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聖女編

怪獣は今日も元気に吠える

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※前半レイジス視点、後半フリードリヒ視点になります。




「んむぅ~…」
「はいはい。お熱があるんでおとなしくしてくださいね」

フリードリヒとその…えっちなことをした翌日。
見事に僕はお熱を出した。
お互い身体を引っ付けて寝てたけど、何も着てなかったのがダメだったみたい。呼吸は苦しくないけど、頭がガンガンする。
まぁ…僕の様子を見に来てくれた侍女さんが慌てふためくくらいには混乱してたみたいだけど、ねむねむな僕は気付いてなかったみたい。ねむねむなままお風呂に直行、しゃわわーとシャワーを浴びてヒツジさんのネグリジェを着せられてベッドへGO!
フリードリヒは大丈夫なんだろうか、なんて思ってたらリーシャが「殿下ならお元気ですよ」と呆れながら教えてくれた。
ちなみに、今部屋にいるのはリーシャとソルゾ先生、それにハーミット先生と侍女さん達だけ。フリードリヒと父様が僕の様子を見たいといっても、侍女さんが通さないらしい。侍女さんつおい。
ソルゾ先生曰く「お熱があって寝てなきゃいけないから入れないのですよ」との理由らしいけど。
だから今は頭にひえっひえのタオルを乗せて、ベッドとお友達。ふわー…。久しぶりにお熱出したー。

「苦しくないですか?」
「んー、へいきー」
「お腹は?」
「すいたー!」

にゃあああ!とそう叫べば「はいはい、おとなしくしてくださいね」とリーシャに言われる。それにしょもんとすれば、ふわりと鼻孔をくすぐるいい香り。

「ご飯!」
「ええ、ご飯ですよ。レイジス様」

しゅばっと起き上がれば、くらりとして、ますんとベッドへ逆戻り。あうううー…。

「お熱があるのに勢いよく起きるからですよ」
「だってぇー…」

べしょべしょと泣きながらそう言えば「泣かない、泣かない」とソルゾ先生に涙と鼻水を拭いてもらいながら、ゆっくりと起こしてもらう。するとお腹と腕の間にヒツジさんのぬいぐるみを入れられる。ほわ?

「これならヒツジさんに支えてもらえますからね」
「持ってきてよかったヒツジさん」

ぐじゅりとべそをかきながら「ありがとう」とヒツジさんを撫でる。

「ご飯はどうします?」
「んー…移動できるかな?」
「無理ならベッドで食べてください」
「むむむ」

さてどうするか、と悩んでいたら「ほう、いい香りだ」と部屋に声が響いた。およよ? この声は?
声の主を知らない侍女さんが戦闘態勢に入るけど「大丈夫だよー」と僕が言えば困惑している。敵じゃないからーと言っても警戒は解かない。まあ、ここ王宮だし今は僕がお熱出しちゃって動きが鈍くなってるからねー。いざという時は多分リーシャと一緒に逃げることになりそう。

「おお、うさぎよ。元気にしていたか?」
「ソルさん!」

にゅうっと歪んだ空間からまたもや上半身だけ現し僕を見て、にっこりと笑ってくれる。
それに侍女さんたちが息を飲んだ気がした。ううーん…。どう説明しよう…。

「来るなら早く来てくださいね?」
「む? そうか?」

ソルゾ先生が苦笑いを浮かべながらそう言えば、にゅるんとソルさんが姿を現す。続いてマーハ君が。おお! マーハ君おっきくなったね!

「ソル! 食べていい?」
「まずはうさぎに聞いてからだな」
「うん?」

食べる? 何を?と首を傾げれば、にっこりとマーハ君が笑う。うんん?

「闇属性が過剰なせいで体調崩してるんでしょ? ならボクが食べても問題ないよね?」
「闇属性を食べる?」

どゆこと?とリーシャもソルゾ先生も首を傾げると、ソルさんが笑う。

「今うさぎの中には闇属性の魔力が過剰な状態だ。その魔力をマーハが食いたい、ということだな」
「闇属性が過剰?」
「ああ。うさぎ。そなたフリードリヒと交尾をしただろう?」
「ぽぎゃ?!」

交尾、と言われてしゅばぼん!と顔を真っ赤にすれば、侍女さん達からはなぜかほんわとした空気が流れる。ほばば! 恥ずかしい!

「で、うさぎの中に吐き出された魔力が過剰になって属性のバランスが崩れているんだ」
「だから、レイジス様がお熱を出した、と?」
「ああ。だが風魔法もだいぶ使っているみたいだからな。熱だけで済んでよかった」
「その言い方だと、風魔法を使っていなかったらもっと酷かった、と聞こえますが?」
「当然だろう。フリードリヒは我と契約しているのだ。闇属性が強いのは当たり前だ。それに、うさぎでなければ最悪死んでいたぞ?」
「ほわ?!」

ソルさんの言葉にアホ毛様がばびょっと伸びる。先生とリーシャも瞳を大きくしてるし、侍女さんに至っては…って侍女さんもいるんだけど大丈夫なの?!

「ん? ああ。そこの侍女たちなら口は堅すぎるくらいに堅いぞ」
「ほへ?」
「彼女たちはレイジス様のお料理に感動した方々です。今日もレイジス様のお世話を誰がするのか大変だったようで…」

そこまで言ったソルゾ先生がどこか遠くを見つめているのは気のせいだろう。うん、きっと気のせいだ。

「じゃあ」
「絶対に口にはしない」
「それにアルシュからソルがこっちに来るかもしれないって聞いてたから」
「そうなの?!」
「今はレイジス様の体調の関係でフリードリヒ殿下と閣下は入室禁止になっていますから」
「…あぁ~。そっかぁ~…」

そうだったよーと笑えば「それよりご飯どうします?」とハーミット先生が言ってくれる。おっとそうだった。ご飯ご飯!

「なら先に過剰な闇魔法を食べちゃえば楽になると思う」
「そういえばそんなこと言ってたね」
「と、いうわけで。食べていい?」
「どうぞ!」
「じゃあ、いただきまーす!」

両手を左右に広げて、さぁこい!と行動で示せば、マーハ君が嬉しそうに僕の頭から何かを吸いだしている。おおお?
そういえばどうやって食べるか聞いてなかった、と今思い出した。でもおいしそうに瞳を細めてもぐもぐしてるマーハ君はちょっと色っぽい。
はぅ、と息を漏らせば「ここにフリードリヒ殿下がいなくてよかった」とリーシャが呟いた。その言葉の意味が分からなかったけど、マーハ君がもぐもぐとまるでお野菜を食べるように口を動かすと、なんだかぽかぽかとして気持ちがいい。
それにうっとりとしていると「ハーミットは見ないこと」とソルゾ先生の声がした。どゆことですか?と首を傾げた。その時。

「わひゃあ!」
「んぐ…おいしいね、レイジスの魔力とフリードリヒの魔力が混ざったところ」

いつの間にかベッドに乗り上げてお腹の辺りに顔を埋めてもぐもぐと魔力を食べてるマーハ君。ひょわ! くすぐったい!
けど、マーハ君が魔力を食べるたびに身体から頭痛が無くなっていくことに気付いた。はわわ! マーハ君すごい!
しばらくもぐもぐしていたマーハ君が顔を上げると、ぺろっとほっぺを舐められた。ひゃわわ!

「ん、ごちそうさま。おいしかった」
「お…お粗末様でした?」

ぐいっと口元をぬぐって、ベッドから降りるマーハ君はさっきよりも成長してて。

「おっきくなったね!」
「魔力がたくさん食べられたからね。ありがと」
「どういたしまして!」

んふーとマーハ君に笑えば、にこりと笑いかけてくれる。っていうかめっちゃ美少年。
魔力不足で子供のマーハ君はよく見るけど、程よく成長したマーハ君を見るのは初めて会った時以来かもしれない。すらっと背が高くて黒髪。これは多分元が黒いうさぎさんだからだろうなー。それに金色の瞳。綺麗。

「それで? お熱はどうですか?」
「あ、さっきより全然楽!」
「それはよかった」

にこりとソルゾ先生が微笑みながら、額に手のひらを乗せられる。ほわわ。

「うん。お熱は下がったみたいですね」
「よかったー!」
「と、なると。次は…」

リーシャがそう意味深に告げると「ぐごおおぉぉ」と僕の怪獣が目を覚ました。それにくすくすと笑うソルゾ先生と「ぷふー」と笑うリーシャ。それに肩を竦めるハーミット先生と「うさぎの腹にはなにか飼っているのか?」と不思議そうにしてるソルさん。マーハ君は「僕のお腹よりすごい音した!」と感動している。
ううう…恥ずかしい…!
ささっとお腹を抱えて「何か食わせろ!」と叫ぶ怪獣を押さえ込もうとしたけどしたけど…。

ぐううぅぅぅ。ぎゅるるるるる。

「ああー!」
「あっはっはっはっはっ!」

声を出して笑うリーシャを睨む気力もなく、お腹を押さえれば侍女さんたちがすでに動いていて。

「朝ごはんの追加をご用意してまいります」
「ふえええええ! ありがとうー!」

綺麗なお辞儀をしてそそーっと部屋を出ていく侍女さんたち。ぱたんと扉が閉まる音を聞いた後、ハーミット先生が「とにかく飯を食え」とテーブルにプレートを置いてくれた。
いい匂い!
しゅばっと立ち上がってベッドを降りて、すんすんと鼻を動かしながらソファへと歩いていけば、テーブルには胃腸に優しそうなチーズリゾットがほこほこと湯気を立てていて。

「おいしそう!」
「火傷しないようにふーふーして食べてくださいね」
「はーい!」

いただきまーす!と手を合わせてリゾットをスプーンで一掬い。ふーふーと何度も息を吹きかけてから、一口…ぱくん!

「んー…! おいひいー…!」
「お茶も飲んでくださいね?」
「はーい!」

ふうふうとリゾットを冷ましながらお茶を飲む。はぐはぐと一人ご飯を食べててふと視線に気付く。おん?

「ソルさんも食べたい?」
「人の子のゴハンはうまいからな」
「最近のガクエンのゴハン、おいしいよね!」
「うん?」

なんで学園のご飯の話をしてるんだろう? こくんと首を傾げれば「たまにガクエンチョウの許可をもらって食堂でゴハンを食べてるからな」「ねー?」とソルさんとマーハ君がニコニコしてる。ええー…。

「たまにレヴィアタンとクラーケンも来てるぞ?」
「ええ?!」

あの二人も来てるの?! 学園の警備はどうなってんのさ?!
びびょーと後ろ髪を逆立ててると、コンコンと扉がノックされた。それにハーミット先生が立ち上がって対応してくれる。
そんな背中を見ながらもりもりとチーズリゾットを食べ終える頃に、侍女さんがキッチンワゴンにたくさんの料理を乗せて戻ってきた。
ほわんほわんと香るいい匂いに再び怪獣が「ぐおおおおぉ!」と目を覚ます。はぎゃあああ! さっきリゾット食べたでしょー!

「ふはっ。うさぎの腹は未知だな!」
「うううう…!」

恥ずかしいけど初めてソルさんの笑顔見たー。ソルさんもカッコいいよねー。
ぼんやりとそんなことを思いながら見ていると、とんとんと肩を突かれた。おん? それに思わず振り向けば、マーハ君がそわそわとしてて。

「どうしたの?」
「ご飯…食べてもいい?」

きゅるるんと上目使いでそう告げるマーハ君に「否」という選択肢はない。可愛い! 一緒にご飯食べよ!

「もちろん!」
「やったー! ソル!ご飯!」

わーい!と喜ぶマーハ君がいそいそとソファに座って、テーブルに並べられていく料理を見ている。

「レイジス様が増えた」
「増えましたね」

にこにことしながら待つマーハ君を見てソルゾ先生とリーシャがぽそりと呟く。

「ソルゾ先生も、リーシャもハーミット先生もソルさんも座って座ってー!」

ぱすぱすと空いてるソファへとみんな座るように言えば「はいはい。座りますよ」とリーシャが動き、ソルさんも先生たちも座る。
おやつとご飯、半分ずつ乗せられたテーブルはちょっとしたパーティ! やふー!

「いただきまーす!」
「いただきます!」

僕とマーハ君の声が重なると、もぐもぐと勢いよく食べ始める。んまままー!

「おいしー!」
「食べたことない料理だー!」

んふんふと鼻を鳴らしながらマーハ君と一緒にご飯を食べる。ソルさんも料理に手を伸ばし、食べ始めるとリーシャも先生たちもおやつに手を伸ばす。
おいしい料理に舌鼓を打っている僕はその時、すっかりと忘れてたんだ。
フリードリヒと父様のことを。


■■■


「そ…んな?!」

父上に呼ばれ、通されたのは私室。滅多に入れない所に来て知らず肩に力が入る。
ソファに座りカップを用意されたが、なぜ呼ばれたのかは分からなかった。いや。恐らくはレイジスのことだろう、とは予想しているが。
昨日レイジスと結ばれたことは父上の耳に入っているはずだ。
こくりと乾いた喉を潤すようにカップを傾ければ父上がそのパンジー色の瞳を嬉しそうに細めた。

だから語られたことに衝撃を隠せなかった。

「まさか…そんなことがあるというのですか?!」
「ああ。我々ウィンシュタイン王家の男はみな『聖女の呪い』でそうなっている」

語られたことのショックが大きすぎて父上の言葉が入ってこない。
まさか…まさか…!

ユアソーン家の男とウィンシュタイン王家の男は惹かれあうようになっている、などと…!

なぜ。なぜそんなことを今、告げるのだろうか。
揺れる瞳で父上を見れば、じっと私を見つめている。

「本当ならばお前が学園に入る前に話しておくべきだった。だが…レイジスがああなっていたから可能性は低いと思っていた」
「だ…ったらなぜ今…!」

レイジスと結ばれた翌日にそんなことを告げられても…!

「だからだ。よく考えろ、フリードリヒ。レイジスへの気持ちを」
「―――ッ!」

ギリッと奥歯を噛み締め父上を睨めば「お前の気持ちは良く分かる」と瞳を閉じる。
それは私の気持ちを理解しているようにも見えて。そこでふと先の言葉を思い出した。

「まさか…父上は…」

ユアソーン家とウィンシュタイン王家の男。確かに父上はそう言った。ならば…。震える唇でそう問えば、父上は躊躇うことなく頷いた。

「ま…さか…!」
「ああ。私とフォルスはそういう仲だ」

ひゅっと息を鳴らすと、信じられないものを見る。
フォルスと父上が私とレイジスと同じ関係…?! だとすれば母上からのあの視線は…。
そして。

「ちょ…ちょっと待ってください! ユアソーン家と王家ということは…?!」
「ああ。お前とフォルス、私とレイジスもそうなる可能性があった、ということだ」

父上の言葉にすぅっと手が冷えていく。
レイジスが…父上と?
レイジスの隣に、父上が?
そう思った瞬間、ぶわりと殺意が沸く。実の父親だろうがレイジスを奪うのならば容赦はしない。

「落ち着け。フリードリヒ」
「―――…ッ! …っは、はぁ…」

静かに名前を呼ばれ、ハッとすれば父上が優しく私を見つめている。あ…。私は…!

「ふふっ。さっきは意地が悪いことを言った」
「父…上?」

私は今、何を…?
怒りに任せて父上を…?
そのことにぞっとしたが、父上は楽しそうに笑みを浮かべている。珍しい父上の表情に思わずぽかんとすれば「いや。すまない」とふふっ、ふふふっと肩を震わせて笑っている。
本当に珍しい。
私も数えるほどしか父上が笑ったところを見たことがない。そんな父上が…。笑っている。

「親を殺そうとするほどの激情があるのなら大丈夫だろう」
「は、はぁ…」
「テネブラエ様はお前を選んでいる」
「父上?」

笑みを消し、私を見つめているがその瞳はとてもとても優しく、温かかく…。

「お前たちなら大丈夫だ」
「父上?」
「お前たちならば、この歪な世界を元に戻せる」
「父上…」

それだけ言うと、カップを傾ける。

「…必ず。必ずレイジスと共に元に戻してみせます」

私のその言葉に満足したのか「期待している」と頬を緩めた父上に、私の淀んだ気持ちも晴れた。
光魔法が使えない王族。そう言われ続け父上にも母上にも愛されていないと思っていたが、そうではないと気付いた。

「フリードリヒ」
「はい」
「お前には謝らなければならない」
「謝る? 父上が?」
「ああ」

父上の言葉に眉を寄せれば「そう硬くなるな」と笑われた。
いえ。私が謝らねばならないことはありますが、父上から謝られることは…。

「実はな。諦めていたのだ」
「諦め…?」
「ああ。どうせ選択を間違えるのだと」
「今回?」

父上の言葉に眉間の皺を深くすれば「すまない。そうか、お前は覚えていないのだったな」と力なく笑う。
覚えていない?

「どうにかしてこのループを断ち切ろうと何度もお前にはレイジスを大切にしろと言ったが、それを聞かずお前は選択を間違え続けた」
「……………」
「ならば今回もそうだと思って愛情を注ぐことをやめてしまったのだ」

私が父上から愛されない理由。それを聞いたとき、沸き上がったのは怒りでも悲しみでもなく困惑だった。
あの父上が、肩を落としているのだから。
玉座に凛と座る父上しか知らない私にとっては衝撃に近いかもしれない。けれどそれ以上に私の知らない所で父上に負担をかけていたのだと察する。

レイジスを大切にしろ。

それを守らなかったのは恐らくロゼッタ様の妨害のせいだろう。
だがそれを知った父上は激高した。無理もない。私とて信じられなかったのだから。

「だが、今回は違った」
「父上…」
「それが分かった。お前は選択を間違えない」

真っすぐ私を射抜く瞳に、こくりと頷く。
私は今度こそ選択を間違えない。
何があってもレイジスを愛する。
私の決意を見た父上が、ふと笑う。

「フリードリヒ」
「はい」
「大きくなった」
「―――ッ!」

その言葉だけで涙が出そうになるのを俯き唇を噛んで耐えれば、温かなものがそっと手に触れた。
それに顔を上げれば、父上が膝をつき私を見つめている。

「本当に。大きくなったね」
「―――っ!父上!」

子供のようにその首に抱きつけば、ぽんぽんと背中を優しく叩かれる。

「フリードリヒ。私の、愛しい子よ」

父上のその言葉で耐えていたものが決壊した。
涙を見せてなるものかと思っていたものがすべて壊され、あふれ出る。父上。父上。

「今まで辛い思いをさせてすまなかったね」
「いえ…! いえ…!」
「お前が女性嫌いになったのも私のせいだ。すまない」
「ちが…! それは…、違う!」

あれはあのおかしな女のせいだ、と言おうとしたがぎゅっと抱きしめられそれは言えなくなった。

「レイジスを…」
「え?」
「レイジスを頼むぞ。フリードリヒ」

私を抱きしめるその腕に力がこもり、まだ隠された何かがあるのだと教えてくれた。だが今は。
今だけは。

「分かりました」
「さすが私の子だ」

心が離れてしまった年数を取り戻すように私と父上はしばらく抱き合い、そして笑う。

「私はいつでもフリードリヒ、お前の味方だ。どんな結末を迎えようと、な」
「父上?」

結末、という言葉と共に込められた力。
しかし…私を見つめるその瞳には何が見えているのですか?


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