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海編
vs レヴィアタン
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レヴィアタン。
こっちよりリヴァイアサン、と言った方が分りやすいかな? 某シリーズゲームのあるナンバリングの召喚シーンで水洗トイレっていわれてたやつ。
それがばさぁ!と蝙蝠の羽のようなものを広げ「ギュオオオオオォォオ!」と咆哮する。それだけでびりびりとしたものが僕たちを襲う。
ううう…耳が痛いー。
ここからレヴィアタンまで結構距離あるのに。咆哮だけでこれって…。耳が防げないから咆哮をまともに受けちゃったけどデバフみたいなものはついてない。
というかバフとかデバフって見ないよね? ないのかな?
でも制服にはバフがかかってたし…。ううーん…。この辺りもよく分んないから落ち着いたらソルゾ先生に聞いてみよう!
“アイツ、オカシイ”
「おかしい?」
“アア。ダカラアイツヲショウキニモドシタイ。ミズナラ、ツカエル”
「水…。水魔法の事かな?」
“ソウダ。ミズマホウトクイ”
ふむふむ。海に住んでるから水魔法が得意なのか。でもあいつ…レヴィアタンはゲームだと土が弱点だってことが多いよね? 四元素なら水に強いけど…。どうなんだろう?
むむとちょっと考え事をしているとタコさんがうにょっと足を持ち上げる。ううん? どしたどした?
“ホノオクル”
「ほえ?」
“キヲツケロ”
それってどういう意味?とレヴィアタンを見れば、パカリと口を開けてその口には炎の球。うっそでしょ?!
「避けて!」
僕が叫びと同時に炎の球がこちらに向かって吐き出される。うええええん! タコさんに両腕ごと巻き付かれてるから魔法も使えないよー!
“カベ”
「はへ?」
タコさんがそう言ってうねうねと二本の足を持ち上げ動かすと、僕たちの前に薄いけれど水の壁が生まれる。そして火の球がそれに触れた瞬間、じゅわっと音を立て水蒸気へと変わっていく。
タコさんしゅごい…。っていうかなんか可愛いな。こう…雨ごいみたいなうにょにょ~って動きが僕の中にヒットした。
「ちょっと! レイジス様! 何にやにやしてんですか!」
「だってタコさんの動きが可愛くって…!」
「はーぁ?!」
リーシャにてれっと照れながらそう言えば「レイジス様の可愛いの基準が分からない…」とアルシュがぼそりと呟く。ええー? 可愛いの基準は可愛いか可愛くないかだよー?
“カベ”
また足を持ち上げてまたうにょにょ~とうねうねさせるタコさん。可愛いー! きゅううんと胸をときめかせながらはぁはぁしていると「ハーミット。あいつの倒し方は?」とフリードリヒが冷静に聞いている。
っは! そうだった! 今はレヴィアタン戦だった! うねうねタコさんに癒されてる場合じゃなかった!
というかそういえば雷の矢の怪我は大丈夫なんだろうか? まじまじとつるりとした頭を見れば、焦げ跡が見える。ああー…。ごめんよー…。
「タコさん、タコさん」
“ナンダ?”
「怪我を治したいので頭の上に乗せてもらってもいいですか?」
“ケガ、ナオス?”
「うん。足も足りないでしょ?」
“…………。タノム”
うにょーんと動いてるの足は5本。つまり3本足りない。レヴィアタンに食べられたのか違う理由なのかは分からないけど、なんか可哀相だし。
うん。足一本くれー!とか言ってた僕が言ってもあれなんだけど。
にょーん、と僕に巻き付いている足が頭の上に乗せられると、足が離れていく。うん。結構高いね。高所恐怖症じゃなくてよかった。
ぺちりと両手を付いて治癒魔法を発動させると、ぶわわと光が溢れ怪我と足を治していく。
「どうかな?」
“スバラシイ。アシモモトニモドッタ”
「そかそか。よかった」
なでなでとタコさんの頭を撫でると「レイジス!」とフリードリヒの声がした。お? どうしました?
「どうしましたかー?」
「大丈夫かい?!」
「はい! 大丈夫ですよー!」
フリードリヒにタコさんの頭の上からひらひらと手を振って無事を知らせると“クルゾ”とタコさんが足を持ち上げる。
“カベ”
うにょにょ~と足を四本持ち上げまた水の壁を作ってもらう。っていうかレヴィアタンってどうやって倒せばいいんだろう? さっきフリードリヒが聞いてたけど聞きそびれちゃったからねー。
もう一回ハーミット先生に聞いてみよう!
「ハーミット先生! これどうやって倒せばいいんですか?!」
「さっき聞いてなかったのかよ?! …簡単に言えばこいつに関しては雄なら倒せるが雌なら倒せない」
「ふええええ?!」
ええ?! じゃあどうすればいいの?!
「それにあの鱗だ。武器攻撃は通らない」
「魔法は?」
「どうだろうな?」
ふむ? 武器、ということは金属は通らないってことなのかな? 魔法は分らない、とのことだからやってみなきゃわかんないか。
「弱点属性は?」
「…分からん」
「…oh」
ううーん…。じゃあやっぱり土属性が弱点なのかなぁ?
「土魔法で一回攻撃してみたいけど…」
僕だと届かないんだよねぇ…。
“アイツノウロコ、カタイ。ケドマホウトオル”
「うえ? そうなの?」
うねうね~と足を動かしながら言うタコさん。なら、試してみるか!
「ノア! ハーミット先生! 土魔法で弓作って!」
「土属性?」
「うん。土魔法なら…!」
「なら、私の出番かな?」
「はえ?」
僕たちの後ろから聞こえた声にぽかんとすれば、フリードリヒ達もぽかんとしている。
え? え?
「なんだい? 大人しく見ている事ができなくなったから出てきたのだが」
「レイジス。無事かい?」
「は、はひ?」
なんでガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子が?
っていうか「大人しく見ている事ができなくなった」ってどういう?
首を傾げながら2人を見ていると“カベ”とタコさんが壁を作ってくれる。また火の玉?! でも攻撃はこれしかないのかな?
なんて思いながら何気なく波打ち際を見てみると、波がない。あれ? さっきまであったよね? どこ行った?ときょろきょろとした後、視線を上に向けると僕は「待って」とつい声が出た。
「まままままずいですよ! 来ちゃいます!」
「レイジス?」
「来るって何が?」
きょとんとしているリーシャや先生たち。それにフリードリヒやガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子も首を傾げている。
僕の危機を感じ取ったのはタコさんだけ。
「海嘯がきます!」
「カイショウ?」
なんだいそれは?と聞いてくるフリードリヒ。そうだよね! 海で戦うのは初めてだもんね!
レヴィアタンって海を司るから海面をいじくることなんて簡単だよね! じゃなくて!
「海嘯は…!」
“クルゾ”
「うええええん! 説明させてよー!」
ザザザと波が引いている音にようやく気付いた時には既にレヴィアタンの後ろから大きな波の塊がこちらに向かってぶつけられる。
「なにあれ?!」
そう叫んだのはリーシャ。
そうだね! 初めて見るもんね!
「水魔法で村、守れるかな?!」
“ナントカシテミヨウ”
「うわあああん! タコさんカッコイイ! じゃあ僕も水魔法使ってみるー!」
タコさんが“カベ”とうにょうにょーんと足を持ち上げて水の壁を作ってくれる。その壁を強化するように水魔法を使う。氷魔法は万が一を考えると怖い。砕けた氷が村に流れ込むと家が壊れかねないからね!
「レイジス!」
「水! 水魔法で村の左右に水を流しますー!」
「分かった!」
フリードリヒが頷くと水魔法で壁を強化に協力してくれる。ガラムヘルツ殿下は村の周りに土魔法で壁を作ってくれている。ありがとうございますー!
水の塊が壁に勢いよくぶつかればその反動が僕たちを襲う。ぐぎぎ。ひっくり返りそうだけどここで水の塊をどうにかしないと村が…!
皆も歯を食いしばって水圧に耐えている。津波と違って海嘯は塊が途絶えればそれでおしまいだからね。
水圧が消え、水が村の左右に弾かれるのを見ると水魔法を止める。うええ。
「なんだ今のは?!」
「水の塊だと思ってくれていいです! 津波じゃなくてよかった…!」
「ツ?」
「それよりも…」
「ギュオオオオオォォオン!」と再び咆哮するレヴィアタン。うにゃあ! 耳が痛いー!
「厄介な」
「ならば火の球は私に任せてもらおうか」
「ふえ?」
そう言ってにやりと笑うシュルスタイン皇子。
え? でも…。
「火属性で私に戦いを挑むとは…。余程自信があるようだな。海洋生物ごときが」
鼻で笑ってから悪い笑みを浮かべると、口を開けて火の球を撃とうとしているレヴィアタンに向かってシュルスタイン皇子が手を伸ばすと、その手から火の球が生まれる。ほわぁ?!
「それよりも土魔法がどうのと聞こえたが?」
にっこりと笑いながらそう言うガラムヘルツ殿下に、言ってもいいのか迷っていると「構わない」とフリードリヒが頷く。
それに僕も頷くとタコさんの上から話す。
「恐らくレヴィアタンの弱点は土です」
「ふむ? それで?」
「でも厄介なのは鱗ですよね?」
僕の質問に、ハーミット先生が「ああ」と頷く。
「だからまずは鱗を一枚集中的に攻撃して剥がしたいんです」
「武器は通じない。でも魔法ならいける、と?」
「はい。タコさんが教えてくれました。魔法なら通るって。だから一点集中で破壊、もしくは剥がれた所を土魔法で攻撃できたら、と」
「なるほど?」
僕の滅茶苦茶な作戦にガラムヘルツ殿下が賛同してくれるとは限らない。すると、ドォン!という音と熱風が僕らを襲う。何なに?!
「海洋生物の火はやはり弱いな」
「シュルスタイン皇子?!」
「ん? ああ。本物の火の球をお見舞いしてやっただけだ」
ってことは火で火を消したんですか?!
なんて滅茶苦茶な!と思ったけど僕も滅茶苦茶なこと言ってるからね。
「その一点集中はどうするんだい?」
「え?」
「鱗を剥がすんだろう?」
「…僕の作戦を?」
「ああ。レイジスの作戦を信じよう。それに」
そこまで言って、ばちこんと僕にウインクをするガラムヘルツ殿下。
「海で暴れられたらこちらも困るからね」
「あんなのが暴れられたらこちらも被害にあう。ならここで対処した方がいいだろう?」
「ガラムヘルツ殿下…シュルスタイン皇子…」
「ま、そう言うわけだ。我々も手伝わせてもらうよ? フリードリヒ」
にっこりと笑うガラムヘルツ殿下のその表情からはどこか怒りのようなものが混ざっていて。
「あんなのが出たのならこちらも協力を願いたい」
「よし。ならレイジスが言っていた作戦だが…」
そう。まずは強固な鱗をどうにかしなくてはならない。すっごい硬いものと言えばダイヤモンドだけど…。それ以上硬いものってないよね?
じゃあ矢はダイヤモンドで…でもそれだと弱点を知ってますって言ってるようなものだから…。他には何か…! レヴィアタンを油断させることができるものでかつ、土と金属以外の硬いもの…!
「それにしても暑いのにさらに熱くなるのはどうかと思うな」
「同感だ」
“カベ”
シュルスタイン皇子が火の玉対決をしながらタコさんが水の壁を作ってくれている。また海嘯がきたらまずいし…。
ん? 暑い?
「っあー!」
僕のその叫びに、びくっとするフリードリヒ達。そうだよ! 暑い日に食べられてしかもダイヤモンドの次に硬いサファイヤと瞬間的に同じ硬さを持つ食べ物があったじゃない!
「氷ならフリードリヒ殿下が使えるし…うん! これだ!」
「レイジス?」
「氷魔法でまずは攻撃します!」
「氷魔法で?」
「話しは後で! タコさん、下ろしてもらってもいい?」
“マカセロ”
うにょーっと再び足で身体を絡ませて下ろしてもらうと「どういうことだい?」とフリードリヒ達が寄ってくる。
「僕は氷魔法でアルシュ、ノア、ハーミット先生、リーシャ、ソルゾ先生、それとガラムヘルツ殿下には土魔法で矢を作ってもらって、氷の矢を撃ちこんだ所に滅茶苦茶硬くした土魔法の矢を撃ちこんでください」
「滅茶苦茶硬いって…どんなのですか?」
「ダイヤモンド」
「は?」
「ダイヤモンドを作ってくれれば」
「だがダイヤモンドの矢を今から作るのかい?」
ガラムヘルツ殿下の質問に、僕はこくりと頷く。
「土属性の武器を作ってもらいます」
「うん?」
「大丈夫。ガラムヘルツ殿下ならできますよー」
にぱっと笑って「僕のマネをしてくださいねー」と言えば「ふむ。面白そうだな」とガラムヘルツ殿下が僕の隣に立つ。
「レイジス様」
「どうしたのアルシュ?」
「その、土魔法は…」
うん? あ、そっか。アルシュは土属性持ってないんだっけ?
「大丈夫だよ」
「え?」
「さっきノアがアルシュの魔力に反応してたから、アルシュも土魔法が使えるよ」
「そう、なんですか?」
「うん、大丈夫。クリスタルが力を貸してくれるから」
「…分かりました」
そう言って話してる間にノア達が既に土属性の弓を作っていた。
「じゃあ、作りましょうか」
「ああ。頼む」
そう言って両手を前に出し、魔力を集める。矢を撃つのはフリードリヒにお任せだからね。
そういえばあずきバーを思い出したからか、急に食べたくなってきた。これが終わったらあずきバー作ろう。そうしよう。
そんなことを思いながら氷の弓を作り上げると、ガラムヘルツ殿下も無事土属性の弓を手にしていた。黄色が強いその弓はまるでスケルトン。滅茶苦茶カッコイイ。
「ほう。魔法でこんなことができるのか」
「なかなか便利なんですよー」
むっふっふと笑う僕の隣にフリードリヒが来ると「レイジスのはいつ見ても綺麗だな」と弓を誉めてくれる。えへへー。よくできました、と頭を撫でられてから僕を膝の上に座らせてくれる。
それを見たガラムヘルツ殿下の瞳が少し大きくなるけど「フリードリヒは羨ましいな」と笑うと「そういえば弦がないようだが?」と聞いてくる。
「弦は自身の魔力ですよー」
「魔力の…弦?」
「はい! こうやって…」
弓を持つ手にフリードリヒの手が重なって、矢を番う手にも重ねられる。そして矢を引けば、発光している弦が現れる。
「なるほど? こうかな?」
言いながらきりりと矢を番うガラムヘルツ殿下。すると十字に並んだ矢が現れる。おっほー! カッコイイー!
「全員、矢を番え!」
フリードリヒの声にアルシュ達も矢を番う。リーシャとソルゾ先生はレヴィアタンに撃ちこむのではなく気を逸らす為に撃ってもらう。矢は魔法だから自在に操れるはずだしね!
だから魔力勝負になるんだ。頑張って!
「いい加減飽きてきたな」
そう言いながら火の球を処理してくれるシュルスタイン皇子と壁を作ってくれるタコさん。
火の球が打ち消し合って熱風が肌を撫でる。それが消えた瞬間。
「撃て!」
フリードリヒの声と共にまずは氷の矢が放たれ、その後土の矢が放たれる。その横をリーシャとソルゾ先生が放った矢が縦横無尽に動く。
レヴィアタンの意識が動き回る矢に向き、それを嫌がる様に首を振ったその時、氷の矢が腹の辺りに当ったようでそこと同じ場所に土の矢が当る。
「ギュオオオオォオオオオオン!」
咆哮とは違う声を上げるともう一度矢を放つ。
狙うはさっきと同じ場所。氷の矢に僕の魔力を上乗せているから、土の矢がそれに追従してくれる。二度目に放った矢が全て撃ちこまれると、レヴィアタンの身体がぐらりと傾きそのまま水柱を立てて落ちる。
するとタコさんが音もなくすいーっと海へと潜っていく。しばらくするとレヴィアタンの身体を回収して戻ってきた。大丈夫かな?
“アリガトウ。ニンゲン”
「えと…それはいいんだけど、さ。大丈夫なのかな?」
タコさんの足でぐるぐる巻きにされてるとはいえ、さっきまで暴れまわってた子だもんね…。
“モンダイナイ。コイツハシナナイ”
「あ、そうなんだ」
ぐるぐる巻きにされたレヴィアタンに近付いて矢を撃ちこんだ所を見れば、綺麗にそこだけ鱗が破壊されている。
うわぁ…痛そう。
「治しちゃダメかな?」
「レイジス?!」
「でも可哀相ですよー」
なんて話していたら、レヴィアタンの瞳に光が戻る。それにフリードリヒが僕を抱き締め、全員が警戒態勢に入る。あれ? そう言えば騎士さん達はどうしたんですか?
“ココ…ハ?”
“キガツイタカ”
“クラーケンカ”
“アア”
なんか。すっごいシュール。大きな海洋生物さん達が会話してる。
するとレヴィアタンが僕たちを見ると“オマエタチカ”と話しかけてくる。おわ?!
“スマナイ。ヒトノコヨ”
「えと…大丈夫ですか?」
“アア。オマエタチガウロコヲハカイシテクレタカラナ”
「ううん?」
それって?
“アシキウロコニイシキヲシハイサレテイタ”
「悪しきウロコ?」
何それ?と首を傾げれば、フリードリヒ達は眉を寄せている。ううん?
「もしかしてフリードリヒ殿下たちも聞こえてます?」
「こいつらの会話という意味ならそうだな」
うええええ?! どういうこと?! じゃあずっと僕と会話してたことも聞こえてたの?!
「私はさっぱりだが?」
「私もそうだな」
あれれ? ガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子には聞こえてないのかー。なんでだろう?
“メイワクヲカケタ。スマナイ”
「えと…それは僕たちじゃなくてここの人たちに言ってくださいね。僕たちはえと…レヴィアタンさんを倒そうとしたんですから」
“ソウカ。オマエニモメイワクヲカケタ”
“モトニモドッタノナライイ”
ふわぁ。なんかタコさんとレヴィアタンさんの間にある絆みたいなものが見て取れるー!信頼してるんだなー。
“ダガ、アシキウロコガウチコマレタノナラ、アヤツラモオナジカモシレヌナ”
「あやつら?」
“アア。リクノベヒーモス、ソラノジズモオナジカモシレヌ”
「ベヒーモス?!」
うぉあ?! ビックリした!
突然大きな声を出したフリードリヒに驚くと、ガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子も瞳を細める。
「じゃあ急にコカトリスが山から下りてきたのは…」
“ベヒーモスガイドウシタカノウセイガタカイ”
「だがなぜ…」
「レヴィアタンもベヒーモスもジズもかの『聖女』が鎮めたと聞いているが?」
“アンコクリュウノショウキカラ、ワレラヲスクッテクレタノハマチガイナイ”
また『聖女』だ。
この世界は『聖女』がいたのは何となく分かるけど…。それと僕、というかユアソーン家にどんな関係があるんだろう。
それにユアソーンの分家のエリオット家のことも全く分かんないんだよね。
父様なら何か知ってそうだけど…。そうなるとまた王都へ行かなきゃならないし…。
それよりも、さ。
「そういえば『聖女』ってその暗黒竜?とやらをどうやって倒したんですか?」
首を傾げてそうフリードリヒに質問すれば、僕以外の全員の瞳が見開く。おん?
「え? ちょっと待ってください、レイジス様。『聖女』様についてのお話は…?」
「うん? さっぱりだけど…。なんかまずかった?」
「しまった。レイジスはそこからだったか…!」
え? え?
ぱしりと目元を手で隠すフリードリヒと「嘘でしょう?!」と呆然としているアルシュ達。それにじいっと僕を見つめるガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子。
なんかまずかった?という空気を感じながら、にへと笑えば「ガラムヘルツ殿下!」「シュルスタイン皇子!」と騎士さん達が走ってくるのが見えた。
こっちよりリヴァイアサン、と言った方が分りやすいかな? 某シリーズゲームのあるナンバリングの召喚シーンで水洗トイレっていわれてたやつ。
それがばさぁ!と蝙蝠の羽のようなものを広げ「ギュオオオオオォォオ!」と咆哮する。それだけでびりびりとしたものが僕たちを襲う。
ううう…耳が痛いー。
ここからレヴィアタンまで結構距離あるのに。咆哮だけでこれって…。耳が防げないから咆哮をまともに受けちゃったけどデバフみたいなものはついてない。
というかバフとかデバフって見ないよね? ないのかな?
でも制服にはバフがかかってたし…。ううーん…。この辺りもよく分んないから落ち着いたらソルゾ先生に聞いてみよう!
“アイツ、オカシイ”
「おかしい?」
“アア。ダカラアイツヲショウキニモドシタイ。ミズナラ、ツカエル”
「水…。水魔法の事かな?」
“ソウダ。ミズマホウトクイ”
ふむふむ。海に住んでるから水魔法が得意なのか。でもあいつ…レヴィアタンはゲームだと土が弱点だってことが多いよね? 四元素なら水に強いけど…。どうなんだろう?
むむとちょっと考え事をしているとタコさんがうにょっと足を持ち上げる。ううん? どしたどした?
“ホノオクル”
「ほえ?」
“キヲツケロ”
それってどういう意味?とレヴィアタンを見れば、パカリと口を開けてその口には炎の球。うっそでしょ?!
「避けて!」
僕が叫びと同時に炎の球がこちらに向かって吐き出される。うええええん! タコさんに両腕ごと巻き付かれてるから魔法も使えないよー!
“カベ”
「はへ?」
タコさんがそう言ってうねうねと二本の足を持ち上げ動かすと、僕たちの前に薄いけれど水の壁が生まれる。そして火の球がそれに触れた瞬間、じゅわっと音を立て水蒸気へと変わっていく。
タコさんしゅごい…。っていうかなんか可愛いな。こう…雨ごいみたいなうにょにょ~って動きが僕の中にヒットした。
「ちょっと! レイジス様! 何にやにやしてんですか!」
「だってタコさんの動きが可愛くって…!」
「はーぁ?!」
リーシャにてれっと照れながらそう言えば「レイジス様の可愛いの基準が分からない…」とアルシュがぼそりと呟く。ええー? 可愛いの基準は可愛いか可愛くないかだよー?
“カベ”
また足を持ち上げてまたうにょにょ~とうねうねさせるタコさん。可愛いー! きゅううんと胸をときめかせながらはぁはぁしていると「ハーミット。あいつの倒し方は?」とフリードリヒが冷静に聞いている。
っは! そうだった! 今はレヴィアタン戦だった! うねうねタコさんに癒されてる場合じゃなかった!
というかそういえば雷の矢の怪我は大丈夫なんだろうか? まじまじとつるりとした頭を見れば、焦げ跡が見える。ああー…。ごめんよー…。
「タコさん、タコさん」
“ナンダ?”
「怪我を治したいので頭の上に乗せてもらってもいいですか?」
“ケガ、ナオス?”
「うん。足も足りないでしょ?」
“…………。タノム”
うにょーんと動いてるの足は5本。つまり3本足りない。レヴィアタンに食べられたのか違う理由なのかは分からないけど、なんか可哀相だし。
うん。足一本くれー!とか言ってた僕が言ってもあれなんだけど。
にょーん、と僕に巻き付いている足が頭の上に乗せられると、足が離れていく。うん。結構高いね。高所恐怖症じゃなくてよかった。
ぺちりと両手を付いて治癒魔法を発動させると、ぶわわと光が溢れ怪我と足を治していく。
「どうかな?」
“スバラシイ。アシモモトニモドッタ”
「そかそか。よかった」
なでなでとタコさんの頭を撫でると「レイジス!」とフリードリヒの声がした。お? どうしました?
「どうしましたかー?」
「大丈夫かい?!」
「はい! 大丈夫ですよー!」
フリードリヒにタコさんの頭の上からひらひらと手を振って無事を知らせると“クルゾ”とタコさんが足を持ち上げる。
“カベ”
うにょにょ~と足を四本持ち上げまた水の壁を作ってもらう。っていうかレヴィアタンってどうやって倒せばいいんだろう? さっきフリードリヒが聞いてたけど聞きそびれちゃったからねー。
もう一回ハーミット先生に聞いてみよう!
「ハーミット先生! これどうやって倒せばいいんですか?!」
「さっき聞いてなかったのかよ?! …簡単に言えばこいつに関しては雄なら倒せるが雌なら倒せない」
「ふええええ?!」
ええ?! じゃあどうすればいいの?!
「それにあの鱗だ。武器攻撃は通らない」
「魔法は?」
「どうだろうな?」
ふむ? 武器、ということは金属は通らないってことなのかな? 魔法は分らない、とのことだからやってみなきゃわかんないか。
「弱点属性は?」
「…分からん」
「…oh」
ううーん…。じゃあやっぱり土属性が弱点なのかなぁ?
「土魔法で一回攻撃してみたいけど…」
僕だと届かないんだよねぇ…。
“アイツノウロコ、カタイ。ケドマホウトオル”
「うえ? そうなの?」
うねうね~と足を動かしながら言うタコさん。なら、試してみるか!
「ノア! ハーミット先生! 土魔法で弓作って!」
「土属性?」
「うん。土魔法なら…!」
「なら、私の出番かな?」
「はえ?」
僕たちの後ろから聞こえた声にぽかんとすれば、フリードリヒ達もぽかんとしている。
え? え?
「なんだい? 大人しく見ている事ができなくなったから出てきたのだが」
「レイジス。無事かい?」
「は、はひ?」
なんでガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子が?
っていうか「大人しく見ている事ができなくなった」ってどういう?
首を傾げながら2人を見ていると“カベ”とタコさんが壁を作ってくれる。また火の玉?! でも攻撃はこれしかないのかな?
なんて思いながら何気なく波打ち際を見てみると、波がない。あれ? さっきまであったよね? どこ行った?ときょろきょろとした後、視線を上に向けると僕は「待って」とつい声が出た。
「まままままずいですよ! 来ちゃいます!」
「レイジス?」
「来るって何が?」
きょとんとしているリーシャや先生たち。それにフリードリヒやガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子も首を傾げている。
僕の危機を感じ取ったのはタコさんだけ。
「海嘯がきます!」
「カイショウ?」
なんだいそれは?と聞いてくるフリードリヒ。そうだよね! 海で戦うのは初めてだもんね!
レヴィアタンって海を司るから海面をいじくることなんて簡単だよね! じゃなくて!
「海嘯は…!」
“クルゾ”
「うええええん! 説明させてよー!」
ザザザと波が引いている音にようやく気付いた時には既にレヴィアタンの後ろから大きな波の塊がこちらに向かってぶつけられる。
「なにあれ?!」
そう叫んだのはリーシャ。
そうだね! 初めて見るもんね!
「水魔法で村、守れるかな?!」
“ナントカシテミヨウ”
「うわあああん! タコさんカッコイイ! じゃあ僕も水魔法使ってみるー!」
タコさんが“カベ”とうにょうにょーんと足を持ち上げて水の壁を作ってくれる。その壁を強化するように水魔法を使う。氷魔法は万が一を考えると怖い。砕けた氷が村に流れ込むと家が壊れかねないからね!
「レイジス!」
「水! 水魔法で村の左右に水を流しますー!」
「分かった!」
フリードリヒが頷くと水魔法で壁を強化に協力してくれる。ガラムヘルツ殿下は村の周りに土魔法で壁を作ってくれている。ありがとうございますー!
水の塊が壁に勢いよくぶつかればその反動が僕たちを襲う。ぐぎぎ。ひっくり返りそうだけどここで水の塊をどうにかしないと村が…!
皆も歯を食いしばって水圧に耐えている。津波と違って海嘯は塊が途絶えればそれでおしまいだからね。
水圧が消え、水が村の左右に弾かれるのを見ると水魔法を止める。うええ。
「なんだ今のは?!」
「水の塊だと思ってくれていいです! 津波じゃなくてよかった…!」
「ツ?」
「それよりも…」
「ギュオオオオオォォオン!」と再び咆哮するレヴィアタン。うにゃあ! 耳が痛いー!
「厄介な」
「ならば火の球は私に任せてもらおうか」
「ふえ?」
そう言ってにやりと笑うシュルスタイン皇子。
え? でも…。
「火属性で私に戦いを挑むとは…。余程自信があるようだな。海洋生物ごときが」
鼻で笑ってから悪い笑みを浮かべると、口を開けて火の球を撃とうとしているレヴィアタンに向かってシュルスタイン皇子が手を伸ばすと、その手から火の球が生まれる。ほわぁ?!
「それよりも土魔法がどうのと聞こえたが?」
にっこりと笑いながらそう言うガラムヘルツ殿下に、言ってもいいのか迷っていると「構わない」とフリードリヒが頷く。
それに僕も頷くとタコさんの上から話す。
「恐らくレヴィアタンの弱点は土です」
「ふむ? それで?」
「でも厄介なのは鱗ですよね?」
僕の質問に、ハーミット先生が「ああ」と頷く。
「だからまずは鱗を一枚集中的に攻撃して剥がしたいんです」
「武器は通じない。でも魔法ならいける、と?」
「はい。タコさんが教えてくれました。魔法なら通るって。だから一点集中で破壊、もしくは剥がれた所を土魔法で攻撃できたら、と」
「なるほど?」
僕の滅茶苦茶な作戦にガラムヘルツ殿下が賛同してくれるとは限らない。すると、ドォン!という音と熱風が僕らを襲う。何なに?!
「海洋生物の火はやはり弱いな」
「シュルスタイン皇子?!」
「ん? ああ。本物の火の球をお見舞いしてやっただけだ」
ってことは火で火を消したんですか?!
なんて滅茶苦茶な!と思ったけど僕も滅茶苦茶なこと言ってるからね。
「その一点集中はどうするんだい?」
「え?」
「鱗を剥がすんだろう?」
「…僕の作戦を?」
「ああ。レイジスの作戦を信じよう。それに」
そこまで言って、ばちこんと僕にウインクをするガラムヘルツ殿下。
「海で暴れられたらこちらも困るからね」
「あんなのが暴れられたらこちらも被害にあう。ならここで対処した方がいいだろう?」
「ガラムヘルツ殿下…シュルスタイン皇子…」
「ま、そう言うわけだ。我々も手伝わせてもらうよ? フリードリヒ」
にっこりと笑うガラムヘルツ殿下のその表情からはどこか怒りのようなものが混ざっていて。
「あんなのが出たのならこちらも協力を願いたい」
「よし。ならレイジスが言っていた作戦だが…」
そう。まずは強固な鱗をどうにかしなくてはならない。すっごい硬いものと言えばダイヤモンドだけど…。それ以上硬いものってないよね?
じゃあ矢はダイヤモンドで…でもそれだと弱点を知ってますって言ってるようなものだから…。他には何か…! レヴィアタンを油断させることができるものでかつ、土と金属以外の硬いもの…!
「それにしても暑いのにさらに熱くなるのはどうかと思うな」
「同感だ」
“カベ”
シュルスタイン皇子が火の玉対決をしながらタコさんが水の壁を作ってくれている。また海嘯がきたらまずいし…。
ん? 暑い?
「っあー!」
僕のその叫びに、びくっとするフリードリヒ達。そうだよ! 暑い日に食べられてしかもダイヤモンドの次に硬いサファイヤと瞬間的に同じ硬さを持つ食べ物があったじゃない!
「氷ならフリードリヒ殿下が使えるし…うん! これだ!」
「レイジス?」
「氷魔法でまずは攻撃します!」
「氷魔法で?」
「話しは後で! タコさん、下ろしてもらってもいい?」
“マカセロ”
うにょーっと再び足で身体を絡ませて下ろしてもらうと「どういうことだい?」とフリードリヒ達が寄ってくる。
「僕は氷魔法でアルシュ、ノア、ハーミット先生、リーシャ、ソルゾ先生、それとガラムヘルツ殿下には土魔法で矢を作ってもらって、氷の矢を撃ちこんだ所に滅茶苦茶硬くした土魔法の矢を撃ちこんでください」
「滅茶苦茶硬いって…どんなのですか?」
「ダイヤモンド」
「は?」
「ダイヤモンドを作ってくれれば」
「だがダイヤモンドの矢を今から作るのかい?」
ガラムヘルツ殿下の質問に、僕はこくりと頷く。
「土属性の武器を作ってもらいます」
「うん?」
「大丈夫。ガラムヘルツ殿下ならできますよー」
にぱっと笑って「僕のマネをしてくださいねー」と言えば「ふむ。面白そうだな」とガラムヘルツ殿下が僕の隣に立つ。
「レイジス様」
「どうしたのアルシュ?」
「その、土魔法は…」
うん? あ、そっか。アルシュは土属性持ってないんだっけ?
「大丈夫だよ」
「え?」
「さっきノアがアルシュの魔力に反応してたから、アルシュも土魔法が使えるよ」
「そう、なんですか?」
「うん、大丈夫。クリスタルが力を貸してくれるから」
「…分かりました」
そう言って話してる間にノア達が既に土属性の弓を作っていた。
「じゃあ、作りましょうか」
「ああ。頼む」
そう言って両手を前に出し、魔力を集める。矢を撃つのはフリードリヒにお任せだからね。
そういえばあずきバーを思い出したからか、急に食べたくなってきた。これが終わったらあずきバー作ろう。そうしよう。
そんなことを思いながら氷の弓を作り上げると、ガラムヘルツ殿下も無事土属性の弓を手にしていた。黄色が強いその弓はまるでスケルトン。滅茶苦茶カッコイイ。
「ほう。魔法でこんなことができるのか」
「なかなか便利なんですよー」
むっふっふと笑う僕の隣にフリードリヒが来ると「レイジスのはいつ見ても綺麗だな」と弓を誉めてくれる。えへへー。よくできました、と頭を撫でられてから僕を膝の上に座らせてくれる。
それを見たガラムヘルツ殿下の瞳が少し大きくなるけど「フリードリヒは羨ましいな」と笑うと「そういえば弦がないようだが?」と聞いてくる。
「弦は自身の魔力ですよー」
「魔力の…弦?」
「はい! こうやって…」
弓を持つ手にフリードリヒの手が重なって、矢を番う手にも重ねられる。そして矢を引けば、発光している弦が現れる。
「なるほど? こうかな?」
言いながらきりりと矢を番うガラムヘルツ殿下。すると十字に並んだ矢が現れる。おっほー! カッコイイー!
「全員、矢を番え!」
フリードリヒの声にアルシュ達も矢を番う。リーシャとソルゾ先生はレヴィアタンに撃ちこむのではなく気を逸らす為に撃ってもらう。矢は魔法だから自在に操れるはずだしね!
だから魔力勝負になるんだ。頑張って!
「いい加減飽きてきたな」
そう言いながら火の球を処理してくれるシュルスタイン皇子と壁を作ってくれるタコさん。
火の球が打ち消し合って熱風が肌を撫でる。それが消えた瞬間。
「撃て!」
フリードリヒの声と共にまずは氷の矢が放たれ、その後土の矢が放たれる。その横をリーシャとソルゾ先生が放った矢が縦横無尽に動く。
レヴィアタンの意識が動き回る矢に向き、それを嫌がる様に首を振ったその時、氷の矢が腹の辺りに当ったようでそこと同じ場所に土の矢が当る。
「ギュオオオオォオオオオオン!」
咆哮とは違う声を上げるともう一度矢を放つ。
狙うはさっきと同じ場所。氷の矢に僕の魔力を上乗せているから、土の矢がそれに追従してくれる。二度目に放った矢が全て撃ちこまれると、レヴィアタンの身体がぐらりと傾きそのまま水柱を立てて落ちる。
するとタコさんが音もなくすいーっと海へと潜っていく。しばらくするとレヴィアタンの身体を回収して戻ってきた。大丈夫かな?
“アリガトウ。ニンゲン”
「えと…それはいいんだけど、さ。大丈夫なのかな?」
タコさんの足でぐるぐる巻きにされてるとはいえ、さっきまで暴れまわってた子だもんね…。
“モンダイナイ。コイツハシナナイ”
「あ、そうなんだ」
ぐるぐる巻きにされたレヴィアタンに近付いて矢を撃ちこんだ所を見れば、綺麗にそこだけ鱗が破壊されている。
うわぁ…痛そう。
「治しちゃダメかな?」
「レイジス?!」
「でも可哀相ですよー」
なんて話していたら、レヴィアタンの瞳に光が戻る。それにフリードリヒが僕を抱き締め、全員が警戒態勢に入る。あれ? そう言えば騎士さん達はどうしたんですか?
“ココ…ハ?”
“キガツイタカ”
“クラーケンカ”
“アア”
なんか。すっごいシュール。大きな海洋生物さん達が会話してる。
するとレヴィアタンが僕たちを見ると“オマエタチカ”と話しかけてくる。おわ?!
“スマナイ。ヒトノコヨ”
「えと…大丈夫ですか?」
“アア。オマエタチガウロコヲハカイシテクレタカラナ”
「ううん?」
それって?
“アシキウロコニイシキヲシハイサレテイタ”
「悪しきウロコ?」
何それ?と首を傾げれば、フリードリヒ達は眉を寄せている。ううん?
「もしかしてフリードリヒ殿下たちも聞こえてます?」
「こいつらの会話という意味ならそうだな」
うええええ?! どういうこと?! じゃあずっと僕と会話してたことも聞こえてたの?!
「私はさっぱりだが?」
「私もそうだな」
あれれ? ガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子には聞こえてないのかー。なんでだろう?
“メイワクヲカケタ。スマナイ”
「えと…それは僕たちじゃなくてここの人たちに言ってくださいね。僕たちはえと…レヴィアタンさんを倒そうとしたんですから」
“ソウカ。オマエニモメイワクヲカケタ”
“モトニモドッタノナライイ”
ふわぁ。なんかタコさんとレヴィアタンさんの間にある絆みたいなものが見て取れるー!信頼してるんだなー。
“ダガ、アシキウロコガウチコマレタノナラ、アヤツラモオナジカモシレヌナ”
「あやつら?」
“アア。リクノベヒーモス、ソラノジズモオナジカモシレヌ”
「ベヒーモス?!」
うぉあ?! ビックリした!
突然大きな声を出したフリードリヒに驚くと、ガラムヘルツ殿下もシュルスタイン皇子も瞳を細める。
「じゃあ急にコカトリスが山から下りてきたのは…」
“ベヒーモスガイドウシタカノウセイガタカイ”
「だがなぜ…」
「レヴィアタンもベヒーモスもジズもかの『聖女』が鎮めたと聞いているが?」
“アンコクリュウノショウキカラ、ワレラヲスクッテクレタノハマチガイナイ”
また『聖女』だ。
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それにユアソーンの分家のエリオット家のことも全く分かんないんだよね。
父様なら何か知ってそうだけど…。そうなるとまた王都へ行かなきゃならないし…。
それよりも、さ。
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首を傾げてそうフリードリヒに質問すれば、僕以外の全員の瞳が見開く。おん?
「え? ちょっと待ってください、レイジス様。『聖女』様についてのお話は…?」
「うん? さっぱりだけど…。なんかまずかった?」
「しまった。レイジスはそこからだったか…!」
え? え?
ぱしりと目元を手で隠すフリードリヒと「嘘でしょう?!」と呆然としているアルシュ達。それにじいっと僕を見つめるガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子。
なんかまずかった?という空気を感じながら、にへと笑えば「ガラムヘルツ殿下!」「シュルスタイン皇子!」と騎士さん達が走ってくるのが見えた。
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