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かつての盟友・ジュリーとの再会
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それでもいつかは大きなリングに立ちたい。プロレスの楽しさを全身で感じながら、多くの人たちに感動や勇気を与えたい。青山と中村のふたりが、そんなことを考えていた矢先のことであった。風の便りによると、おてんば女子大学にあるおてんばプロレスという団体で、あのジュリーが活躍しているというのだから、黙って見過ごすわけにはいかなかった。「嘘だろ」と思いながら、ネットを検索してみたら、出ている、出ている。ジュリーだけでなく、RKなんとかというエース格のレスラーや、スーパーなんとかという副将格のレスラーも。
「えっ、元・高校球児が女子大に入って、今度はプロレスかよ。しかも俺たちと同じ学生プロレスの道へ進むなんて、これは何か運命のようなものを感じるな」という青山に、「そういやぁ、俺はジュリーともプロレスごっこをしたことがあるよ。元・男子とスキンシップを図っていたなんて、今となっては貴重な体験だ」と中村が応じた。「えっ、元・男子のジュリーとプロレスをやったのかよ」と青山は驚いたが、「いやいや、ジュリーは今でも男子だし」といい直して、ふたりは苦笑した。
そんなジュリーが入ったという学生プロレス団体・おてんばプロレスと関係を持ってみるのもおもしろいのでは――というのが、青山らの答えだった。もちろん男子と女子という壁はある。が、かつて同じグラウンドで白球を追いかけた者同士が、今度は学生プロレスのリングで相まみえるという図式は、このうえなく刺激的であった。
「よーし、おてんばプロレスに挑戦状を叩きつけよう。これはもう挑戦状というより、僕たちからジュリーへのラブレターみたいなものさ」。
そういってのける青山の脳裏では、甲子園への夢を挫いてしまった陳謝の想いと、元・男子(いや、今も男子だ)のジュリーに対するエールの気持ちが複雑に混じり合っていた。あの日、あの瞬間(とき)、僕たちの甲子園への道は閉ざされてしまったが、新たな共通の夢を追い求めてみるのも悪くないだろう。
イケメンプロレスの名前を一気に知らしめるためには、例えば因縁試合を演出するのもありかもしれないと青山は考えていた。当然のことながら前もってジュリーに連絡を入れ、お膳立てをしておくなんていう姑息なやり方は一切なし。あくまでもリアルを追求したいという青山と中村の思惑が一致し、あと先考えず、まずはアクションを起こそうということになったのである。
後発のイケメンプロレスに対し、おてんばプロレスは市内のニューおてんば温泉の宴会場を拠点に、すでに大盛りあがりの大会を主催していた。たまに街角で見かけるお手製のポスターを見た限りでは、たしか「おてんばプロレス vs オバさん軍団」なんて銘打ちながら、女同士の熱き闘いのドラマを演じていたのである。
そこへイケメンプロレスが第三の軍団として名乗りをあげるとなると、不意討ちを食らわすのがいいだろう。そうもくろんだ青山と中村は、おてんばプロレスのファンの集い(バーベキュー大会)が開かれた直後を狙い撃ちし、おてんばプロレスのトップらに対戦の要求を持ちかけることにした。SNSを通して日程はすでにお見通しだ。
場所はおてんば市内を一望できる、おてんば山公園からの帰り道。曲がりくねった薄暗がりの小道で、ふたりのイケメンが、おてんばプロレスのエースであるRKクイーンや、その片腕であるスーパーアサコらと対峙した。男子が女子に声をかけるなんて、まるでナンパでもしているような気分。いや、ナンパの方がまだ気が楽かな。今の僕たちはナンパでもないし、ましてやハンパな気持ちなんかじゃなく、真っ向から挑戦状をたたきつけようというのだ。正々堂々と直球で勝負、それがイケメンプロレスの生きる道だ。
「おてんばプロレスの皆さんですよね。僕らの挑戦を受けていただけませんか? 僕は、みちのく学院大学のプロレス研究会の青山です。今そちらにいるジュリー君なら、僕らのことを知っているはず。去年まで同じ高校にいましたからね。久しぶりだな、ジュリー。いや、樹里亜」。
今、目の前にいるRKクイーンもスーパーアサコも、ポスターでしか見たことがなかったが、ふたりともごく普通の女子大生という印象だった。女子大学へ進んでからのジュリーと会うのは、考えてみると今日が初めてである。
イケメン男子の青山と中村が、かつての野球部のチームメイトで、今は女子大生のジュリーが所属する女子プロレスごっこ団体に、突じょ闘いを挑むというハプニングはインパクト絶大であった。おてんばプロレスのとりまきは三十人、いや、四十人はいるだろうか。
「いいぞー、やれやれ」「男子なんか、おてんばパワーでやっつけろ」「いっそのこと、お〇んちんを蹴飛ばせばいいんだ」「ジュリーのことは、オジさんたちが守ってあげる」とかなんとか、おてんばプロレスのファンの中には、ジュリーにぞっこんのオッさん連中が多く、いささか下品な言葉がはじけ飛んだ。おてんばプロレスのファンの中には、十代の女子もいて、彼女らの間からは「結構イケメンじゃん」という声が聞かれた。
「この際、男女の関係はありません。僕たちと闘ってください。容赦だけはしませんから」という中村に、「兄(あん)ちゃんたちも頑張れ。プロレスはおてんば市の新しい名物だっちゃ」という声があがった。
そんな外野からの声をかき消すべく、「なんなのよ、あんたたちは」といいながら、ふたりのイケメンと対峙する、おてんばプロレスの女神たち。その姿はイケメンプロレスのふたり以上に、イケメンならぬイケジョぶりを発散させていたが、あまりにも意表をついて現れた同級生による挑発に、樹里亜ことジュリーだけはひとり顔をこわばらせていた。
「えっ、元・高校球児が女子大に入って、今度はプロレスかよ。しかも俺たちと同じ学生プロレスの道へ進むなんて、これは何か運命のようなものを感じるな」という青山に、「そういやぁ、俺はジュリーともプロレスごっこをしたことがあるよ。元・男子とスキンシップを図っていたなんて、今となっては貴重な体験だ」と中村が応じた。「えっ、元・男子のジュリーとプロレスをやったのかよ」と青山は驚いたが、「いやいや、ジュリーは今でも男子だし」といい直して、ふたりは苦笑した。
そんなジュリーが入ったという学生プロレス団体・おてんばプロレスと関係を持ってみるのもおもしろいのでは――というのが、青山らの答えだった。もちろん男子と女子という壁はある。が、かつて同じグラウンドで白球を追いかけた者同士が、今度は学生プロレスのリングで相まみえるという図式は、このうえなく刺激的であった。
「よーし、おてんばプロレスに挑戦状を叩きつけよう。これはもう挑戦状というより、僕たちからジュリーへのラブレターみたいなものさ」。
そういってのける青山の脳裏では、甲子園への夢を挫いてしまった陳謝の想いと、元・男子(いや、今も男子だ)のジュリーに対するエールの気持ちが複雑に混じり合っていた。あの日、あの瞬間(とき)、僕たちの甲子園への道は閉ざされてしまったが、新たな共通の夢を追い求めてみるのも悪くないだろう。
イケメンプロレスの名前を一気に知らしめるためには、例えば因縁試合を演出するのもありかもしれないと青山は考えていた。当然のことながら前もってジュリーに連絡を入れ、お膳立てをしておくなんていう姑息なやり方は一切なし。あくまでもリアルを追求したいという青山と中村の思惑が一致し、あと先考えず、まずはアクションを起こそうということになったのである。
後発のイケメンプロレスに対し、おてんばプロレスは市内のニューおてんば温泉の宴会場を拠点に、すでに大盛りあがりの大会を主催していた。たまに街角で見かけるお手製のポスターを見た限りでは、たしか「おてんばプロレス vs オバさん軍団」なんて銘打ちながら、女同士の熱き闘いのドラマを演じていたのである。
そこへイケメンプロレスが第三の軍団として名乗りをあげるとなると、不意討ちを食らわすのがいいだろう。そうもくろんだ青山と中村は、おてんばプロレスのファンの集い(バーベキュー大会)が開かれた直後を狙い撃ちし、おてんばプロレスのトップらに対戦の要求を持ちかけることにした。SNSを通して日程はすでにお見通しだ。
場所はおてんば市内を一望できる、おてんば山公園からの帰り道。曲がりくねった薄暗がりの小道で、ふたりのイケメンが、おてんばプロレスのエースであるRKクイーンや、その片腕であるスーパーアサコらと対峙した。男子が女子に声をかけるなんて、まるでナンパでもしているような気分。いや、ナンパの方がまだ気が楽かな。今の僕たちはナンパでもないし、ましてやハンパな気持ちなんかじゃなく、真っ向から挑戦状をたたきつけようというのだ。正々堂々と直球で勝負、それがイケメンプロレスの生きる道だ。
「おてんばプロレスの皆さんですよね。僕らの挑戦を受けていただけませんか? 僕は、みちのく学院大学のプロレス研究会の青山です。今そちらにいるジュリー君なら、僕らのことを知っているはず。去年まで同じ高校にいましたからね。久しぶりだな、ジュリー。いや、樹里亜」。
今、目の前にいるRKクイーンもスーパーアサコも、ポスターでしか見たことがなかったが、ふたりともごく普通の女子大生という印象だった。女子大学へ進んでからのジュリーと会うのは、考えてみると今日が初めてである。
イケメン男子の青山と中村が、かつての野球部のチームメイトで、今は女子大生のジュリーが所属する女子プロレスごっこ団体に、突じょ闘いを挑むというハプニングはインパクト絶大であった。おてんばプロレスのとりまきは三十人、いや、四十人はいるだろうか。
「いいぞー、やれやれ」「男子なんか、おてんばパワーでやっつけろ」「いっそのこと、お〇んちんを蹴飛ばせばいいんだ」「ジュリーのことは、オジさんたちが守ってあげる」とかなんとか、おてんばプロレスのファンの中には、ジュリーにぞっこんのオッさん連中が多く、いささか下品な言葉がはじけ飛んだ。おてんばプロレスのファンの中には、十代の女子もいて、彼女らの間からは「結構イケメンじゃん」という声が聞かれた。
「この際、男女の関係はありません。僕たちと闘ってください。容赦だけはしませんから」という中村に、「兄(あん)ちゃんたちも頑張れ。プロレスはおてんば市の新しい名物だっちゃ」という声があがった。
そんな外野からの声をかき消すべく、「なんなのよ、あんたたちは」といいながら、ふたりのイケメンと対峙する、おてんばプロレスの女神たち。その姿はイケメンプロレスのふたり以上に、イケメンならぬイケジョぶりを発散させていたが、あまりにも意表をついて現れた同級生による挑発に、樹里亜ことジュリーだけはひとり顔をこわばらせていた。
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