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186.新しい朝

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 初めての発情期は三日で終わった。安定するまでは期間が短かったり長引いたりと、予定より前後にずれたりすることも多いらしい。

(医者がアルファに相手されると発情期は楽だって言ってたけど、本当だったなぁ……)

 あゆたは薬と八月一日宮のおかげで思ったよりもずっと楽に過ごせたことにほっとした。
 
 特に八月一日宮のおかげは身に染みた。

 彼の愛情と献身を、初めての発情期を過ごせたことをあゆたは一生忘れないだろう。

 抑制剤は風邪の時に解熱剤を服用することと同じようなものだ。薬のおかげで我を忘れるということはなかったが、それでも体の怠さやどうしようもない衝動は訪れる。そういう時に八月一日宮はあゆたに寄り添い慰めてくれて、必要な世話をしてくれた。

 甲斐甲斐しく世話をしてくれた八月一日宮のことを思い出すと、自動的に最中のいやらしいことや、八月一日宮のいい匂い、体の淫らな変化なども有象無象のようにあゆたを襲ってきた。

 あゆたは両手で頬を隠した。熱い。熱が出たように顔が火照っている。

(一度、梅渓に帰らないとな……)

 着の身着のままで八月一日宮の家に厄介になっているので、位牌や教科書、制服などの必需品はすべて置いてきてしまった。

 発情期が終わって学校に行かなければ、という段になって用意周到な八月一日宮は制服もきちんと用意してくれていた。今朝はあゆたに与えられた部屋でそれに腕を通した。

『今朝は用があるで、すいません』

 八月一日宮はやらなければいけないことがあるというので、あゆたを乳母やさんに託して少し早めに家を出た。
 
 あゆたは以前の朝と同じようにひとり車に乗せられ登校した。

 一応住所は以前聞いていたから、なんとなく土地勘はあるのだが、バス停や駅までの道はよくわかっていない。乳母やさんは八月一日宮から車で送るように言いつけられていると言う。なので八月一日宮を送って戻ってきた車に素直に甘えた。

 車の窓から外を眺めていたあゆたは校門が見えてきただけで、信善に呼び出されたあの日からたった四日しか経ってないのに、なんだか自分がとても遠くまで来たような感慨を持った。
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