ファムファタール

仏白目

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凡庸

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魔女との暮らしは、初めてのことだらけだった

口汚く罵られながらもミシェルとセシルは魔女との生活を楽しんでいた

「おばあちゃんこれでいい?」

「違うよ坊主!何回言ったら分かるんだい、私が取ってこいといったのは、ギヨモ草だよ、これはギヨモモドキだよ?見分け方を教えたろ?こんなの口にしたら腹を壊しちまう、まったく使えないねぇ」

「魔法使いなんだから、魔法でとってくればいいのに・・」

セシルが不貞腐れてぶつぶつ文句を言っている

「なんだって~?」

「ひっ!ごめんなさい!」

「もう一回取りに行ってきな!」


城から魔女に頼んで逃げたあの日から3年経っている

セシルもこの生活で鍛えられて、よく日焼けした元気な男の子に成長した

「おばあちゃんもう、日も暮れるし明日にしましょう?」

「え?もうそんな時間かい?
しかたないねぇ、明日はギヨモをこの倍とってくるんだよ!」

「はーい」

セシルも魔女の態度や言葉使いに慣れるまでは、よく泣いていた

今じゃ、すっかり慣れたもので おばあちゃん呼びで過ごしている

いつの間にか私もおばあちゃんと呼ぶようになっていた

捻くれた性格で、人の不幸好きな魔女は、ミシェル達には優しかった、それがミシェルの力の効果なのかはわからない

ときどき意地悪げな顔をして話しだす

「あの男のこと聞きたいかい?」

「別に」

「そーかそーか、あの男はねぇ、あんたが居なくなってからはすっかり使い物にならなくなってねぇ、いやまぁ、あっちもこっちもだよ!イヒヒ ざまあないねぇ」

「別にって、言うのは興味はないって意味で・・」

「それでねぇ、おっ立たないもんだから、媚薬をもられて、今じゃ 種馬の様にさせられてるよ、今の王妃は気の強い女でねぇ
後継を作るのに躍起になっているよ」


「・・・そう 早く後継が出来るといいわね」


「はっ、つまらない女だねぇ もっとなんかないのかい?」


「だって,セシルを連れて行かれたく無いもの」

「誰にもやらないよ!あれは私のおもちゃだからね?」

「ええ?もっと他の言い方ないの?」


なんだかんだと、いっても魔女はセシルを可愛がっている



一年程前にレオニダスは新しい王妃を迎えた

それまではミシェルを諦めきれずに探していたようだが、魔女に囲われた人を見つけれる訳もなかった

ミシェル達のここでの生活は、魔女の魔法薬の調合と町に売りにいく手伝いをしている

別人に変身できるペンダントを常に身につけているので、魔女意外の目にはミシェルは膨よかな中年の女性になり、セシルは冴えないが、ごつい体の青年になる、見た目は用心棒だ

魔女の棲家は、『狭間』にあるらしく、魔女の許可した者しか家に近づいてこれない
例外もいるが、そんな奴は好き好んでこんな所にはこないさ、と魔女は言っていた



「それじゃ行ってくるね、おばあちゃん」

「ああ、今度は間違えるんじゃないよ!」

「はぁーい」


セシルは1人ギヨモ採取に出かけて行った



「おばあちゃん私もハンナさんに魔法薬を届けてきますね セシルをよろしくお願いします」

「ふん、しょうがないね、また違うのを採って来たらやっかいだ、どれ 見てくるか」



ハンナさんはの麓の町にある雑貨屋の店主、50代位の気の良い女性で、魔女に定期的に注文してくる 昔からのお得意様だと聞いている


魔女の家から目的のハンナの店には歩いて30分ほど


「こんにちは~」

ミシェルは扉を開けて店にはいると、先客がいた


店内には1人背の高い黒髪の男性がハンナさんと話をしている、

先客の用事が済んでから納品しようと、店の中の商品をみて待っていると、暫くしてハンナと話の終わったその男性がミシェルの横を通り過ぎた 

ミシェルはハンナのいるカウンターに行き声をかけた


「ハンナさんこんにちは、納品に来ました」

「エルさんいつもありがとうねぇ」


ハンナさんに注文の品を渡してお代を頂く

「ねえ、エルさん?あの男の人知り合いかい?」

店の扉を開けて出ていく、先客の黒髪の男性をハンナさんは視線で教えてくれる

「いいえ?あの方が何か?」

「いえね、エルさんの横を通るとき、じっと見ていたからね、てっきり・・」

「あらいやだ、一目惚れでもされたかしら?困っちゃうわ ふふふ」

「ははは、そりゃ大変だ!」

ハンナさんと笑いあって、挨拶をして帰る

ミシェルの今の姿は 40才も超えた太った中年のおばさんで、エルと名乗っている
この姿で過ごす日常は穏やかで ミシェルは気に入っていた


町で買い物する時や、何げなくやり取りする会話がとても自然に出来て楽しかった

もちろん、男の人に誘われるなんて、この3年間一度も無かったし、ミシェルもそう言う事を求めてはいなかったから、とても穏やかな日々を過ごしている



「さてと、セシルとおばあちゃんに美味しいもの買って帰ろう」


ミシェルは町の商店街へ足を伸ばし
カフェで一休みしようと店内の席についた
窓からはテラス席が見え、数人の若いカップルの男女が仲良さげに座っている


「注文お決まりですか?」

ミシェルは店員に声をかけられ、

「ミルクティーと、持ち帰りでアップルパイをお願いしたいの」

「持ち帰りの販売は1ホール売りですが、よろしいですか?」

「ええ,お願いします」

「畏まりました」


セシルもおばあちゃんも甘い物は大好きだからきっと喜ぶだろう


「お待たせしました、ミルクティーです、
お待ち帰りのアップルパイはお帰りの際にお渡ししますね」

「ええ、ありがとう」

ミルクティーを飲みながら、ふぅ、と一息をつき 窓の外に目を向けると カップルの多いテラス席に 1人でテーブル席でカップを傾ける黒髪の男性が目に留まった、

『あの人 ハンナさんのお店にいた人だわ、
さっきは顔は見えなかったけど、あの服装は同じだわ』

男は長い黒髪に目深くハットを被り、高貴な感じの黒いコートを羽織っている

『平民では無さそうね、なんだか高級感が漂っているし 帽子の下から覗く顔立ちも
怖いくらいの綺麗な顔立ちね・・』


テラス席のカップルの女性達の視線もその人に注がれている事に気がつく、
『ふふ、罪な男ね』と呟いて、ミルクティーを飲み干した

ミシェルはアップルパイを受け取り、店をでて歩き出す 帰る方向の店のショーウィンドウを眺めながら歩いていると、

「おい!女」

と、後ろから声がする ミシェルに掛けられた声か分からず、一応振り向くと先程見かけた黒髪の男性が後ろに立ってミシェルを見ている

「おい、お前だ」

「?」

「お前、誰だ?」

ミシェルは驚いて声も出なかった、
乱暴な口振りで話しかけてくる男が怖く感じられ、相手にしないで無視をして逃げることを考えた

「あ! おいっ!」


ミシェルは早歩きで町をでて 魔女の家へと急いだ

『ある所まで来れば 誰もここへは来れないから何かあれば 山の麓まで急いで戻るんだよ』


魔女の言葉を思い出して、振り返らないで急いで山の麓まで帰ってきた

そこまで来て振り向くと、後ろには誰もいなかった


魔女の家に戻り 扉を閉めて安心からかミシェルは泣きだしてしまった

ドアの前で座り込んで泣いていると 

「お母さんどうしたの?大丈夫?」

「セシル、大丈夫よ、何でも無いの」
ミシェルはセシルを抱きしめた

「騒がしいねぇ、何があったんだい」

「おばあちゃん、お母さん泣いてるんだ」

「見りゃわかるよ! 何があったんだい?」


「町から帰る時に、怖い人に声を掛けられて・・びっくりしてしまって」

「あぁ? 何だい それくらいで大の大人がー」
その時激しくドアを叩く音で魔女の言葉は遮られた

「ドンッドンッ! 狭間の魔女!おい!ばーさん!いるんだろう!開けろ!ドンッドンッ」

あの男の声だ!ミシェルはセシルを抱きしめ震えあがる


「チッ、厄介な奴に目をつけられたねぇ」


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