事務職員として異世界召喚されたけど俺は役に立てそうもありません!

マンゴー山田

文字の大きさ
上 下
8 / 48

ダンジョン探索 5

しおりを挟む

「ハルト」
「んあ?」

シモンに声をかけられて反応するけど、その表情は険しい。どうした?

「発熱してるな?」
「あー…やっぱりそうなんだ」
「無茶をしすぎだ」
「こうでもしなきゃ戻れないんだから無茶もするよ。俺も死にたくないしな」
「……………」

疲れて免疫が下がったところに、腕に噛みついたから発熱したかな? 元々腕の感覚がなくなった時に、だるさとか感じてたけど。

「発熱位で戻れるなら安いもんだよ」
「おまえとんでもないこと言ってんの分かってんのか?」
「うん?」

心配そうに見てくる弓使いの人に首を傾げれば「はぁ」と大きなため息を吐かれた。
む。なんだよ。

「兄さん。こいつ兄さんが見てないとあっさり死ぬぞ?」
「…まさかこんな無茶をするとは思わなかった」
「なんか酷くない?」
「酷くないだろ。事実だろ」

呆れたようにそう言うのは弓使いの人。
つん、と人差し指で額を突かれた。

「なんだよー!」
「はいはい。元気になったら文句を言いに来い」

完全に子ども扱いする3人にムッとはするものの、そこまで嫌じゃない。
兄貴…というより親戚が3人できたみたいでなんか楽しい。

「まぁ、まずはポーションが飲めるようになったらだな」
「うぐ」

シモンにそう言われ、あの匂いと味を思い出し「うへぇ」と鼻に皺を寄せれば3人に笑われた。

「お前さんの舌にはまだ早かったか!」
「いやいやいや! あれまずいだろ!」
「飲み慣れれば癖になるぜ?」
「ポーションを飲み慣れちゃダメだろ…」

わいわいとたわいのない話をしながらダンジョンを歩く。
行先を聞かれている可能性を考えて路が分かれたときは、俺がシモンだけに分かるように指をさしながら進んだ結果…。
色々なことが判明した。

まずは指さしで行先を知らせるというもの。
初めのうちは順調だった。
けれどダンジョンも学習するのか、行った先で路が変わり始めた。それまでは曲がり角が少なかったのに…。

指さし作戦に限界が見え始めたころ、次の作戦はシモンに耳打ちするように行先を告げる作戦。
行き止まりや、左右に分かれた路、それに直線と左右どちらかの路しかない場合もこそりと耳打ちしながら進んだ。
これもまた初めのうちはよかったが、やはり曲がり角が急に増え左右に振られるようになった。

一体何が原因何かが分からず、一度シモンが俺とは違う道を進みだしたときに慌てて修正をしたことがあった。
するとあら不思議。
しばらくは何も起こらず、すいすいと進めた。しかしやはりというかなんというか。
順調に進んでいたけど、あからさまに遠回りをさせられる路に変わった。

そこでこのダンジョンはフェイントをかければすぐさま対応できないことが分かった。
これだけか、と思うことなかれ。
全く情報がない状態でこれだけでも分かっていれば、対処はしやすくなる。
1人のフェイントで混乱するなら、複数人なら?

これを提案したけど、それは却下。
俺が元気ならばあっちこっちと歩けるけど、今の状態なら許可は出来ないとシモンに言われてしまった。
しかも3人にも「ダメだ」とバッサリと言われる始末。
頭は痛くないから問題ない、と言っても「熱出してるやつに無理はさせられない」と弓使いの人に頭を撫でられてしまった。
子供扱いに腹を立てる元気はあったけど、しおらしくしておいた。



「で? だいぶ歩いたが?」
「うーん…もうそろそろ出口だと思うんだけど…」

休憩しながら中央部分から北への路をあちこち変え、歩いてきたから結構時間も経ってる。
とりあえず火の刻までに戻らねば。
シモンは時間は分からない、と3人に言ってあるから時間を知ることもできない。
けど、マップ的に入り口近くにはもう戻って来てるはずなんだよなー。

脳内マップを確認しても、あともう少しなんだ。
距離で言えばもう一キロもない地点。

けどここからが酷かった。

フェイントをかけても進む先に曲がり角のオンパレード。
曲がってはまた曲がり角。

ふざけんな。

曲がり角ばっかだから、同じ地点をぐるぐる回ってるんじゃないかって錯覚する。
けど曲がりながらも実は少しずつ外には出られたんだよ。実感がないだけで。
それでも早く戻りたいという焦りが出始めたのか、熱が少しずつ上がっているのが分かる。
それに。

「体力やばそうだし」
「ああ。だいぶ消耗してるな」

シモンでさえ少しの疲労が見えているから、戦闘をしている3人はもっと消耗しているだろうし。
ここまできて誰かが脱落するなんて絶対に嫌だ。
ぐっと左手を強く握ると「やめろ」とシモンに静かに言われた。

「でも早めに出ないと…!」
「それとお前の怪我は関係ないだろう」
「俺の怪我なんかどうでもいいんだよ!」

俺の怪我はポーションを飲めば治る。
けど、ここで『食われれば』戻れないのだ。

「ハルト」
「だから…! 俺は…!」
「ハルト!」

シモンの大きな声にビクリと肩を震わせると、ハッとして視線を彷徨わせる。
背負われて顔が見えなくてよかったと思う反面、見えないからこそ怖い。

「あのな。俺たちだってもちろんここから出たいさ。でもな」

そう言ってやっぱり俺の頭を撫でるのは、槍使いの人。

「俺たちだって、お前が怪我したりするのは嫌なんだよ」
「でも…。でも…ッ!」
「何を焦ってるのか知らんが、俺たちだって冒険者だ。体力はまだある。だから安心しろ」

ふんっと鼻息を付きながら腕を組んで胸を張るのは剣使いの人。

「落ち着け。俺たちにはお前だけが頼りなんだから」
「―――ッ!」

弓使いの人にそう言われると、喉がひりつき痛くなる。
そしてシモンの背中に顔を押し当てると、背中を撫でられた。

「俺はお前を信じてる。ゆっくりでいい。路を示してくれ」

シモンにそう優しく言われ、俺の目からじんわりと温かな液体があふれ出す。

「うー…」
「おう。ずっと気を張りっぱなしで、お前も疲れるよな」

わしわしと髪を混ぜられる感覚に、次から次へとあふれ出すそれが止められない。
ずびずびと鼻を鳴らしながらしばらく泣いてしまった。めっちゃ恥ずかしい。けど、それ以上に泣いて感情が落ち着いて頭がすっきりとしてる。
俺が泣き止むまで待っててくれた4人に「ごめん」と謝れば「気にすんな」と笑われた。

「さて。出口が近いとなると俄然やる気が出るな」
「ああ。こいつダンジョンもそうだろうがな」
「そこでさ」

泣いてすっきりとした俺がここで酷なことを提案する。
時間も体力も無駄にするであろうもの。下手をすれば俺がいない方が路に迷う可能性が高い提案。

けれど。

「さっきは反対したが、出口に近いならいいんじゃないか?」
「いいのか?」
「ああ。構わん。こっちもいい加減腹に据えかねてたんだ」

路が変わることにいい加減うんざりしていた剣使いの人がにやりと笑えば、2人も笑う。
ああ。すごいな。この人たちは。

そしてすぐに俺とシモン、それに弓使いの人。それと剣使いの人と槍使いの人とパーティを分ける。
更に俺はシモンの背中から、弓使いの人の背中に変わった。ここからはシモンが戦闘を1人でこなすことになる。
残りのポーションを1本ずつ渡して、握手を交わす。

「出口で会おうぜ」
「死ぬなよ」
「もちろん」
「待ってるからな」

これが最後になるかもしれない。
だから後悔がないように。

そして。

「じゃあな! 出口で会おう!」

片手をあげて2人が背を向け別れると、俺たちも反対の路に走り出した。


■■■



ふと意識が持ち上がった瞬間、それを口にする。

「出口…」
「どうかしましたか? ハワードさん」

足を伸ばして座っていたそれを蹴飛ばし、事務仕事をしていたユナと厳つい顔のテレンスが俺を訝し気に見る。
けれどそれどころじゃない。

「戻ってくる! シモンとハルトが!」
「なに?!」

それがどういうことか理解したテレンスが俺と同じように椅子を蹴飛ばし立ち上がると、机を両手で叩く。瞬間、積んでいた書類が崩れ紙が舞う。それにユナの眉が寄ったけどそれどころじゃない。

「急いで第一騎士団と第二騎士団、それに医者をダンジョン入り口に向かわせろ!」
「はっ!」

俺の言葉にテレンスが駆け出し、俺自身も部屋を飛び出そうとしてぽかんとしているユナに声をかける。

「そうだ、ユナ。ちょっとお着換えしよっか」
「はい?」

その言葉に眉間に寄った皺が深くなるけど気にしない。

「着替えるといわれましても…」
「大丈夫、大丈夫。素敵なシスターにしてあげるからね!」
「はい?」

俺のテンションの高さについてこれないのかちょっと引いたユナだけど、これも大切なお仕事だからね!

「誰かー! ユナの着替えを手伝って!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「これもお仕事だから、我慢してね☆」

ばちこんとユナにウインクを一つ送ると、ひくりと彼女の口元が引きつった。後からなら文句はいくらでも聞いてあげるけど、今はそれどころじゃないんだ!
時間がないからね!
とにかく人を集めて、5無事を確かめないと!

ああ! でもとにかくハルトの怪我を治すのが第一だよね!
いくら眠気を飛ばすためにっていっても自分で腕に噛みつくなんて! なんて子だ!
でもシモンのお説教の後でいっぱい甘やかしてあげよう!

ふんふんと興奮しているのは戻ってきたのがシモンだけじゃないから。
いつもはシモン1人だけだけど、今度は違うんだ!

疲れてるからお風呂も入れてあげたいし…ああ! お腹もすいてるよね! ご飯も準備しないと!

あれもこれも準備を急がせなきゃ!
人食いダンジョンからの生還者たちを歓迎しなければ!

ある程度のことはテレンスがやってくれるけど、俺はまず報告をしに行かなきゃならないのが面倒くさい!
兄上でも呼びつけてやろうかと思ったけど、無理なんだよねー。
本当、面倒くさい!

でも戻ってきてくれたことが嬉しすぎてにまにましながら廊下を走り抜けるのは仕方ないだろう?
侍女も侍従も騎士たちもぎょっとしてるけど、関係ない!
今の俺はすごく気分がいいからね!

さあ! さっさと報告して迎えに行こう!


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...