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1.憧れの君
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僕は毎晩、こうやって屋敷を見上げている。そうすれば時々あの憧れの君を見ることができるから。
彼は彫刻のような冷たい表情をしているんだけど、そんな表情でもすごく綺麗で……初めて見たとき時が止まったみたいに感じたんだ。
僕は林檎の木の精霊って言ったらいいのかな。昼間はヒトの姿をとれるけど、夜は木に戻っちゃうんだよね。力次第でずっとヒトの姿でいられる精霊もいれば、小さな光にしかなれない精霊もいるから、半日だけヒトの姿になる僕は珍しい方かもしれない。
この世界はいろんな世界が重なり合っていて、本物の人間ももちろん暮らしている。僕らからは人間の世界が見えるけど人間からは僕らのことはほとんど認識できないって言われている。
たまに見える人間がいて、そういう人間は精霊と友達になったり仲良くなったりして能力を使わせてもらって精霊士とか呼ばれて人間の世界で重宝されるんだって。変なの。
最初は僕の憧れの君は屋敷に住む人間なのかなって思っていたんだけどどうも違うみたい。
もしかしたら、彼は僕と反対で夜だけ人の姿になる何かの精霊なのかもしれないって思って、知り合いの精霊に聞いてみたけど手がかりはなかったんだ。
僕はここの人間に気付かれないくらい少しずつ木の根を一方に伸ばして幹を移動させて窓を見上げるのに丁度いいところまで移動していた。何年もかかっちゃったけど最初は斜めにしか見上げられなかった窓が今はほぼ正面から見上げられる。
元の位置から比べると結構移動してるんだけど、時間をかけて少しずつ少しずつやったからか人間にも気づかれてないみたい。
というか僕がいるここは人間の暮らす本館ではなくて、手の入らなくなった別館、離れと呼ばれる屋敷だ。だからほとんど人間が来ないんだよね。草ぼうぼうにならないようにたまに庭師がついでのように回ってくるけど、こっちはざっとしか見ていないらしくて僕がジリジリと移動しているのはバレてない。
僕みたいな林檎の木なんて誰も気にしてないからね……そもそも僕が植わってることも気づいているのかいないのか。そのおかげでこうやってとってもいい場所に移動できたから構わないんだけど。
毎晩ドキドキしながら窓を見つめて──憧れの君を見ることができなくてガッカリすることのほうが多いけど──たまに姿が見られると本当に舞い上がってしまうくらい嬉しい。
彼が何者なのかも知らないし顔しか知らないのにこんなのおかしいよね。でも見るだけでほわぁ……ってなっちゃうくらい『美しい』って言葉が似合う人なんだ。本当に僕は見られるだけで満足だし、これって僕らが精霊王様を尊敬して大好きって思う気持ちに近いんじゃないかなと思う。こんなこと言ったら精霊王様に怒られちゃうかな……。
もう何年もこうやって憧れの君を見つめ続けてるなんて恥ずかしいけど、幸いなことに夜の僕は林檎の木の姿だから見つめていることはきっと彼には気づかれてない。だから僕は思う存分見ていられるんだ。
◇◇◇
季節は秋から冬になりかけている。
最近はあっという間に陽が落ちてしまう。いつものように屋敷の中を探索した僕はオレンジ色に染まりだした空を眺めながら庭を歩いていた。
「今日も憧れの君の収穫はなしかぁ……」
いつも彼が立っている窓辺の部屋には実はもう何度も行っている。きっともともとは手入れが行き届いていた屋敷の主人の部屋とかだったんだろうと思われる部屋。今は蜘蛛の巣が張ってるし、調度品が打ち捨てられているようなところだけど。
彼はなんでいつもあの部屋の窓から外を見ているのだろう。あそこにしか現れないということはきっとあの部屋にヒントがありそうなのに……なんて考えながら僕の本体のあるところへ向かって歩く。
そうして歩く僕の視線の先にいたのは……。
「どこに行っていた」
夕陽に照らされたプラチナブロンドがキラキラとオレンジに輝いてなびいていた。
そこだけまるで切り離された別世界みたいだ。
彼は……。
今まで何年もなかったのだから今更お互いがヒトの姿で出会うことなんてないと思っていたのに。
なんで……。
彼は彫刻のような冷たい表情をしているんだけど、そんな表情でもすごく綺麗で……初めて見たとき時が止まったみたいに感じたんだ。
僕は林檎の木の精霊って言ったらいいのかな。昼間はヒトの姿をとれるけど、夜は木に戻っちゃうんだよね。力次第でずっとヒトの姿でいられる精霊もいれば、小さな光にしかなれない精霊もいるから、半日だけヒトの姿になる僕は珍しい方かもしれない。
この世界はいろんな世界が重なり合っていて、本物の人間ももちろん暮らしている。僕らからは人間の世界が見えるけど人間からは僕らのことはほとんど認識できないって言われている。
たまに見える人間がいて、そういう人間は精霊と友達になったり仲良くなったりして能力を使わせてもらって精霊士とか呼ばれて人間の世界で重宝されるんだって。変なの。
最初は僕の憧れの君は屋敷に住む人間なのかなって思っていたんだけどどうも違うみたい。
もしかしたら、彼は僕と反対で夜だけ人の姿になる何かの精霊なのかもしれないって思って、知り合いの精霊に聞いてみたけど手がかりはなかったんだ。
僕はここの人間に気付かれないくらい少しずつ木の根を一方に伸ばして幹を移動させて窓を見上げるのに丁度いいところまで移動していた。何年もかかっちゃったけど最初は斜めにしか見上げられなかった窓が今はほぼ正面から見上げられる。
元の位置から比べると結構移動してるんだけど、時間をかけて少しずつ少しずつやったからか人間にも気づかれてないみたい。
というか僕がいるここは人間の暮らす本館ではなくて、手の入らなくなった別館、離れと呼ばれる屋敷だ。だからほとんど人間が来ないんだよね。草ぼうぼうにならないようにたまに庭師がついでのように回ってくるけど、こっちはざっとしか見ていないらしくて僕がジリジリと移動しているのはバレてない。
僕みたいな林檎の木なんて誰も気にしてないからね……そもそも僕が植わってることも気づいているのかいないのか。そのおかげでこうやってとってもいい場所に移動できたから構わないんだけど。
毎晩ドキドキしながら窓を見つめて──憧れの君を見ることができなくてガッカリすることのほうが多いけど──たまに姿が見られると本当に舞い上がってしまうくらい嬉しい。
彼が何者なのかも知らないし顔しか知らないのにこんなのおかしいよね。でも見るだけでほわぁ……ってなっちゃうくらい『美しい』って言葉が似合う人なんだ。本当に僕は見られるだけで満足だし、これって僕らが精霊王様を尊敬して大好きって思う気持ちに近いんじゃないかなと思う。こんなこと言ったら精霊王様に怒られちゃうかな……。
もう何年もこうやって憧れの君を見つめ続けてるなんて恥ずかしいけど、幸いなことに夜の僕は林檎の木の姿だから見つめていることはきっと彼には気づかれてない。だから僕は思う存分見ていられるんだ。
◇◇◇
季節は秋から冬になりかけている。
最近はあっという間に陽が落ちてしまう。いつものように屋敷の中を探索した僕はオレンジ色に染まりだした空を眺めながら庭を歩いていた。
「今日も憧れの君の収穫はなしかぁ……」
いつも彼が立っている窓辺の部屋には実はもう何度も行っている。きっともともとは手入れが行き届いていた屋敷の主人の部屋とかだったんだろうと思われる部屋。今は蜘蛛の巣が張ってるし、調度品が打ち捨てられているようなところだけど。
彼はなんでいつもあの部屋の窓から外を見ているのだろう。あそこにしか現れないということはきっとあの部屋にヒントがありそうなのに……なんて考えながら僕の本体のあるところへ向かって歩く。
そうして歩く僕の視線の先にいたのは……。
「どこに行っていた」
夕陽に照らされたプラチナブロンドがキラキラとオレンジに輝いてなびいていた。
そこだけまるで切り離された別世界みたいだ。
彼は……。
今まで何年もなかったのだから今更お互いがヒトの姿で出会うことなんてないと思っていたのに。
なんで……。
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