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183.甲斐甲斐しい恋人

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 ずっとしがみついていた手が震えて、ボタンを留められるだろうかと思案する間もなく、八月一日宮が止めてくれた。

 あゆたには指一本動かさせないつもりらしい。ひょいっと横抱きにされて、近くにあった椅子にそっと下ろされる。

 恐る恐る尻に体重をかけて、座面に腰を据えた。痛みはほとんどなかった。

 あゆたを労わるように汗で湿り気のある髪をかきやって、八月一日宮は耳の辺りを撫でていく。

「あゆたさん、痛いところないですか? 鎮痛剤ありますよ」

 お尻の奥がまだちょっとむずむずするし、いまだに何か挟まっているような違和感はある。あちこち鈍く痛むが、こないだの捻挫に比べたら大したことはなかった。

「ん、いらない」

 八月一日宮はほっとするように顔色をやわらげ、テーブルの水差しから水を注いでくれる。

「力入りますか?」

 あゆたが手を上げるといまだに微かに震えている。八月一日宮はそれに眉毛をひょいっと持ち上げた。

 あゆたが両手で受け取ると、その上から八月一日宮が手を重ねてくる。口を付けるまで介添してくれて、あゆたはコップに口を付けた。喉が渇いていて、一気に飲み干してしまった。

「もう一杯飲みますか?」
「んーん、もういい。ありがと」
「ベッドきれいにするんで、ちょっとここで待っててくださいね」

 背もたれに体を寄りかからせる。座るのがちょっと難儀で、横になるほうが体が楽だったが、あゆたはじっと我慢していた。

「ソファ、すぐに入れさせますね」

 あゆたの考えなんて見抜かれているらしい。そんなに顔にでる質ではないはずだがと、あゆたは自分の顔をつるりと撫でた。

 八月一日宮はシーツの皺を伸ばしながらくすくす笑った。

「体、ぐんにゃりしてるから。早く横になりたいですね」
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