事務職員として異世界召喚されたけど俺は役に立てそうもありません!

マンゴー山田

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ダンジョン攻略 5

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妖精?が「きゃああああああ!」と叫んだ後、俺も一緒に「きゃあああああ!」となぜか叫んでいた。
シモンの耳元で叫んだけれど、それどころではない。

「よう…ようせ…陽性?!」
「ハルト。字が違う」
「んあ?!」

パニックになっている俺に冷静に突っ込んでくれるシモン。ありがたいんだけど、これ本当に妖精なの?!

「あー。ハルトは見るの初めてだもんなー」
「パニックになるのも分かるわ」
「取って食われるわけじゃないから安心しろ」
「なんでそんなに冷静なの?!」

ほわわんとしているトレバー達に突っ込めば「だって…」「なぁ?」とそれぞれが顔を見合わせている。
なんだよー!

「妖精なんてその辺にいたからなー」
「そうそう。この国、妖精がいないから珍しいなって思ってた」
「え? そうなの?」

ぱちりと瞬きをしてトレバー達を見れば「そうだよ」と笑っていた。

「確かに7年前の『朔月』が起こってから妖精の姿はあまり見ていないような気がするな」
「そうなんだ」

きゃーきゃーわーわーと妖精がパニックを起こしている中、俺たちはのんびりと会話をしてるけどいいのかな?
っていうか結構いるのな。ざっとみえるだけで20人?くらい?

「というか…ここを通ったら25階、攻略でいいのかな?」
「そうなるのか?」

俺達がそんな会話をしていると、パニックになっていた妖精たちの動きがピタリと止まった。
それに「え?」と声を出せば、ばっと一斉に妖精たちが俺たちを見る。
あれだ。ホラーゲームとかで人形が一斉にこっちを見るような演出だ。
それにひくりと口元を引きつらせると、シモンの首に巻き付けている腕に力を込めた。

「攻略…」
「ダメ!」
「させない!」

『攻略』という言葉に反応した妖精たちが逃げから一転、反撃するように俺たちに向かって飛んでくる。
まるで虫が向かってくるような動きに身体が固まると、シモンが手を伸ばした。

「やー!」
「離せ! 離せよー!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

シモンの指に羽を摘ままれた妖精がわんわんと泣き、その子を助けようと周りに妖精が集まってくる。
するとシモンの手があっという間に蛍まみれになり、そんな光景にぽかんとしてしまう。

「攻撃されても痛くないから安心しろ」

ぽんぽんと頭を撫でてくれるトレバーとグレンに「そっか…」と息を吐く。

「やー! はーなーせー!」
「断る」
「?!」

シモンが無表情にそう告げると、羽を摘ままれた子の顔色が変わった。
そりゃそうだろう。けど…。なんか…動きが…。

「虫っぽい…」
「嫌か?」
「ちょっと…」

小さな手足をバタバタさせているのがどことなく虫っぽくて、ぞわぞわする。
見るのも嫌になって、す…と視線を逸らすと、妖精たちの瞳が俺に向いた。

「あ」
「そっちのに行けー!」
「弱っちい方に行けー!」
「うぇ?!」

シモンの手に集まっていた妖精たちが一斉に俺に向かって飛んでくる。
それに、ぞわりと背中に冷たいものが走った。
けれど。

「てい」
「うわー!」
「何すんだよー!」

俺の目の前にあったのは手の甲。それが動くと、妖精が「わー!」「風がー!」と叫びながら飛ばされていく。
手で風を送っただけなのに…。妖精って風に弱いのかな?

「全く。大丈夫か?」
「う、うん。ありがと。ヒュー」

戸惑いながら頷くと「よしよし」と頭を撫でられた。

「ちょっと! いい加減離しなさいよ!」
「それはできない」
「何よー! もー! こうなったら!」

羽を摘ままれていた妖精が何かをしようとしていることは分かった。けれど、俺にはどうすることもできない。

「えい!」

ぴかっと光ったかと思えば、シモンの手から妖精が消えていて。
それに驚いてきょろきょろとあたりを見回せば、妖精がぷかぷかと浮いていた。

「ええ?!」
「ふっふーん。妖精の力を舐めるんじゃないわよ!」

ふん!と胸を張る妖精が、ニヤリと笑うとぶんぶんと飛び始めた。しかしそれは二つに分かれて。
ええー?!

「どっちが本物か」
「分かるかな?」

そう言いながら俺たちの周りを飛び回る妖精。二つの光が縦横無尽に飛び回り、困惑する。

「え? え?」

トレバー達も眉を寄せて妖精を捕まえようとするけど早くてなかなか捕まえられないし、捕まえられたとしても消えてしまって、それが本物ではないことが分かる。
でも。

「え?」

シモンが妖精の羽を再び摘まんでいて。
それには妖精も驚いている。

「オレに幻術は効かんぞ」
「ええーッ?! なんでー?!」

妖精の驚きの声を聞きながら、俺は「幻術?」と口にしていた。
するとシモンが「ああ」と頷くと、摘まんでいる妖精を持ち上げて俺に見せてくれた。

「なんでなんでなんでよー! なんで幻術が効かないのよー!」

ぷんぷんと両手を上げて怒っている妖精に俺も同じ気持ちだよ、と思っているとシモンが口を開く。

「幻術はルカが得意としていたからな」
「ルカ…さん?」
「ああ。幻術の訓練によく付き合わされたからな。狭い範囲なら問題ない」
「そ…っか」

ルカさんの話を聞いて、つきんと痛む胸。けれど傷付いている場合じゃない。
ルカさんのことはひとまず置いておいて、シモンに問うてみる。

「でもハワードは幻術のことは知らなかったみたいだけど?」
「そうだろうな。ルカの幻術の力はオレしか知らないから」
「…そ、なんだ」

けど、そこで『幻術』という言葉にハッとした。

「もしかして壁を作っていたのは…」
“ふむ。無事ここにたどり着いたか”

俺の言葉を遮るように声を被せてきたのはルス。
それと。

「あー! てめぇ! 妹を離せ!」
「妹?」
「そうだよ!」
「おにいちゃーん! 助けてー!」

わー!と泣き始めてしまった妖精に思わず「離してあげてよ」と言いそうになった時。

“かかか。シモンとやら。それはそのまま摘まんでおけ”
「いやいやいや! 可哀想だよ!」
「? ハルト?」

あー! そうだった!
ルスと会話できるの俺だけだったー!
と、いう訳で翻訳開始。

「そのまま摘まんでおけって言ってるけどさ…可哀想だよ…」

だばだばと涙を流しながら、小さな手足を上下に動かす妖精。
兄、と呼ばれた妖精も、シモンの指に噛みついたりしてるけどダメージはゼロだ。

「ルス様のお言葉だからな。ハルトには悪いが…」
「シモン!」
“くかか! シモンとやらは話が分かる!”
「ルス!」
“ああ。面倒だな。話が分かるようにするか”
「ちょっと?!」

ルスがそう言った後、やっぱり光が俺たちを包む。
だから! 眩しいんだって!

“シモンとやら、聞こえるか?”
「…はい。聞こえます」
“よしよし。ならそのままそれを摘まんでおけ。よいな?”
「…はい」
「シモン!」

ルスの言葉に従うの?!とシモンを見れば、こくんと頷いた。
なんだよー!

“かかか! それはそうと小童”
「なんだよ!」

何とかして妹を救おうとしている妖精に話しかけるルスだけど、妖精の方はそれどころじゃなくて。
そんな妖精をルスが笑う。

“我との『約束』を覚えておるだろうな?”

ルスのその言葉に、ぴたりと動きが止まった。
『約束』?
なんなんだ?と首を傾げて俺は成り行きを見守る。

「わ…」
“忘れた、とは言わせんぞ”

ぴしゃりと告げるルスはどこか怖い。怒ってるのか?

「ルス様」
“なんだ?”
「その、約束とやらを我らが聞いても?」
“問題なかろう”
「おい!」
“なんだ。やはり忘れてはおらんではないか”
「ぐ…っ」

“よくやった”と言わんばかりにトレバーを見て満足そうに笑うルス。
妖精には悪いけど気になったんだよな。
ちょっとだけ、そわっとすれば“ハルトも気になるか”とルスがかかかと笑う。
ルスの笑い方って独特だよな。

“それで? 忘れておらんのなら『約束』をここで言ってみよ”
「………………」
“なんだ? 都合が悪いからだんまりか。つまらんやつだな”
「ルス…」

妖精の姿が小さいからか、なんだか小さい子をいじめているような感覚になってくる。

“見た目に騙されるなよ? こ奴らはお前たちよりも年上なのだからな”
「え?」
“こう見えて50年は生きているからな”
「うえ?! マジかよ?!」
“くかか! 新鮮な反応だな!”
「ハルトは初めて見ますし」
“そうだった、そうだった! それで? 思い出したか? 小童”

50年生きてる妖精を小童…。
まぁルス自体、何年生きてるか分かんないしな。
50年で小童なら、22年しか生きていない俺は何だろうか。
…赤ん坊?

“赤ん坊がいいなら赤子と呼んでも構わんぞ?”
「それだけは絶対やめてくれ」
“なんだ。つまらんやつだ”

かかかと笑うルスだけど、これ明らかに時間稼ぎだよね?
それでも何も言わない妖精に焦れたのか、ルスから笑いが消えた。

“時間切れだ”
「だ…!」
“我とお前の『約束』。それは…”
「やめろ!」

妖精が止めに入るけど、ルスに触れる前に弾かれた。
怖っ!

“『ここまで人間が来たら我らは去る』だったな?”
「――――ッ!」
“それすなわち、ダンジョン踏破のことなり”

ルスの言葉に飛ばされた妖精が悔しそうに唇を噛んでいたのを、俺はただ見つめることしか出来なかった。


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