふむふとしていると、フリードリヒの顔がどことなくすっきりしてることに気付いた。うん?

「痛いところはない?」
「ないです! マーハ君に治してもらいました!」

んふーとそう言えば「そうじゃなくて、ね?」と苦笑いをしているフリードリヒに首を傾げれば、父様がこそっと耳打ちをしてきた。なんですかー?

「そうじゃなくて、腰とか足の関節とか痛くない?ってことだよ」
「ほわわ!」

その耳打ちにしゅぼっと顔を赤くすると「はわ…はわわ!」と言葉がうまく紡げなくなった。はははははじゅかしい!
しゅばっと両手で顔を隠せば「痛いところはないみたいだよ」と父様がさわやかに告げる。はばー!

「フリードリヒ。初めのうちは属性魔力に耐えられないから手加減しろ、と我は忠告したが?」
「はぎゃ?!」
「ああ。そうだったか? すっかりと失念していた」
「はぎゃぎゃー!」

フリードリヒとソルさんの会話にますます顔を赤くすると「大丈夫ですか?」とアルシュに聞かれる。それに「だいじょばないかもしれない」と言えば「さすがにデリカシーの問題になってきますからね」とノアが笑う。

「それと。今回はうさぎだからよかったものの、闇属性に耐えきれる人間は少ない。うさぎ以外の者だと死んでいたぞ?」
「どういうことですか?」

ソルさんの言葉にアルシュが眉を寄せると、小さなため息を吐いた。

「人にはそれぞれ属性魔力の限界がある」
「え?」
「ふむ。そんなことまで忘れてしまったのか。人の世界は」

属性魔力の限界? 何それ?

「聖女…スズネはぱらめーたー?というものを振り分けてそれぞれの属性の限界値を超えていたが…。人にはないのか?」
「そんな話、聞いたこともありません」
「あ、だから『魔力の突破』の話をしても分からないって顔してたのか」

そういえば前、マーハ君がそんな話してたような?っていうか『魔力の突破』ってそういうことだったのか。

「その属性魔力の限界を超えると、人はどうなるんですか?」
「受け止めきれなくて魔力過剰で死ぬな」
「な…?!」

さらっとソルさんが言ったけどそれってめちゃくちゃ重要なことだよね?!

「だから魔力過剰で苦しんだうさぎと…そこのちっちゃいの」
「ちっちゃい言うな! リーシャだよ」
「ふむ、リーシャはある程度ならば耐えられる。あとは…そこの髪が長い…ソルソ?だったか?」
「ソルゾです。ソル様」
「様付けはいらん。ソルでいい」
「ですが…」
「ならうさぎと同じくソルさんと呼べ」
「…分かりました」
「ソルゾもある程度は魔力過剰には耐えられる。おぬしも、魔力過剰で苦しんだ経験があるだろう?」
「はい」

ほわ?! そうなの?!
びっくり仰天してると、ソルゾ先生が苦笑いを浮かべる。

「実はそうなんですよ」
「僕と同じ境遇ってことですか?」
「はい。ですが魔力の量はそれほど多いわけじゃないんですよ。両親が平民ですからね」
「そういえばソルゾ先生の魔力の量は『普通』って言ってましたよね?」
「そなたたちに比べれば『普通』になるが、こ奴自体の魔力の量は多い方だ」
「ほへ?」
「そなたたち二人の魔力の量が尋常ではないだけだからな」
「はえー」

そうなんだーとぽかんとお口を開けてたら、フリードリヒがそっと顎をそっと持ち上げられた。あ、ありがとうございます!
それが伝わったのか、どういたしましてとにこりと笑うフリードリヒに僕も笑い返すと「おいそこ! いちゃいちゃすんな!」ってメトル君からツッコミが入った。あわわ!

「それはそうと…そなた、魔力はどうした?」
「あ?」
「がらわるーい」

ぷーと唇を尖らせるマーハ君に「うるせぇ」と言うとちらりと僕を見た。そういえばそうだったね。僕は事情を知ってるけど、フリードリヒ達は知らないもんね。っていうか知りようがないからね。

「魔力がほとんどないな」
「…恐らく騎士科にいるからだな」
「どういうことだ?」

そう眉を寄せるのはハーミット先生。

「元々のシナリオなら俺は魔法科にいるはずだった」
「え?!」
「まぁそういうわけで、始まりから違うんだ。俺は」
「なるほど?」

ゲームシステムについてはほとんど触れてなかったからねー。ちょうどいいからと、この『君に幸あれ!』というゲームシステムの説明をしてくれるメトル君。僕は大体知ってるけど、でも最近ゲームに関する情報や前の人の情報が分からなくなってる。
特に前の人の情報なんかはほとんどなくなっちゃったと言ってもいい。

「そういうわけで裏ルートエンディングを目指してるってわけ」
「なるほど。だから今までとは違う、ということか」
「今までがどうかは分からんが、恐らくは全く違う展開になってるはずだな」
「ふむ」

ソルさんとメトル君が話している間に、僕はおやつをもぐもぐしてる。マーハ君も一緒にもぐもぐ。
ショートケーキうまうま。暑くなってきたからムースとかババロアとかのレシピ書いておこう!

「レイジス、クリームついてる」
「はわわ!」

いつもみたいにハンカチでぬぐわれるかと思ったら、ぺろりと舐め取られた。ほ?

「うん。おいしい」
「は?」
「うん?」
「はぎゃあああああぁっ!」

ぷえ? 何? 今…?
ぶわわと顔を真っ赤にして舐め取られたところを押さえれば、ソルさんとメトル君が僕を見てて。ほぎゃ…ほわーッ!

「何があった? マーハ」
「フリードリヒがうさぎの口元についてたクリーム舐めた」
「んだよ…。そんなことかよ。びっくりさせんな」

はぁー…、と大きなため息を漏らすメトル君に「ご、ごべん…」とだけ謝れば「話が終わるまでいちゃいちゃすんなよ! レイジスがうるさいからな!」と言われてしまう。ううう…。恥ずかしいよぅ…。
顔を真っ赤にしたまま、もしょりもしょりとケーキを食べれば「ソルー! ボクにもやってー!」とマーハ君がソルさんに突撃している。ほわ?!

「仕方ないやつだ」
「んふふー」

そう言ってお口についたクリームを舐め取っていくソルさんと嬉しそうなマーハ君を見て「はわ、はわわ!」と手で顔を覆うと「あっちもこっちもいちゃいちゃしやがって…」と呆れるメトル君。
うん? そういえばメトル君が攻略してるのって確か。

「メトル君はヴァルジスク…さんを攻略中だったよね?」
「んあ? そうだな」

ヴァルジスク・ウルラ・カマルリア。

名前だけしか知らないんだけど、どういう人なんだろう?

「メトル、それは本当か?」
「ん? ああ。まぁな」

おろ。ヴァルジスクさんの名前を出したらフリードリヒが食いついたぞ?

「フリードリヒ殿下、そのヴァルジスクさんってどんな方なんですか?」
「カマルリアの第一王子だ」
「ふんふん」
「現王と同じくあまり戦いを好まないとは聞いている」
「ふぅん?」

ってあれ? それだけ?
余りに情報が少なくてぱちりと瞬きをすれば困った顔で「すまない」とフリードリヒが謝る。ふえええ?!

「カマルリアについてはあまり知らないんだ」
「あそこの情報は外に漏れないからな。俺もほとんど知らないが性格とかはなんとなく分かるくらいだ」
「ほへー…そうなんだー」

情報がほとんどない、っていうのがなんか怖いねー。
むぐりといちごを食べながらそう思えば「そういえばさ」とふと浮かんだ疑問を口にする。

「魔力過多は分かるんだけど、逆に魔力不足になるとどうなるの?」
「そういえばあまり聞かないな」

かちゃりとカップを手にしたフリードリヒが、僕にカップを渡してくれる。おわ、ありがとうございます。
こくりと紅茶を飲みながらソルさんを見れば、なぜか瞳を細めていて。うん?

「魔力不足は我らには縁のない話だが、魔物や人が魔力切れを起こすと肉体が分解する」
「んぶぅ?!」
「レイジス?!」
「あばばば! ごめんなさい!」

飲んでいた紅茶を吹き出し、あわあわとしていると父様が「大丈夫だからね?」とハンカチで口元を拭いてくれる。それからソルゾ先生が火魔法でぬれた部分を乾かしてくれた。あばば。ごめんなさい。でも鼻に入ってちょっとだけ痛いのは内緒にしておこう。

「そう驚くこともない。魔物が死ねば光の粒子となって消えるだろう?」
「そうなんですか?」
「そうだね。魔物を倒せば消えてしまうね」
「ほへー」
「つまりはそれと同様のことが人にも起きる」
「なるほど?」

ってそう言えば、アンギーユさんってほぼ全身残ってたのはなんでだろう? 新鮮だったからかな?
あの時みんなでうまーしちゃったけど。
あれれ? でもさ。

「魔力不足じゃなければ消えないってことですか?」
「そうなるな。そもそも魔力不足になった時点で身体が動かない。しかし消えないのは残りの命を燃やして魔力に変換するからだ」
「では魔物の死骸が残るのは…」
「わずかに残った命を魔力に変換しているからだろう。だから魔物の素材は高く売れる」
「じゃあ、魔物の素材は最後の命の灯ってことか…」

ううーん…。そう聞いたら魔物の素材を集めることを躊躇っちゃうねー…。
でも、アンギーユさんの謎が解けたのはよかった。

「だからこそ、人が有効に使っているのだろう? ならいいんじゃないのか?」
「そんなもん…ですかね?」
「そんなもんだろう」

うむ、とソルさんが頷くと、待ってました!と言わんばかりにマーハ君がソルさんのお口にタルトを刺したフォークをぐいぐいと押し付けてる。
そんな二人を除けば、なんとなくしんみりしちゃったねー。ごめん。

「ところでさ」
「うん?」

ちょびっとだけ空気が重くなった所にマーハ君がおやつのクッキーをもしゃもしゃと食べながらリーシャとソルゾ先生を見る。
あれ? タルトは?と思ったらソルさんに押し付けたらしい。マーハ君、ちゃんと全部食べてから次食べようね?

「魔力の突破、しないの?」
「するって言ってもどうやったらいいのかわかんないし」
「クリスタルの魔力を自分に流せばいい…でしたっけ?」
「そうそう。今のあんたたちなら簡単にできると思うよ?」

むぎゅりと今度は生チョコタルトを頬張りながらそう言うマーハ君。あ、タルトおいしそう!

「レイジス、タルト食べる?」
「たべたーい!」
「ふふ、じゃあ食べようか」
「わーい!」

にこにことしながら僕の世話を焼いてくれるフリードリヒ。父様もタルトを食べるのか侍女さんに何か言ってる。そして、目の前にはベリーたっぷりのタルト。ほわわー、おいしそうー。

「はい、あーん」
「あーん!」

フリードリヒに言われるままパカリとお口を開けてタルトをお口に運んでもらう。そして…むぎゅん! ふまままー!

「おいしいー!」
「うんうん、よかったね」
「はい!」
「おお。酸味が効いていて甘すぎない…。これはうまい」

父様もタルトが気に入ったのかもぐもぐと幸せそうに食べてる。そんな父様を見て僕もにっこり。
そんな僕らに見向きもせず、マーハ君とリーシャ、ソルゾ先生の会話は続く。

「できそう?」
「ここではちょっと…」
「暴走が怖いですからね」
「平気だって。自分の魔力だし、属性も安定してるから」

マーハ君って結構言うよねー、って思ってたけどその目を見てぎょっとした。
だって…七色に輝いていたから。

「『神の目』?」
「ああ。一時的なものだがな」
「そういえばマーハ君もついちゃったんだっけ? 僕の魔力のせいで」
「『神の目』自体はそのうち消えるが、もう一つは消えんだろうな」
「もう一つ?」

なんのこと?と首を傾げればころころとソルさんが笑う。

「それは我の口からは言えん。だが、以前我が口を滑らせたときに聞いているはずだ」
「ううーんむ?」

なんか言ってたっけー?
マーハ君を復活させたときは魔力も絶え絶えだったからあんまり覚えてないんだよねー。
良く分かんない、と首を傾げると「覚えていないならそれでいいさ」とまた笑う。そう…なのかな?
まぁ覚えてないのならしょうがない! タルトを食べて元気を出そう!

僕がおやつうまうましてる間に、リーシャとソルゾ先生の魔力突破は学園に戻ってからすることになったらしい。ここだと万が一、リーシャの魔力が暴走すると王都がやばいからって理由で。
それと、明日お医者さんに体調を見せてよければ午後から学園に戻ることになった。今度はワイバーンで帰るんだって! わーい!
じゃあ帰る前にレシピをたくさん書かないと! ということでレシピを書いては侍女さんに渡し、後宮で試作品を作ってみんなで食べたんだ! もちろんそれが今日のみんなのお夕飯になったことに、むふふと笑う僕だった。


■■■


「グラナージ、もう少しで…もう少しでまたあなたに会える…」

私の呟きは闇に吸い込まれ、消えてなくなる。
私はただの舞台装置。あなたがいなければ動かない。

「もう少し、辛抱していてください」

机に転がる4つのカラフルな卵。
それは私が仕上げたもの。それを見て、私は笑みを消して瞳を閉じる。

「どうかを使わない結末になりますように」


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感想 14

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