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119.むき出しの憎悪

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「発情期が来そうになったらしいな」

 声もなくあゆたは戦いた。
 
 結果はまだ出ていないはずだ。
 
 驚愕が解けるのにさほど時間はかからなかった。

 個人情報も梅渓が後見人なら未成年の保護者として先に届けられたのだろう。

 あゆたのオメガとしての情報は、あゆたよりもさきに後見人である梅渓へと報告される。

「ようやくお前が役に立つ時が来た」

 信善の目が闇夜に光る鬼火のように輝いていた。気配が躍り上がるように膨らんだ。あゆたは少しでも信善から距離を取りたくてドアのほうへ身を寄せた。

「今まで負債を返せ」

 低い声が唇の間から漏れる。

「俺はお前を梅渓の人間だとは思っていない」

 それはあゆたも同意する。あゆたも信善をはじめとする梅渓の血族だと思っていない。

 家族は祖母と母だけ。

「他人をここまで養ってやったんだ。犬でも一宿一飯の恩義を感じる」

 獰猛な肉食獣が喉元の鳴らすように信善は肩を揺すった。

「図々しく居座るばかりで、お前は犬以下だがな」

 彼の恫喝を浴びせられると、あゆたはいつも視界が狭くなるような息苦しさを覚える。委縮するあゆたをおもしろがるように信善は低く笑った。

「知人のつてで早速紹介があった。子供を産める、若いオメガを望んでいる家がある」

 覚えずあゆたは信善を顧みた。

 何を言っているんだ。

 衝撃の余り凍り付いたあゆたを嘲うように信善は続けた。

「子供を二人ほど産めばいいだけだ。勿論お前に否も応もない」

 口の端を割くように信善は大きく笑った。

 まるでグロテスクな割れ目から声が聞こえてくるかのように、嘲笑は響いてあゆたを打擲する。

「よかったじゃないか。もともと芸者の子供なのだし、足を開いて寝転がるのはお手の物だろう。大学に行かなくてすむな。オメガが大学なんて無駄なことだ。手間が省けてよかったじゃないか」

 何か言いたかったが、微かに開いた口が音を紡ぐことはなかった。
 
 信善は心底嬉しそうににやにやしている。唇だけが奇妙に大きく動いて見えた。

「ちょっと勉強ができるからと思い上がって、必死にしがみ付いて。無駄な努力をしても、結局は何の役にも立たないのだから」

 ……ああ、どうして自分はこんなにも憎まれているのだろう。
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