シン・おてんばプロレスの女神たち ~衝撃のO1クライマックス開幕~

ちひろ

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逸材・稲辺隆子の大変身

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 アサコズマザー vs ミスX1。
 優勝候補の筆頭は、現役部員の稲辺容子だったが、その妹でおてんばプロレスの準部員でもある稲辺隆子がミスX1として名乗りをあげた。
 隆子はまだ高校三年生。姉の容子の影響でプロレス好きになり、まだ部外者であったが、おてんば女子大学の練習には、たびたび顔を出していた。とりあえず正体は隠した方がいいだろうという容子のはからいで、隆子は顔にペインティングを施し、リングネームは「TAKAKO」で押し通すことにした。いち早くAO入試を活用し、おてんば女子大学への入学は本決まりの隆子だったが、SNSによる情報が流出しやすい今の世の中、ブレイクして姉の容子を超えるのは、とにかく「大学へ入ってから」というのが隆子自身の切なる想いでもあったのである。
 台風崩れのあいにくの天気の中、ニューおてんば温泉の特設会場(宴会場がプロレス会場なのだ)に集まったのは、パッと見(あくまでも目測で)三百人ぐらいだろうか。ちょうど敬老の日と重なったせいか、とにかく年配のお客さんが目立つ。というよりも、悲しいかな、おてんば市の高齢化率の高さを物語っているだけかもしれないが、なかには試合開始前から、早くも大ジョッキで乾杯を始めるオッさん連中や、何を勘違いしているのか、「祭」と書かれたはっぴを羽織って、お祭りルックを決め込んでいるGG(じじぃ)の姿も。祭りだ、祭りだ、おてんばプロレス祭りだ。みたいな感じ。
 アサコズマザーとTAKAKOの初対決は、意外にもハイレベルな一戦となった。見よう見まねで、かっこうだけは一丁前のアサコズマザーだったが、いざふたを開けてみると、そこはさすがスーパーアサコの実の母親。スピードといい、テクニックといい、娘の浅子も顔負けのファイトを見せつけた。何げに本人がもらしていた情報によると、高校時代は女子バレー部のエースアタッカーとして、インターハイに出場したこともあるとかないとか。どうりで。昔から運動神経は抜群だったのである。
 アサコズ・ラリアットを彷彿とさせるようなマザーズ・ラリアット、垂直落下式のDDT。これでもかとばかりのダイビングセントーン。
 一方のTAKAKOは、類まれなセンスのよさと、群を抜く瞬発力、そしてメンバーの中では圧倒的な若さも手伝って、天才的な闘いぶりを披露した。アサコズマザーが得意の投げっぱなしジャーマンをくり出したと思ったら、TAKAKOは裏投げの三連発で対抗。どこでどう覚えたのか、ボーアンドアローやトライアングルサブミッションまで飛び出した。
 「いいぞ、TAKAKO」。
 「お姉さんを超えろ」。
 「よっ、次期エース」。
 正体を隠していたはずのTAKAKOに、思わぬハプニングが襲いかかった。歌舞伎をモチーフにしたペイントで顔を覆いつくしたつもりが、汗で素顔が露わになってしまったのだ。
 おてんばプロレスの現役女子大生エースとして、それなりに高い人気を誇っていた容子の妹ということで、隆子にも注目が集まった。一気に噴出する「TAKAKO」コール。バレた以上は仕方がないと開き直った隆子は、親子ほど年齢の離れたアサコズマザーを攻め立てた。
 ローリングソバットからフロントスープレックスへ。立ちあがりかけたアサコズマザーにシャイニングウィザードをぶち込むと、最後はタイガードライバー令和バージョン(隆子のオリジナルである)でスリーカウントを奪ったのである。
 ワーッという大歓声。最前列で生ビールを飲んでいたオッさんが、器用にも指笛を鳴らし始めた。ピューピューなんて、これがまた盛りあがる、盛りあがる。
 五分十七秒、新型タイガードライバーからの体固めでTAKAKOの勝利。姉の容子がリングに駆けあがると(リングといっても、マットレスを重ね合わせただけの空間だったが)、「よくやった」といいながら、TAKAKOの肩を抱き寄せた。
 今日は地元で司法書士事務所を開いているという容子らのお父さんも観にきているらしく、O1クライマックス用に設置されたWebカメラのプロジェクターには、じっと腕組みをしながら、リング上の娘たちを見守る父親の姿が映し出されていた。地元では堅物として知られる容子らの父親が観戦しにきていること自体、ひとつの珍事らしく、会場からは「おおっ」というどよめきが起こった。
 「隆子ちゃん、二回戦も頑張ってよ」なんて、エールの言葉を送るアサコズマザー。「そうだ、そうだ」「頑張れよ、期待の星」とかなんとか、しきりにわめき立てるオジさまたち。いくらおてんばプロレスが有名になろうとも、そこには変わらぬ温かさが充満しているのであった。人と人、心と心のつながりを大切にする、ふるさとのパワー。
 「だから好きなの。おてんばプロレスって」と叫びながら、TAKAKOは女子プロレスラーとして初めての勝利の味を噛みしめた。
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