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さて、動きますか

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「やぁやぁ。授業中、失礼するよ」
「メルネス…?!」

許可もなく堂々と教室のドアを開けて中に入れば、ざわめきよりも驚きの方が大きいらしい生徒たちからは反応が薄い。
ぱたん、とクルトがドアを閉める音でようやく理解したのか、ざわめきが大きくなる。

「すみませんねー、先生。ちょーっと、そこの…ええと。ああ、そうそう。シャルロッタ・カールステッドに用事があって参りました」

にこりと笑うオレに、顔色を失くして小さく震える教師。
無理もない。今のオレは口輪と拘束をしていないのだから。
教師もまさかオレがここに来るとは思ってみなかっただろう。まぁ、オレも初めはそうする気はなかったよ。

シャルロッタこのバカがオレの教室に来るまでは。

あれからクルトに公爵家のことを聞いた。もちろんヴィリの刻印についてのおまけ程度だが。
しかし…まさか本当に公爵家を止める人間が王家しかないとは…。メルネス家に生まれたことが最大の不幸だな。
それに。

ヴィリは初めから、オレを死なせようとしなかったことが分かった。

それがヴィリの刻印によって明かされたからな。
だがそれはオレの判断ミスでもある。あいつは確かにこう言った。

処刑だからね」

と。
その時は自死が確定していたと思っていたから何とも思わなかったが、ヴィリの刻印の話を聞いてお節介は初めから、そうする気だったと知ってしまった。
更にお節介が与えた物理・魔法防御のせいで完全に自死の道が立たれたことに、もっと疑問を持つべきだった。
あの時は頭に血が上って冷静に考えることができなかった。今思えば、それは考えさせない為にわざとそうしたのかもしれない。

くそが。

しかもヴィリの刻印がある限り、オレは生き続けることが確定している。
恐らくそれは「処刑」か「腹上死」以外の死は認められない、とのことだろう。
それか「寿命」か。
それに、今まで聞いてこなかったクルトのあれこれも、よくよく考えてみればおかしなことばかりだ。

ただの男爵の息子が「治癒魔法」や「封印魔法」などの高度な魔法が使えるのか?

腹上死と処刑以外の道が立たれた今だからこそ、分かったことだ。
もしも、もっと早い段階でそれに気付いていれば如何様にも、やりようはあったはずだ。
しかしそれも、もう遅い。
オレは自らの手で、道を閉ざしてしまったのだから。

「そうそう。学園長にあれこれ言っても無駄ですからねー」

にこりと更に笑みを深くすれば、教師の顔から色が抜けた。
つまりは。

文句があるならメルネス家うちを敵に回すぞ。

そう遠回しに言っているのだ。
権力というものを初めて使ったが、これはすごいな。
騒がしかった教室内が、途端にしん、と静まり返る。

そりゃそうか。
こいつらは子供の頃からヴィリのことを子供の頃から教えられている。しかも、王家と繋がっているメルネス家うちと、真正面から殴り合いの喧嘩をするメリットなどないのだ。
うむ。正しい判断だな。

こいつらが騒げば、報告を聞くのは親。
その親がどうでるかは…火を見るよりも明らかだな。

さて、そんな顔色を失った教師と生徒。
けれどもそんな中、にまにまとしている人物が一人。

「よう。シャルロッタ」
「な…何の用ですかぁ?」

お? 猫を被ったか。

「用事って言うのは至極簡単。あんたをどうにかすれば、オレは処刑されるんだからな」

なら、こちらも遠慮はいらないだろう。
笑顔を崩さずにそう言えば、シャルロッタの瞳の奥が光った。
さて、そううまくいくかな?
これからオレは遠慮なしに魔法をぶっ放すつもりだ。

オレ自身を焼き尽くすほどの火魔法。威力は低いが、それでもそれなりに威力を持つ水魔法。ありとあらゆるものを吹き飛ばし、切り裂くことのできる風魔法。穴を掘ったり土を針のように尖らせることができる土魔法。

水と土は、威力は低いがまぁまぁ使えるのだ。
ちなみに全属性を使って自殺をしたかったが、火魔法を使って以降封印されているからな。例えは子供の頃…魔法の適正を見た時にできたものだ。
今はどんな威力になるのかは未知数だ。

…癪だがあのお節介のことだ。それなりに調整はしてるだろう。

とまぁ、そんなことでクルトに目配せをすると、渋々ながらも魔法防御を張る。
シャルロッタを除いて。

「それじゃ…! まずは挨拶…を!」
「きゃああああああ!」

オレの火魔法を見て、女生徒が悲鳴を上げる。安心しろ。あんたに魔法を使ってもうまみには全くないんだから。

「いやあああぁぁぁッ!」
「あはははは!」

火魔法を玉にしてシャルロッタに投げつければ、顔をひきつらせた彼女が火に包まれる。
まさかこんなものを投げつけられるとは思わなかったのだろうが、お前が言ったんだから仕方ないよな?

いやー。我ながら完璧な悪役じゃね?

見た目は派手だが、そこまで威力はない。だが、見た目が派手だからな。しかも一瞬で人が火に包まれるんだ。
リアルで見たらトラウマだよな。
それを見てから、悪役っぽく笑えば教室内に恐怖が落ちる。皆が皆、近くにいた誰かに抱きつき恐怖に耐えている。
教師も歯が合わないのか、かちかちと音をさせている。
けれど、さすがお節介。
クルトに与えた物理・魔法防御は完璧のようだ。

しばらくごうごうと燃える人を眺めると、その火を消す。
火が消えた後には、制服が所々燃えて穴が開き、髪が少し焼けたシャルロッタが気を失っていた。
余りの恐怖に耐え切れなかったのか、人として可哀想だと思い浄化魔法をかけておく。
そして火傷もないことを確認すると、クルトに目配せする。

「今日はこれくらいにしておいてやるよ」

使い古されたセリフを告げてから、クルトと共に教室を出てオレ専用の教室に戻る。
そして、お茶を楽しんでいた教師に「戻りました」と報告をすると「おかえりなさい」と返された。

「お疲れ様です。スヴェン様」
「あー…疲れたー…。っていうかあんな疲れるんだ…」

ふらふら~っとソファに誘われるように移動して、そのまま、ぼっすと座れば、すぐにクルトが茶の準備を始める。

「うまくいったようですね」
「…オレが言うのもなんですが、本当によかったのですか?」

ふふっと笑う教師に思わずそう言えば「大丈夫ですよ」とにこにこと笑う。

「私は学園長から『メルネス君の好きにさせるよう』に言われているだけですから」
「…なるほど」

責任は全部学園長ってことか。
まぁ、上が責任を取ってくれて、自分に火の粉が掛からなければ許可するか。

「はい、スヴェン様」
「ん」

カチャ、とカップを置かれるとそれを飲む。

「一仕事終えたあとのお茶はうまいな」
「スヴェン様、おっさんくさいですよ」
「いいだろ、別に。それともクルトはおっさんなオレは嫌いなのか?」
「まさか! おっさんになろうが、おじいちゃんになろうが私はスヴェン様を愛しておりますよ? それに、をしても私だけは、スヴェン様への気持ちは変わりませんから」
「……………」

こいつ…。
暗に「お節介との約束を無下にして、王家に嫁がない選択をしても愛してる」って言ってるようなもんじゃねぇか。
じろりとクルトを睨めば「ああー…。スヴェン様に睨まれるとぞくぞくします…!」なんて自分の手で身体を抱きながらはぁはぁしている。
ちょっとだけ引いたことは秘密にしておこう。

「このクッキーおいしいですね」
「先生…」

ピリッとした空気をぶち壊す教師の言葉に、がっくりと肩を落とすと、ふふっと笑われた。

「いやー。まさかメルネス君が自殺以外で、ものすごく生き生きとしてる姿を見られるなんて思ってもみませんでした」
「…そう、ですか」

教師のその言葉に複雑な感情を抱きながら、カップを傾ける。
ちなみに教師は自分で茶を入れているが、クッキーはクルトが持ってきている。

「では明日もお持ちしますね」
「ありがとうございます。ですが明日はこちらが用意いたしましょう」
「いいんですか?」
「ええ。とてもおいしそうなケーキが手に入ったので」
「では。明日はケーキですね! スヴェン様!」
「…そうだな」

授業そっちのけでおやつタイムを楽しんでいるオレは、シャルロッタの教室内がどうなっているのか気になっていた。
今頃は授業どころではないからな。恨むなら、シャルロッタを恨んでくれ。
そんなことを思いながら、クッキーを摘まむ。
だが。

「ダメですよー、スヴェン様」
「…チッ」
「舌打ちスヴェン様、小悪魔的で可愛い!」
「どうでもいいがクッキー返せ」
「はーい。では」

オレから奪ったクッキーをぱきりと口で割り、唇に挟むと顎を軽く持ち上げられた。
そしてそのまま口移しでクッキーを食わされるわけだが…。

ケーキだとすごいことになりそうだな、なんて思いながら唾液まみれのクッキーを咀嚼するのだった。

「クッキーなのに、サクサクしてない…」
「それはもう諦めてくださいね!」
「ふふふ」


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