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29.星のようにひとり

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 今更、と思わないわけではない。
 しかし一人ぼっちになったあゆたが救われたのも事実だった。
 
 本当は誰も悪くない。ただ、巡り合わせがよくなかっただけだ。誰のせいでもない。

(嫌だ。絶対に恋はしない。あんな、恐ろしいもの)

 母の不幸を思う。祖母の悲しみを思う。

 あゆたは寒さに耐えるように両腕を回すように自分を抱きしめた。
 このままオメガとして成熟しなくてもかわない。
 あんな。
 恐ろしい。
 恋は恐ろしい。
 周囲を不幸にして、嵐のように様々な人を巻き込んだ。

「どうして……」

 できることなら、大旦那様に問い質したい。
 どういうつもりで、あゆたを引き取ったのだろう。祖母に頼まれただけの義理ならば、そのまま適当な場所に養子に出すか、孤児として施設に入れられたはずだ。

 それなのに、つかず離れず手元に置いた。失った恋の形見の追善だったのか。

 あゆたにはずっと穏やか顔しか見せないで。罪滅ぼしで引き取られ、残されるあゆたはどうなる。大旦那さまが自分ばかりが楽になる話じゃないか。さげすまれ、煙たがられるのは明白なのに、梅渓に縛られて生きるしかない。

 恩返しのつもりなら、役目を果たせ。
 あゆたがいなければ、莫大な遺産相続は正式には履行されない。
 
 あゆたは父親なんか知らなかった。
 家族は母と祖母だけでよかった。
 どうすればよかったのか、いまだに自問自答は尽きない。
 それとも、信善のいうように、あゆたなんて死んでしまえばよかったのだろうか。

(いいや、そんなことはない。そうだよね、おばあちゃん)

 あゆたはお母さんと、おばあちゃんの大事な子だって。
 祖母の声が蘇る。
 恨んではいない。誰のことも。恨みたくない。
 それなのに、こんなふうにしか生きることが許されない。
 
 月がどこかに出ているはずなのに、騒めく梢に遮られて辺りはひどく暗かった。足元がぬかるんだように重かった。

 息が苦しくて、あゆたは泣きたくなった。でも泣いても誰も助けてくれない。涙が溢れても自分で拭うしかない。泣いても、何にもならない。
 
 涙は出ないのに、滓のように淀んだ何かはいつまでも居座っている。
 木立のむこうの灯りの下にたくさんひとが暮らしているのに。
 夜の深みの中で、あゆたは星のようにひとりだった。
 
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