44 / 165
ミッドナイト・ラン
しおりを挟む
”元”神聖オーマ帝国宰相にして、猫人の私ネコマは、いま首都の周辺を見下ろす丘に居る。
燃やされ、骨組みだけになった農家と、収穫前に踏み荒らされ、刈り取られて、無残な姿となった畑。略奪だけは一丁前だな。
領内の視察として抜け出たが、このまま国境を超えるつもりだ。その案内役は鼠人の猟師、機人の目撃報告を最初に持ってきたあの者だ。
「へえ、この先の岩山を超えて、平原を行って7日もすれば、イトアニア、ルシアの先端に着きますはずで」
「長旅になるがよろしく頼む」
X字軍が召集され、機人との戦いが始まったが、ここまで力の差があったとはな。トンプル騎士団はほぼ何もできずに消滅。聖ヨワネ騎士団もマルダの海軍がその半数以上を失い、総長、そして持ち出した聖遺物の行方も不明だという。
敗北が続き、宗教的シンボルも失ったX字軍は動揺している。あと一押し、何かがあれば、バラバラになってもおかしくないな。
残った全軍の3分の1、大デイツ騎士団だけで機人を相手にできるとは思えない。戦った後、傷ついた国土と軍をどうすればいいのだ?降伏するにしても、機人がとても話が通じる相手とは思えない。
――つまり、この国、詰んでる。
私は足に細い布を巻き付け、脚絆とする。強く巻き付けた布は、疲労を軽減してくれる。長旅に備えた品を詰め込んだカバンを背負い、その上に巻いた毛布を乗せる。うん、これならどこから見ても旅行者だな。
神聖オーマ帝国はこれから崩壊に向かうだろう。なので私はルシアに向かうことにした。ルシアはこの世界のド田舎だ。牛と麦畑、あとはサケを取るためのカヌーしかないようなところだ。
書類で出来た要塞を離れ、厄介ごとから身を引き、隠遁しよう。
すくなくとも、機人の気が済むまでは。
私は丘を離れ、神聖オーマ帝国の東の平原へと向かった。
しかし、私たちの旅は、突如そこで中断された。
平原の向こうから唐突に表れた、牛の角を旗印にしたムンゴル帝国の騎兵たち。
彼らに取り囲まれ、捕虜になってしまったのだ。
テントを曳きながら羊や馬を伴い移動しているムンゴルの遊牧民たち。地平線を埋め尽くすその数は10万を下らないだろう。半数は民間人だ。つまり、彼らはこれまでの略奪が目的の侵略ではなく、新しく国を建てる、「植民」に来ている。
神聖でもなく、オーマでもなく、ましてや帝国でもない、神聖オーマ帝国は今ここに死亡診断書を突き付けられた。そしてたぶん私も。
★★★
数日のち、神聖オーマ帝国の首都郊外に張られた、X字軍の司令部となっている天幕。そこに、息を切らせた伝令が飛び込んできた。
「デイツ王!一大事にございます!」
「落ち着け、聖ヨワネ騎士団が壊滅したことについて、余は既に聞き及んでおる。」
「そちらではありませぬ!ムンゴルが!ムンゴル帝国が侵攻を開始しました!10万を超える軍勢が集結して国境を越え、ペーランドはムンゴル軍の将軍、チンガス・ハンの怒涛の攻撃を受け、州都ワリシャワ陥落との報告です!」
「なんだと?!」
「ムンゴル帝国はペーランドを超え、デイツに迫っています!」
「むむむ……」
「何が、むむむだ!」
声を上げたのは、X字軍にあつまった、諸侯の一人だ。
「この戦いでデイツが疲弊して、一番喜んだのは誰だと思っておる!機人などに貴重な兵力をつぎ込んで、ほかならぬムンゴルではないか!」
「左様、機人はこちらを攻めるわけでもなく、ただ魔王城に居座っているだけ。緊急の要件ではなかった。にもかかわらず、安易な攻撃で半数以上を失った。」
「デイツ王の采配には、我らも疑問を禁じ得ませんな」
こいつら……!あれだけ賛成しておいて、ムンゴルの侵略で自身の領地が危うくなると、あっさり手のひらを返しおった!おのれ……
「であるならば、X字軍はこのままムンゴルの対処にあてるべきかと存じ上げます」
「いかにも、そしてそれはデイツ王の指揮ではなく、大デイツ騎士団総長のタゴコロ総長に一任するのがよろしいかと。」
「「うむ!しかり!しかり!」」
貴族共をしかりつけても、もはや聞くまい、騎士団の長に過ぎないタゴコロに、10倍の戦力を相手せよと?悪い冗談だ。
とはいえ、壁を使って戦えば、まだまともな戦いはできる。
ムンゴルの弓はこちらより性能がいいが、高い壁の上から狙い打てばまだ飛距離を稼げていい勝負ができる。
つまり籠城戦なら多少の勝機はある。
機人と戦うつもりでそろえた軍を、まさかムンゴルに使うことになるとはな……
しかしこうなっては仕方がない、機人はひとまず捨ておいて、まずはムンゴルの対処だ。ここでデイツを失うわけにはいかない。
私はタゴコロを天幕に呼びつけると、早速、戦いの用意をはじめた。
燃やされ、骨組みだけになった農家と、収穫前に踏み荒らされ、刈り取られて、無残な姿となった畑。略奪だけは一丁前だな。
領内の視察として抜け出たが、このまま国境を超えるつもりだ。その案内役は鼠人の猟師、機人の目撃報告を最初に持ってきたあの者だ。
「へえ、この先の岩山を超えて、平原を行って7日もすれば、イトアニア、ルシアの先端に着きますはずで」
「長旅になるがよろしく頼む」
X字軍が召集され、機人との戦いが始まったが、ここまで力の差があったとはな。トンプル騎士団はほぼ何もできずに消滅。聖ヨワネ騎士団もマルダの海軍がその半数以上を失い、総長、そして持ち出した聖遺物の行方も不明だという。
敗北が続き、宗教的シンボルも失ったX字軍は動揺している。あと一押し、何かがあれば、バラバラになってもおかしくないな。
残った全軍の3分の1、大デイツ騎士団だけで機人を相手にできるとは思えない。戦った後、傷ついた国土と軍をどうすればいいのだ?降伏するにしても、機人がとても話が通じる相手とは思えない。
――つまり、この国、詰んでる。
私は足に細い布を巻き付け、脚絆とする。強く巻き付けた布は、疲労を軽減してくれる。長旅に備えた品を詰め込んだカバンを背負い、その上に巻いた毛布を乗せる。うん、これならどこから見ても旅行者だな。
神聖オーマ帝国はこれから崩壊に向かうだろう。なので私はルシアに向かうことにした。ルシアはこの世界のド田舎だ。牛と麦畑、あとはサケを取るためのカヌーしかないようなところだ。
書類で出来た要塞を離れ、厄介ごとから身を引き、隠遁しよう。
すくなくとも、機人の気が済むまでは。
私は丘を離れ、神聖オーマ帝国の東の平原へと向かった。
しかし、私たちの旅は、突如そこで中断された。
平原の向こうから唐突に表れた、牛の角を旗印にしたムンゴル帝国の騎兵たち。
彼らに取り囲まれ、捕虜になってしまったのだ。
テントを曳きながら羊や馬を伴い移動しているムンゴルの遊牧民たち。地平線を埋め尽くすその数は10万を下らないだろう。半数は民間人だ。つまり、彼らはこれまでの略奪が目的の侵略ではなく、新しく国を建てる、「植民」に来ている。
神聖でもなく、オーマでもなく、ましてや帝国でもない、神聖オーマ帝国は今ここに死亡診断書を突き付けられた。そしてたぶん私も。
★★★
数日のち、神聖オーマ帝国の首都郊外に張られた、X字軍の司令部となっている天幕。そこに、息を切らせた伝令が飛び込んできた。
「デイツ王!一大事にございます!」
「落ち着け、聖ヨワネ騎士団が壊滅したことについて、余は既に聞き及んでおる。」
「そちらではありませぬ!ムンゴルが!ムンゴル帝国が侵攻を開始しました!10万を超える軍勢が集結して国境を越え、ペーランドはムンゴル軍の将軍、チンガス・ハンの怒涛の攻撃を受け、州都ワリシャワ陥落との報告です!」
「なんだと?!」
「ムンゴル帝国はペーランドを超え、デイツに迫っています!」
「むむむ……」
「何が、むむむだ!」
声を上げたのは、X字軍にあつまった、諸侯の一人だ。
「この戦いでデイツが疲弊して、一番喜んだのは誰だと思っておる!機人などに貴重な兵力をつぎ込んで、ほかならぬムンゴルではないか!」
「左様、機人はこちらを攻めるわけでもなく、ただ魔王城に居座っているだけ。緊急の要件ではなかった。にもかかわらず、安易な攻撃で半数以上を失った。」
「デイツ王の采配には、我らも疑問を禁じ得ませんな」
こいつら……!あれだけ賛成しておいて、ムンゴルの侵略で自身の領地が危うくなると、あっさり手のひらを返しおった!おのれ……
「であるならば、X字軍はこのままムンゴルの対処にあてるべきかと存じ上げます」
「いかにも、そしてそれはデイツ王の指揮ではなく、大デイツ騎士団総長のタゴコロ総長に一任するのがよろしいかと。」
「「うむ!しかり!しかり!」」
貴族共をしかりつけても、もはや聞くまい、騎士団の長に過ぎないタゴコロに、10倍の戦力を相手せよと?悪い冗談だ。
とはいえ、壁を使って戦えば、まだまともな戦いはできる。
ムンゴルの弓はこちらより性能がいいが、高い壁の上から狙い打てばまだ飛距離を稼げていい勝負ができる。
つまり籠城戦なら多少の勝機はある。
機人と戦うつもりでそろえた軍を、まさかムンゴルに使うことになるとはな……
しかしこうなっては仕方がない、機人はひとまず捨ておいて、まずはムンゴルの対処だ。ここでデイツを失うわけにはいかない。
私はタゴコロを天幕に呼びつけると、早速、戦いの用意をはじめた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
十六夜誠也の奇妙な冒険
シルヴィアたん
SF
平和な国ー日本ー
しかしこの国である日ウイルスが飛来した。このウイルスに感染したものは狂人と化し人間を見つけては襲いかかる。
狂人に噛まれたものも狂人へと変わる、、、
しかしある一定の年齢までならこのウイルスに感染しない。
これはウイルスに感染せずなお狂人に噛まれなかった少年少女たちの物語。
十六夜誠也と仲間達はウイルスについて、日本の状態についてを知るために狂人と戦う。
第2章
最強の超感染体ウェイパーを倒し、日本も段々と人が増え平和を手にした誠也たち。だが新たに強力な超感染体が次々と現れる。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ヒナの国造り
市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。
飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?
水定ユウ
SF
一人暮らしの女子高生、立花明輝(たちばなあきら)は道に迷っていた女性を助けた後日、自宅に謎の荷物が届く。開けてみると、中身は新型の高級VRドライブとプレイヤーがモンスターになれると言う話題の最新ゲーム『Creaturess Union』だった。
早速ログインした明輝だったが、何も知らないまま唯一選んではいけないハズレキャラに手を出してしまう。
リセットができないので、落ち込むところ明輝は持ち前の切り替えの速さと固有スキル【キメラハント】で、倒した敵モンスターから次々能力を奪っていって……。
ハズレキャラでも欲しい能力は奪っちゃえ! 少し個性の強い仲間と共に、let'sキメラハント生活!
※こちらの作品は、小説家になろうやカクヨムでも投稿しております。
個性が強すぎる仲間のせいで、かなり効率厨になる時があります。そういう友達が劇中に登場するので、ゲーム的な展開からかけ離れる時があります。
後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜
黄舞
SF
「お前もういらないから」
大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。
彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。
「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」
「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」
個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。
「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」
現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。
私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。
その力、思う存分見せつけてあげるわ!!
VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。
つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。
嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。
Tactical name: Living dead. “ Fairies never die――. ”
されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
遠い昔の記憶なのでやや曖昧だが、その中でも鮮明に残っている光景がある。
企業が作った最先端のロボット達が織りなす、イベントショーのことだった。
まだ小学生だった頃の俺は両親に連れられて、とある博物館へと遊びに来ていた。
そこには色々な目的で作られた、当時の様々な工業機械や実験機などが、解説と一緒に展示されていた。
ラジコンや機械弄りが大好きだった俺は、見たこともない機械の物珍しさに、凄く喜んでいたのを朧げに覚えている。
その中でも人間のように二足歩行し、指や関節の各部を滑らかに動かして、コミカルなショーを演じていたロボットに、一際、興味を惹かれた。
それは目や鼻と言った特徴はない無機質さで、まるで宇宙服を着込んだ小さな人? そんな感じだった。
司会の女性が質問を投げ掛けると、人の仕草を真似て答える。
首を傾げて悩む仕草や、大袈裟に身振り手振りを加えたりと、仰々しくも滑稽に答えていた。
またノリの良い音楽に合わせて、ロボットだけにロボットダンスを披露したりもして、観客らを大いに楽しませていた。
声は声優さんがアテレコしていたのをあとから知るが、当時の俺は中に人が入ってるんじゃね? とか、本気で思っていたりもしていたくらいだ。
結局は人が別室で操作して動かす、正しくロボットに違いはなかった。
だがしかし、今現在は違う。
この僅か数十年でテクノロジーが飛躍的に進歩した現代科学。
それが生み出したロボットに変わるアンドロイドが、一般家庭や職場にも普及し、人と共に生活している時代だからだ。
外皮を覆う素材も数十年の間に切磋琢磨され、今では人間の肌の質感に近くなり、何がどうと言うわけではないが、僅かばかりの作り物臭さが残る程度。
またA.I.の発達により、より本物の人間らしい動き、表情の動きや感情表現までもを見事に再現している。
パッと見ただけでは、直ぐに人間と見分けがつかないくらい、精巧な仕上がりだ。
そんな昔のことを思い出している俺は、なんの因果か今現在、そのアンドロイドらと絶賛交戦中ってわけで――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる