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196.秋の霊園
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相性のいいアルファとオメガは互いにいい影響を及ぼすと聞いたことがあったが、曲がりなりにも運命の番であるあゆたと八月一日宮もそうであるらしい。うばやさんに八月一日宮の機嫌がとてもよいとにこにこされてしまった。
そして無事に小さいながら大事な荷物を八月一日宮邸に引き取った。
信夫も賛成してくれたので、大旦那様の薔薇の鉢も持ってきた。
本当は梅渓の庭に置いていても結果的にあゆたが世話をすることに変わりないが、この薔薇は大旦那様の特別愛した薔薇だから、あゆたは何となく手元に置きたかったのだ。
大旦那様の墓は梅渓の菩提寺の代々のものではなく、大旦那様だけの個人の墓が都立の霊園に存在する。
生前から大旦那様は自分で準備をされていたので、死後はその遺志を託された弁護士が代わって手続等を行ったという。
この時も信善は大反対したが黙殺され、その鬱憤を晴らすようにしばらくあゆたへの当たりがきつかったのを憶えている。
霊園に駐車場が限られているので電車で行く。駅からは徒歩で十五分ほどだ。大きな駅なので行き交う人が多くちょっと迫力に押されそうになるが、八月一日宮がさりげなく誘導してくれたので無事に駅前の人波を通り抜けられた。
首都高速の高架を過ぎるあたりから雑踏はまばらになる。この辺りから商業ビルにまじってマンションや個人宅が混ざり始め、都心なのに住宅地の趣が出始める。
なだらかな坂道を下っていくと、踏切が見えてきた。かんかんかんと甲高い音共に遮断器が下りてくる。
あゆたは道の端に寄った。すぐに八月一日宮が隣に来る。
踏切のむこうにこんもりとした黄色い森が見えた。あそこが霊園だ。薄い雲が流れていく秋空はよく晴れていた。あゆたは目を細めた。黄色い紅葉が風にひらひらと揺れて眩しい。それを遮るように路面電車がきーきー言いながら走っていった。
そして無事に小さいながら大事な荷物を八月一日宮邸に引き取った。
信夫も賛成してくれたので、大旦那様の薔薇の鉢も持ってきた。
本当は梅渓の庭に置いていても結果的にあゆたが世話をすることに変わりないが、この薔薇は大旦那様の特別愛した薔薇だから、あゆたは何となく手元に置きたかったのだ。
大旦那様の墓は梅渓の菩提寺の代々のものではなく、大旦那様だけの個人の墓が都立の霊園に存在する。
生前から大旦那様は自分で準備をされていたので、死後はその遺志を託された弁護士が代わって手続等を行ったという。
この時も信善は大反対したが黙殺され、その鬱憤を晴らすようにしばらくあゆたへの当たりがきつかったのを憶えている。
霊園に駐車場が限られているので電車で行く。駅からは徒歩で十五分ほどだ。大きな駅なので行き交う人が多くちょっと迫力に押されそうになるが、八月一日宮がさりげなく誘導してくれたので無事に駅前の人波を通り抜けられた。
首都高速の高架を過ぎるあたりから雑踏はまばらになる。この辺りから商業ビルにまじってマンションや個人宅が混ざり始め、都心なのに住宅地の趣が出始める。
なだらかな坂道を下っていくと、踏切が見えてきた。かんかんかんと甲高い音共に遮断器が下りてくる。
あゆたは道の端に寄った。すぐに八月一日宮が隣に来る。
踏切のむこうにこんもりとした黄色い森が見えた。あそこが霊園だ。薄い雲が流れていく秋空はよく晴れていた。あゆたは目を細めた。黄色い紅葉が風にひらひらと揺れて眩しい。それを遮るように路面電車がきーきー言いながら走っていった。
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