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66.初めてのおでかけ

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 あゆたは家を出発するにあたり確認した足首を、また持ち上げて踏みしめてみた。

(よし、大丈夫そうだ)

 湿布も包帯もないスニーカーの足は軽やかだ。一週間ほどかばって歩いていたせいで、少し違和感が残るが痛みはない。初めの二三日は熱が続いて気だるさは後を引いたが、今日は気分が上がっている為か元気が四肢に満ちている。

(大丈夫だ、信夫の目は確かだから)

 地下鉄に乗りこみ、暗い窓ガラスにうすぼんやり映った自分をちらりと見やる。

 お出かけするにあたり、ちゃんとした服なんて制服ぐらいしかない。さすがに庭師の仕事着や制服では駄目なのは理解していたので、出かける話が出た一昨日には信夫に相談した。

 信夫に頼ると『珍しいこともありますね』と上機嫌にあゆたをからかってきた。衣裳部屋から引っ張り出した信夫のおさがりを色々選び出して離れに来てくれた。

 あれでもないこれもないとあゆたの胸に宛ててくれていたのだが、それがだんだん億劫になったのか、八月一日宮と出かける為の服だと話す頃には今度はすごく嫌そうにしていた。

 それでも律儀な信夫は、趣味ではないので袖を通したことがなかったというドルマンスリーブのゆったりしたシャツと黒いスキニージーンズを合わせてくれた。

 華美過ぎず柔らかな印象で、表情の硬い自覚のあるあゆたの雰囲気を穏やかにしてくれている、気がした。

『今度は僕と一緒に買い物に行きましょうね。僕が選んであげますよ。体にあった服を着たほうがよいですから』

 八月一日宮とのお出かけだけでも嬉しいのだ。信夫はとても忙しいだろうに、お世辞でもそういうふうに気をかけてくれて、あゆたはほっこりしてしまった。

 今日が楽しみすぎてあゆたは昨夜ほとんど眠れなかった。朝方にうとうとしてから今日は土曜日だというのに、登校する朝よりも随分早く目が覚めた。

 清潔感を心がけてゆっくり身支度して、それでも余裕があったので、逸りそうになる体を押さえつけるようにことさらゆっくりと歩いた。

 お礼に奢ると聞かないあゆたの勢いに負けたのか、ピクニックはまたの機会にして、八月一日宮は植物園に誘ってくれた。

 植物園は国立大学が植物に関する研究をしている付属施設だ。一般にも公開されており、広大な敷地には台地、傾斜地、低地、泉水地などの地形を利用して様々な植物が配置されている。

 さかのぼれば殿様の屋敷の跡なので、本格的な日本庭園も備えているという。区民なら小学校の遠足などで一度は訪れたことのある憩いの場らしい。

 何気ない雑談でそれをぽろりと零したことを八月一日宮は持ち前の記憶力の良さで憶えており、絶対にお礼をさせろと息巻くあゆたに植物園を提案してくれたのだった。

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