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フーディ村編
治癒魔法とアイアンクロー
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無事コカトリスを倒したけどなんか…空気重くない?
フリードリヒが闇属性に強いのにはびっくりしたけど、なんでそれが原因でこうなってるんだろう…。
でもさ。
この空気に耐えられない僕がいるんだよね。
「光魔法が使えない? 王族なのに、ですか?」
「ああ」
「フリードリヒ殿下。失礼ですが本当に王族なのですか?」
「その質問なら私よりも父上と母上に聞いた方が早いだろう。王宮に質問をすればすぐに答えが返ってくる」
フリードリヒが淡々とおじさまの質問に答えてるけど、僕の手をぎゅうって握ってくる力はすごく強い。不安、なのかな。
だから僕はぎゅうって握り返す。大丈夫、力にはなれないけど側にいるからね。
「その髪と何か関係が?」
おじさまの質問に、フリードリヒが唇を噛む。
あ、この質問は地雷だ。
そう思った瞬間。
ぎゅるるるると僕のお腹が盛大に空腹を訴えた。
ああああああああ! なんてタイミング! 良いのか悪いのか分らないけど、とにかくよくやった!
すっごいシリアスな空気なのに「お腹空いた」なんていえる状況じゃなかったからさ…!
ほらー! おじさますっごい顔してるー! 他の人もびっくりしちゃってるじゃんかー!
でもやっぱり一番初めに声をかけるのはこの状況に慣れ切ってるフリードリヒだよね。
「レイジス。そう言えばおやつは食べたのか?」
「んえ? あー…そう言えば食べてないです」
嘘です。キュウリ一本食べました。しゃきしゃき新鮮で非常においしかったです。
「僕もさすがにお腹空きました」
「私は魔力がすっからかんですからね…何か食べたいです」
「リーシャ、ソルゾ」
ざり、とフリードリヒとおじさまの間に入ってお腹を押さえるリーシャとソルゾ先生。
怪我はしてない? 大丈夫?
「それにアルシュの怪我の治療の方が先だ」
「そうだ! アルシュ! 怪我…大丈夫?」
おじさまとフリードリヒの会話で割りこめなかったけどアルシュの手の怪我は大丈夫なんだろうか。
かなり出血してたけど…。
それを僕がしてしまったことに反省をすると、アルシュが少し顔色を青くしながらも「大丈夫ですよ」と笑いかけてくれる。ううう…痛いよね…。
「とりあえず。アルシュの怪我の治療と魔導士組の腹を満たすのが先だ。いいな? 兄貴」
「…分かった」
「んえ?!」
ハーミット先生のお兄さん?! このおじさまが?!
思わずおじさまをまじまじと見れば「行くぞ」と僕の視線から逃げるように背を向けて、そして冷たく僕を見たあと歩いていく。
はわ。
動けなかった。
あんなに冷たい視線は簡単に動きを止められるんだなー。
ぎゅるるるるる、ぐるるるるるるる。
うん。動きは止められても僕のお腹は止められない。
さっきよりも酷い音が空腹を訴えてくる。
「ぶふっ!」
僕のお腹の音にリーシャがたまらず吹き出すと僕も苦笑いを浮かべる。
シリアスクラッシャー、僕のお腹。
「とにかく戻るぞ」
「はぁーい」
ハーミット先生に従い、戻ろうとしてノアがいない事に気付く。あれ? ノア? どこ行ったの?
きょろきょろと首を動かしていると「誰かお探しですか?」とほぼ真後ろから声をかけられ、それに「ほわ?!」と叫べば全員の視線が僕に向いた。
「び、びっくりした…」
「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが」
にこにこと笑いながら告げるノアの手にはハルと一緒に集めた食材が載った籠。そうだった。すっかり忘れてた。
氷魔法で凍ってないよね?
「食材は無事ですよ」
「よかったー…」
それにほっとすればまたしても「ぐぅぎゅるるるる」と僕のお腹が盛大に鳴る。
「さて、行こうか」
笑いをかみ殺しながらそう言って繋いだままの手を引っ張ってくれるフリードリヒ。
よかった。ちょっとは元気になったかな。
それに「はい」と答えると僕たちはこちらに向かってくる人とは逆に歩いていくのだった。
「うんまぁ! ご飯美味しいよぅ!」
もぐもぐと無言で口を動かしながら手を動かしているリーシャとソルゾ先生。魔力をほぼ使い切った先生もいつも以上に料理を口にしている。
ついでに僕の魔法で魔力を吸い取られたアルシュとフリードリヒも無言で口を動かしているし、ノアもみんな程ではないけど口を動かしている。
あれからまずはアルシュの怪我の治療を優先して村の診療所へ。そこには僕が氷で腕の応急処置した人がベッドの上に座っていた。
僕の顔を見て「お」という表情をした後「じいさん、この子だ」と後ろを向いていたじいさん、と呼ばれるお医者さんに声をかけた。
「おお。君か」
「あの…僕のせいで怪我をさせちゃった人がいて…」
「そうかそうか。では診てみようかね」
のんびりとした優しそうなおじいちゃん先生にほっとしながらアルシュの手を見てもらうことに。アルシュが案内された椅子に座ると、僕はその人に手招きをされた。どうしようとフリードリヒを見れば「行こうか」と背中を優しく押されアルシュから離される。
やっぱり酷い怪我だよね…。僕に見せないようにしてくれてるけど、騎士の手を怪我させちゃったんだ…。
しょんぼりとした気持ちを抱えながら布で腕を吊っているその人の側へと向かうと「お嬢ちゃんは大丈夫だったか?」と聞いてくれる。それに「大丈夫です」と答えれば「そうかそうか。よかった」と笑う。
「あいつも氷で止血してさらに体温が低かったから助かったってよ」
「体温が?」
「ああ。なんでも仮死状態?ってやつでそんな状態だったから助かったらしい。もう少し血が流れてたらやばかったってよ」
だから、氷で止血はよかったって訳だと笑いながら告げるその人。その言葉に泣きそうになりながら「腕は…」と聞けば「氷で固定されて動けなくなってたから真っ直ぐくっつくってさ。ありがとな」と腕を撫でる男性。
じゃああの時折れてたのか。それに驚いていると「いや。ホント助かったよ」とまたしても笑う。
「コカトリスが出て死人なし。しかも怪我人も圧倒的に少なかった。こんなことは奇跡に等しいんじゃよ」
「毒はそこの魔導士さんに解毒もしてもらったしな。本当に運がよかった」
アルシュの治療をしながらおじいちゃん先生が言うと、男性もうんうんと頷いている。
僕からはハーミット先生が壁になってアルシュが見えないけど、おじいちゃん先生の瞳が少し険しいから酷かったんだろうな…。
「レイジス様もちゃんと手当てしますよ」
「んえ?」
僕? 僕、怪我なんかしてないよ?
リーシャにそう言われて「なんで?」と首を傾げれば、がっと二の腕をフリードリヒに掴まれた。ひぇ?! 怖っ!
「リーシャ! どこだ?!」
「首の後ろです」
「後ろ?!」
そこは見ていなかった!と慌てて掴まれた腕を離しくるりと身体を回転させられる僕。ほわ?!
さっきまでフリードリヒを見ていたのに今はあきれ顔のリーシャがいる。どうも。
反転させられた僕の後ろ髪をする、と横に払い項に空気が触れるとそこにびしびしとフリードリヒの視線が突き刺さる。なんか痛い。
しかも項なんてこんな間近で見られることなんてないからちょっと恥ずかしい。
「ああ。切り傷程度だが確かにあるな」
「そうなんですか?」
「血は出てないですけどピアスを見せてもらってもいいですか?」
「ん」
もう好きにしてくれ!とぎゅっと目を閉じると「ちょっとそういうことしないでくださいよ」とリーシャからずびしと軽くチョップを食らう。それにしょんぼりとすると横髪を持ち上げられ右耳に今度はリーシャの視線が注がれる。
ううう…恥ずかしいよぅ…。
「毒等の異常は見られませんがやっぱり光の浄化魔法使っておきますね」
「でも異常はないんでしょ。ならいいよ。それに切り傷程度なら…」
異常がないのに光の浄化魔法なんて使わなくてもいいと思うんだ。魔力もったいないじゃない。
「レイジス?」
するっと項に手を回し、傷を確認するとそこを撫でる。
そして。
「痛いの痛いの飛んでけーでおわ…おわーっ?!」
子供の頃よくやったそれをなんとなくやってみたら「飛んでけー」で手を離した瞬間まばゆい光がそこから放たれた。
「またこのパターンですか!?」
「眩しっ!」
「何じゃこれは?!」
はい。
よく分らない光で診療所内はちょっとしたパニックですよ。
てかなに?! 何が起きたの?!
うおおおお!瞼を閉じてても闇を突き破って光が見えるー! 目がー!目がぁー!
その強烈な光が治まったのはすぐ。けど、光で目を焼かれた僕は目を開けることができない。
目の前がチカチカするよー!ってか皆は大丈夫?!
「レイジス、大丈夫か?!」
「あ、僕はここですー!」
「もー! 今度は何したんですか!」
「目が…」
それぞれ文句や確認をしながら目の回復を待つ。太陽を直接見たような強烈な光だった…。ホントなんだったのー?
「傷がない…」
「? どうかされましたか?」
するとフリードリヒが信じられないというような声色で、僕の項を指先でつつ、となぞるから「わっひゃ!」と声が出る。
「色気もない悲鳴をありがとうございます。ところで傷がない、とは?」
「レイジスの傷が治っている」
「へ?」
まだ視界が回復しない僕を他所に、すでに回復しているフリードリヒとリーシャ。流石だ…。
「な、んじゃったんだ…? 今のは…」
「すみません。恐らくレイジス様の何かしらの魔法の暴走です。申し訳ございません」
「魔法の…暴走?」
ソルゾ先生もすでに回復したのかおじいちゃん先生に謝ってる。うわーん! ごめんなさーい!
てか僕まだ回復してないんだけどなんでー? ずーっと目の前がチカチカしてるんですけどー?
「どうした?」
「なんか…ずっと目の前が明るくて…」
もう目を開けてるのか閉じてるのか分んないくらい眩しいんだよー。おじいちゃん先生に見てもらった方がいいのかな?
なーんて思ってたら、そっと頬を大きな手が包んでくれた。
「レイジス。ゆっくり瞼を持ち上げてごらん?」
「んえ?」
「大丈夫だから、ね?」
「は、はい」
子供に言い聞かせるように告げるフリードリヒにこくりと頷くと、そっと頬を親指で撫でてくれる。それに安心すると、言われた通りゆっくりと意識して瞼を持ち上げる。
すると光が徐々に治まり、目の前には心配そうに眉を寄せたフリードリヒ。うん。顔がいい。
じゃなくて。
あれ? なんか後ろに黒いもやもやしたものが見えるんですけど? なんですかそれ?
たぶん僕が瞳をまん丸にしてたからだろうけど、フリードリヒのパンジー色の瞳も大きくなってる。それから瞼が降りてきて一度見えなくなると小さな溜息が漏れた。
え? え? もしかして僕の目おかしくなっちゃってる?!
「見間違い…ではない、か…」
「ふへ?」
「フリードリヒ殿下?」
リーシャの声がどことなく硬い。え? ホントに僕の目おかしいの?
「この場にいる者全員、ここで見たことを他言することは許さん。もしそれを破れば…王家の力をもって排除に動く」
「フリードリヒ殿下?」
それっていわゆる緘口令ってやつ? それにそれっておじいちゃん先生と男性に言ってるんだよね?
ここまでしなきゃいけないことってなんだ? やっぱり僕、おかしいの?
「いいな?」
最終確認をするフリードリヒに腕を怪我してた男性は顔色を青くしてこくこくと頷き、おじいちゃん先生も「分かりました」と告げる。
それにフリードリヒも頷くと「レイジス」と優しい声で僕の名前を呼ぶ。やっぱり安心するな…。
「レイジス、そのまま正面を向いて」
「正面を?」
「ああ。大丈夫だから」
「ね?」と微笑むフリードリヒにこくりと頷くと、ちゅと額にキスを落とされた。そしてそのまま頬から手が離れ、ゆっくりと身体を反転させられた。大きな掌に目を隠されて。
「先も言ったようにここで見たことを他に告げることは許さん。いいな」
念を入れてフリードリヒがそう言うと、ごくりと誰かの息を飲む音が聞こえた。そしてゆっくりと隠された視界が露わになるとそこには驚いた表情を浮かべているリーシャがいた。
「レイジス様…その瞳は…」
「おお…おお…!」
リーシャの声と共におじいちゃん先生がなぜか小さく震えている。え? 治せない感じですか?! そんなに僕の目、危ない?!
ってあれれ?
「リーシャ…なんかもやもやしてる?」
「んな?!」
「こう…赤、青、緑…黄色がちょっと薄くて白と黒がリーシャの周りをもやもやしてる」
あれ? フリードリヒは黒がもやもやして緑がほとんどなかったよね? なんだこれ?
リーシャだけがそうなのか分からないからソルゾ先生に視線を移せば、びくりと肩が跳ねた。わああ! ごめんなさい!
「んー? ソルゾ先生は緑と黄色が薄くて…白と黒も薄い? でも…若干白の方が濃い、かな?」
「レイジス様…それは…」
「『神の目』…」
ぼそりとおじいちゃん先生がそう呟く。『神の目』? なに? この世界オベロン社でもあるの?
『神の目』といえば某ゲームに出てくるその社名しか出てこない。ってか『神の目』ってなによ?
「おお…おお…。この歳で『神の目』の持ち主と出会えるとは…長生きをしていたのはこのためだったか…」
「ちょ、ちょっとおじいちゃん先生?!」
僕を見て両手を合わせて拝むのやめてよー! そんなにすごいものでもないんだから!
なんか椅子から降りて両膝を付きそうなおじいちゃん先生を誰か止めてー!と涙目になりながらリーシャに助けを求めようとしたけど、リーシャは手で目元を覆って天を仰いでいる。
どしたの?! 気分悪い?!
「と、いうことは…?」
「確実に『アレ』です、ね!」
そういってソルゾ先生と何かしら会話が成立するとリーシャの右手が僕の顔を掴んだ。
ほへ?!
そしてぎりぎりとその掴んだ右手に力がこもっていく。
「アッ――――!」
「なんてことをしてくれるんですか! レイジス様!」
「痛い! 痛い! 痛いー!」
何かよく分んないけどリーシャが激おこだーっ!!!!!
でもアイアンクローはやめて! めっちゃ痛い!
「リーシャ! 出ちゃう! 僕の頭の中身出ちゃううぅぅー!」
「僕の握力なら出ませんから! アルシュや殿下なら出ちゃうかもしれませんが!」
「アッ――――!」
痛いよぉー! ひんひんと痛みに泣きそうになっていると「リーシャ」とフリードリヒの声がした途端、リーシャの手から逃れられた僕はささっとフリードリヒの後ろに避難する。
うううう…痛かったー…。掴まれた所を涙目で撫でていると腕を怪我した男性とばっちりと視線が合ってしまった。それにへらりと笑えば「あ、う…あ…」とよく分らない言葉を発し顔を真っ赤にして後ろへと倒れてしまった。
ちょ?! 大丈夫?!
「フリードリヒ殿下ぁ…」
助けを求めるように上目遣いで名前を呼べば。額を押さえてるフリードリヒ。
頭痛い? おじいちゃん先生に診てもらう?
「…そっとしておけ。怪我で熱でも出たんだろう」
「そっか…。でもお布団くらいはかけてあげないと…」
どこか苛立った声でそう言うフリードリヒ。やっぱこの状況で頭痛いのかな?
でも寝るならちゃんとお布団かけないと寒いよ?
いそいそと倒れたその人にお布団をかけてぽんぽんと軽く叩くとフリードリヒになぜか頭を撫でられた。よくできましたってことかな?
「…ハーミット先生」
「うん? どうした?」
今まで黙っていたアルシュから声がすると、僕はフリードリヒの背中からぴょこりと姿を出す。もちろんリーシャとは逆の位置から。だってまたアイアンクローされそうなんだもん。
「痛みが…なくなりました」
「あー…そうか…」
「どれ、見せてみなさい」
あ。アルシュの言葉でおじいちゃん先生が正気に戻った! アルシュありがとう!
僕の位置からだとやっぱり見えないんだけど、おじいちゃん先生とハーミット先生がどこか信じられないようなものを見ている。
つまり?
「『治癒の力』ですか」
「『治癒の力』?」
ぼそりと呟いたノアに聞き返すと「はい」とにこりと笑っている。あ、教えてくれるのかな?
「『治癒の力』はその名の通り怪我を治す力です。これは大丈夫ですね?」
「うん。大丈夫」
「この『治癒の力』自体、とても珍しいものなのです」
「ふんふん」
ノアの講習はかみ砕いて教えてくれるからとっても分かりやすくて助かるー。ソルゾ先生も分りやすいけど、ノアの場合は本当に子供に教えるようにしてくれるから知識が全くない僕は大変助かる。
「ですからその力を持つものが現れたらすぐに王宮に知らせることになっています」
「光の浄化魔法と同じってことでいいの?」
「はい。ですが『治癒師』と呼ばれる『治癒の力』を持つものはウィンシュタン国を入れた他の国を入れても10人程度しかいません」
「うん?」
今、なんて言った?
「世界で10人程度?」
「はい。世界で、10人程度、です」
「はわわわわわ」
ノアのその言葉でようやくとんでもないことをしでかしたと理解した。そりゃリーシャもアイアンクローするよ!
「これは素晴らしい…怪我などどこにもありませんね」
「剣も…握れますか?」
「問題ないですよ。それどころか剣だこも綺麗さっぱりなくなっちゃったから、しばらくの間は少し痛むと思うがね」
ノアの講習が終わったのを見計らってなのかおじいちゃん先生とアルシュの会話が聞こえる。
剣も握れる…ってことはあのままだったらアルシュは剣を握れなくなってたってこと? それほど酷い怪我だったの? そして怪我をさせてしまったのは…。
「アルシュ…!」
「レイジス様」
「ごめん…ごめんなさい…!」
偶然『治癒の力』が発動して怪我が治ったのは運がよかった。でもこの『治癒の力』が発動していなかったら?
「僕…僕のわがままでアルシュを…」
泣きそうになるけど、泣きたいのはアルシュの方だよね。僕が泣くのはお門違い。
でも。
「レイジス様」
きゅうと唇を噛むとぴしゃりと少し強い声色で名前を呼ばれてびくりと肩を震わせる。そしてアルシュがおじいちゃん先生に断りを入れて立ち上がる。そして僕の方へと歩いてくるとフリードリヒに向かって頷く。それに頷き返すフリードリヒ。すると隠れていた背後からずいっとアルシュの前に引っ張りだされた。
目の前にいるアルシュをじっと見つめれば、ふ、と頬と瞳が柔らかくなる。
「私はレイジス様のお力になれたのが嬉しかったのですよ」
「え?」
「覚えておいででないかもしれませんが、私もレイジス様のお力になると誓いましたから」
そう言って僕を見つめてくる瞳は優しくて。それに甘えそうになるけどでもやっぱり僕のせいで。
ぎゅうとズボンを両手で握り唇を噛んで泣きたいのを我慢する。
すると、ぽん、と頭に手を乗せられたことに驚き振り返ればそこにはアルシュと同じ優しさを湛えたパンジー色が僕を見ていて。
「なら、次は怪我をさせないようにしないとな」
「そうですね。その為に魔法の勉強を頑張りましょう?」
「うん…する…! もう怪我なんかさせないように勉強頑張る!」
うえええとアルシュに抱き付いて泣きつけば、ぽんぽんと頭を撫でてくれる優しい大きな手。
そうだ。いつだったかソルゾ先生が言ってたじゃないか。
「光魔法と闇魔法は扱いが非常に難しい魔法です。ですから訓練が必要なのですよ。レイジス様」
なんで今の今まで忘れてたんだろう。
氷魔法も扱いが難しい二種混合魔法なんだよ。安定してできてるからって完全に調子乗ってた…。その結果がこれ。
ひとしきりアルシュに抱き付いて泣いた後、ぐっしょりと僕の涙で濡れた制服に「ごめん!」と謝ればリーシャが浄化魔法を使ってそれを綺麗にしてくれた。
あ、僕もそれ使いたい!
「リー…」
「この魔法は明日以降教えます。今日はもう使わないでくださいね」
「…はい」
リーシャに先手を打たれて「教えて!」とは言えなくなった僕はがっくりと肩を落としながらも頷けば、ぽんとフリードリヒに肩を叩かれた。
「教えてくれない訳じゃなさそうだから安心しろ」
「これはリーシャが教えるつもりですね」
アルシュとフリードリヒにそう言われてリーシャを見れば「べ、別にそう言った意味じゃ…!」とあたふたとしている。それにノアが笑い、ソルゾ先生とハーミット先生が見守ってくれてる。おじいちゃん先生もにこにこと笑ってる。
ほんわかとした空気になった時「う、ううぅ…」とうめき声が聞こえてきて思わずアルシュに抱き付けば、なぜかフリードリヒががっかりしている。なんで?
リーシャも笑みを消し、ノアが僕を守るように動いてソルゾ先生も駆け寄ってきてくれた。それにおじいちゃん先生が「まさか…!」と慌てて椅子から立ち上がって声がした方へと走っていく。それを邪魔しないように道を作るとおじいちゃん先生が扉の先へと消えていった。
あ。もしかして寝てた人がいた?!
アイアンクロー受けた時すっごい叫んじゃったから起こしちゃった?!
それに気付いてあばばばとアルシュの制服を掴んでいると「大丈夫ですよ」と頭の上から声が降ってきた。
「恐らく治癒の光で蛇に噛まれた方の怪我も治ったのでしょう」
「え?」
「ああ。だとしたら腕を怪我したそいつの怪我も治ってるな」
ノアとハーミット先生の言葉にきょとんとしているとリーシャがはぁぁと大きな溜息を吐く。
「魔法の暴走ですよ。初めて使ったり偶然できたりすると暴走しやすいんです」
「そういえば光の浄化魔法の時も、氷魔法ができた時もなんかすごかったね」
「それが暴走です。レイジス様の場合はほとんどが無害ですけどね」
「風魔法でマヨネーズを爆発させたのも暴走の一種ですよ」
「まだそれ言うの!?」
どうやら浴室でのマヨネーズ爆発事件は忘れてくれそうになさそうだ。ううう…これから魔法が暴走するたびに言われるんだなろうなぁ…。
そんなこんなでおじいちゃん先生がほっと息を吐きながら戻ってくると僕を見てなぜか涙ぐんだ。
おおう…どうしたの?
「『聖女』様のおかげでハフターも一命をとりとめました。本当になんとお礼を言ってよいやら…」
「あ? え?」
ちょっと待って。『聖女』ってなに?!
僕、ちゃんと付いてるよ?!
「じいさん。感動するのはいいけどレイジスが混乱してるぞ」
「おお、おお。すまんな。今日を越えられたとしても次が越せるか分らなかったハフターの心配がなくなったことが嬉しくてな…」
「えと…ハフターさんはもう大丈夫なんですか?」
「ええ、ええ。『聖女』様の治癒の力のおかげで傷は塞がっております。あとは体力を戻すだけです」
うん。僕『聖女』じゃないんだけど…。どうしたらいいの?
ちらりとノアを見れば、すすっと近くまで来てくれて耳打ちをしてくれた。
「『治癒の力』を持つ『治癒師』の方は大体そう呼ばれております」
「なるほどなるほど。『聖女』は僕だけじゃないんだね?」
「はい。ただ『治癒の力』を持つ方達は女性ばかりなので」
「んん?!」
と、いうことは…僕はおじいちゃん先生に『女の子』として認識されたわけだ?!
もう宿命だと決めたけどさ!
「そういえばレイジス様の瞳が元に戻ってますね」
「ん? あ、そう言えばアイアンクローされてからもやもやが消えてたな」
ノアにじっと近くで瞳を覗かれてちょっとドキッとしちゃった。ノアの瞳も綺麗だよね。
なんて思ってたら襟首を引っ張られてノアから引き剥がされて後ろから抱き締められる。あ、フリードリヒの匂いだ。
ぎゅうと取られないように肩を抱くフリードリヒがなぜかぐるぐるとノアに威嚇してる。なんでそんなことしてるの?!
「ノア。やはり距離が近いのではないか?!」
「まさか。殿下よりは離れておりますよ」
「当然だ! レイジスは私の婚約者なのだぞ?!」
そうしてなぜかきゃんきゃんと犬同士の喧嘩が始まってしまい、動けない僕と呆れるリーシャと困ったように笑うアルシュ。それに先生たちと「ほほほ」と笑っているおじいちゃん先生。
あ、おじいちゃん先生は孫同士がわちゃわちゃしてるなって感じなんだろうなー。ばあちゃんもよくこんな目をしてたから。
ほこほことしてると診療所のドアが激しく叩かれ騒がしくなって、おじいちゃん先生が「よっこらせ」と椅子から立ち上がった瞬間、なんだかとっても驚いた表情を浮かべた。
どしたの? 腰でもやっちゃった?なんて思ってたら「おお…おお…!」となぜか感動している。うん。どうしたの?
「長年の腰痛と膝の痛みが綺麗さっぱり消えておる…!」
「んん?!」
それってさっきの治癒の光のせい…なんてことはないよね? まっさかー。ないよね?
「これも『聖女』様のおかげですな」
「oh…」
僕のせいでした。
「身体も軽くなって十年くらい若返った気がしますな」とほほほと笑って足取り軽くドアに向かったおじいちゃん先生。
そしてドアが開いた瞬間、村の人たちがなだれ込んできたのだった。
あの後、おじいちゃん先生がなんとか村の人たちをなだめて僕たちは初めに来た家へと無事到着。
そこで待ってたハルに抱き付かれ泣かれて胸が痛んだ。ごめんよー。心配かけちゃったね。
よしよしとハルの頭を撫でながらこちらも泣きそうな表情で待っててくれた侍女さん達に「ありがとう」とお礼を告げれば、口元を手で押さえて泣いちゃったから、あわあわしちゃった。
でも空気を読まない僕のお腹が盛大に鳴ると、泣いてたハルがビックリして僕を見て、泣いてた侍女さん達もビックリして瞳が大きくなってた。
小言とかは後回しにしてフリードリヒが「まずは食事にしようか」という言葉ですぐに食事が準備された。
どうやら侍女さんがご飯を作って待っててくれたみたい。でも量が多い。どうしたの? 僕は嬉しいけど。
侍女さん2人で食事の準備してたら「あんたたちだけで大人数分作るのは大変だろ?」と村のおばちゃんたちが手伝ってくれたんだって。
というか侍女さん達が作る料理って僕と一緒に作るやつだから興味津々だったみたい。手伝いながらレシピを盗むおばちゃん達。うんうん。レシピは盗んでさらにおいしくなるように改良してなんぼだからね! どんどん盗んでね!
テーブルいっぱいに並べられた料理を「いただきます」をしてしれっとリーシャが光魔法を使って「よし」がでれば食べられる。
アルシュ、ノア、リーシャ。それにソルゾ先生とハーミット先生の「よし」が出て僕はすぐにスプーンを持って目の前にあったオムライスを頬張った。
フリードリヒが闇属性に強いのにはびっくりしたけど、なんでそれが原因でこうなってるんだろう…。
でもさ。
この空気に耐えられない僕がいるんだよね。
「光魔法が使えない? 王族なのに、ですか?」
「ああ」
「フリードリヒ殿下。失礼ですが本当に王族なのですか?」
「その質問なら私よりも父上と母上に聞いた方が早いだろう。王宮に質問をすればすぐに答えが返ってくる」
フリードリヒが淡々とおじさまの質問に答えてるけど、僕の手をぎゅうって握ってくる力はすごく強い。不安、なのかな。
だから僕はぎゅうって握り返す。大丈夫、力にはなれないけど側にいるからね。
「その髪と何か関係が?」
おじさまの質問に、フリードリヒが唇を噛む。
あ、この質問は地雷だ。
そう思った瞬間。
ぎゅるるるると僕のお腹が盛大に空腹を訴えた。
ああああああああ! なんてタイミング! 良いのか悪いのか分らないけど、とにかくよくやった!
すっごいシリアスな空気なのに「お腹空いた」なんていえる状況じゃなかったからさ…!
ほらー! おじさますっごい顔してるー! 他の人もびっくりしちゃってるじゃんかー!
でもやっぱり一番初めに声をかけるのはこの状況に慣れ切ってるフリードリヒだよね。
「レイジス。そう言えばおやつは食べたのか?」
「んえ? あー…そう言えば食べてないです」
嘘です。キュウリ一本食べました。しゃきしゃき新鮮で非常においしかったです。
「僕もさすがにお腹空きました」
「私は魔力がすっからかんですからね…何か食べたいです」
「リーシャ、ソルゾ」
ざり、とフリードリヒとおじさまの間に入ってお腹を押さえるリーシャとソルゾ先生。
怪我はしてない? 大丈夫?
「それにアルシュの怪我の治療の方が先だ」
「そうだ! アルシュ! 怪我…大丈夫?」
おじさまとフリードリヒの会話で割りこめなかったけどアルシュの手の怪我は大丈夫なんだろうか。
かなり出血してたけど…。
それを僕がしてしまったことに反省をすると、アルシュが少し顔色を青くしながらも「大丈夫ですよ」と笑いかけてくれる。ううう…痛いよね…。
「とりあえず。アルシュの怪我の治療と魔導士組の腹を満たすのが先だ。いいな? 兄貴」
「…分かった」
「んえ?!」
ハーミット先生のお兄さん?! このおじさまが?!
思わずおじさまをまじまじと見れば「行くぞ」と僕の視線から逃げるように背を向けて、そして冷たく僕を見たあと歩いていく。
はわ。
動けなかった。
あんなに冷たい視線は簡単に動きを止められるんだなー。
ぎゅるるるるる、ぐるるるるるるる。
うん。動きは止められても僕のお腹は止められない。
さっきよりも酷い音が空腹を訴えてくる。
「ぶふっ!」
僕のお腹の音にリーシャがたまらず吹き出すと僕も苦笑いを浮かべる。
シリアスクラッシャー、僕のお腹。
「とにかく戻るぞ」
「はぁーい」
ハーミット先生に従い、戻ろうとしてノアがいない事に気付く。あれ? ノア? どこ行ったの?
きょろきょろと首を動かしていると「誰かお探しですか?」とほぼ真後ろから声をかけられ、それに「ほわ?!」と叫べば全員の視線が僕に向いた。
「び、びっくりした…」
「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが」
にこにこと笑いながら告げるノアの手にはハルと一緒に集めた食材が載った籠。そうだった。すっかり忘れてた。
氷魔法で凍ってないよね?
「食材は無事ですよ」
「よかったー…」
それにほっとすればまたしても「ぐぅぎゅるるるる」と僕のお腹が盛大に鳴る。
「さて、行こうか」
笑いをかみ殺しながらそう言って繋いだままの手を引っ張ってくれるフリードリヒ。
よかった。ちょっとは元気になったかな。
それに「はい」と答えると僕たちはこちらに向かってくる人とは逆に歩いていくのだった。
「うんまぁ! ご飯美味しいよぅ!」
もぐもぐと無言で口を動かしながら手を動かしているリーシャとソルゾ先生。魔力をほぼ使い切った先生もいつも以上に料理を口にしている。
ついでに僕の魔法で魔力を吸い取られたアルシュとフリードリヒも無言で口を動かしているし、ノアもみんな程ではないけど口を動かしている。
あれからまずはアルシュの怪我の治療を優先して村の診療所へ。そこには僕が氷で腕の応急処置した人がベッドの上に座っていた。
僕の顔を見て「お」という表情をした後「じいさん、この子だ」と後ろを向いていたじいさん、と呼ばれるお医者さんに声をかけた。
「おお。君か」
「あの…僕のせいで怪我をさせちゃった人がいて…」
「そうかそうか。では診てみようかね」
のんびりとした優しそうなおじいちゃん先生にほっとしながらアルシュの手を見てもらうことに。アルシュが案内された椅子に座ると、僕はその人に手招きをされた。どうしようとフリードリヒを見れば「行こうか」と背中を優しく押されアルシュから離される。
やっぱり酷い怪我だよね…。僕に見せないようにしてくれてるけど、騎士の手を怪我させちゃったんだ…。
しょんぼりとした気持ちを抱えながら布で腕を吊っているその人の側へと向かうと「お嬢ちゃんは大丈夫だったか?」と聞いてくれる。それに「大丈夫です」と答えれば「そうかそうか。よかった」と笑う。
「あいつも氷で止血してさらに体温が低かったから助かったってよ」
「体温が?」
「ああ。なんでも仮死状態?ってやつでそんな状態だったから助かったらしい。もう少し血が流れてたらやばかったってよ」
だから、氷で止血はよかったって訳だと笑いながら告げるその人。その言葉に泣きそうになりながら「腕は…」と聞けば「氷で固定されて動けなくなってたから真っ直ぐくっつくってさ。ありがとな」と腕を撫でる男性。
じゃああの時折れてたのか。それに驚いていると「いや。ホント助かったよ」とまたしても笑う。
「コカトリスが出て死人なし。しかも怪我人も圧倒的に少なかった。こんなことは奇跡に等しいんじゃよ」
「毒はそこの魔導士さんに解毒もしてもらったしな。本当に運がよかった」
アルシュの治療をしながらおじいちゃん先生が言うと、男性もうんうんと頷いている。
僕からはハーミット先生が壁になってアルシュが見えないけど、おじいちゃん先生の瞳が少し険しいから酷かったんだろうな…。
「レイジス様もちゃんと手当てしますよ」
「んえ?」
僕? 僕、怪我なんかしてないよ?
リーシャにそう言われて「なんで?」と首を傾げれば、がっと二の腕をフリードリヒに掴まれた。ひぇ?! 怖っ!
「リーシャ! どこだ?!」
「首の後ろです」
「後ろ?!」
そこは見ていなかった!と慌てて掴まれた腕を離しくるりと身体を回転させられる僕。ほわ?!
さっきまでフリードリヒを見ていたのに今はあきれ顔のリーシャがいる。どうも。
反転させられた僕の後ろ髪をする、と横に払い項に空気が触れるとそこにびしびしとフリードリヒの視線が突き刺さる。なんか痛い。
しかも項なんてこんな間近で見られることなんてないからちょっと恥ずかしい。
「ああ。切り傷程度だが確かにあるな」
「そうなんですか?」
「血は出てないですけどピアスを見せてもらってもいいですか?」
「ん」
もう好きにしてくれ!とぎゅっと目を閉じると「ちょっとそういうことしないでくださいよ」とリーシャからずびしと軽くチョップを食らう。それにしょんぼりとすると横髪を持ち上げられ右耳に今度はリーシャの視線が注がれる。
ううう…恥ずかしいよぅ…。
「毒等の異常は見られませんがやっぱり光の浄化魔法使っておきますね」
「でも異常はないんでしょ。ならいいよ。それに切り傷程度なら…」
異常がないのに光の浄化魔法なんて使わなくてもいいと思うんだ。魔力もったいないじゃない。
「レイジス?」
するっと項に手を回し、傷を確認するとそこを撫でる。
そして。
「痛いの痛いの飛んでけーでおわ…おわーっ?!」
子供の頃よくやったそれをなんとなくやってみたら「飛んでけー」で手を離した瞬間まばゆい光がそこから放たれた。
「またこのパターンですか!?」
「眩しっ!」
「何じゃこれは?!」
はい。
よく分らない光で診療所内はちょっとしたパニックですよ。
てかなに?! 何が起きたの?!
うおおおお!瞼を閉じてても闇を突き破って光が見えるー! 目がー!目がぁー!
その強烈な光が治まったのはすぐ。けど、光で目を焼かれた僕は目を開けることができない。
目の前がチカチカするよー!ってか皆は大丈夫?!
「レイジス、大丈夫か?!」
「あ、僕はここですー!」
「もー! 今度は何したんですか!」
「目が…」
それぞれ文句や確認をしながら目の回復を待つ。太陽を直接見たような強烈な光だった…。ホントなんだったのー?
「傷がない…」
「? どうかされましたか?」
するとフリードリヒが信じられないというような声色で、僕の項を指先でつつ、となぞるから「わっひゃ!」と声が出る。
「色気もない悲鳴をありがとうございます。ところで傷がない、とは?」
「レイジスの傷が治っている」
「へ?」
まだ視界が回復しない僕を他所に、すでに回復しているフリードリヒとリーシャ。流石だ…。
「な、んじゃったんだ…? 今のは…」
「すみません。恐らくレイジス様の何かしらの魔法の暴走です。申し訳ございません」
「魔法の…暴走?」
ソルゾ先生もすでに回復したのかおじいちゃん先生に謝ってる。うわーん! ごめんなさーい!
てか僕まだ回復してないんだけどなんでー? ずーっと目の前がチカチカしてるんですけどー?
「どうした?」
「なんか…ずっと目の前が明るくて…」
もう目を開けてるのか閉じてるのか分んないくらい眩しいんだよー。おじいちゃん先生に見てもらった方がいいのかな?
なーんて思ってたら、そっと頬を大きな手が包んでくれた。
「レイジス。ゆっくり瞼を持ち上げてごらん?」
「んえ?」
「大丈夫だから、ね?」
「は、はい」
子供に言い聞かせるように告げるフリードリヒにこくりと頷くと、そっと頬を親指で撫でてくれる。それに安心すると、言われた通りゆっくりと意識して瞼を持ち上げる。
すると光が徐々に治まり、目の前には心配そうに眉を寄せたフリードリヒ。うん。顔がいい。
じゃなくて。
あれ? なんか後ろに黒いもやもやしたものが見えるんですけど? なんですかそれ?
たぶん僕が瞳をまん丸にしてたからだろうけど、フリードリヒのパンジー色の瞳も大きくなってる。それから瞼が降りてきて一度見えなくなると小さな溜息が漏れた。
え? え? もしかして僕の目おかしくなっちゃってる?!
「見間違い…ではない、か…」
「ふへ?」
「フリードリヒ殿下?」
リーシャの声がどことなく硬い。え? ホントに僕の目おかしいの?
「この場にいる者全員、ここで見たことを他言することは許さん。もしそれを破れば…王家の力をもって排除に動く」
「フリードリヒ殿下?」
それっていわゆる緘口令ってやつ? それにそれっておじいちゃん先生と男性に言ってるんだよね?
ここまでしなきゃいけないことってなんだ? やっぱり僕、おかしいの?
「いいな?」
最終確認をするフリードリヒに腕を怪我してた男性は顔色を青くしてこくこくと頷き、おじいちゃん先生も「分かりました」と告げる。
それにフリードリヒも頷くと「レイジス」と優しい声で僕の名前を呼ぶ。やっぱり安心するな…。
「レイジス、そのまま正面を向いて」
「正面を?」
「ああ。大丈夫だから」
「ね?」と微笑むフリードリヒにこくりと頷くと、ちゅと額にキスを落とされた。そしてそのまま頬から手が離れ、ゆっくりと身体を反転させられた。大きな掌に目を隠されて。
「先も言ったようにここで見たことを他に告げることは許さん。いいな」
念を入れてフリードリヒがそう言うと、ごくりと誰かの息を飲む音が聞こえた。そしてゆっくりと隠された視界が露わになるとそこには驚いた表情を浮かべているリーシャがいた。
「レイジス様…その瞳は…」
「おお…おお…!」
リーシャの声と共におじいちゃん先生がなぜか小さく震えている。え? 治せない感じですか?! そんなに僕の目、危ない?!
ってあれれ?
「リーシャ…なんかもやもやしてる?」
「んな?!」
「こう…赤、青、緑…黄色がちょっと薄くて白と黒がリーシャの周りをもやもやしてる」
あれ? フリードリヒは黒がもやもやして緑がほとんどなかったよね? なんだこれ?
リーシャだけがそうなのか分からないからソルゾ先生に視線を移せば、びくりと肩が跳ねた。わああ! ごめんなさい!
「んー? ソルゾ先生は緑と黄色が薄くて…白と黒も薄い? でも…若干白の方が濃い、かな?」
「レイジス様…それは…」
「『神の目』…」
ぼそりとおじいちゃん先生がそう呟く。『神の目』? なに? この世界オベロン社でもあるの?
『神の目』といえば某ゲームに出てくるその社名しか出てこない。ってか『神の目』ってなによ?
「おお…おお…。この歳で『神の目』の持ち主と出会えるとは…長生きをしていたのはこのためだったか…」
「ちょ、ちょっとおじいちゃん先生?!」
僕を見て両手を合わせて拝むのやめてよー! そんなにすごいものでもないんだから!
なんか椅子から降りて両膝を付きそうなおじいちゃん先生を誰か止めてー!と涙目になりながらリーシャに助けを求めようとしたけど、リーシャは手で目元を覆って天を仰いでいる。
どしたの?! 気分悪い?!
「と、いうことは…?」
「確実に『アレ』です、ね!」
そういってソルゾ先生と何かしら会話が成立するとリーシャの右手が僕の顔を掴んだ。
ほへ?!
そしてぎりぎりとその掴んだ右手に力がこもっていく。
「アッ――――!」
「なんてことをしてくれるんですか! レイジス様!」
「痛い! 痛い! 痛いー!」
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でもアイアンクローはやめて! めっちゃ痛い!
「リーシャ! 出ちゃう! 僕の頭の中身出ちゃううぅぅー!」
「僕の握力なら出ませんから! アルシュや殿下なら出ちゃうかもしれませんが!」
「アッ――――!」
痛いよぉー! ひんひんと痛みに泣きそうになっていると「リーシャ」とフリードリヒの声がした途端、リーシャの手から逃れられた僕はささっとフリードリヒの後ろに避難する。
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「フリードリヒ殿下ぁ…」
助けを求めるように上目遣いで名前を呼べば。額を押さえてるフリードリヒ。
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どこか苛立った声でそう言うフリードリヒ。やっぱこの状況で頭痛いのかな?
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いそいそと倒れたその人にお布団をかけてぽんぽんと軽く叩くとフリードリヒになぜか頭を撫でられた。よくできましたってことかな?
「…ハーミット先生」
「うん? どうした?」
今まで黙っていたアルシュから声がすると、僕はフリードリヒの背中からぴょこりと姿を出す。もちろんリーシャとは逆の位置から。だってまたアイアンクローされそうなんだもん。
「痛みが…なくなりました」
「あー…そうか…」
「どれ、見せてみなさい」
あ。アルシュの言葉でおじいちゃん先生が正気に戻った! アルシュありがとう!
僕の位置からだとやっぱり見えないんだけど、おじいちゃん先生とハーミット先生がどこか信じられないようなものを見ている。
つまり?
「『治癒の力』ですか」
「『治癒の力』?」
ぼそりと呟いたノアに聞き返すと「はい」とにこりと笑っている。あ、教えてくれるのかな?
「『治癒の力』はその名の通り怪我を治す力です。これは大丈夫ですね?」
「うん。大丈夫」
「この『治癒の力』自体、とても珍しいものなのです」
「ふんふん」
ノアの講習はかみ砕いて教えてくれるからとっても分かりやすくて助かるー。ソルゾ先生も分りやすいけど、ノアの場合は本当に子供に教えるようにしてくれるから知識が全くない僕は大変助かる。
「ですからその力を持つものが現れたらすぐに王宮に知らせることになっています」
「光の浄化魔法と同じってことでいいの?」
「はい。ですが『治癒師』と呼ばれる『治癒の力』を持つものはウィンシュタン国を入れた他の国を入れても10人程度しかいません」
「うん?」
今、なんて言った?
「世界で10人程度?」
「はい。世界で、10人程度、です」
「はわわわわわ」
ノアのその言葉でようやくとんでもないことをしでかしたと理解した。そりゃリーシャもアイアンクローするよ!
「これは素晴らしい…怪我などどこにもありませんね」
「剣も…握れますか?」
「問題ないですよ。それどころか剣だこも綺麗さっぱりなくなっちゃったから、しばらくの間は少し痛むと思うがね」
ノアの講習が終わったのを見計らってなのかおじいちゃん先生とアルシュの会話が聞こえる。
剣も握れる…ってことはあのままだったらアルシュは剣を握れなくなってたってこと? それほど酷い怪我だったの? そして怪我をさせてしまったのは…。
「アルシュ…!」
「レイジス様」
「ごめん…ごめんなさい…!」
偶然『治癒の力』が発動して怪我が治ったのは運がよかった。でもこの『治癒の力』が発動していなかったら?
「僕…僕のわがままでアルシュを…」
泣きそうになるけど、泣きたいのはアルシュの方だよね。僕が泣くのはお門違い。
でも。
「レイジス様」
きゅうと唇を噛むとぴしゃりと少し強い声色で名前を呼ばれてびくりと肩を震わせる。そしてアルシュがおじいちゃん先生に断りを入れて立ち上がる。そして僕の方へと歩いてくるとフリードリヒに向かって頷く。それに頷き返すフリードリヒ。すると隠れていた背後からずいっとアルシュの前に引っ張りだされた。
目の前にいるアルシュをじっと見つめれば、ふ、と頬と瞳が柔らかくなる。
「私はレイジス様のお力になれたのが嬉しかったのですよ」
「え?」
「覚えておいででないかもしれませんが、私もレイジス様のお力になると誓いましたから」
そう言って僕を見つめてくる瞳は優しくて。それに甘えそうになるけどでもやっぱり僕のせいで。
ぎゅうとズボンを両手で握り唇を噛んで泣きたいのを我慢する。
すると、ぽん、と頭に手を乗せられたことに驚き振り返ればそこにはアルシュと同じ優しさを湛えたパンジー色が僕を見ていて。
「なら、次は怪我をさせないようにしないとな」
「そうですね。その為に魔法の勉強を頑張りましょう?」
「うん…する…! もう怪我なんかさせないように勉強頑張る!」
うえええとアルシュに抱き付いて泣きつけば、ぽんぽんと頭を撫でてくれる優しい大きな手。
そうだ。いつだったかソルゾ先生が言ってたじゃないか。
「光魔法と闇魔法は扱いが非常に難しい魔法です。ですから訓練が必要なのですよ。レイジス様」
なんで今の今まで忘れてたんだろう。
氷魔法も扱いが難しい二種混合魔法なんだよ。安定してできてるからって完全に調子乗ってた…。その結果がこれ。
ひとしきりアルシュに抱き付いて泣いた後、ぐっしょりと僕の涙で濡れた制服に「ごめん!」と謝ればリーシャが浄化魔法を使ってそれを綺麗にしてくれた。
あ、僕もそれ使いたい!
「リー…」
「この魔法は明日以降教えます。今日はもう使わないでくださいね」
「…はい」
リーシャに先手を打たれて「教えて!」とは言えなくなった僕はがっくりと肩を落としながらも頷けば、ぽんとフリードリヒに肩を叩かれた。
「教えてくれない訳じゃなさそうだから安心しろ」
「これはリーシャが教えるつもりですね」
アルシュとフリードリヒにそう言われてリーシャを見れば「べ、別にそう言った意味じゃ…!」とあたふたとしている。それにノアが笑い、ソルゾ先生とハーミット先生が見守ってくれてる。おじいちゃん先生もにこにこと笑ってる。
ほんわかとした空気になった時「う、ううぅ…」とうめき声が聞こえてきて思わずアルシュに抱き付けば、なぜかフリードリヒががっかりしている。なんで?
リーシャも笑みを消し、ノアが僕を守るように動いてソルゾ先生も駆け寄ってきてくれた。それにおじいちゃん先生が「まさか…!」と慌てて椅子から立ち上がって声がした方へと走っていく。それを邪魔しないように道を作るとおじいちゃん先生が扉の先へと消えていった。
あ。もしかして寝てた人がいた?!
アイアンクロー受けた時すっごい叫んじゃったから起こしちゃった?!
それに気付いてあばばばとアルシュの制服を掴んでいると「大丈夫ですよ」と頭の上から声が降ってきた。
「恐らく治癒の光で蛇に噛まれた方の怪我も治ったのでしょう」
「え?」
「ああ。だとしたら腕を怪我したそいつの怪我も治ってるな」
ノアとハーミット先生の言葉にきょとんとしているとリーシャがはぁぁと大きな溜息を吐く。
「魔法の暴走ですよ。初めて使ったり偶然できたりすると暴走しやすいんです」
「そういえば光の浄化魔法の時も、氷魔法ができた時もなんかすごかったね」
「それが暴走です。レイジス様の場合はほとんどが無害ですけどね」
「風魔法でマヨネーズを爆発させたのも暴走の一種ですよ」
「まだそれ言うの!?」
どうやら浴室でのマヨネーズ爆発事件は忘れてくれそうになさそうだ。ううう…これから魔法が暴走するたびに言われるんだなろうなぁ…。
そんなこんなでおじいちゃん先生がほっと息を吐きながら戻ってくると僕を見てなぜか涙ぐんだ。
おおう…どうしたの?
「『聖女』様のおかげでハフターも一命をとりとめました。本当になんとお礼を言ってよいやら…」
「あ? え?」
ちょっと待って。『聖女』ってなに?!
僕、ちゃんと付いてるよ?!
「じいさん。感動するのはいいけどレイジスが混乱してるぞ」
「おお、おお。すまんな。今日を越えられたとしても次が越せるか分らなかったハフターの心配がなくなったことが嬉しくてな…」
「えと…ハフターさんはもう大丈夫なんですか?」
「ええ、ええ。『聖女』様の治癒の力のおかげで傷は塞がっております。あとは体力を戻すだけです」
うん。僕『聖女』じゃないんだけど…。どうしたらいいの?
ちらりとノアを見れば、すすっと近くまで来てくれて耳打ちをしてくれた。
「『治癒の力』を持つ『治癒師』の方は大体そう呼ばれております」
「なるほどなるほど。『聖女』は僕だけじゃないんだね?」
「はい。ただ『治癒の力』を持つ方達は女性ばかりなので」
「んん?!」
と、いうことは…僕はおじいちゃん先生に『女の子』として認識されたわけだ?!
もう宿命だと決めたけどさ!
「そういえばレイジス様の瞳が元に戻ってますね」
「ん? あ、そう言えばアイアンクローされてからもやもやが消えてたな」
ノアにじっと近くで瞳を覗かれてちょっとドキッとしちゃった。ノアの瞳も綺麗だよね。
なんて思ってたら襟首を引っ張られてノアから引き剥がされて後ろから抱き締められる。あ、フリードリヒの匂いだ。
ぎゅうと取られないように肩を抱くフリードリヒがなぜかぐるぐるとノアに威嚇してる。なんでそんなことしてるの?!
「ノア。やはり距離が近いのではないか?!」
「まさか。殿下よりは離れておりますよ」
「当然だ! レイジスは私の婚約者なのだぞ?!」
そうしてなぜかきゃんきゃんと犬同士の喧嘩が始まってしまい、動けない僕と呆れるリーシャと困ったように笑うアルシュ。それに先生たちと「ほほほ」と笑っているおじいちゃん先生。
あ、おじいちゃん先生は孫同士がわちゃわちゃしてるなって感じなんだろうなー。ばあちゃんもよくこんな目をしてたから。
ほこほことしてると診療所のドアが激しく叩かれ騒がしくなって、おじいちゃん先生が「よっこらせ」と椅子から立ち上がった瞬間、なんだかとっても驚いた表情を浮かべた。
どしたの? 腰でもやっちゃった?なんて思ってたら「おお…おお…!」となぜか感動している。うん。どうしたの?
「長年の腰痛と膝の痛みが綺麗さっぱり消えておる…!」
「んん?!」
それってさっきの治癒の光のせい…なんてことはないよね? まっさかー。ないよね?
「これも『聖女』様のおかげですな」
「oh…」
僕のせいでした。
「身体も軽くなって十年くらい若返った気がしますな」とほほほと笑って足取り軽くドアに向かったおじいちゃん先生。
そしてドアが開いた瞬間、村の人たちがなだれ込んできたのだった。
あの後、おじいちゃん先生がなんとか村の人たちをなだめて僕たちは初めに来た家へと無事到着。
そこで待ってたハルに抱き付かれ泣かれて胸が痛んだ。ごめんよー。心配かけちゃったね。
よしよしとハルの頭を撫でながらこちらも泣きそうな表情で待っててくれた侍女さん達に「ありがとう」とお礼を告げれば、口元を手で押さえて泣いちゃったから、あわあわしちゃった。
でも空気を読まない僕のお腹が盛大に鳴ると、泣いてたハルがビックリして僕を見て、泣いてた侍女さん達もビックリして瞳が大きくなってた。
小言とかは後回しにしてフリードリヒが「まずは食事にしようか」という言葉ですぐに食事が準備された。
どうやら侍女さんがご飯を作って待っててくれたみたい。でも量が多い。どうしたの? 僕は嬉しいけど。
侍女さん2人で食事の準備してたら「あんたたちだけで大人数分作るのは大変だろ?」と村のおばちゃんたちが手伝ってくれたんだって。
というか侍女さん達が作る料理って僕と一緒に作るやつだから興味津々だったみたい。手伝いながらレシピを盗むおばちゃん達。うんうん。レシピは盗んでさらにおいしくなるように改良してなんぼだからね! どんどん盗んでね!
テーブルいっぱいに並べられた料理を「いただきます」をしてしれっとリーシャが光魔法を使って「よし」がでれば食べられる。
アルシュ、ノア、リーシャ。それにソルゾ先生とハーミット先生の「よし」が出て僕はすぐにスプーンを持って目の前にあったオムライスを頬張った。
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