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王都編

再び呼び出されました

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朝起きてぬいぐるみたち一体一体におはようのハグをしてから洗面所へ。顔を洗って歯を磨いて制服に着替えて…と思ったらあれ? この制服初めてじゃない? いつもの制服じゃないの?
首を傾げて着替え終わるのを待っていると「できましたよ」と侍女さんがにっこりと笑う。んんんー? 何だこの制服。いつもの制服より動きづらい…。けどさ。

「うさ耳ついてる!」
「大変可愛らしいですね」
「うさうさ」
「ふふっ」

うさ耳を持ち上げて侍女さんにそう言えばくすくすと笑われる。うん。このうさ耳も侍女さんにも好評のようだ。
うむ。と満足げに頷いてからうさ耳を離すと、コンコンとノックがした。それに「はーい」と返せば「おはようございます。レイジス様。フリードリヒ殿下がおみえです」とアルシュが教えてくれる。
おお? 今日はちょっと早いな? いつもは僕がご飯食べてる時に来るのに。
いつもと違う制服と何か関係があるのかな?
首を傾げながら部屋を出ると、フリードリヒ達もいつもと違う制服を着ている。ほわぁ…カッコイイ。

いつもの制服は黒いけど、今日の制服は白が基調で赤いラインが入ってる。
まぁ、騎士科は赤いラインで魔法科が青いラインなんだけど。っとあれ? また僕とリーシャの制服がちょっとだけ違う。
なんでだろう?
部屋から出てきた僕に気付いたフリードリヒが「おはよう、レイジス。その制服も可愛いね」といつもと変わらない笑みで言ってくれる。

「フリードリヒ殿下、フリードリヒ殿下。この制服にもうさ耳が付いていたんですけど…。もしかして僕の制服はうさ耳が全部付いているんですか?」
「ああ。レイジスの制服…というよりフードには二つとも耳が付いているぞ」

にっこりと笑いながらそう言うフリードリヒに、僕もにっこり。
そっか。初めからこの制服にはうさ耳がついてたのか。じゃあ、普段着てる制服は自重してたってことなのかな? それが作り直しになったからうさ耳付けたのか…。そっかぁ。
まぁ…。可愛いからいっか! 特に邪魔になるとかじゃないからいいや!
んふんふと身体を左右に揺らせば「お腹空いたね。ご飯にしよう」とフリードリヒに言われる。
あ、ご飯待ちだと思われた! でもいいや!お腹空いたし!

フリードリヒに手を引いてもらってソファの側までくると手を離してもらってとすんと座る。すると今日は侍女さんが首にナプキンを巻いてくれた。おお? これは?

「今日の制服は汚せないからね。恥ずかしいだろうが我慢してくれないか?」
「んー…。汚しちゃいけないなら仕方ないです」

いつもは気にしないけど今日はダメって言うなら仕方ない。それにそう言われると逆に汚しちゃいそうだからね。ありがたい。
それに今日の侍女さんたちはちょっと緊張気味。
朝ご飯もフルーツがたっぷり乗ったフレンチトーストと紅茶、それにサラダ。
あんまり口元も汚れないメニューだ。
あれ? そういえば先生たちいなくない?
きょろ、と首を動かせば「ソルゾとハーミットなら今日は来ないぞ」とフリードリヒに言われた。あれ? そうなの?
なんか今日はいつもと違うからそわそわしちゃう。
いつもと変わらないのはフリードリヒ達だけ。あ、あとジョセフィーヌ。
他の侍女さん達もどことなくそわそわしてるからね。僕もそわそわ。

「さて、食べようか」

フリードリヒのその言葉にリーシャが光魔法を使う。
いつもと変わらないけどいつもと違う制服、いつもと違う雰囲気に落ち着きがない僕を見てジョセフィーヌがこっそりと溜息を吐いていたのを僕は知らない。


■■■


「父様!」
「おお!レイジス! 元気にしてたかい?」

久しぶりに会う父様を見つけ、ばびょっと駆けよれば「危ないから走らない」と父様に怒られた。えへへー。ごめんなさーい。
でも父様に怒られるのが嬉しい。なんせ会うのは4年ぶりくらいなのだ。嬉しくないはずがない。
父様に飛びつけば、ぎゅうと抱き締められくるくると回る。わーい!父様すごーい!
きゃっきゃと喜びながらくるくる回る僕たち。でもね、ここ学園長室なんだよね。

ご飯を食べてちょっとだけまったりしてからみんなで学園長室へと移動。もちろん他の生徒たちには会ってない。代わりに一緒に歩いてるのは帯剣した兵士さん。初めて登校した時もいたけど、いろんなところに配備されてるんだって。僕は部屋からほとんど出ないからね。知らなかった。
兵士さんに守られながら学園長室に着くと、扉が開けられた。そこにいたのはいつもと違って僕たちと似たような礼服を着た先生たちと3人の男性。
1人は見るからに騎士って感じの人と、もう1人は魔導士って感じの人。そしてもう1人は…。

父様がそこにいて思わず駆け寄っちゃったけどまずは挨拶だった。けど騎士の人と、魔導士の人が僕を見た途端、どこかピリッとしたのは気のせいかな?
十分くるくる回してもらって目が回りそうになる寸前で床に降ろしてもらう。おおう…ちょっとふらふらする…。
父様に肩を抱いてもらって身体を支えてもらいながら落ち着くのを待つ。その間にフリードリヒと父様があいさつ。フリードリヒにしてみたら一応義理の父親になるんだよね。
まぁ、僕も今度義理のご両親に会いに行くんだけど。

「フリードリヒ殿下。お元気で何よりです」
「久しいな。フォルス」

父様が僕の肩を抱いたまま頭を下げた後、お互いにっこりと笑う。父様とフリードリヒの関係はいいようで何より。まぁ、王族の婚約者を選ぶときは色々と調べそうだからそうなんだろうけど。
ぐるぐるしてた目が元に戻って父様の服をくいくいと引っ張ると肩から手を離してくれた。ありがとう!父様!

「それにしても…今日のレイジスは可愛いな」
「そうですか? あんまり変わらないと思うんですが」

何か変わったことあったっけ?と思ったらフリードリヒが僕の両肩に手を置く。ん? どうしたの?

「恐らく今日は後ろ髪が纏められているからでしょうね」
「おお!そうでしたか! うんうん。後ろ髪がないだけでまた違う可愛さがあるんですね!」
「いつもの髪形も可愛らしいが、今日はまた一段と愛らしい」
「んんんー!」

フリードリヒと父様に褒められてぶわわと体温が上がっていく。あんまり「可愛い、可愛い」っていうのやめてよー! 恥ずかしいー!

そう。ご飯を食べた後、まったりしてるときに侍女さんになぜか髪を弄られた。元々僕の髪形はウルフカットっていうんだっけ?襟足だけが長いんだけどその髪を三つ編みにしてくるくるとお団子みたいに巻かれている。
その巻かれた所にリボンが結ばれてるらしいんだけど、僕は分らない。なんせ後ろだからね!見えないよ!
でもそのリボンを見た皆の視線が柔らかかったから変な色じゃないと思うんだ。

「フリードリヒ殿下の瞳の色と同じリボンか。レイジス、可愛いぞ!」
「ありがとうございます! 父様!」

ぎゅーっと抱き締めてくる父様に、僕もぎゅーっと抱き返せば「そろそろいいですか?」という学園長先生の声にハッとする僕と父様。そうだった。ここ学園長室だって。
そのことをすっかりと忘れて父様ときゃっきゃしてた。ごめんなさい。
呆れた表情を浮かべるリーシャ、にこにことしてるノアとアルシュ。ハーミット先生は笑いをこらえてるのか肩がプルプルしてるし、ソルゾ先生も眉を下げて肩を竦めている。
むむ。そんなに笑わなくてもいいじゃないですかー!

そんなこんなで僕たちも一列になって並ぶと、学園長先生が「では改めて」とにこりと笑う。

「第一騎士団副団長フィルノ・ミーリウスと申します」
「第一魔導士団副団長エストラ・コルツと申します」
「元第一騎士団団長フォルス・ユアソーンと申します」

そう言ってフリードリヒに敬礼をしてから頭を下げる父様とフィルノさんとエストラさん。っていうか第一騎士団と第一魔導士団の副団長さんたちがなんで学園に? 父様もそうなんだけど。
かくかくと首を左右に動かしていると隣にいたノアがこっそりと「お腹空きましたか?」って聞いてくる。それに「ううん」って頭を振ると「レイジス様の疑問は学園長が教えてくださいますよ」と笑う。んん?学園長先生が?
そう思いながら学園長先生を見れば僕の視線に気付き、にっこりと笑う。

「今日はウィンシュタン王国からの呼び出しですよ。レイジス君」
「ふぁ?!」

なんで?!
思わず声を上げればフィルノさんとエストラさんの視線が僕を射抜く。ほあ?!怖い!

「レイジスには何も話していないからな。驚いて当然だろう」
「……っ、失礼いたしました」

あ、あばば。フィルノさんが一歩下がって頭を下げた。ひえ…フリードリヒすごい…。じゃなくて。

「えと、なんで教えてくれなかったんですか?」
「レイジス様に教えると夜眠れなくなるでしょう?」
「んぐ」

僕の質問にリーシャが答えてくれたけどそうなのか。まぁ…確かに川に遊びに行くっていう前の夜は興奮してなかなか眠れなくて夜中にホットミルクを飲んでようやく眠ったんだっけ。
あれだよ。遠足前の子供。
わくわくしすぎて緊張で眠れなくなるアレ。僕も漏れなくその状態になってたことがばれてたのかー…。
でもさ、僕でも流石に心の準備というものがね…。

「王都まで飛竜便で行くんでしょうからね」
「飛竜?!」

リーシャのその言葉に僕は瞳を輝かせる。
わっ!なにそれ!ファンタジーでしか聞けないワード!うわああ!超気になるー!

「ほら。興奮して眠れなくなるでしょう?」
「あう…」

ホントだ。飛竜なんて聞いたらわくわくしすぎて眠れなくなるー…。
しょんと肩を落として反省していると「レイジス。お馬さんもいるぞー」という父様の言葉にぱっと顔を上げる。
お馬さん?!
あっちの世界じゃテレビか競馬場、牧場でしか見れなかったお馬さん?!

「あ、元気になった」
「と…父様! お馬さんがいるってホントですか?!」
「ああ、いるぞー!」
「見たいです!」

好奇心には勝てんのだよ! わくわくとしながら父様を見れば「ならもうちょっと待ってような」と言われ、こくこくと頷く。
お話が終わればお馬さん! お話が終わればお馬さん!

「飛竜もいますよー」

リーシャがぼそっと告げた飛竜に意識が持って行かれる。
んは!そうだった! お馬さんと飛竜! お馬さんと飛竜!
ふんふんと鼻息を荒くしながら話を聞くぞ!とそわそわすると、フリードリヒと父様にくすりと笑われた。


■■■


あれから大人しく学園長先生の話を聞いて、ざわざわとざわつく校庭に出れば王都へ行く準備をしてるらしく人がごった返している。あ、侍女さん達もいる。
僕たちの荷物は飛竜便と呼ばれる飛竜に。フィルノさんとエストラさんは王族の紋が付いた馬車で行くらしい。
なんで?と首を傾げていたらノアが「王族の紋が付いた馬車は盗賊や野盗にとって格好の餌なんですよ」と教えてくれた。だから危険な馬車はフィルノさんとエストラさん、そして父様が乗るらしい。その為に来たんだって。
僕も馬車がいいなーとぼんやりと思ってたらフリードリヒに「ダメだよ」と言われてしまった。それに驚いて「ぴょわ?!」と驚いて振り向けば、そこには厳しい顔をしたフリードリヒとフィルノさんとエストラさんがいた。

「あ…えと…僕、声に出してました?」
「やっぱり。レイジス、今回の呼び出しは君の呼び出しでもあるんだよ」
「僕の? なんでですか?」

僕、特に何もしてないよね?
かくんと首を傾げれば「はぁ」と深い深いため息を吐かれた。え? え?

「いいかい、レイジス。君は氷の魔法を使える上に治癒魔法も使える。この意味が分かるかい?」
「えっと…氷魔法は使える人がそんなにいなくて、治癒魔法は世界でも少ない、でしたよね?」
「そうだ。そして君はその中の一人だということを忘れてないかい?」
「あ、そっか」

そこでようやくなぜ呼び出されたのかを正しく理解した。
なんか氷魔法は当たり前のように使ってたからすっかりと忘れてた。治癒魔法もあれから使ってないからね。本当に使えるかすら分からないんだよ。

「レイジス。治癒魔法はね一度使えると使えなくなる、なんてことはないんだよ」
「へー、そうなんですか」
「…ソルゾ・カルティスから言われませんでしたか?」
「はい。僕から聞くことはなかったので」

眉を寄せているエストラさんににっこりとそう言えば、さらに眉間に皺が寄った。
なんかフィルノさんもだけどエストラさんってまさに貴族って感じがする。あまり得意じゃない人だなぁ…。
それにソルゾ先生はとってもいい先生なんだからね!

「エストラ」
「はっ。失礼いたしました」

あ、この人絶対僕のこと下に見てるな。僕のことは別にどうでもいいんだけど、先生のこと悪く言うのだけは許せない。
頬を膨らませてぷいっとエストラさんにそっぽを向くと「レイジス」と父様に名前を呼ばれた。
なぁに?と瞬きを繰り返せば、おいでおいでと手招いている。
その手招きに呼ばれるようにふらふら~っと父様の元へと歩いていけば、後ろからフリードリヒが付いてくる。勿論フィルノさんとエストラさんも一緒に。

「父様?」
「ほーら、お馬さんだぞー!」
「おおー! お馬さんー!」

父様がすっと身体をずらすとそこにはブルル、と首を振っている馬が二頭。おおおおー!お馬さん!本物のお馬さんー!
こんな間近で見られるなんて思ってもみなかったー! 可愛いー!
ふんすふんすと鼻息が荒いお馬さんをキラキラとした瞳で見つめれば、つぶらな瞳が僕を見た。まつ毛ながーい!わほーい!

「父様、父様! 触ってもいいですか?!」
「うーん、どうなんだろうね?」

そう言って、手綱を引いてる御者さんにそう尋ねれば「構いませんよ。大人しい子達ですから」と許可を貰う。ありがとー!
何気にお馬さんに触るの初めてかも。
競走馬みたいな子だなー。毛並みもすごく綺麗な栗色。もう一頭は葦毛。うん、可愛い。

よし!と気合を入れて恐る恐る手を伸ばせば、お馬さんからすり寄ってきてくれた。ほわわわー!
初めて触ったー!
あまりの感動に、父様とフリードリヒを見れば「うんうん」と頷いている。可愛いなぁ可愛いなぁ。
なでなでと鼻から喉へと手を滑らせると、もう一頭がブルルとどこか嫌がるようなそぶりを見せた。あ、ごめんね。

「ああ、すみません」
「ん。僕はいいけど…どうしたんだろう?」
「ここまでは何もなかったようだが…」
「機嫌が悪いんでしょう」

そう言って宥めるように首を撫でる御者さんだけど、どうもお馬さんの様子がおかしい。どうしたんだろう?
なんかしきりに前足を気にしてるような…? 足?

「あの…ちょっといいですか?」
「レイジス?」
「そっちの子、足とか怪我してませんか?」
「怪我…ですか? そんなことは」

御者さんが機嫌の悪い子の足をざっと見るけれど、特に異常はないみたい。ううーん…なら本当に機嫌が悪いだけなのかも。プロがそう言うのなら…、とさっきの子を撫でようとしたその時。
あれ?

「レイジス?!」

目の前がすっごい明るい。まるで『神の目』を発動させた時みたいな…?

「レイジス!」
「ほは?!」

ガッと両腕をフリードリヒに掴まれる。びっくりした!どうしたの?!

「目が…!」
「あ、やっぱり発動しちゃってます?」
「……っ! 自分の意思ではないのだな?」
「あ、はい。何か勝手に…?」

およ?『神の目』を発動させたままお馬さんを見れば、お馬さんから赤色と青色、それに黄色のもやもやが揺れている。お馬さん?!
それにもう一頭の機嫌が悪い子を見れば、御者さんが僕の目を見てぎょっとしてる。あ、ごめんね。

「およよ?」
「どうしたんだ?」

父様にそう言われて視線を父様に移せば赤色と青色、黄色に緑色とうっすらと白色のもやもやが見える。
けど、機嫌が悪い子は黄色いもやしか見えない。それに…。

「蹄?」
「え?」
「蹄が痛いの?」

右の蹄にもやが集まっている事が気になってそう言えば、ブルルとお馬さんが首を振る。

「蹄の怪我ってあるんですか?」
「え? ええ。ありますよ。挫跖ざせきといって蹄の内出血が…」

そこまで言って御者さんがはっとする。

「まさか…!」
「え?え? まさか治らない…怪我、なんですか?」

お馬さんは骨折すると殺処分しかないって聞いたことあるけど…まさか、ね? 大丈夫だよね?ね?
心配そうに栗毛の子が見てるけど、大丈夫だよ、うん。

「この程度ならまだ大丈夫ですが…酷くなるようなら歩けませんね」

困ったようにそう言う御者さん。あ、じゃあちょっと試してもいいかな?
お馬さんだけど。

「あの…ならちょっと試したいことがあるんですけど…」
「え?」

メトル君が言うには七色に輝いてるらしい『神の目』。そんな目をじっと見つめてしまった御者さんが「うわぁ!?」と悲鳴を上げる。ごめんなさい!こればっかりはどうすることも…ってそうだ停止停止!やめやめ!
『神の目』から普通の目に戻して御者さんを見れば、どこか怯えたように震えている。うわわ!ごめんなさい!
そんな御者さんを、騒ぎに駆けつけてきた人たちが助けている。ううう…すみませんー!
当然、フィルノさんとエストラさんは動かない。フリードリヒの護衛なんだろうけどちょっと印象が悪いなー。するとアルシュとノア、リーシャが駆けつけてきて「何があったんですか?!」と父様と僕、そして腰を抜かしている御者さんを見ている。

「少し発動しただけだ」
「何してんですか?!」
「ごめんなさい! ってそれよりもお馬さん!」
「馬?」

先程のやり取りを知らない護衛三人が首を傾げるけど、お馬さんは足が痛そう。触りたくてもちょっと暴れるから触れない。
それに御者さんは腰が抜けて手伝ってくれそうにないし…。と思っていたら、父様が手綱を引いてお馬さんを押さえている。父様すごい!

「さて、レイジス。何をするかは分からないけどお馬さんは押さえたよ」
「ありがとうございます! 父様!」

にこにことしてる父様にお礼を言ってから両手でお馬さんの顔に触れる。だいじょぶだいじょぶ。痛くなくなるだけだから、ね?
瞳を閉じて鼻に額を当ててそう言えば、言葉が伝わったのかお馬さんが大人しくなった。うん、ありがとう。
それから「痛いの痛いの飛んでけ」って心の中で唱えると両手から温かな物が生まれ、それがお馬さんへと流れていき蹄へと集まっていく。

うん、そこだね。痛かったのは。他に痛いところはない?

お馬さんにそう問いながら身体中に魔力を流していく。
ちょっとだけ悪そうなところも治して…。

蹄の治療を終わると同時に瞳を開けて額を離して鼻を撫でれば、すりとすり寄ってくれた。
ありがとう、かな?
すりすりから鼻先をぐいぐいと頬に押し当て、ついにははみはみと僕の髪を食みだした。

ほぎゃー! 食べちゃダメ!お腹壊すよー!

「だだだだめだよー! お腹壊しちゃうー!」
「おや。この子はレイジスが気に入ったみたいだね」
「とととと父様! たしけ…たしけて!」

あっはっはっと豪快に笑うのはいいけど髪! 僕の髪食べて…アッー! やめてー!アホ毛を食べないでー!
大事な大事な髪を食べないでー!

「あー、あー。レイジス様馬の涎でべとべとになる前に逃げてきてくださいねー」
「リーシャぁ! たしけてー!」
「嫌ですよ」
「裏切り者ぉ!」

うわーん!とリーシャにそう言えばソルゾ先生が「おやおや、涎まみれですねぇ」とのほほんとしながら近付いてきてそのまま浄化魔法を使ってくれる。うわああん! ありがとうございますぅ! 僕のアホ毛も守られましたぁ!
涙目になりながらソルゾ先生に抱き付けば「レイジス?!」と焦ったフリードリヒの声。助けてくれたのソルゾ先生だもん!
すると僕の後ろで豪快に笑う父様の声が聞こえてきて前からはフリードリヒの「レイジス。ほら、こっちにおいで」という声がして。
でも僕はソルゾ先生にありがとうのハグをしてる。
そんな僕たちをフィルノさんとエストラさんがただ瞳を細めて見ていたことは豪快に笑っていた父様だけが知っていた。


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