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ただイケでもダメなことはあるらしい

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「それにしてもまたあそこに行くのかぁ…」

シモンから25階を攻略することを聞いた翌朝。
3人と一緒に魔道具開発部に行って、ハワードに顔を見せたらすぐに「説明があるからね☆」と言われ部屋に引っ張り込まれた。
もちろん3人も。

クッキーを食べながら今後のことを説明されるけど、俺のやることは変わらない。
それで、今後のことを考えてあの光る植物シリーズを持ってきてほしい、との依頼を受けた。
あそこはやっぱりどうあがいても扉は開かないみたい。他の所は2週間で半分ほどの踏破報告が上がってるらしい。

すげーな。冒険者って。

感心しながらハワードの説明を聞いていると。あの扉の先は今いる階層よりも30~40以上の階層の魔物がいるらしい。
そのお陰で怪我人も多いそうだ。それでも裏ダンジョンに挑む冒険者に畏怖の念を抱く。

まぁそんなこともあって、ポーションの材料が欲しいらしい。
でもあの枝は触るのやだなー…。

「裏ダンジョンかー。楽しみだなぁー」
「遊びに行くわけじゃないんだぞ」
「分かってるよー」

んふんふと笑いながらわくわくしてるハワードと、それを諫めるシモン。
そう。実は俺たち4人じゃなくて、6人だったりする。
俺らとは別に護衛の騎士さん2人も一緒だけど。
というか依頼主まで一緒に行くとかどうなの?って感じだけど。

「確認だけど、兄さんはハワードさんを、オレ達はハルトを守る、でいいんだな?」
「ああ」

シモンのその言葉に勝手に傷つく。
まぁ、俺よりハワードの方が偉いからね。
別にトレバー達に守ってもらうのが嫌なわけじゃないんだけど。

ハワードと俺を囲むようにして歩いてるけど、殿は騎士さん。珍しいな、と思いながらやってきました10階の一本道の最奥。
ででん、と相変わらず鎮座している扉に苦笑いを浮かべると、右腕が元気いっぱいに俺を引っ張る…かと思いきや、なぜか後ろを指さす。
なんだ?

「どうした?」
「いや…なんか後ろの人が気になるのかな?」
「はい?」

ヒューに聞かれても俺だって分かんないし。でもなんで騎士さんを指さすんだ?

「悪いけど言ってる意味が分からないんだけど…」

右手に話しかける俺はとっても間抜けだろうが許してくれ。
すると、あの部屋で聞こえた声が響いてきた。

“なぜわからぬ”
「いや。知らんし」

いきなりそんなことを言われてもマジで知らんがな。
呆れながら右手と会話を続ける。おっとー。そんな目で見るのやめてくれよー。
俺だって自分の右手となんで会話してんのか意味不明だから。

“そやつら、あの部屋に入ったら食うぞ”
「だから。なんで」
“貴様に敵意を持つものを入れるほど優しくはない”
「おっとっとー?」

あれ?
右腕がデレた?
自分の右腕がデレるとか意味分からん。でも呼び方は貴様なのね。なんでだよ。
じゃなくて。

「敵意を持っている?」

俺のその言葉に反応したのは周りで。

「ハルト。今なんて言った?」
「はい?」
「敵意? どういうことだ?」
「というか、普通に右手と話しできてるの聞いてないんだけど?」

約1名、違うことで怒ってらっしゃいますね。言ってませんでした。ごめんなさい。これは俺の落ち度です。本当に申し訳ございません。

「どうせ後ろの奴らの事だろ?」
「なんだ。分かってたんだ」
「これで分からなかったから冒険者辞めて野菜でも作るわ」

え? そんなに分かりやすかったの?
俺はなんか嫌われてれるなーって感じだったけど。

「つか敵意ってなんだよ」
“はぁ。これだから異世界人は”
「危機感がなくて悪かったな」
“…右手を切り落とそうとしておるぞ”
「WOW! マジか!」
「なんだって?」

おっと。めっちゃシモンが怖いんですけど。というか3人も怖いんですよー。
ハワードもなんか静かに怒ってるし。
いや。俺が嫌われるのはいいんだよ。マジで。

「あー…えーっと…」

言ってもいいのか分からずちらりと後ろを見れば、どこか顔色が悪い。
あれ? マジでそう思ってたの?

「ハルト」
「はひ!」
「何を言われた?」
「え…? えーっと…」

さてどうしたものか。
素直に言えばこの人たちがどうなるか分からん。俺のせいでどうのこうのされるのはなんか嫌だし。
そもそもことが起きてない、推測の段階だ。こいつ右腕がそう思ってるだけで実際は違うかもしれない。なら。

「後ろの人たちが部屋に入ると食われるって」
「は?」

うん。嘘は言ってないぞ?
ただ後半の言葉を言ってないだけで。

「というか、この人たちも入る予定だったのか?」
「いや。扉の前で待機予定だ」
「なるほど。じゃあ入れない方がいいよ。どう『食う』かは知らないけど、マジみたいだから」

そう言ってちらりと後ろを見ると、びくりと身体を跳ねさせる騎士さん。
まぁ、これで入りたいなんて言わないと思うけど…。大丈夫だよね?

“甘いな”
「分かってるよ。でもまだ推測だろ?」
“貴様は分かっていないな”
「うん?」
“我はダンジョンであり、国である。そして人の思考を読むことも簡単だ”
「うっわ。プライバシーの侵害だぞ。それ」
“ふん。何とでも言え”

右腕がそういうならそうなんだろうな。ある意味国が意思を持ってるようなもんだし。
こっわ。

「…兄さん。こいつらを置いていくでいいよな?」
「ああ」
「君たち、戻ったら何かしら処分はあるからねー」

にっこりと笑うハワードだけど言ってることはめっちゃ怖いじゃん。
あー。ほらー。めっちゃ怯えてるしー。

「ハワード」
「これで忠告は2回目。意味わかるよね?」
「2回目?」

どういうことだ? すでに1回忠告されてたってこと?
それがマジならなんも言えませんな。

「まぁいいや。さっさと行ってケーキ食いたい」
「ヒュー…」
「俺も早く戻って甘いもん食いたいー」
「ハルトまで…」

ヒューの言葉で緊迫していた空気が一気に和む。というか俺も紅茶とケーキ食いたい。
腹減った。

「はぁ。ヒューとハルトの腹が減ってるっぽいからさっさと行く、でいいか?」
「ああ」
「ハルト、頼んだ」
「はいよー。と言いたいところだけど大丈夫かな?」
「と、いうと?」
「俺の意志じゃどうにもなら…っとと?!」

もはや右腕は俺の意志とはかけ離れてるからな…。
頼むって言っても嫌だって言われたらそれまでだし。
と思ってたけど、右腕が素直に扉に触れた。

マジか。デレてるじゃん。

それに驚きつつ、ズズズ…とやはり重そうな音を立てながら開いていく。
やっぱりちょっとうるさいよな。この音。っていうか、こんなでかい扉を開けるんじゃなくて、人が入れるだけの扉を付ければいいのに。

“ほう。それはそれで面白そうだ”
「どぅわ?! いきなり話しかけんな! びっくりしたわ!」
“貴様の言う通り、扉をもう一つ作るか”
「えー…それ採用すんのー?」
“その方が余分な魔力も使わずに済む”
「理由はそっちかい」

右手とコントをしつつ、ズンと地面が少し揺れると扉が完全に開ききった。
そしてトレバーが先に入り、続いて俺が。その後をグレンとヒュー。その後をハワード。殿はシモン。
全員が入ると、再び重い音を立てて閉まっていく。
お。あの騎士さん達は大人しく待っててくれるみたいね。よかったよかった。食われる所を見たくないからねー。
…また吐いちゃいそうだし。
そんなことを思いながら、光る右腕がなぜかその場で上がる。あん?

すると。

「うわっ?!」
「なんだ?!」

びっかー!と光る右腕に、瞼が焼かれる。
やめーい! やめーい! 眩しいっつーの!

俺の文句を聞いて嬉しそうな右腕がさらに輝きを増す。
あ! こら!
しばらく眩しい光を発していた右腕からそれが徐々に治まると、ゆっくりと瞼を開く。
すると。

「すげぇ…」

そこには真っ暗な空間ではなく、煌々と照らされた部屋があった。

「へぇ。こうなってたのか」

グレンが感心したようにそう呟くと、俺もぐるりと周りを見渡す。

「岩だらけだったんだ」
「吹っ飛んでたらやばかったな」
「ホントだよ」

ヒューに肩を抱かれながら冗談っぽくそう言われて、俺もそう返したけど実際はめちゃくちゃやばかったんだな。

「ほへぇ。すごいねー」
「ハワード。口が開いてる」
「仕方ないじゃないか!」

ふんふんと大興奮のハワードに苦笑いを浮かべてから、ふと岩の陰から淡く光る部分を見つけた。

「なぁ、あそこ光ってないか?」
「うん? どこだ?」
「あそこ」
「あー?」

どこだよ、とヒューの顔が近づくけど俺は気にせずに「だからー」と横を向いた瞬間「んぶっ」という声と共にヒューが離れていった。
なんだ?と首を傾げると、俺の側にはなぜかシモンがいて。
なにしてんだ? お前。

「近い」
「ご…ごめんなさい」
「ヒューが何したってんだよ」
「……………」

ってなんで俺が睨まれてんの?!
そんなシモンに、俺も睨み返せば「ハルトー!」と鼻息荒くハワードが寄ってきた。

「なに?」
「ここ隅から隅まで見たいんだけど…!」
「…光る植物シリーズはいいのかよ?」
「よくない! けど! 気になる!」

ハワードの何かを刺激したこの部屋を調べるのはいいけどさ。

「ならまた今度、調べれば?」
「え?」
「この部屋、逃げるわけじゃないだろ?」
「いいの?」
「? どういうこと?」
「気付いてないならいいけど! 今度があるならそうしたい!」
「そうしてくれ」

あははと力なく笑ってから、ヒューを見ればなぜかグレンに慰められていて。
なにしてんだよ。ホントに。

「そうだ。ハワード」
「なぁにー?」
「さっきヒューに見てもらったんだけど、あそこ。光ってないか?」
「あそこ?」
「うん」

そう言って指をさせば、ハワードの瞳が大きく見開いた。
すると、そこに向かって走っていくハワードにぽかんとする。けれどその後をトレバーが追いかけていく姿を見て、グレンとヒューが駆け出していて。
少し遅れてから、俺も駆けだせばなぜかシモンに右手を握られていた。

「って俺じゃなくてハワードを…!」
「行くぞ」
「ぅえ?! ちょ、ちょっと…?!」

右手を引かれて走り出せば、すぐに背中しか見えなくなって。
それが少し嬉しいだなんてどうかしてる。
けれど。

「もう少しゆっくり走ってもらえませんかね?!」
「…運動不足だな」
「仕方ないだろ!」

そんなたわいない会話が楽しくて。
でもなんやかんや言って、俺のペースに合わせてくれるシモンに口元を緩めてしまう。
そうやって手を繋いだまま走れば、ハワードが「いちゃいちゃしてないで早く来てよー!」と叫んでいた。



「疲れた…」
「お疲れさん」
「おう…」

ハワードがあちこち見て回りながら、俺達が光る植物シリーズを回収。
世界樹の挿し木の若樹を見た瞬間、なぜか号泣したハワードに驚きながら4人で必死に慰めた。
あれはマジ焦った。

それから俺が見つけた淡く光ってたところ。
あれ、世界中で使われてる『蛍石』らしい。
ルーセントヌール国でしか取れない、熱くなくて半永久的に光り続けるとっても貴重なものだった。
人食いダンジョンが現れてから、この『蛍石』も取れなくなって困ってたらしい。だから今回見つけた『蛍石』はすごく助かるって言われた。

なんでも他国から遠回しに「早く採掘してよ」と言われてたらしい。
ルーセントヌールでも採掘をしたいけれど、魔物退治で手いっぱい。頼みの綱の冒険者は人食いダンジョンを恐れて近付かない、という負のループに陥っていたようだ。
拳大の蛍石を持ち帰ってきたけど、それは小さく割って使うんだってさ。主にダンジョンの明かりなんだと。

そんな中、蛍石とは違う石を発見。何気に手にしたら、ハワードがぶっ飛んだ。
それに驚きながら「なにこれ」と聞けば「ダマスカス鋼だよ!」とはぁはぁと息を乱しながら教えてくれたけど、ちょっと…うん。ちょっと引いたよね。
イケメンでもダメなことはあるんだな、なんて思いながらハワードにそれを渡せば「はばー!」と奇声を上げていた。
それには3人もドン引き。
分かる。
それからダマスカス鋼をいくつか拾って、ハワードが持ってきたカバンへとぽいぽいと放り投げていく。
シモンも手伝ってくれたけど、団長に何させてんだって話だよな。

…楽しそうだったけど。

でもルカさんのペンダントトップのことは何も聞かれなかった。意外だ。
まぁそんなこんなでさっき戻ってきた。
風呂入りたいー。でも甘いもの食いたいー。

ソファにぐったりと座ると頭を撫でられた。
これはトレバーだな。

「おれ達これから鍛冶屋に行くけど…」

ミノタウロス戦でトレバーとグレンの武器を折ったことは報告済だったらしく、ハワードが快くダマスカス鋼を何個か譲ってくれた。
それにかなり驚いてたけど、俺が折っちゃったからな…。
遠慮なく持って行ってくれ。
武器がないと何もできないから、さっそく鍛冶屋に行くらしい。俺も興味あるから行きたかったけど、眠気がやばい。

「いてらー…」
「ハルトは疲れたもんな。おやつの準備していくから、食ったら寝ててもいいからな」
「はーい」

そしてグレンがおやつを用意してくれて、テーブルの上に置いてから「じゃあ行ってくる。ちゃんと鍵はかけること」と言われ、ドアまで送ったあと言われた通り鍵をかける。
1人で留守番することが初めてだから少し心細かったけど、おやつのケーキを食べて少し横になろうと階段を上る。
俺に与えられた部屋に入ると、ベッドへとダイブする。

眠い。

頑張ったからもう寝ていいよな?
誰に聞いたわけじゃない。けど、なんかそんな気分で。

「おやすみ…」

ダイブしたままそのまま瞳を閉じれば、なぜか頭を優しく撫でられたような気がして。
誰もいないんだからそんなのはまさに気のせいで。

「おやすみ。ハルト」

俺の幻聴だろう。聞きたい声を聞いて、つい言葉が出た。

「おやすみ…シモン」




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