だから違うと言ったじゃない

仏白目

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シンシア

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 その日はよく晴れた洗濯日和だった、シンシアは庭で鼻歌を歌いながら洗濯物を次々と干していく

「ふー、久しぶりのいい天気!これで溜まった洗濯物もパリッと乾くぞー」

 数日雨が続いていて、溜まった洗濯物を日が昇ると同時に洗い始めて、今ようやく干し終わった所 朝から汗だくになった体を濡れたタオルで拭き取る


「うかうかしてたら、すぐ日が暮れちゃうもんねー、さてと急いで朝ごはんを食べて納品してこよう!」


 ここは、ボンドナイト伯爵領の片隅の小さな村、シンシアは1人で暮らしている
 両親は去年、畑仕事帰りに崖崩れに巻き込まれ 2人とも儚くなった

 それからは、シンシアは1人で生活していた 少し離れた所に隣の家があり時々 畑にできた野菜の交換やお裾分けをしているくらいで、概ね1人でやって行けているが、18歳と年頃になった身で他所の世界を見てみたい、どうしたらいいのか、考えあぐねていた

「あ、いけない タオルで拭いたから取れちゃった、ちゃんと塗っておかないと」

 シンシアは亡き両親から髪と肌にはこれを塗りなさいと教えられた調合剤をいつも塗っている、それは物心ついた時から、

「これをしておかないと、シンシアは可愛いから、知らない人に攫われてしまうのよ?いい?必ず塗るの!貴方を守る為に必要なの、本当の色を誰にも教えてはダメよ?」

 幾度となくお母さんに言われたこと・・・
 めんどくさいけど・・今となっては、小麦色の肌に茶色の髪の毛に慣れてしまって、寧ろ本来の色の方が見慣れていなくて、戸惑うくらい

 前髪も長めにして、瞳も人からは見えづらくしている、ずーっとこうだから これが普通と思って18年生きてきた

「これを塗っているから、お肌もトラブルしらずだし、虫にも噛まれないんだよね~」

 朝食を済ませ、夕べ仕上げた刺繍生地をもって町まで馬車を走らせた

 シンシアは、母親から手ほどきを受けて教わった刺繍が大好きで得意だった、両親が亡くなって途方にくれている時も刺繍の仕事を既に受けていたので、自分1人でも生活していけた

 そろそろ、この村から町に通うには距離があるし 引っ越そうかとも、考えている

 刺繍の仕事をくれている店のオーナーに話したら、近くに住むなら持ち出せないドレスに直に刺繍をしてもらいたいと、部屋を用意するからと言ってくれた


 それなら、今月中には引っ越そうと決めて、家に帰るとうちの前で隣の家のおばさんが待っていた

「遅かったじゃないか!シンシア!急ぎの用があるんだよ」

「え? どうしたの?おばさん、何かあった?」

「大変なんだよ!ここで話すのもあれだから、家の中に入れておくれよ」

「今鍵を開けるから、待ってて」

 玄関ドアを開けて、おばさんと一緒に部屋に入るなり 捲し立てるようにおばさんは話しだした

 え?隣のギオンがボンドナイト伯爵様に怪我をさせた?・・平民が貴族様に怪我をさせるなんて厳罰が・・・まさか・・絞首刑?

 え?妹を差し出せば罪には問わない?
 ・・隣の家には弟しかいないじゃない?

 え?お前がいる??私?幼馴染だけど、他人よ?

「長年仲良くしてきたんだ妹も同じだろう?それとも、あの子が殺されてもいいのかい?」
 だっておばさん、私は隣人であっておばさんの娘じゃないわ?

「なんて冷たい娘だ、お前の両親が死んでからあんなに面倒見てきてやったのに、この薄情もの!」
 そんな事言っても、言うほど面倒なんて見てもらってないわ?むしろ、私の両親からお金を借りていたの知っているのよ?
私がぶつぶつと反論すると

「えーい、うるさい!うるさい!少し大人しく働けば許して貰えるだろうから、黙ってお行き!その代わり帰ってきたら、息子の嫁にしてやるから我慢するんだよ!
 あ!迎えのお方達ですね、この娘です!はい、変なこと言うけど,気にしないで下さい、少し我儘で器量も悪い娘だけど、丈夫な子なんで、はい、いいんですよ、はい、可愛いがってやってください、本当にこの度は家の息子がご迷惑をおかけして ええ、分かっております
 この事は内密にですね、はい勿論ですとも!」

 いつの間にか部屋に入ってきた、帯剣した男2人におばさんは一方的に話している

何がなんだか分からないでいると


「じゃあ、頑張るんだよ シンシア!」
おばさんはニヤっと笑って私に言う



「ちょっと!おばさん!あんまりよ!」


 違うんです、私は他人だと、何度言っても取り合って貰えず 屈強な男性2人に両脇を抱えられ馬車に乗せられた

何を話しかけても返事をしてくれない男2人に話すことを諦めて、ひとり理不尽なこの出来事に不満をぶちまける!

「大体、妹だとか娘だとか言うなら帰ってきて息子の嫁にしてやるって、おかしいじゃない!幼馴染ってだけよ?誰が嫁になんてなるもんかー‼︎あのババァ覚えてろよ‼︎」

「ゴホンッ」男の1人が咳払いをした音に我に帰る

謝るもんか!そう思いながら黙って馬車の窓から外を眺めた





 そうして連れてこられたのが、とても立派な伯爵家の邸宅だった・・・




執事と名乗る髭の男性が迎え入れてくれて、ある部屋に案内してくれた

「旦那様、お連れしました」

「ああ、入りなさい」

部屋に入るとそこは執務室らしく、机の上の書類にペンを走らす40代くらいの男性がいた、グレーヘアに濃い青い瞳のそのおじ様はこちらをみると

「私はマーク.ボンドナイト伯爵だ。それで?きみは誰だ?」

「・・私は・・シンシアです」

「シンシア? 用があるなら手短に頼むよ?私も忙しい身でね」


「・・・・・」

「?」

「・・・・せ ん」

「え?聞こえない、大きな声で話してくれないか?」



「・・・はあ?」 伯爵は私の大声と言葉に驚いたようでなんとも間抜けな表情で私を見た




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