5 / 8
黒覆面の魔女・ミスX4
しおりを挟む
一回戦最後の試合は、ファイヤー松本 vs ミスX4。
もしかすると、ミスX4は「スーパーアサコじゃないかとか」とか「いや、RKクイーンに違いない」とか、さまざまな憶測を呼んだが、いざふたを開けてみたら、謎の覆面レスラーが会場に現れた。
遠い昔、白覆面の魔王として絶大な人気を誇った外国人レスラーがいたが、目の前に現れたのは白覆面ならぬ黒覆面の魔女。全身黒ずくめで花道を行ったりきたりしながら、ようやくリングインしたと思ったら、いきなり毒霧らしきものを口から噴射した。
「おおっ」というどよめき。毒霧の正体はどうやらメロンシロップなのだが(苦笑)、色合い的に毒々しさだけは感じられた。最前列のお子さんが「あっ、ジュースの匂いがする」と叫んだときは、会場の一部がどっと沸いた。
「一体全体なんだっていうんだよー」といい、苛立ちを隠せないファイヤー松本。「くるならきてみろ、おらー」と叫びながら、いきなりラリアットを放った。リングに崩れ落ちた黒覆面を抱え込むと、強烈なパワースラム。そこへ体重を活かしたサンダードロップをくり出したのだから、たまらない。一発、二発、三発‥‥。レフェリーにカウントを要求する松本だったが、考えてみると、まだ試合が始まっていない。
「何してやがるんだよ。さっさと試合を始めろ」という松本に促されて、ようやく試合開始のゴングが打ち鳴らされた。カ~~~ン。
「遅(お)せえんだよ、くそレフェリー」といいながら、相手の覆面をつかむと、余裕しゃくしゃくで、覆面を剥ぎとり始めた松本だったが、なんと驚いたことに、黒覆面の下にはさらにもう一枚の黒覆面が。どちらも黒いだけで、特にデザインらしいデザインは施されていなかった。顔の見えない怪しげなブラックワールド。
「なんなんだよ。こいつ変態じゃねえのか」と驚きの顔を見せながら、アンダーマスクをも剥ぎとろうとする松本のことを、レフェリーが制止しにかかった。必死の形相で止めにかかろうとするレフェリーを忌み嫌った松本は、つい「うぜぇんだよー」と口にしながら、レフェリングを務めるニューおてんば温泉の社長のことを場外に突き飛ばしてしまったのだが、これがまずかった。レフェリーが折り畳み椅子のパイプ部分に頭を打ちつけてしまい、不意討ちの危険行為ともとれる松本のリアクションに、大慌てでゴングを要請したのだ。
カンカンカンカンカンカン。な、なんと。ミスX4の正体もわからぬまま、松本が反則負けを喫してしまった。あまりにもあっ気ない幕切れ。
「なんで私が反則なんだよー」と絶叫しながら、レフェリーの社長に食ってかかる松本。必死の形相で説明を加える社長だったが、納得のいかない松本は、とうとうリング上で大暴れを始めた。いきなりナックルパンチを叩き込んだと思ったら、大きな胸をせり出して、社長にボディーアタックを一悶。レフェリーの社長が、たちまち場外にすっ飛んだ。
「社長に手を出すなら、私を倒してからにしなさい」と声を張りあげる浅子のお母さん(社長夫人)だったが、ちょっとやりすぎだとでも思ったのか、松本が社長夫人に手を出すことはなかった。松本の体当たりを食らった社長は、最前列のお客さんたちの目の前で大の字になっていた。
「さぁ、やれるものならやってみなさい。アサコズマザーがお相手をしてあげるわ」という夫人の毅然とした態度に、やんややんやの喝さいが浴びせられた。母というか、ここぞという場面での女は強し。自分が旦那を守るというファイティングスピリットには、すさまじいものがあったのである。
ところが――どうだろう。そんな混乱の中にあって、すくっと立ちあがったミスX4は、まるで何ごともなかったかのように、リングから立ち去っていくではないか。ギョロッという眼差しだけを場外に向けると、花道で立ち止まり、再び毒霧ジュースを噴射。その不気味さも手伝って、会場が興奮の渦に包まれた。リング上で息まく松本でさえ、あっ気にとられてしまうほど、黒覆面の魔女には異様な雰囲気が立ち込めていたのだ。
「な、なんなんだよ」。
「黒ずくめのブラックウーマン」。
観客の一部から「ジュリー?」という声が聞かれたが、まさかそんなはずはあるまい。上背こそ似通っているが、体型が違いすぎるのだ。どちらかというとスリムなジュリーに対し、胸もお尻もふくよかなミスX4。誰がどう見ても女子そのもの。観客のひとりが、SAKIの口癖を真似て「ウッホウホウホ」という叫び声をあげたが、黒覆面の魔女は、ついにひとことも発することなく、控室という闇の中へ消えていくのであった。
ぶ、不気味すぎるぞ。ミステリアスウーマン・イン・ブラック。
もしかすると、ミスX4は「スーパーアサコじゃないかとか」とか「いや、RKクイーンに違いない」とか、さまざまな憶測を呼んだが、いざふたを開けてみたら、謎の覆面レスラーが会場に現れた。
遠い昔、白覆面の魔王として絶大な人気を誇った外国人レスラーがいたが、目の前に現れたのは白覆面ならぬ黒覆面の魔女。全身黒ずくめで花道を行ったりきたりしながら、ようやくリングインしたと思ったら、いきなり毒霧らしきものを口から噴射した。
「おおっ」というどよめき。毒霧の正体はどうやらメロンシロップなのだが(苦笑)、色合い的に毒々しさだけは感じられた。最前列のお子さんが「あっ、ジュースの匂いがする」と叫んだときは、会場の一部がどっと沸いた。
「一体全体なんだっていうんだよー」といい、苛立ちを隠せないファイヤー松本。「くるならきてみろ、おらー」と叫びながら、いきなりラリアットを放った。リングに崩れ落ちた黒覆面を抱え込むと、強烈なパワースラム。そこへ体重を活かしたサンダードロップをくり出したのだから、たまらない。一発、二発、三発‥‥。レフェリーにカウントを要求する松本だったが、考えてみると、まだ試合が始まっていない。
「何してやがるんだよ。さっさと試合を始めろ」という松本に促されて、ようやく試合開始のゴングが打ち鳴らされた。カ~~~ン。
「遅(お)せえんだよ、くそレフェリー」といいながら、相手の覆面をつかむと、余裕しゃくしゃくで、覆面を剥ぎとり始めた松本だったが、なんと驚いたことに、黒覆面の下にはさらにもう一枚の黒覆面が。どちらも黒いだけで、特にデザインらしいデザインは施されていなかった。顔の見えない怪しげなブラックワールド。
「なんなんだよ。こいつ変態じゃねえのか」と驚きの顔を見せながら、アンダーマスクをも剥ぎとろうとする松本のことを、レフェリーが制止しにかかった。必死の形相で止めにかかろうとするレフェリーを忌み嫌った松本は、つい「うぜぇんだよー」と口にしながら、レフェリングを務めるニューおてんば温泉の社長のことを場外に突き飛ばしてしまったのだが、これがまずかった。レフェリーが折り畳み椅子のパイプ部分に頭を打ちつけてしまい、不意討ちの危険行為ともとれる松本のリアクションに、大慌てでゴングを要請したのだ。
カンカンカンカンカンカン。な、なんと。ミスX4の正体もわからぬまま、松本が反則負けを喫してしまった。あまりにもあっ気ない幕切れ。
「なんで私が反則なんだよー」と絶叫しながら、レフェリーの社長に食ってかかる松本。必死の形相で説明を加える社長だったが、納得のいかない松本は、とうとうリング上で大暴れを始めた。いきなりナックルパンチを叩き込んだと思ったら、大きな胸をせり出して、社長にボディーアタックを一悶。レフェリーの社長が、たちまち場外にすっ飛んだ。
「社長に手を出すなら、私を倒してからにしなさい」と声を張りあげる浅子のお母さん(社長夫人)だったが、ちょっとやりすぎだとでも思ったのか、松本が社長夫人に手を出すことはなかった。松本の体当たりを食らった社長は、最前列のお客さんたちの目の前で大の字になっていた。
「さぁ、やれるものならやってみなさい。アサコズマザーがお相手をしてあげるわ」という夫人の毅然とした態度に、やんややんやの喝さいが浴びせられた。母というか、ここぞという場面での女は強し。自分が旦那を守るというファイティングスピリットには、すさまじいものがあったのである。
ところが――どうだろう。そんな混乱の中にあって、すくっと立ちあがったミスX4は、まるで何ごともなかったかのように、リングから立ち去っていくではないか。ギョロッという眼差しだけを場外に向けると、花道で立ち止まり、再び毒霧ジュースを噴射。その不気味さも手伝って、会場が興奮の渦に包まれた。リング上で息まく松本でさえ、あっ気にとられてしまうほど、黒覆面の魔女には異様な雰囲気が立ち込めていたのだ。
「な、なんなんだよ」。
「黒ずくめのブラックウーマン」。
観客の一部から「ジュリー?」という声が聞かれたが、まさかそんなはずはあるまい。上背こそ似通っているが、体型が違いすぎるのだ。どちらかというとスリムなジュリーに対し、胸もお尻もふくよかなミスX4。誰がどう見ても女子そのもの。観客のひとりが、SAKIの口癖を真似て「ウッホウホウホ」という叫び声をあげたが、黒覆面の魔女は、ついにひとことも発することなく、控室という闇の中へ消えていくのであった。
ぶ、不気味すぎるぞ。ミステリアスウーマン・イン・ブラック。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
バンコクおてんばプロレスの女神たち ~バーニング・スピリット・イン・タイ~
ちひろ
青春
常夏の国・タイで新たな闘いの炎を燃やすバンコクおてんばプロレスの女神たち。広告宣伝兼選手としてタイ駐在を命じられた“男子で、OLで、女子プロレスラー”のジュリーらがくり広げる青春派プロレスノベルの海外進出ストーリー。宇宙一強い女子たちの闘いぶりに熱き声援を――。
おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~
ちひろ
青春
おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。
おてんばプロレスの女神たち ~レディーコングSAKIの日本上陸~
ちひろ
青春
バンコクおてんばプロレスで死闘を演じてきたレディーコングSAKIが、ついに憧れの国・日本へ。大学の聴講生として籍を置きながら、おてんば女子プロレスごっこ団体の聖地・ニューおてんば温泉で「試練の七番勝負」に挑む。青春派プロレスノベル『おてんばプロレスの女神たち』のアナザーストーリー。
おてんばプロレスの女神たち
ちひろ
青春
温泉で有名なおてんば市を拠点に、女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスを旗揚げした木下涼子。同じ大学の船橋浅子らとともに、明るく楽しく可憐なリングをめざすも、そこには予期せぬライバルたちの出現が――。女子大生パワーをいかんなく発揮しながら、可能性という名の花道を駆けぬける青春派プロレスノベル。
おてんばプロレスの女神たち ~プレジデント日奈子のサバイバル~
ちひろ
青春
バンコクおてんばプロレスを創設し、自らも前座レスラーとして出しゃばるプレジデント日奈子(本名:佐藤日奈子)。本業は編集プロダクションの社長として、経営の二文字と格闘を続ける毎日だったが、そんな日奈子に倒産の危機が襲いかかった。青春派プロレスノベル『おてんばプロレスの女神たち』の番外編として、プレジデント日奈子の生きざまを追う。
スーパーおてんばプロレスの女神たち ~やさぐれ女社長☆プロフェッショナルへの未知(みち)に挑むの巻~
ちひろ
青春
おてんば市という地方都市で広告や編集の仕事を手がけている、おてんば企画。向こう見ずで走り出したら止まらない、やさぐれ女社長の日奈子がほれ込んでいるのが、女子プロレスごっこである。「社会人プロレスじゃつまらないわ。こうなったら本物のプロレス団体をつくるわよ」という超デンジャラスな日奈子の発想に、デザイナーの美央をはじめとするスタッフらは翻弄されっぱなしであった。
プロフェッショナルへの未知(みち)を突き進む、おてんばプロレスの新たな可能性をペンならぬパソコンのキーボードが追う。
おてんば企画のヴィーナスたち
ちひろ
青春
南東北を代表する温泉の街・おてんば市で、印刷物やホームページの編集プロダクションを営む有限会社おてんば企画。女の園ともいうべき、おてんば企画の中にあって、とりわけ個性豊かな女神三人(ひとりは男子?)の日常的エピソードを綴る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる