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27.母に愛された子ども
しおりを挟むあゆたは母に、母が死んでからは祖母に愛されて育った自覚がある。父がいないことを欠落とすら感じなかった。
そうして梅渓に引き取られてからは、あゆたは大旦那様の庇護を受けている。死して尚それは続いている。
あゆたの存在は、正嫡である信善には寝耳に水の事態だっただろう。挙句の果てに、自分の相続の横槍を入れる形であゆたはこの家に厄介になっていた。あゆたが疎まれるのも道理なのかもしれない。
(でも、それは俺のせいじゃない。俺は、知らなかった。何も聞かされていなかったんだ)
責められて、それを突っぱねるようにあゆたは心の中で叫んだ。
大人たちは、あゆたの知らないことをあゆたのせいにする。
大旦那様は生前、一度だって名乗り出なかった。
一度も息子を抱き上げたりしなかった。
昔馴染みの孫という、それ以上でも以下でもない平淡さだった。
そうだと断言されなくても、ただなんとなくあゆたは母と大旦那様のことをおぼろげに察していた。
あゆたの間に一線を引く。我儘な大旦那様の、それが節度だったのだろうか。
(大旦那様は……)
あゆたに優しい思い出ばかり残して。
自分だけ楽になった。
あゆたを梅渓の家にひとり残して。
いっそ恨むことができたらどんなに楽だろう。
「ふてぶてしい顔付きだ。本当に誰に似たんだか」
吐き捨てるような語尾の鋭さに、肩をすぼめるようにしてあゆたは顔を上げられなかった。
「すみません」
「悪いと思っていないのに、口先だけで詫びるというのも小賢しいやつだ」
「そんなこと」
あゆたが言い終わる前に、信善は覆いかぶせるように矢継ぎ早に言った。
「ああ、もういいから消えろ。その顔をこれ以上見せないでくれ」
犬でも追い払うように信善は手を振った。一頻りあゆたをいじめて鬱憤が晴れたのだろう、威嚇のフェロモンも消えていた。ぐっと奥歯を噛んで、あゆたは俯いたまま会釈をした。
「失礼します……」
痛みは強かったが、それよりもこの場にいたくなかった。電流のようにずきずきと踝から走る痛みをないもののように、あゆたは足を引きずりながら外へと急いだ。
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