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王都編
餃子うまー!
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「そぉい!」
ぎゅるるる、と風魔法でぶつ切りのお肉をミンチにする。
それを僕とリーシャ、ソルゾ先生がやってるからミンチにする作業が進む進む。
これが終わったらキャベツをみじん切りにするぞー!
あれからすぐさま王宮へと戻ってきた。
なんで、という疑問はあったけどフリードリヒ達の表情が険しかったから何も言えなかった。
昨日と同じく父様が迎えに来てくれたけど、昨日と違うのはアルシュのお父さんじゃなくてフィルノさんが来てくれたこと。
さっき別れたけどまた会ったね。
馬車に揺られて王宮に戻ってきたことはいいけどやることがないから暇になっちゃった。だから食べたいものを作りたい、ってフリードリヒに言ってみたら少し考えてから「確か後宮に使っていないキッチンがあったな」と呟いた。
後宮?!
いや、ちょっと待ってくださいよー! 僕男ですよー!
きゃああああ!と頬を両手に当てて恥ずかしがれば「今の後宮は誰も使ってませんから安心してください」とノアに言われた。
おあ。そうなの?
「何やかんや言いながらもレイジス様も男ですねー」
にひひと笑うリーシャにぷうと頬を膨らませると「それでだ」とフリードリヒが話を戻してくれた。
「父上にキッチンが使えるか聞いてくる。その間に必要な物があれば…侍女に言えばいい」
「はーい!」
「あと、部屋から出ちゃダメだからね?」
「はーい!」
よろしい、と頷きアルシュとノアと一緒に出ていくフリードリヒ達の背中を見送ると、さて何を食べようかと今のお腹に聞いてみる。
揚げ物でもいいけど今は気分じゃないんだよねー。それにギリクさんの魔法捌きを見てたら料理にも使えるんじゃないかなって思えちゃったから、ちょっと面倒くさいものでも作ろうかなー。
「で、何作るんですか?」
「んっふっふっふ。餃子でも作ろうかなって思ってる」
「ぎょうざ? 何ですか?それ?」
リーシャが首を傾げるのと同時に侍女さん達も首を傾げている。うふふー。
「ミンチで作ったタネを皮で包んで焼いた料理だよ。あとはささみのバンバンジー風サラダとー、あとチャーハン食べたい!」
餃子のお供と言えばチャーハンでしょ! それだけだとくどいからサラダもね!
ふわわー。想像しただけでお腹空いちゃうー。ついでに涎も出ちゃうー。
「レイジス様、涎」
「ふわっ?!」
じゅるりと出た涎を慌ててハンカチで拭いてから必要な材料をメモしていく。それをじっと見てるリーシャ。何か言いたそうだけど僕はそれに気付かないふりをして鼻歌を歌いながらメモを書く。
「えと…フリードリヒは侍女さんに渡せばいいっていってたけど…」
「レイジス様。それをお預かりしてもよろしいでしょうか」
「あ、うん」
「それでは失礼いたします」
「ほあ?!」
預かるって言うから渡したけどそれを持ってすそそと部屋から出ていく侍女さんに驚く。ええ?!
「だだだだ大丈夫かな?! リーシャ!」
「大丈夫でしょう。…レイジス様」
「うん?」
「理由を聞かないんですね」
「…なんの?」
にこっと笑いながらリーシャに言えば「すみません」と謝られた。リーシャは何か知ってそうだけど僕には言えないことなんだろうな。
無理して聞いてもたぶん理解できないから聞いても無駄だと思うからね。
「ブローチは明後日以降になると思います」
「明日も出れないの?」
「…大事を取って、です」
「そっか。なら明日はドーナツ作ろうね!」
ね?とリーシャにそう言えば「すみません」ともう一度謝られた。僕は謝ってほしい訳じゃないんだ。
以前の僕のことを教えてくれないことにも何か意味があるんだろう。
前も教えてくれなかったことがあったけどあの時も僕を思ってのことだった。フリードリヒ達が言わないのなら何かしら事情があるのだろうし。
「ニラを切ったらこの中に入れて…混ぜ混ぜしてねー!」
ぎゅるるるとミンチを作り終えた僕たちは今キャベツをみじん切りしている。ただし風魔法で。
フリードリヒが「許可を得るのに条件があるのだが…その条件は父上にも料理を分けることだ」とちょっとだけ苦笑いを浮かべたフリードリヒに笑って、皆でぞろぞろと後宮に移動した。使ってない、とはいえ掃除はちゃんと行き届いてるからすぐに使える状態。
それにメモを渡した侍女さんが3人の騎士さんを連れて戻ってきた。その騎士さんの手には大量のお野菜とお肉や調味料。
よく料理長さんからもぎ取れたねーと、ほわーとしながら見れば、にっこりと侍女さんが微笑む。
「侍女さんの料理への探求心が素晴らしかったです」とノアにこっそりと教えてもらっていろいろと運んでもらった騎士さん達に「ありがとう」を伝えてからバイバイをする。
それからは侍女さん総出、アルシュもノアも使ってみんなで料理開始。フリードリヒには側で待っててもらう。
タネができたらお仕事あるからね!
キャベツにニラ、ニンニクに塩コショウ。ミンチに生姜を入れて侍女さんがねりねり。実は腕力に関しては侍女さんの方が強かったりする。非力な僕はアルシュと侍女さんがねりねりしてる間に皮作り。
小麦粉と塩を混ぜて水でまとめて…。こっちもねりねり。
使えない僕は次のサラダ作りに入る。キュウリを切ってもらって伸ばし棒で叩く。しかしキュウリにも負けた僕がちょっと落ち込みながらささみを湯通してわっしゃーと毟る。
そう言えばゴマがあるからバンバンジーを作ろうと思ってたんだけどハルと一緒に取ったゴマは今ゴマ油になってる。
もうちょっと量が取れればごまだれを作ってバンバンジーを作るんだー! だからこれから作るのはゴマなしだね。
皮を丸くくりぬいてタネも完成。
さて…みんなで包むぞー!
わいわいと話しながら皮でタネと包む。ここはフリードリヒにも手伝ってもらうことに。大量にあるからね! 人は多い方が助かるんだよ!
ちまちまと皮で包んでいる間に偵察に来たらしい厨房の人たちを捕まえて手伝ってもらう。何事かと様子を見に来た知らない侍女さん達も捕まえて皮包みをしてもらうことに。
それでもまだまだ大量にあるそれを興味本位で見に来た騎士さんや魔導士さんをとっ捕まえて手伝ってもらう。
黙々とタネを皮で包んでいるとお日様がバイバイをする頃にようやく出来上がる。ううー…腰が痛いー…。
手伝ってくれたみんなにお礼を言うけど、今度はこれを焼かなきゃいけない。フライパンも足りないし何よりコンロが足りない。
ううーんと悩んでいると厨房の人たちが「なら手伝いますよ」と言ってくれたから大皿に山盛りになった餃子を持ってみんなで厨房に移動。侍女さんも騎士さんも魔導士さんもみんな駆け足で移動してるから、何事かという視線があちこちから刺さるけど今は餃子だよ!
ちなみに大量の餃子が乗ったお皿は騎士さん達が運んでくれてる。風魔法でガードをしてるから零れ落ちても大丈夫な仕様。ついでに風魔法は魔導士さん達と僕たちが担当してる。
厨房に着いた頃にはなぜか料理長さんまでもが準備万端です!と言う風にフライパンがコンロに置かれていた。
わーい!
それから一度僕が焼いてお手本を見せてから侍女さんや料理長さんにお任せする。
一番初めに焼いた餃子は勿論フリードリヒ殿下に渡す。醤油とお酢と胡椒で作った簡単タレはお気に召したようで、一皿ぺろりと食べちゃった。
皆の分はちょっと待っててねー! 今頑張って焼いてくれてるから!
その間に後宮へととんぼ返りしてチャーハンとサラダを作る。うひょー! 忙しいー!
どうせなら手伝ってくれたみんなに食べてもらいたいからと言えば、侍女さん達のやる気がものすごいことに。
魔法とコンロを駆使しながらチャーハンとサラダを作って厨房へ移動。その時も通りすがりの騎士さん達が手伝ってくれた。
そしてばたばたと移動をしていると、食堂にはたくさんの人だかりができていた。
「なにこれー?!」
「レイジス様! どうやら匂いに誘われてたくさんの方が押し寄せております…!」
「わぁ!」
なにそれ?! とりあえず出来上がったチャーハンとサラダを置けば「レイジス様たちはお夕飯をたべてください」と言われるけどこれ捌くの大変じゃない?!
「レイジス。よければ手伝ってやれ」
「いいんですか?!」
「ああ。アルシュ、リーシャ、ノア。お前たちも手伝ってやれ」
「分かりました」
「もちろん私も餃子の皮包みを手伝うがな」
ふふっと笑うフリードリヒ。どうやら餃子の皮包みが楽しかったらしい。
それからはとにかく魔法でミンチを作りながらキャベツをみじん切りにし、タネ作りができる侍女さんが指示を飛ばす。そしてサラダも侍女さんが指示を出しながらチャーハンを作る。
まさに戦場。
手伝ってくれた騎士さんも魔導士さんも一緒になってばたばたと動いている。
包んでも包んでも終わらない作業だけどひたすら皮でタネを包む。ご飯を食べに来た人たちが厨房の中にいる僕の姿を見つけて「ひっ」て悲鳴を出してたけどそんなことは気にしていられない。
とにかく餃子を作ることが今の僕たちの使命なのだ。
ひとしきり行き渡って疲れ果ててる皆に治癒魔法で疲れを癒す。
皆お疲れさまー。
ぐーぐーとお腹を鳴らしながら「お疲れさまー」と言えば「お疲れ様です」とそれぞれみんながたたえ合う。
うん。みんな頑張ってくれた…!
食堂が落ち着いてから料理長さんが残しておいた僕たちの分を作ってくれるらしいからこれからちょっと遅いお夕飯を食べるのだ。
あ、そう言えば陛下にもおすそ分けしなきゃ!と思ったらすでに陛下がそこにいた。
ひえっ?!
「ああ、終わったかい?」
「父上!」
「父様!」
陛下と一緒に入ってきたのは父様。フリードリヒと声が重なったことに顔を見合わせるとへらっと笑う。
皆は頭を下げて一歩下がってる。おっと僕もやらなきゃだけど陛下から止められてるんだよねー。
「随分と巻き込んだな」
くすくすと笑う陛下にあわあわとすれば料理長さんが「今、ご用意をさせていただきます」とささっと夕飯を用意する。あれだけの修羅場を越えて焼き方をすっかりとマスターした料理長さん。サラダに関しても担当してた人が覚醒して手早くできるように。チャーハンはみんなフライパンを持って片手で炒める姿に「すごーい!カッコイイ―!」と1人できゃっきゃしてたらなぜか皆のやる気がアップ。
おかげでちゃちゃっと作れるように。料理人さんってすごいね!
「お前たちも食べるといい」
「ありがとうございます」
そう言ってできたものをみんな受け取ってばらばらになって食べるみたい。
僕たちの分は侍女さんが用意してくれる。みんなの分が行き渡ったところでいただきまーす!
もぐっと一口チャーハンを食べればほわぁ?!と声が出ちゃった。あつつ! うまま!
はふはふ言いながらチャーハンをもりもり。これ餡をかけても絶対おいしいやつ! 今度作ろう!
それから餃子を食べてるリーシャ、ハーミット先生は一口食べた後固まってる。美味しくなかった?
「何ですかこれ?!」
「滅茶苦茶うまい!」
感動してる二人にくふふと笑いながら陛下を見れば黙々と食べている。あー…お口に合わないかなー…。
そりゃ毎日いいもの食べてる人に餃子だもんね…。ぱりっぱりの羽根が付いてるけど。
「レイジス! 美味しいぞ!」
「本当ですか! 父様!」
陛下とは反対にものすごい勢いでなぜか泣きながら食べてる父様。あんまり詰め込むと喉に詰まらせますよー。
「本当においしいぞ。レイジス」
「ホントですか?! フリードリヒ殿下!」
「ああ。手伝ったかいがあったというものだ」
「あ!そうだ! 手伝わせちゃってすみませんでした」
「…フリードリヒも手伝ったのか?」
「はい。人手があってもないようなものでしたから」
「ふ…一国の王子が料理を手伝うとはな」
くっくっ、と笑う陛下にそう言われればそうだねと言えば「ぶばっ」とリーシャが吹き出した。ちょ?!
「そう考えるとこれを食べた何人かは殿下の包んだ餃子を食べてるんですよね。知ったら気を失いそう」
「ああー…そっか。これは秘密にしとかなきゃ!」
「しかし料理がこのように手間がかかっているとは思いませんでした」
「…いい経験をしたな。フリードリヒ」
「はい。レイジスのおかげですね」
フリードリヒに褒められて、えへへと照れ笑いをすれば、アルシュもノアも先生たちも「いい経験ができました」と声をそろえていってくれる。
巻き込んだのは僕の方なのにそう言ってくれることが嬉しくて、にへっと笑ってからうまうまなサラダを食べるのだった。
翌日も餃子のタネ包みを手伝ってくれた侍女さんや騎士さん、それに魔導士さんが後宮に現れてドーナツ作りを手伝ってくれた。
ドーナツはスタンダードなふわふわドーナツから僕が食べたかったエンゼルクリーム、それにオールドファッションやチョコファッション。それにチュロスを作ったらみんな大喜び。
一度に大量にできるから食べきれない分は王宮に勤めてる皆のおやつになった。
後で聞いたところ、ドーナツを巡って決闘をするものが出るほど人気だったらしい。
アルシュのお父さんがその場を収めたらしいけど「ドーナツで決闘をするとは何事だ」と嘆いてたらしい。
じゃあまたドーナツ作らないとね!
ついでに、とコーンドッグを作って手伝ってくれたみんなでうまうましてたら、フリードリヒに「レイジスは串から外して食べようね」って優しく言われた。それに首を傾げながら頷けば、なぜか侍女さんや騎士さん、魔導士さん達が全員頷いた。なんでだろう?
それから何人かは料理にハマっちゃったらしく「レシピを教えていただけませんか」と聞いてきた。それに今までのレシピを書いて渡せばものすごく喜んでくれた。
厨房の人たちも侍女さん指示の元、色んな料理を作ってた。今まで以上に食堂に人が集まる様になっちゃって料理人を募集したら結構な数が集まったらしく、それに料理長さんが嬉しい悲鳴をあげてたらしい。さらに餃子のお手伝いをしてくれた人たちが僕の姿を見れば挨拶をしてくれるようにもなったのは嬉しい。
「今度はなに作ろうかなー」
という僕の呟きに侍女さん達がそわっとし、リーシャとハーミット先生の瞳が輝く。
でも今度は海に行ってお魚さんゲットしたら、だからね! まだまだおいしいもの作るぞー!
ぎゅるるる、と風魔法でぶつ切りのお肉をミンチにする。
それを僕とリーシャ、ソルゾ先生がやってるからミンチにする作業が進む進む。
これが終わったらキャベツをみじん切りにするぞー!
あれからすぐさま王宮へと戻ってきた。
なんで、という疑問はあったけどフリードリヒ達の表情が険しかったから何も言えなかった。
昨日と同じく父様が迎えに来てくれたけど、昨日と違うのはアルシュのお父さんじゃなくてフィルノさんが来てくれたこと。
さっき別れたけどまた会ったね。
馬車に揺られて王宮に戻ってきたことはいいけどやることがないから暇になっちゃった。だから食べたいものを作りたい、ってフリードリヒに言ってみたら少し考えてから「確か後宮に使っていないキッチンがあったな」と呟いた。
後宮?!
いや、ちょっと待ってくださいよー! 僕男ですよー!
きゃああああ!と頬を両手に当てて恥ずかしがれば「今の後宮は誰も使ってませんから安心してください」とノアに言われた。
おあ。そうなの?
「何やかんや言いながらもレイジス様も男ですねー」
にひひと笑うリーシャにぷうと頬を膨らませると「それでだ」とフリードリヒが話を戻してくれた。
「父上にキッチンが使えるか聞いてくる。その間に必要な物があれば…侍女に言えばいい」
「はーい!」
「あと、部屋から出ちゃダメだからね?」
「はーい!」
よろしい、と頷きアルシュとノアと一緒に出ていくフリードリヒ達の背中を見送ると、さて何を食べようかと今のお腹に聞いてみる。
揚げ物でもいいけど今は気分じゃないんだよねー。それにギリクさんの魔法捌きを見てたら料理にも使えるんじゃないかなって思えちゃったから、ちょっと面倒くさいものでも作ろうかなー。
「で、何作るんですか?」
「んっふっふっふ。餃子でも作ろうかなって思ってる」
「ぎょうざ? 何ですか?それ?」
リーシャが首を傾げるのと同時に侍女さん達も首を傾げている。うふふー。
「ミンチで作ったタネを皮で包んで焼いた料理だよ。あとはささみのバンバンジー風サラダとー、あとチャーハン食べたい!」
餃子のお供と言えばチャーハンでしょ! それだけだとくどいからサラダもね!
ふわわー。想像しただけでお腹空いちゃうー。ついでに涎も出ちゃうー。
「レイジス様、涎」
「ふわっ?!」
じゅるりと出た涎を慌ててハンカチで拭いてから必要な材料をメモしていく。それをじっと見てるリーシャ。何か言いたそうだけど僕はそれに気付かないふりをして鼻歌を歌いながらメモを書く。
「えと…フリードリヒは侍女さんに渡せばいいっていってたけど…」
「レイジス様。それをお預かりしてもよろしいでしょうか」
「あ、うん」
「それでは失礼いたします」
「ほあ?!」
預かるって言うから渡したけどそれを持ってすそそと部屋から出ていく侍女さんに驚く。ええ?!
「だだだだ大丈夫かな?! リーシャ!」
「大丈夫でしょう。…レイジス様」
「うん?」
「理由を聞かないんですね」
「…なんの?」
にこっと笑いながらリーシャに言えば「すみません」と謝られた。リーシャは何か知ってそうだけど僕には言えないことなんだろうな。
無理して聞いてもたぶん理解できないから聞いても無駄だと思うからね。
「ブローチは明後日以降になると思います」
「明日も出れないの?」
「…大事を取って、です」
「そっか。なら明日はドーナツ作ろうね!」
ね?とリーシャにそう言えば「すみません」ともう一度謝られた。僕は謝ってほしい訳じゃないんだ。
以前の僕のことを教えてくれないことにも何か意味があるんだろう。
前も教えてくれなかったことがあったけどあの時も僕を思ってのことだった。フリードリヒ達が言わないのなら何かしら事情があるのだろうし。
「ニラを切ったらこの中に入れて…混ぜ混ぜしてねー!」
ぎゅるるるとミンチを作り終えた僕たちは今キャベツをみじん切りしている。ただし風魔法で。
フリードリヒが「許可を得るのに条件があるのだが…その条件は父上にも料理を分けることだ」とちょっとだけ苦笑いを浮かべたフリードリヒに笑って、皆でぞろぞろと後宮に移動した。使ってない、とはいえ掃除はちゃんと行き届いてるからすぐに使える状態。
それにメモを渡した侍女さんが3人の騎士さんを連れて戻ってきた。その騎士さんの手には大量のお野菜とお肉や調味料。
よく料理長さんからもぎ取れたねーと、ほわーとしながら見れば、にっこりと侍女さんが微笑む。
「侍女さんの料理への探求心が素晴らしかったです」とノアにこっそりと教えてもらっていろいろと運んでもらった騎士さん達に「ありがとう」を伝えてからバイバイをする。
それからは侍女さん総出、アルシュもノアも使ってみんなで料理開始。フリードリヒには側で待っててもらう。
タネができたらお仕事あるからね!
キャベツにニラ、ニンニクに塩コショウ。ミンチに生姜を入れて侍女さんがねりねり。実は腕力に関しては侍女さんの方が強かったりする。非力な僕はアルシュと侍女さんがねりねりしてる間に皮作り。
小麦粉と塩を混ぜて水でまとめて…。こっちもねりねり。
使えない僕は次のサラダ作りに入る。キュウリを切ってもらって伸ばし棒で叩く。しかしキュウリにも負けた僕がちょっと落ち込みながらささみを湯通してわっしゃーと毟る。
そう言えばゴマがあるからバンバンジーを作ろうと思ってたんだけどハルと一緒に取ったゴマは今ゴマ油になってる。
もうちょっと量が取れればごまだれを作ってバンバンジーを作るんだー! だからこれから作るのはゴマなしだね。
皮を丸くくりぬいてタネも完成。
さて…みんなで包むぞー!
わいわいと話しながら皮でタネと包む。ここはフリードリヒにも手伝ってもらうことに。大量にあるからね! 人は多い方が助かるんだよ!
ちまちまと皮で包んでいる間に偵察に来たらしい厨房の人たちを捕まえて手伝ってもらう。何事かと様子を見に来た知らない侍女さん達も捕まえて皮包みをしてもらうことに。
それでもまだまだ大量にあるそれを興味本位で見に来た騎士さんや魔導士さんをとっ捕まえて手伝ってもらう。
黙々とタネを皮で包んでいるとお日様がバイバイをする頃にようやく出来上がる。ううー…腰が痛いー…。
手伝ってくれたみんなにお礼を言うけど、今度はこれを焼かなきゃいけない。フライパンも足りないし何よりコンロが足りない。
ううーんと悩んでいると厨房の人たちが「なら手伝いますよ」と言ってくれたから大皿に山盛りになった餃子を持ってみんなで厨房に移動。侍女さんも騎士さんも魔導士さんもみんな駆け足で移動してるから、何事かという視線があちこちから刺さるけど今は餃子だよ!
ちなみに大量の餃子が乗ったお皿は騎士さん達が運んでくれてる。風魔法でガードをしてるから零れ落ちても大丈夫な仕様。ついでに風魔法は魔導士さん達と僕たちが担当してる。
厨房に着いた頃にはなぜか料理長さんまでもが準備万端です!と言う風にフライパンがコンロに置かれていた。
わーい!
それから一度僕が焼いてお手本を見せてから侍女さんや料理長さんにお任せする。
一番初めに焼いた餃子は勿論フリードリヒ殿下に渡す。醤油とお酢と胡椒で作った簡単タレはお気に召したようで、一皿ぺろりと食べちゃった。
皆の分はちょっと待っててねー! 今頑張って焼いてくれてるから!
その間に後宮へととんぼ返りしてチャーハンとサラダを作る。うひょー! 忙しいー!
どうせなら手伝ってくれたみんなに食べてもらいたいからと言えば、侍女さん達のやる気がものすごいことに。
魔法とコンロを駆使しながらチャーハンとサラダを作って厨房へ移動。その時も通りすがりの騎士さん達が手伝ってくれた。
そしてばたばたと移動をしていると、食堂にはたくさんの人だかりができていた。
「なにこれー?!」
「レイジス様! どうやら匂いに誘われてたくさんの方が押し寄せております…!」
「わぁ!」
なにそれ?! とりあえず出来上がったチャーハンとサラダを置けば「レイジス様たちはお夕飯をたべてください」と言われるけどこれ捌くの大変じゃない?!
「レイジス。よければ手伝ってやれ」
「いいんですか?!」
「ああ。アルシュ、リーシャ、ノア。お前たちも手伝ってやれ」
「分かりました」
「もちろん私も餃子の皮包みを手伝うがな」
ふふっと笑うフリードリヒ。どうやら餃子の皮包みが楽しかったらしい。
それからはとにかく魔法でミンチを作りながらキャベツをみじん切りにし、タネ作りができる侍女さんが指示を飛ばす。そしてサラダも侍女さんが指示を出しながらチャーハンを作る。
まさに戦場。
手伝ってくれた騎士さんも魔導士さんも一緒になってばたばたと動いている。
包んでも包んでも終わらない作業だけどひたすら皮でタネを包む。ご飯を食べに来た人たちが厨房の中にいる僕の姿を見つけて「ひっ」て悲鳴を出してたけどそんなことは気にしていられない。
とにかく餃子を作ることが今の僕たちの使命なのだ。
ひとしきり行き渡って疲れ果ててる皆に治癒魔法で疲れを癒す。
皆お疲れさまー。
ぐーぐーとお腹を鳴らしながら「お疲れさまー」と言えば「お疲れ様です」とそれぞれみんながたたえ合う。
うん。みんな頑張ってくれた…!
食堂が落ち着いてから料理長さんが残しておいた僕たちの分を作ってくれるらしいからこれからちょっと遅いお夕飯を食べるのだ。
あ、そう言えば陛下にもおすそ分けしなきゃ!と思ったらすでに陛下がそこにいた。
ひえっ?!
「ああ、終わったかい?」
「父上!」
「父様!」
陛下と一緒に入ってきたのは父様。フリードリヒと声が重なったことに顔を見合わせるとへらっと笑う。
皆は頭を下げて一歩下がってる。おっと僕もやらなきゃだけど陛下から止められてるんだよねー。
「随分と巻き込んだな」
くすくすと笑う陛下にあわあわとすれば料理長さんが「今、ご用意をさせていただきます」とささっと夕飯を用意する。あれだけの修羅場を越えて焼き方をすっかりとマスターした料理長さん。サラダに関しても担当してた人が覚醒して手早くできるように。チャーハンはみんなフライパンを持って片手で炒める姿に「すごーい!カッコイイ―!」と1人できゃっきゃしてたらなぜか皆のやる気がアップ。
おかげでちゃちゃっと作れるように。料理人さんってすごいね!
「お前たちも食べるといい」
「ありがとうございます」
そう言ってできたものをみんな受け取ってばらばらになって食べるみたい。
僕たちの分は侍女さんが用意してくれる。みんなの分が行き渡ったところでいただきまーす!
もぐっと一口チャーハンを食べればほわぁ?!と声が出ちゃった。あつつ! うまま!
はふはふ言いながらチャーハンをもりもり。これ餡をかけても絶対おいしいやつ! 今度作ろう!
それから餃子を食べてるリーシャ、ハーミット先生は一口食べた後固まってる。美味しくなかった?
「何ですかこれ?!」
「滅茶苦茶うまい!」
感動してる二人にくふふと笑いながら陛下を見れば黙々と食べている。あー…お口に合わないかなー…。
そりゃ毎日いいもの食べてる人に餃子だもんね…。ぱりっぱりの羽根が付いてるけど。
「レイジス! 美味しいぞ!」
「本当ですか! 父様!」
陛下とは反対にものすごい勢いでなぜか泣きながら食べてる父様。あんまり詰め込むと喉に詰まらせますよー。
「本当においしいぞ。レイジス」
「ホントですか?! フリードリヒ殿下!」
「ああ。手伝ったかいがあったというものだ」
「あ!そうだ! 手伝わせちゃってすみませんでした」
「…フリードリヒも手伝ったのか?」
「はい。人手があってもないようなものでしたから」
「ふ…一国の王子が料理を手伝うとはな」
くっくっ、と笑う陛下にそう言われればそうだねと言えば「ぶばっ」とリーシャが吹き出した。ちょ?!
「そう考えるとこれを食べた何人かは殿下の包んだ餃子を食べてるんですよね。知ったら気を失いそう」
「ああー…そっか。これは秘密にしとかなきゃ!」
「しかし料理がこのように手間がかかっているとは思いませんでした」
「…いい経験をしたな。フリードリヒ」
「はい。レイジスのおかげですね」
フリードリヒに褒められて、えへへと照れ笑いをすれば、アルシュもノアも先生たちも「いい経験ができました」と声をそろえていってくれる。
巻き込んだのは僕の方なのにそう言ってくれることが嬉しくて、にへっと笑ってからうまうまなサラダを食べるのだった。
翌日も餃子のタネ包みを手伝ってくれた侍女さんや騎士さん、それに魔導士さんが後宮に現れてドーナツ作りを手伝ってくれた。
ドーナツはスタンダードなふわふわドーナツから僕が食べたかったエンゼルクリーム、それにオールドファッションやチョコファッション。それにチュロスを作ったらみんな大喜び。
一度に大量にできるから食べきれない分は王宮に勤めてる皆のおやつになった。
後で聞いたところ、ドーナツを巡って決闘をするものが出るほど人気だったらしい。
アルシュのお父さんがその場を収めたらしいけど「ドーナツで決闘をするとは何事だ」と嘆いてたらしい。
じゃあまたドーナツ作らないとね!
ついでに、とコーンドッグを作って手伝ってくれたみんなでうまうましてたら、フリードリヒに「レイジスは串から外して食べようね」って優しく言われた。それに首を傾げながら頷けば、なぜか侍女さんや騎士さん、魔導士さん達が全員頷いた。なんでだろう?
それから何人かは料理にハマっちゃったらしく「レシピを教えていただけませんか」と聞いてきた。それに今までのレシピを書いて渡せばものすごく喜んでくれた。
厨房の人たちも侍女さん指示の元、色んな料理を作ってた。今まで以上に食堂に人が集まる様になっちゃって料理人を募集したら結構な数が集まったらしく、それに料理長さんが嬉しい悲鳴をあげてたらしい。さらに餃子のお手伝いをしてくれた人たちが僕の姿を見れば挨拶をしてくれるようにもなったのは嬉しい。
「今度はなに作ろうかなー」
という僕の呟きに侍女さん達がそわっとし、リーシャとハーミット先生の瞳が輝く。
でも今度は海に行ってお魚さんゲットしたら、だからね! まだまだおいしいもの作るぞー!
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成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
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