【完結】催眠なんてかかるはずないと思っていた時が俺にもありました!

隅枝 輝羽

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2.催眠って……催眠って……

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 お互いのバイトのない日に都合を合わせて高峰の家に行った。とりあえず手土産に菓子とかは買ってみたけど、コイツの好みがさっぱりわかんねぇ。

「狭いけど適当に座って」
「うーい。うお、高峰、ラップトップの他にこんなデスクトップまであんのかよ」
「そりゃ、音声いじるんだからスペックは大事だろ……でも自分で録音するわけじゃないから機材は少ない」
「ふおー……」

 パソコンにテンション上がった俺は作品作りの質問だけじゃなくて雑談も交えてやたらと話していた。グループで話すのとは違ってサシで邪魔の入らない環境で誰かと話すのって久しぶりだったんだよな。

 時々視線を感じて顔を上げると高峰に観察されているような感じがした。でも俺を観察したところで意味もないだろうなんて思った……んだけど、さ。

「いや、人間観察は趣味だよ。作品を作るのには必要だろ」
「でも俺の観察なんて意味なくね?」
「んー興味深いね。最近、猶木は実は逸材じゃないかと……」

 高峰はいつの間にかピザを注文していて、それが届くと冷蔵庫の中から1本ずつしかないけどなんて言いながら缶チューハイを出してきた。

 なんていうか、最初の出会いもかしこまったもんでもなかったし、高峰はズケズケ言うしって感じだったからかコイツといるのは楽だった。
 度数強めのチューハイで俺はいい感じにほろ酔いに。酔ってるというほどでもなく、でもアルコールなしよりは心なしか開放的になっていて。

「人間観察の話の続きだけどさ。猶木って、実はMっ気あるよね」
「へ?」
「無意識か……ふーん」
「えー、ないない。Mって痛いことされたいみたいなやつだろ? 女の子にいじめられたいとか思ったことないし、アレもかかんなかったし」

 あははーなんて笑って答えたけど、高峰にじっと見られていてちょっとだけ胸がカッとする。アルコールのせいかもな。

「それでなんだけどさ。質問に答える代わりに意見欲しいって言ったの覚えてる?」
「もちろん。言うよ言う言う」
「じゃ、ちょっと横になってみ?」
「はぇ?」
「新作について意見を聞きたいからまずは聞けって言ってんの」

 いや、だって、高峰は自分で音声はやってないんだろとか言う俺を、「約束守れ」と半ば強引に寝かせると、部屋の電気を薄暗くして隣で高峰が喋りだす。

「聞き終わったら意見を言うんだから集中して聞くように」
「へーい」

 俺はほんのりアルコールの回った頭で寝ないようにしなきゃと思った。

 こないだ借りたディスクと同じで深呼吸を勧められる。あの音声は女の子の台詞に合わせて深呼吸をさせられた感じだったけど、今は俺の様子を見ながら高峰が良いタイミングで吸って吐いてと指示を出してくれる。それが断然楽だった。
 あとなんといっても声。女の子の高い声じゃなくて低めの高峰の良い声が響く。

 いつの間にかどこからかカチコチと左右に揺れる音が聞こえてきて、高峰の台詞に合わせて時々ゴーンゴーンと鳴る。柱時計……なのかな……。
 ふわりふわりと意識が揺れる。左右に……そして眠りそうで眠らない浅く深く……。
 夢に落ちる前の狭間にいるような気持ちいい状態というか、半分夢の中というか。

「秘密の地下室に降りるよ……ほら、階段が、20、19、18……」

 そうか……地下室に降りるんだ。まるで高峰に手を引かれてるような……一緒に降りているような感じがする。
 カツンカツンと靴音が反響する音が聞こえる……。ぴちょんぴちょんと水滴の音が聞こえたりボボボという何かが燃えるような音がしたりもしている。

「全部降りると目の前に扉があるよ。開けようか。ほら……」

 そこからは高峰の声を追っかけるようにすぅーっと暗闇に吸い込まれてその中にぽつんと立っているみたいだった。
 少し怖くなって薄く目を開くと近くに高峰の顔があって「大丈夫、上手だね」と耳元で囁かれた。

 ──そっか……上手なんだ……何が……だっけ──

 そしてまた目を閉じると高峰の響く声が聞こえる。その声が聞こえると俺の意識が勝手に引っ張られていくような感じだ。

 パチンッ

 突然耳元で音が聞こえてトロンとなっていた俺の身体がビクリと跳ねた。

「これから数を数えおろしていくよ。ゼロになって指を鳴らしたらヨシヒサ・・・・の全身の感度が倍になる」

 そんな馬鹿な……頭の片隅でそう思うものの、高峰の声でカウントダウンが始まると一気に気持ちが引きずり込まれる。

「……3、2、1……ゼーロ」

 パチンッ

「んあっ!!」

 肌が……ゾワゾワチリチリする……。待って、なんだ、これ。
 そう思っていると俺の右腕に高峰が触れてビクンッと反応する。驚いたのもあったけど、違うんだ……そうじゃなくて……。

「もう少し、高めておこうか。もう一度ゼロまでいったらさらに感度が倍になる。いくよ? 10、9、8……」

 待って待って待って……ダメだ……。

 パチンッ

「はぁうっ」

 何も触れていないのに、服が擦れるだけで変になりそうだった。つまり、チンコがやばい。ムズムズしつつもジーンズの中で痛い……痛気持ちい?

「あ……やだ……脱ぎた……」
「でも、気持ちいいね? 手は動かしたらだめだよ」

 コクコクと頷きながら高峰に助けを求める。でも高峰はクスッと笑いながら声で指示を出すだけだ。
 そして、ゼロまでカウントダウンしたら気持ちよさが弾けるよって言ったくせに何度も「1」でストップされまくっている。

「あー、やらしいなぁ。ヨシヒサ、今どうなってるかわかってる? 寸止めカウントダウンで腰ガクガク」
「あ……あ……」
「そんなに腰突き上げてジーパンの中パツパツにさせて、どこがMじゃない、だよ」
「お、ねが……ひぅ……」
「催眠ってね、本当に嫌だと思ってることはかからないの。つまり、わかるよね? ヨシヒサはこれを望んでる・・・・

 目尻から涙がつっと溢れる。嫌なんじゃなくて、快感が強すぎて……。はくはくと呼吸をしながら何度も何度も高峰に乞う。

 気持ちいい、辛い、気持ちいい、辛い……。
 ゼロって言って欲しい……。

「そんなに欲しいならあげるよ、10、9、8、7……」
「あぁぁ……」
「3、2、1……ゼロ!」

 ──んぐぅぅ!!

 身体が弓なりに反って足先までピンと力が入ってしまう。身体中の毛穴から汗が吹き出るような、それと一緒に何かが溢れだすような、チンコじゃなくて脳みそがおかしくなったような感じだった。
 ガクッガクッと身体が跳ねて、そのあと一気に脱力する。
 はぁはぁと俺が息を整えていると……。

「まだだよ、5、4、3……」
「まって」
「1、ゼロ!」
「あがっ」

 脱力の暇もないくらいすぐに俺の身体が跳ねた。その跳ねた自分の反動で服やベッドと身体が擦れるのですら気持ちいい。頭おかしくなる。
 俺、ちゃんと目開けてる……起きてる……はずだ。なのに、なんで……、

 高峰は何度も何度もカウントダウンを繰り返してきた。

 あ……あ……だめ……まって、おねがい……。たぶん、ずっとそんな言葉をうわ言のように呟いていた気がする。
 自分の発してる言葉がやけに小さく聞こえて、高峰の声だけがクッキリと聞こえるせいで訳がわからなかった。

「あー、汗びっしょりだね。可愛いな……。ところで、下はまだ元気だけど、イッとく?」

 何度も何度もビクビクさせられて言葉を発する元気はなかったけど、張り詰めたチンコが痛い。やっぱり直接的な刺激も欲しくてコクコクと頷いた。

「じゃあ手を動かしてもいいよ。触って」
「む……り……力はいんな……」
「うーん。じゃあヨシヒサの手を動かしてやるよ」

 そう言うと、高峰が俺のジーンズの前をくつろげて少し下ろした。その刺激すら強すぎる……。俺の手を俺の下着の上からチンコの上に導いて俺の手ごと握り込まれて、少し擦られただけであっけなく俺は下着の中に発射してしまった。
 肩で息をしてぐったりしている俺に高峰は「解除するよ」と言った。

「10……静かな暗いところに横たわっている……9、8、7……だんだん周囲が明るくなって頭の中に響いていた声が小さくなってくる……」

 ぼやんとしたまま高峰の声を聞いていると、どうしても言われたとおりになってしまう。すうっと俺の目は閉じて、まだピリピリした感覚のまま横たわっていた。カウントされてそのたびに目が覚めるような感じがしてくる。

「2……周囲の音がクッキリと聞こえてくる。ほら、外を車が走ってる。1……もう意識はすっかり元の状態になっている。……次に指を鳴らしたらスッキリ目覚めるよ……」

 パチンッ

 ふっと目を開けるとニヤリとした高峰がいた。
 クソやられた……めちゃめちゃ恥ずかしい……何だこれ。ぐちゃぐちゃだ。

「うあぁーー……」
「めっちゃかかるじゃん?」
「うあぁーー……」
「おーい。猶木?」

 膝を抱えて顔を伏せて呻いていると、高峰が俺をツンツンと突く。そっと顔を半分だけ持ち上げると少しだけ心配そうな顔をしてる。けど、すぐに眼鏡をクイッと持ち上げて言った。

「やりすぎた? ご意見プリーズ」
「お前はよぉ……」

 でも俺は意見を言うのを条件に高峰の家に来てる。忘れちゃいない……いないんだけど。

「ベタベタで気持ち悪くて今は何も言えない……」
「あーね。シャワー使う? スウェットなら貸す。シャツとパンツなら洗濯すれば朝には乾くんじゃね?」
「ジーンズ……」
「それは乾かないだろうから家で洗えよ」

 まあ、ジーンズにかけちゃったわけじゃないから……染みた我慢汁はしょうがないから我慢。涙目でシャワーを借りてキュウと縮みこむまで股間に水をかけた。人の眼の前でイッちゃった衝撃は正気に戻った今かなりキツい。

 浴室から出てへにゃっと座り込めば、さっぱりしただろさあ言えとばかりに高峰がにじり寄って来る。

「意見って何を言えばいいんだよ」
「どういう台詞が良かったかとか、全体の長さとか、誘導の自然さとか」
「誘導って……?」
「今回は洋館の地下室に行っただろ?」
「あ、あーー、そうだった」

 前に借りたディスクのやつはメトロノームの音に合わせて女の子が二人で左右から囁いてきたんだけど、今回は雰囲気も全然違ってて。

「なんかほろ酔いで気持ちよくて、でも高峰にちゃんと意見言わなきゃって思って寝ないようにって真剣に聞いてたらなんか……」
「変な感じとか違和感はなかったか?」
「たぶん……」

 普通に引きずり込まれてたと思う。っていうか、たぶん高峰の声に引っ張られたんだと思うけど、恥ずかしくて言えない。

「焦らしの長さは?」
「キツかった!」

 1で止まるのを何回もやられたやつだろ? マジ勘弁してほしかった、そう俺が訴えれば、あれやればやるほど反動でクルんだよって返された。

「意味のわからなかったって言ってたカウントダウンはどうだった?」
「やばかった……アレなに。チンコ触ってないのに身体も頭も変になりそうだったんだけど……」
「暗示による脳イキだよ。だから連続できる」
「アレ、やばくねぇの? 合法!?」

 思い出すだけでゾゾ……としてくるけど、今はしっかり覚醒してるからか反応はしない。
 クックッと高峰が笑って「非合法な声とかあんのかよ」って言った。だって、あんなのおかしくね? って言おうとしたのにその心底楽しそうな顔を見て心臓がキュッとなる。

「……高峰ってドSってやつなん?」
「うーん。どっちもあるっていうのかな。最初は自分が萌えるシチュエーションで書いてたんだけど、購入者の感想とか見てるうちにもっとそういう反応が見たいってなってさ」
「うそだぁ……」
「嘘じゃないし。聞く側の気持ちだってわかんなきゃ独りよがりな作品になるだろ」

 そう言われるとそうかもしれないという気分にもなるけど。
 でもとりあえず高峰に聞かれるがままにご意見ご感想ってやつを答えていった。
 俺が何度も訴えたのは「あれは初心者向けじゃない」ってこと。でも、高峰は「あれはドM向けだからいいんだよ」って言う。なんでそのドM向けを俺で試すんだよ、おかしいだろ。

 高峰にベッドを使っていいって言われたけど、催眠のことを思い出しちゃいそうで俺は床に寝た。
 翌朝洗濯物が乾いていたから着替えて帰ったわけだけど……俺はやばい扉を開いてしまったのかもしれない。
 
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※催眠音声をお酒を飲んで聞いてはいけません
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