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学園編
嵐の野外学習 前
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「野外学習?」
なにそれ?と首を傾げながらカップを持ち上げれば「そのままの意味ですよ」とソルゾ先生が笑う。
燃費の悪い僕は時々こうやって休憩を挟む。休憩時間は決まっていなくて、僕のお腹が鳴ったら休憩、お腹いっぱいになったら再開、という大変アバウトなもの。授業も僕の体調を最優先にしてくれるから、ちょっとしたことでも対処してくれる。ありがたや。
ビクビクと怯えられてた先生もだいぶ馴染んだのか、普通にお茶をしている。
「レイジス、ケーキを食べなさい」
「あ、はーい!」
フリードリヒに言われ、慌ててフォークを握る。おやつはシフォンケーキ。生クリームをたっぷりつけて、いただきまーす!
「んー…おいひぃ…」
むっむっと口を動かして食べていると、侍女さん達もほっこりしている。ん? 猫か何かいたのかな?
そういえば侍女さん達も、あまり怯えなくなってくれてた。突然話しかけたりすると怯えられるけど…。まぁこれは当たり前だから気にしない。でも必要以上に怯えられなくなったのは嬉しい。というかホントなんで怯えられてたのさ…。僕よ…。
「それで、野外学習はどこへ?」
野外、というくらいなのだから森とか川? あれ? でもジョセフィーヌが学園内から出られないって言ってたよね? あ、先生と一緒だからいいのかな?
「学園から少し行った川です」
「ああ…あそこか」
フリードリヒがこの辺りの地図を思い浮かべているのか「あそこなら安全だな」と納得している。ちなみにこの休憩は全員だから護衛三人組も一緒。ケーキとか燃料を補給するのは僕だけだけど、たまーにリーシャが付き合ってくれる。ショートケーキとかタルトとか。リーシャって甘いもの好きなのかな?
なーんて一人で思いながらうふふと笑っていると「そこまで楽しみにされますと頑張らねばなりませんね」とソルゾ先生が気合を入れる。あ、そっちじゃないんだけどまぁ、いっか! 僕も部屋から出られるし!
なんと言っても川だよ川!
お魚食べられないかなー? お肉が嫌いって訳じゃないんだけど、お魚が食べたくなる時だってあるじゃない? そりゃ生魚はあんまり期待してないけどさ…。食べられるなら食べたい!
ちなみに何に使うか分らない調味料の中にしっかりと醤油とか味噌があった。でもマヨネーズはなかった。なんでだ。
でもまぁ…西洋風ベースなゲームだから醤油とか味噌の使い方は分からんのも頷ける。
「当日はお弁当持って行きましょうねー」
「はーい!」
外でお弁当かー! なんかピクニックみたいで楽しそうだなー。でも授業の一環だから油断は禁物。うん、気を引き締めていこう。
そういえば高熱出してたから一時的に夢遊病が出たらしい。お医者さんに見てもらったらそう言われた。ううーん…こればっかりはどうしようもないけど行きついた先がフリードリヒのところで助かった…。
変なとこふらふらしてたら危ないもんな。うんうん。
「ところで魔法の制御は順調ですか?」
「なんとか」
「こないだ浴室で爆発させてましたもんね」
「リーシャ!」
そう。魔法の制御がうまくできなくて練習しながら今はマヨネーズを風魔法で作っているのだ。まさに一石二鳥。
最近はマヨネーズに粉チーズと胡椒、ニンニクとレモン汁を加えたシーザーサラダ風ドレッシングが僕の部屋で大ブーム中。おかげで野菜をものすごく消費して、学園から不思議そうにされてるらしい。よし。今度はサウザンドアイランドドレッシングを作ってさらに野菜を消費しよう。ふふふふ。
どっちもマヨネーズが必須だから毎日毎日腕を振って作るのはつらかったからねー…。主にアルシュが。何でもないような顔して結構辛かったみたい。ありがとう。僕たちの食事を支えてくれて…。
そこで本格的に魔法の勉強を始めた僕がそれを先生に相談してみたらリーシャが「なら風魔法でやったら?」とアドバイスをくれたのがきっかけだったりするけど、この間ちょっと考え事してたら瓶が弾けた。そして中身のマヨネーズも一緒に弾けた。当然浴室と僕はマヨネーズまみれ。一緒にいたリーシャも先生もマヨネーズまみれ。
パァン!ってものすごい音がしたからすぐにアルシュとノア、フリードリヒがなだれ込んできて、侍女さん達も駆けつけ浴室は人でいっぱいになった。
呆然としてる僕らを他所に換気に走る侍女さんやタオルで拭いてくれる侍女さんがいたけどマヨネーズってなかなか落ちないんだよね…。
ばたばたと動き回る音にハッと我に返ったリーシャが「やらかしたな!」と詰め寄り「いやー見事な爆発でしたねー」と笑うソルゾ先生。それに「怪我は?! 痛いところは?!」と慌てふためくフリードリヒとジョセフィーヌ。
あわあわとしている人たちを他所に、僕は何を思ったのかへらりと笑い「あは。ぬるぬるする」と告げた所でフリードリヒがなぜか撃沈。慌ててアルシュが浴室から引っ張り出すというカオスを見たあと、ジョセフィーヌからは「そういうことはフリードリヒ殿下の御前では言ってはなりません」と叱られた。なんで。
その後は全員先生の水魔法でマヨネーズを綺麗に落とし、リーシャの火魔法で乾かす。僕はフリードリヒの部屋のお風呂を借りてさっぱり。
僕がお風呂に入っている間に、先生とリーシャはどうやら僕の部屋の浴室を綺麗にしてくれたらしい。ありがたい。そしてごめんなさい。
ガラスも綺麗に拭き取られ匂いもなくなったころ、そこをリーシャと先生に使ってもらうことになったのはいいけど風呂上がりの僕を見て再度フリードリヒが撃沈。失礼な!
「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫ですよ。若気の至りというやつですから」
とどこか遠い目をしながら告げるアルシュが実に印象的だった。
そんなマヨネーズ爆発事件を語りつつ、あっという間に野外学習の日になった。とはいっても3日位しか経ってないけどね。僕の体調を見つつ、だから場合によっては延びたりしたらしい。僕の体調が安定しててよかった。また熱が出たらどうしようかと思ってた。さらにあれから夢遊病は出ていない。うんうん、健康って素晴らしいね!
どうやら学園の近くに穏やかな流れの川があってそこでよく野外学習という名のピクニックをするらしい。けど貴族の坊ちゃん嬢ちゃん達には不評らしい。えー、天気がいい日にぼーっとするの気持ちよくない?
約一ヶ月ぶりの制服を着て20分ほど歩きやってきました川! めっちゃ綺麗! あれだ、清流ってやつだ。元の世界でもあんまりお目にかかれないほどの清流。けどここまで綺麗だと魚は期待できない。ちょっとくらい汚い方がプランクトンが多くて魚も多いんだけどね。魚は期待しないでおこう。
「どうした? 疲れたか?」
「ん? 大丈夫ですよ」
魚が期待できないから落ち込んでました、なんて言えるはずもなく誤魔化すように笑えばフリードリヒの眉が寄った。大丈夫だよー、ご飯もりもり食べてるからねー。
けど…なんか…? 何で近付いてくるの?!
するとこつりと額を合わせられた。おん?
しばらくそのままでいると「熱は無いようだな」と言って頭を撫でられた。はへ? 今何が起きた? ぽかんと間抜け面でフリードリヒを見れば「そんな可愛い顔するな」と笑われる。もう、何が何だか分からない。
周りをちらりと見てみると、アルシュとリーシャは呆れた様子で見ていて、ノアとソルゾ先生はにこにこと笑っている。うん、なんか…。もういいや。疲れる。せっかく部屋から出れたのに。
そいえばここに来るまでの間、学園の生徒とは誰もすれ違わなかったな。授業中だからかな? まぁ別にいっか。どうせ会っても怯えられるんだし。そういや過去に関しては一切記憶がないんだよなー。前世の情報もあることはあるけど役に立たなくなってきてるし。
自分の事もそうだ。転生しただけの情報しかない。
そもそも僕は誰なんだ?
「レイジス?」
フリードリヒが呼ぶ声にはっとすれば、護衛三人組とソルゾ先生が心配そうに僕を見つめていた。あー…。
「ちょっとぼーっとしてただけ、です」
「…何かあればすぐに言ってくださいね?」
「はい。すみません」
「いえいえ」
にっこりと笑うソルゾ先生に謝り「大丈夫ですよ」とフリードリヒに言えば「そうか」と一応納得してもらう。考えるのは一人になってからにしないと。心配かけちゃう。それより今は川を楽しもう!
のんびりと川沿いを歩いていると、子供の騒ぐ姿が見えてきた。お? 元気だなー。でも一人だと危ないぞー。なんてニコニコしていると、すっと僕の前にノアが割り込んだ。なんで?と見上げれば既にアルシュとリーシャが走り出していて。ソルゾ先生は僕たちがこれ以上進まない様に腕を伸ばし険しい表情で川を…いや何かを見つめている。
「アンギーユ…」
「アンギーユ?」
「殿下とレイジス様は下がっていてくださいね」
「レイジス。私の後ろへ」
「え? え?」
なにがなんだか分からないうちにフリードリヒに抱き締められると、ソルゾ先生が何かの魔法を発動させた。
川では水しぶきと子供の泣き声、それから叫び声。魔法の音と何かが切れる音が聞こえてくる。初めてのことにぎゅうとフリードリヒの制服を握り身体を小さくしていると「大丈夫だから」と優しく耳元で囁いてくれる。時折安心させるように耳にキスを落とされながら音が聞こえなくなるまで僕はただ震えていた。
どうやら戦闘?が終わり、あやされながら固まっていた僕に「大丈夫?」とソルゾ先生が声をかけてくれた。それにこくりと頷くとゆっくりとフリードリヒに抱きかかえられたまま立ち上がる。いつの間にか蹲っていたらしい。恥ずかしい。
すぐにソルゾ先生が川へ走っていき、ぎゃん泣きしてる子供に怪我がないか聞きにいったようだ。
リーシャとアルシュも怪我はないか心配になっていると「行ってみますか?」とノアが聞いてくれた。それにこくりと頷くと、フリードリヒに肩を抱かれながら近付いていく。
ノアの後を付いていくと、視界に入ったのは黒い塊。そしてなんか長いし。近付くにつれ鉄の匂いが鼻孔を刺すがこれくらいなら問題はない。
「本当に大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
ぎゅっと肩を抱く手に力がこもるということはあまり見せたくはないんだろうな…。でもさ、なんか気になる。ソルゾ先生が呟いた『アンギーユ』。これってもしかしてもしかする? ドキドキとしながら近付くと子供が泣いていた。襲われて怖かったよなー。僕は…安全な所にいてあれだからもっと怖かっただろうな…。
「なぜアンギーユの子供を取ったりした?」
「だって…だってぇー!」
ソルゾ先生が優しくそれでも厳しい声で子供に問うている。子供は先生に任せて…僕はちょっとアンギーユさんが気になるんですよ。
「ちょっと! なんでレイジス様を連れてきてるの?!」
「いやー、なんだかご興味がありそうだったので」
「ばれている…だと?! じゃなくて怪我とかしてないかなって…」
「…レイジス様らしいというかなんというか」
それぞれの反応を貰いながら倒されたアンギーユを見ればなんだかぬめぬめしている。3mくらいあるけど。
でもさ、よくよく見たらこれ、やっぱあれじゃない?
土用の丑にスーパーや魚屋さんで大売出ししてるアレ。香ばしいたれの匂いが食欲をそそるアレ。
「おいしそう…」
「は?!」
「これ、鰻だよね?! 蒲焼き食べたいー」
じゅるりと涎が出そうになるのはお腹が減ったからだろう。あ、もう燃料切れたー!
すると混乱したリーシャが声を荒げる。
「ちょ、食べるって…これを?!」
「え?! 寧ろ食べないの?! なんで?!」
「なんでって…これ魔物なんだよ?!」
「いいじゃん! 魔物だろうとおいしければいいんだよ!」
リーシャとぎゃんぎゃん言い合っていると「お姉ちゃんもこれ、食べれること知ってるの?」と小さな声が聞こえた。なんだ?と視線を向ければ、襲われていた子供だった。歳は10歳くらい?その子が僕をじっと見つめている。
それに「あ、やっぱり食べられるんだ!」と顔をほころばせると、リーシャがとてつもなく嫌そうな顔をした。この世界では未知の食べ物なのか食わず嫌いなのか…。ふむ。
「フリードリヒ殿下、ちょっとお話してもよろしいですか?」
「…いいだろう」
「ちょっと殿下! 甘すぎですって!」
むきゃーと怒るリーシャを無視して、アルシュとノアが付いて来てくれるらしい。あ、リーシャも来た。一人は寂しいもんな。うんうん。
子供の側までくると膝をつき子供の視線よりも下になるとにこりと笑いかける。
「アンギーユの子供を取っていたら親が出てきて襲われたそうです」
ソルゾ先生の簡潔な説明に、ずずっと鼻をすする子供。ハンカチを出して涙をふくと、ぽかんとしてる。可愛いなー。それから「どうして取ったの?」と聞けば「だって」と震える声で言葉を紡ぎ出した。
「父ちゃんが病気で倒れて…アンギーユを食べれば元気になれると思ったから…」
「なるほど」
こちらの世界でも鰻は元気になれるようだ。親思いのいい子だけど危険なことはしちゃダメだぞ。でも震えて動けない僕なんかよりもずっとこの子は勇敢だな。よし。
「じゃあ、これを半分くらい持っていく?」
「え?」
「ちょっと! レイジス様!」
リーシャが噛み付いてくるけどフリードリヒがそれを止めた。ありがとー!
「これ、焼いて食べるとおいしいんだよね」
「うん、だから父ちゃんも好きなんだ」
「料理はできるの?」
「…あんまり」
まぁそうか。僕も料理は殆どできない。全部侍女さん任せだからねー。でも蒲焼き食べたい。
ならば!
「アルシュ。これ、解体できないかな?」
「はい?」
「こう…お腹からずばーっと一直線に尻尾まで切れない?」
「は、はぁ…」
「あ、でも頭を固定しないと難しいか…。釘があればいいんだけどそんなものはないから…」
ぶつぶつ言い始めた僕をアルシュとリーシャとソルゾ先生がドン引きしながら、フリードリヒとノアはうんうんと頷きながら見つめている事に気付かなかった。
子供はきらきらとした瞳で僕を見つめてくるのが可愛い。よし。
「なら、水魔法でずばー!っと、いやそれだと鰻が吹っ飛ぶか…」
どうにかして解体できないかと悩んでいるとソルゾ先生から「ならちょっとした魔物マニアでも呼びましょうか」と提案を貰った。ま…魔物マニア…。そんな人いるんだ…。
でも僕だけじゃどうにもならないのは確か。
ちょっとだけ悩んで「お願いしてもいいですか? それと侍女さん達を呼んで…」と話を進める。何か言いたげなリーシャだったけど何か食べられると分ったのかちょっとだけそわそわとし始めた。
学園から魔物マニアことハーミット先生が駆けつけ、僕を見るなりびくっと怯えたけど意識は既にアンギーユへと移っていた。侍女さん達も駆けつけてくれて今はちょっとした野営準備に入っている為、すでに授業どころではなくほとんどバーべキュー状態。だがそれがいい。
「ほうほう。これを解体したい、と」
「はい。頭に杭を打って固定して刃物でずばーっとやりたいんですけど…」
「ほう…? 初めて聞く解体の仕方だ」
「ん?! でも先生魔物マニアって…」
「ああ、魔物は好きだがこれは大体魔物の餌になるからな」
「ええー! 勿体ないー!」
「いらないならくれればいいのに!」
ぶーぶーと文句を言う僕とハル。うむ。もっと言おうぞ!
「あのな…。そもそもこれを食べる発想なんかしないんだぞ?」
「美味しいのにー!」
「のにー!」
「…レイジス様は貴族ですよね?」
「そうだな」
ハーミット先生の問いにフリードリヒが頷く。
なにそれ!
食に貴族も平民も関係ないじゃんか! うまいものを食べるのに階級に何の意味があるのさ! 食を前にすれば誰でも平等だ!
そう思っていたら、なんか声に出てたらしい。ぱちぱちと侍女さんとフリードリヒ、それにハルから拍手を貰うと途端に羞恥で蹲る。
ううう…僕のばかー!
「まあまあ。レイジス様が食べたがるものをぜひ我々も食べてみようではありませんか」
ソルゾ先生がぽん、と僕の肩を叩いて慰めてくれる。でも先生。要は食べたいだけだよね?
いや、別にいいんだけどさ。
そんな僕らを見ていたハーミット先生が「それもそうか」と納得した。いいんだ?!
「まぁそれに、ここに魔導士が三人いるならできそうだしな」
「あ、僕無理です」
「は?」
「えっと…制御がまだうまくできなくて…」
もにょもにょと人差し指同士を合わせて言えば「可愛いな」とフリードリヒに言われた。恥ずかしい!
けれどもすぐにアルシュに膝かっくんされてた。ええー。
そんな僕を援護するようにソルゾ先生が真剣な表情でハーミット先生を見る。
「下手すると大惨事になります」
「………………」
「実際この間、浴室で爆発起こしました」
「…わかった。二人で頑張ろう」
リーシャとソルゾ先生の言葉に顔色を変えたハーミット先生が僕を戦力外とみなすと、さっそく僕の指示の元アンギーユの解体が始まった。
■■■
「なんだ…これ?」
メールを確認しているとプログラムしていない内容を書かれたものが大量に届いた。
曰く「レイジスが可愛かった」という内容が大半だ。
悪役としてプログラムしたレイジスが可愛い? どういうことだ? いや、可愛くしたのだけれども。
バグ報告を受け、前回は約半年前に修正パッチを配布。それに新たなバグが見つかり配布したのが3日前。さらに1日前にもパッチを配布したはずだ。それなのになんだこれは。
そのメールを読んだ他の社員たちも眉をひそめている。
「なんですか…これ…」
「どういうことだ…?」
ざわざわとざわめきが大きくなり全員が顔を見合わせる。
「なぜレイジスの過去がゲームになっているんだ?!」
ただのBLゲー、しかも悪役だったはずのレイジスだが人気もそこそこあり、彼を攻略したいという要望もちらほら見受けられた。しかも裏ルートでは非常に重要な役割を持つ。
そう『プログラム』されただけのキャラだったはずだ。
訳の分からない感想に全員が眉をひそめているとぴろんとメールを受信した音が鳴った。恐る恐るそれを開いて俺は目を見開いた。
『レイジスの過去話、面白かったです! あとスチルがえっちですっごいかわいかったです!』
悪役で絡みなどないレイジスのスチル?! どういうことだ?!
スチル担当のイラストレーターの方を見れば、顔を真っ青にして震えながら首を左右に振っていた。
何だ?! 一体何が起きている?!
次々にメールを受信しそれを片っ端から開いていけば内容は全て「レイジスの過去」関係だった。
なにがなんだか分からず全員が奇妙な目で『君に幸あれ! -セントアリュウス学園-』のプログラムを開くと、またしてもメールを受信した。
今度はなんだとメールを開けば、またしても言葉を失った。
『この世界。買い取らせていただきたい』
なにそれ?と首を傾げながらカップを持ち上げれば「そのままの意味ですよ」とソルゾ先生が笑う。
燃費の悪い僕は時々こうやって休憩を挟む。休憩時間は決まっていなくて、僕のお腹が鳴ったら休憩、お腹いっぱいになったら再開、という大変アバウトなもの。授業も僕の体調を最優先にしてくれるから、ちょっとしたことでも対処してくれる。ありがたや。
ビクビクと怯えられてた先生もだいぶ馴染んだのか、普通にお茶をしている。
「レイジス、ケーキを食べなさい」
「あ、はーい!」
フリードリヒに言われ、慌ててフォークを握る。おやつはシフォンケーキ。生クリームをたっぷりつけて、いただきまーす!
「んー…おいひぃ…」
むっむっと口を動かして食べていると、侍女さん達もほっこりしている。ん? 猫か何かいたのかな?
そういえば侍女さん達も、あまり怯えなくなってくれてた。突然話しかけたりすると怯えられるけど…。まぁこれは当たり前だから気にしない。でも必要以上に怯えられなくなったのは嬉しい。というかホントなんで怯えられてたのさ…。僕よ…。
「それで、野外学習はどこへ?」
野外、というくらいなのだから森とか川? あれ? でもジョセフィーヌが学園内から出られないって言ってたよね? あ、先生と一緒だからいいのかな?
「学園から少し行った川です」
「ああ…あそこか」
フリードリヒがこの辺りの地図を思い浮かべているのか「あそこなら安全だな」と納得している。ちなみにこの休憩は全員だから護衛三人組も一緒。ケーキとか燃料を補給するのは僕だけだけど、たまーにリーシャが付き合ってくれる。ショートケーキとかタルトとか。リーシャって甘いもの好きなのかな?
なーんて一人で思いながらうふふと笑っていると「そこまで楽しみにされますと頑張らねばなりませんね」とソルゾ先生が気合を入れる。あ、そっちじゃないんだけどまぁ、いっか! 僕も部屋から出られるし!
なんと言っても川だよ川!
お魚食べられないかなー? お肉が嫌いって訳じゃないんだけど、お魚が食べたくなる時だってあるじゃない? そりゃ生魚はあんまり期待してないけどさ…。食べられるなら食べたい!
ちなみに何に使うか分らない調味料の中にしっかりと醤油とか味噌があった。でもマヨネーズはなかった。なんでだ。
でもまぁ…西洋風ベースなゲームだから醤油とか味噌の使い方は分からんのも頷ける。
「当日はお弁当持って行きましょうねー」
「はーい!」
外でお弁当かー! なんかピクニックみたいで楽しそうだなー。でも授業の一環だから油断は禁物。うん、気を引き締めていこう。
そういえば高熱出してたから一時的に夢遊病が出たらしい。お医者さんに見てもらったらそう言われた。ううーん…こればっかりはどうしようもないけど行きついた先がフリードリヒのところで助かった…。
変なとこふらふらしてたら危ないもんな。うんうん。
「ところで魔法の制御は順調ですか?」
「なんとか」
「こないだ浴室で爆発させてましたもんね」
「リーシャ!」
そう。魔法の制御がうまくできなくて練習しながら今はマヨネーズを風魔法で作っているのだ。まさに一石二鳥。
最近はマヨネーズに粉チーズと胡椒、ニンニクとレモン汁を加えたシーザーサラダ風ドレッシングが僕の部屋で大ブーム中。おかげで野菜をものすごく消費して、学園から不思議そうにされてるらしい。よし。今度はサウザンドアイランドドレッシングを作ってさらに野菜を消費しよう。ふふふふ。
どっちもマヨネーズが必須だから毎日毎日腕を振って作るのはつらかったからねー…。主にアルシュが。何でもないような顔して結構辛かったみたい。ありがとう。僕たちの食事を支えてくれて…。
そこで本格的に魔法の勉強を始めた僕がそれを先生に相談してみたらリーシャが「なら風魔法でやったら?」とアドバイスをくれたのがきっかけだったりするけど、この間ちょっと考え事してたら瓶が弾けた。そして中身のマヨネーズも一緒に弾けた。当然浴室と僕はマヨネーズまみれ。一緒にいたリーシャも先生もマヨネーズまみれ。
パァン!ってものすごい音がしたからすぐにアルシュとノア、フリードリヒがなだれ込んできて、侍女さん達も駆けつけ浴室は人でいっぱいになった。
呆然としてる僕らを他所に換気に走る侍女さんやタオルで拭いてくれる侍女さんがいたけどマヨネーズってなかなか落ちないんだよね…。
ばたばたと動き回る音にハッと我に返ったリーシャが「やらかしたな!」と詰め寄り「いやー見事な爆発でしたねー」と笑うソルゾ先生。それに「怪我は?! 痛いところは?!」と慌てふためくフリードリヒとジョセフィーヌ。
あわあわとしている人たちを他所に、僕は何を思ったのかへらりと笑い「あは。ぬるぬるする」と告げた所でフリードリヒがなぜか撃沈。慌ててアルシュが浴室から引っ張り出すというカオスを見たあと、ジョセフィーヌからは「そういうことはフリードリヒ殿下の御前では言ってはなりません」と叱られた。なんで。
その後は全員先生の水魔法でマヨネーズを綺麗に落とし、リーシャの火魔法で乾かす。僕はフリードリヒの部屋のお風呂を借りてさっぱり。
僕がお風呂に入っている間に、先生とリーシャはどうやら僕の部屋の浴室を綺麗にしてくれたらしい。ありがたい。そしてごめんなさい。
ガラスも綺麗に拭き取られ匂いもなくなったころ、そこをリーシャと先生に使ってもらうことになったのはいいけど風呂上がりの僕を見て再度フリードリヒが撃沈。失礼な!
「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫ですよ。若気の至りというやつですから」
とどこか遠い目をしながら告げるアルシュが実に印象的だった。
そんなマヨネーズ爆発事件を語りつつ、あっという間に野外学習の日になった。とはいっても3日位しか経ってないけどね。僕の体調を見つつ、だから場合によっては延びたりしたらしい。僕の体調が安定しててよかった。また熱が出たらどうしようかと思ってた。さらにあれから夢遊病は出ていない。うんうん、健康って素晴らしいね!
どうやら学園の近くに穏やかな流れの川があってそこでよく野外学習という名のピクニックをするらしい。けど貴族の坊ちゃん嬢ちゃん達には不評らしい。えー、天気がいい日にぼーっとするの気持ちよくない?
約一ヶ月ぶりの制服を着て20分ほど歩きやってきました川! めっちゃ綺麗! あれだ、清流ってやつだ。元の世界でもあんまりお目にかかれないほどの清流。けどここまで綺麗だと魚は期待できない。ちょっとくらい汚い方がプランクトンが多くて魚も多いんだけどね。魚は期待しないでおこう。
「どうした? 疲れたか?」
「ん? 大丈夫ですよ」
魚が期待できないから落ち込んでました、なんて言えるはずもなく誤魔化すように笑えばフリードリヒの眉が寄った。大丈夫だよー、ご飯もりもり食べてるからねー。
けど…なんか…? 何で近付いてくるの?!
するとこつりと額を合わせられた。おん?
しばらくそのままでいると「熱は無いようだな」と言って頭を撫でられた。はへ? 今何が起きた? ぽかんと間抜け面でフリードリヒを見れば「そんな可愛い顔するな」と笑われる。もう、何が何だか分からない。
周りをちらりと見てみると、アルシュとリーシャは呆れた様子で見ていて、ノアとソルゾ先生はにこにこと笑っている。うん、なんか…。もういいや。疲れる。せっかく部屋から出れたのに。
そいえばここに来るまでの間、学園の生徒とは誰もすれ違わなかったな。授業中だからかな? まぁ別にいっか。どうせ会っても怯えられるんだし。そういや過去に関しては一切記憶がないんだよなー。前世の情報もあることはあるけど役に立たなくなってきてるし。
自分の事もそうだ。転生しただけの情報しかない。
そもそも僕は誰なんだ?
「レイジス?」
フリードリヒが呼ぶ声にはっとすれば、護衛三人組とソルゾ先生が心配そうに僕を見つめていた。あー…。
「ちょっとぼーっとしてただけ、です」
「…何かあればすぐに言ってくださいね?」
「はい。すみません」
「いえいえ」
にっこりと笑うソルゾ先生に謝り「大丈夫ですよ」とフリードリヒに言えば「そうか」と一応納得してもらう。考えるのは一人になってからにしないと。心配かけちゃう。それより今は川を楽しもう!
のんびりと川沿いを歩いていると、子供の騒ぐ姿が見えてきた。お? 元気だなー。でも一人だと危ないぞー。なんてニコニコしていると、すっと僕の前にノアが割り込んだ。なんで?と見上げれば既にアルシュとリーシャが走り出していて。ソルゾ先生は僕たちがこれ以上進まない様に腕を伸ばし険しい表情で川を…いや何かを見つめている。
「アンギーユ…」
「アンギーユ?」
「殿下とレイジス様は下がっていてくださいね」
「レイジス。私の後ろへ」
「え? え?」
なにがなんだか分からないうちにフリードリヒに抱き締められると、ソルゾ先生が何かの魔法を発動させた。
川では水しぶきと子供の泣き声、それから叫び声。魔法の音と何かが切れる音が聞こえてくる。初めてのことにぎゅうとフリードリヒの制服を握り身体を小さくしていると「大丈夫だから」と優しく耳元で囁いてくれる。時折安心させるように耳にキスを落とされながら音が聞こえなくなるまで僕はただ震えていた。
どうやら戦闘?が終わり、あやされながら固まっていた僕に「大丈夫?」とソルゾ先生が声をかけてくれた。それにこくりと頷くとゆっくりとフリードリヒに抱きかかえられたまま立ち上がる。いつの間にか蹲っていたらしい。恥ずかしい。
すぐにソルゾ先生が川へ走っていき、ぎゃん泣きしてる子供に怪我がないか聞きにいったようだ。
リーシャとアルシュも怪我はないか心配になっていると「行ってみますか?」とノアが聞いてくれた。それにこくりと頷くと、フリードリヒに肩を抱かれながら近付いていく。
ノアの後を付いていくと、視界に入ったのは黒い塊。そしてなんか長いし。近付くにつれ鉄の匂いが鼻孔を刺すがこれくらいなら問題はない。
「本当に大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
ぎゅっと肩を抱く手に力がこもるということはあまり見せたくはないんだろうな…。でもさ、なんか気になる。ソルゾ先生が呟いた『アンギーユ』。これってもしかしてもしかする? ドキドキとしながら近付くと子供が泣いていた。襲われて怖かったよなー。僕は…安全な所にいてあれだからもっと怖かっただろうな…。
「なぜアンギーユの子供を取ったりした?」
「だって…だってぇー!」
ソルゾ先生が優しくそれでも厳しい声で子供に問うている。子供は先生に任せて…僕はちょっとアンギーユさんが気になるんですよ。
「ちょっと! なんでレイジス様を連れてきてるの?!」
「いやー、なんだかご興味がありそうだったので」
「ばれている…だと?! じゃなくて怪我とかしてないかなって…」
「…レイジス様らしいというかなんというか」
それぞれの反応を貰いながら倒されたアンギーユを見ればなんだかぬめぬめしている。3mくらいあるけど。
でもさ、よくよく見たらこれ、やっぱあれじゃない?
土用の丑にスーパーや魚屋さんで大売出ししてるアレ。香ばしいたれの匂いが食欲をそそるアレ。
「おいしそう…」
「は?!」
「これ、鰻だよね?! 蒲焼き食べたいー」
じゅるりと涎が出そうになるのはお腹が減ったからだろう。あ、もう燃料切れたー!
すると混乱したリーシャが声を荒げる。
「ちょ、食べるって…これを?!」
「え?! 寧ろ食べないの?! なんで?!」
「なんでって…これ魔物なんだよ?!」
「いいじゃん! 魔物だろうとおいしければいいんだよ!」
リーシャとぎゃんぎゃん言い合っていると「お姉ちゃんもこれ、食べれること知ってるの?」と小さな声が聞こえた。なんだ?と視線を向ければ、襲われていた子供だった。歳は10歳くらい?その子が僕をじっと見つめている。
それに「あ、やっぱり食べられるんだ!」と顔をほころばせると、リーシャがとてつもなく嫌そうな顔をした。この世界では未知の食べ物なのか食わず嫌いなのか…。ふむ。
「フリードリヒ殿下、ちょっとお話してもよろしいですか?」
「…いいだろう」
「ちょっと殿下! 甘すぎですって!」
むきゃーと怒るリーシャを無視して、アルシュとノアが付いて来てくれるらしい。あ、リーシャも来た。一人は寂しいもんな。うんうん。
子供の側までくると膝をつき子供の視線よりも下になるとにこりと笑いかける。
「アンギーユの子供を取っていたら親が出てきて襲われたそうです」
ソルゾ先生の簡潔な説明に、ずずっと鼻をすする子供。ハンカチを出して涙をふくと、ぽかんとしてる。可愛いなー。それから「どうして取ったの?」と聞けば「だって」と震える声で言葉を紡ぎ出した。
「父ちゃんが病気で倒れて…アンギーユを食べれば元気になれると思ったから…」
「なるほど」
こちらの世界でも鰻は元気になれるようだ。親思いのいい子だけど危険なことはしちゃダメだぞ。でも震えて動けない僕なんかよりもずっとこの子は勇敢だな。よし。
「じゃあ、これを半分くらい持っていく?」
「え?」
「ちょっと! レイジス様!」
リーシャが噛み付いてくるけどフリードリヒがそれを止めた。ありがとー!
「これ、焼いて食べるとおいしいんだよね」
「うん、だから父ちゃんも好きなんだ」
「料理はできるの?」
「…あんまり」
まぁそうか。僕も料理は殆どできない。全部侍女さん任せだからねー。でも蒲焼き食べたい。
ならば!
「アルシュ。これ、解体できないかな?」
「はい?」
「こう…お腹からずばーっと一直線に尻尾まで切れない?」
「は、はぁ…」
「あ、でも頭を固定しないと難しいか…。釘があればいいんだけどそんなものはないから…」
ぶつぶつ言い始めた僕をアルシュとリーシャとソルゾ先生がドン引きしながら、フリードリヒとノアはうんうんと頷きながら見つめている事に気付かなかった。
子供はきらきらとした瞳で僕を見つめてくるのが可愛い。よし。
「なら、水魔法でずばー!っと、いやそれだと鰻が吹っ飛ぶか…」
どうにかして解体できないかと悩んでいるとソルゾ先生から「ならちょっとした魔物マニアでも呼びましょうか」と提案を貰った。ま…魔物マニア…。そんな人いるんだ…。
でも僕だけじゃどうにもならないのは確か。
ちょっとだけ悩んで「お願いしてもいいですか? それと侍女さん達を呼んで…」と話を進める。何か言いたげなリーシャだったけど何か食べられると分ったのかちょっとだけそわそわとし始めた。
学園から魔物マニアことハーミット先生が駆けつけ、僕を見るなりびくっと怯えたけど意識は既にアンギーユへと移っていた。侍女さん達も駆けつけてくれて今はちょっとした野営準備に入っている為、すでに授業どころではなくほとんどバーべキュー状態。だがそれがいい。
「ほうほう。これを解体したい、と」
「はい。頭に杭を打って固定して刃物でずばーっとやりたいんですけど…」
「ほう…? 初めて聞く解体の仕方だ」
「ん?! でも先生魔物マニアって…」
「ああ、魔物は好きだがこれは大体魔物の餌になるからな」
「ええー! 勿体ないー!」
「いらないならくれればいいのに!」
ぶーぶーと文句を言う僕とハル。うむ。もっと言おうぞ!
「あのな…。そもそもこれを食べる発想なんかしないんだぞ?」
「美味しいのにー!」
「のにー!」
「…レイジス様は貴族ですよね?」
「そうだな」
ハーミット先生の問いにフリードリヒが頷く。
なにそれ!
食に貴族も平民も関係ないじゃんか! うまいものを食べるのに階級に何の意味があるのさ! 食を前にすれば誰でも平等だ!
そう思っていたら、なんか声に出てたらしい。ぱちぱちと侍女さんとフリードリヒ、それにハルから拍手を貰うと途端に羞恥で蹲る。
ううう…僕のばかー!
「まあまあ。レイジス様が食べたがるものをぜひ我々も食べてみようではありませんか」
ソルゾ先生がぽん、と僕の肩を叩いて慰めてくれる。でも先生。要は食べたいだけだよね?
いや、別にいいんだけどさ。
そんな僕らを見ていたハーミット先生が「それもそうか」と納得した。いいんだ?!
「まぁそれに、ここに魔導士が三人いるならできそうだしな」
「あ、僕無理です」
「は?」
「えっと…制御がまだうまくできなくて…」
もにょもにょと人差し指同士を合わせて言えば「可愛いな」とフリードリヒに言われた。恥ずかしい!
けれどもすぐにアルシュに膝かっくんされてた。ええー。
そんな僕を援護するようにソルゾ先生が真剣な表情でハーミット先生を見る。
「下手すると大惨事になります」
「………………」
「実際この間、浴室で爆発起こしました」
「…わかった。二人で頑張ろう」
リーシャとソルゾ先生の言葉に顔色を変えたハーミット先生が僕を戦力外とみなすと、さっそく僕の指示の元アンギーユの解体が始まった。
■■■
「なんだ…これ?」
メールを確認しているとプログラムしていない内容を書かれたものが大量に届いた。
曰く「レイジスが可愛かった」という内容が大半だ。
悪役としてプログラムしたレイジスが可愛い? どういうことだ? いや、可愛くしたのだけれども。
バグ報告を受け、前回は約半年前に修正パッチを配布。それに新たなバグが見つかり配布したのが3日前。さらに1日前にもパッチを配布したはずだ。それなのになんだこれは。
そのメールを読んだ他の社員たちも眉をひそめている。
「なんですか…これ…」
「どういうことだ…?」
ざわざわとざわめきが大きくなり全員が顔を見合わせる。
「なぜレイジスの過去がゲームになっているんだ?!」
ただのBLゲー、しかも悪役だったはずのレイジスだが人気もそこそこあり、彼を攻略したいという要望もちらほら見受けられた。しかも裏ルートでは非常に重要な役割を持つ。
そう『プログラム』されただけのキャラだったはずだ。
訳の分からない感想に全員が眉をひそめているとぴろんとメールを受信した音が鳴った。恐る恐るそれを開いて俺は目を見開いた。
『レイジスの過去話、面白かったです! あとスチルがえっちですっごいかわいかったです!』
悪役で絡みなどないレイジスのスチル?! どういうことだ?!
スチル担当のイラストレーターの方を見れば、顔を真っ青にして震えながら首を左右に振っていた。
何だ?! 一体何が起きている?!
次々にメールを受信しそれを片っ端から開いていけば内容は全て「レイジスの過去」関係だった。
なにがなんだか分からず全員が奇妙な目で『君に幸あれ! -セントアリュウス学園-』のプログラムを開くと、またしてもメールを受信した。
今度はなんだとメールを開けば、またしても言葉を失った。
『この世界。買い取らせていただきたい』
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小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
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