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学園編
悪役令息、悪に目覚める
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※前半はレイジス、後半はアルシュ視点となります。
あれから一週間。僕は体調を戻す為に食っちゃ寝のニート生活。それでも食べればすぐ眠くなり、スープを食べながら寝るなんてざらだった。その度に侍女さん達の手を借り、うさぎのぬいぐるみを抱いて寝ていた。
子供か。
そういえばいつの間にか手にしていたピアス。新緑のような緑の石を使われたそれを僕は知らない間に握りしめていた。でも不思議とそれを握っていると体調がいいような気がして今では手放せない。
ピアスだから消毒してつけれないかなーと思っていたら、フリードリヒに「つけたいのか?」と聞かれた。それにうん、と答えれば彼自らの手で右の耳につけてもらった。
痛いかと思ったけどそんなに痛く無くてよかった。うさぎのぬいぐるみの耳の付け根を持ってぷるぷると前後に動かして遊ぶ。そうするとこのうさぎの耳が途端に寂しく感じてしまう。この子にもピアスじゃないけど何かつけたいな。
とはいっても金などもってはいない。たぶん。聞いたこともないから何とも言えないけど。でもつけるなら自分で稼いだ金で飾ってあげたいじゃん。
あ、これ女の子に対しての考えだ。
僕の場合はぬいぐるみになったけど。
体調を戻し、体力が少しだけマシになったのは月が変わって新緑の月になってからだった。
新緑…この世界の月の名前は誰が考えたんだろうな。乙女チックだ。僕は嫌いじゃないけど。
すっかりといないと不安になるくらいになったうさぎのぬいぐるみを抱きしめながらようやく今日、ベッドから降りる許可をもらいソファに座ってまったりとお茶をしている。
弱りに弱った胃腸はだいぶよくなり、焼き菓子はまだ無理だが柔らかいものならば食べられるようになった。普通に煮たものを食べて腹痛に襲われた時はトイレとお友達になった。その間なぜかフリードリヒがずっと待っていたという話を聞きドン引いた。トイレの前で待機するなよ…。
でもその時なぜかうさぎのぬいぐるみを持っている事に気付いてさらに引くと、その手を持ち上げて僕の頭を撫でてくれた。
「アルシュから接触禁止令が出ているからこういう触れ方しかできなくてな」
「――…っ」
ぽんぽんと頭を撫でられ、寂しそうに笑うフリードリヒに、気付けばぬいぐるみごと抱き締めてた。僕から触るのはいいんだよね?
もっふりとうさぎのお腹に顔を埋めてちらりとフリードリヒを見れば「ふぐっ」と奇妙な声を上げられた。あ、やっぱだめだったか。すまぬ。
けどそれを見ていた侍女さん達がざわっとしたのはなぜだろう。また怖がらせちゃったか?
そんなことがあってから毎日来てくれるお医者さんとも少しずつ仲良くなって、今ではちょびっとだけ世間話ができるようになった。初めての時は他の人よりはマシだったけど、やっぱり怯えられてたからね。
だから僕は何したの。
「レイジス! うさぎに友達を連れてきたぞ!」
「え?」
「フリードリヒ殿下! お静かに!」
アルシュに怒られながらやってきたフリードリヒの手には、冗談だと思っていたくまのぬいぐるみ。こっちももふもふの毛だ。
「こいつも仲良くしてやってくれ」と渡されたそれを受け取るともふもふと抱き締める。こっちの抱き締め具合もなかなか…。
うっとりとその感触を楽しんでいると「明日からここで勉強会をするからな」と言われ、ようやくそこまで体力が戻ったのだと知った。長かった…でもたかが高熱でここまで体力がなくなるのもおかしな話だよな。
元々身体が弱かったか?
かくんかくんと首を動かしていると「どうした」とフリードリヒに問われ「ぴゃぁ?!」と変な声が出た。
なんかこの世界に来てから微妙に精神が後退してる気がするんだよ。なんなんだこれ。
それに今の僕はゲーム開始から1年前にいることも判明した。つまりは1年しか攻略者たちといられないことになる。
来年になったら主人公君が来るからね。
その間に解決できる問題はささっと解決したい。けど体調がよろしくなかったから約2週間をベッドの上で過ごしてたわけだ。
これから本格的に動き出さなければ。万が一を考えて動かなければせっかく転生したのにまた死ぬことになるのかもしれないのだから。
ちなみにこの知識はあっちの世界で漫画や小説で仕入れたものだ。
悪役だからな。僕。
主人公君を苛めたおすのだから、待っているのは国外追放か処刑か。
処刑なら僕一人で何とかなるかもしれないが、国外追放だといるものはいるのだ。
そう。お金である。
ユアソーン家は恐らくいい所の家柄だろう。今は問題ないといえど、僕の行動一つでユアソーン家がなくなる可能性もないとは言えない。
その万が一を考え蓄えるものは蓄えたい。
最悪僕がどうにかなっても、両親だけは生きていてほしい。
だからこそ知識が必要になる。この世界をもっと知らなければ。知ればその分選択肢が増える。
けど主人公君が誰を選んでも、たぶん僕は今みたいな扱いなどされないだろう。
なんせ主人公君を一度でも愛し、絆で結ばれている彼らが悪役の僕をかばうことなどしないだろうし。
だったらさっさと婚約を破棄して、一つの選択を潰す。そのうえでこのゲームの悪役を演じたらどうなるのか。
これはちょっとした賭けでもある。
僕の人生をかけた。
まぁ何もしない選択をした僕がどうなるのか分からないから怖いんだけど。まさに人生はゲームではない。
既プレイで2周目をするのとは難易度が違うのだ。
しかも情報はごくわずか。
その準備のための1年だと僕は考える。逆を言えば死ぬための準備を1年でしなければならないのだ。
きゅっと唇を噛みしめこれからのことを改めて気合を入れないといけないと拳を作る。
そうと決まればまずは体力をしっかりとつけねばならない。
が。
この世界の料理全般、味が薄くて物足りないんだよ! 不味くはない。不味くはないけど焼く、煮る以外の方法が確立されてないの。なんでよ! 飯に力入れてくれよ!
ここで一人叫んでいても何も変わらない。こうなったらまずは食事から変えていってやる!
なんせ僕は悪役だからな! ふははは! 皆、味の濃いものを食べて、いままでの食事が食べられなくなるといいさ!
となるとさっそく前世の記憶をフルに使って調味料を作っていこう。
だってここの世界の調味料、塩、コショウ、以上。だからな。
砂糖はお菓子とかにしか使われなさそうなんだよ…。
現代日本でこれだけしか使っちゃいけませんなんて言われたらただの罰ゲームだろ…。舌が肥えまくった僕には耐えきれないんだよ!
なんかジョセフィーヌにもフリードリヒにも「食が細い」って思われてそうなんだけど違うからね! 食べたいんだよ! もっともりもり食べたいんだけど味が薄くて食べられないんだよ! 素材の味を生かしてるって思えば食えなくもないけど毎食はもういやだ! 飽きた! 病院食だよ!
だからまずはドレッシングからいこう。この世界異様に野菜がうまいんだよ。なんでだ。いや、ありがたいんだけど。農家さんありがとう。
だから完全に素材の味を消す事になって心が痛むけど、かけ過ぎなければ問題ない! うん!
ベッドから降りる許可が出てよかった…。ということでうさぎを抱きかかえて、今まで座っていたソファにはくまを置いて寝室から出ることにする。
今気づいたんだけど僕、寝室しかあんまり知らないんだよね。ずっと寝てたからっていうのもあるんだけど。と言うわけで、部屋の散策にしゅっぱーつ!
「レイジス? どこへ?」
「ちょっとキッチンの方へ…」
「? 用があるなら侍女を呼べばいいだろう?」
ごもっともです。フリードリヒ殿下。けど、僕にはやらねばならないことがあるんです!
「ちょっと確認したいことがあって…」
そう。調味料。実は隠し持っているんじゃないかと疑っている。ほら、胃腸弱くしてたからさ。
するとフリードリヒと護衛三人の目が細められた。そんな目をしなくてもいいじゃないか! ちょっと調味料を見に行くだけだよ!
それに侍女さん達に緊張が走ったのはなぜなんだ…。あ、あの四人の目つきが怖いからか?
「リーシャ」
「はい」
「?」
なぜかリーシャが呼ばれ、僕の前にやってきてくまのぬいぐるみを渡された。え、ちょ、二つは無理。
わたわたとしていると、そのくまを誰かが持ってくれた。これで視界が確保できた。「ありがとう」とお礼を告げるとそこにはノアがいた。「リーシャ」と諫めるような声で名を呼ぶが彼は「はいはい」と軽くあしらう。そして再びソファへと逆戻りすると、リーシャが額に掌を向けた。
なんだろう?
何をされるのかが分からなくて瞬きを繰り返せば、翳された掌から温かな光が現れた。おお、すげー! なんて感動していると「ちょっと乱さないでくださいよ」と叱られた。あ、はい。すみません。
何を乱しているのか分らないけど、大人しくリーシャを見つめているとその光が全身を包んだ後、直ぐに消えた。そして「…ピアスを見せてください」と言われた。
ピアス? と思いながら横髪を耳にかけピアスを見せると「なるほど」とリーシャが頷いた。
なに? どうしたの?
するとリーシャがじいっと僕の顔を覗き込んでくる。近い近い。
「気分は?」
「? 悪くないよ?」
「そう…なら、手足のしびれ、眠気は?」
「ない…けど。どうしたの?」
「…ならいいけど」
そういって、すっとピアスに指先が触れると黒いもやもやとした靄みたいなものがそこから現れた。
なにこれ?!
ちょっと妖怪チックなそれにちょっと瞳を輝かせたのがばれて「あのさ…」と呆れた声が返ってきた。ごめんて。
「なにそれ」
「レイジス様の中にあった悪いもの」
「ほぁ?!」
やれやれと肩を竦めるリーシャに驚く僕。え、そんなのが僕の中にあったの?! 怖っ!
ちょっとだけパニックになった僕は、悪いもの=お祓いという構図を即座にイメージしてしまう。つまりは清めればイケるという判断だ。
なぜこれでイケると踏んだのかは分からないが、それをとにかく清めなければ! というわけの分からない使命感に駆られ「お、お清め!」と言いながらその靄に向かって柏手を打つ。何の意味もないのになーと思っていると「何してるの?!」とリーシャが慌てふためく。
するとその靄がカッと輝き、光の粒子になり霧散していく。
まるでゲームでエネミーが倒され消えるみたいに。
それをほけーっと見ていると、がっしとリーシャに両肩を掴まれた。え?! なに?! 怖い怖い! 目がめちゃくちゃ怖いんだけど?!
「レイジス様…!」
「ひゃい?!」
低い声で名前を呼ばれて、びくっとすればリーシャが「とんでもないことしてくださいましたね」と呟いた。
え? なんかやっちゃったの?!
「何、浄化してんですか!」
「え? え?」
「教会の人間しか使えない魔法ですよ! まったく! どこでそんなの覚えてきたんですか!」
リーシャの言っている事が一つも理解できず、ぱちぱちと瞬きだけを繰り返すと「聞いてますか?!」と言われる。
「聞いてるけど…何か問題があるの?」
そもそも魔法が使える、っていう設定だけどそれを使う場面なんてあったのだろうか? メインは攻略者を落としてえっちすることだろ? あ、勿論僕じゃなくて主人公君が、だけど。
こてんと首を傾げれば「はぁー…」とリーシャの頭が下がった。
だから何。
もうちょっと分かるように説明してくれよ!
「いいですか、レイジス様」
「うん?」
リーシャじゃ無理と判断したのか、ノアが代わりに説明してくれるらしい。助かるー!
「魔法は属性があるんです。流石にこれは説明しなくても大丈夫ですよね?」
「えっと…まぁ?」
「…魔法は火、水、風、土、光と闇、例外で氷と雷、ですよ」
「リーシャありがと」
まぁ大体予想してた属性と同じだな。ゲームあるあるってやつだ。
でも例外ってなんだ?
「先程レイジス様が使われたのは、浄化の魔法と呼ばれるものです」
「浄化? でも普通に使えるんじゃないの?」
ほら、よくあるじゃん。浄化魔法。身体を綺麗にする魔法。それじゃないの?
けれど僕の言葉に固まるノア。ええー…何ー?
「ノア。レイジスはその辺りは全くだ」
「…その様ですね。失礼しました」
助け船のフリードリヒの言葉に、はぁと小さな溜息を吐いたノアは「では改めて」とそのまま授業が始まった。わお! 初めての魔法の授業!
「浄化には2つの魔法があるのです。一つは生活魔法の浄化魔法。これは魔法が使えるものならば誰でも使えます」
「ふんふん」
ノアの言葉にこくこくと相槌を打ちながら聞いているが、ノアの手にはくまがいるのだ。ちょっと気になるよね。
するとそれに気付いたリーシャがくまを奪った。あ、可愛かったのに。
「ちゃんと集中してください」
「はーい」
僕の返事にフリードリヒが吹き出し、リーシャは呆れたように肩を竦める。アルシュとジョセフィーヌは、ただただ幼い子供を見るような瞳で見守ってくれてる。
「よろしいですか? もう一つが先程とは違い、聖職者しか使えないと言われている光魔法です。これは素質がなければ使えません」
「なら、僕は素質があるってこと?」
「そうですね。本来ならば光の魔法を使えるものは教会へと預けられます」
「ふむふむ」
「ですがその中でもその負の浄化魔法を使えるものはわが国でも1人ないし2人と言われています」
「すっごく貴重な人材ってことか。なるほど」
国内で1人、ないし2人って相当レアだよね。すごいなぁ…。
うんうんと一人頷いていると、なぜかノアとリーシャ、それにジョセフィーヌから呆れたような視線が向けられた。
え? 何?
「レイジス様」
「うん?」
「先程申しましたよね? 聖職者でかつ使えるものがほとんどいないと」
「そうだね」
「ダメだこりゃ。さっぱり理解してない」
ああー…と言いながら目元を手で覆い上を向くリーシャにこくりと首を傾げる。
「つまりはそれが使えちゃったのがまずいってことでしょ? 僕もどうやって使ったか分んないからもう使えないと思うよ?」
話を纏めるとこんな感じだろう。スゲー魔法を使っちゃったから人前では使わないこと。そして2度と使うなってこと。
するとリーシャとノアの瞳が丸くなってる。違うの? こんなニュアンスだったような気がしたんだけど。
「…前言撤回。ちゃんと理解してます」
「む、失礼な」
リーシャへと半眼を向けると「申し訳ございませんでした!」と謝られた。謝ってほしい訳じゃなかったんだけどね。
「しかし…素質があっても使える者がほとんどいない光魔法をレイジス様がこうもあっさりお使いになられるとは…」
「教会の人間にとっては喉から手が出るほど欲しい人材だろうな」
アルシュとフリードリヒの会話でその教会もどうやら手が出せないような感じを聞き取り「ならいっか」とリーシャを見れば、じっと僕を見つめている。
何…怖いってば。
「レイジス様。どうやって魔法が使えたかお聞きしても?」
「え? えー…っと?」
単純に興味なんだろうな、とは思っても悪い気はしない。もしかしたらリーシャだって使えるかもしれないし。
「お清めパワー?」
「………………」
とにかく祓い給え、清め給えと思っただけだからなー。詳しく聞かれても分らない、というのが実だ。
にこにこと笑いながらリーシャを見れば、半眼で僕を見ていた。なんだよー、ちゃんと教えただろー?
「だめだ…全然わからない」
「レイジス様にはレイジス様の世界があるのかもしれませんね」
はああぁぁ…と重い重い溜息を吐くリーシャにノアがそう告げると「そうかもね」とリーシャが呟く。
「では新しいお茶とお菓子をお持ちいたしましょう」
「はーい」
ジョセフィーヌがそう切り出すと、リーシャがくまを渡してくれた。それを受けとって小さなぬいぐるみ用の椅子に座らせるとぽんぽんと頭を撫でる。
それから少しだけ魔法のことをリーシャに教わって「お食事の時間です」というジョセフィーヌの声にハッとした。
そうだ!調味料! 忘れてた!
■■■
レイジス様がフリードリヒ殿下と共に寝室に消えていく背中を見送り、リビングに残された我々はすぐさま行動を開始する。
リーシャはキッチンに、俺とノアはこのリビングを。
急に動きだした我々を侍女が不安そうに見ているがこの中にあの『呪い』を施したものがいるとしたら相当な演技派だ。
レイジス様がキッチンへ向かわれようとしたのは『呪い』がある可能性が一番高いからだろう。だが、レイジス様がそれをあっさりと浄化をされたことは相手にとって予想外のことだったはずだ。だからこそ、もう一度それを仕掛けると踏んだ。
「アルシュー、ノアー見つけたー」
リーシャのその声にキッチンに向かってばたばたと駆けつけると、そこには『呪い』の残骸であろう物が光の粒子となりふわふわと浮いていた。
「既に浄化されているように見えるのだが…?」
ノアの言葉に私も頷けば、ふふんとリーシャが胸を張った。
「僕が浄化したんだ! 意外と簡単だった」
「…お前な」
レイジス様には「二度と使うな」と言っておいて自分は使うのかと肩を竦めるが、ノアもリーシャも険しい表情を浮かべている。
「でもさ。やっぱりおかしいよね」
「ああ」
リーシャが浄化を使えたことはもう良しとしよう。なんせリーシャもまたレイジス様に次ぐ魔力と属性の多さを持つのだから。
だが。
「誰かがレイジス様を悪い方へと導いてる気がするんだよね」
リーシャの言葉に、シン…とキッチンが静まり返る。
あのレイジス様も、もしかしたら薬か呪いでああなったのか、という疑問が浮かび上がるが誰が何のためにレイジス様をそうさせるのか。それが分からない。
「悩んでても仕方ない。フリードリヒ殿下に報告の後、対策を考えるぞ」
「ああ」
「分かった」
「騒がせてすまない」
侍女たちが見守る中、ノアがそう詫びると一人じっとこちらを見ている侍女がいた。その視線の中に感じたものに眉を寄せるとリーシャに「アルシュ」と呼ばれた。
振り向きリーシャを見れば「大丈夫?」と聞いてくる。何が、と聞こうとして身体に力が入らない事に気付いた。
「な…?!」
「ちょっと待ってね。はい、お清め!」
謎の掛け声と共にぱんっと両手を叩くと浄化の光が全身を包む。すると力が抜けていた身体に力が戻ってくるような感覚にほっとする。
そして「今のは?」と問えば「これが『呪い』だよ」とリーシャが教えてくれた。
なるほど。
かかって初めてわかる呪いの強さ。
もし、これをレイジス様が受け続けていたとすれば衰弱していた事も頷ける。
だが誰が。
その疑問の答えは誰も持ち合わせてはいない。
そしてふと先程の侍女がいた場所に視線を向けると、そこには誰もいなかった。
「レイジス様も変な事を考えなきゃいいけど…」
ぽつりと呟かれたリーシャの言葉に、胸騒ぎを覚えたが今は分らないことを考えるよりも分かっている事から片付けていこう。
そう決めると二人も頷いた。
あれから一週間。僕は体調を戻す為に食っちゃ寝のニート生活。それでも食べればすぐ眠くなり、スープを食べながら寝るなんてざらだった。その度に侍女さん達の手を借り、うさぎのぬいぐるみを抱いて寝ていた。
子供か。
そういえばいつの間にか手にしていたピアス。新緑のような緑の石を使われたそれを僕は知らない間に握りしめていた。でも不思議とそれを握っていると体調がいいような気がして今では手放せない。
ピアスだから消毒してつけれないかなーと思っていたら、フリードリヒに「つけたいのか?」と聞かれた。それにうん、と答えれば彼自らの手で右の耳につけてもらった。
痛いかと思ったけどそんなに痛く無くてよかった。うさぎのぬいぐるみの耳の付け根を持ってぷるぷると前後に動かして遊ぶ。そうするとこのうさぎの耳が途端に寂しく感じてしまう。この子にもピアスじゃないけど何かつけたいな。
とはいっても金などもってはいない。たぶん。聞いたこともないから何とも言えないけど。でもつけるなら自分で稼いだ金で飾ってあげたいじゃん。
あ、これ女の子に対しての考えだ。
僕の場合はぬいぐるみになったけど。
体調を戻し、体力が少しだけマシになったのは月が変わって新緑の月になってからだった。
新緑…この世界の月の名前は誰が考えたんだろうな。乙女チックだ。僕は嫌いじゃないけど。
すっかりといないと不安になるくらいになったうさぎのぬいぐるみを抱きしめながらようやく今日、ベッドから降りる許可をもらいソファに座ってまったりとお茶をしている。
弱りに弱った胃腸はだいぶよくなり、焼き菓子はまだ無理だが柔らかいものならば食べられるようになった。普通に煮たものを食べて腹痛に襲われた時はトイレとお友達になった。その間なぜかフリードリヒがずっと待っていたという話を聞きドン引いた。トイレの前で待機するなよ…。
でもその時なぜかうさぎのぬいぐるみを持っている事に気付いてさらに引くと、その手を持ち上げて僕の頭を撫でてくれた。
「アルシュから接触禁止令が出ているからこういう触れ方しかできなくてな」
「――…っ」
ぽんぽんと頭を撫でられ、寂しそうに笑うフリードリヒに、気付けばぬいぐるみごと抱き締めてた。僕から触るのはいいんだよね?
もっふりとうさぎのお腹に顔を埋めてちらりとフリードリヒを見れば「ふぐっ」と奇妙な声を上げられた。あ、やっぱだめだったか。すまぬ。
けどそれを見ていた侍女さん達がざわっとしたのはなぜだろう。また怖がらせちゃったか?
そんなことがあってから毎日来てくれるお医者さんとも少しずつ仲良くなって、今ではちょびっとだけ世間話ができるようになった。初めての時は他の人よりはマシだったけど、やっぱり怯えられてたからね。
だから僕は何したの。
「レイジス! うさぎに友達を連れてきたぞ!」
「え?」
「フリードリヒ殿下! お静かに!」
アルシュに怒られながらやってきたフリードリヒの手には、冗談だと思っていたくまのぬいぐるみ。こっちももふもふの毛だ。
「こいつも仲良くしてやってくれ」と渡されたそれを受け取るともふもふと抱き締める。こっちの抱き締め具合もなかなか…。
うっとりとその感触を楽しんでいると「明日からここで勉強会をするからな」と言われ、ようやくそこまで体力が戻ったのだと知った。長かった…でもたかが高熱でここまで体力がなくなるのもおかしな話だよな。
元々身体が弱かったか?
かくんかくんと首を動かしていると「どうした」とフリードリヒに問われ「ぴゃぁ?!」と変な声が出た。
なんかこの世界に来てから微妙に精神が後退してる気がするんだよ。なんなんだこれ。
それに今の僕はゲーム開始から1年前にいることも判明した。つまりは1年しか攻略者たちといられないことになる。
来年になったら主人公君が来るからね。
その間に解決できる問題はささっと解決したい。けど体調がよろしくなかったから約2週間をベッドの上で過ごしてたわけだ。
これから本格的に動き出さなければ。万が一を考えて動かなければせっかく転生したのにまた死ぬことになるのかもしれないのだから。
ちなみにこの知識はあっちの世界で漫画や小説で仕入れたものだ。
悪役だからな。僕。
主人公君を苛めたおすのだから、待っているのは国外追放か処刑か。
処刑なら僕一人で何とかなるかもしれないが、国外追放だといるものはいるのだ。
そう。お金である。
ユアソーン家は恐らくいい所の家柄だろう。今は問題ないといえど、僕の行動一つでユアソーン家がなくなる可能性もないとは言えない。
その万が一を考え蓄えるものは蓄えたい。
最悪僕がどうにかなっても、両親だけは生きていてほしい。
だからこそ知識が必要になる。この世界をもっと知らなければ。知ればその分選択肢が増える。
けど主人公君が誰を選んでも、たぶん僕は今みたいな扱いなどされないだろう。
なんせ主人公君を一度でも愛し、絆で結ばれている彼らが悪役の僕をかばうことなどしないだろうし。
だったらさっさと婚約を破棄して、一つの選択を潰す。そのうえでこのゲームの悪役を演じたらどうなるのか。
これはちょっとした賭けでもある。
僕の人生をかけた。
まぁ何もしない選択をした僕がどうなるのか分からないから怖いんだけど。まさに人生はゲームではない。
既プレイで2周目をするのとは難易度が違うのだ。
しかも情報はごくわずか。
その準備のための1年だと僕は考える。逆を言えば死ぬための準備を1年でしなければならないのだ。
きゅっと唇を噛みしめこれからのことを改めて気合を入れないといけないと拳を作る。
そうと決まればまずは体力をしっかりとつけねばならない。
が。
この世界の料理全般、味が薄くて物足りないんだよ! 不味くはない。不味くはないけど焼く、煮る以外の方法が確立されてないの。なんでよ! 飯に力入れてくれよ!
ここで一人叫んでいても何も変わらない。こうなったらまずは食事から変えていってやる!
なんせ僕は悪役だからな! ふははは! 皆、味の濃いものを食べて、いままでの食事が食べられなくなるといいさ!
となるとさっそく前世の記憶をフルに使って調味料を作っていこう。
だってここの世界の調味料、塩、コショウ、以上。だからな。
砂糖はお菓子とかにしか使われなさそうなんだよ…。
現代日本でこれだけしか使っちゃいけませんなんて言われたらただの罰ゲームだろ…。舌が肥えまくった僕には耐えきれないんだよ!
なんかジョセフィーヌにもフリードリヒにも「食が細い」って思われてそうなんだけど違うからね! 食べたいんだよ! もっともりもり食べたいんだけど味が薄くて食べられないんだよ! 素材の味を生かしてるって思えば食えなくもないけど毎食はもういやだ! 飽きた! 病院食だよ!
だからまずはドレッシングからいこう。この世界異様に野菜がうまいんだよ。なんでだ。いや、ありがたいんだけど。農家さんありがとう。
だから完全に素材の味を消す事になって心が痛むけど、かけ過ぎなければ問題ない! うん!
ベッドから降りる許可が出てよかった…。ということでうさぎを抱きかかえて、今まで座っていたソファにはくまを置いて寝室から出ることにする。
今気づいたんだけど僕、寝室しかあんまり知らないんだよね。ずっと寝てたからっていうのもあるんだけど。と言うわけで、部屋の散策にしゅっぱーつ!
「レイジス? どこへ?」
「ちょっとキッチンの方へ…」
「? 用があるなら侍女を呼べばいいだろう?」
ごもっともです。フリードリヒ殿下。けど、僕にはやらねばならないことがあるんです!
「ちょっと確認したいことがあって…」
そう。調味料。実は隠し持っているんじゃないかと疑っている。ほら、胃腸弱くしてたからさ。
するとフリードリヒと護衛三人の目が細められた。そんな目をしなくてもいいじゃないか! ちょっと調味料を見に行くだけだよ!
それに侍女さん達に緊張が走ったのはなぜなんだ…。あ、あの四人の目つきが怖いからか?
「リーシャ」
「はい」
「?」
なぜかリーシャが呼ばれ、僕の前にやってきてくまのぬいぐるみを渡された。え、ちょ、二つは無理。
わたわたとしていると、そのくまを誰かが持ってくれた。これで視界が確保できた。「ありがとう」とお礼を告げるとそこにはノアがいた。「リーシャ」と諫めるような声で名を呼ぶが彼は「はいはい」と軽くあしらう。そして再びソファへと逆戻りすると、リーシャが額に掌を向けた。
なんだろう?
何をされるのかが分からなくて瞬きを繰り返せば、翳された掌から温かな光が現れた。おお、すげー! なんて感動していると「ちょっと乱さないでくださいよ」と叱られた。あ、はい。すみません。
何を乱しているのか分らないけど、大人しくリーシャを見つめているとその光が全身を包んだ後、直ぐに消えた。そして「…ピアスを見せてください」と言われた。
ピアス? と思いながら横髪を耳にかけピアスを見せると「なるほど」とリーシャが頷いた。
なに? どうしたの?
するとリーシャがじいっと僕の顔を覗き込んでくる。近い近い。
「気分は?」
「? 悪くないよ?」
「そう…なら、手足のしびれ、眠気は?」
「ない…けど。どうしたの?」
「…ならいいけど」
そういって、すっとピアスに指先が触れると黒いもやもやとした靄みたいなものがそこから現れた。
なにこれ?!
ちょっと妖怪チックなそれにちょっと瞳を輝かせたのがばれて「あのさ…」と呆れた声が返ってきた。ごめんて。
「なにそれ」
「レイジス様の中にあった悪いもの」
「ほぁ?!」
やれやれと肩を竦めるリーシャに驚く僕。え、そんなのが僕の中にあったの?! 怖っ!
ちょっとだけパニックになった僕は、悪いもの=お祓いという構図を即座にイメージしてしまう。つまりは清めればイケるという判断だ。
なぜこれでイケると踏んだのかは分からないが、それをとにかく清めなければ! というわけの分からない使命感に駆られ「お、お清め!」と言いながらその靄に向かって柏手を打つ。何の意味もないのになーと思っていると「何してるの?!」とリーシャが慌てふためく。
するとその靄がカッと輝き、光の粒子になり霧散していく。
まるでゲームでエネミーが倒され消えるみたいに。
それをほけーっと見ていると、がっしとリーシャに両肩を掴まれた。え?! なに?! 怖い怖い! 目がめちゃくちゃ怖いんだけど?!
「レイジス様…!」
「ひゃい?!」
低い声で名前を呼ばれて、びくっとすればリーシャが「とんでもないことしてくださいましたね」と呟いた。
え? なんかやっちゃったの?!
「何、浄化してんですか!」
「え? え?」
「教会の人間しか使えない魔法ですよ! まったく! どこでそんなの覚えてきたんですか!」
リーシャの言っている事が一つも理解できず、ぱちぱちと瞬きだけを繰り返すと「聞いてますか?!」と言われる。
「聞いてるけど…何か問題があるの?」
そもそも魔法が使える、っていう設定だけどそれを使う場面なんてあったのだろうか? メインは攻略者を落としてえっちすることだろ? あ、勿論僕じゃなくて主人公君が、だけど。
こてんと首を傾げれば「はぁー…」とリーシャの頭が下がった。
だから何。
もうちょっと分かるように説明してくれよ!
「いいですか、レイジス様」
「うん?」
リーシャじゃ無理と判断したのか、ノアが代わりに説明してくれるらしい。助かるー!
「魔法は属性があるんです。流石にこれは説明しなくても大丈夫ですよね?」
「えっと…まぁ?」
「…魔法は火、水、風、土、光と闇、例外で氷と雷、ですよ」
「リーシャありがと」
まぁ大体予想してた属性と同じだな。ゲームあるあるってやつだ。
でも例外ってなんだ?
「先程レイジス様が使われたのは、浄化の魔法と呼ばれるものです」
「浄化? でも普通に使えるんじゃないの?」
ほら、よくあるじゃん。浄化魔法。身体を綺麗にする魔法。それじゃないの?
けれど僕の言葉に固まるノア。ええー…何ー?
「ノア。レイジスはその辺りは全くだ」
「…その様ですね。失礼しました」
助け船のフリードリヒの言葉に、はぁと小さな溜息を吐いたノアは「では改めて」とそのまま授業が始まった。わお! 初めての魔法の授業!
「浄化には2つの魔法があるのです。一つは生活魔法の浄化魔法。これは魔法が使えるものならば誰でも使えます」
「ふんふん」
ノアの言葉にこくこくと相槌を打ちながら聞いているが、ノアの手にはくまがいるのだ。ちょっと気になるよね。
するとそれに気付いたリーシャがくまを奪った。あ、可愛かったのに。
「ちゃんと集中してください」
「はーい」
僕の返事にフリードリヒが吹き出し、リーシャは呆れたように肩を竦める。アルシュとジョセフィーヌは、ただただ幼い子供を見るような瞳で見守ってくれてる。
「よろしいですか? もう一つが先程とは違い、聖職者しか使えないと言われている光魔法です。これは素質がなければ使えません」
「なら、僕は素質があるってこと?」
「そうですね。本来ならば光の魔法を使えるものは教会へと預けられます」
「ふむふむ」
「ですがその中でもその負の浄化魔法を使えるものはわが国でも1人ないし2人と言われています」
「すっごく貴重な人材ってことか。なるほど」
国内で1人、ないし2人って相当レアだよね。すごいなぁ…。
うんうんと一人頷いていると、なぜかノアとリーシャ、それにジョセフィーヌから呆れたような視線が向けられた。
え? 何?
「レイジス様」
「うん?」
「先程申しましたよね? 聖職者でかつ使えるものがほとんどいないと」
「そうだね」
「ダメだこりゃ。さっぱり理解してない」
ああー…と言いながら目元を手で覆い上を向くリーシャにこくりと首を傾げる。
「つまりはそれが使えちゃったのがまずいってことでしょ? 僕もどうやって使ったか分んないからもう使えないと思うよ?」
話を纏めるとこんな感じだろう。スゲー魔法を使っちゃったから人前では使わないこと。そして2度と使うなってこと。
するとリーシャとノアの瞳が丸くなってる。違うの? こんなニュアンスだったような気がしたんだけど。
「…前言撤回。ちゃんと理解してます」
「む、失礼な」
リーシャへと半眼を向けると「申し訳ございませんでした!」と謝られた。謝ってほしい訳じゃなかったんだけどね。
「しかし…素質があっても使える者がほとんどいない光魔法をレイジス様がこうもあっさりお使いになられるとは…」
「教会の人間にとっては喉から手が出るほど欲しい人材だろうな」
アルシュとフリードリヒの会話でその教会もどうやら手が出せないような感じを聞き取り「ならいっか」とリーシャを見れば、じっと僕を見つめている。
何…怖いってば。
「レイジス様。どうやって魔法が使えたかお聞きしても?」
「え? えー…っと?」
単純に興味なんだろうな、とは思っても悪い気はしない。もしかしたらリーシャだって使えるかもしれないし。
「お清めパワー?」
「………………」
とにかく祓い給え、清め給えと思っただけだからなー。詳しく聞かれても分らない、というのが実だ。
にこにこと笑いながらリーシャを見れば、半眼で僕を見ていた。なんだよー、ちゃんと教えただろー?
「だめだ…全然わからない」
「レイジス様にはレイジス様の世界があるのかもしれませんね」
はああぁぁ…と重い重い溜息を吐くリーシャにノアがそう告げると「そうかもね」とリーシャが呟く。
「では新しいお茶とお菓子をお持ちいたしましょう」
「はーい」
ジョセフィーヌがそう切り出すと、リーシャがくまを渡してくれた。それを受けとって小さなぬいぐるみ用の椅子に座らせるとぽんぽんと頭を撫でる。
それから少しだけ魔法のことをリーシャに教わって「お食事の時間です」というジョセフィーヌの声にハッとした。
そうだ!調味料! 忘れてた!
■■■
レイジス様がフリードリヒ殿下と共に寝室に消えていく背中を見送り、リビングに残された我々はすぐさま行動を開始する。
リーシャはキッチンに、俺とノアはこのリビングを。
急に動きだした我々を侍女が不安そうに見ているがこの中にあの『呪い』を施したものがいるとしたら相当な演技派だ。
レイジス様がキッチンへ向かわれようとしたのは『呪い』がある可能性が一番高いからだろう。だが、レイジス様がそれをあっさりと浄化をされたことは相手にとって予想外のことだったはずだ。だからこそ、もう一度それを仕掛けると踏んだ。
「アルシュー、ノアー見つけたー」
リーシャのその声にキッチンに向かってばたばたと駆けつけると、そこには『呪い』の残骸であろう物が光の粒子となりふわふわと浮いていた。
「既に浄化されているように見えるのだが…?」
ノアの言葉に私も頷けば、ふふんとリーシャが胸を張った。
「僕が浄化したんだ! 意外と簡単だった」
「…お前な」
レイジス様には「二度と使うな」と言っておいて自分は使うのかと肩を竦めるが、ノアもリーシャも険しい表情を浮かべている。
「でもさ。やっぱりおかしいよね」
「ああ」
リーシャが浄化を使えたことはもう良しとしよう。なんせリーシャもまたレイジス様に次ぐ魔力と属性の多さを持つのだから。
だが。
「誰かがレイジス様を悪い方へと導いてる気がするんだよね」
リーシャの言葉に、シン…とキッチンが静まり返る。
あのレイジス様も、もしかしたら薬か呪いでああなったのか、という疑問が浮かび上がるが誰が何のためにレイジス様をそうさせるのか。それが分からない。
「悩んでても仕方ない。フリードリヒ殿下に報告の後、対策を考えるぞ」
「ああ」
「分かった」
「騒がせてすまない」
侍女たちが見守る中、ノアがそう詫びると一人じっとこちらを見ている侍女がいた。その視線の中に感じたものに眉を寄せるとリーシャに「アルシュ」と呼ばれた。
振り向きリーシャを見れば「大丈夫?」と聞いてくる。何が、と聞こうとして身体に力が入らない事に気付いた。
「な…?!」
「ちょっと待ってね。はい、お清め!」
謎の掛け声と共にぱんっと両手を叩くと浄化の光が全身を包む。すると力が抜けていた身体に力が戻ってくるような感覚にほっとする。
そして「今のは?」と問えば「これが『呪い』だよ」とリーシャが教えてくれた。
なるほど。
かかって初めてわかる呪いの強さ。
もし、これをレイジス様が受け続けていたとすれば衰弱していた事も頷ける。
だが誰が。
その疑問の答えは誰も持ち合わせてはいない。
そしてふと先程の侍女がいた場所に視線を向けると、そこには誰もいなかった。
「レイジス様も変な事を考えなきゃいいけど…」
ぽつりと呟かれたリーシャの言葉に、胸騒ぎを覚えたが今は分らないことを考えるよりも分かっている事から片付けていこう。
そう決めると二人も頷いた。
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