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容子を超えたSAKIの今
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稲辺容子 vs ミスX2。
二試合目のミスX2の正体は、なんとレディーコングSAKIだった。タイのバンコクからプロレス遊学を果たし、現在はジャパンおてんばプロレスの練習生としてプロの道を踏み出すべく、特訓中の猛女がおてんばプロレスのリングで一日限りの復帰を遂げたのである。
「ウッホウホウホ」というキングコング張りの叫び声が、ニューおてんば温泉に帰ってきた。SAKIにとっては第二の故郷でもあるおてんば市のファンの間から「お帰りー」という声がはじけ飛んだ。
対戦相手は、おてんばプロレスの若きエース・稲辺容子である。容子自身、卒業後は教職の道へ進もうと思っている。できれば地元の小学校で教鞭をとるのが目標だったが、教員採用試験の一次の倍率は三倍とも四倍ともいわれていて、そう簡単でないことは百も承知だった。スーパーアサコこと浅子先輩からは「いずれはプロレスの道も考えてみて。待っているわよ」という誘いを受けているが、一次試験の結果通知がくるまでは、天命を待つ以外にないというのが今の容子だったのである。将来の日本女子プロレス界をけん引することになるであろうSAKIとの対戦は、もちろん初めてであった。
現役のおてんばプロレス部員トップの容子と、今まさにプロへの階段を駆けあがろうとしているSAKI。
「さぁ、かかってこい」というと、自分の頬っぺたをパーンと叩きながら、気合を入れる容子。セコンドには試合を終えたばかりの妹の隆子がついていた。素顔を覆っていたペイントは、きれいに洗い落とされ、まだあどけない女子高生の姿がそこにはあった。姉妹なだけあって目元がそっくり。司法書士のお父さんも熱い視線を送り続けていた。
カ~~~ンという軽やかなゴングの音。猛獣が獲物を狙うような鋭い眼光で、しばらく容子をにらみつけていたSAKIは、やがて「うがっ」という声を発すると、容子に襲いかかった。まるで猛獣が子羊を捕まえるような一方的な攻撃。強烈な張り手から意表を突いたヘッドバットへ。その場に崩れ落ちた容子にストンピングの雨あられ。おてんば女子大学の友人たちだろうか、「キャーッ」という悲鳴があがった。そこへ豪快なギロチンドロップを放つと、SAKIは早くも勝利を確信したかのように、パイプ椅子をコーナーポストに見立て、ダイビング式のエルボードロップをくり出した。
バ~ンという衝撃音。プロの練習生になってから、もしかするとSAKIのウエイトは十キロ、いや、十五キロは増えたかもしれない。キングコングの巨体が宙を舞い、レスラーとしてはやや小ぶりの容子のボディーを直撃したのだから、たまらなかった。ワン、ツー、スリー。
「えっ、嘘」。
「あー、まさか」。
信じられないという空気が場内を埋め尽くした。ピタリとも動けず、おてんばプロレストップの容子が、異次元のパワーをさらけ出すSAKIの餌食になってしまったのだ。二分四十四秒、ダイビング・エルボードロップからの体固めでSAKIの圧勝。
振り返ってみると、容子はSAKIに対し、何ひとつとして技をくり出すことができなかった。まるで赤子のような扱い。容子の敗退を目の当たりにした妹の隆子が「今度は私が相手だ」といい、SAKIを挑発しにかかったが、SAKIはまるで気に留めることなく、「ウッホウホウホ」という叫び声だけを残してリングを去っていくのであった。
強い、強すぎる。タイの猛女、レディーコングSAKI。
二試合目のミスX2の正体は、なんとレディーコングSAKIだった。タイのバンコクからプロレス遊学を果たし、現在はジャパンおてんばプロレスの練習生としてプロの道を踏み出すべく、特訓中の猛女がおてんばプロレスのリングで一日限りの復帰を遂げたのである。
「ウッホウホウホ」というキングコング張りの叫び声が、ニューおてんば温泉に帰ってきた。SAKIにとっては第二の故郷でもあるおてんば市のファンの間から「お帰りー」という声がはじけ飛んだ。
対戦相手は、おてんばプロレスの若きエース・稲辺容子である。容子自身、卒業後は教職の道へ進もうと思っている。できれば地元の小学校で教鞭をとるのが目標だったが、教員採用試験の一次の倍率は三倍とも四倍ともいわれていて、そう簡単でないことは百も承知だった。スーパーアサコこと浅子先輩からは「いずれはプロレスの道も考えてみて。待っているわよ」という誘いを受けているが、一次試験の結果通知がくるまでは、天命を待つ以外にないというのが今の容子だったのである。将来の日本女子プロレス界をけん引することになるであろうSAKIとの対戦は、もちろん初めてであった。
現役のおてんばプロレス部員トップの容子と、今まさにプロへの階段を駆けあがろうとしているSAKI。
「さぁ、かかってこい」というと、自分の頬っぺたをパーンと叩きながら、気合を入れる容子。セコンドには試合を終えたばかりの妹の隆子がついていた。素顔を覆っていたペイントは、きれいに洗い落とされ、まだあどけない女子高生の姿がそこにはあった。姉妹なだけあって目元がそっくり。司法書士のお父さんも熱い視線を送り続けていた。
カ~~~ンという軽やかなゴングの音。猛獣が獲物を狙うような鋭い眼光で、しばらく容子をにらみつけていたSAKIは、やがて「うがっ」という声を発すると、容子に襲いかかった。まるで猛獣が子羊を捕まえるような一方的な攻撃。強烈な張り手から意表を突いたヘッドバットへ。その場に崩れ落ちた容子にストンピングの雨あられ。おてんば女子大学の友人たちだろうか、「キャーッ」という悲鳴があがった。そこへ豪快なギロチンドロップを放つと、SAKIは早くも勝利を確信したかのように、パイプ椅子をコーナーポストに見立て、ダイビング式のエルボードロップをくり出した。
バ~ンという衝撃音。プロの練習生になってから、もしかするとSAKIのウエイトは十キロ、いや、十五キロは増えたかもしれない。キングコングの巨体が宙を舞い、レスラーとしてはやや小ぶりの容子のボディーを直撃したのだから、たまらなかった。ワン、ツー、スリー。
「えっ、嘘」。
「あー、まさか」。
信じられないという空気が場内を埋め尽くした。ピタリとも動けず、おてんばプロレストップの容子が、異次元のパワーをさらけ出すSAKIの餌食になってしまったのだ。二分四十四秒、ダイビング・エルボードロップからの体固めでSAKIの圧勝。
振り返ってみると、容子はSAKIに対し、何ひとつとして技をくり出すことができなかった。まるで赤子のような扱い。容子の敗退を目の当たりにした妹の隆子が「今度は私が相手だ」といい、SAKIを挑発しにかかったが、SAKIはまるで気に留めることなく、「ウッホウホウホ」という叫び声だけを残してリングを去っていくのであった。
強い、強すぎる。タイの猛女、レディーコングSAKI。
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