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ジュリーがゴーゴーバー嬢に転身!?
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悪夢のような試合から一か月後。ジュリーは、ネームが経営するゴーゴーバーのお立ち台に立っていた。いや、立たされていたというのが正直なところだろう。耳をつんざくようなアメリカンポップに合わせながら、超絶エッチなビキニスタイルで踊ることを強要されていたのである。見た目的には完全に夜の街の女。
初めてお立ち台に立たされた日は、涙が止まらなかった。惨めで、情けなくて、まるで自分の肉体がセリに出されているような屈辱感。バンコクおてんばプロレスの立ち上げをサポートすべく、プランナー兼レスラーという重責を担いながら、タイへと渡ってきたのに、まさか風俗の世界に身を投じることになろうとは――。ジュリーが男の娘(こ)なのをわかったうえで、卑猥な言葉をぶつけてくる雄どもは数知れなかった。
ジュリー自身、いざというときは武雄さんが助けてくれるだろうと期待を寄せていたのだが、ネームが経営する会社は武雄さんのクライアント(それも大得意先)らしく、助けるどころか「それはいい考えだ」といい、ものの見事に火に油を注いでくれた。武雄さんの必殺技、THE手のひら返し。
日本企業がタイでビジネスを展開するためには、タイの地元企業をパートナーにするしかなく、日奈子社長から相談を受けた武雄さんが、資産家としての顔を持ち合わせているネーム社長に泣きついてお願いをしたという弱みもあるようだ。バンコクおてんばプロレスがタイで事業を継続できるのは、ネーム社長のおかげでもあったのである。
「ジュリー、ちょっとの間だけでもいいから、ネーム社長のお店に顔を出してくれないかな。せいぜい一時間とか二時間とか、お立ち台の上で笑顔を振りまいているだけでいい。男性客から声がかかったときは、適当に断ればいいわけだし。その気になれば、男性客のおごりでビールが飲めるなんて、こんなおいしい話はないと思う。性転換に関しては、時期尚早ということで、とりあえず踏みとどまってもらえるようにしたからさ」。
武雄さんは「頼むよ、ジュリー」といい、手を合わせてきたが、あまりにも身勝手な話。武雄の野郎、女をなめやがって。ほとんど詐欺だろ。
そう心の中で叫んでも、バンコクおてんばプロレスは日奈子社長が育てようとしている夢の結晶。武雄さんへの不信感に苛まれながらも、ジュリーは大好きな日奈子社長のために、ゴーゴーバーの経営者であるネームと悪魔のような雇用契約を交わす羽目になったのである。「ちょっとだけサインして。そうそう。あとは僕が責任を負うから」とかなんとか、武雄さんの超いい加減マジック。
ジュリー自身、いつの日か女子になりたいという気持ちがないわけではなかったが、男子とのセッ〇スだけはご免だった。あくまでもジュリーというひとりの人間として、日奈子社長の想いを受け止めていたかった。日奈子社長は「ジュリー、待ってて。必ず助けに行くから」といってくれているが、日本での本業が多忙をきわめ、なかなか渡航できずにいた。
ジュリーは日奈子社長の顔を思い浮かべながら、今朝も明け方に帰ってきて、アパートでシャワーを浴びていた。四階という階上にあるせいか、シャワーの水はちょろちょろ。ああ、足を伸ばしてお風呂に入りたいと思いながら、ジュリーはひとときのシャワータイムに癒しを求めた。
あまり思い出したくはないのだが、つい三時間ほど前は白人のエリートサラリーマンたちに誘われ、彼らが滞在しているホテルへ連れて行かれそうになった。バンコクに駐在中のビジネスマンにとっては、しょせんゴーゴーバーで働いている女の子との一夜の遊びとしか思っていないのだろう。単なる性の欲求のはけ口としか見ていない‥‥そんな許せない奴ら。
あっ、なんだかごめんなさい。プロレスの小説を書くつもりが、だんだんR18の話になってきたかも。
ジュリーは、狭いバスルームで自分は一体何のために闘っているんだろうと考えていた。日奈子社長のため。おてんば企画のため。バンコクおてんばプロレスのため。そのどれもが正解だったし、ひとえに自分のためでもあった。いつも振りまわされてばかりではあるが、武雄さんやネーム社長、サキちゃんのためでもある。自分を支えてくれるすべての人たちのために、そう――今は闘いぬく以外にないというのがジュリーの結論だった。出会うものすべてに感謝しながら、闘い続けること、輝き続けること。それこそが自分の生きる道だとジュリーは自分にいい聞かせることにした。
やがてジュリーは、お店ではナンバーワンの女の子として売上に貢献し、ネーム社長から金一封をもらうことになった。「これだけ貢献したんだから、もう働かなくてもいいでしょ」とネーム社長には声を大にしていいたかったが、まがりなりにもジュリーの存在を目当てに、ゴーゴーバーに足を運んでくれているお客さんたちの期待を裏切ることはできなかった。国籍を問わず、ほとんどの男連中はエッチが目的だったが、ジュリーのことを心配して、何くれと声をかけてくれるお客さんたちもいる。ゴーゴーバーという密閉された世界で、彼らからはたくさんのやさしさを受けとった。コップンカー、グラシアス、謝謝(シエシエ)、サラーマット‥‥。世界中のみんなにありがとうと伝えたかった。
ジュリー自身、このままゴーゴーバーの飼い犬になるつもりはなかった。自分には男子も女子も関係ない。ジュリーというひとつの個性を放つ人間として、自分のことを支えてくれるすべての人たちのために、何かできることはないか、本気で考えてみるのはありだろうと思っていた。すがる想いで日奈子社長に連絡を入れてみたが、相変わらず忙殺されていると見えて、会話らしい会話はできぬまま。答えは風の中だった。
初めてお立ち台に立たされた日は、涙が止まらなかった。惨めで、情けなくて、まるで自分の肉体がセリに出されているような屈辱感。バンコクおてんばプロレスの立ち上げをサポートすべく、プランナー兼レスラーという重責を担いながら、タイへと渡ってきたのに、まさか風俗の世界に身を投じることになろうとは――。ジュリーが男の娘(こ)なのをわかったうえで、卑猥な言葉をぶつけてくる雄どもは数知れなかった。
ジュリー自身、いざというときは武雄さんが助けてくれるだろうと期待を寄せていたのだが、ネームが経営する会社は武雄さんのクライアント(それも大得意先)らしく、助けるどころか「それはいい考えだ」といい、ものの見事に火に油を注いでくれた。武雄さんの必殺技、THE手のひら返し。
日本企業がタイでビジネスを展開するためには、タイの地元企業をパートナーにするしかなく、日奈子社長から相談を受けた武雄さんが、資産家としての顔を持ち合わせているネーム社長に泣きついてお願いをしたという弱みもあるようだ。バンコクおてんばプロレスがタイで事業を継続できるのは、ネーム社長のおかげでもあったのである。
「ジュリー、ちょっとの間だけでもいいから、ネーム社長のお店に顔を出してくれないかな。せいぜい一時間とか二時間とか、お立ち台の上で笑顔を振りまいているだけでいい。男性客から声がかかったときは、適当に断ればいいわけだし。その気になれば、男性客のおごりでビールが飲めるなんて、こんなおいしい話はないと思う。性転換に関しては、時期尚早ということで、とりあえず踏みとどまってもらえるようにしたからさ」。
武雄さんは「頼むよ、ジュリー」といい、手を合わせてきたが、あまりにも身勝手な話。武雄の野郎、女をなめやがって。ほとんど詐欺だろ。
そう心の中で叫んでも、バンコクおてんばプロレスは日奈子社長が育てようとしている夢の結晶。武雄さんへの不信感に苛まれながらも、ジュリーは大好きな日奈子社長のために、ゴーゴーバーの経営者であるネームと悪魔のような雇用契約を交わす羽目になったのである。「ちょっとだけサインして。そうそう。あとは僕が責任を負うから」とかなんとか、武雄さんの超いい加減マジック。
ジュリー自身、いつの日か女子になりたいという気持ちがないわけではなかったが、男子とのセッ〇スだけはご免だった。あくまでもジュリーというひとりの人間として、日奈子社長の想いを受け止めていたかった。日奈子社長は「ジュリー、待ってて。必ず助けに行くから」といってくれているが、日本での本業が多忙をきわめ、なかなか渡航できずにいた。
ジュリーは日奈子社長の顔を思い浮かべながら、今朝も明け方に帰ってきて、アパートでシャワーを浴びていた。四階という階上にあるせいか、シャワーの水はちょろちょろ。ああ、足を伸ばしてお風呂に入りたいと思いながら、ジュリーはひとときのシャワータイムに癒しを求めた。
あまり思い出したくはないのだが、つい三時間ほど前は白人のエリートサラリーマンたちに誘われ、彼らが滞在しているホテルへ連れて行かれそうになった。バンコクに駐在中のビジネスマンにとっては、しょせんゴーゴーバーで働いている女の子との一夜の遊びとしか思っていないのだろう。単なる性の欲求のはけ口としか見ていない‥‥そんな許せない奴ら。
あっ、なんだかごめんなさい。プロレスの小説を書くつもりが、だんだんR18の話になってきたかも。
ジュリーは、狭いバスルームで自分は一体何のために闘っているんだろうと考えていた。日奈子社長のため。おてんば企画のため。バンコクおてんばプロレスのため。そのどれもが正解だったし、ひとえに自分のためでもあった。いつも振りまわされてばかりではあるが、武雄さんやネーム社長、サキちゃんのためでもある。自分を支えてくれるすべての人たちのために、そう――今は闘いぬく以外にないというのがジュリーの結論だった。出会うものすべてに感謝しながら、闘い続けること、輝き続けること。それこそが自分の生きる道だとジュリーは自分にいい聞かせることにした。
やがてジュリーは、お店ではナンバーワンの女の子として売上に貢献し、ネーム社長から金一封をもらうことになった。「これだけ貢献したんだから、もう働かなくてもいいでしょ」とネーム社長には声を大にしていいたかったが、まがりなりにもジュリーの存在を目当てに、ゴーゴーバーに足を運んでくれているお客さんたちの期待を裏切ることはできなかった。国籍を問わず、ほとんどの男連中はエッチが目的だったが、ジュリーのことを心配して、何くれと声をかけてくれるお客さんたちもいる。ゴーゴーバーという密閉された世界で、彼らからはたくさんのやさしさを受けとった。コップンカー、グラシアス、謝謝(シエシエ)、サラーマット‥‥。世界中のみんなにありがとうと伝えたかった。
ジュリー自身、このままゴーゴーバーの飼い犬になるつもりはなかった。自分には男子も女子も関係ない。ジュリーというひとつの個性を放つ人間として、自分のことを支えてくれるすべての人たちのために、何かできることはないか、本気で考えてみるのはありだろうと思っていた。すがる想いで日奈子社長に連絡を入れてみたが、相変わらず忙殺されていると見えて、会話らしい会話はできぬまま。答えは風の中だった。
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