泣きたいくらい幸せよ

仏白目

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チェルシー.ハサウェイ

精霊のいたずら

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リディア王女が帰国すると、チェルシー王女がシュバルツ王国に嫁ぐ事が決まり
アーリング王城の中は準備で慌しかった、

「王妃様が体調を崩されたのですか?」

チェルシーは国王である父の話に驚く

「ああ、ゆっくり休んで貰う事にしたよ,無理は出来ない シェリルが王妃代理を務めてくれるよ」

「そうなのですね・・」

チェルシーの母シェリルは頭のいい人だ、きっと難なくこなすだろう、儚げで柔和な見た目で相手に警戒心を与えないが、芯は強い人だ、きっと私の知らない顔をまだ持っているのだろう 

「それでチェルシーが、シュバルツに立つ日だが・・リディアが帰って来たら 数日中に彼方に出発する事になる・・・」

「はい」

「大丈夫か?」

「はい 大丈夫です」

「そうか・・・すまないな 急な話しで
こんな事になるとは・・・」

何故だろう、お父様が涙ぐんでいる

「・・・・・」

少しは、気にかけてくれていたのかな

「アーリング王国の為に私が役立てるなら嬉しいです」

「そ、そうか・・ 国王として感謝しておる、 達者で暮らして欲しい」

「はい、お父様もお体を大事になさってください」



そんなやり取りをした数日後、シュバルツ王国の馬車と兵を伴ってリディアお姉様が帰国した

帰りの道中体調を崩して 離宮で療養させる事になったと聞いた

「シュバルツ王国を出れば、体調は回復すると聞いてましたが、良くならなかったのですか?」

サミュエルお兄様が様子を話してくれた

「出て直ぐ体調は改善していたらしいが、隣国を移動中に疲れがでたのか、熱が出ているらしい、感染る病気でも困るから暫く離宮で療養させる事になったんだ あのリディアの事だ大丈夫だろう」

「まあ、そうですか では私はリディアお姉様に会わずに行く事になりますね 」

「ああ、気にしないでいい 出発は2日後だ、
まあ、あっちの国が合わなければ帰ってくればいい」

「ふふふ、そうします」

そんな事は無理だろうけど、そう言って貰えて気持ちが軽くなった





侍女のケイティは一緒に行ってくれる事になった、伯爵家の三女の彼女が言うには
「チェルシー王女は私が居ないとダメでしょう?」と言っていた、 
「彼方の国に良い殿方との出会いがあるかもしれないのでもちろん着いて行きますよ!」

頼もしい彼女がいれば不安はないわ


そして、みんなに見送られシュバルツ王国の馬車で出発した

向かう馬車の中でケイティが、

「チェルシー様、こちらをどうぞ、新しい物が用意できず、家の伯爵家にあった本なので古い物ですが、読みたいと仰っていたので持って来ました。」

そう言って手渡された本は、年代を感じる古めかしい一冊の本 『精霊の悪戯』だった

「あら?この本はあの時話してくれたものね? 嬉しいわ、読んでみたかったの!」


「それは良かったです、古い本で申し訳ないのですが、道中の暇つぶしになると思いまして」

「ありがとう! 早速読ませてもらうわ!」

「はい、お楽しみ下さい」




飾り気のない紺色の表紙にはタイトルだけが書かれている 『精霊の悪戯』と


チェルシーはワクワクしながら、本を読み始めた






 昔、むかし 緑豊かな精霊の国がありました。

 その国は精霊樹を中心に成り立ち精霊王が守る国、妖精たちは楽しく暮らしていました

その妖精の中に 1人、変わり者の妖精がいます


「あっ!きたきた」

そう独り言を言っては森の中へと毎日消えていきます

精霊王はその子が仲間に馴染まず、いつも1人で居る事に気がついていました

まだ幼いその妖精を気にかけていたのです




森の中では、1人の人間の少年が木の実を集めていました


少年の身なりは貧しく、痩せっぽちでした

「くそっ、こんだけしか見つからない!」

手に持った籠の中は 木の実が少し入っているだけです

妖精は木の枝に座り、その人間を眺めるのが楽しく、森にこの少年の気配がするといつも見に来ていました

木の実や木苺を集めては帰っていく少年を見たのが妖精が見た、初めての人間でした


「はあ、どうしよう 全然足りないよ」


妖精はベリーの実がなっている木を少年に教えてあげたくなり 


『こっちにあるよー』

妖精は少年の目の前にヒラヒラと浮かびながら、教えてあげようとしました


「うわーっ!なんだ こいつ!」

少年は妖精の姿を見るなり 後ろに転んでしまい 両手を振り回しながら追い払おうとします

『こわがらないで? 美味しいベリーの実がなっている所を教えてあげるー』


びっくりした顔の少年は、妖精の言った事に更に驚きながら、

「え?ベリーの実があるの? 本当かい?」


妖精の国の側の森は季節に関係なく、木の実が豊富に実っているが、人間はそこまで入れない 

だけどそこに近いこの少し奥の木も精霊樹の恩恵を受けていて 少しではあるが季節外れの実をつけていた

『うん!教えてあげる こっちだよー』

小さな光る体は宙を舞って、先導する

「あ!待てよ」

少年は急いで立ち上がり、追いかけた

森の中をしばらく歩いていくと、景色が変わり気温もほんの少し暖かく感じる

『ほら!そこにあるよ、ベリーの木だ!』

少年はベリーの木に駆け寄り

「うわー凄い!この時期にベリーが採れるなんて!夢みたいだ!」


それから少年はこの場所までやってきては木の実や果物を採って帰る様になった


「僕はルシアンていうんだ、君の名前は?」

ある時 木の実を採りに来た少年は妖精に名前を聞いた

『君はルシアン?僕の名前はね・・・だよー』

「え?

『・・・だよ』

「聞こえ無いよ、名前だけ聞き取れないんだ」

『そっかー、君達人間の音と違うんだね』

「うーん、じゃあ僕が名前を付けてあげるよ!  光るって意味で リヒト!」

『うん、リヒトいい名前だねー』


それからもルシアンが木の実を採る間はリヒトと2人 楽しく過ごしていた


日々の生活の中で、ルシアンは妖精の話しを耳にする

「御伽話の中にあるじゃないか、人魚の肉を食べたら不老不死になって、妖精を捕まえたら願いが叶うって!まぁ 眉唾物の話しだけどさぁ」

大人達が笑いながら話している会話だった




森で木の実を広いながら、ルシアンはリヒトに尋ねる

「リヒト 君は妖精なの?」

『うん、なんで今さらー』

「本当に?じゃあどんな力が使えるの?」

『え?力かい?僕自身はそんなに大した力は使えないよ? 明るく照らしたり少しの傷を治せるくらいだよー』

「明るく照らすって、どのくらい明るいんだい?」

『うーんと、このくらい?』

するとリヒト自身が眩しくひかり、ルシアンは目を開けていられなくなった

「凄いじゃないか!」

『えへへ』

リヒトは褒められてうれしくなった



ルシアンはリヒトにお願いがあるんだと言うと、リヒトを捕まえて箱の中に押し込めて森から連れ出してしまった

『出して!ルシアンひどいよ!』

「ごめんよ、途中誰かに見られたら困るんだ」

ルシアンは急いで家に戻り 古い鳥籠の中にリヒトの入った箱を入れて蓋を開けた

箱の蓋が空き自分が逃げられない籠に入れられている事がわかり、リヒトは悲しい顔をする

『ルシアン・・どうして・・』

「君が妖精だからだよ!誰かに見つかったら奪われてしまう 」

『どうゆうこと?』

「大人達が言っていたんだ、妖精を捕まえたら願いが叶うって」

『それを信じたの?』

「君は凄い力を持っているじゃないか!僕の願いを叶えてよ」

『ルシアンの願いは何?』

「僕をお金持ちにしてよ!こんな暮らしは嫌なんだ」

『ルシアン・・・』




それからのルシアンは不思議と幸運に恵まれるようになり 食べ物も木の実を拾わなくても手に入れるようになってきて、毎日が楽しくなってくる

妖精を捕まえると願いが叶う

本当だったんだ!


ある日 ルシアンの家の前でうずくまっているお爺さんに声をかけると、足を挫いてしまい動けないという

そのお爺さんはルシアンにお金を渡して、自分の家の者を連れて来てくれたらまたお金をあげるからと頼まれた、

「その倍をくれるなら、今すぐ治してあげるよ」

「そんな事が出来るのかい?」

「多分、出来るよ 待ってて」

ルシアンは家の中から、リヒトの入った鳥籠に布を被せて持ってきて、お爺さんの前に置いた

布を被せているので 中は見えない

「この人の怪我をなおして!」


ルシアンが声をかけると布をかけた鳥籠が中から光始めて キラキラした光の粉がお爺さんの怪我をした足に降り注ぎ、みるみるうちに痛みが消えていった

「まさか!痛みがきえた!怪我が治っているぞ!」


お爺さんは喜び、倍以上のお金をルシアンに渡して帰っていきました。


「リヒト!凄いよ こんなにお金が貰えたよ!」

「ルシアン嬉しい?」

「ああ!凄く嬉しいよ!」

「そっか、良かったねルシアン」

布を被された鳥籠の中のリヒトはお互いの姿が見えないまま、言葉を交わした・・



その事があり、数日経ったある日、
その老人が身なりの良い若い男性を連れて家を訪れた


「この間は世話になったね、私は伯爵家に仕える執事でこちらは、伯爵様だよ」


「やあ、はじめまして、執事から話しを聞いてね 連れて来てもらったんだ 君のその光る鳥籠の中身に興味があってね?」

ルシアンはリヒトを取られるのでは無いかと不安になった 

「ああ、もちろん対価は払うよ 君たち家族が一生楽に生活できるようにもしてあげるよ」

「!本当ですか?」

「ああ、もちろんだとも 私の領内の家に引っ越しておいで、対価の他に仕事もしてもらったら給金も出すから そうすれば不安はないだろう?」

良い話だった、 ルシアンはその話に飛びついた

「ありがとうございます、お受けします!」


そしてルシアンはリヒトを手放した


その後、リヒトは伯爵家に連れて行かれた


時々、力を使うように言われたが 殆ど鳥籠の中で過ごす毎日で、籠に被さる布は綺麗なものに変わったが囚われたまま、時間だけが過ぎていった


リヒトの最後は伯爵の子供の怪我を治すように言われて力を使い切ってしまったから

『大きな怪我で全部の力を使ったけどあの子は治せたかな・・? 』

それがリヒトの最後の想い 

光はだんだん弱まり、そして鳥籠から光は消えた・・






ルシアンは平和な生活を送っていた

食べ物に困る事もなく 暖かい布団で眠り

家族も幸せに出来て満足していた


リヒトと引き換えに手に入れた生活は幸せで、リヒトの事を忘れさせた


そんな毎日を送っているある日どこからか声が聞こえてきた

『君は幸せかい? もうあの子の事はすっかり忘れてしまった様だね

あの子の献身的な犠牲の上に成り立つ、君の幸せを私は許す事が出来ないんだ』


その声が聞こえた日からルシアンの生活は一変する

家族との団欒 寒い日だった、暖炉に薪をくべ部屋を暖かくしているのに、ルシアンはその場で凍えるように寒くなる

部屋をでると凍えることはないが、暖かくもない


食べ物を食べている時、家族が美味しいと食べているのに、ルシアンは美味しいと思えない

夜布団に入り 疲れていても気持ち良く眠る事が出来なかった


全てに置いて常に丁度いいと思える事がルシアンには無くなってしまった


それは、些細な事でも幸せを感じる事が許されない 

「それでも、君の願いは叶ったのだろう?」

それが精霊王の与えた罰だった  








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