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フーディ村編

新たな調味料、爆誕

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フーディ村から戻った夜。
あれだけ村で食べたにもかかわらず僕の身体は燃料切れを起こし、泣く泣く戻った侍女さん達が腕によりをかけたお夕飯を美味しく食べて、デザートもぺろりと食べた。
うん! おいしかった!

フリードリヒ達も僕よりも軽い量を一緒に食べて、珍しくデザートもぺろりと食べてた。そんな僕たちの食べっぷりに侍女さん達もほくほくとしてた顔に僕もほくほく。
ごちそうさまをしてお茶を飲んで皆疲れてるから今日はだらだらせずに部屋に戻っていく。僕も今日は寂しいよりも眠気が勝った。
皆を見送ってお風呂に入って適当に髪を洗って…と思ったら、珍しく侍女さんが入ってきて髪も身体も洗われた。初めて…なような気もするし違う気もするけどよく分んない。お腹いっぱいでヘッドスパみたいに髪を洗ってもらってたから気持ちよくてうとうとしてたから。
気付いたらベッドはまだ真っ暗だったから夜だと思ってたんだ。でも違ったらしい。

「起きたか?」
「? おはようございます。フリードリヒ殿下?」

こしこしと瞼を擦りながら起き上がってベッドの上でぼーっとしてたら外から声がした。
それに返事をすると重いそれを持ち上げてアルシュの姿が見えた。その持ち上げたカーテンの隙間から眩しいくらいの光が入ってくると同時にするりとフリードリヒが中に入ってきた。それに目を細めるとアルシュがカーテンを閉じてくれる。

「あれ? もう朝なんですか?」
「朝、というか昼過ぎだな。よく眠れたかい?」
「はい! よく寝れました!」
「そうか。それはよかった。体調は?」
「熱もだるさも異様な眠さもないです!」
「そうか。お腹が空いただろう? 食事にしよう」
「はーい」

くすりとフリードリヒが笑いながら僕の頭を撫でてくれる。んふふ。やっぱりフリードリヒに頭撫でられるの好きだなー。
ベッドから出る前に、ぬいぐるみの一体一体におはようのハグをして起きる。
アルシュが持ち上げてくれてるカーテンをくぐって伸びを一つ。ばさりとカーテンが締まってアルシュに「おはよう」を言う。

「はい。おはようございます」
「ノアとリーシャと先生たちはリビング?」
「はい。食事を待ちかねております」
「じゃあ急がないと!」

ネグリジェのままだから着替えないといけないなー。お昼過ぎだけど制服の方がいいよね?

「ああ。そうだ。新しい制服ができるまでは私服でいいそうですよ」
「新しい制服?」

なんで?と首を傾げると寝室に戻ってきたフリードリヒが「どうした?」と声をかけてくれた。

「新しい制服ってなんですか?」
「その話は食事の後しよう。レイジス、そのままでいいぞ」
「んえ? ネグリジェのままですか?」
「…なら、うさぎ耳の付いたものがあっただろう? それに着替えたら来るように。アルシュ」
「はい」

フリードリヒに呼ばれたアルシュが一緒に部屋から出ていくと代わりに侍女さんが入ってきた。うん、いつもありがとう!
というかやっぱり動物耳が付いたネグリジェ贈ってきたのフリードリヒじゃんか! 確かにうさぎ耳のネグリジェは好きでよく着てるからか、いつの間にか色違いのネグリジェが増えてたんだよね。
白にピンクに薄い水色。そのうち栗毛色とか葦毛色とか増えそうだなー。でも可愛いかもしれない。

「御着替えのネグリジェは栗毛色にいたしましょうか」
「んん? そんな色あったの?」
「はい。フリードリヒ殿下がお持ちくださいました」
「…………。じゃあ栗毛色で」
「かしこまりました」

にっこりと笑って用意してくれる侍女さんににこりと笑うと、あっという間に着替えが終わる。それから顔を洗って歯を磨いて。
そういえばコカトリスに突かれて髪が短くなっちゃったらしいから後で侍女さんに髪を整えてもらおう。なんてのんびりと考えながら寝室から出た。

「あ、おはようございます」
「おはようございます。レイジス様」
「おはよう」

リーシャとノアにおはようのあいさつをしてソルゾ先生、ハーミット先生にも「おはようございます」と言えば「おはようございます。レイジス様」「おう、起きたか」とそれぞれ返ってくる。
それからソファに座るとすぐに「起きるのは明日だと思ってました」とリーシャに言われた。流石にそこまで寝坊はしないよー。

「さすがにそこまでは寝れないよー」
「それもそうですね。僕も昨日一日まるっと寝て、起きたの今日の朝でしたもん」
「私も起きたのは今日の朝でしたね。久しぶりにこんなに寝ました」
「んん?」

あれ? 今変な単語が聞こえたぞ? 聞き間違いかな?

「昨日一日まるっと?」
「今日はもう29ですよ?」
「おっふ」

ということは一日半寝たままだったの?! さすがに寝過ぎじゃない?! しかもまだ眠いし!
あばばとプチパニックを起こしていると「仕方ないじゃないですか」とリーシャが口を開く。

「魔力の回復は寝るのが一番なんですから」
「殿下もアルシュも昨日昼過ぎまで寝てましたしね」
「あー…」

なるほど。ほぼ全員が魔力回復のために寝坊したのか。ノアは大丈夫だったのかな?

「私は魔力をほとんど使ってませんからね。昨日は侍女さん達に差し入れをいただきました」

にこりと笑いながらそう言うノアに「ならよかった」と息を吐くと「俺も差し入れを貰っちまったが」とハーミット先生がちょっとだけ困惑してる。

「? 先生も一緒にご飯食べてるからいいんじゃないんですか?」
「…そんなもんか?」
「そんなもんです」

最近はハーミット先生も僕の部屋にいることが多くなったからね。たまにフリードリヒやアルシュ、ノアがいない時はハーミット先生もいない。どこに行ったんだろう?と首を傾げていたら「彼らなら外で剣の授業中ですよ」とソルゾ先生が教えてくれたことがあった。
それは決まって僕が机の上でうんうんと唸っている時で。隣にリーシャがいるから気付くのが遅れたんだっけ。
それからハーミット先生も一緒にご飯食べて色んなことを教えてもらって。だから侍女さんの中ではもうりっぱなこの部屋の一員になってるんだよ。

うんうんと頷けばハーミット先生が、がりがりと後頭部を掻いてどこか照れてるように見える。んふふ。よかったね。

「レイジス様」
「ん? どうしたの?」

食事が運ばれてセットされてるのを待ってるとジョセフィーヌがすっと僕の斜め後ろに立ってた。もうビックリするというより慣れちゃったよね。ノアはまだちょっとビックリするけど。

「お食事の後、御髪を整えさせていただきたいのですがよろしいでしょうか」
「あ、うん。お願い」
「かしこまりました」

そう言って頭を下げて準備に向かうジョセフィーヌはちょっと雰囲気が違う。どうしたんだろう?

「侍女たちが今にもコカトリスを袋叩きにしに行きそうな勢いだったぞ」
「え?」

しれっとカップを傾けながらフリードリヒが言うけど、侍女さん達?! メトル君の時もそうだけどなんでそんなに戦いに行こうとするの?! 危ないよ?!
すんっとしてる侍女さん達の顔を見てもとてもそうとは思えないけど、フリードリヒがそう言うならそうなんだろうなぁ…。ありがたいけどやっぱり危ないことはダメだよ?

「さて、侍女頭も待っている事だ。食事にするか」
「はーい! ご飯ー!」

カップを置いてそう言うフリードリヒ。侍女さん達を見てたらいつの間にか準備が終わってたみたい。
一日半ぶりの食事だと思えば、僕のお腹が「ぐぅぎゅるるるる」と元気に鳴く。それにリーシャが「ぶふっ」と吹き出すとみんなで一緒に「いただきます」をして食事を始めたのだった。



「そう言えばあの女の子大丈夫だったんですか?」

ご飯を食べて直ぐにおやつを食べる。
すごいね。僕の胃はどうなってるんだろう?ってくらいご飯を食べてお腹いっぱいだと思ってたらデザートのイチゴタルトが出てきた瞬間「ぐぅ」ってお腹が鳴ったのにはびっくりした。そりゃリーシャが「ぶばっ!」と吹き出すのも仕方ないよね。
僕はホールを。リーシャも半分、その半分をソルゾ先生が。フリードリヒ、アルシュ、ノア、ハーミット先生はそれぞれ1切れで。
紅茶を飲みながらそう問えばノアが「はい、大丈夫でしたよ」とにこりと笑う。ハーミット先生も「無事、親元に戻したから心配なさんな」とフォークを噛んだままにっと笑う。おお。男らしい笑み。カッコイイ、僕は好きだぞ。

「ハーミット。レイジス様がマネをすると困るだろ」
「お? そうか?」

タルトを食べながらソルゾ先生が半眼でハーミット先生を注意する。なんかソルゾ先生ってハーミット先生相手だと容赦ないよね。仲いいのかな?
むぐむぐとタルトを食べながら見ていると、僕の視線に気付いたのかソルゾ先生がにこりと笑う。

「先生たちって仲いいんですね」
「まぁ、俺らは平民騎士団だからな」
「ハーミット!」
「へ?」

平民騎士団? どういうことだろう?
首を傾げて「なぁにそれ?」と問うけど、フリードリヒに「レイジス。それは後にしなさい」と言われてしまった。おっと、そうだ。まずはこの美味しいタルトを食べなければ!
イチゴの甘酸っぱさとタルトの甘味、そこにクリームが入ってくるともう口の中が幸せ。今度カボチャのモンブランタルトとか、チーズタルトとか作ってもらおう。
むふむふと言いながらタルトを食べてるとそこであることに気付いた。

「薔薇はどこいったの?」

僕のその一言にピリッと空気が張り詰める。え? どうしたの?
ぱちりと瞬きをして首を傾げるとあの時お金を払ってもらってしまったことに気付く。

「あ、そうだ。ハーミット先生に立て替えてもらったお金も払わなきゃ…」
「ああ。それは大丈夫ですよ」
「ダメ。なぁなぁで済ませちゃいけないこともあるんだから」

むう、と頬を膨らませてそう言えば「…でもレイジス様、金を持ってないじゃないですか」という一言に「あ」という顔をする。
そうだった。リボンとブローチを買うお金も持ってない。そんな僕がお金を払うことなどできなくて。

「ううう…出世払いでお願いします…」

泣く泣くそう言えば「気にしなくてもいいんだがな」と笑うハーミット先生だけど気になるからフォークを噛んだまま唸れば「ほらぁ!」とソルゾ先生が怒る。
え? え? どうしたの?

「お前がやるから!」
「俺のせいかよ?!」

たじたじのハーミット先生ときりりと眉を吊り上げるソルゾ先生。仲のいい先生たちのじゃれ合いを見ていると「レイジス」とフリードリヒに名前を呼ばれた。

「何ですか?」
「フォークを離しなさい」
「あ、はい。すみません」

瞳を閉じてお行儀悪かった僕に注意してくれるフリードリヒに謝ると、アルシュがなぜか溜息を吐いた。

「?」
「ああ、すみません。お気になさらずに」

どうしたんだろうと首を傾げるけど教えてくれる気はなさそうだ。それにしてもフリードリヒがなぜか前かがみになっちゃったんだけど…。大丈夫?

「ちょっと席を外しますね。殿下」
「あ、ああ…。悪い」

なぜかフリードリヒと一緒に出ていくアルシュを首を傾げながら見送ると、僕はパクリとタルトを頬張るのだった。


■■■


フリードリヒが戻ってくる間にジョセフィーヌに髪を整えてもらってさっぱりした。
髪を切ってる間、ジョセフィーヌも他の侍女さん達もどこか悲しげな眼をさせちゃったこと胸を痛める。たかが髪だと思ってたけど、侍女さんやジョセフィーヌにしてみれば身体にはない『傷』になるんだなって思い知った。
今度があるかどうかわからないけど、もし戦闘になったらちゃんと髪を結ぼうと決めた。
その後、部屋に戻って結局腰よりも少し上の長さになった僕の髪を見てそこにいた皆の瞳も揺れていて。
そんな顔しないでよ、とへらりと笑って「さっぱりした」と言えば「お似合いですよ」とノアが誉めてくれた。でもその瞳は悲しみの色が濃い。暗く重い空気を変えようとハーミット先生に視線を向けた。

「ハーミット先生」
「お? どうした?」

まさか呼ばれるとは思ってみなかったんだろう。ハーミット先生が少し驚いた様子だったけど、にっと笑ってくれる。

「あの、シュルツさんにお礼を伝えてもらえませんか?」
「? 兄貴に?」
「はい。シュルツさんに助けてもらわなかったら今僕はここにいませんから」
「レイジスを…助けた? 兄貴が?」
「? はい」

今度は驚きを隠しもせずに瞳を丸くさせると「そうか…兄貴が…」と小さく呟く。

「本当は直接お礼を言いたかったんですけど…たぶんフリードリヒ殿下は絶対「ダメだ」って言うにきま…はえ?」

急に聞こえたフリードリヒの声に振り向けば、そこにはフリードリヒがいた。あ、戻ってきた。
腕を組んでどこか不機嫌なフリードリヒ。斜め後ろにはアルシュが少しだけ呆れたような表情で溜息を吐いてる。

「シュルツに助けられたとはどういうことだい?」
「あ、えと…僕がコカトリスから目を離した時に突っつかれそうになって腕を引っ張って助けてもらったんです」
「だからフードと髪だけで済んだのですね」
「はい」

僕の言葉に侍女さん達の顔色が変わってるけどこればかりは謝るしかない。ホントにごめんなさい。

「なら今後は戦闘も視野に入れた授業を取り入れるか」
「わ! じゃあ剣も持てるんですか!?」
「それはダメだ。危ないだろう」
「えー。剣がダメでもせめて短剣ー!」

フリードリヒの「ダメ」にぶーぶーと文句を言えば「短剣ならいいか」とハーミット先生が了承をくれた。やったー! 憧れの近接武器ー!
わほーい!と両手を上げて喜ぶ僕に「危ないことは禁止だ」とフリードリヒに言われたけど小型ナイフ的なものなら平気でしょ!

「ソルゾ先生」
「どうしました?」

おや? アルシュがソルゾ先生と話してる。珍しい。

「魔法の訓練をお願いしたいのですが」
「アルシュ?」
「魔法をもう少しうまく扱えればレイジス様のお力になれると思い知りました」

アルシュが言ってることはあの氷の矢のことだろう。あれは僕が魔法の配合を間違えたからああなっちゃったんだ。だからアルシュに怪我させちゃって…。

「分かりました。ではアルシュ、今後は魔法の訓練も行いましょう」
「ありがとうございます」

ぴしりと腰を曲げて頭を下げるアルシュに、僕も「ハーミット先生、よろしくお願いします」とぺこりと礼をすると「それだけはやめてください!」と慌てふためくハーミット先生。あ、侍女さんたちとジョセフィーヌの視線がすごい。

「じゃあ、明日から早速…!」
「レイジス様。ただ今新しい制服をご用意しておりますので、それが届くまで外出禁止です」
「なんで?! 学園内ならいいんじゃないの?!」
「ダメです」
「なぁんでぇー!」

ぶー!と唇を尖らせてソルゾ先生に「不満です」ということを顔でも伝えるけど「ダメです」と突っぱねられてしまった。
むむむ。甘くなってたとはいえ、流石に制服がないとダメかぁ…。
ぶーたれつつテーブルに突っ伏せば「制服ができるまでだ」とフリードリヒに頭を撫でられる。それだけで「ま、いっか」ってなるの本当にすごい。何かの魔法がフリードリヒの手にはかかってるのかもしれない。
ごろごろと喉を鳴らしそうになりながら頭を撫でられていると「そういえば」とがばりと起き上がる。

「制服を脱ごうとしたらリーシャに止められましたけど…何でですか?」
「なっ?!」

ガッと両腕の二の腕を掴まれずずいとフリードリヒの顔が近付く。おわ?!
ちょ、ちょっと目が怖いんですけど?!

「なぜ脱ごうとした?!」
「あ? え?」
「制服だ! なぜ脱ごうとした?!」

え? なんか、いつもと違って怒ってる? 掴まれた手に力がぎりぎりとこもって痛い。けど痛いなんて言えない空気で。
ちょっとだけ怖いって思いながらパンジー色を見つめる。

「蛇に噛まれた人の止血をしようとして脱ごうとしたんですよ」
「リーシャ?」
「殿下。レイジス様に制服のこと教えてませんよね?」
「……………」

リーシャの言葉でパンジー色が僕から逸らされた。それに詰まった息を吐き出すと、小さく震えてることに気付いた。
怖かった。本当に怖かった。
これあれだ。光の魔石ができないかリーシャと言い争った時の『圧』だ。こんな怖い思いしてたのか…。

「フリードリヒ殿下。レイジス様が震えております」
「―――――っ! すまない!」
「あ、いえ…」

ノアの言葉でハッとしたのか二の腕を掴んでいた手が離れると途端に指先に血が流れていく感覚を感じる。ん。生きてる。

「大丈夫ですか?」
「ん…だい、じょぶ」

アルシュに問われて頷けば、心配そうに見つめられる。大丈夫、大丈夫。ちょっと指先が痺れるけど直ぐに戻るから。

「フリードリヒ殿下。レイジス様に制服のことをお教えしていないのは本当ですか?」
「ああ。今の今まで忘れていた」
「じゃあレイジス様を責めないであげてください」
「…そうか。そうだな」

制服? リーシャにも言われたけど制服が何だって言うんだろう?

「すまない。レイジスには話しておくべきだったな」
「いえ。えと、制服って何か特別なんですか?」
「騎士科と魔法科の制服にはそれぞれ魔法がかかっています」
「魔法?」

騎士科と魔法科は制服が違う。騎士科は動きやすいようにすっきりと。魔法科はフードが付いたローブに似た上着を着てるけど締め付けがないから動きやすい。なぜか僕とリーシャの制服がちょっと違うのが気になるけど。
ソルゾ先生の説明にふんふんと頷けば「そうです」と話が続く。

「騎士科には物理防御魔法、魔法科は魔法防御魔法がかかっています」
「ふむふむ」
「ですが騎士科の制服にも少しの魔法防御、魔法科の制服に物理防御魔法がかかっています」
「つまり?」
「補助としてそれぞれ魔法がかかってるって訳だ」
「なるほど」

剣を扱う騎士科は物理防御特化、魔法科は魔法を使うから魔法防御特化ってことか。

「でも物理防御魔法がかかっていても補助なら問題ないのでは?」
「この学園に通うのは貴族のご子息、ご令嬢ばかりです。何かあっては遅いので補助と言っても卒業するまでの間、その魔法の効果が失われることはありません」
「つまり。フードに穴が開くということは防御魔法以上の攻撃だったんです」
「わお」

防御魔法以上の攻撃ってことはある程度ダメージが軽減されてあれだったのか…。そりゃ人間の身体なら一突きで穴が開くよ…。
そう考えると本当に危なかったんだな。シュルツさんには感謝しきれないよ。

「ですから制服が破れたりすると作り直すのにとても時間がかかるんです」
「うええ…」

それまで部屋から出れないのつらいよー。帰り道に見つけたあの場所気になるんだけどなー。
でも部屋から出られないんだよね。暇だよー。

「なら、時間がかかる何かを作ってはくれまいか?」
「んえ?」

顔に『暇です』と書かれていたのかフリードリヒの提案にきょとんとするとすぐさま脳内のレシピを検索する。
時間がかかる調味料…調味料…。そう言えばあの調味料なかったよね。
脳みそをフル回転させてレシピを見つけると「よし」と気合を入れる。そんな僕を見てほっとしているフリードリヒを始めとする面々ときらきらと瞳を輝かせるリーシャ。
未知の調味料はこれを作ればあとはお魚さんと海藻から作る出汁だけのはず。
これを作れば一応調味料はコンプリート。
うんうん。塩とコショウだけの調味料からずいぶん増えたな。よしよし。
それに料理のレパートリーも増えたし。出汁ができたらまずはおうどん食べたいなー。ちゅるちゅるうまうましたいー。

海へ行くことが決まってるから出汁ももうすぐ。
楽しみだなー。

そんなことを考えながら新しい制服ができる一週間の間に、暇を持て余した僕はたっぷり野菜の中濃ソースと琥珀色が綺麗なコンソメを作った。
中濃ソースはお好み焼きを作って出してみたらみんなの食いつきがすごかった。やっぱソースマヨは美味しいよねー。
コンソメスープもポトフにしておいしくいただいたし。

そして新しい制服ができあがった頃にはもう月が変わって水の月になってた。


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