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王都編
みんな僕の兄様
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「レイジス、ケーキ食べるかい?」
「はい!食べたいです! …けど先に食べちゃっていいんですか?」
朝ご飯をもりもり食べたけどケーキは別腹。まだまだお腹に隙間があるからね!食べるよー!
フリードリヒがにっこり笑ってそう言うけど陛下はまだ来てないよね? 首を傾げる僕に「ああ」と言いながら侍女さんがケーキを分けてくれる。
というかホール? こういうのってなんか専用のあれに乗ってるんじゃないの?
「父上から、レイジスが席に着いたらケーキを食べてくれて構わない、と言われているからね」
「おっふ」
食いしん坊だと思われてる?! いや、食べるの好きだけど。
侍女さんたちは僕がどれだけ食べるか知ってるから、さくさくっと用意してくれる。おお!今日のケーキもおいしそう!
「いただきまーす!」
フォークを手にしてイチゴのケーキをパクリ。
んまままままー!
ふぉあ!と変な声が出たけど気にしない! おいしー! いつもとちょっと違う気がするけどおいしいー!
はぐはぐとケーキを食べていると、パイも用意されてるみたいでもぐもぐと口を動かしながらパイを見る。
「ちょっと、レイジス様。お行儀悪いですよ」
「らってそっちもおいしそうなんらもん」
「お行儀悪いですよ」
おう。リーシャとアルシュに言われたけど、さっきのは僕が悪い。食べながら話しちゃダメ。
何度も言われてるけどなかなか直らないんだよねー…。ジョセフィーヌにも言われてるからホント直さなきゃ。
ごっくん、とケーキを飲み込んでから「ごめんなさい」と謝ると、父様が「カボチャのパイ食べるかい?」って聞いてくる。それに「食べる!」とふんすと返事をすれば、侍女さん達が切ってくれた。
わーい! カボチャのパイだー!
わっほーい!とそわそわしながら待ってると「ちょっと大きめにしておきました」と侍女さんがこそっと教えてくれる。わお! ありがとう!
むふむふと興奮しながらカボチャのパイもパクリ。んんんん!おいしい!
腕を上げまくった侍女さん達のお菓子は美味しいー!
フリードリヒやアルシュ、ノアはアップルパイ食べてる。さくさくのパイがおいしいね!
けどさ…アップルパイにバニラアイスを乗せたら絶対おいしいと思うんだ…。でもここじゃ作れないのが残念。寮に帰ったらアイスの乗ったアップルパイ食べようね!
「そう言えばエンゼルクリームとか食べたくなってきたな」
パイを食べ終わった僕がケーキやパイ、タルトと言うラインナップを見ながらそう言えば、侍女さん達がぴしりと固まった。
あ、そういえば揚げ物って言えばカツくらいだもんね。お出汁が手に入ったら天ぷらを食べようと思ってたんだけど。ほら、フ―ディ村ってお野菜がいっぱいだからね! お出汁ができるまでに青しそが手に入れば万々歳。
揚げ物と言えばアメリカンドッグ…コーンドッグとかも食べたい。魚肉ソーセージは諦めるとしても、ソーセージがあるなら食べたいねー。
「レイジス様…。それは…?」
「うん? ドーナツだよ。こう…丸くて中にクリームが入ってて粉砂糖がかかってるの!」
「…レイジス。なぜ今そんなおいしそうなお菓子を言うんだい?」
おや? 父様の肩がなぜかぶるぶると震えてる。どうしたの?
「あ、あとコーンドッグとかフリードリヒとか好きそうだよね!」
「レイジス。こーんどっぐ?とはなんだい?」
「えとですねー。ソーセージを串に刺してホットケーキの生地を付けて揚げるんです! そこにマスタードとかケチャップを付けて食べるんですよー」
うふふー、と今食べたくなったものを言えば侍女さん達の目つきが変わった。
あ、戦闘体勢に入ってる。
これは作る気満々だー! でもここじゃ作れないもんね…。
「えと、えと…! 寮に帰ったら作ろうね!」
「レイジス…父様もそのエンゼルクリームとコーンドッグとやらを食べてみたいんだが…」
「あばばばばば」
しょん、と肩を落としている父様にあわあわしていると「そうだ!」とぴこんと豆電球が付いた。
「ジョセフィーヌに教えるから! それで家で食べれるようにするから! ね!」
よし!いい考えだ! ジョセフィーヌは今や僕が提案して試作したものを完璧に作るからね! さすが侍女頭!
たまーにアレンジが加わってるけどとってもおいしいんだー。
「ジョセフィーヌか…。確かに彼女ならやってくれそうだ」
「だから父様、落ち込まないで?」
「ああ。ではその日を楽しみにしてるよ! レイジス!」
「はい!父様!」
ひし、と抱き合えばなぜか生温かい瞳があちこちから突き刺さる。おあ?!
「そのままで結構だよ。レイジス、フォルス」
「あば」
親子で芝居してたら陛下が来ちゃった。びっくりしすぎてびょっと後ろ髪が逆立っちゃう。
「気にしなくていいぞ。レイジス」
「だだだだだけど…!」
「うむ。気にすることはないぞ。 レイジス!」
「父様は少し気にしよう?!」
フリードリヒはいいとして父様はなんでそんなにフランクなの?!
立ち上がろうとしたアルシュ、リーシャ、ノアを手で制止して座らせると陛下が僕の正面に座る。ちなみに僕は父様とフリードリヒに挟まれている。
「なにやら楽しそうだけど何を話していたんだ?」
「レイジスが食べたいものを言っていただけです」
「ほう? 例えば?」
「エンゼルクリーム、というドーナツとコーンドッグなるものですね」
「聞いたこともない食べ物だな」
「気になりますよね」
フリードリヒと陛下の会話に呆気を取られながら抱き合ってた父様が「ね? 気にしてないでしょ?」とウインクを一つ。それにへらっと笑えば、侍女さん達がお茶を用意していく。やっぱり手際がいいな。
「さて、昨日はすまなかったね。レイジス」
「ひあ?!」
再びびょっと後ろ髪を逆立てるとぶぶぶと首を左右に高速で動かす。
「レイジス、あまり無理はするな」
「あば」
あまりに高速で動かしたからか頭がくらくらする。やっちゃったよー…。
そんな僕にはらはらとしながら見守る侍女さんと同じくはらはらとしている3人。うう…ごめんなさい。こういうの久々すぎてテンパってる…。
「君は大人数の知らない人といるのに慣れていない、とフォルスから聞いてここにしたんだが…。大丈夫そうかな?」
「あ、はい! 大丈夫です」
くらくらは直ぐに治まってしゃきん、と背を伸ばせば陛下にくすりと笑われた。でも気にしない!
「ケーキも食べながらで構わないからね。さて、本題だが」
「はい」
お茶を一口飲んだ陛下の空気が変わる。真面目な話だから僕も気を引き締めないと。
■■■
結論から言えば僕を襲った人たちをどうするか、という話と氷の魔石のお話だった。
僕を襲った人たちはどうやら山の麓近くに住んでて、獲物が取れなくなったからやむにやまれずあの近くで人を襲ってたらしい。
でも人を襲うのはよくないよ、というのは綺麗ごと。村に残してきた女の人や子供を食わせるにはそうせざるを得なかったんだって。
だったら仕事を与えよう、ということになってフ―ディ村へと移動してもらうことにした。あそこならご飯を食いっぱぐれることはないし、子供たちもお手伝いできる。
提案したら陛下に「甘い」って言われちゃったけど、どうやらフ―ディ村も人手不足でちょうど人が欲しかったということでその話しはおしまい。
次にワイバーンたちなんだけど、ワイバーン隊が預かることになったんだって。
でもワイバーンに乗る人がいないから、乗っていた人たちをそのままワイバーンたちの乗り手になるみたい。だからワイバーンを操ってた人たちは騎士になるらしい。お給料もいいってこっそり教えてもらった。
ワイバーンたちの名前はなぜか僕がつけた。なんでだろうね?
だからルーナ、モーネ、ルナ、レヴォネってつけてあげた。全部月の名前なんだ。グルキテスさん達のワイバーンも月の名前だからね。みんなお揃いだよ。
それから氷の魔石。
お値段なんかさっぱりぷーだから全部父様にお任せ。僕に価値を語られても全然わかんないからね。
でもどうやら相当なお値段が付くらしい。
試しに、とうさうさバッグに入ってた魔石で作って渡したら大層驚かれた。主に魔導士の皆さんに。魔石あるならそれに全部入れるよ?
父様と陛下が話してる間、僕はずっとケーキ食べてた。だって美味しいんだもん。でも流石に食べすぎたー!
お腹いっぱいだからちょろっと動きたいなーなんて思ってたら父様に「街に行ってみるかい?」って言われた。それに高速で頷けば「リーシャ君とはぐれてはダメだよ?」と言われた。それに頷きながらも「なんで?」と問えば「僕は元々平民ですからね」とリーシャに言われた。
そうなんだ。
じゃあお願いします!
父様からお小遣いをもらってうさうさバッグへと入れようとしたら「待ちなさい」と言われて顔を上げたら、うさうさバッグと同じようにうさうさ財布を手渡された。わー!可愛い!
なんかどんどんうさぎが増えていくなー。
僕は気にしないけどね!
これでお土産が買えるぞー!とほくほくとしてたら「夕方までには帰ること」と「何かあったら憲兵さんに助けを求めること」の二つを絶対に守ること、と父様に言われた。
それに力強く頷くとフリードリヒ、アルシュ、ノアも立ち上がりみんなで街へと繰り出すことになった。
そして今、制服そのまま…と思ったら制服は目立つから、と着替えて街へと繰り出している。
「おおー!」
うさうさバッグの中身を父様に預けているから今はうさうさ財布が入ってるだけ。
初めて見る人の多さに感動していると「立ち止まるなら横に寄ってください」とリーシャに言われてみんなで大通りの端っこで固まってる。
すごい、すごいと通り過ぎる人たちを見ながら興奮していると「ちょっと落ち着きましょう?」とアルシュに言われてしまった。
っは!そうだった!
今日はノアの弟で初めて王都に来たという設定だった!
そして恐らくあっちへふらふらこっちへふらふらする僕のために、ノアが首輪と言う名の手を繋いでいてくれているのだ。
フリードリヒは髪の色をシルバーから金色へと魔法で変えている。これなら目立たない、はず。
固まってる僕たちをちらちらとは見てくるけどそれだけ。たぶん厄介なものに関わりあいたくないんだろうね。わかるぞ!
「で、リボンが欲しいんでしたよね」
「うん!」
「うちが前使ってた店でいいなら案内できますが…」
「寧ろそこがいい!」
貴族のお店とかよく分んないんだけど見るからに高級品ーって感じのとこはちょっと入り辛い。こう…ちょっとおしゃれしていかなきゃ入れないお店とかね。
今の僕たちはちょっとだけ良い服着てるだけの平民って感じだしそもそも子供だけでは入れるのだろうか…。
「…汚くても文句言わないでくださいね」
「言わないよ!」
フリードリヒとかは分んないけど。あまりにあれなら外で待っててもらおう。
ノアと手を繋いでリーシャの後ろを付いていく。もちろんフリードリヒは僕たちの前。横にはアルシュが付いてる。
「レジィ。いいかい? 兄様の言うことをちゃんと聞くんだよ?」
「はい! ノア兄様!」
突然始まった茶番は僕たちを兄弟だと周りに思わせるため。ついでにレジィは僕の偽名。わっかりやすーい!
けど知らない人が聞けばちゃんと僕の名前になるんだから面白いよね。
そして最後の最後までフリードリヒがごねていた『兄様』呼び。兄弟なら呼び捨てでも構わないだろう、という無茶苦茶な注文をノアがにっこりと笑って「ダメです」と切り捨てていた。
ちなみにこの『兄様』呼び。なんかよく分んないけどリーシャにヒットしたらしく「レイジス様! 僕にもぜひ兄様と呼んでください!」と言われて「リーシャ兄様」とにぱっと笑ってあざとく言ってみたらフリードリヒが拗ねた。
その拗ねたフリードリヒにアルシュが「レイジス様、申し訳ありませんが殿下にも『兄様』と呼んであげていただけませんか?」と僕に頼んできた。
それにこくんと頷きにぱっと笑いながらできるだけ無邪気に「アルシュ兄様、フリードリヒ兄様」と呼んだところ、フリードリヒの機嫌が急上昇しアルシュもまた悶えていた。予想以上の反応に、僕にっこり。
ついでにフリードリヒも偽名を使うことになってる。まぁそのままでも構わないなんて言ってたけど流石にね…。
今は「セイラン」と名乗ってる。
リーシャの案内でぽてぽてと歩きながら僕は街をきょろきょろ。お上りさん丸出しだけどしょうがない。初めて見るからねー。
お店や露店、街並みを見ながらノアに引っ張ってもらう。時々興味が引かれるものもあったけど、今は手芸屋さん。
大通りから一本中に入ると途端に人気が少なくなってちょっと寂しい。そんな道を歩くとリーシャが止まったのか、フリードリヒ達が止まった。
ひょこっとアルシュの横から顔をのぞかせるとそこにあったのは古びた家。ホントにお店屋さん?って感じだけどリーシャが中に入っていく。こういう雰囲気のお店すっごい好きー!
「大丈夫みたいだけど…セイランたちはどうする?」
「わた…俺も入ろう」
「…狭いですけど」
「構わん」
ホントに入るんですか?というリーシャの視線につい笑えば「嫌になったらすぐに出てね」と扉を開けてくれた。
ほわー! 初めてのお店ー!
フリードリヒとアルシュが中に入るのを見てから僕も後を付いていくとギッと床が鳴った。うおおおおお!いい!めっちゃ好き!こういうのすっごい好き!
1人ふんふんと興奮してると後ろから「レジィ、早く入って」とノアに言われてずっと床で遊んでいた事に気付いた。おわ!ごめん!
先に入ってたフリードリヒとアルシュがすっごい温かい目で見てくる。うわー恥ずかしいー!
お店の中は布やリボン、糸なんかがあってすごくカラフル。そしてめっちゃ楽しい。
ほわーと口を開けながら見ていると「狭いところでごめんなさいね」と声がした。それに驚いてついアルシュに引っ付けば「あらあら、ごめんなさいね」とおばあちゃんが上品に笑う。
「はわ。こちらこそごめんなさい」
アルシュから離れてぺこりと頭を下げれば「あらあら。礼儀正しい子ね」と笑う。
「レジィ。この人が店主さん。相談があるなら乗ってくれるから」
「ふふ。久しぶりね。リーシャ」
「…そうだね」
どことなく居心地が悪そうなリーシャに首を傾げながら見れば「レジィ、僕じゃなくてリボン見て」とつっけんどんに言う。あ、そだね。
「リボン? 誰かにプレゼント?」
「えと…ぬいぐるみ達に付けたくて」
「まぁ、素敵ね。リボンはこっちにあるから見ていってね」
「ありがとうございます!」
たくさんあるリボンに目移りしながらうんうんと唸る僕。肌触りがいいものから可愛いもの。それに色もたくさんあって混乱しちゃうよー!
女の子たちはすごいなぁ。こんなにたくさんの中から自分に似合う色とかを決めるんだから。
フリードリヒ達は何してるんだろうと思ってきょろりと見渡せば、物珍しそうに色々なものを見ている。まぁ王子様がこういったお店に来ること自体なさそうだもんね。
「レジィ。どうしたんだい?」
「あ、ノア兄様」
フリードリヒとアルシュにむふむふとしてたのがばれたのか、ノアが近付いてきた。リーシャは…と思ったらあれ? いない?どこ行ったの?
「えと…リーシャは?」
「リーシャならお店の外で待つ、と言ってましたね」
「ふぅー…ん」
気になるけどリボンを買わないと何か言われそうだからたくさんのリボンとまた格闘を始める。
「んにゃー! いっぱいあってどれがいいかわかんないー!」
待たせるのも悪いからと焦るとどれがいいのか分らなくなる。あっちがいいかな?こっちがいいかな?と散々迷っていると「あらあら」とおばあちゃん店主さんの、のんびりした声。それにおばあちゃん店主さんを見ればのほほんと笑っている。
「そうね。たくさんあって困るかもしれないけど、誰に贈りたいか、と思いながら見ればいいわよ」
「誰に贈りたいか…」
「ええ、ええ。この子にはこの色が似合うとか、この子にはこの肌触りがいい、とかね」
「ふむふむ。なるほど」
おばあちゃん店主さんの言葉にこくこくと頷く。どの子に何色を、と考えればあれだけ悩んでいたのが嘘のようにさくさくと進んだ。
5本のリボンを選び抜いてほっと息を吐く。ようやく選べたー! 待っててくれてありがとう!
くるりとリボンを結んでもらってうさうさ財布からお金を…えと、どれがどれなんだろう? この銅が十円くらいなのかな? わかんない。ノアに「兄様…」と助けを求めれば「ああ、レジィは初めてだからね」と優しく教えてもらう。
ふむふむ。銅色のものが十円くらいなのね。お金の価値を教えてもらいながらリボンの代金を支払う。その様子におばあちゃん店主さんがにこにこと孫を見ているように見守ってくれてる。ふふー。懐かしいなー。
「はい、ありがとうね」
ぬいぐるみたちのリボンを買えてノアに報告。
そしたら頭を撫でてくれた。わお!ノアに頭を撫でられたー!
うふふ、とにまにましているとフリードリヒがなぜかリボンを選んでいた。ん? フリードリヒもリボンいるの?
「店主、このリボンをいただきたい」
「はい」
フリードリヒが選んだのは赤いリボン。僕が最後まで悩みぬいたそれを買ったフリードリヒだけどお金持ってるの?
ちょっとだけわくわくしながら見ていると、アルシュが支払ってた。ま、そうなるよね! ちょっとばかりがっかりしてると「殿下のお小遣いもアルシュと一緒にされてますからね」とこそっとノアに教えてもらった。フリードリヒのお小遣いってどれくらいなのか聞くの怖いな…。
ぶるっと身体を震わせると「レジィ、これを」とフリードリヒがさっき買ったリボンを僕に渡してくれる。
え?
包まれていないそれを掌に乗せて「受け取ってくれるかい?」と微笑むフリードリヒにぼぼっと頬を熱くさせると「は、はい!」とそれを受け取る。
すると嬉しそうに笑うフリードリヒにどきりとしながらリボンを握ると「その子に付けてあげて」と言われた。その子? どの子?
首を傾げて「誰に?」と問えば「バッグの子だよ」と言われた。あ!そうだった! この子もいたんだった! ごめんよー!忘れてたー!
やっちゃったぁとしょんぼりと肩を落とせば、肩をノアが叩いてくれた。
「ここで付けましょうか」
「はい! 兄様!」
にへっと笑ってうさうさバッグにフリードリヒにもらったリボンを耳の付け根部分にちょうちょ結びにすると、ゆらりとリボンが揺れた。
可愛いー!
「兄様! 兄様!」
「可愛いね。レジィ。でもセイランにお礼は言ったのかな?」
「あ!」
つい興奮気味にノアにバッグを持って見せればそう言われてしまった。そうだった!お礼言ってない!
慌ててバッグを下ろすとフリードリヒに向き直す。
「セイラン兄様、ありがとうございました!」
「レジィが喜んでくれてよかった」
細められたパンジー色に心臓が早鐘を打つ。うう…やっぱりなんかフリードリヒの笑顔見るとドキドキするー! ささーっとノアの後ろに隠れると「恥ずかしかったかな?」と頭を撫でてくれる。恥ずかしいよー!
ぼわわっと顔を赤くさせてノアの背中に顔を埋めるとフリードリヒからなんか冷たい物がノアに向けられる。火照った顔にはちょうどいいけどダメー!
ちらっと半分顔を出せば、それが止まった。
「もういいですかー?」
そんなやり取りをしてるとリーシャがお店に入ってきた。そうだった! ここお店の中だった!
ちらっとおばあちゃん店主さんを見れば、にこにこほわほわしてる。おおー…癒されるー…。
「レイ…レジィ、そのリボンは?」
「フ…セイラン兄様にいただきました!」
「ふぅん…。じゃあ次はブローチ見に行こうか」
「はい! リーシャ兄様!」
早く出たそうなリーシャにそう言ってノアの服を引っ張れば「では失礼します」とおばあちゃん店主さんににこりと笑って、手を繋ぐ。うん。そうだね。
ちなみに移動は絶対にノアと手を繋がないとダメなのだ。手を繋いでおばあちゃん店主さんにバイバイをしてお店を出る。
買ったリボンはうさうさバッグの中に入ってる。うさうさバッグ見るたびに揺れる赤いリボンに頬が緩む。
「また来たいなぁ」
「そうですね。また来ましょうか。レイジス様」
「うん!」
ふへへと笑っていると「今度はレイジスにリボンでも買うか」とフリードリヒが呟く。それにばぼっと頬を熱くさせると「行きますよ」とリーシャにせっつかれるのであった。
「はい!食べたいです! …けど先に食べちゃっていいんですか?」
朝ご飯をもりもり食べたけどケーキは別腹。まだまだお腹に隙間があるからね!食べるよー!
フリードリヒがにっこり笑ってそう言うけど陛下はまだ来てないよね? 首を傾げる僕に「ああ」と言いながら侍女さんがケーキを分けてくれる。
というかホール? こういうのってなんか専用のあれに乗ってるんじゃないの?
「父上から、レイジスが席に着いたらケーキを食べてくれて構わない、と言われているからね」
「おっふ」
食いしん坊だと思われてる?! いや、食べるの好きだけど。
侍女さんたちは僕がどれだけ食べるか知ってるから、さくさくっと用意してくれる。おお!今日のケーキもおいしそう!
「いただきまーす!」
フォークを手にしてイチゴのケーキをパクリ。
んまままままー!
ふぉあ!と変な声が出たけど気にしない! おいしー! いつもとちょっと違う気がするけどおいしいー!
はぐはぐとケーキを食べていると、パイも用意されてるみたいでもぐもぐと口を動かしながらパイを見る。
「ちょっと、レイジス様。お行儀悪いですよ」
「らってそっちもおいしそうなんらもん」
「お行儀悪いですよ」
おう。リーシャとアルシュに言われたけど、さっきのは僕が悪い。食べながら話しちゃダメ。
何度も言われてるけどなかなか直らないんだよねー…。ジョセフィーヌにも言われてるからホント直さなきゃ。
ごっくん、とケーキを飲み込んでから「ごめんなさい」と謝ると、父様が「カボチャのパイ食べるかい?」って聞いてくる。それに「食べる!」とふんすと返事をすれば、侍女さん達が切ってくれた。
わーい! カボチャのパイだー!
わっほーい!とそわそわしながら待ってると「ちょっと大きめにしておきました」と侍女さんがこそっと教えてくれる。わお! ありがとう!
むふむふと興奮しながらカボチャのパイもパクリ。んんんん!おいしい!
腕を上げまくった侍女さん達のお菓子は美味しいー!
フリードリヒやアルシュ、ノアはアップルパイ食べてる。さくさくのパイがおいしいね!
けどさ…アップルパイにバニラアイスを乗せたら絶対おいしいと思うんだ…。でもここじゃ作れないのが残念。寮に帰ったらアイスの乗ったアップルパイ食べようね!
「そう言えばエンゼルクリームとか食べたくなってきたな」
パイを食べ終わった僕がケーキやパイ、タルトと言うラインナップを見ながらそう言えば、侍女さん達がぴしりと固まった。
あ、そういえば揚げ物って言えばカツくらいだもんね。お出汁が手に入ったら天ぷらを食べようと思ってたんだけど。ほら、フ―ディ村ってお野菜がいっぱいだからね! お出汁ができるまでに青しそが手に入れば万々歳。
揚げ物と言えばアメリカンドッグ…コーンドッグとかも食べたい。魚肉ソーセージは諦めるとしても、ソーセージがあるなら食べたいねー。
「レイジス様…。それは…?」
「うん? ドーナツだよ。こう…丸くて中にクリームが入ってて粉砂糖がかかってるの!」
「…レイジス。なぜ今そんなおいしそうなお菓子を言うんだい?」
おや? 父様の肩がなぜかぶるぶると震えてる。どうしたの?
「あ、あとコーンドッグとかフリードリヒとか好きそうだよね!」
「レイジス。こーんどっぐ?とはなんだい?」
「えとですねー。ソーセージを串に刺してホットケーキの生地を付けて揚げるんです! そこにマスタードとかケチャップを付けて食べるんですよー」
うふふー、と今食べたくなったものを言えば侍女さん達の目つきが変わった。
あ、戦闘体勢に入ってる。
これは作る気満々だー! でもここじゃ作れないもんね…。
「えと、えと…! 寮に帰ったら作ろうね!」
「レイジス…父様もそのエンゼルクリームとコーンドッグとやらを食べてみたいんだが…」
「あばばばばば」
しょん、と肩を落としている父様にあわあわしていると「そうだ!」とぴこんと豆電球が付いた。
「ジョセフィーヌに教えるから! それで家で食べれるようにするから! ね!」
よし!いい考えだ! ジョセフィーヌは今や僕が提案して試作したものを完璧に作るからね! さすが侍女頭!
たまーにアレンジが加わってるけどとってもおいしいんだー。
「ジョセフィーヌか…。確かに彼女ならやってくれそうだ」
「だから父様、落ち込まないで?」
「ああ。ではその日を楽しみにしてるよ! レイジス!」
「はい!父様!」
ひし、と抱き合えばなぜか生温かい瞳があちこちから突き刺さる。おあ?!
「そのままで結構だよ。レイジス、フォルス」
「あば」
親子で芝居してたら陛下が来ちゃった。びっくりしすぎてびょっと後ろ髪が逆立っちゃう。
「気にしなくていいぞ。レイジス」
「だだだだだけど…!」
「うむ。気にすることはないぞ。 レイジス!」
「父様は少し気にしよう?!」
フリードリヒはいいとして父様はなんでそんなにフランクなの?!
立ち上がろうとしたアルシュ、リーシャ、ノアを手で制止して座らせると陛下が僕の正面に座る。ちなみに僕は父様とフリードリヒに挟まれている。
「なにやら楽しそうだけど何を話していたんだ?」
「レイジスが食べたいものを言っていただけです」
「ほう? 例えば?」
「エンゼルクリーム、というドーナツとコーンドッグなるものですね」
「聞いたこともない食べ物だな」
「気になりますよね」
フリードリヒと陛下の会話に呆気を取られながら抱き合ってた父様が「ね? 気にしてないでしょ?」とウインクを一つ。それにへらっと笑えば、侍女さん達がお茶を用意していく。やっぱり手際がいいな。
「さて、昨日はすまなかったね。レイジス」
「ひあ?!」
再びびょっと後ろ髪を逆立てるとぶぶぶと首を左右に高速で動かす。
「レイジス、あまり無理はするな」
「あば」
あまりに高速で動かしたからか頭がくらくらする。やっちゃったよー…。
そんな僕にはらはらとしながら見守る侍女さんと同じくはらはらとしている3人。うう…ごめんなさい。こういうの久々すぎてテンパってる…。
「君は大人数の知らない人といるのに慣れていない、とフォルスから聞いてここにしたんだが…。大丈夫そうかな?」
「あ、はい! 大丈夫です」
くらくらは直ぐに治まってしゃきん、と背を伸ばせば陛下にくすりと笑われた。でも気にしない!
「ケーキも食べながらで構わないからね。さて、本題だが」
「はい」
お茶を一口飲んだ陛下の空気が変わる。真面目な話だから僕も気を引き締めないと。
■■■
結論から言えば僕を襲った人たちをどうするか、という話と氷の魔石のお話だった。
僕を襲った人たちはどうやら山の麓近くに住んでて、獲物が取れなくなったからやむにやまれずあの近くで人を襲ってたらしい。
でも人を襲うのはよくないよ、というのは綺麗ごと。村に残してきた女の人や子供を食わせるにはそうせざるを得なかったんだって。
だったら仕事を与えよう、ということになってフ―ディ村へと移動してもらうことにした。あそこならご飯を食いっぱぐれることはないし、子供たちもお手伝いできる。
提案したら陛下に「甘い」って言われちゃったけど、どうやらフ―ディ村も人手不足でちょうど人が欲しかったということでその話しはおしまい。
次にワイバーンたちなんだけど、ワイバーン隊が預かることになったんだって。
でもワイバーンに乗る人がいないから、乗っていた人たちをそのままワイバーンたちの乗り手になるみたい。だからワイバーンを操ってた人たちは騎士になるらしい。お給料もいいってこっそり教えてもらった。
ワイバーンたちの名前はなぜか僕がつけた。なんでだろうね?
だからルーナ、モーネ、ルナ、レヴォネってつけてあげた。全部月の名前なんだ。グルキテスさん達のワイバーンも月の名前だからね。みんなお揃いだよ。
それから氷の魔石。
お値段なんかさっぱりぷーだから全部父様にお任せ。僕に価値を語られても全然わかんないからね。
でもどうやら相当なお値段が付くらしい。
試しに、とうさうさバッグに入ってた魔石で作って渡したら大層驚かれた。主に魔導士の皆さんに。魔石あるならそれに全部入れるよ?
父様と陛下が話してる間、僕はずっとケーキ食べてた。だって美味しいんだもん。でも流石に食べすぎたー!
お腹いっぱいだからちょろっと動きたいなーなんて思ってたら父様に「街に行ってみるかい?」って言われた。それに高速で頷けば「リーシャ君とはぐれてはダメだよ?」と言われた。それに頷きながらも「なんで?」と問えば「僕は元々平民ですからね」とリーシャに言われた。
そうなんだ。
じゃあお願いします!
父様からお小遣いをもらってうさうさバッグへと入れようとしたら「待ちなさい」と言われて顔を上げたら、うさうさバッグと同じようにうさうさ財布を手渡された。わー!可愛い!
なんかどんどんうさぎが増えていくなー。
僕は気にしないけどね!
これでお土産が買えるぞー!とほくほくとしてたら「夕方までには帰ること」と「何かあったら憲兵さんに助けを求めること」の二つを絶対に守ること、と父様に言われた。
それに力強く頷くとフリードリヒ、アルシュ、ノアも立ち上がりみんなで街へと繰り出すことになった。
そして今、制服そのまま…と思ったら制服は目立つから、と着替えて街へと繰り出している。
「おおー!」
うさうさバッグの中身を父様に預けているから今はうさうさ財布が入ってるだけ。
初めて見る人の多さに感動していると「立ち止まるなら横に寄ってください」とリーシャに言われてみんなで大通りの端っこで固まってる。
すごい、すごいと通り過ぎる人たちを見ながら興奮していると「ちょっと落ち着きましょう?」とアルシュに言われてしまった。
っは!そうだった!
今日はノアの弟で初めて王都に来たという設定だった!
そして恐らくあっちへふらふらこっちへふらふらする僕のために、ノアが首輪と言う名の手を繋いでいてくれているのだ。
フリードリヒは髪の色をシルバーから金色へと魔法で変えている。これなら目立たない、はず。
固まってる僕たちをちらちらとは見てくるけどそれだけ。たぶん厄介なものに関わりあいたくないんだろうね。わかるぞ!
「で、リボンが欲しいんでしたよね」
「うん!」
「うちが前使ってた店でいいなら案内できますが…」
「寧ろそこがいい!」
貴族のお店とかよく分んないんだけど見るからに高級品ーって感じのとこはちょっと入り辛い。こう…ちょっとおしゃれしていかなきゃ入れないお店とかね。
今の僕たちはちょっとだけ良い服着てるだけの平民って感じだしそもそも子供だけでは入れるのだろうか…。
「…汚くても文句言わないでくださいね」
「言わないよ!」
フリードリヒとかは分んないけど。あまりにあれなら外で待っててもらおう。
ノアと手を繋いでリーシャの後ろを付いていく。もちろんフリードリヒは僕たちの前。横にはアルシュが付いてる。
「レジィ。いいかい? 兄様の言うことをちゃんと聞くんだよ?」
「はい! ノア兄様!」
突然始まった茶番は僕たちを兄弟だと周りに思わせるため。ついでにレジィは僕の偽名。わっかりやすーい!
けど知らない人が聞けばちゃんと僕の名前になるんだから面白いよね。
そして最後の最後までフリードリヒがごねていた『兄様』呼び。兄弟なら呼び捨てでも構わないだろう、という無茶苦茶な注文をノアがにっこりと笑って「ダメです」と切り捨てていた。
ちなみにこの『兄様』呼び。なんかよく分んないけどリーシャにヒットしたらしく「レイジス様! 僕にもぜひ兄様と呼んでください!」と言われて「リーシャ兄様」とにぱっと笑ってあざとく言ってみたらフリードリヒが拗ねた。
その拗ねたフリードリヒにアルシュが「レイジス様、申し訳ありませんが殿下にも『兄様』と呼んであげていただけませんか?」と僕に頼んできた。
それにこくんと頷きにぱっと笑いながらできるだけ無邪気に「アルシュ兄様、フリードリヒ兄様」と呼んだところ、フリードリヒの機嫌が急上昇しアルシュもまた悶えていた。予想以上の反応に、僕にっこり。
ついでにフリードリヒも偽名を使うことになってる。まぁそのままでも構わないなんて言ってたけど流石にね…。
今は「セイラン」と名乗ってる。
リーシャの案内でぽてぽてと歩きながら僕は街をきょろきょろ。お上りさん丸出しだけどしょうがない。初めて見るからねー。
お店や露店、街並みを見ながらノアに引っ張ってもらう。時々興味が引かれるものもあったけど、今は手芸屋さん。
大通りから一本中に入ると途端に人気が少なくなってちょっと寂しい。そんな道を歩くとリーシャが止まったのか、フリードリヒ達が止まった。
ひょこっとアルシュの横から顔をのぞかせるとそこにあったのは古びた家。ホントにお店屋さん?って感じだけどリーシャが中に入っていく。こういう雰囲気のお店すっごい好きー!
「大丈夫みたいだけど…セイランたちはどうする?」
「わた…俺も入ろう」
「…狭いですけど」
「構わん」
ホントに入るんですか?というリーシャの視線につい笑えば「嫌になったらすぐに出てね」と扉を開けてくれた。
ほわー! 初めてのお店ー!
フリードリヒとアルシュが中に入るのを見てから僕も後を付いていくとギッと床が鳴った。うおおおおお!いい!めっちゃ好き!こういうのすっごい好き!
1人ふんふんと興奮してると後ろから「レジィ、早く入って」とノアに言われてずっと床で遊んでいた事に気付いた。おわ!ごめん!
先に入ってたフリードリヒとアルシュがすっごい温かい目で見てくる。うわー恥ずかしいー!
お店の中は布やリボン、糸なんかがあってすごくカラフル。そしてめっちゃ楽しい。
ほわーと口を開けながら見ていると「狭いところでごめんなさいね」と声がした。それに驚いてついアルシュに引っ付けば「あらあら、ごめんなさいね」とおばあちゃんが上品に笑う。
「はわ。こちらこそごめんなさい」
アルシュから離れてぺこりと頭を下げれば「あらあら。礼儀正しい子ね」と笑う。
「レジィ。この人が店主さん。相談があるなら乗ってくれるから」
「ふふ。久しぶりね。リーシャ」
「…そうだね」
どことなく居心地が悪そうなリーシャに首を傾げながら見れば「レジィ、僕じゃなくてリボン見て」とつっけんどんに言う。あ、そだね。
「リボン? 誰かにプレゼント?」
「えと…ぬいぐるみ達に付けたくて」
「まぁ、素敵ね。リボンはこっちにあるから見ていってね」
「ありがとうございます!」
たくさんあるリボンに目移りしながらうんうんと唸る僕。肌触りがいいものから可愛いもの。それに色もたくさんあって混乱しちゃうよー!
女の子たちはすごいなぁ。こんなにたくさんの中から自分に似合う色とかを決めるんだから。
フリードリヒ達は何してるんだろうと思ってきょろりと見渡せば、物珍しそうに色々なものを見ている。まぁ王子様がこういったお店に来ること自体なさそうだもんね。
「レジィ。どうしたんだい?」
「あ、ノア兄様」
フリードリヒとアルシュにむふむふとしてたのがばれたのか、ノアが近付いてきた。リーシャは…と思ったらあれ? いない?どこ行ったの?
「えと…リーシャは?」
「リーシャならお店の外で待つ、と言ってましたね」
「ふぅー…ん」
気になるけどリボンを買わないと何か言われそうだからたくさんのリボンとまた格闘を始める。
「んにゃー! いっぱいあってどれがいいかわかんないー!」
待たせるのも悪いからと焦るとどれがいいのか分らなくなる。あっちがいいかな?こっちがいいかな?と散々迷っていると「あらあら」とおばあちゃん店主さんの、のんびりした声。それにおばあちゃん店主さんを見ればのほほんと笑っている。
「そうね。たくさんあって困るかもしれないけど、誰に贈りたいか、と思いながら見ればいいわよ」
「誰に贈りたいか…」
「ええ、ええ。この子にはこの色が似合うとか、この子にはこの肌触りがいい、とかね」
「ふむふむ。なるほど」
おばあちゃん店主さんの言葉にこくこくと頷く。どの子に何色を、と考えればあれだけ悩んでいたのが嘘のようにさくさくと進んだ。
5本のリボンを選び抜いてほっと息を吐く。ようやく選べたー! 待っててくれてありがとう!
くるりとリボンを結んでもらってうさうさ財布からお金を…えと、どれがどれなんだろう? この銅が十円くらいなのかな? わかんない。ノアに「兄様…」と助けを求めれば「ああ、レジィは初めてだからね」と優しく教えてもらう。
ふむふむ。銅色のものが十円くらいなのね。お金の価値を教えてもらいながらリボンの代金を支払う。その様子におばあちゃん店主さんがにこにこと孫を見ているように見守ってくれてる。ふふー。懐かしいなー。
「はい、ありがとうね」
ぬいぐるみたちのリボンを買えてノアに報告。
そしたら頭を撫でてくれた。わお!ノアに頭を撫でられたー!
うふふ、とにまにましているとフリードリヒがなぜかリボンを選んでいた。ん? フリードリヒもリボンいるの?
「店主、このリボンをいただきたい」
「はい」
フリードリヒが選んだのは赤いリボン。僕が最後まで悩みぬいたそれを買ったフリードリヒだけどお金持ってるの?
ちょっとだけわくわくしながら見ていると、アルシュが支払ってた。ま、そうなるよね! ちょっとばかりがっかりしてると「殿下のお小遣いもアルシュと一緒にされてますからね」とこそっとノアに教えてもらった。フリードリヒのお小遣いってどれくらいなのか聞くの怖いな…。
ぶるっと身体を震わせると「レジィ、これを」とフリードリヒがさっき買ったリボンを僕に渡してくれる。
え?
包まれていないそれを掌に乗せて「受け取ってくれるかい?」と微笑むフリードリヒにぼぼっと頬を熱くさせると「は、はい!」とそれを受け取る。
すると嬉しそうに笑うフリードリヒにどきりとしながらリボンを握ると「その子に付けてあげて」と言われた。その子? どの子?
首を傾げて「誰に?」と問えば「バッグの子だよ」と言われた。あ!そうだった! この子もいたんだった! ごめんよー!忘れてたー!
やっちゃったぁとしょんぼりと肩を落とせば、肩をノアが叩いてくれた。
「ここで付けましょうか」
「はい! 兄様!」
にへっと笑ってうさうさバッグにフリードリヒにもらったリボンを耳の付け根部分にちょうちょ結びにすると、ゆらりとリボンが揺れた。
可愛いー!
「兄様! 兄様!」
「可愛いね。レジィ。でもセイランにお礼は言ったのかな?」
「あ!」
つい興奮気味にノアにバッグを持って見せればそう言われてしまった。そうだった!お礼言ってない!
慌ててバッグを下ろすとフリードリヒに向き直す。
「セイラン兄様、ありがとうございました!」
「レジィが喜んでくれてよかった」
細められたパンジー色に心臓が早鐘を打つ。うう…やっぱりなんかフリードリヒの笑顔見るとドキドキするー! ささーっとノアの後ろに隠れると「恥ずかしかったかな?」と頭を撫でてくれる。恥ずかしいよー!
ぼわわっと顔を赤くさせてノアの背中に顔を埋めるとフリードリヒからなんか冷たい物がノアに向けられる。火照った顔にはちょうどいいけどダメー!
ちらっと半分顔を出せば、それが止まった。
「もういいですかー?」
そんなやり取りをしてるとリーシャがお店に入ってきた。そうだった! ここお店の中だった!
ちらっとおばあちゃん店主さんを見れば、にこにこほわほわしてる。おおー…癒されるー…。
「レイ…レジィ、そのリボンは?」
「フ…セイラン兄様にいただきました!」
「ふぅん…。じゃあ次はブローチ見に行こうか」
「はい! リーシャ兄様!」
早く出たそうなリーシャにそう言ってノアの服を引っ張れば「では失礼します」とおばあちゃん店主さんににこりと笑って、手を繋ぐ。うん。そうだね。
ちなみに移動は絶対にノアと手を繋がないとダメなのだ。手を繋いでおばあちゃん店主さんにバイバイをしてお店を出る。
買ったリボンはうさうさバッグの中に入ってる。うさうさバッグ見るたびに揺れる赤いリボンに頬が緩む。
「また来たいなぁ」
「そうですね。また来ましょうか。レイジス様」
「うん!」
ふへへと笑っていると「今度はレイジスにリボンでも買うか」とフリードリヒが呟く。それにばぼっと頬を熱くさせると「行きますよ」とリーシャにせっつかれるのであった。
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