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どういうご関係で…?
しおりを挟む「美しいですわ…」
「生きててよかった…」
両手を組み、天を仰いで涙を流しているのはお腐令嬢達。
おい。化粧が落ちるぞ。
なんてことはない。受付を済ませ、ヴェルディアナ嬢をエスコートして会場に入っただけだ。
会場に入った瞬間に、ざわついていた会場が静まり返りオレ達に視線が集まった。一部の視線は「ああ、やっぱりか」という視線と「大丈夫なのか?」という視線が混ざっている。
そんな視線など気にせずに、にこりと2人で微笑んで黙らせる。その瞬間、ざわりと会場がどよめいたがオレはヴェルディアナ嬢をエスコートしてお腐令嬢たちの方へと近付いていく。
「…これであってますよね?」
「ええ。ですから堂々としてくださいね」
ひそひそと小声でそんなことを話しながら移動していると、途中途中で「ほぅ」という息が漏れるのを聞く。
そんな奴らに対しても、にこりと微笑めばこちらも頬を染める。
「スヴェン様。あまり色気を振りまくと後が恐ろしいですわよ?」
「後は処刑ですから怖くありませんよ」
「…本当に知りませんわよ?」
ヴェルディアナ嬢にふふっと笑えば、呆れたような視線を受ける。
「ですが、クルト様に聞いて正解だったでしょう?」
「…まぁ。そうですね」
そう、卒業一か月前。ヴェルディアナ嬢からオレにエスコートの申し込みがあった。
それまで女性をエスコートすることなど、前世も入れて一度もやったことはない。それに「オレには無理ですよ」と告げたら「あら。クルト様にお聞きしたらいかが?」と言われてしまった。
よくよく考えればあいつも公爵家で働いている。なら、マナーも完璧なのでは?と考え、クルトに聞いてみたのだが…。
「スヴェン様、背筋を伸ばしてください」
「あ、あぁ…」
「スヴェン様、少し歩くのが早いです。女性はヒールですので」
「わ、悪い…」
と、まぁびしばしとオレのどこがいけないのかを逐一言われながら訓練を積んだ。
ああ。それはまさに訓練だった。
クルトの言うことを聞きながら、慣れないことを続けるのは非常に大変だ。しかも女性役をクルトにさせていたから、本当にこれでいいのかと悩むこともあった。
そんな時は腹上死チャレンジで悩み事を吹っ飛ばされた。吹っ飛んだのはオレの理性もだけど。
使わない筋肉を毎日毎日使ったおかげで、二週間は身体が悲鳴を上げていたがその後は徐々に慣れていった。
まぁ、お貴族様は子供の頃からこういったことをするんだろうけどさ。
「さすがスヴェン様。完璧なエスコートですね」
そうクルトに言われたときには嬉しくて「ありがとな!」と思わず抱きついてしまった。
その後は…まぁ、察してくれ。
「我慢していた分、ぐちゃぐちゃにしてあげますからね」と囁かれ丸一日寝室に籠っていたこと思い出してしまい、慌ててそれを消す。
「それにしても…。クルト様、早速スヴェン様にその宝石を贈ってくださっていたんですね」
「え?」
ふふっと笑うヴェルディアナ嬢に視線を向ければ、悪戯を思いついたようなその笑みに眉を下げる。
「スヴェン様には先に言っておきますわね」
そう前置きをした彼女に首を傾げると、左薬指を見せてくれた。
「それは…」
「ええ。私、このパーティが終わったら国を出ますの」
「…私が“ヴィリの刻印”を持っているから…ですか?」
こんなものがあるから、彼女があのバカと結婚できなくなった。
だからこの国を出ていくのだろうか。
「ああ。勘違いなさらないでくださいね。スヴェン様が“ヴィリ様の刻印”を持っていることが判明した時に、陛下に呼び出されて婚約は解消されましたの」
「やっぱり…。私のせいですよね」
「だ・か・ら。勘違いをしないでくださいませ」
ぷくりと頬を膨らませながら、オレの唇に人差し指を乗せるヴェルディアナ嬢に驚く。
「スヴェン様のせいではありませんわ。あのとき既に私とアルトゥル殿下との関係は完全に冷え切っていましたもの。むしろ助かったとも思っていますのよ?」
「…………」
ふふっと笑う彼女からは恨みを感じることができない。本当に婚約解消になって清々しているようだった。
「それにヴィリ様の神託ですから」
「ヴィリの?」
「はい。ヴィリ様から直接聞きましの」
「直接?」
え? ってことはヴェルディアナ嬢もヴィリに会ってるの?
オレが静かに驚いていると、ふわりと右肩に何かが触れた。思わずそちらに振り向けば、そこにはにやにや顔のヴィリがいて。
「お前、ビビらせんなよ!」
“ふふー。どっきり、だーいせーいこーう!”
「てめぇ…!」
にふにふと笑うヴィリを殴りたくなったが、今そんなことをすれば確実に不審者だ。
“うんうん。さすがスヴェン君。君たち以外に見えてないことをしっかりと理解してるねー”
「くそが…ッ!」
にふふーと笑うヴィリに対して、ぴきぴきと青筋が経つがなんとか怒りを押し込める。こんなところで叫んではならない。そう自分を押さえ込めるのは前世のことを覚えているからだろう。
前世を覚えていなければ、確実に殴っている。
「うん? “君たち”?」
「あら。ヴィリ様、いらっしゃっていたのですね」
“久しぶりだねー。ヴェルディアナ君。今日は可愛い格好してるねー”
「ふふっ。ありがとうございます」
オレの右肩に両手をついて姿を見せるヴィリにイラつくが、ヴェルディアナ嬢のどこか嬉しそうな声に何も言えなくなってしまった。
ちなみに当然オレ達の会話は小声だ。なんせ他人に聞かせられないことを話しているのだから。
“それにしてもスヴェン君。君の付けてるその指輪の宝石。あの国のものでしょ?”
「あの国?」
“あれ? クル…じゃない。あ、いいのか。それ、クルト君に貰ったんでしょ?”
「そうだけど…。なんでお前が知ってんだ」
“だってそれ作ったの私だもん”
「は?」
おっと。思わず猫ミームのような声が出た。
オレの声に気付いてこちらを見つめる生徒に、笑顔で返して黙らせる。ここで騒がれても面倒だからな。
「これを作ったって…」
“そうだよー。タフィから採れた珍しいストロベリー・レッドの宝石に、魔力封じをしたもん”
「タフィ?」
「ここから2つ先の今は小さな国ですわ」
「今は?」
「ええ。そこに私、嫁ぎますの」
「え?!」
思わずまた声を上げれば、今度はざわざわとざわめきが大きくなった。しまった!声が大きすぎたか?!
そんなことを思っていたが、どうやら違うようだ。
オレを射抜くように見つめてくるアルトゥルがそこにはいた。正しくは少し距離があるが。
「スヴェン・メルネス! ヴェルディアナ・ローザ! ここへ来い!」
アルトゥルのその言葉に、オレはヴェルディアナ嬢と顔を見合わせる。ついでにヴィリも覗き込んでくる。うぜぇ。
「聞こえなかったのか! スヴェン・メルネス! ヴェルディアナ・ローザ!」
怒声に近い声色にオレは首を傾げる。
オレに対して怒るのは分かる。アルトゥルに肩を抱かれてしなだれかかるシャルロッタがいるからな。
けれど、ヴェルディアナ嬢が呼び出される意味が分からない。
ヴェルディアナ嬢が言うには、すでに婚約解消されているはずだ。そしてその張本人がそこにいるのだから、聞いていないわけがないだろう。
…いや。待てよ。まさか…?
そんなことをつらつらと考えていると、ヴィリがひょいっとオレの頭に手を付きアルトゥルの方を見つめる。何してんだ、こいつ。と思ったところで、その顔にぞっとした。
笑っている。けれど、瞳が笑っていない。
初めて見るヴィリの顔に恐怖を感じた。
そして。
“ミィ・ツ・ケ・タ・♡”
声には出さない言葉の意味は分からないが、その言葉の意味を正しく捉えた人物がいた。
「ひぃっ!」
短い悲鳴と共に、アルトゥルの腕にしがみつくシャルロッタ。その顔色は青い。
どういうことなのかは分からないが、シャルロッタはヴィリを怖がっている。
「聞いているのか!」
「あー…、はいはい。聞こえていますよ」
ヴィリのことはとりあえず横に置いておいて、まずはオレのことだ。
すっと胸に手を当てて一歩前に出ると、前にいた人たちが割れる。それに倣い、ヴェルディアナ嬢もカーテシーをする。
「今から貴様らの罪を告げるッ!」
アルトゥルの興奮した声に、オレはにやけそうになる顔を引き締める。だが、今一番気になるのはオレの処刑ではなく、ヴィリとシャルロッタの関係だった。
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