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オレの処刑の話し、どこいった?
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そして現在。
オレが処刑を告げられ喜んだのもつかの間。
こいつが現れた。
「そうですよ。スヴェン様。あなたの従順な侍従。クルトですよ」
その言葉に、オレはぽかんとしたままそいつ…クルトを見つめていた。
するとそのままぎゅうと抱きしめられ、すんすんと頭の匂いをかがれる。あ、こいつ間違いなくクルトだ。こんなことをするのはあいつ位だからな。
そう言えば今日、こいつに会っていないな、なんて思い出し、いつもの服とは違う服に身を纏うクルトの背中に手を回し…。
「って待て待て!」
「ッチ! なんですか?」
「舌打ちすんな! つか、なんですか?じゃねぇよ! お前、本当にクルトなんだな?!」
「そうですよ? ちょーっと髪色が違いますけど」
ちゅちゅっと頭や頬、それに瞼にキスをしまくっているクルトの言葉にハッとして、その髪を見れば金ではなく黒。
金色の髪に赤い瞳は珍しいと思ったが、まさか髪色を変えているとは思わなかった。なんせ12年の間そうだと思っていたのだから。
「スヴェン様、前髪を上げたんですね。可愛い。あいつのセンスは間違いないな」
ちゅっと露になっている額にキスをされると、蕩けた赤い…ストロベリー・レッドの瞳がオレを見つめる。
「貴様ら!なにをいちゃいちゃしている! というか、お前は誰だ!」
アルトゥルのその言葉にはっとする。そうだった! 今、パーティの最中だった!
「あ…」
何とか言葉を出そうとしたが見つからず、どもるオレ。しかし、口を開いたのはクルトだった。
「悲しいなぁ。お兄ちゃんの顔を忘れるなんて」
「は?」
くすん、とオレを抱きしめたまま泣きまねをするクルトの言葉に衝撃を受けたのはオレだけではない。アルトゥルも、他の参加者も衝撃を受けシン、と静まり返る。
「あ…に?」
「そうだよ。君のお兄ちゃん」
泣きまねをやめて、にこりと微笑むクルトは間違いなく屋敷にいたクルトのはずなのに、どこか違う。
それに眉を寄せれば、予告なく扉が再び開いた。
「先まで声が聞こえているぞ」
「へ?」
誰?
クルトに抱きしめられたままぽかんとしていると、その人の後ろからなぜか両親の姿が見える。
え? 今日のパーティ、親も参加してんの?
何が何やら分からないまま、成り行きを見守っていると先にやって来たイケオジがこちらに向かって歩いてきた。
そして。
「クリストフェル。きちんと説明をしなさい」
「父上。可愛い弟が私の顔を忘れていたようなので」
「はぁ…」
え?父上? クリストフェル? うん?
大混乱の渦の中にいるオレを離す気はないらしいクルトが「そうですよね。大混乱ですよね」と頭に頬擦りする。
どういうこと?と助けを求めるように両親を見れば「スヴェンちゃん」と心配そうに母がオレを見つめてくるが、助けてくれる様子はない。父も父で何も言わずに母の肩を抱いている。
それからぞろぞろと人が入ってきて、さらに混乱するオレと、他の人とアルトゥル。
ヴィリはヴェルディアナ嬢の側にいてにやにやとしているだけだし。腹立つな。
ぎろりとヴィリを睨めば「スヴェン様、よそ見しないでください」という甘い声と共に、顎を掴まれそのままキスをされる。
おい!
「ちょ…ま…ッ!」
「だーめ。スヴェン様が私を見てくれたらやめてあげます」
「わ、わか…ッ! んぅ!」
ちゅっと触れるだけのキスから、再び口の中へと舌を入れられる。
うぉーい!
ばしばしと遠慮なくクルトの背中を叩けば、思ったよりも早く解放されたことにほっとする。…ごねなくてよかった。
ほっとしたのもつかの間、クルトの肩越しからぱちりとイケオジと視線が合う。
そうだったー! ここには両親と良く分からんがいろんな人がいるんだったー!
「んっふふ。真っ赤なスヴェン様、かわいいー」
「ええい! とりあえずお前は誰なんだ?!」
オレのその言葉に、クルトがにっこりと微笑むとちゅっと耳にキスをされた。
「私はクリストフェル。クリストフェル=バウムガルテン」
「バウム…ガルテン?」
名前よりもそちらに意識を持っていかれる。
あれ? この国、バウムガルテンじゃなかったっけ?
「え?」
「そうですよ。私は一応王家の人間ですよ」
クルト…クリストフェルの言葉に、周りが息を飲むのが分かった。
え? ってことは…。
「あのイケオジって…」
「イケオジ? ああ、さっきから私たちを見てるのは父上、この国の王だよ」
にふ、と笑うクリストフェルにようやくオレは理解する。
「ってことは…」
「そう。一応“王子”ってことになるのかな?」
えへ、と頬を染めて照れているクリストフェルに、オレはぱくぱくとまるで金魚のように口を動かす。
クルトの予想外のカミングアウトに、オレの思考はほぼ停止。ぽかんと呆気にとられるオレを見たイケオジ…もとい、陛下がにやりと笑った後、コホンと咳払いをする。
「さて。パーティの序盤だが、もう少しだけこの茶番に付き合ってもらいたい」
「ちゃ…?!」
陛下のその言葉に噛みついたのは今まで黙っていたアルトゥルだった。
あいつ意外と短気なんだよなー。というか、陛下はどこまで分かっているんだろう?
「父上! こいつは本当に王家の人間なのですか?!」
あ、それは分かる。クル…いや、クリストフェルって王家の人間っぽくないんだよな。あ、でもたまに、動きが凄く綺麗な時があったのはやはり教育されてたからなんだろうな。
「アルトゥル。言葉を慎め」
「――――ッ?!」
じろりと睨みつけるような陛下の視線で、あのうるさいアルトゥルがびくりと肩を震わせる。
すげー。
「それとクリストフェルは間違いなく、お前の『兄』だ。義理ではあるが」
「…え?」
陛下の言葉に小さな声を上げたのは、ヴィリを怖がっていたシャルロッタ。
彼女の言葉に、ピクリと陛下の眉が動く。こえー。
「アルトゥル。腕にしがみついているのは誰だ」
「――っ。おれ…私の婚約者…です…」
アルトゥルは震えているのか、消え入りそうな声でそれだけを告げるが陛下は興味がないのか「ふん」と鼻を鳴らす。
「ヴェルディアナ」
「はい。陛下」
陛下に呼ばれたヴェリディアナ嬢が少しだけ前に出る。…さすが公爵令嬢。肝が据わっていらっしゃる。いや、将来親子になるはずだったもんな。陛下に慣れているのかも。
「こやつとの婚約解消は話したのか」
「いいえ」
「婚約解消?」
ヴェルディアナ嬢の言葉を聞いて、顔を上げるアルトゥルに陛下の視線が射抜く。
「ええ。アルトゥル殿下と私との婚約は数か月前に解消されております」
「そ、そうなのか?! 貴様も立場をわきまえて…」
「はい。私は王家の婚約者の立場…いえ資格すら持ちえませんでしたから」
「ふん!分かればいいのだ! 父上!ならばシャルロッタと…」
「ふむ。お前が選んだ婚約者だ。…いいだろう」
「本当ですか!?よかったな! シャルロッタ!」
「やったあ!」
震える小鹿だったシャルロッタはどこへいったのやら。アルトゥルと手を握り合って見つめ合っている。
あ。陛下の目がとても冷たい…。
「ああ。お前が王位継承権を放棄するならな」
「え?」
幸せ絶頂の天国から、地獄に落とされたような落差に手を握っていた2人がオレを通り越して陛下を見る。
そして顔色を悪くしたアルトゥルがやはり噛みついた。
「なぜですか?! なぜこの第一王子であるおれが王位継承権を破棄せねばいけないんですか!」
ふーふーと興奮して肩を上下に動かしている彼を、陛下はやはり冷たい氷のような視線をアルトゥルに向ける。
おお…、こわやこわや。
「なぜだと? お前が言っただろう。立場をわきまえろ、と」
「そ、それはヴェルディアナが…!」
「アルトゥル殿下。もう婚約者ではないので名前で呼ぶのはやめていただけませんか?」
「な…っ!」
おお。ヴェルディアナ嬢もやるなぁ。今までのうっ憤をここで返そうってことか?
それにしても。
ちらりとクリストフェルを下から見上げれば、今にも口笛を吹き出しそうで。
でもこの流れだと…。
そんなことを思いながら、まだヴェリディアナ嬢の隣にいるヴィリをちらりと見れば、軽く手を振ってにまりと笑っていて。
「そもそも立場とは…ッ!」
「そうだな。ヴェルディアナは立場はあったが、資格はなかった」
「資格?」
「そうだ。なんせ“ヴィリ様の刻印”を持つものがここにいるのだからな」
「“ヴィリ様の刻印”…?!」
おお、あのアルトゥルでさえも驚く“ヴィリの刻印”。
でも“ヴィリの刻印”という言葉が陛下から発せられた瞬間、オレたち以外の全員の息を飲む音が聞こえたような気がするんだが。
仕方ないといえば、仕方ないんだけど。オレはそんなものを持っている自覚は全くないんだけどな。
すると陛下がオレを見てから、にやりと悪い顔で笑った。
「ああ。スヴェン・メルネスが“ヴィリ様の刻印”を持っている」
「え?!」
あー…。まぁ、そうなるよな。クルトがクリストフェルなら、陛下には筒抜けだよなぁ…。親子だし。
というかオレに視線が集まりすぎて痛いんですよ。そんなオレをぎゅうと抱きしめてくるクリストフェルに、ドキリとする。いつもと違う匂いは香水だろうか。すん、とそれを嗅げば「後でいっぱい嗅がせてあげますから、ね」と欲を含んだ瞳で見つめられる。
「アルトゥル。王家は“ヴィリ様の刻印”を持つものと結婚は絶対だ、ということは分かっているな?」
「――ッ。はい」
「え?! ちょっとアル!」
ちょっとエッチな気分になったが、きんきんと耳に刺さるシャルロッタの声に我に返る。おっと、危ない危ない。
というか愛称で呼んでんだな。…親の前で。
「ほう? アルと呼ばせているのか」
「そ…っれは…!」
「なによ! アルのことをアルって言って何がいけないのよ!」
怖いもの知らず。いや、なにも考えていないな。あれは。
急に周りの空気が冷え込み、思わずクリストフェルに身を寄せれば「もー。仕方ないですねー」と鼻の下を伸ばしながら抱きしめてくれる。あったけー。
じゃねぇよ。両親は大丈夫なんだろうか。
そう思ってちらりと両親を見れば…。
「ああ…」
母さんが倒れたらしく、女性と共に騎士さんにどこかへ運ばれていくところだった。
ごめん。母さん。
心の中でそう謝ると、父さんを見る。すると、初めて見る顔でオレ達を見ているだけ。
うわ。こわ。
オレがそんなことをしている間にも陛下ときゃんきゃんと吠えるシャルロッタのじゃれあいが続いていたが、やはり陛下の勝ちのようで。
「アル! 王位継承権、破棄しないよね!?」
「…だが」
「何よ! 王様になるんでしょ?!」
「それは…」
お? 珍しくアルトゥルが葛藤してるぞ?
「我々は子供の頃からヴィリ様の刻印について言われますからね。だからヴィリ様の刻印については、ああして躊躇いが出るんですよ」
「へぇ」
「けどスヴェン様はこの国を滅ぼすことを決めたのでしょう?」
「……………」
少しだけ寂しく笑うクリストフェルに、オレはこくりと頷く。さっきの騒動を見ていたらそうなるか。いや、実際はそうしようと思ったんだけど。
「それにしても…」
「うん?」
そっと左瞼を触れるクリストフェルの眉間に皺ができる。なんだ?
「ヴィリ様…。少し匂いを付け過ぎでは?」
“そうでもないよー?”
「うわっ! びっくりした!」
“ぼーっとしてるスヴェン君が悪いんだからねー”
そう言いながらぷに、と頬をつつくヴィリに半眼で返せば「やだ! スヴェン様可愛い!」となぜかクリストフェルが悶える。
「というか匂いって?」
「左目。ヴィリ様の匂いが濃いです」
「え?オレ、ヴィリ臭いの? やだー」
“うわー!なにそれー! まるで私が臭いみたいじゃない!”
「スヴェン様に匂いを付けるのは私だけでいいですよ」
“クル…じゃない、クリストフェル君のご主人様はスヴェン君だもんねー”
「そうですよ。私のご主人様はスヴェン様だけですから」
そう言いながら、オレの手の平にキスをするな。ほらー。見つけたお腐令嬢たちの瞳がきらっきらしてるじゃねぇか。
「そもそもッ! こいつが本当にヴィリ様の刻印を持っているということが信じられません!」
「そうよ! こいつがそんなものを持っているはずがない!」
お? なんやかんやで復活したアルトゥルが叫ぶと、援護するようにシャルロッタ。そんな2人を冷ややかに見つめる陛下とこの茶番劇を見つめる者たち。
「クリストフェル」
「はい」
すると大きなため息を吐いた陛下がこいつを呼ぶ。
「スヴェン様に“ヴィリ様の刻印”があるのは確かです」
「お前だけが確信しているだけでは…ッ!」
「残念だけど、見ているのは私だけではないんだよ。アルトゥル」
「は?」
クリストフェルの言葉に、きょとんとするアルトゥル。
まぁ、そうだよな。こいつだけが『ある』といっても信じないだろう。
「神官様…そうだな、今の神官長様も知っていらっしゃることだ」
「な…っ?!」
「クリストフェル殿下。それはどういうことでしょうか」
おっと。ここで父さんが参戦。まぁ、父さんにさえ言っていないことだからな。…オレも知ったのは数か月前だし。
「12年前、私とスヴェン様との出会いを覚えていらっしゃいますか?」
「…もちろんです。スヴェンの魔力測定の日でしたから」
「そう。あの日、スヴェン様は自らの火魔法で自身の身体を焼きました」
あー。そうそう。あの時初めて魔法を使って、自分の身体を焼いたんだった。今でも自分の身体が焼ける感覚と匂いが頭に残ってるし、考えなしで使ったけど延焼する可能性だってあった。だから助かった時に、焼身自殺はやめようと決めたんだっけ。その前に魔法を使えなくされたからできないんだけれども。
オレとクリストフェルの出会いを聞いた周りが少しざわつく。まぁ、祝いの場所でオレの自殺方法…しかもインパクトが強すぎるやり方だったからな。申し訳ない。
「その後、私と神官長様が治癒を行いました」
「その時に?」
「はい。あの時のスヴェン様の身体は酷く、一部が炭素化し元に戻らないと思っていました。ですがスヴェン様の身体が元通りになったことに違和感を覚え、確認をしたところ左目にヴィリ様の刻印がありました」
「左目…」
「スヴェン様の魔法封じを施した場所です」
「え? そうだったの?」
ここにきて新事実。オレが魔法を使うと、左目が痛むのはそんなものが施されてたからなのか。
「ヴィリの刻印の上に魔法封じをしたのか?」
“そうだよー”
「ってお前が話すんか!」
“うん。だってこれは私とクリストフェル君とアルジャ君との約束だからねー”
「アルジャ?」
「アルジャ様は神官長様です」
「ふーん」
ま、名前を聞いたところで知らないんだけどな!
“本当は右目にしようか、って話してたんだけど、両目に負担が掛かりすぎてヘタすると失明するからやめなよーってアドバイスしたんだー”
「はい。ですからヴィリ様のお力をお借りして刻印を少しだけ変えていただいたんです」
「変えたのか!?」
“うん。だって刻印は私が付けたんだよ? だから好き勝手出来るんだよー”
「…それはそれでなんかムカつく」
じと、と半眼でヴィリを睨めば、なぜかヴィリの先にいた男子生徒が胸を押さえ倒れた。
はい?と首を傾げれば、その隣でおろおろとしてた女生徒、更にその辺りにいた何人かが倒れた。
「スヴェン様。今日はとっても可愛らしいんですから破壊力も倍なんです。いい加減自覚してください」
「お前、相変わらずきもいな」
はぁはぁと呼吸を乱し、鼻血を垂らすクリストフェルに若干引く。ヴィリもヴィリで“昔から変わらないよねー”とけらけらと笑っている。
ついでに倒れた人たちは騎士さん達が運んでいる。なんか申し訳ない。
「ほら、これで鼻血拭け」
「うわああ!スヴェン様の左胸にあったハンカチ! 死んでもいい!」
「お前が死ぬな! オレが死にたい!」
整った顔に鼻血のインパクトが強すぎてハンカチを渡したが、まさかそのハンカチを頬擦りするとは思わなかったが…。
それ、侍女が持たせてくれたものだけどいいのか?
“スヴェン君の左胸にあったことが重要なんだよー”
「…もういい。なんか聞きたくない」
なんとなく嫌な予感に襲われ自分で自分の身体を抱くと、オレたちに刺さる視線にそこでようやく気付く。
なんだ?
「これで“ヴィリ様の刻印”を持っていない、となるととんだ役者だな」
「え?」
口元を歪める陛下に、オレたちがヴィリと会話していたことを思い出す。
そう。ヴィリは今、オレとクリストフェル、そしてヴェルディアナ嬢にしか見えていない。
さっと顔を青くするが、オレの方をクリストフェルが抱いてくれる。お。鼻血拭いた…ちょっとまて。なんで袖が赤く染まってんだよ。ハンカチはどうした、ハンカチは。
「ヴィリ様の気配は我々、王家とメルネス家、そしてローザ家は感じることは可能だ。だが、あくまで感じることができるだけ。会話などはできぬ」
「――ッ!」
「これでもスヴェンは“ヴィリ様の刻印”を持っていない、と言うのか? アルトゥル」
あれ? 何か陛下ってアルトゥルに対して厳しいよな。まぁ、アルトゥルが好き勝手やってたから擁護はしないけど。
ちらりとアルトゥルを見れば、ぎりぎりと奥歯を噛んで俯いているように見える。怒りなのか悔しいのかは分からないが、握った拳が震えている。取り巻き3人も似たような感じで、俯いている。
そして。
「もういい。あんたには用はない」
「…シャルロッタ?」
被っていたネコを完全に逃がしたシャルロッタの表情は非常に醜く歪んでいる。それを見た4人も瞳を見開き言葉を失っている。
「はぁ…。たかだかゲームにのめりこんだあたしがバカだった」
そう告げ、アルトゥル達を見る瞳は冷たい。
あれだけシャルロッタにお熱だった4人も顔色を失くし、その場に座り込む。
「なーんかしらけちゃったし、あたし帰る」
信じられないような言葉がシャルロッタから出たかと思えば、くるりと背中を向け歩きだす。
え? マジか。
けれど。
“逃がさないよ?”
ヴィリがそう告げると、くるりと一回転したかと思えば周りがどよめいた。あん?
“ようやく君を見つけたんだ。覚悟はしてよ?”
にやりと笑うヴィリに眉を寄せながら、オレはふと思い出す。
あれ? オレの処刑の話し、どっかいったな。
オレが処刑を告げられ喜んだのもつかの間。
こいつが現れた。
「そうですよ。スヴェン様。あなたの従順な侍従。クルトですよ」
その言葉に、オレはぽかんとしたままそいつ…クルトを見つめていた。
するとそのままぎゅうと抱きしめられ、すんすんと頭の匂いをかがれる。あ、こいつ間違いなくクルトだ。こんなことをするのはあいつ位だからな。
そう言えば今日、こいつに会っていないな、なんて思い出し、いつもの服とは違う服に身を纏うクルトの背中に手を回し…。
「って待て待て!」
「ッチ! なんですか?」
「舌打ちすんな! つか、なんですか?じゃねぇよ! お前、本当にクルトなんだな?!」
「そうですよ? ちょーっと髪色が違いますけど」
ちゅちゅっと頭や頬、それに瞼にキスをしまくっているクルトの言葉にハッとして、その髪を見れば金ではなく黒。
金色の髪に赤い瞳は珍しいと思ったが、まさか髪色を変えているとは思わなかった。なんせ12年の間そうだと思っていたのだから。
「スヴェン様、前髪を上げたんですね。可愛い。あいつのセンスは間違いないな」
ちゅっと露になっている額にキスをされると、蕩けた赤い…ストロベリー・レッドの瞳がオレを見つめる。
「貴様ら!なにをいちゃいちゃしている! というか、お前は誰だ!」
アルトゥルのその言葉にはっとする。そうだった! 今、パーティの最中だった!
「あ…」
何とか言葉を出そうとしたが見つからず、どもるオレ。しかし、口を開いたのはクルトだった。
「悲しいなぁ。お兄ちゃんの顔を忘れるなんて」
「は?」
くすん、とオレを抱きしめたまま泣きまねをするクルトの言葉に衝撃を受けたのはオレだけではない。アルトゥルも、他の参加者も衝撃を受けシン、と静まり返る。
「あ…に?」
「そうだよ。君のお兄ちゃん」
泣きまねをやめて、にこりと微笑むクルトは間違いなく屋敷にいたクルトのはずなのに、どこか違う。
それに眉を寄せれば、予告なく扉が再び開いた。
「先まで声が聞こえているぞ」
「へ?」
誰?
クルトに抱きしめられたままぽかんとしていると、その人の後ろからなぜか両親の姿が見える。
え? 今日のパーティ、親も参加してんの?
何が何やら分からないまま、成り行きを見守っていると先にやって来たイケオジがこちらに向かって歩いてきた。
そして。
「クリストフェル。きちんと説明をしなさい」
「父上。可愛い弟が私の顔を忘れていたようなので」
「はぁ…」
え?父上? クリストフェル? うん?
大混乱の渦の中にいるオレを離す気はないらしいクルトが「そうですよね。大混乱ですよね」と頭に頬擦りする。
どういうこと?と助けを求めるように両親を見れば「スヴェンちゃん」と心配そうに母がオレを見つめてくるが、助けてくれる様子はない。父も父で何も言わずに母の肩を抱いている。
それからぞろぞろと人が入ってきて、さらに混乱するオレと、他の人とアルトゥル。
ヴィリはヴェルディアナ嬢の側にいてにやにやとしているだけだし。腹立つな。
ぎろりとヴィリを睨めば「スヴェン様、よそ見しないでください」という甘い声と共に、顎を掴まれそのままキスをされる。
おい!
「ちょ…ま…ッ!」
「だーめ。スヴェン様が私を見てくれたらやめてあげます」
「わ、わか…ッ! んぅ!」
ちゅっと触れるだけのキスから、再び口の中へと舌を入れられる。
うぉーい!
ばしばしと遠慮なくクルトの背中を叩けば、思ったよりも早く解放されたことにほっとする。…ごねなくてよかった。
ほっとしたのもつかの間、クルトの肩越しからぱちりとイケオジと視線が合う。
そうだったー! ここには両親と良く分からんがいろんな人がいるんだったー!
「んっふふ。真っ赤なスヴェン様、かわいいー」
「ええい! とりあえずお前は誰なんだ?!」
オレのその言葉に、クルトがにっこりと微笑むとちゅっと耳にキスをされた。
「私はクリストフェル。クリストフェル=バウムガルテン」
「バウム…ガルテン?」
名前よりもそちらに意識を持っていかれる。
あれ? この国、バウムガルテンじゃなかったっけ?
「え?」
「そうですよ。私は一応王家の人間ですよ」
クルト…クリストフェルの言葉に、周りが息を飲むのが分かった。
え? ってことは…。
「あのイケオジって…」
「イケオジ? ああ、さっきから私たちを見てるのは父上、この国の王だよ」
にふ、と笑うクリストフェルにようやくオレは理解する。
「ってことは…」
「そう。一応“王子”ってことになるのかな?」
えへ、と頬を染めて照れているクリストフェルに、オレはぱくぱくとまるで金魚のように口を動かす。
クルトの予想外のカミングアウトに、オレの思考はほぼ停止。ぽかんと呆気にとられるオレを見たイケオジ…もとい、陛下がにやりと笑った後、コホンと咳払いをする。
「さて。パーティの序盤だが、もう少しだけこの茶番に付き合ってもらいたい」
「ちゃ…?!」
陛下のその言葉に噛みついたのは今まで黙っていたアルトゥルだった。
あいつ意外と短気なんだよなー。というか、陛下はどこまで分かっているんだろう?
「父上! こいつは本当に王家の人間なのですか?!」
あ、それは分かる。クル…いや、クリストフェルって王家の人間っぽくないんだよな。あ、でもたまに、動きが凄く綺麗な時があったのはやはり教育されてたからなんだろうな。
「アルトゥル。言葉を慎め」
「――――ッ?!」
じろりと睨みつけるような陛下の視線で、あのうるさいアルトゥルがびくりと肩を震わせる。
すげー。
「それとクリストフェルは間違いなく、お前の『兄』だ。義理ではあるが」
「…え?」
陛下の言葉に小さな声を上げたのは、ヴィリを怖がっていたシャルロッタ。
彼女の言葉に、ピクリと陛下の眉が動く。こえー。
「アルトゥル。腕にしがみついているのは誰だ」
「――っ。おれ…私の婚約者…です…」
アルトゥルは震えているのか、消え入りそうな声でそれだけを告げるが陛下は興味がないのか「ふん」と鼻を鳴らす。
「ヴェルディアナ」
「はい。陛下」
陛下に呼ばれたヴェリディアナ嬢が少しだけ前に出る。…さすが公爵令嬢。肝が据わっていらっしゃる。いや、将来親子になるはずだったもんな。陛下に慣れているのかも。
「こやつとの婚約解消は話したのか」
「いいえ」
「婚約解消?」
ヴェルディアナ嬢の言葉を聞いて、顔を上げるアルトゥルに陛下の視線が射抜く。
「ええ。アルトゥル殿下と私との婚約は数か月前に解消されております」
「そ、そうなのか?! 貴様も立場をわきまえて…」
「はい。私は王家の婚約者の立場…いえ資格すら持ちえませんでしたから」
「ふん!分かればいいのだ! 父上!ならばシャルロッタと…」
「ふむ。お前が選んだ婚約者だ。…いいだろう」
「本当ですか!?よかったな! シャルロッタ!」
「やったあ!」
震える小鹿だったシャルロッタはどこへいったのやら。アルトゥルと手を握り合って見つめ合っている。
あ。陛下の目がとても冷たい…。
「ああ。お前が王位継承権を放棄するならな」
「え?」
幸せ絶頂の天国から、地獄に落とされたような落差に手を握っていた2人がオレを通り越して陛下を見る。
そして顔色を悪くしたアルトゥルがやはり噛みついた。
「なぜですか?! なぜこの第一王子であるおれが王位継承権を破棄せねばいけないんですか!」
ふーふーと興奮して肩を上下に動かしている彼を、陛下はやはり冷たい氷のような視線をアルトゥルに向ける。
おお…、こわやこわや。
「なぜだと? お前が言っただろう。立場をわきまえろ、と」
「そ、それはヴェルディアナが…!」
「アルトゥル殿下。もう婚約者ではないので名前で呼ぶのはやめていただけませんか?」
「な…っ!」
おお。ヴェルディアナ嬢もやるなぁ。今までのうっ憤をここで返そうってことか?
それにしても。
ちらりとクリストフェルを下から見上げれば、今にも口笛を吹き出しそうで。
でもこの流れだと…。
そんなことを思いながら、まだヴェリディアナ嬢の隣にいるヴィリをちらりと見れば、軽く手を振ってにまりと笑っていて。
「そもそも立場とは…ッ!」
「そうだな。ヴェルディアナは立場はあったが、資格はなかった」
「資格?」
「そうだ。なんせ“ヴィリ様の刻印”を持つものがここにいるのだからな」
「“ヴィリ様の刻印”…?!」
おお、あのアルトゥルでさえも驚く“ヴィリの刻印”。
でも“ヴィリの刻印”という言葉が陛下から発せられた瞬間、オレたち以外の全員の息を飲む音が聞こえたような気がするんだが。
仕方ないといえば、仕方ないんだけど。オレはそんなものを持っている自覚は全くないんだけどな。
すると陛下がオレを見てから、にやりと悪い顔で笑った。
「ああ。スヴェン・メルネスが“ヴィリ様の刻印”を持っている」
「え?!」
あー…。まぁ、そうなるよな。クルトがクリストフェルなら、陛下には筒抜けだよなぁ…。親子だし。
というかオレに視線が集まりすぎて痛いんですよ。そんなオレをぎゅうと抱きしめてくるクリストフェルに、ドキリとする。いつもと違う匂いは香水だろうか。すん、とそれを嗅げば「後でいっぱい嗅がせてあげますから、ね」と欲を含んだ瞳で見つめられる。
「アルトゥル。王家は“ヴィリ様の刻印”を持つものと結婚は絶対だ、ということは分かっているな?」
「――ッ。はい」
「え?! ちょっとアル!」
ちょっとエッチな気分になったが、きんきんと耳に刺さるシャルロッタの声に我に返る。おっと、危ない危ない。
というか愛称で呼んでんだな。…親の前で。
「ほう? アルと呼ばせているのか」
「そ…っれは…!」
「なによ! アルのことをアルって言って何がいけないのよ!」
怖いもの知らず。いや、なにも考えていないな。あれは。
急に周りの空気が冷え込み、思わずクリストフェルに身を寄せれば「もー。仕方ないですねー」と鼻の下を伸ばしながら抱きしめてくれる。あったけー。
じゃねぇよ。両親は大丈夫なんだろうか。
そう思ってちらりと両親を見れば…。
「ああ…」
母さんが倒れたらしく、女性と共に騎士さんにどこかへ運ばれていくところだった。
ごめん。母さん。
心の中でそう謝ると、父さんを見る。すると、初めて見る顔でオレ達を見ているだけ。
うわ。こわ。
オレがそんなことをしている間にも陛下ときゃんきゃんと吠えるシャルロッタのじゃれあいが続いていたが、やはり陛下の勝ちのようで。
「アル! 王位継承権、破棄しないよね!?」
「…だが」
「何よ! 王様になるんでしょ?!」
「それは…」
お? 珍しくアルトゥルが葛藤してるぞ?
「我々は子供の頃からヴィリ様の刻印について言われますからね。だからヴィリ様の刻印については、ああして躊躇いが出るんですよ」
「へぇ」
「けどスヴェン様はこの国を滅ぼすことを決めたのでしょう?」
「……………」
少しだけ寂しく笑うクリストフェルに、オレはこくりと頷く。さっきの騒動を見ていたらそうなるか。いや、実際はそうしようと思ったんだけど。
「それにしても…」
「うん?」
そっと左瞼を触れるクリストフェルの眉間に皺ができる。なんだ?
「ヴィリ様…。少し匂いを付け過ぎでは?」
“そうでもないよー?”
「うわっ! びっくりした!」
“ぼーっとしてるスヴェン君が悪いんだからねー”
そう言いながらぷに、と頬をつつくヴィリに半眼で返せば「やだ! スヴェン様可愛い!」となぜかクリストフェルが悶える。
「というか匂いって?」
「左目。ヴィリ様の匂いが濃いです」
「え?オレ、ヴィリ臭いの? やだー」
“うわー!なにそれー! まるで私が臭いみたいじゃない!”
「スヴェン様に匂いを付けるのは私だけでいいですよ」
“クル…じゃない、クリストフェル君のご主人様はスヴェン君だもんねー”
「そうですよ。私のご主人様はスヴェン様だけですから」
そう言いながら、オレの手の平にキスをするな。ほらー。見つけたお腐令嬢たちの瞳がきらっきらしてるじゃねぇか。
「そもそもッ! こいつが本当にヴィリ様の刻印を持っているということが信じられません!」
「そうよ! こいつがそんなものを持っているはずがない!」
お? なんやかんやで復活したアルトゥルが叫ぶと、援護するようにシャルロッタ。そんな2人を冷ややかに見つめる陛下とこの茶番劇を見つめる者たち。
「クリストフェル」
「はい」
すると大きなため息を吐いた陛下がこいつを呼ぶ。
「スヴェン様に“ヴィリ様の刻印”があるのは確かです」
「お前だけが確信しているだけでは…ッ!」
「残念だけど、見ているのは私だけではないんだよ。アルトゥル」
「は?」
クリストフェルの言葉に、きょとんとするアルトゥル。
まぁ、そうだよな。こいつだけが『ある』といっても信じないだろう。
「神官様…そうだな、今の神官長様も知っていらっしゃることだ」
「な…っ?!」
「クリストフェル殿下。それはどういうことでしょうか」
おっと。ここで父さんが参戦。まぁ、父さんにさえ言っていないことだからな。…オレも知ったのは数か月前だし。
「12年前、私とスヴェン様との出会いを覚えていらっしゃいますか?」
「…もちろんです。スヴェンの魔力測定の日でしたから」
「そう。あの日、スヴェン様は自らの火魔法で自身の身体を焼きました」
あー。そうそう。あの時初めて魔法を使って、自分の身体を焼いたんだった。今でも自分の身体が焼ける感覚と匂いが頭に残ってるし、考えなしで使ったけど延焼する可能性だってあった。だから助かった時に、焼身自殺はやめようと決めたんだっけ。その前に魔法を使えなくされたからできないんだけれども。
オレとクリストフェルの出会いを聞いた周りが少しざわつく。まぁ、祝いの場所でオレの自殺方法…しかもインパクトが強すぎるやり方だったからな。申し訳ない。
「その後、私と神官長様が治癒を行いました」
「その時に?」
「はい。あの時のスヴェン様の身体は酷く、一部が炭素化し元に戻らないと思っていました。ですがスヴェン様の身体が元通りになったことに違和感を覚え、確認をしたところ左目にヴィリ様の刻印がありました」
「左目…」
「スヴェン様の魔法封じを施した場所です」
「え? そうだったの?」
ここにきて新事実。オレが魔法を使うと、左目が痛むのはそんなものが施されてたからなのか。
「ヴィリの刻印の上に魔法封じをしたのか?」
“そうだよー”
「ってお前が話すんか!」
“うん。だってこれは私とクリストフェル君とアルジャ君との約束だからねー”
「アルジャ?」
「アルジャ様は神官長様です」
「ふーん」
ま、名前を聞いたところで知らないんだけどな!
“本当は右目にしようか、って話してたんだけど、両目に負担が掛かりすぎてヘタすると失明するからやめなよーってアドバイスしたんだー”
「はい。ですからヴィリ様のお力をお借りして刻印を少しだけ変えていただいたんです」
「変えたのか!?」
“うん。だって刻印は私が付けたんだよ? だから好き勝手出来るんだよー”
「…それはそれでなんかムカつく」
じと、と半眼でヴィリを睨めば、なぜかヴィリの先にいた男子生徒が胸を押さえ倒れた。
はい?と首を傾げれば、その隣でおろおろとしてた女生徒、更にその辺りにいた何人かが倒れた。
「スヴェン様。今日はとっても可愛らしいんですから破壊力も倍なんです。いい加減自覚してください」
「お前、相変わらずきもいな」
はぁはぁと呼吸を乱し、鼻血を垂らすクリストフェルに若干引く。ヴィリもヴィリで“昔から変わらないよねー”とけらけらと笑っている。
ついでに倒れた人たちは騎士さん達が運んでいる。なんか申し訳ない。
「ほら、これで鼻血拭け」
「うわああ!スヴェン様の左胸にあったハンカチ! 死んでもいい!」
「お前が死ぬな! オレが死にたい!」
整った顔に鼻血のインパクトが強すぎてハンカチを渡したが、まさかそのハンカチを頬擦りするとは思わなかったが…。
それ、侍女が持たせてくれたものだけどいいのか?
“スヴェン君の左胸にあったことが重要なんだよー”
「…もういい。なんか聞きたくない」
なんとなく嫌な予感に襲われ自分で自分の身体を抱くと、オレたちに刺さる視線にそこでようやく気付く。
なんだ?
「これで“ヴィリ様の刻印”を持っていない、となるととんだ役者だな」
「え?」
口元を歪める陛下に、オレたちがヴィリと会話していたことを思い出す。
そう。ヴィリは今、オレとクリストフェル、そしてヴェルディアナ嬢にしか見えていない。
さっと顔を青くするが、オレの方をクリストフェルが抱いてくれる。お。鼻血拭いた…ちょっとまて。なんで袖が赤く染まってんだよ。ハンカチはどうした、ハンカチは。
「ヴィリ様の気配は我々、王家とメルネス家、そしてローザ家は感じることは可能だ。だが、あくまで感じることができるだけ。会話などはできぬ」
「――ッ!」
「これでもスヴェンは“ヴィリ様の刻印”を持っていない、と言うのか? アルトゥル」
あれ? 何か陛下ってアルトゥルに対して厳しいよな。まぁ、アルトゥルが好き勝手やってたから擁護はしないけど。
ちらりとアルトゥルを見れば、ぎりぎりと奥歯を噛んで俯いているように見える。怒りなのか悔しいのかは分からないが、握った拳が震えている。取り巻き3人も似たような感じで、俯いている。
そして。
「もういい。あんたには用はない」
「…シャルロッタ?」
被っていたネコを完全に逃がしたシャルロッタの表情は非常に醜く歪んでいる。それを見た4人も瞳を見開き言葉を失っている。
「はぁ…。たかだかゲームにのめりこんだあたしがバカだった」
そう告げ、アルトゥル達を見る瞳は冷たい。
あれだけシャルロッタにお熱だった4人も顔色を失くし、その場に座り込む。
「なーんかしらけちゃったし、あたし帰る」
信じられないような言葉がシャルロッタから出たかと思えば、くるりと背中を向け歩きだす。
え? マジか。
けれど。
“逃がさないよ?”
ヴィリがそう告げると、くるりと一回転したかと思えば周りがどよめいた。あん?
“ようやく君を見つけたんだ。覚悟はしてよ?”
にやりと笑うヴィリに眉を寄せながら、オレはふと思い出す。
あれ? オレの処刑の話し、どっかいったな。
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