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109.診察

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 卒業までに、自分一人で生きる生活基盤が必要だ。

 庭師になるつもりだから、高校卒業したら働くつもりだったあゆたは、親方から大学進学を強く薦められた。

 大学で勉強することは、必ずあゆたの糧になる。そう親方に提案され、もし大学がこの近くなら親方の家に下宿でもいいし、遠方ならツテを紹介するとまで言ってくれた。

 親方が親身になってあゆたのことを考えてくれていることがありがたく、確かに大学を卒業しているだけで、就職などでもメリットのほうが多い。

(どうせ発情期は来ないんだから、そろそろ自分の身の振り方を具体的に計画しないとな)

 全国摸試では合格判定はAが続いているし、定期試験も着実に成績を残している。奨学生なのだから当たり前かもしれないが、アルファだらけのクラスでオメガのあゆたは努力をやめれば簡単に脱落するだろう。

 大学は付属の内部進学なのだが、奨学金を取る為に一般の受験者より採点は厳しく設定されている。
 
 あゆたが勉強したい学部のキャンパスは最初の一年は都内だが、二年目からは専門学科の講義が増えて遠方になる。専門によっては関西や九州に行くこともある。

 関西。

 一瞬八月一日宮の顔が脳裏に浮かんだ。

 彼の名前を思い浮かべるだけで胸が締め付けられた。あゆたは彼の面影を振り払うように首を振った。

「鶯原さーん」

 しばらくして名前が呼ばれた。

 看護師に体温計を渡され、その間に採血される。

 いつものように問診もあって、超音波で内臓の様子も見られる。カーテンで仕切られている診察台にはいつまでも慣れない。オメガの生殖器のある尻の穴を内診されるのも。

(何か病気が見過ごされるよりまし、だ)

 そう言い聞かせないと鬱屈が蓄積する。内診が終わって違和感と鈍痛を隠すように素早く下着を着けた。

 また元の医者の机の前に案内された。医師はすでに座っていて何か書き物をしていた。
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