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7.僕の名前

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「精霊王様、僕、今日はルアルと二人でいます。お誘いありがとうございました。またルアルがいいって言ったときに……」
「林檎の君は本当にいい子だね。ルアルを末永くよろしくね。そうだ、君に名前をあげよう。精霊への名付けは私にしかできないんだ」
「そ、そんな……」
「これは私のわがままだから遠慮しないでほしいかな。名前があると精霊力があがるし、特別なときじゃなくても精霊城に入れるようになるからね。ルアルへも祝いになるだろう?」
 
 精霊王様が茶目っ気たっぷりのウインクをする。それを見てルアルが嫌そうな顔してるけど……。僕が首を傾げてルアルにいいのか無言で尋ねると、はぁと深い溜め息をついてルアルが頷いた。
 
「えっと……じゃあ、ありがたく頂戴します」
「うん。君はね、アーフェル。どうかな?」
 
 精霊王様に名付けられた瞬間、僕の足元から頭に向かって一瞬光の柱が昇った。
 
「その力を何に使うかはアーフェルの自由だよ」
「僕は……ルアルに会うために使いたい、かな……」

 僕がそう言うとルアルの腕がきゅっと僕を抱きしめる。

「もうソゥ兄は帰れって……」
「ルアルがしびれを切らしてるようだから残念だけど今日のところはそろそろ戻ろうか。またね、二人共」
 
 精霊王様が光の粒子になってふわりと空に消えていくと、僕を抱きしめていたルアルの腕が離れた。
 ちょっと寂しい……。
 僕、あとどのくらいヒトの姿でいられるんだろう。あの……その……ルアルと触れ合う時間あるのかな。
 
「あ、の……」
「あー……」
 
 僕らは二人で同時に喋りだして一緒に口を閉ざす。それがなんだか気が合ってるみたいで変に嬉しくて、僕はルアルの首に飛びついた。
 
「お、おい」
「ルアル……大好き。こんな夜に会えるなんて僕、思ってなかった」
「あ、アーフェル……」
 
 精霊王様に付けてもらった名前は、ルアルに呼ばれた途端に僕にとって特別なものになった。
 どうしようどうしよう。夜なのに世界がキラキラして見える。
 夜に動けることも初めての経験だ。すごい! こんなことってあるんだね。
 
 僕はキョロキョロしながら落ち着かなかったけど、ルアルに手を引かれて屋敷の中に入っていった。確かに窓からは明るい月の光が部屋に差し込んでいて、昼に見た時は曇ってボロボロの姿見だったはずの鏡がチカチカと光を放っていた。
 
「あの鏡!? すごい!」
 
 僕が感動して声を上げるとルアルは前みたいにくくっと喉を鳴らした。
 
「素直で可愛いな……お前は。ずっと変わらない。だから見てたんだ……」
「ん?」
「ソゥ兄が言ってたこと、気にしてただろ? 俺が……追いかけ回してたとか」
「あっ………………それは、うん」
 
 そうして僕が聞いたのは、昔、白昼の残月の弱い弱い光で世界をぼーっと眺めながら彷徨っているときに見つけたとある林檎の話。まだ実もつけられないような幼木の……って、ええっ!?
 ルアルがやさぐれてた時期に、たまたま見た僕があまりにも純粋で素朴で癒やされるなとか思って、それからちょいちょい来ては密かに見ていたって……うそ……。
 
「最初はすさんだ気持ちが癒えるなと思って見るようになったんだけどな。いつの間にかどんどん惹かれてく自分がわかった。それからはかなり根回ししまくってたし、悪い虫が寄らないようにはしてたな……」
 
 そう言うルアルは片方の口角だけ上げた悪そうな笑顔を浮かべてて、僕はさっと見なかったことにした。
 うん、何もなかった何も見なかった。僕、小さい頃から病気も虫食いもなかったけど……そ、そういうことじゃ……ないよねぇ?
 
 ルアルは僕がある程度成長するまではヒトの形はとらないで見ていたらしいけど、僕が成長したから夜にチラチラと姿を見せるようにしてたんだって。それを僕は見かけたんだね。
 
「待ってよ! それなのに、初めて会った時あんな意地悪な言い方したの?」
「るせー。嘘じゃねぇじゃん」
 
 プイっと顔を背けるルアルの耳が赤い。思い返してみれば、あれはルアルの照れ隠しだったのか……わかりにくいよ。でもあの強引さがあったから僕は……ルアルと。

 ていうかね、部屋のボロボロだったベッドが直されて綺麗な模様の布がかけられてるのはなんでなの?
 
「あ……」
「余所見してんなよ。アーフェル、食べたい」
 
 ルアルにいきなり深く口づけされて、驚いたのと同時に力が抜けてカクンと膝が折れる。
 前よりも執拗にルアルに刺激されてる。僕の吐息も何もかもを飲み込むみたいにルアルの舌が僕の舌の根本まで絡め取って……。なにか僕の力を吸い取る術でも使ってるのかなって思うくらい。
 
 そして、僕はいつの間にか手触りの良い綺麗な模様の布の上に押し倒されてた。窓から差し込む月光が明るい。その月光を背にルアルが髪を纏めているんだけど、美しすぎて息が止まりそうだ。
 サラサラの髪の毛が月光と重なって同じ色に見える。触れる光の筋みたいで綺麗すぎて見てるだけで涙が出そう。ルアルって本当に月の光なんだ……。
 
 本当に僕でいいのかな、なんて今更なことをふと考える。もう見てるだけじゃ満足できないクセにね。
 
「僕、本当にルアルから離れられなくなっちゃうよ?」
「そりゃ気が合うな。俺もだ。つーか、元から離す気ねぇし。誰にも渡さねぇし」
 
 ずっと大事に見守ってきたけど僕が今年はあまりにも美味しそうに色づいてしまったから、あの日は少しばかり焦って僕のもとに来たんだって。本当はちゃんと口説いてから抱くつもりだったとか言われて……。
 
 それは遅くまでフラフラしてた僕のせいだね。でもさ、いろんな精霊にあなたの情報がないか聞いて回ってたんだもん……。
 
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