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3.普通のオナニーじゃ足りない……
しおりを挟む「クソ……物足りねぇ……」
俺はいつものようにエロ動画を見ながら自己処理をしてたけど、このところ一番のお気に入り動画でも満足できてない。俺は一回イケばすぐ賢者タイム突入型ではある……でも一回しかイかなくてもそれでスッキリできなかったことなんてないのに。
高峰に借りたままのディスクをあれから何度か聞いてみたけど、やっぱり催眠状態になることはなくて、それで声優とかシナリオでかかりやすさが変わるって言ってた高峰の台詞を思い出した。
だから検索していろんな催眠音声とやらを聞いてみたんだけど、やっぱり無理だったんだよな。
「あー、やっぱ俺かかりやすいってわけじゃないじゃん。アレなんだったんかな……」
出してはいるのにスッキリしない日々が積み重なっていく。
ついでに最近高峰の顔を見ていない。アイツ、どうしたんだろ。急に訪ねていったら迷惑かな……とまで考えたところで、高峰のよくしていた嫌そうな顔を思い出す。
ゾワリとした。
「なんだ?」
ゾクゾクする首筋をさすって気持ちを落ち着けると、連絡なんてしてないけど、少し様子を見に行くだけだと高峰の家に向かった。
もしかしたら風邪引いてダウンしているかもしれないと、スポドリやらお粥やら栄養ドリンクなんかも買ってしまった自分に呆れる。元気かもしれないのに何やってんだろ……。
――ピンポーン
古臭いチャイムが鳴るが返事はない。やっぱいないか、って帰ろうとしたら玄関が開いた。
「あ?」
「高峰……いるじゃん。つーか、何その格好」
「修羅場」
無精髭にクマをこさえて顔色が悪い高峰がぬぼっと立っている。聞けば販売用の商品のパッケージの締め切り直前という状態だった。
ネット販売じゃなくてパッケージ販売のやつはどうやらいろいろやることが多いらしい。声優やら絵師やらなんやらにコメントもらったリーフをつけたり別作品の割引チケットをつけたりとかなんか自分でいろいろサービスをやってるんだそうだ。
「そういうのしょうがないんだろうけど、最低限寝て食べろよ……ひでぇぞ」
「できる状態ならしてる」
「これ、風邪かもと思って買ってきたやつ。風邪じゃなかったみたいだけど、似たようなもんだから食べろ」
ん、と買い物袋を押し付けて帰ろうとすると、手をつかまれた。
「予定がないなら寄ってけ」
「修羅場なんだろ?」
「そう……。でも、猶木がいたら強制的に休める」
これは一応頼られてると思っていいのかな。『仲良くない』から少しは進歩してる? へにゃっと口元が緩みそうになるのをこらえるけど、無理にこらえて変に口元がピクピクしてしまいそうだ。
入ってみたら室内はひどかった。休ませたかったけど色々スケジュール的に厳しそうなのも伝わってきて、俺にできることはないか聞いて少し手伝っちゃったくらい。
どうやら飲まず食わずだったらしい高峰は、俺の差し入れを感激しながら口に入れていた。
色々チャージできた! 明後日の締め切りに間に合わせる! って高峰は少しだけ目に力が戻ってきていた。まあ、明日の講義は出席も足りてるし俺も休んでも平気だなとか頭の中で計算してたわけだが。
最初はあまり人に頼りたくなさそうな高峰だったけど、俺が「じゃあ終わったら一つお願い聞いてよ」って言ったら遠慮がなくなった。まあ俺からしたら、それこそが高峰だよなって感じだ。
高峰が作業に集中できるように俺ができることは任せてもらってなんとか乗り切って、全ての作業を終えた高峰は充電が切れたみたいにぶっ倒れてピクリとも動かずに寝ていた。本当に不思議な男だ。
「このエロ眼鏡……イタズラするぞー」
爆睡中の高峰に俺の声は届かない。というか、俺は自分の発した言葉に自分で驚いた。イタズラってなんだよ……ってぶわわっと熱くなった俺は高峰の家を飛び出して帰ってきてしまった。
翌週に構内で高峰に声をかけられて俺は盛大に驚いた。
だって、高峰から俺に声かけてきたの初めてじゃないか? ポカンと口を開けたまま見上げている俺を見下ろす高峰。
「なんだよ、そのアホ面は」
ああ……その視線だ。冷たい炎を感じるようなその眼。ゾクゾクさせられてしまう。
「あっ、いや。高峰から声かけてくるとか俺もとうとう友達昇格かなーって」
「友達……ではないかな」
「ひでぇ……」
思わず吹いちまう。でもまあなんにせよ高峰から声をかけてもいいくらいにはなれたってことだろうからいいか。
「こないだ、助かった。ちょっとトラブって今までで一番やばかったから」
「あーいいよ。俺が勝手にやったことだし」
「お願いって何」
あ、覚えてたんか。でもいざ言おうとすると……恥ずかしいな。高峰なら大丈夫だろうけど。
なかなか言い出さない俺にしびれを切らしたのか、高峰が俺の頭を軽くはたく。
「そんなに言えないことを頼むつもりか」
「ちが……くて。またやってほしい……とか言うの、はず……」
「へーぇ?」
少しだけからかうような声色が降ってくる。そのあとすぐに髪をくしゃっと握られて「いいよ」って言われた。
妙にドキドキするのは催眠への期待からだよな。
早速週末に高峰の家にお邪魔する。
「最短で予定合わせてくるとか……そんなに期待してたのか?」
「ちっ……がくはない、けど」
もう取り繕ってもしょうがないだろうから素直に言うと高峰の目が細くなる。こないだと同じじゃつまんないだろうからなとかブツブツ言いながら遮光カーテンを引いてく姿を俺は座って見てた。
「酒、少し入れる?」
「いや……このままで出来るもんなのか知りたい」
「おけ。じゃあ横に……」
「待って。脱いでいい?」
「あ?」
だってこないだひどい目にあった。ジーンズはダメだ。
「別に全裸になるとかじゃねぇって! Tシャツと下着は脱がないっ」
ちなみに一応シャツとパンツの替えは持ってきた。そう付け加えれば高峰が吹き出す。ツボに入ったのかヒッヒッと腹を押さえてるのがなんかムカつくな。
「楽な、格好で……どうぞ。ふひ……」
「催眠してもらうんじゃなきゃ殴ってるわ」
とか文句言いつつもいそいそと準備して高峰のベッドに横になってしまう自分が憎い。だってあの日から一度もオナニーで満足できてないんだからしょうがないだろ……俺は飢えてるんだよ。
「自分が初期に作ったやつのアレンジでやってみるわー。でも期待しすぎて興奮してるとかかりにくいぞ」
「まじか……」
「やってみてかかり悪そうなら少し酒入れれば?」
「……そうする」
催眠に関しては高峰の言うとおりにしたほうが良さそうだ。俺は言うて1回しかかかったことのない初心者なんだから。
「そこまでかかりたい願望なさそうだったのに、なんでお願いしてきたわけ?」
「……満足感が……ない」
「はぁ?」
「オナニーしても! 出してもあのときみたいに全部持ってかれる感じがしない」
ガバっと起き上がって高峰に訴えれば、めっちゃ顔が近すぎてビビる。ニヤニヤされるのももうこの際どうでもいい。
「どハマりしちゃったわけだ」
「ちげーし、他の聞いても全然かかんないし。あ……」
「聞いてんじゃん。ふーん。なるほどねぇ」
高峰に頭を押されてまたベッドに横になると、俺の目の上に高峰の手が乗せられた。少しひんやりする手が気持ちいい。ピッという音が聞こえると部屋の中が暗くなった。
「まあ、まずは寝たまま自分の話でも聞いててよ。自分はさ……」
なぜか高峰のよくわからん創作話が始まった。それをへーって思いながら聞いてたはずだったんだ。はずだったんだけど、あれ? と思ったときにはすっかり高峰のペースに巻き込まれててカウントダウンされてた。
「な、んで……」
「お前、かけてもらうぞーって意気込みすぎだったから。気を逸らすとこからやっただけ」
「ふぅっ……んっ」
「でもあんま心配いらなさそう。ヨシヒサって、俺に心許しすぎ。たぶん今後はすぐかかるよ、俺の声で」
頭の中に高峰の声が響く。全然触られてないのに高峰にコントロールされてイく寸前で止められてる。
「あ……あ……お願い」
「も少し我慢したほうが気持ちいいんじゃない? ヨシヒサ、精神的Mだし。ほら、5、4、3……3、2、1……2」
「うぅんんんー」
「そんな涙目で見られるともっと焦らしたくなっちゃうなぁ」
ブンブンと首を振ると高峰が俺の耳にふっと息を吹きかけてくる。
「ひゃぁん」
普段なら男に息を吹きかけられるなんて気持ち悪いだろうけど、全身性感帯みたいになっちゃってる俺はビクンビクンしながら感じまくっていた。
「欲しいの、あげようね」
「ん……ん……欲しい。最後まで……言って……」
「数えおろしてゼロになったあと指を鳴らしたらイけるよ。今までためた快感がどんどん弾ける……」
その後はもう何度も指の音に合わせて頭の中がパチンパチンと白く弾けて、それと同時に身体が跳ねた。とにかく高峰の指が耳元で連続で鳴らされて声も出せずに翻弄されてた。
下腹が攣りそう……苦しいのに気持ちいい、やめてって思うのにやめてほしくない……でもさすがにしんどい。
「高……峰ぇ」
もう触っていいって言ってよ。俺、また動けなくなっちゃう、から。
「まだ、だめ。今日はこないだと違うことしような」
「な……で」
「ヨシヒサは焦らして焦らして気持ちいいの大好きだもんね」
自分から頼んだことではあるけど、でも、もう結構限界……なんだって……。気持ちいいけど、気持ちいいけど。
「カウントダウンして指を鳴らしたら、ヨシヒサのチンコとヨシヒサの右手の感覚がリンクして繋がるよ。5、4、3、2、1、ゼロ」
パチンッ
え? と思った直後に高峰が俺の手を握って擦る。
「ああああっ! それやっ」
「そんなに脚をモジモジさせて、やーらしー」
高峰が高峰が俺のチンコを握ったりしごいたりしてるっ! って、あれ、違うんだっけ? もうわけわかんない……。
「先がいいの? それともこの首のとこ?」
「ひぁっ! んんっ……」
高峰が指先でカリカリと引っ掻いてくる……たぶん、俺の手、の?
そのはずなんだけど、なんだけど、チンコを直接触られてるみたいで……おかしいだろ、こんなの。声だけで指示されるのとは違う、他の人の手から与えられる刺激は強すぎる。
「うーん、これは……ちょっと変な気分になるなぁ。ヨシヒサ、可愛いな」
「も、もうっ! もうっ!」
実際触られているって思うくらいに刺激がくるのに全然イケなくて俺は泣きながら高峰にすがりついた。
「あ、わりぃ。さすがに触れずにウェットは無理だったか……詫びにイかせてやる」
「ぐす……うっ……」
ボロボロ涙がこぼれて止まらない。動けない。
「リンク切るぞ――パチンッ――ヨシヒサ? ……あー、まいったな。悪かったって。……その、触れるぞ?」
高峰が今度こそ本当にどろどろになった俺の下着の中に手を入れてチンコに触れた。そのまま優しく指の間でチンコを挟み込むように握られて、手のひらで亀頭をグリグリされた。
「っ――!」
待ち望んだ本当の刺激で三擦り半どころじゃないくらいあっけなく俺は高峰の手の中でイッちまった。まだ涙が止まらない。ぐすぐすと鼻をすすっていると高峰が「解除するからも少し我慢して」と呟く。
なかなか落ち着かない俺をなだめてなだめて催眠を解除した高峰は今まで見たことがないくらい情けない顔をしていた。
「……」
「……」
前みたいに全身汗だくで下もベトベトで気持ち悪いけど、この状態の高峰を放置するのはちょっと、な。
でもなんて声かけたらいいんだ? 俺もクソ恥ずかしいんだけど?
「なんつー顔してんだよ。その……高峰は、俺のお願いに答えただけだろ?」
「……やりすぎた。自分のことは嫌いになってもいいから、催眠は嫌いにならないでくれたら……」
「おい!」
「せっかく、マイナーな分野の理解者が……」
「高峰!」
脇をど突けばハッと高峰が俺を見た。
「とりあえずシャワー借りるから! それに、嫌いじゃないから! もう!」
俺がシャワーを終えて出てくると高峰がぼーっとテーブルの上のペットボトルを眺めたまま固まっていた。あまりにも動かないから少し心配になる。
「高峰? お前、どうしたん……」
「ああ、いつの間に。ちょっとさっきのこと考えてて」
「おー……」
「自分はさ、前も言ったけど、自分がああいうの好きで自分の萌えるシチュエーションを盛り込みたくて作成側になったんだよ。だから聞いてくれるやつは同好の士ってやつだとずっと思ってて」
「ああ」
唐突に語りだす高峰の隣に座るとペットボトルのお茶を注いで相槌を打つ。
「でも猶木を見てると変な気分になる。もっといじめたくて、反応されるのが……可愛くて……購入者の感想見るのとはなんか違って……」
「お……おぅ」
「止められなかったんだ。自分の暗示を全部素直に聞いちゃうお前見てて……。これは、ダメ、だと思う」
なんだ、これ。ムズムズする。高峰が言ってるのって、まるで……。
「チンコに直接触るのも手の中に出されるのも全然嫌じゃなかっ」
「わーー!!」
高峰のアホォ……。
「で……でも、高峰は俺のこと仲良くないし友達でもねぇって言ってたじゃん」
「初めて話す段階で仲良くないのは当たり前だろ。それに、お前のその他大勢の友達枠に入る気はない」
高峰って馬鹿正直なんだろうな。でも俺も最初からコイツのそんなところが気に入ってた。
「その他大勢じゃなきゃいいってこと? その、つまり、特別な……」
「いや、それは自分でもよくわからない」
「同意。俺もわかんねー。でも少なくとも俺は、高峰のこと嫌いじゃないし、お前がいないとアッチが満足できないようになっちまったし……だから、俺を避けるのとかはマジでやめて?」
「触れても怒らん?」
「う……怒らん」
高峰に触られるのは恥ずかしいだけで嫌じゃないんだよな。他の野郎に触られたんだとしたら……そこまで考えて悪寒がした。無理、だな。
「待て! 俺は高峰にイかされてるけど、お前はどうなん!?」
「なんだよ、急に」
「いや、だって……なんか、性欲処理に使ってるだけ、みたいに思われるのはちょっと……」
「アホか。思い出してオカズにしてるわ、ぼけ」
つまり、催眠にかかった俺に欲情はしてるってことか。それこそ変な気分になるな、ちくしょー。
ほとんどお互いの身体に触れない、特に恋愛感情ってほどの気持ちでもない、でも俺は精神的に高峰に依存? 支配されちゃってて、高峰はそんな俺を可愛いっていう。この関係はいったい何なんだ……。
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