5 / 48
ダンジョン探索 2
しおりを挟む変わる路に嫌気がさしながらも、とりあえず正反対の東より近いであろう南の角部屋に向かい歩き続ける俺たち。
途中休憩をしながら、ひたすらに歩く。
もちろんダンジョンは1日で回れるほど狭くはない。だが、俺たちには時間制限が設けられている。
シモンはどうか分からないが、俺は1日中歩き回ることなどほとんどなかったからか足がだるく、重くなりスピードも落ちてきている。そして靴擦れもできているのか痛みが増してきた。
それは誰からの目から見ても明らかなのに、何も言わず俺の歩く速さに合わせてシモンも歩いてくれる。それが申し訳なくて自身が情けなくて。
それでも意地だけで歩いていると、ふとある疑問がわいた。
「シモン様。ここはどの辺りでしょうか」
「そうだな。だいたいダンジョンの半分辺り、というところか」
「半分…」
はぁ、と息を吐き無意識に痛む足を見る。半分、ということはまだ歩き続けなければならないだろう。それに表情を曇らせると、ぶるぶると頭を振る。
ダンジョンに潜りたい、と言ったのは俺自身。歩くことも覚悟していたはずだ。
けれど、何時間も歩いてまだ半分だということに少しだけ心が折れかけている。
日本なら。
そう考えるだけで情けなくもじわりと視界が歪む。けれどここで助けを求めているのは俺ではない。ここで迷っている人だ。
「よし!」
袖で目元を拭い、パンッと両頬を叩く。
折れかけていた心に強引に水を与えてやる。
「足が痛いなら、ポーチに入っているそれを飲め」
「へ?」
「足が痛むんだろう?」
上から降ってきた言葉に思わず間の抜けた声をあげれば、すぐ側にいたシモンが俺を見つめていた。
「でも、いいんですか?」
「構わん。それを見越して用意してある」
それだけ告げると、視線が逸らされた。見つめる先は曲がりくねった路。
「それにだ」
「はい」
俺を見ることなく話すシモンに疑問を抱きながらも、続きの言葉を待つ。
すると、なんの前置きもなく鞘から剣を抜いた。
え?と思う間もなく、飛び出していく。
そして数十秒の戦闘の後、シモンが何事もないように戻ってきた。
「魔物も増えてきた。逃げる体力を回復しておけ」
「あ、はい」
息を乱すことなく俺の側まで歩いてきたシモンの瞳に首を竦めると、言われた通りウエストポーチを開く。
「へぇ。こうなってたのか」
ウエストポーチの中には仕切りに入れられたビンが6本。
そのうちの一本を抜き取り、コルクを抜き取ろうと引っ張る。
が。
「ふぬぬ…ッ!」
力いっぱい引っ張ってみても抜ける気配が全くない。
え? なにこれ?
はぁーはぁーと肩で息を吐きながら少しもずれていないコルクにひくりと口元を動かす。
液体だからめっちゃきつくするのは分かるんだけどね…。飲めないよ…。
心でめそめそと泣きながら、諦めてそれをそのまま元に戻そうとポーチを開く。
だが。
「はへ?」
するりと横から伸びてきた腕が、それを掴んでいった。
ここにいるのは俺とシモンしかいないから、シモンの腕ということは認識している。
ということはシモンもポーションを飲みたかったのか。
空気読めなくてごめんな。
しょもん、と肩を落としていると隣で「キュポン」という音が聞こえた。そしてポーチを閉めていた俺に「ほら」という声と共に何かが顔の横に現れた。
それに驚いたのは一瞬。
少しのけぞりながらそれを確認すれば、栓の開いたビン。
「え…と?」
「飲め」
「はい?」
うん?
シモンが飲みたくて栓を開けたんじゃないのか?と首を傾げてから、ちらりと彼を見れば呆れたような視線を俺に向けていて。
「コルクが抜けなかったんだろう?」
「まぁ…そうですね」
あれ? もしかしてコルクの栓も抜けない非力な男だってことに呆れていらっしゃいます?
しょうがないだろ?! 俺、力ないんだから!
どうでもいい事を脳内で威張り散らしてはみるものの悲しくなってきた。
「それを飲んだら行くぞ」
「…はい」
ノーと言えないのが日本人。
それに新人のつらい所。
「ほら」とビンを渡され、それを受け取ったのはいいが…。
そう言えばこれ味あるのか?
ビンを鼻の所に持って行き、すんすんとまずは匂いを嗅いでみる。
「げほっ!」
すると鼻孔の奥にまで突き刺さる強烈な薬の匂い。
「な、なにこれ?!」
「なにって…ポーションだろう?」
「いや?! それは理解してますが?!」
げほごほと咳き込みながらビンをできるだけ顔から遠ざける。
くっさ!
今まで嗅いだことのない強烈な匂いに、俺涙目。
え?! これ飲めるの?!
「の…飲めるんですか?」
「何のためのポーションだ」
「うぐ…」
そうですね! 確かにお薬ですね!
でもさ…。
「もう少しいい匂いだと思ってたんだよー…」
さっき嗅いだ匂いが鼻についてしばらくは取れないだろう。
空気を吸ってもさっきの匂いの味がして吐きそう。
「いったいどんな味を想像してたのかは知らないが、さっさと飲め。足が痛いんだろう」
「うう…」
足は痛い。けど、これも飲みたくない。
というか絶対匂いと同じ味だろ?! これ!
と、なると…。
「絶対まずいやつじゃん!」
うわーんと泣きそうになる俺を、シモンが「早くしろ」と視線で圧をかけてくる。
これ以上駄々をこねると叱られそうだから飲むよ! 飲むけどさ!
「まずそう」
「意外とうまいかもしれないぞ?」
「え?」
シモンのその一言で、少し希望を持つ。
そうか。匂いと味が一致しないものもあるしな。
匂いは強烈だけどうまい物だってある。ドリアンとか。
もしかしたらその類かも知れない。先入観だけで味を決めちゃダメだ。
「よし!」
覚悟を決めてビンを傾け一気に液体を喉に流し込む。
そして。
「まっず!」
「ふっ。ふっふふ」
「味と匂いが一緒のパターンじゃないか!」
そう。味も匂いと一緒で強烈な薬の味。
日本でもめったに味わえないそれに、口元を手で覆って肩を小さく震わせるシモンを睨みつける。
「だから言っただろう。意外とうまいかも、と」
「くあーッ!」
だまされたー!と頭を抱える俺に「悪かった」と笑いながら言われてもな!
「だが痛みは引いたんじゃないか?」
「うん?あれ? そういえば?」
匂いと味ですっかりと忘れていたけど、足の痛みも重みもなくなっている。何なら疲労も綺麗さっぱりとなくなっている。
「味も匂いも強烈だったけど効果はすげー…」
「液状で服用する薬だからな」
ふふっとまだ笑っているシモンになんだか急に恥ずかしくなって、さっと視線を逸らすと持っていたビンをするりと引き抜かれた。
え?
「それはここに置いていけ」
「え? いいんですか?」
「ああ。どうせここが飲みこむ」
「嫌なリサイクルだな…」
確かに魔物の死体とか、俺の吐しゃ物とかも確かに消えたけど…。その特性を生かしてここにゴミとか置いておけば勝手に処理してくれそうだけれども。でもダンジョンのことを考えればゴミを食べさせられる訳だから嬉しくはなさそう。
どうせ食うならうまいもん食いたいし。
「ああ。それと」
「はい?」
コトリとビンを路へ置いたシモンが、ニヤリと笑いながら俺を見る。
あれ? 何かとっても嫌な予感が…?
「さっきみたいに普通に話せ」
「はい?! い、いや…! でも?!」
いきなり何を言い出すんだ?! 驚きすぎて言葉使いもおかしくなってるけどシモンはただ小さく笑うだけで。
おいー!
「いや。すまん。知り合いに似てたものだから。つい、な?」
「知り合いって…!」
誰だよ!とシモンに噛みつこうとしてやめた。どうせ俺の知らない人だろうし。
まぁいいや。それに敬語ってなかなか疲れるしな。慣れてないから。
「分かりました。これでいいんですよね?」
「及第点か。元気になったのならいい。行くぞ」
ふっとまた小さくまた笑ってから背を向ける。
その視線がまるで小さな子供を見るようなものに感じたけど、気のせいだろうと俺も足を踏みだした。
「うーん…もうちょい行けば南の部屋に行けそうな感じだなぁ」
「そうなのか?」
「だいぶぐるぐると遠回りさせられたけど、もう少し…かな?」
「はぁ…ようやくか」
味と匂いを犠牲にしてポーションを飲んだおかげで、疲労も足の痛みもなく元気よく歩き続けたのはよかった。
けれどもぐるぐると同じようなところを回っていたことに、身体よりも精神的に疲れてしまった。短い直線を進んだらすぐに行き止まり。左右の路を行っても、また行き止まり。
戻ろうにもすでに路が変わっていて、行き止まり。
あれだ。一通が多すぎてぐるぐると回される感じだ。
それに、あのシモンが疲れ切ってるのもこのダンジョンの怖さを物語っている。
騎士団だから結構厳しめの訓練をしてるであろうシモンでさえ、愚痴が出るのだ。まともな精神を持つ人なら発狂しててもおかしくなさそう。
俺? 俺はマッピングしながらだから集中力が違う場所にあるんだ。だから発狂する余裕はない。それほど精神力を使う。
そして。
「腹…減った…」
「まぁ、かれこれ12時間ほど歩いてるからな」
「そんなに?!」
つかシモンの体内時計どうなってんの?!
西の角部屋を目指して歩いてた時点で4時間。それから休憩を入れながらとはいえ8時間も歩いてたの?!
「ポーションのおかげだな」
「あー…」
確かに。ポーションを飲んでから疲れを一向に感じないから、すたすた歩いてたしな。
その間にシモンは戦闘をこなしてるから俺よりも疲労があるはずなのに、そんな感じは一切見えない。小並感の感想で悪いが騎士ってスゲーな。
「シモン…も飲むか? ポーション」
「そうだな。南の部屋に着いたら…」
そこまでシモンが言葉を告げると、バッと勢いよく後ろを振り向く。うん? どうした? また魔物か?
魔物ならまずいよなー…と、後ずさればシモンの表情が険しくなる。
「声がする」
「はい?」
「この先だ!」
「うえ?! ちょ、ちょっと待てって!」
駆け出したシモンの後を追いかけるように一歩遅れて走り出せば、すでにその姿は小さくなっていて。
足はっや!
疲労がたまってるのになんでそんな早いんだよ?!
ひいひい言いながら追いかけると、どんっと柔らかいものに衝突する。
「いったた…!」
「ハルト。この先に行ける路はあるか?!」
「え?」
「路だ!」
勢いよくぶつかったのはシモンの背中。痛めた鼻を擦りながら「路?」と聞けば「そうだ!」とどこか焦っている。
「ちょ、ちょっと待って」
そのあまりの気迫に慌ててこの辺りの路を思い出し、そして予想する。
「多分だけどこっち」
「急いでくれ!」
「分かった!」
こくりと頷き、曲がり角を何度か曲がり、直線を走る。
そして。
「ここを曲がれば…ッ!」
きゅっと最後の曲がり角を曲がれば、そこには。
「た…助かった…!」
今にも倒れそうな男性が2人、そこにいた。
「大丈夫ですか?!」
「ハルト!」
「分かってる!」
少し遅れて走ってきたシモンに頷くと、急いでポーチを開きポーションを取り出す。
けれど。
「開けられないんだよ!」
「っち!」
舌打ちされても困るんですけどね?!
魔物との戦闘中であろうシモンの舌打ちを聞きながら、俺もパニック状態。とりあえずポーションを2本男性の前に置いてみる。
けれどもそれを取る体力もないほど疲弊しているのか、その場から動かない。くそ!
俺に力があれば…!
無理だとは思いながら、ポーションの栓を掴んで引き抜いてみる。すると。
「わ?!」
「どうした!」
キュポン!と小気味いい音を立ててコルクが抜けた。
「は?」
なんで? さっきは抜けなかったのに?!
「抜けた! コルクが抜けた!」
「急いで飲ませろ! じゃないと飲み込まれるぞ!」
「ええ?!」
ダンジョンって死体とかだけじゃないの?!
まだ生きてるよ?! この人たち?!
「ここは一定時間動かないものを飲み込む習性がある!」
「でええええ?!」
え?! 何それ?! ってことは?!
「やばいじゃん!」
「だから早く飲ませろ!」
「わ、分かった!」
とりあえず開けた1本を元気がありそうな人に渡して、もう1本のポーションのコルクも抜いておく。
そこで2人の陰で見えなかったけど、奥に横たわっているもう1人を発見。
その人の方がやばそうだから、ポーションを飲ませようとしたんだけど…。
「どうしよう…!」
その人は疲労困憊なのか、ぐったりとしていている。
その横になっている人の上半身を持ち上げてみるけど、ピクリとも動かない。
鼻に手を当てて呼吸があるか確かめる。持ち上げたときは温かかったから息はあると思いたい。
「よし…!」
浅い呼吸だがまだ大丈夫そうで安心する。だけど。
「ポーション飲ませないとまずいよな…」
そう独り言ちて、ポーションを飲んだ男性に声をかける。
「この人は?」
「そいつは俺をかばって…!」
「ハルト。ここに乗せろ」
「分かった」
「それはオレがやる。あんたじゃ無理だ」
「頼む」
シモンが休憩の時に使った敷物を敷いてくれて、そこに横になった人を運んでもらうために身体を持ち上げた瞬間。
「ひ…ッ」
思わず声が出た。
そこにはその人を飲み込もうとしたのか、路が波打っていたのだから。
非現実的なその光景に思わず後ずさりをすれば肩をポンと叩かれ、それに驚き振り向けば「大丈夫か?」とシモンに声をかけられた。
「だ、いじょぶ…」
「顔色が悪い。吐きたいのなら吐けばいい」
「う…ん。分かった」
ごぽごぽという不快な音を聞きながら、そっとその場を離れる。
「おい。大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫」
「こいつはダンジョン自体が初めてでな」
「はぁ?!」
一番初めにポーションを飲んだ男性の大きな声にびくりと身体が跳ねる。それを見た男性が「悪い」と謝ってくれた。
「ダンジョンが初めての奴をこんなとこに連れてくるなよ!」
「だがお前たちを見つけられた」
「それは…!」
そうだけど、と語尾を小さくしながら答える男性。俺も覚悟が甘かった。まさかダンジョンがあんな風に『食う』とは思わなかったから。
そこで一番初めの狼の魔物のことを思い出す。そう言えばあの時も、まるで底なし沼に沈んでいくように消えていったような気がする。その時は気分が悪くてそれどころじゃなかったからよく覚えてないけど。
なるほど。それがさっき見た光景だとすれば納得できる。すると途端に恐怖が和らぐ。
理解をしてしまえばそれほど衝撃的でもないしな。
「顔色が悪いんだ。無理はするな」
「ああ。うん大丈夫だ。それにさっきのも理解したし」
「あんた度胸あるな」
「そらどうも」
もう1人の男性に褒めてもらい、礼を告げる。
「俺よりその人は?」
「ポーションを飲ませたいんだが…」
「口が開かないんだ。無理やり開ければ歯を折るかもしれないしな」
無理やりでも口を開けたいけど傷つけたくない。でも早めにポーションを飲ませないとまずい。
なるほど。
「ちょっといいか?」
「ハルト?」
ちょいとごめんよ、と男性2人の間に割って入り、自動車教習所で習った人工呼吸のことを思い出す。
あの時は人もたくさんいて恥ずかしかったけど、今はそんなこと言ってられないしな。
額に手のひらを当て、指先を顎に置く。そして指先に力を入れれば、くん、と顎が持ち上がり口が開いた。
「よし」
「お前…」
「これでポーション飲ませられないかな?」
「待ってろ」
シモンがそう言ってビンを口元に持って行き傾けるが、液体は飲まれることなくこぼれてしまう。
「ダメか…」
「どうする? このままだと…」
うーん…。なら漫画でよくあるやつだけど…。
できるのか?
「ポーションって少しでも飲み込めれば効果はあるのか?」
「疲労や怪我具合にもよるが…」
「今のこの人の状態なら?」
「2度ほど飲み込めれば…。ハルト?」
「なるほど」
2回か。仕方ない。これも仕事と割り切るか。
相手は幸いイケメンクラスだ。何とかなる。何とか。
「悪いんだけど上半身膝の上に乗せて支えといてくれ」
「構わんが…何をする気だ?」
「うーん…。人助け?」
「はあ?」
これも事故現場に居合わせて俺が…俺だけが救命措置を知っているからやるんだ。
「ポーションもらうぞ」
「何をするんだ?」
シモンも困惑しているけど今はこの人にポーションを飲ませることが優先だ。
ポーションを一口、口に含むと少し開いた唇に俺の唇を重ねる。そして、少しずつ時間をかけて口の中にポーションを入れると「ぷあっ!」と勢いよく顔を上げる。
あー…苦しい!
はあはあと息を吐きながら「上半身を起こして飲ませてくれ」と口を開けて俺を見ていた男性に声をかければ、弾かれたようにぐったりしている男性の上半身を持ち上げる。
うまく飲めてるといいけど。
「ハルト」
「何だよ」
「今のは?」
「一応人工呼吸。これくらいしか思いつかなかったから」
ぐいっと濡れた唇を拭いてもう一度ポーションを口に含むと、寝かせろと男性に視線で告げればいう通りに寝かせてくれる。察しがよくて助かる。
そしてもう一度同じように顎を持ち上げて気道を確保しつつポーションを口移しで含ませる。再び「ぶあっ!」と唇を離せば、上半身を持ち上げ飲み込ませてくれる。
すると。
ぴくりと指が動いたのを確認できたかと思えば、閉じていた瞼がゆっくりと持ち上がった。
ああ…よかった。
「おい! 大丈夫か!」
「みず…」
「水じゃないがポーションだ。飲めるか?!」
男性がポーションのビンを唇に押し当てると、はくはくと口が動いた。それを確認してからゆっくりと中身がなくなるまでビンを傾けていく。
最後の辺りはごくごくと喉仏が上下に動いていてほっと息を吐く。
「シモン。水ってあるのか?」
「ああ。分かった」
俺の言いたいことを察したシモンが、どこからか革の水筒を3人に渡している。それを受け取った3人は勢いよくそれを飲んでいく。
やっぱり喉乾くよなー。さっきの人も唇カサカサだったし。
「ああ…生き返った…!」
「ありがとうな!」
3人分の革水筒を受け取るとシモンに渡す。さっきまでの疲労が嘘みたいに元気だ。
よかった。
「元気になったところ悪いがすぐにでも出発する」
「それはいいけど…」
「路が分かるのか?」
まぁそうなるよなー。
「一応。ここからなら入口に戻る路は覚えてる」
「はあ?!」
元気だな。3人の声がハモったぞ。
「あんたダンジョン初めてだって…!」
「そうだけど?」
「なんでそんな…?!」
「あー…。マップとか覚えるのが俺の特技?だから?」
曖昧な答えになったけど、これが正解だからなぁ。
信じられないような目で俺を見てくる3人。視線が痛い。
「それだけの元気があれば問題ないな。武器は?」
「あ、あるぞ」
そう言って見せてくれたのは剣と…槍?それと。
「カッケー!」
「お前だって武器くらい持ってるだろ」
「俺持ってないんだよ。非戦闘民だから」
「はぁ?!」
おっと。またもや3人の声が綺麗にハモったぞ。
俺を見てからシモンを見て、また俺に戻ってくる。なんだよ。
「ってことは戦闘全部…」
「あれくらいなら平気だ」
シモンの言葉を聞いた3人がぽかんと口を開けている。
え? なんだよ。その反応。
「いや。あれを1人で?」
「ああ。特に問題はないな」
「…兄ちゃん化け物かよ」
ちょっと待て。なんだ。そのドン引き具合は。
ここまでシモンが軽く戦闘をこなしてたからここの魔物のレベル?って低いんじゃないのか?
「魔物のレベルって低いんじゃ…?」
「馬鹿言うな! 人食いダンジョンの魔物の強さは普通の冒険者じゃ太刀打ちできないんだぞ?!」
「そうなんだ」
「そうなんだって…」
へーと感心している俺を、奇妙なものでも見るような視線を向ける3人に少しむかつく。
「じゃれるのもいい加減にしろ。時間がないんだ」
「それもそうか。じゃ、行くぞー」
シモンの声にびくりと肩を跳ねさせた3人と俺。不機嫌なシモンの気配を感じて、くるりと背中を向ける。
さて。帰りの路はどうなってるかな?
ぺろりと乾いた唇を舐めるとすでに変わっている路に向かって挑むように、にやりと笑った。
4
お気に入りに追加
732
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界トリップして10分で即ハメされた話
XCX
BL
付き合っていると思っていた相手からセフレだと明かされ、振られた優太。傷心での帰宅途中に穴に落ち、異世界に飛ばされてしまう。落ちた先は騎士団の副団長のベッドの上。その副団長に男娼と勘違いされて、即ハメされてしまった。その後も傷心に浸る暇もなく距離を詰められ、彼なりの方法でどろどろに甘やかされ愛される話。
ワンコな騎士団副団長攻め×流され絆され傷心受け。
※ゆるふわ設定なので、騎士団らしいことはしていません。
※タイトル通りの話です。
※攻めによるゲスクズな行動があります。
※ムーンライトノベルズでも掲載しています。
猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…
えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。
異世界でチートをお願いしたら、代わりにショタ化しました!?
ミクリ21
BL
39歳の冴えないおっちゃんである相馬は、ある日上司に無理矢理苦手な酒を飲まされアル中で天に召されてしまった。
哀れに思った神様が、何か願いはあるかと聞くから「異世界でチートがほしい」と言った。
すると、神様は一つの条件付きで願いを叶えてくれた。
その条件とは………相馬のショタ化であった!
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる