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これが所謂お腐れ様というものか?
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「ええと…? ヴェルディアナ嬢、こちらの方たちは…?」
シャルロッタの提案を飲んだ翌日。
昼食を取ろうと食堂へやって来たのはいいのだが…。
「スヴェン様!」
オレの姿を見たヴェルディアナ嬢が、どこか興奮気味にオレの名前を呼ぶ。
珍しい。淑女の鑑のようなヴェルディアナ嬢が、そんなものを放り投げているとは。
瞳をキラキラとさせて、大きく手を振る彼女の様子に急ぎ足でテーブルに近付くと、そこにはヴェルディアナ嬢以外の女子生徒が3人、どこか気まずそうに座っていて。
そして、冒頭のオレの言葉になる。
「彼女たちのお話を聞いて、ようやくわたくしのもやもやが晴れましたの!」
「もやもや?」
「ええ! 最近、このもやもやの原因が分からずスヴェン様にもご心配をおかけしたでしょう?」
「あ…ああ!」
食事をしていると、手を止めて「ほぅ」とため息を吐いてたことか。
それの原因が分かった、と。
「それは何よりで」
「ええ!」
にこにこと微笑むヴェルディアナ嬢は心の底から笑ってでいるようで、頬が少し染まっている。
元気になったのならよかった。
だが。
「失礼ですが、あなた方は…?」
「はひっ?!」
ヴェルディアナ嬢から視線を1人の女生徒に向けた途端、顔を赤くしてあわあわと口を開いては閉じる。
なんだ?
そんな彼女に首を傾げれば、視線を向けた彼女の隣の女生徒が「はうっ」と言いながら顔を手で覆い、ぶんぶんを首を振っている。
な、なんだ…?
「スヴェン様。彼女たちを『もえ』させてはいけませんわ」
「もえ?」
「あぁ…」
クルトがきょとんとしながらヴェルディアナ嬢の言葉を繰り返すと、最後の一人も手で顔を覆い「無理…顔がいい…尊い…」と言いながらなぜか泣き始めてしまった。
それに困ったのはオレ達で。
側から見ればオレが泣かせているように見えるだろう。
ぐずぐずと泣き始める女生徒と、未だぶんぶんと頭を振る女生徒。さらには祈るように胸に指を組んで、静かに涙を流す女生徒。
カオスだ。
だがそんな彼女たちをヴェルディアナ嬢が慰めている。
「ええ、ええ。突然『おしかぷ』の方々を目の前にされたらそうなりますわよね」
「ううう…ローザ様ぁ…ありがとうございますぅ…」
おしかぷ?
なんだそれはという疑問を抱えながら、泣いている女生徒をそのままにしておくわけにもいかないだろう。
クルトに目配せをすると、こくりと頷き拘束と口輪をそのままに、泣いている女生徒の側まで行くと、そっとハンカチを渡す。
「そのように泣かれては目が腫れてしまいます」
「はひぇ?!」
「これをお使いください」
「ぷ、ひぴゅ…?!」
もはや言葉にならない言葉を口にする女生徒が、ぱくぱくと口を開いては閉じるのを見ていると、ヴェルディアナ嬢がクルトの持っていたハンカチをそっと手にしてから、自分のハンカチを彼女に差し出した。
「こちらを使うのが憚られますわよね。こちらをお使いくださいな」
「ありがとうごじゃいましゅううぅぅ! ろーじゃさまああぁぁぁ!」
わっとテーブルに突っ伏し、泣き始めた彼女の肩をヴェルディアナ嬢が撫でている。
そして連鎖するように「尊い…!」「顔面偏差値が強すぎて直視できない…!」などと言いながら泣き始める彼女たち。
な、なんなんだ?
訳が分からなさ過ぎてぽかんとしていると、ヴェルディアナ嬢が「ごめんなさいね。スヴェン様」と眉を下げて謝る。
「ああ…いえ。ところで彼女たちは大丈夫なのですか?」
「多分…。目の前にご本人が現れたことで感情がこう…ぱーん、と…」
「爆発した、と」
「ええ、ええ。そうです」
「ですがなぜ我々の姿を…?」
クルトがそう告げるとヴェルディアナ嬢が、話してくれた。
「彼女たちはスヴェン様の後ろのお席で、ずっと見ていらしたらしいのです」
「そうなのか?」
そうクルトに聞けば、こくりと頷く。
知ってたんかい。
「敵意などは感じられませんでしたからそのままにしておいたのですが…。ダメでした?」
「お前の判断ならダメじゃないだろう」
「ありがとうございます。スヴェン様」
「ふぐっ!」
祈りをささげていた女生徒が突然、苦し気な声を上げたかと思えば胸を押さえてテーブルに突っ伏す。
それにぎょっとしたオレはクルトに「診てさしあげろ!」と告げれば、その女生徒の左手がストップを遂げる。
本人の拒否により、クルトがオレを見つめる。それに頷くと、すっと後ろに下がった。
「尊すぎて直視できないだけですから…」
「はい?」
「この方たちはクルト様とスヴェン様のお姿を正面から見るのは初めてでして…」
「ああ…うん。なんとなく分かった気がする」
「スヴェン様、あとで教えてくださいね?」
「…分かった」
こそこそとそう話していると、顔を覆っていた2人が胸を押さえ「てぇてぇ」と言いながら、静かになってしまったことにヴェルディアナ嬢が驚き、必死に肩を揺さぶっていた。
「「「たいっへん申し訳ございませんでした!」」」
3人が3人とも頭を深々と下げている。
あれからものの数十秒で復活した3人に少し引いたが、オレ達の姿を見てすぐにこうなった。
ちなみに飯はまだ食えていない。
もう食わなくてもいいかな、なんて思っていたがそんなオレの考えなどクルトにはお見通しのようで「ちゃんとご飯を食べさせますからね」と言われてしまったのだ。
心で舌打ちをして、にこにことしていると「はう…」「尊い…」などという言葉が聞こえるが無視だ無視。
話しが進まん。
「それで…?」
「申し遅れました。私アメリア・スミスと申します」
「サラ・ヒューワーですわ」
「サマンサ・シンプソンと申します」
「侯爵家のスミス嬢、シンプソン嬢。それと伯爵家のヒューワー嬢、ですね」
「わわわわ私たちのことをご存じで?!」
ひわわ!と頬を染めて手で口元を隠すのはどうやら3人の中のリーダー格のスミス嬢。
だが、それをよしとしないのはクルト。
さっと顔色を変えたことによって、クルトが睨んだのは確かで。
「クルト」
「スヴェン様。あなたは公爵家の人間ですよ?」
「細かいことは気にするな」
「いけません」
「も、申し訳ございません!」
がたん!と音を立て、立ち上がり頭を下げるスミス嬢に、シンプソン嬢とヒューワー嬢も椅子から立ち上がり頭を下げている。
ほら。こうなる。
「クルト様。わたくしからも謝らせていただきますわ。申し訳ございません」
「4人とも顔を上げてください。私は気にしておりませんから」
「ありがとうございます。さ、あなた方も」
「は、はい…」
顔色を悪くしたまま顔を上げると、給仕が椅子を戻す。
というかいつの間に来たんだ? 気付かなかった。
「私は爵位などは気にしませんので、ヴェルディアナ嬢と同じようにしていただければ」
「は、はい!」
「ふふっ。よかったですわね。皆さま」
「ありがとうございます。ローザ様」
ちなみにオレの一つ開けた先にヴェルディアナ嬢が座っている。そして目の前には3人のお嬢さん方。
ようやく落ち着いたオレ達のテーブルに給仕が食事を運んでくる。オレ達だけではなく、3人のお嬢さん方の分まで。
「わ、私の分まで?!」
そうヒューワー嬢が慌てふためいているのを、ほわんとした気持ちで見つめているとそれに気付いたのか、途端に顔を赤くして俯いてしまった。
「さぁ、いただきましょうか」
「は、はい」
そんな空気をヴェルディアナ嬢がそれとなく変えると、4人が食事を始める。
オレは口輪を外すと「はっ」と息を吐く。
すると「カチャン!」と目の前に座っていたシンプソン嬢の手からナイフが皿の上に落ちていた。
それに驚き「怪我はありませんか?」と聞けば、ぷるぷると小さく震えながら「は、はひ!」とどもった返事が返ってきた。
音を聞きつけ、給仕が新しいナイフを置いていくと、ヴェルディアナ嬢が「スヴェン様の色気を浴びてしまいましたものね」と笑っている。
色気?
どういう意味だ?とクルトを見れば、にこりと微笑むだけで。
するとスミス嬢から「ん゙ん゙っ」と声が漏れたかと思ったが、すんっとして食事を続けている。
なんだったんだ?
よく分からないが、とりあえず食事を始めようと、クルトが野菜を口に含んでくい、と顎を持ち上げた時だった。
「不快になるやもしれませんが、ご了承ください」
「いえ!いえ! 私たちなどお気になさらないでくださいませ!」
「は、はぁ…」
ふんふんとなぜか鼻息を荒くするスミス嬢に若干引きながら、上を向けばそのままクルトの唇が重なる。
気にならないのからいいか、と呑気に思っていると、ころりと野菜を口の中に入れられた。
そしてそのまま舌が口腔内を舐めまわす。
「んっ、ぅ、っふ…」
ころころと野菜を転がしながら口腔内をまさぐる舌に眉を寄せる。
実はこれ、オレの口の中に毒薬が仕込まれていないか探るためであったりする。
知恵がついて、毒なんかに詳しくなった時に…まぁ、やらかしたわけだ。
その頃はまだフォークやスプーンなど、人間らしいもので食べていたが一度奥歯の隙間に毒を持つ花の根を詰めたことがあった。
監視をかいくぐり、どうにかこうにかして手に入れたそれを与えられた食べ物と共に、噛んだのだ。
それからは大騒ぎ。
既にクルトがいたから、浄化魔法の後に治癒魔法をかけられ事なきを得てしまった。
それからオレが人間らしい食事の仕方を取り上げられたわけで。
そんなことがあって、食事の時は必ず一口めの時はこうしてクルトの舌で口腔内をまさぐられる羽目になった。
オレとは違う舌が歯列をなぞり、最後に舌を絡め柔らかな野菜を舌で押しつぶしてからずるりと抜けた。
「っは…」
濡れた唇を指で拭かれると、少し租借してごくりと野菜を飲み込む。
「お前な」
「食べやすくなったでしょう?」
「だからって舌で潰すな」
「えー」
そんなやり取りをするオレ達をほのぼのと見つめるヴェルディアナ嬢。しかしお嬢さん3人組は、ナイフとフォークを持ったままなぜかぷるぷると肩を震わせながら俯いていて。
さすがに刺激が強かったか?とは思ったが、クルトはそんなこと関係なくもくもくとオレの口の中に野菜や肉、パンを口移しで食べさせていく。
「んむ」
ちゅ、ちゅと食事を与えられるたびにリップ音がするんだが?とクルトを見れば、にんまりと笑っている。
変な奴だな、と思いながらも気にせず食べ進めていけば、今度は食事を与えられた後に、ちゅっとキスを落としていく。
「クルト」
「なんですかぁ?」
「何ですか、じゃない。キスは要らないだろ」
「いりますよー? ねぇ?」
そう言ってなぜかお嬢さん3人に聞くクルト。
するとお嬢さん方は指を胸の前で組んで、静かに涙を流しながら天を仰いでいる。
それにびくりと肩を震わせると「ね?」とクルトが笑う。
なにが「ね?」だ。分からんわ。
そんなオレとは反対に、機嫌よく食事を与え続けるクルトに文句を言っても仕方ないからそのまま好きにさせたのだった。
シャルロッタの提案を飲んだ翌日。
昼食を取ろうと食堂へやって来たのはいいのだが…。
「スヴェン様!」
オレの姿を見たヴェルディアナ嬢が、どこか興奮気味にオレの名前を呼ぶ。
珍しい。淑女の鑑のようなヴェルディアナ嬢が、そんなものを放り投げているとは。
瞳をキラキラとさせて、大きく手を振る彼女の様子に急ぎ足でテーブルに近付くと、そこにはヴェルディアナ嬢以外の女子生徒が3人、どこか気まずそうに座っていて。
そして、冒頭のオレの言葉になる。
「彼女たちのお話を聞いて、ようやくわたくしのもやもやが晴れましたの!」
「もやもや?」
「ええ! 最近、このもやもやの原因が分からずスヴェン様にもご心配をおかけしたでしょう?」
「あ…ああ!」
食事をしていると、手を止めて「ほぅ」とため息を吐いてたことか。
それの原因が分かった、と。
「それは何よりで」
「ええ!」
にこにこと微笑むヴェルディアナ嬢は心の底から笑ってでいるようで、頬が少し染まっている。
元気になったのならよかった。
だが。
「失礼ですが、あなた方は…?」
「はひっ?!」
ヴェルディアナ嬢から視線を1人の女生徒に向けた途端、顔を赤くしてあわあわと口を開いては閉じる。
なんだ?
そんな彼女に首を傾げれば、視線を向けた彼女の隣の女生徒が「はうっ」と言いながら顔を手で覆い、ぶんぶんを首を振っている。
な、なんだ…?
「スヴェン様。彼女たちを『もえ』させてはいけませんわ」
「もえ?」
「あぁ…」
クルトがきょとんとしながらヴェルディアナ嬢の言葉を繰り返すと、最後の一人も手で顔を覆い「無理…顔がいい…尊い…」と言いながらなぜか泣き始めてしまった。
それに困ったのはオレ達で。
側から見ればオレが泣かせているように見えるだろう。
ぐずぐずと泣き始める女生徒と、未だぶんぶんと頭を振る女生徒。さらには祈るように胸に指を組んで、静かに涙を流す女生徒。
カオスだ。
だがそんな彼女たちをヴェルディアナ嬢が慰めている。
「ええ、ええ。突然『おしかぷ』の方々を目の前にされたらそうなりますわよね」
「ううう…ローザ様ぁ…ありがとうございますぅ…」
おしかぷ?
なんだそれはという疑問を抱えながら、泣いている女生徒をそのままにしておくわけにもいかないだろう。
クルトに目配せをすると、こくりと頷き拘束と口輪をそのままに、泣いている女生徒の側まで行くと、そっとハンカチを渡す。
「そのように泣かれては目が腫れてしまいます」
「はひぇ?!」
「これをお使いください」
「ぷ、ひぴゅ…?!」
もはや言葉にならない言葉を口にする女生徒が、ぱくぱくと口を開いては閉じるのを見ていると、ヴェルディアナ嬢がクルトの持っていたハンカチをそっと手にしてから、自分のハンカチを彼女に差し出した。
「こちらを使うのが憚られますわよね。こちらをお使いくださいな」
「ありがとうごじゃいましゅううぅぅ! ろーじゃさまああぁぁぁ!」
わっとテーブルに突っ伏し、泣き始めた彼女の肩をヴェルディアナ嬢が撫でている。
そして連鎖するように「尊い…!」「顔面偏差値が強すぎて直視できない…!」などと言いながら泣き始める彼女たち。
な、なんなんだ?
訳が分からなさ過ぎてぽかんとしていると、ヴェルディアナ嬢が「ごめんなさいね。スヴェン様」と眉を下げて謝る。
「ああ…いえ。ところで彼女たちは大丈夫なのですか?」
「多分…。目の前にご本人が現れたことで感情がこう…ぱーん、と…」
「爆発した、と」
「ええ、ええ。そうです」
「ですがなぜ我々の姿を…?」
クルトがそう告げるとヴェルディアナ嬢が、話してくれた。
「彼女たちはスヴェン様の後ろのお席で、ずっと見ていらしたらしいのです」
「そうなのか?」
そうクルトに聞けば、こくりと頷く。
知ってたんかい。
「敵意などは感じられませんでしたからそのままにしておいたのですが…。ダメでした?」
「お前の判断ならダメじゃないだろう」
「ありがとうございます。スヴェン様」
「ふぐっ!」
祈りをささげていた女生徒が突然、苦し気な声を上げたかと思えば胸を押さえてテーブルに突っ伏す。
それにぎょっとしたオレはクルトに「診てさしあげろ!」と告げれば、その女生徒の左手がストップを遂げる。
本人の拒否により、クルトがオレを見つめる。それに頷くと、すっと後ろに下がった。
「尊すぎて直視できないだけですから…」
「はい?」
「この方たちはクルト様とスヴェン様のお姿を正面から見るのは初めてでして…」
「ああ…うん。なんとなく分かった気がする」
「スヴェン様、あとで教えてくださいね?」
「…分かった」
こそこそとそう話していると、顔を覆っていた2人が胸を押さえ「てぇてぇ」と言いながら、静かになってしまったことにヴェルディアナ嬢が驚き、必死に肩を揺さぶっていた。
「「「たいっへん申し訳ございませんでした!」」」
3人が3人とも頭を深々と下げている。
あれからものの数十秒で復活した3人に少し引いたが、オレ達の姿を見てすぐにこうなった。
ちなみに飯はまだ食えていない。
もう食わなくてもいいかな、なんて思っていたがそんなオレの考えなどクルトにはお見通しのようで「ちゃんとご飯を食べさせますからね」と言われてしまったのだ。
心で舌打ちをして、にこにことしていると「はう…」「尊い…」などという言葉が聞こえるが無視だ無視。
話しが進まん。
「それで…?」
「申し遅れました。私アメリア・スミスと申します」
「サラ・ヒューワーですわ」
「サマンサ・シンプソンと申します」
「侯爵家のスミス嬢、シンプソン嬢。それと伯爵家のヒューワー嬢、ですね」
「わわわわ私たちのことをご存じで?!」
ひわわ!と頬を染めて手で口元を隠すのはどうやら3人の中のリーダー格のスミス嬢。
だが、それをよしとしないのはクルト。
さっと顔色を変えたことによって、クルトが睨んだのは確かで。
「クルト」
「スヴェン様。あなたは公爵家の人間ですよ?」
「細かいことは気にするな」
「いけません」
「も、申し訳ございません!」
がたん!と音を立て、立ち上がり頭を下げるスミス嬢に、シンプソン嬢とヒューワー嬢も椅子から立ち上がり頭を下げている。
ほら。こうなる。
「クルト様。わたくしからも謝らせていただきますわ。申し訳ございません」
「4人とも顔を上げてください。私は気にしておりませんから」
「ありがとうございます。さ、あなた方も」
「は、はい…」
顔色を悪くしたまま顔を上げると、給仕が椅子を戻す。
というかいつの間に来たんだ? 気付かなかった。
「私は爵位などは気にしませんので、ヴェルディアナ嬢と同じようにしていただければ」
「は、はい!」
「ふふっ。よかったですわね。皆さま」
「ありがとうございます。ローザ様」
ちなみにオレの一つ開けた先にヴェルディアナ嬢が座っている。そして目の前には3人のお嬢さん方。
ようやく落ち着いたオレ達のテーブルに給仕が食事を運んでくる。オレ達だけではなく、3人のお嬢さん方の分まで。
「わ、私の分まで?!」
そうヒューワー嬢が慌てふためいているのを、ほわんとした気持ちで見つめているとそれに気付いたのか、途端に顔を赤くして俯いてしまった。
「さぁ、いただきましょうか」
「は、はい」
そんな空気をヴェルディアナ嬢がそれとなく変えると、4人が食事を始める。
オレは口輪を外すと「はっ」と息を吐く。
すると「カチャン!」と目の前に座っていたシンプソン嬢の手からナイフが皿の上に落ちていた。
それに驚き「怪我はありませんか?」と聞けば、ぷるぷると小さく震えながら「は、はひ!」とどもった返事が返ってきた。
音を聞きつけ、給仕が新しいナイフを置いていくと、ヴェルディアナ嬢が「スヴェン様の色気を浴びてしまいましたものね」と笑っている。
色気?
どういう意味だ?とクルトを見れば、にこりと微笑むだけで。
するとスミス嬢から「ん゙ん゙っ」と声が漏れたかと思ったが、すんっとして食事を続けている。
なんだったんだ?
よく分からないが、とりあえず食事を始めようと、クルトが野菜を口に含んでくい、と顎を持ち上げた時だった。
「不快になるやもしれませんが、ご了承ください」
「いえ!いえ! 私たちなどお気になさらないでくださいませ!」
「は、はぁ…」
ふんふんとなぜか鼻息を荒くするスミス嬢に若干引きながら、上を向けばそのままクルトの唇が重なる。
気にならないのからいいか、と呑気に思っていると、ころりと野菜を口の中に入れられた。
そしてそのまま舌が口腔内を舐めまわす。
「んっ、ぅ、っふ…」
ころころと野菜を転がしながら口腔内をまさぐる舌に眉を寄せる。
実はこれ、オレの口の中に毒薬が仕込まれていないか探るためであったりする。
知恵がついて、毒なんかに詳しくなった時に…まぁ、やらかしたわけだ。
その頃はまだフォークやスプーンなど、人間らしいもので食べていたが一度奥歯の隙間に毒を持つ花の根を詰めたことがあった。
監視をかいくぐり、どうにかこうにかして手に入れたそれを与えられた食べ物と共に、噛んだのだ。
それからは大騒ぎ。
既にクルトがいたから、浄化魔法の後に治癒魔法をかけられ事なきを得てしまった。
それからオレが人間らしい食事の仕方を取り上げられたわけで。
そんなことがあって、食事の時は必ず一口めの時はこうしてクルトの舌で口腔内をまさぐられる羽目になった。
オレとは違う舌が歯列をなぞり、最後に舌を絡め柔らかな野菜を舌で押しつぶしてからずるりと抜けた。
「っは…」
濡れた唇を指で拭かれると、少し租借してごくりと野菜を飲み込む。
「お前な」
「食べやすくなったでしょう?」
「だからって舌で潰すな」
「えー」
そんなやり取りをするオレ達をほのぼのと見つめるヴェルディアナ嬢。しかしお嬢さん3人組は、ナイフとフォークを持ったままなぜかぷるぷると肩を震わせながら俯いていて。
さすがに刺激が強かったか?とは思ったが、クルトはそんなこと関係なくもくもくとオレの口の中に野菜や肉、パンを口移しで食べさせていく。
「んむ」
ちゅ、ちゅと食事を与えられるたびにリップ音がするんだが?とクルトを見れば、にんまりと笑っている。
変な奴だな、と思いながらも気にせず食べ進めていけば、今度は食事を与えられた後に、ちゅっとキスを落としていく。
「クルト」
「なんですかぁ?」
「何ですか、じゃない。キスは要らないだろ」
「いりますよー? ねぇ?」
そう言ってなぜかお嬢さん3人に聞くクルト。
するとお嬢さん方は指を胸の前で組んで、静かに涙を流しながら天を仰いでいる。
それにびくりと肩を震わせると「ね?」とクルトが笑う。
なにが「ね?」だ。分からんわ。
そんなオレとは反対に、機嫌よく食事を与え続けるクルトに文句を言っても仕方ないからそのまま好きにさせたのだった。
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