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神 vs 神
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オレがのんびりと処刑の話しがぶっ飛んだことを思っていると、ヴィリの隣に光る塊があることに気付く。
こんなのあったか?と首を傾げていると「スヴェン様ったら! もう!」と良く分からんことを言いながらクリストフェルが、頭にぐりぐりと頬擦りしている。しかも高速で。
「ええい!やめろ! 禿げる!」
「禿げてもスヴェン様は可愛いですよ!」
「…いつかつるつるにしてやる」
「ぜひとも! その時は私もつるつるにしますね!」
「…やめとくわ」
一応王家になるこいつにそんなことをしたら、イケオジが怖すぎる。
あ、いや。クリストフェルをつるつるにした罰で処刑される確率が微レ存?!
「残念ですが、父上はそこまで心は狭くありませんから処刑は無理ですよー」
「なん…だと…?!」
こいつ心を読んだ…だと?!
なんてアホなことをしていると、光の塊だったものがいつの間にか人型になっていて、オレを見ていた。それにびくりと肩を震わせると“君たちがじゃれあってるの見ると癒される~”とほんわほんわとしながらヴィリが告げる。
…オレ達、犬猫扱いなん?
“さて。ユートゥリア。言いたいことは?”
鈴を転がすような声が会場に響いたかと思えば、シャルロッタの顔が嫌悪に濡れている。
あん?
ユートゥリアとは?
ヴィリが来てからオレの理解の範疇を超えることが続きすぎて、むしろ冷静になれる。
しかもわからん事ばかり。でも、きっとオレに関係しているから、その人?が現れたんだろうなー、ということはなんとなくわかる。
「なぁ、ヴィリ」
“なぁにー?”
「その…えーっと、天を照らす神様みたいな人と、さっき言ってたユートゥリアとは?」
“水柿くん”
「はい?」
おっと? 前世の苗字を呼ばれてつい反応したけど大丈夫か?
というか、天を照らす神みたいな人(名前知らねぇし)が話しかけてきて、若干ビビる。
“私とユートゥリアは兄妹みたいなものだよ”
「兄妹?」
“みたいなもの。人とは違うからね”
「はぁ」
人とは違う、ということはやっぱりこの人?神様的な何かか。
つか。
「ヴィリ。説明」
“はーい。っていうかなんかAIに呼びかけられてるみたいで嫌だなー”
「いいから」
“ほいほい。まずは水柿くんが見てる天を照らす~っていってるのは、君がいた世界の神様。そんでユートゥリアは…”
そこで一度言葉を切ると、シーと人察し指を口に当てた。
黙って聞け、ということか。
「わざわざこんな所まで来て説教? ウザ」
“あのな…。これで何度目だと思ってるんだ?”
「さぁ? 知らない」
“4度目だ。3度目の時に言ったよな? 次やったら容赦はしないと”
「そうだっけー? でも、まだ世界は壊してないよー?」
くすくすと笑うシャルロッタに、ぞわりとした嫌悪にも似たものが背中を駆け抜ける。
何を言っているんだ? こいつは。
「転生者、というのは嘘…だったのか?」
思わず出た言葉に反応したのはシャルロッタ。口の端が気味が悪いほど持ち上げて、にたりと笑う。
「そうよー? アタシは神。転生者…人間と一緒にされるとか気持ち悪すぎるんですけどー?」
くすくすと笑うその邪悪な笑みに、怒りよりも気味悪さが勝つ。
“その気持ち悪い人間の魂を使ってここに来たのはなぜだ?”
「あー? そんなの、この世界でアタシが気持ちよくちやほやされたいからに決まってんじゃん」
きゃははと悪気もなく笑うシャルロッタ…いやユートゥリア。それが不気味で思わずクリストフェルの服を掴めば「何だあれは」とクリストフェルも声を固くして彼女を見つめている。
“だから春川るぅの魂の情報だけを抜き取ったんだな?”
「え?」
ヴィリのその言葉に眉を寄せれば、クリストフェルがオレの肩を抱いてくれる。
そして、にたりと笑うユートゥリアの表情で分かってしまった。
「そうだよー? それの何が悪いの?」
“おかげで彼女は魂の消滅の危機だ”
「だから? アタシには関係ないじゃん」
“貴様…ッ!”
全く悪びれる様子のないユートゥリアを、オレはただただ見つめることしか出来ない。
オレよりもヴィリともう一人の神様の怒りの方が強く、びりびりとしたものが肌に刺さる。
“そもそもこの世界では君は力を使えない。そうだろう?”
「ほんっと面倒くさい条件を付けてくれたおかげで、ね!」
そう言ってオレに向けて『何か』を放つユートゥリア。ヴィリが動く前にクリストフェルが動き、それを弾いた。
すげぇ…。
「あー!もう! 邪魔するなッ! たかだがデータの存在でッ!」
発狂したユートゥリアがクリストフェルを…いや、オレを睨みつける。
「そもそも!ここはアタシの世界だったッ! それをお前が…! 汚らわしい人間風情が邪魔をしてくれたなッ!」
“お前が水柿くんと春川るぅの運命を入れ替えなければ、こんなことにはならなかったはずだが?”
「うるさい!うるさい! アタシは神だ!神が何をしようと勝手だろうがっ!」
髪を振り乱して発狂するユートゥリアに、オレはただ息を飲んで見つめることしか出来なくて。
と、いうかこいつがオレの運命を春川るぅと入れ替えた? なら、彼女はあの時死んでしまう運命だったのか。
“本当に自分勝手で嫌になる。そもそもお前はルールを何度も破っているだろう”
「ルールなんか知るか! アタシが何をしようと関係ないだろ…ッ!」
“勝手なのは困るんだよ。おかげで主も相当お怒りだ”
「それこそ知らねぇよ!」
…話しが通じねぇ。なんでこんなやべぇ奴が神様なんてのをやってんだよ。
“はぁ。もういい。お前にはこのまま『人間』として生きてもらう”
「はぁ?!」
“そうそう。シャルロッタ・カールステッドとして、ね?”
「ふざけんな!アタシは神だ! なぜ劣った人間として生きなきゃならない!」
“…それが、君に下された罰だからだ”
「何が罪だ! くそ!」
悪態をつくユートゥリアに引いていると、ばちりと視線が合った。
いや、合ってしまった。
その瞬間――。
「ぎゃああぁ! なんだ?! なぜ入れない?!」
「スヴェン様! 大丈夫ですか?!」
「? あ、あぁ…」
一瞬中に何かが入り込んできた感覚がしたかと思ったら目の前が暗くなった。そして何かが弾かれたような感覚に、気付けばクリストフェルの腕に抱かれている状態で…。
何が起きたんだ?
“大丈夫? くらくらする?”
「ん…、そんなかんじ?」
「ヴィリ様!」
“アレを弾いたからその反動だろうね。少し気分が悪くなると思うけど…”
“なら私が治そう。ヴィリよりも相性はいいはずだ”
「ありがとう…ございます…?」
“気にするな。…クリストフェル、そんなに睨むな”
神様に言われて、ようやく胃がむかむかしていることに気付く。気付いたらまぁ…吐きたくなるよな。
けれど、神様がオレの額に手のひらをかざしたらそれは消えていて。
「神様すげぇ…」
“なに、これくらいは…。だから、睨むな”
オレからはあまり見えないがどうやらクリストフェルが神様に喧嘩を売っているようだ。いや、神様に喧嘩を売るのだけはやめろ?
「くそ…っ! くそがああぁっ!」
さっきのが原因なのかは分からないが、その場に座り込み唾をまき散らしながら叫んでいるその姿にぞっとする。
“すまないな”
「え?」
ユートゥリアに視線を向けたままそう呟いた神様に、オレは思わず間の抜けた声を出す。
そして、振り向いた神様は。
“アレがお前の運命を変えてしまった。謝ってもどうしようもないことは分かっている。それでも…”
今にも泣きだしてしまいそうなその顔に何も言えなくて。
なぜ神様がそんな顔をするんだ、と口を開こうとした時だった。
“私たちは万能に見えて実は何も持っていない。現に君を助けたのはヴィリだからな”
「ヴィリが?」
“そだよー? 私の刻印だけだと若干不安だったからねー。水柿くんに祝福を付けておいて正解だったね!”
「祝福?」
また訳の分からんことを、とヴィリを見れば、にぱぱと笑う。
“私たちがここの人たちに手を差し伸べることには条件があるんだ”
「条件?」
“そ。でもね、例外はどこにだってあるんだよ”
「それが?」
“君のような転生者、または転移者とよばれる者たちだね”
「…神様が選ぶからか?」
“そうだね。選んだ人はまだいいけど、意図せず連れてこられたりとか、巻き込まれたりした人たちには救済の意味を込めて介入できることになっているんだ”
なるほど? と、なるとさっきユートゥリアがオレに何かをしたのは。
“君が転生者だからだね。アレはここの人たちには手を出せないから”
「で、さっきのは何だったんだ?」
“シャルロッタの魂の情報を消されたから、君の魂の情報を乗っ取ろうとしたんだよ。それを刻印と祝福の二重で防いだんだ”
「え、こわ」
ヴィリの刻印と祝福とやらがなかったら、オレはユートゥリアに乗っ取られてたのかよ…。それで何かが入り込むような感覚があったのか。
…あれ? ちょっと待て。
「オレが乗っ取られたら、本物の春川るぅのように魂が消滅しそうになっていたってことか?」
“そだよー?”
「なら処刑を待つよりそっちの方が確実だったじゃねぇか!」
“ふっふっふ。今更気付いてももう遅い!”
「やめろ! ラノベタイトルみたいなこと言うんじゃねぇ!」
体調が戻ったからかヴィリとそんなことを言い合っていると、神様がいつの間にか床に倒れこんでいるユートゥリアに近付いて見下ろしていた。
“…君の名前をはく奪させてもらった”
「クソ! クソクソクソ! アタシの名前を返せ!アタシはゲームのヒロインなんだ!」
“…君がヒロインになった3つの世界を壊しておいて何を言う”
「アタシが幸せなら他はどうでもいい! お前がいなければアタシは幸せだったんだ!」
神様を睨みながら暴言を吐き続けるユートゥリアは、ぼろぼろと涙を流しながら叫び続ける。
そんなユートゥリアの前に膝をつく神様。
「お前が…! お前さえいなければ…っ!」
“……………”
“だからって勝手に転生者の魂の情報だけを奪うのは許されないよね?”
「うるさいッ!お前に何が分かる! アタシの何が!」
“水尊”
「――ッ!」
“私は水尊のことを妹のように思っていたよ”
“天ちゃん…”
なんかすっごいいいシーンなんだけどさ…。ヴィリの言った「天ちゃん」という名前に気が抜ける。
神様、マジて天ちゃんなの?
すると天ちゃんが額に手のひらをかざすと、ユートゥリアの瞳が大きく見開いた。
「やめろ! やめろおおぉっ!」
身体を左右にくねらせ抵抗するその身体を、ヴィリが抑える。
神様2人がかりで押さえなきゃなんないって、ユートゥリアって実はすごい神様なのでは? 性格はクソだけど。
“さようなら。水尊”
「やめろおおぉぉっ!」
ユートゥリアの絶叫と同時に光がはじけ飛ぶ。そのあまりの眩しさにクリストフェルの胸に顔を押し付けると、後頭部に手を添えられ力を込められる。
そして、水を打ったような静かさが広がった。
こんなのあったか?と首を傾げていると「スヴェン様ったら! もう!」と良く分からんことを言いながらクリストフェルが、頭にぐりぐりと頬擦りしている。しかも高速で。
「ええい!やめろ! 禿げる!」
「禿げてもスヴェン様は可愛いですよ!」
「…いつかつるつるにしてやる」
「ぜひとも! その時は私もつるつるにしますね!」
「…やめとくわ」
一応王家になるこいつにそんなことをしたら、イケオジが怖すぎる。
あ、いや。クリストフェルをつるつるにした罰で処刑される確率が微レ存?!
「残念ですが、父上はそこまで心は狭くありませんから処刑は無理ですよー」
「なん…だと…?!」
こいつ心を読んだ…だと?!
なんてアホなことをしていると、光の塊だったものがいつの間にか人型になっていて、オレを見ていた。それにびくりと肩を震わせると“君たちがじゃれあってるの見ると癒される~”とほんわほんわとしながらヴィリが告げる。
…オレ達、犬猫扱いなん?
“さて。ユートゥリア。言いたいことは?”
鈴を転がすような声が会場に響いたかと思えば、シャルロッタの顔が嫌悪に濡れている。
あん?
ユートゥリアとは?
ヴィリが来てからオレの理解の範疇を超えることが続きすぎて、むしろ冷静になれる。
しかもわからん事ばかり。でも、きっとオレに関係しているから、その人?が現れたんだろうなー、ということはなんとなくわかる。
「なぁ、ヴィリ」
“なぁにー?”
「その…えーっと、天を照らす神様みたいな人と、さっき言ってたユートゥリアとは?」
“水柿くん”
「はい?」
おっと? 前世の苗字を呼ばれてつい反応したけど大丈夫か?
というか、天を照らす神みたいな人(名前知らねぇし)が話しかけてきて、若干ビビる。
“私とユートゥリアは兄妹みたいなものだよ”
「兄妹?」
“みたいなもの。人とは違うからね”
「はぁ」
人とは違う、ということはやっぱりこの人?神様的な何かか。
つか。
「ヴィリ。説明」
“はーい。っていうかなんかAIに呼びかけられてるみたいで嫌だなー”
「いいから」
“ほいほい。まずは水柿くんが見てる天を照らす~っていってるのは、君がいた世界の神様。そんでユートゥリアは…”
そこで一度言葉を切ると、シーと人察し指を口に当てた。
黙って聞け、ということか。
「わざわざこんな所まで来て説教? ウザ」
“あのな…。これで何度目だと思ってるんだ?”
「さぁ? 知らない」
“4度目だ。3度目の時に言ったよな? 次やったら容赦はしないと”
「そうだっけー? でも、まだ世界は壊してないよー?」
くすくすと笑うシャルロッタに、ぞわりとした嫌悪にも似たものが背中を駆け抜ける。
何を言っているんだ? こいつは。
「転生者、というのは嘘…だったのか?」
思わず出た言葉に反応したのはシャルロッタ。口の端が気味が悪いほど持ち上げて、にたりと笑う。
「そうよー? アタシは神。転生者…人間と一緒にされるとか気持ち悪すぎるんですけどー?」
くすくすと笑うその邪悪な笑みに、怒りよりも気味悪さが勝つ。
“その気持ち悪い人間の魂を使ってここに来たのはなぜだ?”
「あー? そんなの、この世界でアタシが気持ちよくちやほやされたいからに決まってんじゃん」
きゃははと悪気もなく笑うシャルロッタ…いやユートゥリア。それが不気味で思わずクリストフェルの服を掴めば「何だあれは」とクリストフェルも声を固くして彼女を見つめている。
“だから春川るぅの魂の情報だけを抜き取ったんだな?”
「え?」
ヴィリのその言葉に眉を寄せれば、クリストフェルがオレの肩を抱いてくれる。
そして、にたりと笑うユートゥリアの表情で分かってしまった。
「そうだよー? それの何が悪いの?」
“おかげで彼女は魂の消滅の危機だ”
「だから? アタシには関係ないじゃん」
“貴様…ッ!”
全く悪びれる様子のないユートゥリアを、オレはただただ見つめることしか出来ない。
オレよりもヴィリともう一人の神様の怒りの方が強く、びりびりとしたものが肌に刺さる。
“そもそもこの世界では君は力を使えない。そうだろう?”
「ほんっと面倒くさい条件を付けてくれたおかげで、ね!」
そう言ってオレに向けて『何か』を放つユートゥリア。ヴィリが動く前にクリストフェルが動き、それを弾いた。
すげぇ…。
「あー!もう! 邪魔するなッ! たかだがデータの存在でッ!」
発狂したユートゥリアがクリストフェルを…いや、オレを睨みつける。
「そもそも!ここはアタシの世界だったッ! それをお前が…! 汚らわしい人間風情が邪魔をしてくれたなッ!」
“お前が水柿くんと春川るぅの運命を入れ替えなければ、こんなことにはならなかったはずだが?”
「うるさい!うるさい! アタシは神だ!神が何をしようと勝手だろうがっ!」
髪を振り乱して発狂するユートゥリアに、オレはただ息を飲んで見つめることしか出来なくて。
と、いうかこいつがオレの運命を春川るぅと入れ替えた? なら、彼女はあの時死んでしまう運命だったのか。
“本当に自分勝手で嫌になる。そもそもお前はルールを何度も破っているだろう”
「ルールなんか知るか! アタシが何をしようと関係ないだろ…ッ!」
“勝手なのは困るんだよ。おかげで主も相当お怒りだ”
「それこそ知らねぇよ!」
…話しが通じねぇ。なんでこんなやべぇ奴が神様なんてのをやってんだよ。
“はぁ。もういい。お前にはこのまま『人間』として生きてもらう”
「はぁ?!」
“そうそう。シャルロッタ・カールステッドとして、ね?”
「ふざけんな!アタシは神だ! なぜ劣った人間として生きなきゃならない!」
“…それが、君に下された罰だからだ”
「何が罪だ! くそ!」
悪態をつくユートゥリアに引いていると、ばちりと視線が合った。
いや、合ってしまった。
その瞬間――。
「ぎゃああぁ! なんだ?! なぜ入れない?!」
「スヴェン様! 大丈夫ですか?!」
「? あ、あぁ…」
一瞬中に何かが入り込んできた感覚がしたかと思ったら目の前が暗くなった。そして何かが弾かれたような感覚に、気付けばクリストフェルの腕に抱かれている状態で…。
何が起きたんだ?
“大丈夫? くらくらする?”
「ん…、そんなかんじ?」
「ヴィリ様!」
“アレを弾いたからその反動だろうね。少し気分が悪くなると思うけど…”
“なら私が治そう。ヴィリよりも相性はいいはずだ”
「ありがとう…ございます…?」
“気にするな。…クリストフェル、そんなに睨むな”
神様に言われて、ようやく胃がむかむかしていることに気付く。気付いたらまぁ…吐きたくなるよな。
けれど、神様がオレの額に手のひらをかざしたらそれは消えていて。
「神様すげぇ…」
“なに、これくらいは…。だから、睨むな”
オレからはあまり見えないがどうやらクリストフェルが神様に喧嘩を売っているようだ。いや、神様に喧嘩を売るのだけはやめろ?
「くそ…っ! くそがああぁっ!」
さっきのが原因なのかは分からないが、その場に座り込み唾をまき散らしながら叫んでいるその姿にぞっとする。
“すまないな”
「え?」
ユートゥリアに視線を向けたままそう呟いた神様に、オレは思わず間の抜けた声を出す。
そして、振り向いた神様は。
“アレがお前の運命を変えてしまった。謝ってもどうしようもないことは分かっている。それでも…”
今にも泣きだしてしまいそうなその顔に何も言えなくて。
なぜ神様がそんな顔をするんだ、と口を開こうとした時だった。
“私たちは万能に見えて実は何も持っていない。現に君を助けたのはヴィリだからな”
「ヴィリが?」
“そだよー? 私の刻印だけだと若干不安だったからねー。水柿くんに祝福を付けておいて正解だったね!”
「祝福?」
また訳の分からんことを、とヴィリを見れば、にぱぱと笑う。
“私たちがここの人たちに手を差し伸べることには条件があるんだ”
「条件?」
“そ。でもね、例外はどこにだってあるんだよ”
「それが?」
“君のような転生者、または転移者とよばれる者たちだね”
「…神様が選ぶからか?」
“そうだね。選んだ人はまだいいけど、意図せず連れてこられたりとか、巻き込まれたりした人たちには救済の意味を込めて介入できることになっているんだ”
なるほど? と、なるとさっきユートゥリアがオレに何かをしたのは。
“君が転生者だからだね。アレはここの人たちには手を出せないから”
「で、さっきのは何だったんだ?」
“シャルロッタの魂の情報を消されたから、君の魂の情報を乗っ取ろうとしたんだよ。それを刻印と祝福の二重で防いだんだ”
「え、こわ」
ヴィリの刻印と祝福とやらがなかったら、オレはユートゥリアに乗っ取られてたのかよ…。それで何かが入り込むような感覚があったのか。
…あれ? ちょっと待て。
「オレが乗っ取られたら、本物の春川るぅのように魂が消滅しそうになっていたってことか?」
“そだよー?”
「なら処刑を待つよりそっちの方が確実だったじゃねぇか!」
“ふっふっふ。今更気付いてももう遅い!”
「やめろ! ラノベタイトルみたいなこと言うんじゃねぇ!」
体調が戻ったからかヴィリとそんなことを言い合っていると、神様がいつの間にか床に倒れこんでいるユートゥリアに近付いて見下ろしていた。
“…君の名前をはく奪させてもらった”
「クソ! クソクソクソ! アタシの名前を返せ!アタシはゲームのヒロインなんだ!」
“…君がヒロインになった3つの世界を壊しておいて何を言う”
「アタシが幸せなら他はどうでもいい! お前がいなければアタシは幸せだったんだ!」
神様を睨みながら暴言を吐き続けるユートゥリアは、ぼろぼろと涙を流しながら叫び続ける。
そんなユートゥリアの前に膝をつく神様。
「お前が…! お前さえいなければ…っ!」
“……………”
“だからって勝手に転生者の魂の情報だけを奪うのは許されないよね?”
「うるさいッ!お前に何が分かる! アタシの何が!」
“水尊”
「――ッ!」
“私は水尊のことを妹のように思っていたよ”
“天ちゃん…”
なんかすっごいいいシーンなんだけどさ…。ヴィリの言った「天ちゃん」という名前に気が抜ける。
神様、マジて天ちゃんなの?
すると天ちゃんが額に手のひらをかざすと、ユートゥリアの瞳が大きく見開いた。
「やめろ! やめろおおぉっ!」
身体を左右にくねらせ抵抗するその身体を、ヴィリが抑える。
神様2人がかりで押さえなきゃなんないって、ユートゥリアって実はすごい神様なのでは? 性格はクソだけど。
“さようなら。水尊”
「やめろおおぉぉっ!」
ユートゥリアの絶叫と同時に光がはじけ飛ぶ。そのあまりの眩しさにクリストフェルの胸に顔を押し付けると、後頭部に手を添えられ力を込められる。
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