泣きたいくらい幸せよ

仏白目

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チェルシー.ハサウェイ

光の王国シュバルツ

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彼に初めて会ったのは15歳の時 
リディア姉様について光の王国シュバルツを訪れた時だった


今の季節は暖かいと聞いていたが、国に着くと白い雪が降り始め 王城に着く頃には辺り一面が白い世界になっていた


「寒いわ!一体どうなっているの?聞いていた話と違うじゃない!」

リディア王女は侍女と一緒に馬車の中で震えていた


私達はリディア王女とアーリング王国からゆっくりとした旅程でこのシュバルツ王国にやって来た

「ゆっくり向かって気を持たせてやりましょう?」

幼い頃に国と国の繋がりの為に、シュバルツ王国のアインリヒ王太子と婚約者になったリディア王女は、お互い絵姿しか見た事がない関係、婚約者同士の手紙のやり取りも季節の挨拶程度、シュバルツ王国側から送られて来る手紙やプレゼントは代理の者がいるのだろう それはアーリング王国側もそうであったからだ 

お互いの国は対等と思っていたのはアーリング王国側だけだったようで、シュバルツ王国は周りの国からみても国力の差は大きく、それに気がつかないのは可笑しな話しだった、

シュバルツ王国の国王が崩御し王太子が国王になり2年が経ち、それでも両国間に結婚の話が進んでいない様子から、焦り出したのはアーリング国王だった
まさか、約束を反故にする気では?と思い
探りを入れてみれば、

「順守する義理はない」と返された

国同士の争いになっても勝ち目はない

下手に出てでも、繋がりのほしいアーリング国王は 

「ぜひ我が国の王女に会ってから考えて欲しい」

と国王みずから売り込み、
王女の美貌で籠絡してこいと・・リディアお姉様に王命を出しました。

「私の美しさの虜にしてみせますわ」

光の王国の王妃になると疑っていなかった
リディア王女だったが、別に嫁ぎたいとも思ってはいなかった、自分の意思は関係なく決められた事だから・・

だが、ここに来てシュバルツ王国側の態度にプライドが逆撫でされた、リディアは思った『この私の美しさを見ても、そんな態度でいられるのかしら?』


なぜ、妹の私まで行く事になったかって?

「チェルシーも一緒に連れて行くわ!私の美しさを引き立てなさい!」

国王であるお父様は許可をしぶり、王太子のサミュエルお兄様もダメだ!と言ってくれたけど、リディアお姉様の

「上手く行って欲しいのよね?絶対連れて行くわ!」
と強気な発言で何故か行く事になってしまった。
私が行ったからって、何の力にもなれる気はしないが、リディア云く

「いつもと同じで私の横にボーっと立っていればいいのよ?簡単でしょ?」

そう?それだけでいいなら、確かに簡単ね


シュバルツ国王の婚約者リディア.ハサウェイ王女は15歳 王妃の第二子
そして私、チェルシー.ハサウェイも15歳
側姫の子で一応王女ではある リディアがひと月先に生まれたので、私は妹だ

リディアお姉様は陶器の様な白い肌、金髪に緑眼、アデラ王妃にそっくりな容姿をしていて、それはサミュエルお兄様もその容姿で3人が並ぶとまばゆい光を放っている様だと言われる

側妃で有る私の母シェリルは銀髪に淡い水色の瞳で
儚げな美人だ、妖精妃と呼ばれるくらいの雰囲気を持ち合わせている
その母の子供は私1人で、顔立ちの幼い感じは似ているが黒髪碧眼で国王の色を受け継いだようだ
物心ついた頃、王城の中をお母様と歩いていると
登城していた貴族の夫人が私を見て、

「まぁ,残念ですわね シェリル側妃様の色を受け継いでいれば、さも見応えのある美人になりましたでしょうに」

お母様はその場で王族に対する不敬と声をあげた

その騒動は直ぐに国王へ伝わり 国王は激怒した

「側妃の美しさを妬んだ発言のつもりだろうがその真意の行き着く所はこの国王の色が残念な色と申したかったのだな?」

王族、国王に対する不敬を王城でしでかした貴族家はアーリング王国から消滅した、

幼心に気がついた事は、大人しく儚げに見える母は、強い女だった
『人は見た目ではわからない』と学んだ瞬間だった


そんな事をとりとめもなく王城に向かう馬車の中で思い出していると、
「まもなく、王城に到着します」
と御者の声が聞こえた

前を行く豪奢な馬車にはリディアお姉様が乗り、私は飾りの無い馬車で、その後ろを侍女と一緒に乗っていた、

シュバルツ王国に入った時に国王へは連絡が伝わっていて、城の門を入ると騎士達が大勢整列して迎えてくれた

少し馬車で進むと、綺麗なお城の入り口近くに馬車は止まった

「チェルシー様着いたようですね!なんだかドキドキして来ました!」

侍女のケイティが興奮気味に話す

「ええ、私もよ、なんだか緊張してきたわ」

御者に促されるままに、馬車を降りると
道中降っていた雪は王城の中には見当たらなかった

「あら、雪はここには降らなかったのかしら?」

「そうでございますね」

ケイティと馬車を降りて話していると、先に着いているリディアお姉様がまだ、馬車から降りていない事に気がついた

「リディアお姉様どうしたのかしら?」

馬車の扉の前には御者が立ち ようやく降りて来た侍女は体をガタガタ振るわせている 青白い顔をした侍女はこちらをみると叫んだ

「リディア様が大変です!」

「お姉様?」

他の従者達も急いで馬車に向かう、

「リディアお姉様!どうしたのです?」

馬車の中には青白い顔で朦朧としたリディアお姉様が横たわっていた.

「リディアお姉様!しっかりして下さい」

お姉様の肩を掴みゆすると、お姉様の体がやけに冷たい事に気がつく

「随分冷たいわ」
私はお姉様を抱き寄せて背中を摩りながら、ケイティや従者に医師を呼ぶように指示をする

「さ,寒い・・・」
リディアお姉様は歯をガチガチ言わせながら震える口で
「なぜ・・こ・んな・・」

チェルシーも分からなかった、確かに馬車の中から見えていた外は雪が降っていて,王城近くまで来ると外は真っ白だったが、馬車の中で寒さは感じていなかった・・?

あれ?寒くない方が変ではないか?


その後、城から救助が来てお姉様は医師に診てもらい、体温が下がり過ぎて動けない状態だと言われた、暖かい所で休めば大丈夫だと診断された。

同じ馬車に乗っていた侍女も同じで寒いと感じたらあっという間に身動きが取れない程の体調になってしまい 大きな声で助けを呼べなくなってしまった、王女様に申し訳ないとひたすら泣いていた。

不思議な事に、御者は雪が降る中、さほど寒さは感じておらず 馬車の中の異変にも気が付いていなかった

城の従者に客室に案内されて、お茶を頂き一息つくことが出来た

「ねぇケイティ、不思議よね?他の従者の乗った馬車の中や護衛の騎乗した者達、そして私達も雪が積もる程降っているのに、寒さを感じていなくて、リディアお姉様の馬車の中だけ凍える程寒いなんて・・」

「ええ、まるで御伽話の精霊の悪戯の様ですよねー」

「精霊の悪戯?」

「御伽話であるんですよ、むかしむかしって始まる、そうですね子供に聞かせて戒めるようなお話しで、少年が妖精と出会ってその妖精をいい様に利用するんです、
無垢なその妖精は少年の言葉に騙されて
色々とさせられて、疲れきって死んでしまうのです、それを知った精霊王は怒って少年だけに罰を与える、例えば家族団欒の暖かい部屋で少年だけ凍える様な寒さで過ごすとか」


「ええ!それって・・・!」

「ねぇ?似てますよねー まあ、あくまでも御伽話ですよ?信憑性はないですからね?」

「その御伽話の本を読んでみたいわ」

「ええ、国に戻り次第ご用意しますよ」

「ふふ、お願いね」


そこへ 扉をノックする音がして
「失礼します、アインリヒ国王からの伝言です」
と声が聞こえて来た

「どうぞ、お入りになって」

扉が開き 深々とお辞儀をしてから女性が入って来た

「失礼致します、この度王女殿下の身の周りの事を任されております 侍女頭のカミラと申します、何なりと申し付け下さい」

「まぁ、ありがとう 私はチェルシーで
彼女は私の侍女のケイティよ、滞在している間お世話になるわ、よろしくね」

「はい、かしこまりました」

カミラは姿勢を正して話しを続ける

「国王様からの、伝言になります
この後、よろしければアインリヒ国王がお会いしたいとの事です、リディア王女様の事をお聞きしたいそうですがよろしいでしょうか?」

「ええ、この様な旅姿で申し訳無いですが
姉の事も話したいので是非にと」

「かしこまりました 案内致しますので
御一緒にお越し願います」







そして、カミラに案内されたのは 装飾品の煌びやかな迎賓室だった

「失礼します、チェルシー.ハサウェイ王女様にお越し頂きました」

「ああ、どうぞ」低い澄んだ声だった

アインリヒ.シュバルツ国王は席に着き迎え入れてくれた

「シュバルツ王国へようこそ」

私が部屋に入ると立ち上がり、手を差しだしエスコートをしてくれた

背の高い大きな身体で、白く長い髪に鋭い眼差し・・・この国の黒い衣装を着て王の風格が凄い 

小さな子なら泣きだすわね、と考えながらチェルシーも実はそんな心境だった

初対面の印象は 怖そうな人

上手く話せるか心配になるチェルシーだった。
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