泣きたいくらい幸せよ

仏白目

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閑話

リリアンの想い

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その子は鳥籠の中にいた


「君はだあれ?」




「わたし? わたしは、リリアンよ?
あなたは? 」


「ぼくはリヒト!」

「あなたは何故?カゴに入っているの?」

「・・・ 捕まっているんだ、好きで入っているわけじゃないよー」







誰も使っていない部屋をお父様達が出入りしているのを見て、何があるのだろう?と
子供だった私はこっそり部屋に入ってみた

そこには誰もいなくて、窓の側に綺麗な布を被せた鳥籠があった

お父様、鳥を飼っているのかしら?

どんな鳥がいるのかドキドキしながら布の隙間から覗くと、可愛い顔の小さな子がいた 白い光った髪にクリッとした瞳の子で 一目で大好きになった


リヒトと名乗ったその子はルシアンの幸せの為に逃げられないと言い、鳥籠の扉を開けてもでてこない・・・

リヒトが言っている事を子供のリリアンは理解できなかった、 ただ、マルクスが閉じ込めたんだという事は分かった

マルクスって?ルシアン?誰なんだろう 
お父様の知っている人かな?・・・


「・・・じゃあ!わたしと友達になって?」

「うん!もちろんだよー」

「また、くるから!」



毎日、リヒトのいる部屋に行き お喋りをして、一緒におやつを食べたりした

リヒトと一緒の時間はとても楽しくて
この時間はずっと続くものと思っていた


「リヒト、今日は葡萄を持ってきたよ」

そう声をかけて鳥籠の中を覗くと、少しリヒトの様子がいつもと違っていた、

リヒトと出会ってから 毎日のリヒトを見ている なんだろう、いつもと・・・

「あっ・・」

「どうしたのリリアン?」

「ううん、なんでもないよ、一緒に葡萄食べよう!」


リリアンは気がついた、リヒトの輝きが
薄くなってきている

儚く まるで消えて行く前のような・・・

そう考えると心が冷たい何かで覆われていくような不安を感じた

「リヒト、体の調子は悪く無い?」

「・・・少し なんだかだるいんだ・・でも大丈夫だよ 葡萄を食べたら元気になるよ」

「・・そう・・」



やっぱり、ずっと鳥籠の中に入っているから・・・

ううん、リヒトのお家にかえしてあげないとリヒトは死んでしまう 

そう感じたリリアンはお父様に話してみようと考えた


「リヒト!また後で来るからね」

「うん またねー」





その日、お父様は友人達と狩猟をしていた


もうすぐ、お父様が帰ってくると使用人に聞いたリリアンは 直ぐに話がしたくて外に飛び出していった



「お父様!」

馬から降りようとしている、父親を見つけて駆け寄ろうとリリアンは走った

「ダメだ!リリアン走るな!」


あっという間の出来事だった


猟犬の牙がリリアンの喉に喰い込み 激痛に襲われた・・

自分のまわりで大きな声で叫ぶ父親の声をリリアンは遠くに感じ 意識を手放した





一体どれくらい経ったのだろう、次にリリアンの意識がはっきりした時にはベッドの上で寝ていた・・・

長い夢を見ていた気がする 

それでもリヒトの事を思い出し、起きあがろうとするが思うように動かない

「リ ・・ィ・・・」

掠れた声がでるだけで、声も上手く出せない

早くリヒトの所に行ってあげなきゃ きっと寂しがってる

「リリアン気が付いたのね!」

泣きそうな顔でお母様が駆けつけてきた

「ぉ・あ・・ぁ ゴホゴホっ」

「リリアン 無理に話さなくていいのよ 
でもよかったもう目覚めないんじゃないかと・・・」

お母様はそう言って泣き出してしまった

その後、お父様とお医者様がきて、私が酷い怪我をして寝たきりだったことを教えてくれた

お医者様が言うには、奇跡的に傷はふさがり 命は助かったが傷ついた喉は声が出しずらくなるだろうと言われた

動けるようになり、真っ先にあの部屋へ行くと鳥籠はそこには無くて、ショックを受けていると

「リリアン大事な話があるんだ」

そう言ってお父様は私を庭の東屋へ連れて行く

そこにはお母様がいて、テーブルの上にはリヒトの鳥籠が置かれている


「この鳥籠の中にいた妖精をリリアンは知っていたよね?」

お父様が話し出すが、リリアンは急いで鳥籠に近寄り布を剥ぐってみる

鳥籠の中にリヒトはおらず、空の鳥籠があるだけだった

「 ・・んで」

リリアンは父親を見て 鳥籠を指さす

「リリアン大事な事を話すよ、ちゃんと聞いておくれ
あの妖精はね、ある人から譲って貰ったんだよ、リリアンがあの子と友達になっているようだから、そのまま家から出さずに隠していたんだけどね

あの日リリアンがひどい怪我をしてしまい、私はあの子に助けてくれとお願いしたんだ、そしてあの子は本当に助けてくれた

多分、力を全て使い切ったあと消えてしまったんだよ」

その話を聞き、リヒトを死なせてしまったのは自分のせいだ、鳥籠に抱きついてただただ泣いた

暫くそうしているとお母様が話し出す

「リリアン、あなたは助けてくれた妖精の分もしっかりと生きなければなりませんよ
お父様とお母様はリリアンを助けてくれて、奇跡を起こしてくれて本当に感謝しています いつか出来ることならこの恩をかえせたらどんなにいいでしょう・・・」

リリアンが両親をみると、2人とも泣いていた


リリアンは両親に抱きつく


また、きっと逢える 

そう思って精一杯生きよう そして

本当にいつか逢えたら、ありがとうって

言うんだ、その日までリヒト待っていて








リリアンは魅力的な女性へと成長した 
この年頃になると、他家の子らの婚約が決まったと言う話しを耳にするようになる

話すことが困難になってから、貴族令嬢としては結婚が難しいと両親もリリアンも思っていた

『私はどこかに嫁ぐのは無理だろうから、レイが継ぐこの伯爵領地の片隅に住まわせてくれないかしら?』

リリアンが
2つ年下の弟のレイノルズに真剣な顔で筆で書いた紙を渡す

「片隅なんて!ここに住めばいいじゃないか!」

『レイに奥さんが出来たら嫌がるわよ?私だったら嫌だもの
それにちゃんと領地経営の手伝いはするし 
建物の管理も私がするわ!』

「頑固だな~ いいよ しっかり働いてもらうよ?」

『ありがとう、レイ大好きよ』


だから、バロウズ伯爵家からリリアンに釣書が届いた時は家族みんなで驚いたし、警戒した

お父様から、とりあえず会って見たらいいと言われて

後日、リリアンはバロウズ伯爵家の長男オスカーと顔合わせをした 

筆談で、『私は子供の頃に喉を怪我して、ちゃんと声が出ません、こんな私でいいのですか?』

オスカーは紙に目を通すと、ニッコリと笑い、それからペンを取り 

『とても綺麗な字だね 君の声の事は承知の上だよ、教会の子供達の相手をする君をみて 密かに憧れていたんだ
君とならいい家庭を築けそうだなって、勝手に考えたりしてね
結婚を前提にお付き合いして頂けませんか?
そして、僕の事を知ってから返事をしてほしい』

そう書いてリリアンに渡した

「どうかな?」
オスカーは優しい笑顔でリリアンを見つめていた

リリアンは頷くと

『よろしくお願いします』と書いて渡した



お付き合いをしてみると、オスカーは穏やかで優しい男性だった

他の人からもオスカーの評価は高く
穏やかでしっかりものだよと言われる人柄で、それはリリアンも側にいて感じていた

一緒にいて楽しく、この人となら上手くやっていけそうと婚約をして、一年後結婚した

オスカーとの結婚生活は幸せだった、
弟の手伝いをする為に一生懸命勉強した領地経営の知識を婚家で生かして、リリアンはバロウズ伯爵家の家業にも貢献した 
男子2人女子1人の3人の子供にも恵まれて、リリアン.バロウズ伯爵夫人として幸せな人生を送った

子供達がみんな結婚して、そろそろ孫ができそうね、とオスカーと楽しみにしている頃 リリアンは病気で床に伏していることが増えた

「リリアン、調子はどうだい?君の好きな薔薇が咲いたから部屋に持ってきたよ」

オスカーが白い薔薇の花を花瓶にさして、リリアンのベッドの側に置いた

『綺麗だわ ありがとうオスカー』
リリアンは口の動きだけでオスカーに伝える

「愛する君の為に沢山持って来たかったけど、君は一輪の白い薔薇が好きだから我慢したよ」

そう言ってオスカーはニッコリと笑う

リリアンも頷きオスカーに笑顔で返す

「もう少ししたら客人がくるんだ、さっさと用事を済ませて戻ってくるから、リリアンは休んでいるんだよ?」

オスカーはリリアンの頬に口づけてから部屋を出て行った

リリアンも手を振りオスカーを見送る


リリアンは白い薔薇が大好きだった

『リヒトみたいに綺麗な薔薇ね』

オスカーの持ってきた薔薇を眺めながら
自分の死期がもう近づいていることを感じていた 

『幸せな人生だったわ、私頑張ったわよ
リヒト・・そっちに行ったらあなたに逢えるかな?』

その数日後、リリアンはこの世を去った



暗がりの中 リリアンは天国への道を一筋の光を目指して歩き始める

「もう、行ってしまうのかい?」

何処からか、声が聞こえてきた

「誰?私に言っているの?・・・私、声がでてる・・・」

「ああ、君に話しかけているよ? そうだね、もう死んでしまったから 君を縛るものは何もないよ 声だって出せるさ」

「あなたは誰なの?」

「うーん、君に分かりやすく言うと、リヒトを見守るものさ」

「リヒト? 何処にいるの逢いたいわ!」

「まだ、逢えないよ リヒトに逢うためには君に導く者になって欲しいけど・・

無理にとは言わないよ、そのまま光の道を進めば次の世界へと続いている

どちらを選ぶかは君の自由だ」


「私はリヒトに逢いたい」


「いいんだね、長い時間、次の生の輪から離れることになるけど?」

「構わないわ、リヒトに逢えるなら」

「逢えるかは分からない、リヒトの次の生への導きの手伝いだよ」

「リヒトの次の生・・ やるわ! やらせてください お願いします」

「君になら任せられる、頼んだよ」

精霊王の力で、リヒトに起こったことやルシアン、マルクスのその後もリリアンは理解した

そうしてリリアンは長い時を
変わり行く世界をただ、見守る存在として過ごした

そして、精霊王の指示を待ち続け 

時は満ちた


リリアンの子孫を導き、リヒトのもとへ
ルシアンを向かわせた

そして、精霊の悪戯 は 完了した



リリアンは自分が消える前にケイティを通して 今のリヒトを見る事ができた

チェルシーと仲睦まじく、幸せな姿が見れて もうそれで満足だった



「精霊王様、長い間 お世話になりました」

「行くんだね?」

「ええ、導き手にして頂きありがとうございました。」

「ああ、君に光あらんことを」

リリアンが歩き出す後ろ姿を見送りながら

精霊王は呟いた


「優しき人よ ありがとう またね」







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