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5日ぶりの学園

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「久しぶり…というのもなんですが…、お久しぶりです?」
「あら」

クルトとの第一回腹上死チャレンジを終えた後、オレは爆睡したらしく気付けば翌日の夕方。
怠さや痛みは全くなく、ただただ寝ていたらしい。その間、クルトはにやにやとしながらオレの寝顔をずっと見てたと報告してくれた。たまに悪戯もしたらしいが、オレが寝ていた為ノーカンとなった。
意識がないオレの身体に何してくれてんだ、ということで脇腹に一発でチャラ。優しいな、オレ。その後、脇腹を抱えて丸まってたけど、その顔が気持ち悪いほどの笑みでぞっとしたが。
そして、こっちで言う土日をはさんだ月曜日。なんだかんだで5日間も学校を休んでしまった。とはいってもオレは一人きりだから問題ないけどな。問題があるとすれば、授業がさっぱりだ、ということだけだろう。
午前中、大人しく授業を受けてお昼。
ようやくヴェルディアナ嬢と令嬢3人と話しができると思い、いそいそと食堂へ来たが…。
オレが姿を現した瞬間、さわりとどよめきが起こった。今までにないほどのどよめきに少しだけ恐怖を感じたが、クルトが「気になさいませんように」とにっこりと笑って言うものだから、気にしないことにした。
そしていつもオレが食事をしていたテーブルには、ヴェルディアナ嬢と令嬢3人がなにやらきゃっきゃと会話に花を咲かせている。
そんな中に入っていくのは少し躊躇われたが、そんなことを言っている場合ではない。アホ王子に絡まれていないか聞かねばならないからな。
そして勇気を出して4人の会話の中に入っていったんだが…。
オレの姿を見た瞬間、令嬢3人が口元に手を当てて顔を真っ赤にし、ヴェルディアナ嬢も瞳を丸くしている。
やばい。なんか臭うか? ちらりとクルトを見れば、にこにことなぜか上機嫌だが。

「あの…?」
「スヴェン様…今日はいつにも増して色気がにじみ出ていますわね」
「い、色気?」

ふふっと笑うヴェルディアナ嬢の言葉が理解できず、眉を寄せてスミス嬢を見れば「はうっ!」と鼻血を吹き出し背もたれに倒れる。
大丈夫か?!

「クルト!」

ご令嬢が鼻血を吹き出した、なんて知られたら大変だろう?!
だがクルトは動かず、横にいたシンプソン嬢がささっと動いたかと思えば、すんっと何事もなかったのようにスミス嬢がそこにはいて。
はい?
何が起きた? 分からん…全く見えなかった…。

「申し訳ございますん、スヴェン様」
「噛んでるぞ?」
「アメリアなら問題ないですわ」
「は、はあ…」

ヴェルディアナ嬢がそう言うなら大丈夫…なんだろうな。オレには分からんが。
シンプソン嬢もヒューワー嬢も頷いているし、本人のスミス嬢も元気そうなので良しとしよう。やはり女性は宇宙並みの不思議さだ。

「ところで…私の色気がどうとおっしゃっていたように聞こえましたが…?」
「まぁ! スヴェン様はお気付きになられておりませんの?」
「はい…」

きょとんとしているヴェルディアナ嬢にそう言えば「あら」とシンプソン嬢とヒューワー嬢が瞬きを繰り返す。
え? 本当に何があったんだ?

「スヴェン様がここ食堂に姿を現した瞬間に、男子生徒3人、女子生徒5人が倒れましたわ」
「はい?」
「それからここに来るまでに男子生徒が6人、女子生徒が3人、こちらも倒れましたわね」
「…………」

そういえば所々で「きゃあ!」とか「うわっ!」とか聞こえたのは、オレが現れたからそう言っていたのかと思ったが…。違ったのか?
ちらりとクルトを見れば「チッ」と舌打ちをしていて。おい!

「だからもう少し休みましょう、って旦那様も奥様もおっしゃったじゃないですか」
「いや、意味が分からん」

そう、今日学校へ来るときになぜか両親にめちゃくちゃ止められたのだ。けれど体調不良もないのに休むなどいかがなものかと両親に言ったところ、クルトに「死人が出てからじゃ遅い。何かあったらすぐに戻ってくるように」と父が言っていた。
何を言ってるんだ、とは思ったが、まさか人が倒れるとは…。っていや、オレのせいじゃないだろ?

「たまたま倒れたとか、では?」
「無自覚…」

呆れたようにそう呟くクルトを睨むと、令嬢3人が「きゃあああぁ!」と黄色い悲鳴を上げた。
そうだった…。このお三方はお腐れ様だった…!

「まぁまぁ。いずれ慣れますわ」
「…ローザ様ちゅおい」

というかご令嬢3人、ヴェルディアナ嬢をもはや信仰してないか?
新しい宗教とかいいんだろうか。…お節介的に。
そんなことを思いつつ、クルトが引いてくれた椅子におとなしく座ると、すぐに食事が運ばれ来た。彼女たちの分まで。

「食事はまだでしたか?」
「あ、そうですわ。ちょっとお話が盛りあがってしまって…」
「なら、私の方が邪魔でしたね」
「ちちちちち違います! スヴェン様は決して…!」

がたん!と音を立て勢いよく立ち上がるヒューワー嬢に視線が集まる。オレもぽかんとすると、隣にいたシンプソン嬢が「落ち着いてくださいませ」と笑っている。
彼女の言葉にハッとしたヒューワー嬢が、顔を真っ赤にして「申し訳ございません」と俯きながら椅子に座る。

「いえ。謝るのは私の方ですね。すみません」
「ふふっ。そうですわね。寧ろスヴェン様の所にお邪魔しているのはわたくしたちの方なのに」

そう言って、くすくすと笑うヴェルディアナ嬢の言葉に、そういえばそうだった、とオレも苦笑い。
拘束と口輪を取ってもらうと、何かに気付いたヴェルディアナ嬢が「あら」と口を手で覆う。

「スヴェン様、拘束も取ってしまわれるのですか?」
「…色々ありまして、自分で傷をつけることが不可能になりましたので」
「そうですのね…。そのことは皆様…」
「知りませんね。知っているのは両親とクルトだけですから」
「…そんな重要なことを、私たちが聞いてもよろしいのですか?」

恐る恐る聞いてくるのは、この中では一番爵位が低いヒューワー嬢だ。

「問題ないですよ。ヒューワー嬢は私と友達ですから」
「ひょっ?!」

にこりと微笑みながらそう告げれば、一瞬でヒューワー嬢が灰になった。それに、側にいた給仕もなぜか頬を染めている。
さらさらと灰になってしまったヒューワー嬢を慌ててシンプソン嬢がかき集め、なにやらごにょごにょするとすぐに復活した。だから、何が起きているんだ。気になりすぎる…!

「そうですわね。わたくしとスヴェン様、それにアメリア、サラ、サマンサもお友達ですものね」
「はひゃ…」

ご令嬢たちからにょろっと何が飛び出したのを目視して驚いたが、それは直ぐに戻っていく。

「ううう…私とヴェルディアナ様がお友達…」
「そうですわ。スヴェン様もそうおっしゃったでしょう?」
「はひぃ…!」

微笑むヴェルディアナ嬢につられるように、オレも笑えばオレから見て正面の人間が全て灰になる。

「まさに魔性ですね」
「あん?」

ぽつりとつぶやいたクルトの声に、じろりと睨めば「スヴェン様、可愛い!」と手で顔を覆う。こいつはいつも通りなんだけどな。

「ふひゅ…ふひゅひゅ…」
「皆さま。こんなことで灰になっていたら、これから先持ちませんわよ!」
「ふぐぅ…」

ヴェルディアナ嬢の言葉に、灰になっていた生徒がゆっくりと元に戻っていく。一番早く戻ったのはご令嬢たちだが。

「そうですわ…! こんなことでいちいち灰になっていたらこの先が思いやられますわ…!」
「そ、そうですわね!」

そんなことを言いながらなぜか励まし合うご令嬢たちに苦笑いを浮かべると、そういえばとヴェルディアナ嬢を見る。

「ヴェルディアナ嬢は平気なのですね」
「いえ! 全く!」
「うん?」

思っていた返答は違う言葉に首を傾げると、わっとクルトと同じく顔を手で覆ってしまった。

「スヴェン様の色気にわたくしも中てられておりますわよ!」
「ええ…」

半ば半切れ状態で言われて、オレは困惑してしまう。
そもそも色気ってなんだよ。

「クルト、色気って…」
「さぁさぁ、ご飯を食べましょうか」
「おい! 聞けよ!」

クルトのその言葉にヴェルディアナ嬢が「ではいただきましょうか」と笑う。
え? 結局、色気って何なんだ?
分からん。かといって、正面で灰になった生徒の大半はいまだにさらさらしてるし、ちらっと視線を移した生徒もぶっ倒れた。

オレ…メドゥーサになった?

視線を合わせるとぶっ倒れる能力でも身に着けた?
なんて思っていたら、くいと顎を持ち上げられた。
そして。

「ん…」

いつも通りの食事。うん、いつも通りなんだけど…。

「ふぁ…あ…っ」

休みだからと1日がっつり第二回腹上死チャレンジをしたことが幸いした。

やばい。めっちゃむらむらする。

キスだけでもう身体、というか尻の穴がむずむずする。
これってやっぱりお節介のせいだよな? オレがい…淫乱になったとかじゃないよな?
くちゅ、と音を立てて舌が抜けていくのが寂しくて、つい、クルトの裾を掴んだ。

「スヴェン様?」
「ぁ…くるとぉ…」

足りない。舌じゃなくて、違うのが欲しい。
ちょうだい、と瞳で訴えれば、珍しくクルトの瞳が揺れた。
そんな中。

「ごふっ!」

正面から音がして、ハッとすれば、ご令嬢たちが口からケチャップと涙を流しながら手を合わせ、天を仰いでいる。
ついでに給仕も視線を逸らしながら口元を手で覆っている。

そうだった…! ここ、食堂だった!

屋敷じゃなかったことを思い出し、慌てて掴んだ裾を離せばクルトに抱きしめられた。
はい?

「スヴェン様のそんな顔、見せられません」
「え?」

どういう…という言葉は紡げず、大人しくしていると「スヴェン様は本当に魔性ですわ…」という言葉が横から聞こえた。
ヴェルディアナ嬢…。お腐れ様の仲間入りしたのは分かりますが、それはどういうことか問い詰めてもよろしいですか?

「皆さま、大丈夫ですか?」
「マジ」
「無理」
「尊い…」

あー…。オタク用語が出ちゃってるよ…。ということは絶賛拝み中か。
なんか見なくてもご令嬢たちの言葉で何となく察することができるようになったよ…。

「ローザ様は本当にお強いです…」
「いえ。わたくしはスヴェン様の横にいるので、そこまで破壊力がないというか…」
「なるほど。だから正面にいるお三方が死にそうになっているのですね」
「ええ。わたくしも、正面からスヴェン様を見たら、アメリアたちのようになりますわ」
「そんな自信満々に言われましても…」

あのアホの婚約者でしょうに…。
ああ、でもあのアホとは解消した方がいいと思いますよ。オレがどうこう言えた義理じゃなけれど。
もごもごと話すオレに彼女たちからのリアクションがない。と、いうことは灰になってる?

「スヴェン様」
「ん?」

彼女たちのことを気にしていると、腕が離れ頬をそっと包まれた。

「どうした?」
「スヴェン様、ここでは舌しか入れられません」
「そうだな?」
「下のお口は屋敷に戻ってからです。いいですか?」
「まぁ…ここでヤるわけにはいかないからな」

学校でセックスなんぞさすがに無理だろ。そんなことは分かってるぞ?
なんて会話の最中に「がしゃーん!」と音がして正面を見ようとしたが、クルトの腹に阻まれた。おい! 気になるだろうが!

「みみみみなさまさささま、おちおおおおおちおちちちち」
「ヴェルディアナ嬢、落ち着いてください」

ついにヴェルディアナ嬢まで壊れたようだ。いやいや、ダメだろ?!
というかどうしたんだよ。

「あの…ヴェルディアナ嬢?」

オレが恐る恐る話しかければ、カシャン!と音がしたし、そこかしこでガシャーンと言う音と「おい! しっかりしろ!」という男子生徒の声、そして「大丈夫ですか?!」という女生徒の声で大混乱になっているようだ。
え? マジで何が起きてるんだ?!

「クルト様」
「分かっている」

するとクルトに話しける声がした。その声に聞き覚えはなかったから、給仕の人だろう。

「スヴェン様。さすがにパニックになっていますので、場所を移動しましょう」
「移動?」
「はい。ヴェルディアナ嬢、移動できますか?」
「もちろんですわ。移動、となるとあそこですわね?」
「あそこしかありません。スミス嬢、シンプソン嬢、ヒューワー嬢もご一緒に移動を」
「わかりました」
「お食事はどうされますか?」
「そのまま持ってきてください」
「畏まりました」

なんだかよく分からん会話を聞いていると、肩を叩かれた。

「スヴェン様。申し訳ございませんが移動をします」
「それは構わないが…どこに行くんだ?」

音だけで結構な大惨事が起きていることは分かっている。その原因がオレだとは思いたくないが、そうなんだろう。
なら、オレ原因がいなくなれば落ち着く、はずだ。クルトの提案に頷くと口輪と拘束を、と視線をクルトから逸らした時だった。

「ぅぐ…っ!」
「え?」

たまたま視界に入った男子生徒が胸を押さえて、テーブルに突っ伏す。おいおい! 大丈夫か?!

「ク、クルト!」
「チッ。スヴェン様の流し目を見やがって」

違う、そうじゃない。あの生徒は大丈夫なのかってことを聞きたかったんだよ!

「このままではスヴェン様の色気に中てられた方々が増えるばかりですわ」

復活したヴェルディアナ嬢がきりっとした声でそう告げるが、なんか納得できないんだよなぁ…。

「スヴェン様、申し訳ありませんが、口輪も拘束もなしでいきます」
「…いいのか?」
「緊急事態ですから」
「なら魔法でオレの顔を変えたらいけそうか?」
「…本来なら使っては欲しくありませんが、仕方ありません。いきますよ?」
「ああ」

そう言ってオレの額に手を当てるクルトの手の平が温かい光を放つ。

「緊急。クルト・エーゲルの名において魔法の許可をします」
幻影イリュージョン

って待て。オレに魔法って効くのか?
お節介に言われたことを今思いだし、魔法が揺らげば「スヴェン様!」とクルトの鋭い声が飛んでくる。

「魔法を使う時は集中してくださいと何度も言ったでしょう!」
「…っあ」

その声にハッとすると、集中力を高めていく。かからなかったら、かからなかった時だ。だが魔法防御は発動せず、オレの顔に幻影がかかる。
それを確認するとすぐにクルトが「シール!」と額に手のひらを当て、魔法を封じる。
けれど。

「痛…っ!」
「スヴェン様、見せてください」
「ん」

ずきりと痛む左目をクルトが確認してくれる。
ズキズキと痛む目からは涙が溢れるが、仕方ない。

「マズイ。はっきりと出てる…!」
「幻影かけてるから見えないんじゃないか?」
「…いえ。これを見られる訳にはいきません。目を隠しますよ?」
「分かった」

幻影が掛かってオレとは違う顔になっているはずだが、魔法を使った後のこれがどうなっているか分からない。
クルトが焦る程なのだから、はっきりと出てるんだろうな…。

「ヴェルディアナ嬢、スミス嬢、シンプソン嬢、ヒューワー嬢。行きましょう」
「わかりました。さ、行きましょう?」
「は、はい」

オレを椅子から立たせ、目を覆ったままクルトに案内されるように歩き出すと、後ろからヴェルディアナ嬢たちの声が聞こえてくる。
そして少し歩くと、ドアが開かれ中へと案内される。しかし、足元に感じるそれを踏みしめた瞬間、ここが特別な場所だと気付く。
部屋の中央部分まで歩くと、パタンとドアが閉まる音がした。

「クルト、ここは?」
「ここは王族、並びに公爵家しか使えない部屋ですわ」
「へ?」

そんな部屋ったのか。というか、今何と?

「王族?」
「はい。ここは王族と公爵家しか使えません」
「…なるほど?」

つまりは本当に特別な部屋、ということか。そんな部屋があること自体知らなかったぞ、おい。

「スヴェン様は知らなくて当然ですよ。ここを使っているのはアホ王子だけですから」

クルトのその言葉に「お前!」と言い返したいところだったが、アホ王子はアホ王子だから何も言わないことにした。


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