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海編
温泉!
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「あっつーい!」
ほかほかの身体を冷やす為にざばりとお湯からあがれば「ちょっと! レイジス様! タオルタオル!」とリーシャが慌てる。いいじゃなーい。ここ、僕とリーシャとソルゾ先生しかいないんだからー。
でも確かにそのままはあれかなー?と思い直してリーシャにタオルを貰って腰に巻く。
ふえーい。潮風が気持ちいいー。
はい。今僕らは村の近くにある温泉に来ています。
え? なんで急に温泉なのかって?
実はさ、あの村の人たちの住んでるところがちょっと歩いたところにある山なんだよね。しかも温泉があって、そこから海が見えるの! 無茶苦茶綺麗でねー。
しかもこれ、例のサルマーさんが作ったらしい。ついでに言えばあの村も加工工場ってことを知られないために「どうせなら村にして誤魔化せ」というサルマーさんのお言葉で村になってるみたい。
サルマーさんって十中八九日本人だよね…。漁業に詳しいみたいだったらしいから漁業関係者だったのかも? まぁ、なんにせよサルマーさん、ありがとう。おかげで僕も温泉にありつけます。
しかもお風呂がヒノキで作られてるからいい匂いするし、絶景だしもう最高! それに村の人たちにはちょっとした試験的なものをしたいからという理由で水の魔石で冷蔵庫・改を作って置かせてもらっている。土魔法でガラスを作って小型のアイスクリームのショーケースみたいなものを作ったんだ。何やかんや言って金のスキルが滅茶苦茶役に立った。僕が作るとガラスの透明度が違う。曇りガラスとガラスくらいの違いなんだもん。
それにガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子も驚いてたけど、僕が金のスキルを使ったことでガラムヘルツ殿下に金のスキルが付与されたらしい。これさ、適合者がいればスキルとか付与されまくるんじゃ? リーシャの光魔法もそうだったみたいだし。
何かしら条件はあると思うんだけど。
それでその試験的な冷蔵庫には牛乳とコーヒー牛乳が入れてある。もちろん瓶は僕が作った。牛乳瓶だから光魔法があれば何度も使えるしね。協力してもらっているからって費用はぜーんぶこっち持ち。とはいっても費用は僕の魔力だし。美味しいご飯を頂ければそれで十分。
リーシャの氷の魔石も試験的に使ってちゃんと冷えているかどうかを調べるために、村の人たちの好意でこうして温泉に浸かっているってわけ。
お湯だからレヴィさんとクラさんは「我らを茹でる気か」って言ってた。そんな温度なら僕らもただでは済まないよって笑ったら「…興味はある」とクラさんの一言でレヴィさんも付き合うことに。
それから皆で移動してリーシャが光魔法で湯船を浄化。しょわっと汚れも綺麗にしてさぁ入ろうぞ!としたらそっとフリードリヒに背中を押されて追い出された。
「なんでですかぁー!」と泣きながら引き戸を叩いていたら「レイジスは、リーシャとソルゾと入ること。いいね?」と言われた。
皆とお風呂に入れるかと思ってわくわくしたのにー! すんすんと鼻を鳴らしてしぶしぶ女湯へと移動してリーシャとソルゾ先生と一緒に温泉へ。というか見事に魔法科組と騎士科組と別れちゃったなー。
「何かあったら私たちでは力じゃかないませんからねぇ…」
「ああー。確かに。魔法を使えなくされたら非力どころじゃないですし」
「うえーん」
いつまで泣いてんですか、とリーシャに背中を擦られソルゾ先生には頭を撫でられ慰められる。
というか何かあったらって…何もないですよね?
「僕は一緒にお風呂入ってレイジス様の裸を見てるけど、アルシュもノアもハーミット先生も他の王族二人も魔物二人もたぶん間違いを犯すには十分ですよ」
「うん?」
「今ならよく分ります」
うんうんと頷いてるソルゾ先生もリーシャも肌が温まってピンク色だから色気がすごいんだぞー! っていうか間違いって何さー。と言い返そうと思ったけどなんかすごい言葉が聞こえてきた。え? ガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子もレヴィさんとクラさんと一緒に入ってるの?
「元々ここに来る予定はなかったので、村の人たちの負担を少しでもなくすために一緒に入っていただいてます」
「ほへぇ。そうなんだ」
「それもあって僕らは追い出されたんですよ」
「そっか…」
別に構わなかったんだけどなーと思いながら温泉を楽しみ、なんと浴衣まで用意してもらっちゃった。ああー。旅館ってかんじだね!
「布一枚…」
「おお! これ綿だー! いいねいいね!」
「というかどうやって着るんですか? これ?」
そっか。二人は分んないよね、とちゃちゃっと着替えてまずはソルゾ先生を着つけることに。
「こうやって…帯を締めておしまいです」
「…不安すぎますがこれでいいんですか?」
「はい! 結構涼しいんですよ?」
「じゃなくて布一枚なんですよ?!」
「そだねー」
浴衣だからねーと笑ってリーシャも着付けをする。おお! ソルゾ先生色っぽさが増したね! ドキッとしちゃう! リーシャも似合ってるよー!
「…レイジス様」
「うん?」
「レイジス様はこれ着ちゃいけないと思うんですよ」
「なんでよ?!」
「その…色気が…。私もドキッとします」
「ええー?」
そんなもんないでしょ。と首を傾げて「気のせいだよー」と言ったけど眉を寄せてる二人。ううーん…。
「じゃあそこ開けて、誰かに見てもらってダメなら着替える」
「ぜひそうしてください」
「もー。心配性なんだからー」
にゃははと笑いながら扉の前で「誰かいますかー?」と呼べば「いかがされましたか?」と返ってきた。
お? 扉の前にいるのはアルシュだ!
その声に振り向くと、2人が頷く。それに「ちょっと見てもらい物があるんだけど」と言えば「はい?」と困惑した声がした。
「とにかくそこ開けてー」と言えば、引き戸ががらりと開く。
「ね、ね。リーシャと先生がこれダメって言ったんだけどアルシュはいいよね?」
ぴよっと両手を伸ばして浴衣を見せながら、かくんと頭を倒して「いいよね?」と聞いてみる。
するとなぜかアルシュの後ろがざわつく。え? え?
そしてスパーン!と勢いよく引き戸が閉められると「ダメです!それはダメです!」と扉の向こうから言われてしまう。
ええー! ダメなのー?
しょん、と肩を落として「ダメだった…」と言えば「まぁ…でしょうね」とソルゾ先生が苦笑いを浮かべる。
「じゃあ着替えましょうか」
「はぁーい…」
リーシャに言われてもそもそと着替え始めると扉の向こう側が一層騒がしくなったけど「ああ、虫でも出たんでしょう」というソルゾ先生の言葉に、黒くてカサカサしたのだったら嫌だなぁ、なんて思いながらワンピースの首からぷはっと顔を出した。
ちなみに今日は二日間ほどいなかったルスーツさんが大量に夏服をプレゼントしてくれたものを着ている。ここ二日間いなかったのはショッピングを楽しんでたかららしい。それで「レイジス君に似合うと思って」と昨日の夜、箱が大量に届いた。
それを侍女さん達が全て開けて検品してくれた。ありがとー!
でも僕、昨日は疲れてぐっすりと寝ちゃってた…。ううう…。
でもいいのかな?ってフリードリヒに聞いたら「好意はありがたく受け取っておこうか」とプレゼントされた服の中からワンピースを選んで着せてもらった。っていうかワンピースって楽だねー。涼しいし。
「ルスーツ夫人のセンスは外れがないな」と言いながらプレゼントされた服を一枚ずつ広げては確認していくフリードリヒ。それに先生たちも頷いていた。
もちろんワンピースの下はズボンを穿いている。風が吹いてパンツ見えたら可哀相だし。それにちゃんと男の子用のズボンもプレゼントされてたんだ。
ふわふわな裾だけどうさうさバッグで押さえちゃうからあんまりふわふわしないのがあれだけど。
髪は二つのお団子にしてもらってるから項が丸見えでちょっと恥ずかしい。けど涼しいんだよねー。日差しが強いからって前かぶってた麦わら帽子はリーシャが持ってくれている。
「さ、行きましょうか」
「はーい!」
着てきた服に着替えて扉を開ければなぜかそこには誰もいなくて。あれれー? アルシュはー?と思っていたらガラムヘルツ殿下が僕の元に駆け寄ってくる。あれ? フリードリヒは?
「レイジス! 君は大丈夫かい?!」
「ほへ?」
「さっきまでここにいた者達が鼻血を出して倒れたらしいのだが…」
「ううん?」
鼻血? どうしたんだろう? 大丈夫なのかな?
あれ? じゃあアルシュも? 何があったのかな?
「あー…絶対さっきのですよね…」
「アルシュ君でうまく隠れているかと思ったら無理でしたね…」
「?」
なんかリーシャとソルゾ先生がこそこそと話してるけどなんだろう? ま、いーや。
それよりも鼻血を出して倒れた人たちだよ! 大丈夫なの?!
「鼻血を出した者達は少し休めば問題はない」
「そうですかー…よかったー」
「ああ。氷の魔石があったおかげでな」
「お役に立てたのならよかったです」
にこりと笑うリーシャだけど、視線が逸らされてるのはなんでだろう?
「ああ。それと水の魔石で冷やしたものがあるから、と呼んでいたぞ?」
「ありゃ。でも倒れた人たちは…」
「そちらは大丈夫だ。先にそちらへ行けとフリードリヒに言われている」
「フリードリヒ殿下に?」
んー…。なら先にいった方がいいよね?と、ちらっとソルゾ先生を見ればこくりと頷かれたから「分かりました」と頷く。そしてそのままガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子と共に冷蔵庫・改の元へと歩いていけばそこにはレヴィさんとクラさんがいた。およ?
「どうかしましたか?」
「ああ。そなたか。ここは涼しいからな」
「蒸されるかと思った…」
「ありゃりゃ。お風呂熱かったですか?」
「だがあれはありだな」
「うむ。たまになら入ってもいい」
あら? 意外とお気に召されたみたい。でも熱くし過ぎて本当に茹でレヴィアタンとクラーケンにならないでくださいよ?
「っとそうだった。これ出してみましょうか」
「いいのか?」
「その為の実験ですから」
そう言いながらぱかりとガラスでできた蓋を開ければ、冷やりとしたものが顔に当たる。ほわぁ。意外と水の魔石でもいけるかも? それから並んでる牛乳とコーヒー牛乳を人数分取りだして「どっちがいいですかー?」と聞いてみる。
「なぜ牛乳?」
「んー…? 伝統、ですかね?」
「伝統?」
「よく分んないんですけど、お風呂あがりには冷えた牛乳かコーヒー牛乳なんですよねー?」
「ふむ?」
魔物二人はよく分んないからコーヒー牛乳の瓶を渡して、慣れてなさそうな王子2人には牛乳を。僕もコーヒー牛乳を手にしてリーシャと先生には牛乳を。
紙で作った蓋をカリカリと爪で引っ掻き、きゅぽん、と開ければ「え? これそうやって開けるんですか?!」と困惑しているリーシャ。そだよー?
すると皆カリカリと爪で蓋を引っ掻き出す。うふふ。でも面倒だからね。
「風魔法でしゅぽんとできるはずだよー?」
「それを早く言ってくださいよ!」
むきゃーと怒るリーシャに「だってこうやって取った方が楽しいじゃない?」と笑えば「確かに」とガラムヘルツ殿下が頷く。それにまだ試してる段階だからねー。無理なら変えちゃえばいいんだし。
そう思っているとソルゾ先生が皆の蓋を風魔法で「しゅぽん」と抜いている。お? これだとメンコが作れそうだねー。
じゃなくって。
牛乳瓶は冷えてるからこっちは合格、かな? この分だと中身も冷えてそう。では!
「いっただっきまーす!」
いざ!
腰に手を当てて、ごっごっごっ!と豪快に飲んでいると、ぽかんとした皆の顔。おお? どうしたどうした? でも今はコーヒー牛乳を飲むのだ!
一気にそれを飲み干し「ぷあー!」と息を吐けば「レ、レイジス様?」とソルゾ先生がものすごい顔をしている。うん?
「本当にレイジスを見ていると貴族とはなんなのか考えさせられるな」
「一気飲みするのに身分なんか関係ないですよー」
「そう言えばアンギーユの時もそうでしたね。『美味しいものを食べるのに身分なんか関係ない』と」
「ほう?」
「いいんですよー! ここではこれが流儀みたいなものなんですから!」
「リュウギ?」
「やりかたとかしきたりとかですね。ここでは上品なことやってるとあんまりおいしく感じなかったりしますからね! さ! ぐいっと行ってみよう!」
いえーい!と空になった瓶を持ち上げれば、レヴィさんとクラさんが「イタダキマス」と言ってから瓶を傾ける。それをあっという間に飲み干すと「ぷはっ」と息を吐く。
「おお! これは…!」
「冷たいな」
「ふっふー!」
火照った身体に冷たい牛乳最高! いえーい!とレヴィさんとクラさんとハイタッチをすれば、特攻隊長のリーシャが「では…!」と言って一気に傾けた。それを見てソルゾ先生が続き、王族2人も続いた。
それぞれが「ぷはっ」と息を吐いた後、なぜか感動している。うんうん。分かる! 分かるぞ!
「これは美味い…!」
「こうすると牛乳もこれほど美味になるのか」
「熱かった身体が冷えていく感じがしますね」
「普通の牛乳がここまで変わるんだ…」
それぞれの感想を貰って、僕満足。なら水魔法でも十分冷やせることが分かっただけでも収穫。あとは…。
「レイジス!」
「フリードリヒ殿下!」
わーい!と飛びつけば難なく受け止められる。それからぞろぞろと後ろから人がやって来た。おお?!
「君は大丈夫かい?」
「何がですか?」
首を傾げてフリードリヒに聞けば「ああ、なるほど」と何か納得している。うん?
「いや。無事ならいいんだ」
「悪いな。あいつらが世話になった」
「いや。原因はこちらみたいだからな」
「ううん?」
よく分んないけどフリードリヒが苦笑いしてるってことはあんまり大事なことではない?
「あいつらも鍛錬が足りんことが分かったから戻ったら倍にでもするか?」
「やめてやれ。ただ見たことを口外しなければ、な」
「分かっている。はぁ…私も見たかった…」
「おい妻帯者」
和気あいあい?と話しているとおばちゃんが「ああここにいたのかい! 言われたものができたよ!」とわざわざこっちまで持ってきてくれた。
「ああ。レイジスが言っていたものか」
「わーい! 甘い匂いー!」
ふんわりと香る甘い匂いにふんふんと鼻を動かせば「こっちで食べとくれ」と座敷に案内される。ふわー! お座敷だぁ! サルマーさんありがとう!
「これはまた変わったものだな」
「あばばば! 靴! 靴脱いでください!」
「うん?」
そうだよね! 靴を脱いで上がるなんてことないもんね! すると皆がよく分らない、という表情を浮かべながらも靴を脱いでお座敷へ。
ふわー…。イグサのいい匂いー。
ちゃぶ台の周りに座布団が置いてあってそこに座ってくださいーと言えばみんなが座ってくれる。ここで合流したアルシュ、ノア、ハーミット先生も一緒に。
「はいよ! あんなものが作れるとは思わなかったよ!」
「あ、よかったです! 今度からはここだけしか売らないようにするといいですよー!」
「? なんでだい?」
「ここに来なきゃ食べられない、っていうご当地感を出すんですよ」
ふふふと笑えば「わぁ。悪い顔してるね」とフリードリヒに突っ込まれる。お、珍しい。
「それとフリードリヒ殿下にも言いましたがこことよく似た建物を作って宿泊施設にすればいいと思います」
「それに関しては父上に話をしなければならないがな」
「ところで、これは何だ?」
ほわんほわんと湯気を立てているそれを覗き込む魔物ズ。興味津々だねー。と思っていたらここでルスーツさんがやってきた。
「あら! やっぱり可愛いわね」
「お洋服ありがとうございました」
「いいのよ。レイジス君を見てると可愛いお洋服いっぱい買いたくなっちゃうもの。あの子はまだ小さいからサイズが合わないし」
「あはは。ありがとうございます」
「うふふ。気に入ってくれたのならいいわ」
あれ? なんか口調が砕けてる? 気のせいかな?
「それで? これは?」
「ああ、これはお饅頭ですね」
「オマンジュウ?」
「温泉まんじゅうです! 地熱を利用するのがいんですがそっちは温泉卵でうまうましてもらおうかと」
「へぇ」
「成分によっては匂いが付いちゃうので、これは普通に蒸してもらいました」
って説明してるけど魔物ズがそわそわしてて可愛い。うふふ。
「じゃあ食べましょうか!」
「あたしらは一足先に味見したからね」
「どうでした?」
「美味しかったよ!」
「よかったー! じゃあ後で別のレシピを渡しておきますねー!」
「ああ! ありがとうね! お嬢ちゃん」
そう言ってすそーっと去って行くおばちゃんに手を振ってバイバイをすると、お饅頭をすでに手にしている魔物ズがいろんな角度から見ている。んふふー。
ガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子の分をお皿に分けて渡すと、やっぱり手掴みに抵抗があるみたい。フリードリヒ達はもう慣れっこだもんね。
「それじゃあいただきまーす!」
もぐっ!と一口食べれば、餡子の甘味が口に広がる。ほわー! んまー! これには牛乳が合う! 絶対!
そう思いながらむっむっとおまんじゅうを食べれば、フリードリヒ達も「これは美味しいな」といいながら食べてくれる。けど。
「どうしたの? アルシュ?」
「いっ、いえ。お気になさらず」
「大丈夫? 顔赤いよ?」
「だ、大丈夫です」
とまぁなんともよそよそしい回答に首を傾げれば「ああ。アルシュの事は大丈夫だ」とにっこりとフリードリヒが微笑む。なんかちょっと怖い気がするけどアルシュも「大丈夫ですから」と何度も言っているから大丈夫なのかな? 戻ったらお医者さんに診てもらおう?
もぐもぐとお饅頭を食べて、お魚尽くしのお昼ご飯も食べて村の人とバイバイする。これからの事は僕じゃなくてフリードリヒのお父さんが決めるからね。それと冷蔵庫・改。それはそのまま使ってもらうことに。なにかあれば言ってくださいねーとは言ってあるけど大丈夫かな? って思ったけど、陛下に海の事をせっついたことがあるからそんな心配はないと思う。
そうそう。スワリさんとカルモさんなんだけど…。
実はあの二人、あの港町の領主さんとこの村の村長さんと入れ替わってた。
スワリさん曰く「俺はあんなところに押し込められるより、漁をして喧嘩してた方が性に合うからな」と笑い、カルモさんは「漁をしてもそれ程うまくはなく困っていた所を、ただ字が読めるというだけでスワリ様に助けていただきました」と言っていた。
本来ならば許されないんだろうけど、ここ数十年王族は来てないし、入れ替わっててもばれないだろうということで今までばれずに済んだから大丈夫だろう、と思ってたらしい。
けど実際はばれちゃた訳で。
「処罰は受ける」
「処罰? 何のことだ?」
「は?」
可愛らしく首を傾げるフリードリヒにスワリさんもカルモさんもぽかんとしている。
「私は父に『海の様子を見て来い』と言われただけだ。領主の事は知らないし、何も知らない」
そう言うフリードリヒはどこかいたずらっ子の悪戯が成功したような笑みを浮かべていて、思わず僕は抱き付いた。
「どしたんだい? レイジス」
「うー! ありがとうございますー!」
「なんでお礼を言われているかわからないけどね」
そう言いながら頭を撫でてくれるフリードリヒの胸にぐりぐりと頭を押し付ける。
「甘いような気がするが私がどうこう言えることじゃないからね」
「これはウィンシュタインの問題だからな。私は見なかった」
そう言って王族2人も知らない、と言ってくれたからスワリさんとカルモさんには処罰はなし。よかったー!
それからレヴィさんとクラさんともお別れのバイバイ。クラーケンの姿になったクラさんはやっぱり可愛くて最後に抱き着けば、うねうねと足を動かしてた。くううう! 可愛いー!
“ウミノコトハ、ワレラニマカセロ”
“ソナタタチノカイイキモ、ワレラガセキニンヲモッテカンシスル”
「ああ、頼んだ」
“アーブトバードニモデンゴンヲタノムゾ”
「分かった」
ちなみにフリードリヒが通訳してるんだけど、なんで人型の時に言わなかったの…。
でもアーブさんとバードさん?ってやっぱり偉い人なんだろうなー。王子様に伝言を頼むくらいだし、一度会ってみたい。
“レイジス”
「なぁに?」
“マタアオウ”
「うん! またね!」
バイバーイ、と手を振ると二匹が海へと沈むとそれきり浮かび上がってこなくなる。きっとまたこの海でまた会えるよね。
「では我らも戻るよ」
「ああ。楽しかった」
そう言ってガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子とバイバイをする。その前にぎゅうと抱き付いて「また会えますか?」って聞いたら「もちろん」と言ってくれた。二人に頭を撫でてもらってバイバイ。
ううう…寂しいよぅ…。
ルスーツさんは荷物がたくさんあるからって早めに準備してるんだって。最後に会いたかったなーって思いながらみんなとお別れをして僕たちも帰る準備。とはいっても僕らはワイバーンだからね。荷物も多くはな…いや。ありました。僕の服がありました。
たくさんの箱を持って帰るとものすごいかさばるから、うさうさバッグに全部入らないかな?とすーと入れてしゅぽん!と勢いよく吸い込みを繰り返した結果…全部入りました。しゅごい! それを見た侍女さんも僕も大興奮。っていうかどれだけ入るの?! このバッグ?! 心なしか誇らしげに見える。すごいぞー!
それとお世話になったお医者さんに「ありがとうございました」と挨拶をすれば「私の方こそのんびりさせていただきました」とお礼を言われてしまった。それと水魔法と風魔法の入った魔石は泊まったところの全室に設置できるように大量に作って渡したらものすごく驚かれた。色々とご迷惑をおかけしました。主にソルさんが。
そんなこんなでワイバーン隊の皆さんと再会。
「こんにちは! レイジス様!」
「こんにちは! セレナも元気そうだね!」
「きゅるるるっ」
ワイバーンのセレナとじゃれれば「荷物はこれだけですか?」とグルキテスさんが意外だ、という表情で見ている。
お土産とかはたぶん後日届くからねー。侍女さん達へのお土産もたっぷりあるし、これでしばらくは海とお別れ。
「では、学園までお送りいたしますね」
「はーい!」
シンリックさんのその言葉と共にばさりとセレナが浮き上がる。そしてある高さまで浮かぶと「レイジス様。夕日がきれいですよ」とシンリックさんに言われて振り返れば、海へと溶けていく太陽がすごく綺麗で。
「ほわぁ…」
「また来ようか、レイジス」
「はい!」
フリードリヒの言葉に全力で頷くと、セレナがばさりと翼を羽ばたかせ学園の方へと向かうのだった。
ほかほかの身体を冷やす為にざばりとお湯からあがれば「ちょっと! レイジス様! タオルタオル!」とリーシャが慌てる。いいじゃなーい。ここ、僕とリーシャとソルゾ先生しかいないんだからー。
でも確かにそのままはあれかなー?と思い直してリーシャにタオルを貰って腰に巻く。
ふえーい。潮風が気持ちいいー。
はい。今僕らは村の近くにある温泉に来ています。
え? なんで急に温泉なのかって?
実はさ、あの村の人たちの住んでるところがちょっと歩いたところにある山なんだよね。しかも温泉があって、そこから海が見えるの! 無茶苦茶綺麗でねー。
しかもこれ、例のサルマーさんが作ったらしい。ついでに言えばあの村も加工工場ってことを知られないために「どうせなら村にして誤魔化せ」というサルマーさんのお言葉で村になってるみたい。
サルマーさんって十中八九日本人だよね…。漁業に詳しいみたいだったらしいから漁業関係者だったのかも? まぁ、なんにせよサルマーさん、ありがとう。おかげで僕も温泉にありつけます。
しかもお風呂がヒノキで作られてるからいい匂いするし、絶景だしもう最高! それに村の人たちにはちょっとした試験的なものをしたいからという理由で水の魔石で冷蔵庫・改を作って置かせてもらっている。土魔法でガラスを作って小型のアイスクリームのショーケースみたいなものを作ったんだ。何やかんや言って金のスキルが滅茶苦茶役に立った。僕が作るとガラスの透明度が違う。曇りガラスとガラスくらいの違いなんだもん。
それにガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子も驚いてたけど、僕が金のスキルを使ったことでガラムヘルツ殿下に金のスキルが付与されたらしい。これさ、適合者がいればスキルとか付与されまくるんじゃ? リーシャの光魔法もそうだったみたいだし。
何かしら条件はあると思うんだけど。
それでその試験的な冷蔵庫には牛乳とコーヒー牛乳が入れてある。もちろん瓶は僕が作った。牛乳瓶だから光魔法があれば何度も使えるしね。協力してもらっているからって費用はぜーんぶこっち持ち。とはいっても費用は僕の魔力だし。美味しいご飯を頂ければそれで十分。
リーシャの氷の魔石も試験的に使ってちゃんと冷えているかどうかを調べるために、村の人たちの好意でこうして温泉に浸かっているってわけ。
お湯だからレヴィさんとクラさんは「我らを茹でる気か」って言ってた。そんな温度なら僕らもただでは済まないよって笑ったら「…興味はある」とクラさんの一言でレヴィさんも付き合うことに。
それから皆で移動してリーシャが光魔法で湯船を浄化。しょわっと汚れも綺麗にしてさぁ入ろうぞ!としたらそっとフリードリヒに背中を押されて追い出された。
「なんでですかぁー!」と泣きながら引き戸を叩いていたら「レイジスは、リーシャとソルゾと入ること。いいね?」と言われた。
皆とお風呂に入れるかと思ってわくわくしたのにー! すんすんと鼻を鳴らしてしぶしぶ女湯へと移動してリーシャとソルゾ先生と一緒に温泉へ。というか見事に魔法科組と騎士科組と別れちゃったなー。
「何かあったら私たちでは力じゃかないませんからねぇ…」
「ああー。確かに。魔法を使えなくされたら非力どころじゃないですし」
「うえーん」
いつまで泣いてんですか、とリーシャに背中を擦られソルゾ先生には頭を撫でられ慰められる。
というか何かあったらって…何もないですよね?
「僕は一緒にお風呂入ってレイジス様の裸を見てるけど、アルシュもノアもハーミット先生も他の王族二人も魔物二人もたぶん間違いを犯すには十分ですよ」
「うん?」
「今ならよく分ります」
うんうんと頷いてるソルゾ先生もリーシャも肌が温まってピンク色だから色気がすごいんだぞー! っていうか間違いって何さー。と言い返そうと思ったけどなんかすごい言葉が聞こえてきた。え? ガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子もレヴィさんとクラさんと一緒に入ってるの?
「元々ここに来る予定はなかったので、村の人たちの負担を少しでもなくすために一緒に入っていただいてます」
「ほへぇ。そうなんだ」
「それもあって僕らは追い出されたんですよ」
「そっか…」
別に構わなかったんだけどなーと思いながら温泉を楽しみ、なんと浴衣まで用意してもらっちゃった。ああー。旅館ってかんじだね!
「布一枚…」
「おお! これ綿だー! いいねいいね!」
「というかどうやって着るんですか? これ?」
そっか。二人は分んないよね、とちゃちゃっと着替えてまずはソルゾ先生を着つけることに。
「こうやって…帯を締めておしまいです」
「…不安すぎますがこれでいいんですか?」
「はい! 結構涼しいんですよ?」
「じゃなくて布一枚なんですよ?!」
「そだねー」
浴衣だからねーと笑ってリーシャも着付けをする。おお! ソルゾ先生色っぽさが増したね! ドキッとしちゃう! リーシャも似合ってるよー!
「…レイジス様」
「うん?」
「レイジス様はこれ着ちゃいけないと思うんですよ」
「なんでよ?!」
「その…色気が…。私もドキッとします」
「ええー?」
そんなもんないでしょ。と首を傾げて「気のせいだよー」と言ったけど眉を寄せてる二人。ううーん…。
「じゃあそこ開けて、誰かに見てもらってダメなら着替える」
「ぜひそうしてください」
「もー。心配性なんだからー」
にゃははと笑いながら扉の前で「誰かいますかー?」と呼べば「いかがされましたか?」と返ってきた。
お? 扉の前にいるのはアルシュだ!
その声に振り向くと、2人が頷く。それに「ちょっと見てもらい物があるんだけど」と言えば「はい?」と困惑した声がした。
「とにかくそこ開けてー」と言えば、引き戸ががらりと開く。
「ね、ね。リーシャと先生がこれダメって言ったんだけどアルシュはいいよね?」
ぴよっと両手を伸ばして浴衣を見せながら、かくんと頭を倒して「いいよね?」と聞いてみる。
するとなぜかアルシュの後ろがざわつく。え? え?
そしてスパーン!と勢いよく引き戸が閉められると「ダメです!それはダメです!」と扉の向こうから言われてしまう。
ええー! ダメなのー?
しょん、と肩を落として「ダメだった…」と言えば「まぁ…でしょうね」とソルゾ先生が苦笑いを浮かべる。
「じゃあ着替えましょうか」
「はぁーい…」
リーシャに言われてもそもそと着替え始めると扉の向こう側が一層騒がしくなったけど「ああ、虫でも出たんでしょう」というソルゾ先生の言葉に、黒くてカサカサしたのだったら嫌だなぁ、なんて思いながらワンピースの首からぷはっと顔を出した。
ちなみに今日は二日間ほどいなかったルスーツさんが大量に夏服をプレゼントしてくれたものを着ている。ここ二日間いなかったのはショッピングを楽しんでたかららしい。それで「レイジス君に似合うと思って」と昨日の夜、箱が大量に届いた。
それを侍女さん達が全て開けて検品してくれた。ありがとー!
でも僕、昨日は疲れてぐっすりと寝ちゃってた…。ううう…。
でもいいのかな?ってフリードリヒに聞いたら「好意はありがたく受け取っておこうか」とプレゼントされた服の中からワンピースを選んで着せてもらった。っていうかワンピースって楽だねー。涼しいし。
「ルスーツ夫人のセンスは外れがないな」と言いながらプレゼントされた服を一枚ずつ広げては確認していくフリードリヒ。それに先生たちも頷いていた。
もちろんワンピースの下はズボンを穿いている。風が吹いてパンツ見えたら可哀相だし。それにちゃんと男の子用のズボンもプレゼントされてたんだ。
ふわふわな裾だけどうさうさバッグで押さえちゃうからあんまりふわふわしないのがあれだけど。
髪は二つのお団子にしてもらってるから項が丸見えでちょっと恥ずかしい。けど涼しいんだよねー。日差しが強いからって前かぶってた麦わら帽子はリーシャが持ってくれている。
「さ、行きましょうか」
「はーい!」
着てきた服に着替えて扉を開ければなぜかそこには誰もいなくて。あれれー? アルシュはー?と思っていたらガラムヘルツ殿下が僕の元に駆け寄ってくる。あれ? フリードリヒは?
「レイジス! 君は大丈夫かい?!」
「ほへ?」
「さっきまでここにいた者達が鼻血を出して倒れたらしいのだが…」
「ううん?」
鼻血? どうしたんだろう? 大丈夫なのかな?
あれ? じゃあアルシュも? 何があったのかな?
「あー…絶対さっきのですよね…」
「アルシュ君でうまく隠れているかと思ったら無理でしたね…」
「?」
なんかリーシャとソルゾ先生がこそこそと話してるけどなんだろう? ま、いーや。
それよりも鼻血を出して倒れた人たちだよ! 大丈夫なの?!
「鼻血を出した者達は少し休めば問題はない」
「そうですかー…よかったー」
「ああ。氷の魔石があったおかげでな」
「お役に立てたのならよかったです」
にこりと笑うリーシャだけど、視線が逸らされてるのはなんでだろう?
「ああ。それと水の魔石で冷やしたものがあるから、と呼んでいたぞ?」
「ありゃ。でも倒れた人たちは…」
「そちらは大丈夫だ。先にそちらへ行けとフリードリヒに言われている」
「フリードリヒ殿下に?」
んー…。なら先にいった方がいいよね?と、ちらっとソルゾ先生を見ればこくりと頷かれたから「分かりました」と頷く。そしてそのままガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子と共に冷蔵庫・改の元へと歩いていけばそこにはレヴィさんとクラさんがいた。およ?
「どうかしましたか?」
「ああ。そなたか。ここは涼しいからな」
「蒸されるかと思った…」
「ありゃりゃ。お風呂熱かったですか?」
「だがあれはありだな」
「うむ。たまになら入ってもいい」
あら? 意外とお気に召されたみたい。でも熱くし過ぎて本当に茹でレヴィアタンとクラーケンにならないでくださいよ?
「っとそうだった。これ出してみましょうか」
「いいのか?」
「その為の実験ですから」
そう言いながらぱかりとガラスでできた蓋を開ければ、冷やりとしたものが顔に当たる。ほわぁ。意外と水の魔石でもいけるかも? それから並んでる牛乳とコーヒー牛乳を人数分取りだして「どっちがいいですかー?」と聞いてみる。
「なぜ牛乳?」
「んー…? 伝統、ですかね?」
「伝統?」
「よく分んないんですけど、お風呂あがりには冷えた牛乳かコーヒー牛乳なんですよねー?」
「ふむ?」
魔物二人はよく分んないからコーヒー牛乳の瓶を渡して、慣れてなさそうな王子2人には牛乳を。僕もコーヒー牛乳を手にしてリーシャと先生には牛乳を。
紙で作った蓋をカリカリと爪で引っ掻き、きゅぽん、と開ければ「え? これそうやって開けるんですか?!」と困惑しているリーシャ。そだよー?
すると皆カリカリと爪で蓋を引っ掻き出す。うふふ。でも面倒だからね。
「風魔法でしゅぽんとできるはずだよー?」
「それを早く言ってくださいよ!」
むきゃーと怒るリーシャに「だってこうやって取った方が楽しいじゃない?」と笑えば「確かに」とガラムヘルツ殿下が頷く。それにまだ試してる段階だからねー。無理なら変えちゃえばいいんだし。
そう思っているとソルゾ先生が皆の蓋を風魔法で「しゅぽん」と抜いている。お? これだとメンコが作れそうだねー。
じゃなくって。
牛乳瓶は冷えてるからこっちは合格、かな? この分だと中身も冷えてそう。では!
「いっただっきまーす!」
いざ!
腰に手を当てて、ごっごっごっ!と豪快に飲んでいると、ぽかんとした皆の顔。おお? どうしたどうした? でも今はコーヒー牛乳を飲むのだ!
一気にそれを飲み干し「ぷあー!」と息を吐けば「レ、レイジス様?」とソルゾ先生がものすごい顔をしている。うん?
「本当にレイジスを見ていると貴族とはなんなのか考えさせられるな」
「一気飲みするのに身分なんか関係ないですよー」
「そう言えばアンギーユの時もそうでしたね。『美味しいものを食べるのに身分なんか関係ない』と」
「ほう?」
「いいんですよー! ここではこれが流儀みたいなものなんですから!」
「リュウギ?」
「やりかたとかしきたりとかですね。ここでは上品なことやってるとあんまりおいしく感じなかったりしますからね! さ! ぐいっと行ってみよう!」
いえーい!と空になった瓶を持ち上げれば、レヴィさんとクラさんが「イタダキマス」と言ってから瓶を傾ける。それをあっという間に飲み干すと「ぷはっ」と息を吐く。
「おお! これは…!」
「冷たいな」
「ふっふー!」
火照った身体に冷たい牛乳最高! いえーい!とレヴィさんとクラさんとハイタッチをすれば、特攻隊長のリーシャが「では…!」と言って一気に傾けた。それを見てソルゾ先生が続き、王族2人も続いた。
それぞれが「ぷはっ」と息を吐いた後、なぜか感動している。うんうん。分かる! 分かるぞ!
「これは美味い…!」
「こうすると牛乳もこれほど美味になるのか」
「熱かった身体が冷えていく感じがしますね」
「普通の牛乳がここまで変わるんだ…」
それぞれの感想を貰って、僕満足。なら水魔法でも十分冷やせることが分かっただけでも収穫。あとは…。
「レイジス!」
「フリードリヒ殿下!」
わーい!と飛びつけば難なく受け止められる。それからぞろぞろと後ろから人がやって来た。おお?!
「君は大丈夫かい?」
「何がですか?」
首を傾げてフリードリヒに聞けば「ああ、なるほど」と何か納得している。うん?
「いや。無事ならいいんだ」
「悪いな。あいつらが世話になった」
「いや。原因はこちらみたいだからな」
「ううん?」
よく分んないけどフリードリヒが苦笑いしてるってことはあんまり大事なことではない?
「あいつらも鍛錬が足りんことが分かったから戻ったら倍にでもするか?」
「やめてやれ。ただ見たことを口外しなければ、な」
「分かっている。はぁ…私も見たかった…」
「おい妻帯者」
和気あいあい?と話しているとおばちゃんが「ああここにいたのかい! 言われたものができたよ!」とわざわざこっちまで持ってきてくれた。
「ああ。レイジスが言っていたものか」
「わーい! 甘い匂いー!」
ふんわりと香る甘い匂いにふんふんと鼻を動かせば「こっちで食べとくれ」と座敷に案内される。ふわー! お座敷だぁ! サルマーさんありがとう!
「これはまた変わったものだな」
「あばばば! 靴! 靴脱いでください!」
「うん?」
そうだよね! 靴を脱いで上がるなんてことないもんね! すると皆がよく分らない、という表情を浮かべながらも靴を脱いでお座敷へ。
ふわー…。イグサのいい匂いー。
ちゃぶ台の周りに座布団が置いてあってそこに座ってくださいーと言えばみんなが座ってくれる。ここで合流したアルシュ、ノア、ハーミット先生も一緒に。
「はいよ! あんなものが作れるとは思わなかったよ!」
「あ、よかったです! 今度からはここだけしか売らないようにするといいですよー!」
「? なんでだい?」
「ここに来なきゃ食べられない、っていうご当地感を出すんですよ」
ふふふと笑えば「わぁ。悪い顔してるね」とフリードリヒに突っ込まれる。お、珍しい。
「それとフリードリヒ殿下にも言いましたがこことよく似た建物を作って宿泊施設にすればいいと思います」
「それに関しては父上に話をしなければならないがな」
「ところで、これは何だ?」
ほわんほわんと湯気を立てているそれを覗き込む魔物ズ。興味津々だねー。と思っていたらここでルスーツさんがやってきた。
「あら! やっぱり可愛いわね」
「お洋服ありがとうございました」
「いいのよ。レイジス君を見てると可愛いお洋服いっぱい買いたくなっちゃうもの。あの子はまだ小さいからサイズが合わないし」
「あはは。ありがとうございます」
「うふふ。気に入ってくれたのならいいわ」
あれ? なんか口調が砕けてる? 気のせいかな?
「それで? これは?」
「ああ、これはお饅頭ですね」
「オマンジュウ?」
「温泉まんじゅうです! 地熱を利用するのがいんですがそっちは温泉卵でうまうましてもらおうかと」
「へぇ」
「成分によっては匂いが付いちゃうので、これは普通に蒸してもらいました」
って説明してるけど魔物ズがそわそわしてて可愛い。うふふ。
「じゃあ食べましょうか!」
「あたしらは一足先に味見したからね」
「どうでした?」
「美味しかったよ!」
「よかったー! じゃあ後で別のレシピを渡しておきますねー!」
「ああ! ありがとうね! お嬢ちゃん」
そう言ってすそーっと去って行くおばちゃんに手を振ってバイバイをすると、お饅頭をすでに手にしている魔物ズがいろんな角度から見ている。んふふー。
ガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子の分をお皿に分けて渡すと、やっぱり手掴みに抵抗があるみたい。フリードリヒ達はもう慣れっこだもんね。
「それじゃあいただきまーす!」
もぐっ!と一口食べれば、餡子の甘味が口に広がる。ほわー! んまー! これには牛乳が合う! 絶対!
そう思いながらむっむっとおまんじゅうを食べれば、フリードリヒ達も「これは美味しいな」といいながら食べてくれる。けど。
「どうしたの? アルシュ?」
「いっ、いえ。お気になさらず」
「大丈夫? 顔赤いよ?」
「だ、大丈夫です」
とまぁなんともよそよそしい回答に首を傾げれば「ああ。アルシュの事は大丈夫だ」とにっこりとフリードリヒが微笑む。なんかちょっと怖い気がするけどアルシュも「大丈夫ですから」と何度も言っているから大丈夫なのかな? 戻ったらお医者さんに診てもらおう?
もぐもぐとお饅頭を食べて、お魚尽くしのお昼ご飯も食べて村の人とバイバイする。これからの事は僕じゃなくてフリードリヒのお父さんが決めるからね。それと冷蔵庫・改。それはそのまま使ってもらうことに。なにかあれば言ってくださいねーとは言ってあるけど大丈夫かな? って思ったけど、陛下に海の事をせっついたことがあるからそんな心配はないと思う。
そうそう。スワリさんとカルモさんなんだけど…。
実はあの二人、あの港町の領主さんとこの村の村長さんと入れ替わってた。
スワリさん曰く「俺はあんなところに押し込められるより、漁をして喧嘩してた方が性に合うからな」と笑い、カルモさんは「漁をしてもそれ程うまくはなく困っていた所を、ただ字が読めるというだけでスワリ様に助けていただきました」と言っていた。
本来ならば許されないんだろうけど、ここ数十年王族は来てないし、入れ替わっててもばれないだろうということで今までばれずに済んだから大丈夫だろう、と思ってたらしい。
けど実際はばれちゃた訳で。
「処罰は受ける」
「処罰? 何のことだ?」
「は?」
可愛らしく首を傾げるフリードリヒにスワリさんもカルモさんもぽかんとしている。
「私は父に『海の様子を見て来い』と言われただけだ。領主の事は知らないし、何も知らない」
そう言うフリードリヒはどこかいたずらっ子の悪戯が成功したような笑みを浮かべていて、思わず僕は抱き付いた。
「どしたんだい? レイジス」
「うー! ありがとうございますー!」
「なんでお礼を言われているかわからないけどね」
そう言いながら頭を撫でてくれるフリードリヒの胸にぐりぐりと頭を押し付ける。
「甘いような気がするが私がどうこう言えることじゃないからね」
「これはウィンシュタインの問題だからな。私は見なかった」
そう言って王族2人も知らない、と言ってくれたからスワリさんとカルモさんには処罰はなし。よかったー!
それからレヴィさんとクラさんともお別れのバイバイ。クラーケンの姿になったクラさんはやっぱり可愛くて最後に抱き着けば、うねうねと足を動かしてた。くううう! 可愛いー!
“ウミノコトハ、ワレラニマカセロ”
“ソナタタチノカイイキモ、ワレラガセキニンヲモッテカンシスル”
「ああ、頼んだ」
“アーブトバードニモデンゴンヲタノムゾ”
「分かった」
ちなみにフリードリヒが通訳してるんだけど、なんで人型の時に言わなかったの…。
でもアーブさんとバードさん?ってやっぱり偉い人なんだろうなー。王子様に伝言を頼むくらいだし、一度会ってみたい。
“レイジス”
「なぁに?」
“マタアオウ”
「うん! またね!」
バイバーイ、と手を振ると二匹が海へと沈むとそれきり浮かび上がってこなくなる。きっとまたこの海でまた会えるよね。
「では我らも戻るよ」
「ああ。楽しかった」
そう言ってガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子とバイバイをする。その前にぎゅうと抱き付いて「また会えますか?」って聞いたら「もちろん」と言ってくれた。二人に頭を撫でてもらってバイバイ。
ううう…寂しいよぅ…。
ルスーツさんは荷物がたくさんあるからって早めに準備してるんだって。最後に会いたかったなーって思いながらみんなとお別れをして僕たちも帰る準備。とはいっても僕らはワイバーンだからね。荷物も多くはな…いや。ありました。僕の服がありました。
たくさんの箱を持って帰るとものすごいかさばるから、うさうさバッグに全部入らないかな?とすーと入れてしゅぽん!と勢いよく吸い込みを繰り返した結果…全部入りました。しゅごい! それを見た侍女さんも僕も大興奮。っていうかどれだけ入るの?! このバッグ?! 心なしか誇らしげに見える。すごいぞー!
それとお世話になったお医者さんに「ありがとうございました」と挨拶をすれば「私の方こそのんびりさせていただきました」とお礼を言われてしまった。それと水魔法と風魔法の入った魔石は泊まったところの全室に設置できるように大量に作って渡したらものすごく驚かれた。色々とご迷惑をおかけしました。主にソルさんが。
そんなこんなでワイバーン隊の皆さんと再会。
「こんにちは! レイジス様!」
「こんにちは! セレナも元気そうだね!」
「きゅるるるっ」
ワイバーンのセレナとじゃれれば「荷物はこれだけですか?」とグルキテスさんが意外だ、という表情で見ている。
お土産とかはたぶん後日届くからねー。侍女さん達へのお土産もたっぷりあるし、これでしばらくは海とお別れ。
「では、学園までお送りいたしますね」
「はーい!」
シンリックさんのその言葉と共にばさりとセレナが浮き上がる。そしてある高さまで浮かぶと「レイジス様。夕日がきれいですよ」とシンリックさんに言われて振り返れば、海へと溶けていく太陽がすごく綺麗で。
「ほわぁ…」
「また来ようか、レイジス」
「はい!」
フリードリヒの言葉に全力で頷くと、セレナがばさりと翼を羽ばたかせ学園の方へと向かうのだった。
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