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51.金魚草のようにかわいいクラスメイト
しおりを挟む行きと同じようにおんぶで移動して、あゆたは教室の前で八月一日宮と別れた。案の定八月一日宮は教室の席まで連れて行こうとした。
昼休みが終わりに近づいてクラスメイト達もほとんどが戻ってきている時分だ。自分から好奇の目にさらされるようなしでかしはしたくなかった。
不承不承あゆたに従うのだという姿勢を不服そうな面で主張して、八月一日宮は放課後に迎えに来ると言い置いて去って行った。
廊下から二列目、最後尾の自分の席まで二メートルもないのに移動の距離が億劫だ。足をひょっこりひょっこり運んで、あゆたは体を投げ出すようにして腰を下ろした。その途端にふぅっと大きなため息が出てしまう。
(あ、帽子……)
くしゃりと帽子を取ると、残り香がふわりと仄かに鼻をかすめる。自分のお気に入りの麦わら帽子から八月一日宮のフェロモンが微かに感じられる。その事実に鳩尾のあたりがふくふくくすぐる。あゆたはそそくさと帽子を袋にしまって机の横にかけた。
(授業の準備……、その前に水飲みたい……痛み止めの薬、そろそろ切れるかも……)
太陽を浴びて疲れたのか、熱が上がった気がする。まるでシャボン玉のようにふつふつとどうでもいい思考が浮かび上がっては消えていく。手が勝手に動いてノートと教科書を揃えだす。
(そうだ、於兎に借りたノート、もう少しで写し終わる。早く返さなきゃ)
授業が始まるまでの時間、ノートを書き写そう。そうすれば集中して余計なことを考える暇はなくなる。机の中から於兎のノートを出す。
「ねぇ、鶯原くん。ちょっといいかな」
いい調子で書き進めていると、手元が薄暗くなる。落ちた影に顔を上げると、そこには隣の席の蜂須賀佳英が立っていた。
「蜂須賀。なんか用?」
話しかけられるのは初めてだった。蜂須賀は人気があって色んな人に囲まれている。あゆたも用事がない限り社交的に交流する質ではないので、隣同士ながらほとんど接点がなかった。
「あのね、鶯原くんって八月一日宮くんと仲いいの?」
興味深々というように薄茶色の目をくるくるさせている。
なるほど、あゆたにではなく八月一日宮のことを知りたいのかと納得した。
「……別に。委員会で」
「委員会? えっと、鶯原くんって何の委員会だったっけ?」
清々しいほどあゆたに興味がないのだろう。別に名が通っているとは思わないが、美化委員の活動に力を入れている委員長としては、ここまで一般の生徒には認知されてないのか……と少しだけ残念になった。
「美化委員」
「え?! 八月一日宮くん、美化委員なの?! 知らなかった!」
蜂須賀は大げさなほど目を大きくする。その目元が少し笑みを漂わせて、口元に拳を持っていく。
「なんだ、知っていたら、僕だって美化委員になったのに」
親指で下の唇を押しながら、蜂須賀は何事かぽそぽそと独り言ちる。あゆたは首を傾げた。
「蜂須賀?」
「ううん、そんなことより、八月一日宮くんが鶯原くんの後輩なら、ちょっと頼まれて欲しんだけど?」
蜂須賀はミルクティーのような甘やかな双眸をきらきらさせ、上目遣いにあゆたを見ている。頼まれて欲しいと言いながら、蜂須賀はすでにあゆたが引き受けるものだと決めつけているかのように、じっと黒目勝ちの目で見つめてくる。
「……頼みの種類による」
あゆたがほいほい引き受けるとでも思い込んでいたのか、あゆたの気乗りのしない口調に蜂須賀は驚いたように目をくるくるさせた。
「え、鶯原くんって、そういうタイプだったんだ。もっと大人しい人かと思ってた!」
素直なのか考えなしなのか、蜂須賀はあゆたを下に見ているのを隠そうともせずあっけらかんとしている。子供っぽいところが自由奔放で、こういうタイプが好きな者―とくにアルファ―は少なくないのだろう。
蜂須賀は容貌も家柄もよい上に一組に所属しているので、同じクラスのアルファによく囲まれている。わかりやすくもてるのだ。あゆたとは対極にいるタイプのオメガだった。
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